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良好な米統計を受けて高安まちまち
  • MRA商品市場レポート

2022年6月2日 第2208号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「良好な米統計を受けて高安まちまち」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品市場は発電燃料やその他農産品が上昇したが、非鉄金属や穀物などは水準を切下げる商品が目立った。

注目のISM製造業指数が市場予想に反して改善したため、米国が金融引締めを加速するとの見方が強まったこと、昨日からQTが始まっており長期金利に上昇圧力が掛かりやすく実態経済の減速観測を強めたことが背景。

中国ロックダウン解除や米国の景気はまだ堅調に推移しており、需給面はタイトな状態が続いているが、これをファイナンシャルな要因が上回ったと考えられる。

こういった環境下、商品価格の上昇分を消費者に転嫁する「サーチャージ制」を導入する動きが国内の各業態でみられている。今回は、最終価格に転嫁していなかったエネルギーコストも対象となっているようだ。

これはエネルギーに限ったことではないが、2021年9月28日付けMRA's Eye「価格高騰時に特殊な価格で契約するリスク」のところでもコメントしたように、サーチャージ自体は良いとしても、設定されているサーチャージの仕組み(フォーミュラ)が特殊であり、却ってリスクマネジメントが出来ない価格体系での購入を余儀なくされてしまうことがある。

結果、双方、より複雑な価格リスクを負うことになりリスクが増大、さらに価格リスクマネジメントも出来ない、という事例を過去にいくつも見てきたし、それをどうしたらよいか、という相談も多数受けてきた。。

開示しても問題ない例を挙げると、例えば(今でもその契約は残るが)日本が購入している長期のLNG価格は「S字カーブ」といって、ある一定以上に価格が上がると価格上昇ペースが緩やかになるが(生産者負担)、ある一定以上価格が下落すると価格低下ペースが緩やかになる(消費者負担)仕組みになっている(いた)。

(S字カーブの説明はこちら)https://oilgas-info.jogmec.go.jp/termlist/1001917/1002015.html

金融的にはLNGの買い手が「全量ではなく一部、コールオプションを購入し、プットオプションを売却」していることになる。しかし、これを金融商品を使ってヘッジしようとした場合、「コールを売戻し、プットを買い戻し」て、「LNG価格=原油価格×α+β」の形にする必要が出てくる。

しかしこの取引を行うと、「ヘッジ対象物1に対して複数の金融商品を用いること」になり、ヘッジ会計が適用できない(実際には金融機関がこのリスクを取り、特別に商品開発を行ったがその結果、金融商品の提供者が限られてしまった)。

こうした特殊な価格体系は、金属製品や鉱物原料、化学品などにも導入されているケースは多い。

このように、「良かれ」と思って設定した条件が価格リスク制御の「枷」となる可能性が高いため、よくよく熟考した上で導入すべきである。一度導入すると多くの場合、「特別な理由がない限り」未来永劫継続してしまうことは忘れてはならない。

【本日の見通し】

本日は、米国の金融引締め加速観測が再び強まっていること、QTの影響からドル指数に上昇圧力が掛りやすい地合に転じていることが価格を下押しするが、同時に景気はまだ悪くなっておらず、特に景気循環系商品の需給ファンダメンタルズはタイトであることから、下落余地も限定され、結局高値でもみ合うものと考える。

本日は、米国の経済活動に再び注目が集まっているため、景気の遅行指標であるがADP雇用統計(市場予想 前月比+30万人、前月+24.7万人)、米週間新規失業保険申請件数(21万件、21万件)に注目している。

なお、インフレに影響を与える原油価格動向の重要な決定要因であるOPECプラス会合も開催される。詳しくは本日のMRA's Eyeを参照頂きたい。

【昨日のトピックス】

昨日発表された米国のISM製造業指数は56.1と市場予想の54.5、前月の55.4を上回り予想外の改善が確認された。

内訳を見ると、新規受注の改善(53.5→55.1)の改善が大きく、生産(53.6→54.2)、在庫(51.6→55.9)、といったISM製造業指数のヘッドラインを決定する構成要素は軒並み改善した。

一方、これまでISM製造業指数を押し上げてきた「納期」は65.7(前月67.2)と減速しているが依然として水準は高い。また雇用については49.6と2020年11月以来初めての50割れとなった。

納期は米国の実態を表す上での「ノイズ」となり得るため納期を除外してISM製造業指数を計算し直すと、今月は53.7と前月の52.4から1.3ポイント改善している。これはヘッドラインの数字よりも高い改善幅といえる。価格の上昇にも関わらず、需要が堅調であることを示唆している。

しかし、米FRBは景気の過熱、インフレ加速を沈静化するため、この統計を受けてよりタカ派姿勢を強める可能性が出てきた。

良い統計だったが金融引締め観測を通じて、1.需要の減速、2.ドル指数上昇に伴う名目価格の下落、を促しむしろリスク資産価格にとってはマイナスに作用する可能性が高い統計だったといえる。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は小幅に上昇した。欧州のロシアに対する制裁強化で3大マーカー原油価格が上昇したが、ウラル原油は期近が下落した。

しかし、WSJが「OPECがロシアをOPECプラスから排除」と報じたことで「ロシアの減産分をOPECが肩代わりするのでは」との期待から上昇は抑制された(詳しくは本日のMRA's Eyeをご参照ください)。

ただ、どのような決断がされるにせよ、原油を他の原油に入れ替えることはそれほど簡単にできることではなく、強制的なリプレースの話が出た場合、価格の上昇要因となる。原油供給が机の上の計算でつじつまがあっても、製油所で処理できない原油であればリプレース出来ないためだ。

これに加えて、今年の夏の北半球の猛暑、各地で発生している渇水が水力発電を減じ、特にディーゼルオイルの需要を増加させること、そもそも石油製品の在庫水準が低い状態が続いていることから買いが入りやすくなっている。

今後の展開でやや気になっているのが、OECDで協調放出した原油の「在庫再積増しが即時に行われるかどうか」。現状を考えると先送りされることになるとは思うが、仮に価格が下落していて、やはり在庫積増しとなれば価格の上昇要因となる。

なお、掘削~生産開始までのリードタイムが1年程度に長くなってしまった。北米の生産者の上流部門投資は増加しているのだが、いろいろな制限の下、恐らく増産が始まるのは年後半以降になると予想される。

一方中期的な視点では景気が下りのエスカレーターに乗っている状況に変わりはなく、多くの景気循環系商品と同様、年末に向けて水準が切り下がるという見通しは維持でよいとみている。

ただし、

1.レーショニングの影響で弊社が予想していた水準よりも低い価格で着地

2.供給不足の継続で弊社予想よりも高い水準での着地

の判断が難しい。今のところ弊社は1.2.のうち、2.の可能性が高まっているとみている。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。ロシア産原油の禁輸措置が厳格化される見通しであり、2.の状態にあると考えられる。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない Brent 120-150ドル

2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 100-130ドル

3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 90-125ドル

4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 85-120ドル

5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

↑ 上記は停戦が行われない場合のシナリオ

↓ 下記は停戦が行われた場合のシナリオ(現在は徐々にこちらに移りつつある)

6.ロシアがウクライナから撤退するが原油の脱ロシアが進むBrent 95-120ドル

7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

8. 脱ロシア完了(東西諸国の分裂が発生した場合)Brent 60-90ドル

9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。OECD諸国の戦略備蓄130万バレル放出は半年の時限付。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

本日は、OPECプラスの動向に左右されるが、恐らく新しい材料は出てこないと考えられ、現状水準でのもみ合いになると考える。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物市場は下落した。特段材料が合ったわけではなく、ロシアからの供給停止はこれ以上進まない、との見方が価格を押し下げたという説明だった。

しかしそれよりは金融引締め加速に伴う景気の減速や季節性、足下、域内の最大エネルギー消費国であるドイツの風力・太陽光の発電が回復していることが影響し、ガスへの依存が若干低下したことが材料になっているのではないか。

ただしこれは一時的なものであり、期先の価格はさほど下落していない。また、ロシアが供給停止をこれで止める保証はない。仮に制裁減産を続けると、ロシアも出てきたガスを保管出来なくなるため、減産に追い込まれる可能性もある。その場合は供給回復に時間を要することになるため、小さいリスクではない。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下の5点に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.欧州ロシアの対立(価格の上昇要因)3.景気減速(価格下落要因)4.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)5.そもそもの在庫不足(価格上昇要因)

日々これらに関わる材料が処理されて価格が動いているが、欧州が脱ロシアを進める方針に変わりはなく、スポットのガス調達を増やして調達構造を変化させる見通しであり、「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持する、というのがメインシナリオとなる。

LNGのターミナルを持たない域内最大のエネルギー消費国であるドイツは、

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかないが、結局その大半はロシアからの輸入に頼らざるを得ない。なお、欧州全体のガス在庫は5月30日時点で46.7%(前日46.2%)と順調に在庫が積み上がっている。

しかし、欧州はまだ良いのだが、現在戦闘状態にあるウクライナのガス在庫の水準が著しく低い。ウクライナは欧州域内で最大の貯蔵能力を有するが、現在の在庫積増し進捗状況は5月29日時点で16.9%(16.8%)とほとんど在庫が積増しできていない状況。

仮に冬場にガスが不足した場合、欧州諸国からウクライナへの融通も視野に入れる必要があり、冬場に天然ガスが不足するリスクはまだ回避できていない。

この場合、国民の生活や産業に著しい不利益が生じるため、欧州域内からロシア制裁解除の声が高まる可能性はある。ロシアが音を上げるか、欧州か、まさにチキンゲームの様相を呈している。

※週次の更新となります。

米国天然ガス先物市場は一転、大幅な上昇となった。再び気温見通しが上方修正されたこと、生産回復の遅れ、欧州向けの輸出は継続すること、といった需給ファンダメンタルズがタイトであることが材料視されている。

本日の天然ガス統計では、在庫の変化は86.75BCF(先週80.0BCF)と増加見通しであり予想通りであれば価格の下落要因に。

※週次の更新となります。

JKM先物は全ゾーン下落。欧州のガス価格が下落したことが材料となった。

足下の「適正な」価格、即ち供給に問題が全くない場合の価格は期先の価格を参考にする必要がある。現時点で確認できる期先の価格は20ドル程度であり、この価格が「基準」になると考えられる。

5月29日時点の日本の発電用LNG在庫は199万トン(前年同月末194万トン、過去4年平均198万トン)と減少。今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の供給不足のリスクは小さくない。

5月23日~29日のLNGトレードだが、取引量は730万トン(前週720万トン)、スポット取引のシェアは25%(前週33%)と低下した。

スポット契約は日本・韓国・中国・台湾の輸入が前週比▲46万トンの大幅な減少となったことがスポット取引のシェアを低下させた。また、欧州・イタリア向けも▲25万トンの減少となった。

長期契約ベースの輸入は日本(+21万トン)、中国(+16万トン)の増加となったが全体として緩やかな増加に止まった。

本日は、欧州・アジアの価格下落が大きかったことから安値拾いの買いが入るとみられること、欧州への供給手として期待される米国も需給がタイトであることから、需給ファンダメンタルズは引き続きタイトであり高値維持の公算。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。

◆石炭

豪州石炭スワップ先物価格は下落した。欧州ガス価格の下落と、欧州排出権価格の上昇で恐らく石炭需要が低下したことが材料となった。。

中国のロックダウンの解除が

1.中国国内の供給の回復>需要の増加、となるのか2.中国国内の供給の回復<需要の増加、となるのか

は、まだなんともいえないところだが、今のところ1.となる可能性が高まっている。中国6大電力会社の石炭在庫、インドの石炭在庫水準も低く、まだ需給はタイトといえる。

中国政府は2022年の石炭生産目標は昨年12月の過去最高水準を上回る1,260万トン/日(3億9,060万トン/月)に設定しているとされ、これが達成されるとほぼ輸入が不要となる。

なお、4月の中国の石炭生産は、前年比+12.6%の3億6,300万トン(1,209万トン/日)と前月の+16.1%の3億9,600万トン(1,277万トン/日)からは減少している。

結局、海上輸送炭の輸入需要は昨年までよりは低下しているものの、完全に不要という訳ではない。4月の国別の燃料炭輸入はインドネシアからの輸入が前月比+191万トン、ロシアが+43万トン、カナダが13万トン増加している。

結局、ロックダウンは中国の電力需要を減じるものの、生産も制限するため海上輸送炭市場をタイト化させているといえるだろう。

日本も対岸の火事ではなく、今年の夏は猛暑が予想されているため、石炭価格の高騰が電力会社の業績を圧迫するのみならず、逆ざや発生に伴う電力供給制限が起きる可能性も意識しなければならない状況。

また、夏場の電力供給不足のリスクは米国でも指摘されており、北米電力安定供給審議会(NERC)は、米国では五大湖周辺から西海岸に掛けて猛暑や干ばつなどの影響で電力不足に陥るリスクに警鐘を鳴らしている。

これに加えて電力供給不足を補うため、ドイツがロシアからのガス供給途絶に備えるため、休止予定だった石炭火力発電所を利用する方針を表明しており、構造的な石炭需要は底堅く、価格を高値に維持するとみる。

本日は、昨日大きく下落した欧州天然ガス価格は逆に反動で上昇すると見ており、引き続き石炭価格は高値維持の公算。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格はまちまちで、銅とスズは大きく上昇したが、その他は下落した。中国のロックダウン解除に伴う経済活動の再開期待や、LME指定倉庫在庫の減少が確認されていることは価格上昇要因として作用したが、米ISM製造業指数が良好な内容となり、活、昨日からQTが始まっていることもあって米長期金利が上昇、ドル高が急速に進行したため引けに掛けて水準を切り下げる商品が目立った。

弊社は夏場に向けて非鉄金属価格が上昇し、年末に向けて再び下落し、来年以降、来るべき脱炭素の流れと中国・インドのW人口ボーナス期入りで再び長期的な上昇局面入りするとみている。

しかし、今年に関しては中国のロックダウンが2ヵ月に及ぶというリスクシナリオが顕在化、さらに米国の利上げやQTもこれまでの対応の遅れを取り戻す、という観点で加速の可能性があることから、中国の経済対策があったとしても戻り幅が限定される可能性がでてきた、と考え始めている。

7月時点で価格見通しは見直すが、需給環境の変化が非常に大きいため、再び価格見通しは下方修正(値動きのトレンドは変わらず)される可能性はある。

本日は米金融引締め加速観測が価格を下押しするが、中国の経済活動再開やLME指定倉庫在庫の減少がこれを相殺するため、結局高値維持の公算(なお、LMEはロンドンが4連休であり休場)。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は上昇、上海鉄鋼製品先物は直近限月が下落し、その他の限月は上昇した。

経済活動再開に伴う在庫積増しの動きが始まっているとみられ、鉄鋼原料価格は高止まりしている。しかし、まだロックダウンの本格解除となっていないため緩やかな上昇に止まっている。

本日も中国の経済活動再開期待を受けた鉄鋼製品需要の回復と価格上昇を受けて、鉄鋼原料価格も上昇余地を探る動きになると考える。

少なくとも今後数週間で、鉄鉱石価格は現在の鉄鋼製品からの推測値である140ドル程度までの上昇はあると見ている。原料炭は構造的な供給不足が定常化しており、当面高値での推移が続くことになろう。

◆貴金属

昨日の金価格は上昇した。米ISM製造業指数の改善を受けて長期金利が上昇、ドル指数も上昇し金価格に取ってはマイナスの材料が多く、基準価格は前日比▲19ドルの1,248ドルと低下したが、ロシアのデフォルトや景気の先行きを懸念した金需要は堅調でありリスク・プレミアムが+28ドルの599ドルとなったことで、価格は水準を切り上げた。

銀は金価格の上昇もあって一昨日の反動から上昇、プラチナは中国の経済活動の活性化観測で続伸、パラジウムは株価の下落の影響が大きく前日比マイナスとなった。

本日は昨日のISM製造業指数を受けて米景気への楽観と、金融引締め観測が意識されることから、実質金利の上昇を受けて水準を切り下げる展開を予想。

◆穀物

シカゴ穀物市場はトウモロコシと小麦が下落した。これまで黒海からの輸出は不可能と見られていたが、ウクライナ産の小麦やトウモロコシがオデーサから輸出される可能性が出てきたため、買い上がっていた投機の利益確定の動きが強まったため。

大豆価格は上昇。大豆の週間輸出にタイする楽観が価格を押し上げた。なお、朝方発表された月間の米大豆圧搾高は5,427千ショートトン(前月5,786千ショートトン)と前月から減速したが、過去5年レンジの上限となっており、圧搾需要は旺盛。

本日もウクライナからの輸出再開期待とドル高進行が価格を下押しするが、需給ファンダメンタルズはタイトであり、下落余地も限定され高値維持の公算。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

・渇水に拠る水不足や、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・ロシア・ウクライナの衝突の影響が長期化し、欧州を中心に景気が減速する場合。

また、ロシアに対する制裁がロシアが主要生産地である商品の供給を制限し、価格を押し上げ、景気を悪化させるリスク(価格下落要因)。

ウクライナへの侵略戦争は長期化がほぼ確実であり、景気下押し要因となるという展開はメインシナリオとなる可能性。

・ロシア国債のデフォルトや、ロシアからのビジネス撤退が企業や信用市場に大きな影響を与え、クレジットクランチ(信用収縮)が発生する場合。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

◆本日のMRA's Eye


「EUの脱ロシア策とOPECプラスの展望」

原油需給バランスの前年比変化と、原油価格の前年比上昇率の関係は概ね過去と同様の流れとなっており、恐らく今年の年末に向けて上昇率が低下した後、2023年以降に再び「上昇率」が上昇すると予想される。

仮にロシア産原油・石油製品の完全輸入停止を行い、かつ、ロシア産原油がその他の市場でも完全に調達出来ず、ロシアも保管が出来ないために原油減産に追い込まれた場合、恐らく原油価格は130ドル~140ドルに上昇すると見られる。

しかし現実にはインドや中国、オランダなどはロシア産原油を継続して購入しており、この価格見通しは「供給リスク顕在化時の上限」と考えられる。

この状況で、EUは脱ロシアに舵を切ることを決定、海上輸送の原油については年末までに禁輸とする方針であり、船舶に対する保険も禁止するという。船舶に保険が掛けられなくなるのが最も原油供給に影響が出ることになる。

この状況でEUは年内に海上輸送ロシア原油の輸入を停止することを決定したものの。パイプラインでの輸送は継続することになるが、パイプライン以外で調達をしているオランダやドイツの一部、イタリア、ルーマニア、ブルガリア、セルビアなどは直接影響を受けることになる。

しかし、2021年のロシア産原油の輸出先を見ると合計476万バレル/日のうち、48.9%に相当する233万バレル/日が欧州向けであり、ほぼイランの原油生産量全量に相当する規模であること、また原油の性状の違いから、そのリプレースは簡単ではない。

西側諸国は結局の所、中東に供給を頼らざるを得ないが、中東産油国に足下を見られており(イランも核合意復帰を引き延ばし)、かつ、OPECプラスのメンバーであるロシアに配慮するため、OPECの毎月の増産ペースは緩慢な上、目標も達成していないケースがほとんどで、価格には上昇圧力が掛りやすい。

ロシアをOPECプラスから除外する、というOPECメンバーの関係者からのコメントもWSJが報じているがどの程度本気なのかは眉唾ものだ。

ただ仮にロシアがOPECプラスメンバーからはじかれれば、ロシアの増産分をOPECメンバーが肩代わり出来ることになる。増産余力がある国としてはやはりサウジアラビアやUAEということになる。

ではこの状況でロシアも増産出来るかといえば、そもそも実質増産能力が落ちている上、増産しても販売量が減少する可能性があることからロシアの増産は見込み難い。結果、OPECの余剰生産能力を削ることになるため、増産しても下落余地は限定されるのではないか

また、OPECプラスの結束をここでゆがめると今後、原油価格が下落した時に協調減産の足並みが揃わなくなる。

こういったカルテルは価格上昇時よりも下落時の結束が重要であるだけに、今後、景気が減速し、米国が増産(資材や労働力不足の影響で恐らく年後半から来年初か)する見通しであることを考えると、ここでロシアを切り離すのはOPECプラスにとって得策とはいえない。

結局、6月2日の会合も予定通り波乱なく終了する、というのが現時点の見立てであるが、場合によるとサウジ・UAEがOPECプラスの枠組みとは別に、実際に「目標増産量を達成していない分」を自主的に肩代わり増産するといった決定はあるかもしれない。これならばロシアに対しても角が立たないのではないか。


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