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米市場休場で動意薄い
  • MRA商品市場レポート

2022年7月5日 第2231号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「米市場休場で動意薄い」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は米国市場が休場のため、動意薄い展開だった。

最も上昇したのが欧州天然ガス。欧州最大の生産国であるノルウェーで賃金交渉を巡る予定されたストライキが実施される見込みであり、供給が1割以上減少する、との見通しが示されたことが、スポットカーゴやスポットでのガス調達圧力を強める結果となった。これを受けて各地のガス価格も上昇している。

非鉄金属は概ね買い戻しで上昇。これまで、中国のロックダウンや米国の金融引締めを材料に下落していたが、割安感から実需の買い下がりが入ったと考えられる。

ただ、下期見通しのリスク要因ととして挙げていた「中国の再ロックダウン」が、経済規模2位の江蘇省で発生する懸念が強まっており、鉱物資源価格には下押し圧力が掛かりやすくなっている。

先日、下期の商品市場動向・価格見通しをリリースしたばかりだが、この予想数値よりも下の水準になる可能性が否定出来なくなってきた。

下落が顕著だったのが鉄鋼セクターで、こちらは投機の参入余地が小さいため、中国ロックダウンの影響が比較的素直に価格に反映される形となった。

【本日の見通し】

本日は目立った手がかり材料に乏しい中、水準でのもみ合いが想定される。ただ、鉱物資源に関しては中国のロックダウンへの懸念が下押し要因となり、エネルギーに関しては広く供給リスクが顕在化した状態になっているため、価格には上昇圧力が掛かりやすいと考える。

本日予定されている統計では、中国財新PMIと米製造業受注・コア資本財改定値に注目している。

6月中国財新サービス業PMI 市場予想 49.6(前月41.4)中国財新総合PMI 前月 42.2

5月米製造業受注 市場予想 前月比+0.5%(前月+0.3%)5月米コア資本財受注改定 市場予想 前月比+0.5%(速報 +0.5%)

【昨日のトピックス】

昨日、再び中国でコロナの感染拡大が報じられた。対象地域は長江デルタ地域であり、個々には太陽光パネルや医薬品、半導体の製造拠点が集結している。

東部安徽省の宿州市泗県での感染拡大が目立っている。ただ、同省の人口は6,200万人だが、感染者数は287人であり、累計では1,000人を超えるようだ。

しかし、日本やその他の国の感染者数からすればはっきり言って拡大しているとはいえず、ここまでゼロコロナに「習近平のメンツ」のためにこだわる意味が余りよく分からない。

しかし、恐らく徹底したゼロコロナ政策の結果、集団免疫を獲得していないこと、中国製ワクチンが効かないこと、仮にワクチン接種を加速させようとしても物流の障害が残る中では充分な量が確保出来ないと考えられること、が背景にあると考えられる。

近隣には同国2位の経済規模である江蘇省があり、こちらに感染が拡大した場合、中国経済への影響が甚大と考えられることも、ロックダウンを急ぐ背景にあると考えられる。

中国のロックダウンは部材供給の停止を通じて、1.生産活動の遅れ、2.部品供給停滞による物価上昇、3.治安悪化、をもたらすため小さいリスクではない。

もし江蘇省がロックダウン、ということになれば恐らく工業金属価格はさらに下落することになるだろう。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇した。OPECの原油生産が目標の27万5,000バレルの増加どころか2万バレルの増加に止まり、「供給能力が制限」されていることが材料となった。

既に価格に織り込まれている材料では有るが、リビアの国内情勢不安でフォーマジュールが宣言され、同国の供給が大幅に減少していることが影響している。

特に北アフリカ地域は食料問題を抱えているため、今後、ナイジェリアやアルジェリアといったOPEC諸国でも生産が下振れするリスクは低くない。

Uralなどのロシア産原油からBrentなどのその他の原油へのシフトはつづいており、現在の原油価格の実力値の指標である「BrentとUralの平均値」は98.04ドル(前日比+2.34ドル)。

次の焦点は8月3日の次回OPECプラス会合。ただ、追加増産を決定すれば増産余力が削られるため、需要が減少していなければ逆に価格の上昇要因となる。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は2.の状態にあると考えられる。

今回のバイデン大統領の中東訪問で3.に移行することが「期待」されるが、逆にサウジアラビアやUAEが増産に応じると「増産余力がなくなる」として逆に買い材料とされる可能性もある。

即時増産可能国として期待していたイランはもう西側諸国の要請で増産することはないだろう。ロシア・中国とタッグを組むことはほぼ確実な情勢だからだ。

仮に増産したとしても、それは東側諸国に提供されることになるため、西側諸国のベンチマーク原油価格の下落には寄与しないのではないか。

となると、結局、米国の増産が必要になってくるが、オイル・メジャーはクラックスプレッドが空前の水準に達しており、需要も落ちていないため増産せずとも利益が確保出来ること、脱炭素派の強い牽制の動きを受けて製油所のキャパシティの拡大にも慎重になっていること、から、なかなか増産が始まらない。

教科書的には人とモノの確保が出来ないことが原油増産の遅れの要因と整理されるものの、ややうがった見方かもしれないが、環境面に厳しくオイル・メジャーを目の敵にしてきたバイデン大統領率いる民主党が「中間選挙で敗北した後に」増産に転じるのではないか。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない Brent 120-150ドル

2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 100-130ドル

3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 90-125ドル

4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 85-120ドル

5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル

7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。OECD諸国の戦略備蓄130万バレル放出は半年の時限付。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的な視点では、以下のような流れが想定される。基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。

2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

現在~Q422 需要の伸び高止まり・供給制限継続・金融引締め加速(↓)Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓)      グローバル・リセッションの場合 (↓↓)Q323~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (↑)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (→)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日は、米景気の先行きへの懸念が強まっていることから軟調推移を予想するが、同時に供給面の制限が解消していないことから結局高値を維持の公算。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は上昇した。予定されていたものだが、ノルウェーのエネルギー部門労働者がストライキを実施し、ガス生産が▲13%減少するのでは、との見通しが示されたことが価格を大きく押し上げることとなった。

ノルドストリームの稼働をロシアが回復させる保証はなく、先行きの供給への不安は高い状態で、こういったストライキの発生は価格を押し上げることになる。なお、まだノルウェーからのガスネット輸出は減少していない。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

欧州全体のガス在庫は6月26日時点で57.6%(前日57.3%)と増加。

域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。

仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。

ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかない。

域内の電力供給が一番に取り上げられて報じられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて、世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.欧州vsロシアの対立(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

日々これらに関わる材料が処理されて価格が動いているが、欧州が脱ロシアを進める方針に変わりはなく、スポットのガス調達を増やして調達構造を変化させる見通し。

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、その後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化、3.も顕在化している状況。

Freeport社のLNG液化容量は全米の16.5%に相当。2020年実績を元にすると、世界のLNG貿易量の4.1%に相当するため影響は大きい。

報道ベースでは部分回復は9月頃、完全回復は年末とされるターミナルの不稼働に伴う供給リスクが顕在化している状況。なお、LNGターミナルの再稼働は外部監査を必要とし、書面による事前の当局の承諾が必要、と報じられておりさらに出荷回復に遅れが出そうな状況だ。

なお、欧州の一部の国ではLNGの受入キャパシティ上限まで輸入が増加しており、供給が充分であっても受入側の都合でこれ以上輸入量を増加させるのは技術的に困難とみられる。

これらのリスクが顕在化した場合、自国民の生活や産業に著しい不利益が生じるため、欧州域内からロシア制裁解除の声が高まる可能性はある。米国のLNG供給制限もその動きを加速させるのではないか。

6月20日~6月26日の世界のLNGトレードだが、取引量は778万トン(前週694万トン)と増加した。スポット取引のシェアは31%(前週28%)と上昇。

スポット契約は北欧向けが+54万トンの増加で、トルコとスペインの輸入が増加、南アジア向けの輸出もインドの輸入増加で前週比+25万トン。

一方、ターム契約分の調達は、北欧向けの出荷が+22万トンの増加で主に英国の輸入増加によるもの。JKCTはほぼ先週と変わらずだった。

LNGのタンカーレートはスエズ以西・以東とも急落。恐らくFreeportの事故の影響とみられるが、これでほぼ過去5年平均程度まで水準が低下した。

このことは在庫を例年以上のペースで積増ししなければいけないタイミングで、例年程度のフローしかなくなっている可能性を示唆している。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物市場は休場。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は休場。

米国からのカーゴ減少とロシアのガス供給の作為的な削減、欧州の調達圧力の強まり、北半球の猛暑、から価格は上昇圧力が掛かりやすいが、ここに来て再び中国がロックダウンとなる可能性が出てきたため、この影響は若干緩和されると考える。

しかし、構造的なガス不足は景気の急減速や冷夏・暖冬がない限り簡単に解消するものではないため、結局、夏場~冬場にかけての価格リスクは上向きだろう。

なお、期先(2023年以降)の価格の高止まりはLNG市場の構造変化を反映したものであり、脱ロシアが完了し、ロシアのガスが「浮く」状態になってからは再び水準が切り下がると考えているが、それはまだ先のことになる見込み。

6月26日時点の日本の発電用LNG在庫は215万トン(前年同月末204万トン、過去4年平均195万トン)と増加し、例年の在庫水準を上回った。なお、弊社集計データによる過去5年平均との比較では、まだ例年のレベルを大きく下回っている。

今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の電力供給不足のリスクは高いが、ロシア政府によるサハリン2の強制接収の可能性も考えると、日本にとって夏場以降のガス調達、仮に出来たとしても価格面でのリスクは残る状況。

本日も供給面で消費者にとって状況が改善すると考え難く、米国のガス供給再開の遅れ、サハリン2の強制接収の可能性も考えると、日欧の天然ガス価格は高値維持の公算、HHは逆に低下余地を探る動きに。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。

◆石炭

豪州石炭スワップは上昇して400ドルに迫った。北半球の猛暑や、欧州が石炭火力使用に舵を切り直していることで、海上輸送炭市場需給が逼迫する、との見方が価格を高止まりさせている。

カロリーの高いロシア産石炭の西側諸国への供給停止により、高品位炭を求める動きが強まっていることが、豪州炭価格の押し上げ要因となっている。

基本、石炭とガスを「価格を見て切り替える」ことができる発電業者は限られるものの、Freeport問題やロシアのガス供給減少などの報道を受けたLNG・ガス価格の上昇が続き、カロリーベースの割安感が出たことや、豪州の寒波の影響による石炭輸出の減少懸念が価格を押し上げている状況。

なお、BPデータを元にすると豪州の2020年の生産量は熱量ベースで12.42エクサジュール、消費が1.69エクサジュール、輸出が9.25エクサジュールとなっており、国内消費のシェアはそこまで大きくないが、何らかの影響が出ていることは事実だろう。

中国政府は2022年の石炭生産目標は1,260万トン/日(3億9,060万トン/月)に設定しているとされ、これが達成されるとほぼ輸入が不要となる。

なお、5月の中国の石炭生産は、前年比+12.7%の3億6,800万トン(1,187万トン/日)と、前月+12.6%の3億6,300万トン(1,209万トン/日)からは減速してる。

また、5月の燃料炭輸入は前年比▲22.0%の1,055万8,000トンと減少している。ロシアからの輸入は+92万トンの増加となったが、インドネシアからの輸入が▲96万トン、カナダからの輸入が▲16万トンの減少となったことが相殺した。

ロックダウンの影響から完全に脱して言いないことで、輸入需要が減少していると考えられるが、

1.中国政府は大規模な経済対策を実施の方針であること2.懸念していた猛暑が既に始まっていること3.南半球は寒波の影響を受けていること

から中国の国内供給は不充分であり、海上輸送炭市場がタイト化する可能性は高まっている。

日本も今年の夏は猛暑見通しであり、石炭価格の高騰が電力会社の業績を圧迫するのみならず、逆ざや発生に伴う電力供給制限が起きる可能性も意識しなければならない状況。

特に、高品位なロシア炭の供給停止はカロリーベースで競合しやすい豪州炭などの価格を押し上げやすいことも、日本が主に輸入している豪州炭価格を押し上げることになろう。

米国でも夏場の電力供給不足への懸念が指摘されていたが、Freeportの事故の影響もあって結果的に域内供給が間に合う可能性は出てきた。結局、ほとんどの資源に恵まれる米国は強いと言わざるを得ない。

本日も発電燃料供給を巡る環境の改善が見込めない中、まだ景気の減速が顕在化していないこと、ガスが政治的な理由と不慮の事故により供給不安となっていることから石炭価格は高値維持の公算。

しかし、中国で再びロックダウンの懸念が強まっていることから、上値も重いと考える。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は総じて買い戻しで上昇した。中国政府の経済対策期待を材料に割安感からの買い戻しが入ったためと考えられる。

今後、中国政府は経済対策を加速させる見通しであり、株価が戻る中では割安感から非鉄金属には上昇圧力が掛かりやすい地合になると考えている。

しかし、長江デルタ地域で再びコロナの感染拡大が確認されており、ロックダウンの懸念が高まっている。基本的にコロナの発生は予期できないためリスクシナリオの位置づけであるが、これが拡大するようであれば、非鉄金属価格は再び下落することになろう。

今後の非鉄金属価格動向は、短期・中期・長期で分けて考える必要がある。最も重要なのが長期のトレンドだが、脱炭素、脱ロシア、中国・インドのW人口ボーナス期入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には構造的な上昇圧力が掛かりやすい。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ123・Q223あたりが景況感の底になると考えられ、当面調整圧力が掛かることになる。

ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わないとすると、景気後退入りはQ323からとなり、この場合はQ124に回復基調に戻る展開が想定される(欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているところが多い)。

短期的には中国政府の対策期待で上昇する、と見ているが、実際に非鉄金属価格が上昇するには、1.中国の経済活動が回復すること(必要条件)、2.株価が上昇すること、3.期待インフレ率が上昇すること、が揃う必要がある。

いずれか1つでも顕在化すれば価格は上昇すると見るが、上昇の度合いは1~3がどの程度揃うか、に依拠しよう。

そのように考えると、2.3.はむしろ年末に向けてもう一段の調整がある、という見方が強まっており、可能性という意味では1.しかない。

1.に関しては政権維持のために習近平国家主席も必死と考えられ、これまで計画している経済対策が今後、顕在化する可能性が高いと見ている。

そうなると、夏場は1.>2.3.、となり、年後半は1.<2.3.という展開が想定され、非鉄金属価格は一旦上昇した後、中期的な見通しの通り、年後半から年初にかけて再度調整があると考えるのが自然である。

しかし、コロナの感染が確認され、再びロックダウンの可能性が高まっていることから、再び下落余地を探る可能性が出てきた。

本日は中国の再ロックダウンへの懸念から再び下落余地を探る展開を予想する。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは続落、豪州原料炭スワップ先物は続落、大連原料炭価格は上昇、上海鉄筋先物は大幅に下落した。

中国長江デルタ地域で再びコロナが発生、安徽省では2つの都市が封鎖されるなど、沿岸部の重要都市で再び不毛なロックダウン政策が行われる見通しとなったことが、需要減少観測を強めた為。

また、7月は季節的にも建設向けの需要が停滞しがちな時期であることも価格を下押しした。

鉄鋼原料・鉄鋼セクターは同じ鉱物資源でも非鉄金属に比べれば投機的な動きの影響を受け難く、需給ファンダメンタルズを反映した価格となりやすい。

弊社は中国政府の対策期待で鉄鋼製品・鉄鋼原料価格は上昇すると見ていたが、リスクシナリオに常に位置づけられるロックダウンが発生すればこの限りではなく、昨日はこのリスク顕在化への懸念が高まった。

本日は、ロックダウンの動きが拡大する可能性が高まっていることから、再び水準を切下げる展開を予想。

◆貴金属

昨日の金価格は買い戻しが入り小幅に上昇。銀も上昇。PGMは株価の調整もあって水準を切下げた。

本日の金価格は、高値でもみ合うものと考える。株価の調整圧力の強まりと、米景気の先行きを懸念して米長期金利に下押し圧力が強まっていることから、実質金利がやや下押しされると考えられる為。

銀・PGMに関しては株価動向次第だが、米国株先物は昨日やや調整気味であるため、下押し圧力がかかる展開を予想。に調整圧力がかかりそうな地合であり、軟調推移を予想。

◆穀物

シカゴ穀物市場は休場。

本日はこれまで、米国の景気減速懸念を背景にエネルギー価格が調整する中で油脂類の価格が下落したが、基本的に需給ファンダメンタルズが緩和している訳ではないことから、買い戻しが入ると考える。

小麦に関しては一時的にウクライナの穀物輸出への期待が高まっていることから軟調推移と考えるが、逆に割安感が出ているため本日は買い戻しが優勢か。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。

・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・渇水に拠る水不足や猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオか)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

◆本日のMRA's Eye


「サーチャージのリスク」

足下の資源価格の上昇を受けてサーチャージ制を導入する流れが強まっている。

通常、生産に関わるコストのうち、エネルギー価格の上昇分を販売価格に上乗せするのは難しく、多くの場合売り手と買い手の間で価格交渉が行われて、値上げ(値下げ)の落とし所を探るというのが一般的だった。

しかし、日本の生産者は現在、吸収仕切れない市場価格の変動リスクに晒され始めている。

少し前のデータになるが総務省の産業関連表を元にすると、エネルギーコストの費用に占める比率は9.7%だが、2021年度の原油価格(TOCOM原油価格)の平均は54,973円/KLだったが、2022年度の平均価格はここまで87,491円/KLと、+59.2%上昇している。

費用に占めるエネルギーの比率が1割程度だとしてもさすがに許容出来る範囲ではない、といえるだろう。

その意味で今回のエネルギー価格や資源価格の上昇分を最終価格に転嫁することは、企業からすれば不可避の情勢にあるといえる。

結局、サプライヤーとバイヤーの間で合意出来れば良いのだが、基本的には市場でリスクマネジメントが可能な価格体系であること、が必要条件だろう。

※もしサーチャージの導入を検討、ないしはサーチャージ制の導入の打診を受けてどう対応するべきかお悩みがある場合や相談があれば、ぜひご相談ください。

しかし、このときに複雑な価格フォーミュラでコスト上昇分を転嫁されるケースが散見され、小さくないリスクになると見ている。

例えばどのような条件があるかというと以下のようなものが上げられる。

「±●●円の範囲に止まっていれば、価格は転嫁しない」

「±●●円を超えていた場合、上昇の場合はその80%を最終価格に転嫁する」

「±●●円を超えていた場合、5円刻みで価格を転嫁する」

「●●新聞に掲載されている価格を参考に算出した価格が●●を超えた場合」

といったものだ。

これだけを取り上げると、頻繁に価格を変更する実務上の負担を軽減する、あるいは販売側・購入側の両者の立場に配慮した価格体系になっているという印象を受けなくもない。

しかし、価格リスクマネジメントの観点からは余り好ましくない価格体系、といわざるを得ない。

「●●の場合」という条件が付いた場合、それは金融的には「オプション制」が内包されていることを意味するからだ。

話を分かりやすくするため、過去にあった具体例を1つ挙げると、日本が長期契約で購入しているLNGの価格は「S字カーブ」と言われる特殊な価格体系が適用されている。

具体的にはリンク先のグラフの通り、原油の価格が上昇するとそのままLNGの価格が上昇するわけではなく、ある一定の水準を超えると価格の上昇ペースが鈍化(LNGの買い手に有利)し、ある一定の水準以上に下落すると価格の下落ペースが鈍化(LNGの売り手に有利)する条件となっている。

これは、買い手にとっては「原油のコールオプションの買いと原油のプットオプションの売り」が「全量ではなく部分的に」組み合わされた条件となっている。

もしこれを先物取引などで一定期間、固定の価格にしようとした場合

(1)「原油のコールオプションを買い戻し、原油のプットオプションを売戻して『LNG=原油×α+β』」という価格体系に直した後

(2)改めてスワップを導入する

必要が出てくる。この場合、(1)と(2)のヘッジコストがかかることになる。

※なおS字カーブの価格体系は減少している。恐らくリスクマネジメントが困難になるためだろう。

ヘッジコストがかかるだけならまだ良い。というのも、リスクヘッジを行った時に企業側はヘッジ会計の適用を選好することが多いが、上述の例だと「1つの原資産のヘッジに(1)と(2)の取引が組み合わせて有るため」この取引は「時価会計」が要求される可能性が高い(公認会計士の判断による)。

1年以内の取引ならまだ良いのだが、2年・3年と年度をまたいだ取引を行った場合、年度で必要な数量の2倍・3倍の時価がその期の損益を左右してしまうことになり、当初の目的(期間損益の安定化など)を達成出来ない可能性が出てくるのだ。

これまでのように価格上昇が一時的なものであり、今後、価格が元に戻るのならばこのような条件でも特段問題はないだろう。

しかし、米中対立に端を発し、ロシアのウクライナ軍事侵攻によって東西の分裂リスクが高まり、脱ロシアや脱炭素の動きが資源調達を困難にする可能性が高い中、資源が高止まりし、さらには変動性も高まる可能性があるため「価格自体」のリスクマネジメントの必要性は高まっている。

その時に、特殊な条件が付いた価格体系でサーチャージが決まることは、コスト面、会計面両面で回避した方が良いだろう。

仮に価格リスクを先物やデリバティブで回避しようと思った場合、売り手・買い手双方にとって不利益となるためだ。

やはり、透明性が高く、市場でヘッジが可能な価格体系でのルール作りを心がけるべきだろう。


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