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景気循環系商品に買い戻し
  • MRA商品市場レポート

2022年6月28日 第2226号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「景気循環系商品に買い戻し」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は原油価格を始めとするエネルギーが上昇、短期的に売られすぎ感が強かった非鉄金属・鉱物資源価格に上昇圧力がかかる展開となった。短期的な「リスク選好」の指標であるビットコインは下落している。

市場の注目は景気そのものに向かっているが、足下発表されている経済統計は、バックミラー的な統計(昨晩の中古住宅販売仮契約件数など)は強弱まちまちであるが、フォワードルッキング的な統計(PMIやISM製造業指数など)は明確に減速感が強まっている。

昨日の、ダラス連銀製造業活動指数は▲17.7(前月▲7.3)と大幅に減速、特に注目すべきは新規受注が▲7.3(3.2)とマイナスに転じた点。FRBが景気を悪化させてでもインフレを抑制する方針であり、需要の先行指標である新規受注の悪化はある意味米中央銀行の政策と整合性がとれている。

問題はこれで需要が減少したにも関わらず、全くインフレが抑制されない場合だ。恐らく価格上昇率の上昇は回避されるが、絶対水準は高止まりするのではないだろうか。これは特にまだデフレ感の強い日本にとっては悪影響である。

また、本日も既に警報が出ているが東京電力管内では節電が呼びかけられている。この状態で夏本番となった場合、国民の生命へのリスクはもちろんだが、恐らく製造業や工場の稼働を止めざるを得ない状況に陥り、景気の下振れリスクが強まることが懸念される。

【本日の見通し】

本日も、現状水準でのもみ合いになるのではないか。市場参加者は循環的な景気減速と金融引締めの影響を意識し始めており、価格には下押し圧力が掛かりやすい。

しかし、半期末を控えたファンドの調整売りの側面も否めず、カレンダーが変わる7月1日以降は売られ過ぎからの反動で上昇するリスク資産が増えるのではないだろうか。

本日発表の統計で注目は米コンファレンスボード消費者信頼感指数。市場予想は100.0(前月106.4)と減速見通しであり、景気循環系商品価格の下押し要因となる。

また、リッチモンド連銀製造業指数も▲5(▲9)とマイナスを維持する見込みであり、価格下落要因。特に、新規受注に関しては前月の数値が▲16(前々月6)と急減速しており、この数値がどうなるかに特に注目している。

【昨日のトピックス】

昨日発表された5月の中国の工業セクター利益は、前年比▲6.5%と前月の▲8.5%からはマイナス幅が縮小した。

工業セクター利益と非鉄金属のベンチマークである銅価格の間には高い相関性が確認されているが、過去データ(3年)を元にした分析では、6月のLME銅価格の前年比上昇率は前年比▲6.1%となり、そのベースで予想すると6月の平均価格は9,000ドル程度になることになる。

しかし、6月の平均価格は現時点で9,200ドル程度であり、この推測値からは+200ドル程度上振れしている。

これは、1.中国のロックダウン解除期待が高かったこと、2.米FRBの利上げが緩やかなものに止まるのではとの期待がしばらくの間、非鉄金属価格を押し上げていたことが数値を上振れさせたと考えられる。

しかし、足下の価格はこの推定値から▲500~▲600ドルは低い水準。今後はロックダウンの解除が始まっていること、中国政府が大規模な経済対策を実施する見通しであることから、回復基調になると期待され、この9,000ドルが目処となる。

しかし、ゼロコロナ政策維持と米国の金融引締め加速、といった政策要因も重なるため、回復の足取りは重いと想定される。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇した。バイデン大統領がマクロン大統領から「サウジ・UAEとも増産余力は限られる」と説明を受けた、との報道や、リビアからの原油輸出停止といったことが材料として意識された。

ロシア産原油の購入価格に上限を設けるというG7の決定は詳細が明らかでないが、ロシア側が合意するとも思えず、影響は今のところなんともいえない。

恐らく、●●ドル、という条件を提示し、それでロシアが売らなければ買わない、ということなのだと思うが、詳細は不明。

「BrentとUralの平均値」は98.1ドルと100ドルを下回っている。実力ベースでは現在の原油価格は100ドル程度、と見るべきだろう。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は2.の状態にあると考えられる。

今回のバイデン大統領の中東訪問で3.に移行することが期待されるが、昨日のマクロン大統領の発言をみるに、逆にサウジアラビアやUAEが増産に応じると「増産余力がなくなる」として逆に買い材料とされる可能性もある。

恐らくこの状況を打破するには、米国の増産が必要になってくるが、クラックスプレッドが空前の水準に達しており、需要も落ちていないため増産せずとも利益が確保出来ること、脱炭素派の動きを受けて製油所のキャパシティの拡大にも慎重になっていること、から、なかなか増産が始まらない。

教科書的には人とモノの確保が出来ないことが要因と整理されるものの、ややうがった見方かもしれないが、環境面に厳しくオイルメジャーを目の敵にしてきたバイデン大統領率いる民主党が「中間選挙で敗北した後に」増産に転じるのではないか。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない Brent 120-150ドル

2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 100-130ドル

3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 90-125ドル

4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 85-120ドル

5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル

7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。OECD諸国の戦略備蓄130万バレル放出は半年の時限付。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的な視点では、以下のような流れが想定される。基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。

2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

現在~Q422 需要の伸び高止まり・供給制限継続・金融引締め加速(→)Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓)      リセッションの場合 (↓↓)Q123~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (↑)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (→)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日も結局、供給面での改善がないことが価格を下支えするが、今晩発表のコンファレンスボード消費者信頼感指数とリッチモンド連銀製造業指数がさほどよい内容にならない見込みであることから、軟調推移を予想。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は上昇した。ロシアからの供給停止、米国からの供給停止でスポット市場の需給環境の改善がない中で、高値を維持した。

これまで順調に増加していた欧州のガス貯蔵施設へのガス注入量は急速に減少しており、夏場は欧州の場合影響が緩和されるにしても、冬場に向けた在庫の積増しは容易ではなくなってきている。

ロシアはガス供給減少は技術的な問題、としてるが、ドイツの在庫が6割に迫り、かつ、LNGの供給が制限されているタイミングでの供給減少であり、明らかにロシアの「嫌がらせ」だろう。

ロシアは「メンテナンスの影響」としているが、ドイツ国内ではメンテナンス終了後も供給が再開しないのではとの懸念が広がっている。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

欧州全体のガス在庫は6月25日時点で56.7%(前日56.3%)と増加。

域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。

仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。

ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかない。

域内の電気供給が一番とりあげられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて、世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.欧州vsロシアの対立(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

日々これらに関わる材料が処理されて価格が動いているが、欧州が脱ロシアを進める方針に変わりはなく、スポットのガス調達を増やして調達構造を変化させる見通し。

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、その後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化、3.も顕在化している状況。

Freeport社のLNG液化容量は全米の16.5%に相当。2020年実績を元にすると、世界のLNG貿易量の4.1%に相当するため影響は大きい。

報道ベースでは部分回復は9月頃、完全回復は年後半とされるターミナルの不稼働に伴う供給リスクが顕在化している状況。

なお、一部の国ではLNGの受入キャパシティ上限まで輸入が増加しており、供給が充分であっても受入側の都合でこれ以上輸入量を増加させるのは技術的に困難とみられる。

これらのリスクが顕在化した場合、自国民の生活や産業に著しい不利益が生じるため、欧州域内からロシア制裁解除の声が高まる可能性はある。米国のLNG供給制限もその動きを加速させるのではないか。

LNGのタンカーレートはスエズ以西・以東とも急落。恐らくFreeportの事故の影響とみられるが、これでほぼ過去5年平均程度まで水準が低下した。

このことは在庫を例年以上のペースで積増ししなければいけないタイミングで、例年程度のフローしかなくなっている可能性を示唆している。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物市場は上昇した。米気温が上昇する見通しであること、週次の在庫統計で米国の天然ガス在庫が低水準のままであることが買いを誘った。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は小幅に下落したがほぼ水準は変わらなかった。

Freeportの供給停止、ロシアの欧州向けのガス供給大幅削減など、スポットカーゴ市場がタイト化する材料は多い。

唯一の救いは中国がロックダウンの影響から脱却出来ておらず、輸入需要がそれほど盛り上がっていなかったこと。

しかし、中国北部は猛暑が始まり、ロックダウンによる景気減速の影響を緩和させる目的で経済対策が大規模に行われる可能性があることを考えると、今後、夏場~冬場にかけての価格リスクは上向きだろう。

なお、期先(2023年以降)の価格の高止まりはLNG市場の構造変化を反映したものであり、脱ロシアが完了し、ロシアのガスが「浮く」状態になってからは再び水準が切り下がると考えているが、それはまだ先のことになる見込み。

6月19日時点の日本の発電用LNG在庫は229万トン(前年同月末204万トン、過去4年平均195万トン)と増加し、例年の在庫水準を上回った。なお、弊社集計データによる過去5年平均との比較では、まだ例年のレベルを回復していない。

今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の供給不足のリスクは小さくなく、実際、政府は夏場の省電力を要請している。

6月6日~6月12日のLNGトレードだが、取引量は700万トン(前週731万トン)と減少した。スポット取引のシェアは26%(前週31%)と低下した。

スポット契約はJKTC(日本、韓国、台湾、中国)向けが▲27万トンの減少となった。主に韓国の輸入が減少したことによるもの。

欧州向けもポーランドやクロアチアの輸入が減少したことで▲32万トンの減少となった。

一方、ターム契約分の調達は、JKCTで+55万トンの増加。主に中国向けであり、恐らくロックダウンが解除されることに伴う夏場の需要期に向けての調達と考えられるが、再びロックダウンの懸念が強まっているためなんともいえないところ。

欧州のLNG輸入は114万トンに達したが、前月の同時期からは▲21%低い水準。カタール・ロシアの供給減少を米国の輸出が相殺した。

本日も供給面で消費者にとって状況が改善すると考え難く、日欧の天然ガス価格は高値維持の公算、HHは現状水準でもみ合おう。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。

◆石炭

豪州石炭スワップは上昇した。G7で現状の需給タイト化を緩和するような対策がすぐに打ち出せる訳ではなく、中国が猛暑となっていることに伴う国内供給不安、欧州の石炭輸入増加観測を受けて高値での推移となった。

ガス供給が制限され、原子力やその他のエネルギーの使用増加も期待できない中では、比較的資源が偏在している石炭は代替燃料となりやすい。

なお、中国政府は国内石炭販売価格に上限を設定しているが、国内価格の方が水準が低いため海上輸送炭市場への影響は限定されている。

基本、石炭とガスを「価格を見て切り替える」ことができる発電業者は限られるものの、Freeport問題やロシアのガス供給減少などの報道を受けたLNG・ガス価格の上昇で、カロリーベースの割安感が出たことや、豪州の寒波の影響による石炭輸出の減少懸念(発電燃料の主力は引き続き石炭)が価格を押し上げている状況。

中国政府は2022年の石炭生産目標は昨年12月の過去最高水準を上回る1,260万トン/日(3億9,060万トン/月)に設定しているとされ、これが達成されるとほぼ輸入が不要となる。

なお、5月の中国の石炭生産は、前年比+12.7%の3億6,800万トン(1,187万トン/日)と、前月+12.6%の3億6,300万トン(1,209万トン/日)からは減速してる。

また、5月の燃料炭輸入は前年比▲22.0%の1,055万8,000トンと減少している。ロシアからの輸入は+92万トンの増加となったが、インドネシアからの輸入が▲96万トン、カナダからの輸入が▲16万トンの減少となったことが相殺した。

ロックダウンの影響で輸入需要が減少していると考えられるが、1.中国政府はロックダウン時の景気減速を取り返すべく、大規模な経済対策を実施の方針であること、2.懸念していた猛暑が既に北半球で始まっていること、3.南半球は寒波の影響を受けていること、から国内供給では不充分であり、海上輸送炭市場がタイト化する可能性は高まっている。

日本も今年の夏は猛暑見通しであり、石炭価格の高騰が電力会社の業績を圧迫するのみならず、逆ざや発生に伴う電力供給制限が起きる可能性も意識しなければならない状況。

温室効果ガス対策を施していない石炭火力を根絶する方針だった欧州も、背に腹は変えられず、電力供給不足を補うために休止予定だった石炭火力発電所を利用する方針を表明しており、構造的な石炭需要は底堅く、価格を高値に維持するとみる。

米国でも夏場の電力供給不足への懸念が指摘されていたが、Freeportの事故の影響もあって結果的に域内供給が間に合う可能性は出てきた。結局、ほとんどの資源に恵まれる米国は強いと言わざるを得ない。

本日も発電燃料供給を巡る環境の改善がない中で、ガスが政治的な理由と不慮の事故により供給不安となっていることから石炭価格は高値維持の公算。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は大幅に続落した。市場参加者の注目は最大消費国である中国の経済活動の再開具合に注目しており、足下、経済活動の大幅な回復が確認されていないことから、これまで、コロナショック以降の価格上昇を牽引してきた一因であるファンド勢の四半期末を意識したポジション調整売り圧力が強まっている状態が続いている。

非鉄金属セクターは目立った固有の材料に乏しく、金融市場動向に左右される展開が続いている。今回の大幅下落は中国のロックダウンからの立ち直りの遅さ、7月中にも再び上海でロックダウンがあるのでは、との懸念、6月末の半期末を控えた投機筋の利益確定の動き、が作用している。

テクニカルに売られすぎを示す指標であるRSI指数を見ると、銅と亜鉛、スズは短期的な売られすぎを示しており、それだけでもテクニカルに買い戻しが入りやすい。

恐らく今後は短期・中期・長期でかなり値動きが変わってくると考えられる。まず最も気にすべきは長期のトレンドだが、脱炭素、脱ロシア、インドの人口ボーナス期入り、といった材料を考えるとやはり鉱物資源需要は増加し、価格には上昇圧力が掛かりやすい。

中期的には景気の循環によって、恐らく来年のQ123・Q223あたりが景況感の底になると考えられることから調整圧力が掛かることになる。

ただし、世界景気が在庫の投資循環サイクル通りに起きるのであれば、特段政府が対策を行わないとすると、景気後退入りはQ323からとなり、この場合はQ124に回復基調に戻る展開が想定される。

今はむしろ、欧米の調査機関はこちらのシナリオを支持しているようだ。

一方、上述の通り非鉄金属は全体的に売られすぎであり、株価やインフレ率との連動性の高さを考えると足下の価格変動のドライバーは金融面、と考えるのが妥当であり、恐らく一旦は買い戻しが入りやすい。

これらに中期的な要因として中国の経済対策(インフラ投資にかなり傾斜する見込み)を考えると、年内後半に掛けては戻りを試す展開になるのではないか(その後下落→上昇)。

本日は目立った手がかり材料に乏しいが、売られ過ぎからの買い戻しと、四半期末を意識した売りで堅調ながらも上値が重い展開を予想する。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は続落、大連原料炭価格は下落、上海鉄筋先物は上昇した。

中国経済が徐々に活動を再開すると期待される中で鉄鋼製品価格が上昇、在庫水準の低さから鉄鉱石の調達圧量が強まったことが価格を押し上げた。

原料炭は中国国内の在庫水準の低さから水準は高値を維持しているが、海上輸送炭(豪州炭)価格が中国の大連先物価格を下回った。恐らく、豪州からの輸入を事実上禁止していることから、国内生産の増加はあるものの、供給が間に合っていないと考えられる。

本日は、中国の経済活動の再開期待を受けた鉄鋼製品価格の上昇を受けて、堅調な推移を予想する。ただし中国の公共投資の実施まで「戻りを試す」程度であり上昇余地も限定か。

◆貴金属

昨日の金価格は総じて軟調な推移となった。米長短金利が上昇し、実質金利が上昇したことが価格を下押しした。ただしドル安が進行したことでリスク・プレミアムが上昇、この下落分を相殺した。

金の基準価格は1,115ドル(前日比▲33ドル)、リスク・プレミアムは707ドル(+29ドル)

銀価格もほぼ金と同じ相場展開だったが前日比変わらずで引け。PGMも同様だったがプラチナが結果的に前日比プラス、パラジウムはマイナスで引けた。

G7がロシア産の金購入禁止を打ち出したが、既に外貨決済出来ないためロンドンで売却できるわけではなく、現状追認の形式的な制裁、と考えるのが適切だろう。

現状、ロシア産の金は中国やインドに相対で販売するしかなく、今後この制裁の影響が出るとすればインドが協力するかどうかだが、恐らく西側諸国に協力はしないだろう。

ただ気になるのが、象徴的という意味でプラチナやパラジウムなどのその他の鉱物資源で報復的な措置を行う可能性があることだ。

ロシアの輸出の内訳はロシア側のデータ開示が止まってしまったため、はっきりしないが少なくとも日本はロシアからパラジウム購入を継続しており、中国なども同様である。

中国はロシア産の金属購入を止めることはないと思うが、ガスでロシアがやっていることを考えると、ロシア側が日本や西側諸国向けの輸出を「短期的な嫌がらせ」で絞る可能性はありえる。

本日の金価格は、ロシア情勢の不安はあるものの、それ以上に金融政策動向が価格に影響を及ぼしていることは事実であり、足下、米金融引締め強化と、それを既に意識した景気の減速による金利低下圧力がせめぎ合う形となっており、方向性が出難い。

銀やPGMも足下は株価に一喜一憂の状態で、恐らく本日も現状水準でのもみ合いとなろう。

◆穀物

シカゴ穀物市場はトウモロコシと小麦が下落、大豆が上昇した。

トウモロコシは米農務省が作付見通しを上方修正するとの見方が強まっていることが価格を圧迫したようだ。大豆は逆に作付面積が意向面積を下回る見通しであることが買い材料視された。

小麦は冬小麦の収穫進捗によるハーベスト・プレッシャーに押された。ただしテクニカルには短期的な売られすぎを示す水準まで低下、かつ200日移動平均線のサポートラインまで切下げているため、今後はテクニカルに買い戻しが入りやすい。

日本時間の7月1日未明に発表される最終作付面積は8,977万エーカーと、3月末に発表された作付意向面積である8,949万エーカーから若干上方修正の見込み。

同様に、大豆の作付面積は、意向面積が9,096万エーカーのところが9,060エーカーに減少すると予想されている。小麦に関しては4,735万エーカーが4,697万エーカーへの減少が見込まれている。

週明け月曜日は、作付面積の発表を6月末に控えて様子見が強まると予想される。ただし、下落したとは言っても、肥料やエネルギーの価格はまだ高いことから、コスト面で穀物価格は支持されると見る。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済(特に、中東、北アフリカ、東欧、中南米など)に打撃を与える可能性。

・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・渇水に拠る水不足や猛暑厳冬、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足、ロシアの意図的な供給指定(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、緩やかな新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(既にメインシナリオか)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

◆本日のMRA's Eye


「商品価格の「値幅」拡大のリスク」

商品価格はかなり調整したが、それでも20年前の中国の国際市場参入前の水準よりは遙かに高い。

中国の国際商流への参入により、割安だった商品価格の水準訂正が起きた訳だが、これによって「高い価格変動性」がもたらされることとなった。リンク先のグラフは主要商品の「過去3ヵ月の値幅」の推移を示したものである。

例えばある年の1月~3月のBrent原油 価格の最安値が100ドルで、高値が110ドルだった場合、値幅は10ドルと計算される。この値幅はリーマン・ショックにかけて大きく拡大し、その後一旦値幅は低下する。

その後2014年のOPECショックで再び値幅が拡大、その後比較的安定していたが、米中対立~コロナショック頃から急上昇している。

銅の値幅も縮小してきたが、やはり米中対立激化~コロナショックに掛けて拡大基調を強めている。

この動きは

1.供給制限の中の景気回復に伴う需要増加

2.異常気象やコロナの影響によるサプライチェーンの混乱継続

3.インフレ沈静化のための金融政策動向を巡る思惑

4.ロシアのウクライナに対する軍事侵攻を背景とする制裁(政治的な意図で供給制限や代替品の需要が増加する)

5.2~4を踏まえたリスクオフの流れ

6.価格変動性の高さを背景とする証拠金の引き上げ、米金融引締めによる流動性の低下、

などの複合要因によるものだ。値幅拡大局面序盤は供給不足による高騰が、後半は需要の減速による下落が「値幅の源泉」といえる。

そして、原油、銅に共通して言えるのは「商品価格の絶対水準が大きく上昇した」ことで「商品価格が取り得る値幅の絶対値が大きくなっている」点だ。

つまり、価格の変化率が20%で変わらなかったとした場合10ドルの時の20%の変化は2ドルであるが、100ドルの時の20%の変化は20ドルということだ。

株などのように「投資収益率」が重視される市場商品と異なり、商品はより絶対価格水準が重要である。特にデフレ下にあった日本の消費者にとってはその上昇/下落率よりも絶対価格水準がより重要だったのは想像に難くない。

今後、価格の変動性が高いままであれば、証拠金の引き上げを通じてさらに流動性が低下してさらに変動性が増す、という悪循環に陥る可能性もある。

商品価格の絶対水準が上昇する中での高ボラティリティ維持は、企業にとっては非常に難しい運用を迫られる。今が安値かと思って値決めを行ってもその後再び急落することもあるからだ。

このとき、どのような理由でその水準でのヘッジを行ったかに関し、会社として統一の方針や見解を持っておく必要がある。「相場予想に基づく実施」は投資であり、ヘッジではない。

相場予想はあくまで最後の値決めの際の参考、という位置づけにするべきだろう。

やはり、会社としてどの水準であれば利益の確保が可能であるかの合意を得た上で、粛々と値決めをするのが望ましい。その「意思決定が出来る」社内体制の構築が必要なのではないだろうか。


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