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米金融政策のリスクバイアスが変化
  • MRA外国為替レポート

2022年5月30日号

◆先週の市場総括


先週は米国株が下げ止まり反発、堅調に推移する傍らでドルは下落した。米国の経済指標は週前半に弱い数字が散見され景気懸念が広がった。

米10年債利回りは月曜日こそ2.85%台に上昇したが、その後は低下して週末は一時2.70%をつけるなど低下基調。個人消費の堅調さは確認されたがインフレ指標は落ち着きを示した。

火曜日にはFRB地区連銀総裁が9月の利上げ見送りにも言及するなど過度な利上げ観測が後退。5月初に開催されたFOMCの議事要旨が公表されたがとくにタカ派への警戒感を強める内容はみられず。これらは株価にはプラスとなったがドルには逆風に。

一方で欧州経済はなおさほど悪化しておらず、ECB当局者からは7月の利上げ観測が強まったまま。

ユーロドル相場は週初に1.05台後半で始まったが、週末には1.07台後半に上昇した。ドル円相場は週初に128円ちょうど近辺で始まり、一時126円40銭に下落。

その後週末にかけては下げ止まり127円をはさんだ値動きとなった。

日経平均は米国株の堅調に支えられ底固かったが27,000円の大台では戻り売りに上値を抑えられ26,000円台後半での推移。

月曜日の東京市場では日経平均が続伸し引け値で27,000円の大台を回復した。前週末に米長期金利が低下しハイテク株がしっかりとなったことで底固い値動き。一時上げ幅は+300円。

ただ大台では戻り売りも強く引けは+262円高の27,001円。日米首脳会議後の共同記者会見で、バイデン大統領が対中関税の見直しを検討している、と述べたことも好感された。インフレピークアウト期待や市場心理の改善が期待された。

為替市場では午前中、ドルが軟調、円が堅調。ドル円相場は128円ちょうどで始まり昼にかけて127円10銭台に下落した。

その後は株価堅調推移、バイデン発言でリスク選好が回復して東証引けにかけて127円90銭に反発した。

ユーロ円相場は135円ちょうどで始まり134円70銭に下落。その後反発して135円60銭台に戻した。

ユーロドル相場は1.056台で始まりじり高。夕刻は1.06ちょうど近辺。欧州市場に入った夕刻には予想を上回る経済指標を受けてユーロが急上昇。

発表されたドイツIFO景況感指数(5月)は前月91.8から予想91.4への悪化予想に対し93.0と改善。ウクライナ情勢にもかかわらず景気は底固く、リセッションリスクが足元ではみられないことが示された。

ユーロドル相場は1.068台へ上昇。ユーロ円相場は135円20銭に下落していたが136円30銭に急上昇した。ドル円相場はユーロ高ドル安の煽りを受けて128円40銭に下落。

欧州株は指標を受けて全般に堅調。米国株も主要3指数がそろって大幅上昇。バイデン大統領の対中関税見直し検討との報道から市場心理が改善。中国関連銘柄が買われた。

またハイテク株にも割安感、値ごろ感からの買いが入った。NYダウは前週末比+618ドル高、ナスダックは+180ドル高の11,535ドル。VIX指数は▲0.93ポイント低下して28.48。

原油価格は上昇。

ECBラガルド総裁が、7-9月期の早い時期に量的緩和を終了、7月には利上げが可能、と述べた。

これを受けてユーロが引き続き底固い値動き。リスク選好の回復も手伝ってユーロ円相場は136円を挟んだ上下動から136円70銭に上昇した。

ユーロドル相場は1.065に反落していたがじり高となり1.069近辺で高値引け。ドル円相場は上下しながら下値を切り上げ引けは127円90銭近辺でもみ合い。米10年債利回りは上昇して2.856%、2年債は2.626%。

火曜日の東京市場では日経平均が反落し前日の上昇分を失った。米金融引き締め、中国景気減速への警戒、米国景気後退懸念、などが弱気要因。

前日の米国株高を受けて小高く始まったがその後は終始軟調。27,000円台での戻り売りの壁が厚かった。時間外の米国株先物が下落したことも嫌気された。引けは前日比▲253円安の26,748円。

ドル円相場は127円90銭で始まり60銭台~128円ちょうどで上下して午後は127円60銭~70銭でもみ合い。128円近辺での上値の重さをあらためて確認した。

ユーロ円相場は136円70銭で始まり軟調。上下しながら下落して午後には136円ちょうど。

ユーロドル相場は1.0690で始まりやや上値重く1.0660~70で推移した。その後欧州市場に入るとユーロが上昇、ドルが下落。ECB当局者から0.50%の利上げも排除しないとの発言からユーロが買われた。

ユーロドル相場は1.0740へ上昇。ユーロ円相場は136円80銭へ反発。ドル円相場は127円20銭に下落。ただその後は弱い欧州PMI景況感指数からユーロ高が一服。欧州株が続落し、リスク回避が強まるなか円高に振れた。

ユーロ圏PMI(5月)は製造業が前月55.5から予想54.8への悪化を下回り54.4へ低下。サービス業が57.7から57.5への悪化予想をさらに大きく下回り56.3。景気悪化懸念が広がった。

ユーロドル相場は1.07ちょうどへ下落してもみ合い、

ユーロ円相場は136円10銭へ、ドル円相場も上値重く127円10銭へ下落。

米国株は寄付きから多きく下落。弱い経済指標で景気後退懸念がさらに強まった。

米国のPMI景況感指数(5月)は製造業が前月59.2から57.8への悪化予想を下回る57.5、サービス業が55.6から予想55.5を大きく下回る53.8、総合指数は56.0から53.8に悪化した。

リッチモンド連銀製造業指数(5月)は前月14から9への悪化予想に対し▲9と大幅悪化。

新築住宅販売(4月)は季節調整済み年率換算で前月763千戸から750千戸への微減予想に対して591千戸と大幅減。コロナ禍に見舞われた直後の2020年4月以来の低水準となった。

NYダウは寄付きから大きく下落して一時前日比▲500ドル下落。ハイテク株は一部決算が大幅に予想を下回ったことからネット広告収入への不安が広がり下落。ハイテク株中心に売りが広がりナスダックは前日比▲270ドル安の11,264ドル。

一方、ディフェンシブ銘柄に買いが入ったことでNYダウは下げ幅を縮めて引けは+48ドル高の31,928ドル。VIX指数は+0.97ポイント上昇して29.45と依然として高水準。

原油価格WTIは景気悪化懸念から下落して109.77ドル。米10年債利回りは大きく低下して2.754%、2年債は2.481%。

アトランタ連銀総裁は、9月には利上げを一時停止することは理にかなっている、と慎重な姿勢を示した。

米国株大幅安、リスク回避、米長期金利低下を受けてドル円相場は126円40銭割れに下落。ユーロ円相場も135円50銭台に急落。その後は株安一服で円高も止まり、ドル円相場は引けにかけじり高となり126円80銭台に戻した。

ユーロ円相場も136円20銭に戻して引け。ユーロドル相場は堅調で1.0750に上昇した後、1.0720~50で上下して引けは1.0730~40。

水曜日の東京市場では日経平均は小幅続落。前日の米国市場でハイテク株が大きく下落したことで、東京市場でもハイテク株の一角が売られた。

下げ幅は一時▲170円ほど。ただある程度業績懸念は織り込まれていたことから売り一巡後は持ち直し下げ幅を縮めた。引けは▲70円安の26,697円。

ドル円相場は126円80銭台で始まり欧米市場にかけても底固く推移した。東京市場では126円90銭中心にもみ合いの後127円20銭に上昇し、欧州市場では127円ちょうど~10銭を中心に推移した。

ユーロは終始軟調。ユーロ円相場は136円20銭近辺で始まり135円80銭台に下落した後20銭に戻したが、その後は欧州市場にかけて135円ちょうど近辺まで大きく下落した。

ユーロドル相場は1.0730台で始まり欧州市場にかけて終始下落し1.0640台へ。7月のECB会合での利上げ幅について様々な発言がみられ定まらず。ECB金融安定報告書で、ユーロ圏経済の見通しは弱まる、資産市場が急激に調整するリスクがある、とされた。

欧州株は持ち直し。米国株も主要3指数がそろって上昇。公表された5月2日・3日開催分のFOMC議事要旨ではタカ派への警戒を強めるあらたな内容はなく一定の安心感をもたらした。

メンバーの大半は今後数回の会合で0.50%の利上げを支持し、早期に中立スタンスに移行すべきとの見方で合意した。NYダウは前日比+191ドル高の32,120ドル、ナスダックは+170ドル高の11,434ドル。

米10年債利回りはやや上昇して2.751%、2年債は2.502%。

ドル円相場は127円50銭に上昇した後、30銭に反落して引け。ユーロドル相場は1.0650~690で上下して引けは1.0680。ユーロ円相場は136円近辺で引けた。

木曜日の東京市場では日経平均が小幅ながら3営業日続落。前日発表された米国大手半導体決算が予想を下回ったことで主力半導体銘柄が下落。

朝方上昇して始まったが主力株全般に戻り売りが入り26,500円から上は重かった。引けは前日比▲73円安の26,604円。

ドル円相場は127円30銭で始まり一時50銭台に上昇。その後は上値重く40銭近辺で推移したあと午後から欧州市場にかけては126円60銭割れに大きく下落、円高に振れた。黒田日銀総裁の発言に反応した。

総裁は、金融市場の安定を確保した出口戦略は十分可能、として超金融緩和解除の可能性に言及。また、米国の利上げでもどんどん円安になるというわけではない、とも述べた。

ユーロ円相場は136円ちょうど近辺で始まり136円50銭近辺に上昇したが、午後には135円30銭に大きく下落した。

ユーロドル相場は1.0680で始まり1.07ちょうど近辺に上昇してもみ合い。午後には1.0660に反落した。

欧州市場から米国市場にかけては円高が一服。ドル円相場は126円60銭~80銭で底固めしたあと、127円ちょうど~20銭でのもみ合いを経て米国市場では127円40銭に上昇した。ただ引けにかけては反落して127円ちょうど近辺で引け。

米長期金利が小幅低下。10年債利回りは2.738%、2年債は2.476%。

ユーロ円相場は円高一服に加えユーロ堅調で反発・上昇に転じて136円60銭へ。引けは136円30銭。

ユーロドル相場が一貫して上昇、ユーロ高ドル安が進みNY市場引けは1.0730近辺。ドルインデックスは101.75に低下。

欧州株、米国株は堅調。米国株は一部小売決算が良好で、消費関連株中心に買われた。景気敏感株もしっかり。NYダウは前日比+516ドル高の32,637ドル。ナスダックは+305ドル高の11,740ドル。VIX指数は▲0.87ポイント低下の27.50。

金曜日の東京市場では日経平均が4営業日ぶりに反発。前日の米国株が大きく上昇したことから投資家心理が改善した。

ただ27,000円の大台近くでは戻り売りに押され上げ幅を縮めた。引けは前日比+176円高の26,781円。

ドル円相場は欧米市場も含め終日127円を中心に方向感なく上下した。東京市場は127円10銭近辺で始まり昼にかけて126円70銭に下落。

ユーロドル相場は1.0730から1.0760に上昇。ドルが下落した。

その後ドル円相場は夕刻にかけて127円20銭に反発。欧州市場では127円割れに下落したが持ち直し、米国市場終盤は127円10銭近辺でもみ合い引けた。

ユーロは欧州市場で反落。ユーロドル相場は1.0760から1.07ちょうど近辺に下落。その後は1.0750~1.07ちょうどで上下して引けはじり高、1.0730で取引を終えた。

ユーロ円相場は135円80銭台に下落した後反発。136円40銭に上昇して引け。

米国株は大幅続伸。インフレ加速への過度な警戒感が後退した。消費関連やハイテク株が買われNYダウは前日比+576ドル高の33,213ドル、ナスダックは+390ドル高の12,131ドル。

米10年債利回りが一時2.70%に低下するなど金利上昇が一服していることも支えとなった。

発表された米国の個人所得・消費支出(4月)は前月比+0.4%・+0.9%と消費が底固さを示した。

一方、価格指数はコア指数が前年同月比+4.9%と前月+5.2%に上昇鈍化した。ミシガン大学消費者信頼感指数(5月確報)は速報59.1から58.4へ下方修正された。

◆今週の3つの注目ポイント


1.米国の経済指標

今週は重要な経済指標が相次ぐ。米国景気の先行き懸念が強まっているなか予想より弱い数字に反応しやすい。長期金利はすでにピークをつけて低下しているが、さらなる上昇抑制要因となるか。

火曜日 シカゴ購買部協会景気指数(3月、予想57.0、前月56.7) 消費者信頼感指数(5月、予想103.9、前月107.3) ダラス連銀製造業指数(5月)

水曜日 ISM製造業景気指数(5月、予想55.0、前月55.4)

木曜日 ADP雇用報告(5月、雇用者数前月比、予想+306千人、前月+247千人)、 製造業新規受注(4月、前月比、予想+0.8%、前月+2.2%)

金曜日 ISM非製造業景気指数(5月、予想57.4、前月57.1) 雇用統計(5月、非農業部門雇用者数前月比、予想+332千人、前月+428千人、失業率、予想3.5%、前月3.6%、平均時給前年同月比、予想+5.2%、前月+5.5%)

2.地区連銀経済報告(ベージュブック)

水曜日にベージュブックが公表される。

米国経済の現状についてどのように定性的に判断されているか。雇用堅調が続いていることは確認されるとして、消費や設備投資の勢いはどうか。またインフレ圧力についてどのような判断がなされているか。景況判断が鈍化していれば市場の景気懸念を後押しする。

インフレ圧力が緩和した気配がみえれば、利上げペースの鈍化が視野に入る。ただインフレ率高止まり、景気堅調となれば、現状の急ピッチの利上げ、中立水準2%台半ばへの政策金利引き上げが肯定される。

3.中国の経済指標

中国経済の減速懸念が強まっている。今週はPMI景況感指数が発表されるが、当局が景気下支え策を打ち出すなか景況感悪化に一服がみえるか。

なおもロックダウンは続いており、景況感の悪化がさらに進むか。

予想より弱い数字となれば、マクロ面から株価抑制要因となり、リスク回避を強める可能性があるので留意を要する。ドル円相場がさらに水準を切り下げる要因となるか。

◆今週のMRA's Eye


米金融政策のリスクバイアスが変化

米10年債利回りは5月初旬に一時3.2%に上昇していたが上昇一服。その後は反転低下して先週は一時2.70%をつけた。

足元の経済指標、景況感や物価指標で、米国景気の先行き懸念が台頭するとともに、インフレ懸念が後退したことが大きい。

またFRB当局者の発言からは早期に中立水準まで利上げするべきとの意見が大勢だが、現状の0.50%の利上げから上げ幅を加速し0.75%にしようという意見はみられなかった。むしろ9月には利上げを一旦停止してもよいのではないかとのハト派の意見もみられる。

利上げのパスは、従来は0.50%の利上げを数回実施、あるいは0.75%に利上げ幅を拡大するリスクがあるとみられていた。

年末の政策金利水準は2%台後半~3%も想定されていた。

ただ一連の経済指標や当局者の発言からは、従来の想定よりも利上げペースが鈍化する可能性が意識され始めた。従来は金利上振れリスクだったが、現状では下振れリスクに転じている。それが長期金利動向、米10年債利回りの低下に反映されている。

主として米景気堅調・米金利上昇を背景にしたドル高は、それに応じて一服した。

米景気減速、インフレピークアウトのさらなる顕在化、が現実のものとなれば、米長期金利がすでに5月初旬にピークをつけたことが事後的に確認される可能性が高い。となると、ドル高もすでにピークをつけた可能性がある。

米債市場ではこれからFRBのバランスシート縮小によって債券が供給され、需給面では金利上昇圧力がかかりはじめる。

しかし利上げが3%台前半で打ち止め、ないしそこまで届かない可能性が示唆されるなか、需給面だけで再び既往高値の3.2%を超えて上昇していくのは難しいのではないか。

インフレピークアウト、景気鈍化、のもとでは、バランスシート縮小が行われるとしても米長期金利は抑制される可能性が大きいだろう。

ただ大きくドル安が進む状況ではない。

あくまでも行き過ぎたドル金利先高感、米国経済ひとり勝ちイメージによるドル先高感の修正の範囲内とみられる。

ウクライナ情勢の混乱や資源供給への不安にもかかわらず、ユーロ圏経済が足元で比較的落ち着いた状況を維持していることから、ECBは量的緩和を終了し7月にも利上げするようだ。

欧州でもインフレ率は大きく上昇しており、少なくともゼロ金利の解除までは視野に入る。ただそこから積極的に利上げができるかといえば難しいだろう。

ユーロドル相場は1.00=パリティを目指して下落しているようにみえたが、ここにきて歯止めがかかり反転上昇。1.07台を回復した。

ドルインデックスは一時103ポイントに上昇していたが、足元では101ポイント台に下落した。ドル上昇に一服感が出ている。

利上げ、需要抑制、景気鈍化、となれば米国株の調整局面は続くだろう。

金利上昇や業績見通しの下方修正によるバリュエーションの見直しは、この間の株価調整で相応に進んだが、トレンドとして米国株に強気になれる局面ではない。

利上げ打ち止め、ないし、景気減速の底打ち、が確認されることが調整終了には必要だろう。それまではリスク選好も後退したままとなりそうだ。これは円売り抑制要因にもなる。

こうしたことを踏まえれば、ドル円相場はすでに130円台で中期的に高値をつけた可能性がある。今後3ヵ月程度では、ドル円相場は125円~129円で上下するのではないか。

リスクバイアスはややドル安円高サイド。すでに128円の上値は重く、125円割れの可能性も生じているとみられる。

逆にドル円相場が130円台を回復する可能性は、米国景気が思いのほか堅調を維持しながらもインフレ率がピークアウト。景気堅調でも利上げがさほど必要ないとみられた場合。

足元金利は利上げにより上昇するが、景気見通しは良好で、逆イールドとはならず、10年債利回りが3%台を回復するケース。

この場合はドル円相場が再び130円台を回復する可能性がある。ただその確率は2割に満たないのではないか。


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