リスク選好回復で総じて堅調
- MRA商品市場レポート
2022年5月24日 第2201号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「リスク選好回復で総じて堅調」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品市場は株価が大きく上昇する中で景気循環系商品価格が広く買い戻しで上昇し、その他農産品など商況で物色されていた商品に利益確定の売りが出たが、総じて堅調との印象。
昨日最も大きく上昇したのは今年の夏の電力不足が指摘され、かつ、足下の気温上昇が懸念されている米国の天然ガス。これまで米国の天然ガスは「国内供給過剰でその他の地域の天然ガス価格とは異なる動き」をするのが通例だったが、ロシア問題を背景に米国ガスが世界のLNG・天然ガス市場に組み込まれた感があり、対欧州ガスで割安なことも価格を押し上げる要因となっている。
なお、昨日日米首脳会議が行われたが、これまでの社交辞令的な日米首脳会談とはやや趣が変わり、日本が米国の同盟国であることを、米国側が強く意識していることを確認する会談だったといえる。
ただ、日本は、成熟した民主主義国家として米国と対等とは言わないまでも、軍事・防衛力を引き上げ、経済面では半導体を中心とする同盟国内でのサプライチェーン構築を確固たるものにするための全面的な協力を要請されたともいえる。
恐らく今年の夏の選挙でも、経済対策が議論の中心になることは間違いがないが、日米関係やアジア地域の安全保障などが重要な論点になるだろう。
【本日の見通し】
本日は、前日の上昇が顕著だったこともあり一旦、利益確定で売られる商品が多いと予想する。
本日は、クアッド首脳会合に注目している。
ウクライナ・ロシア問題への言及に注目が集まるのはもちろんだが、インド・太平洋の防衛に関してどのような議論がなされるかにも注目したい。
特に伝統的に中立政策を取ってきたインドがどのようなスタンスを取るかは、今回の会合の重要なポイントの1つだろう。
この他予定されている材料では各国の製造業PMIに注目している。各国とも減速が見込まれているが大幅な変化にはならない見込みでありむしろ「金融引締め加速観測」を後退させ、価格の上昇要因になるのではないか。
5月日本製造業PMI 結果53.2(前月53.5)5月ユーロ圏製造業PMI 市場予想 54.7(前月55.5)5月独製造業PMI 54.0(54.6)5月米製造業PMI 57.7(59.2)
【昨日のトピックス】
昨日、日米首脳会談が開催され、多くのことが決定されたと報じられている。しかし冷静に決定内容を見てみるとこれまでの条約の延長線で内容を再確認した、というほうが適切かもしれない。
まず、日米安保については条約通り日本を防衛することをバイデン大統領は表明した。これはこれまでの大統領の発言と変わらない。
しかし、日米安保は敵国のNATO加盟国への行動は米国への攻撃と見做して報復する、とするNATO条約とは異なり、日米とも議会の承認を得る必要があるため、NATO条約からは劣後した防衛協定のままである。
ただ、これを変更した場合中国の反発が必至であり、時間もないことからこれを現在のタイミングで踏み込む必要はないという判断でこれまでの延長線上の発言に止めたといえる。
ただ、日本は米国の要請を受けて軍事費を増加させることを約束しており、今後、これを受けた中国の「嫌がらせ」は加速することが予想される。
いずれにしても日本は周辺諸国の武力行使に対する防衛能力を「今まで以上のペース」で増強していく必要があることは間違いがなく、こちらに舵が明確に切られたといえるだろうか。
なお、台湾有事には軍事行動を取る、とバイデン大統領は回答したが即座にホワイトハウスは「これまでの台湾政策に変更はない」としてこれを否定してるため、バイデン大統領の失言癖が出たものと考えるのが適切だろう。
もう1つバイデン大統領が苦肉の策でひねり出したIPEF(インド太平洋枠組み)」に日米とも参加することを確認。これは台湾有事があった際に、中国抜きで半導体供給を確保出来るサプライチェーンを確立することが裏の理由であり、有事対象国でありかつ、一つの中国政策を支持している米議会からすれば、今回の枠組みには台湾を入れる訳にはいかなかった。ようだ。
となると、現在日本に台湾のTSMCの工場を誘致するなど「万一のバックアップを同盟国内で構築する」という動きが今後、加速すると考えられる。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は期近が小幅に上昇、期先が比較的大きく上昇した。株価上昇やドル安進行にともなうリスクテイクの再開によるものと考えられる。
やや気になるのが昨日は期先の価格上昇幅が大きかったこと。これまでの価格上昇時はまず期近の価格が上昇し、その価格が余り変わらなく高値を維持し続けると徐々に期先にも買いが入り、高い水準でコンタンゴに転じることが多かったからだ。
コンビニエンス・イールドの効果はあるものの基本、期先の価格はスポット価格+倉庫保管料+金利コスト、で決定されるため。
今後の展開でやや気になっているのが、OECDで協調放出した原油の「在庫再積増しが即時に行われるかどうか」。現状を考えると先送りされることになるとは思うが、仮に価格が下落していて、やはり在庫積増しとなれば価格の上昇要因となる。
なお、掘削~生産開始までのリードタイムが1年程度に長くなってしまったシェール・オイル生産だがリグの稼働状況などをみるに、恐らく増産が始まるのは年後半以降になると予想される。
今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は2.のステータスにあるが、場合によると3.に移行する可能性がある。
<シナリオ別原油価格見通し>
1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない(ないしはその可能性が強く意識される) Brent 120-140ドル
2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 95-125ドル
3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 90-120ドル
4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 85-120ドル
5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-105ドル
↑ 上記は停戦が行われない場合のシナリオ
↓ 下記は停戦が行われた場合のシナリオ(現在は徐々にこちらに移りつつある)
6.ロシアがウクライナから撤退するが原油の脱ロシアが進むBrent 95-115ドル
7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-100ドル
8. 脱ロシア完了(東西諸国の分裂が発生した場合)Brent 60-90ドル
9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル
※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。OECD諸国の戦略備蓄130万バレル放出は半年の時限付。
※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。
本日は昨日の反動で株価が調整すると考えられ、景気循環系リスク資産には売り圧力が強まる展開が予想される。ただし、需給バランスの大きな改善(緩和)がないことから、下げ幅も限定されると見ている。
◆石炭
豪州石炭スワップ先物価格は期近がほぼ変わらずだったが、全ゾーンパラレルに水準を切下げた。
特段固有の材料はなく、中国の在庫不足、熱波の影響でやはり在庫が充分ではないインドの調達圧力の高まりなどから絶対価格水準は高い。
なお、熱量換算ベースでの回帰分析を行うと、石炭価格は過去の価格の関係性と比較した場合原油・天然ガスから大きく上方に乖離しており、需要面というよりは供給面の問題が価格を押し上げていると考えられる。
中国は、以下の理由から引き続き石炭不足・電力不足が発生する可能性を懸念しているが、恐らくこのリスクは顕在化しており、最早可能性ではない。
1.ロックダウンの影響
2,コロナの影響による燃料輸送の障害
3.異常気象による水力発電の不足
4.電力価格に制限が設けられていることによる石炭生産の阻害
中国政府は2022年の石炭生産目標は昨年12月の過去最高水準を上回る1,260万トン/日(3億9,060万トン/月)に設定しているとされ、これが達成されるとほぼ輸入が不要となる。
なお、4月の中国の石炭生産は、前年比+12.6%の3億6,300万トン(1,209万トン/日)と前月の+16.1%の3億9,600万トン(1,277万トン/日)からは減少している。
結局、海上輸送炭の輸入需要は昨年までよりは低下しているものの、完全に不要という訳ではない。4月の国別の燃料炭輸入はインドネシアからの輸入が前月比+191万トン、ロシアが+43万トン、カナダが13万トン増加している。
結局、ロックダウンは中国の電力需要を減じるものの、生産も制限するため海上輸送炭市場をタイト化させているといえるだろう。
日本も対岸の火事ではなく、今年の夏は猛暑が予想されているため、石炭価格の高騰が電力会社の業績を圧迫するのみならず、逆ざや発生に伴う電力供給制限が起きる可能性も意識しなければならない状況。
また、夏場の電力供給不足のリスクは米国でも指摘されており、北米電力安定供給審議会(NERC)は、米国では五大湖周辺から西海岸に掛けて猛暑や干ばつなどの影響で電力不足に陥るリスクに警鐘を鳴らしている。
本日も需給環境に大きな変化がない中、石炭は高値を維持する公算。中国のロックダウン解除への期待が高まっていたが、再び感染拡大が指摘されているため、本日もやや軟調な推移を予想。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物市場は下落した。不需要期にあること、欧州もインフレを警戒して利上げ・金融引締めの可能性が高く、景気減速が需要を減じるとの見方が強まっていること、ロシア制裁といいつつもロシアからのガスフローがこれ以上減少する感じではないこと、などが材料となり、徐々に水準を切下げてきている。
しかし、脱ロシアを進める方針に変わりはなく、スポットのガス調達を増やして調達構造を変化させるのであれば、「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持する、というのが道理だろう。
LNGのターミナルを持たない域内最大のエネルギー消費国であるドイツは、
1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減
によってガス在庫を積み上げるしかないが、結局その大半はロシアからの輸入に頼らざるを得ない。なお、欧州全体のガス在庫は19日時点で41.7%(前日41.2%)と順調に在庫が積み上がっている。
米国天然ガス先物市場は大幅に上昇。そもそも在庫水準が低い上、原油の増産が遅れていることに伴うガス供給の低迷もあり、さらに北米電力安定供給審議会(NERC)は、五大湖周辺から西海岸に掛けて猛暑や干ばつなどの影響で電力不足に陥る可能性を指摘しており、天然ガス需給が逼迫した状態が続く、との見方が価格を押し上げた。
JKM先物は期近と今冬の期先の価格が上昇した。発電業者のLNG在庫の水準が低いことから今夏・今冬向けの構造的な調達圧力が高い状況は続いている。
足下は景況感の悪化もあって最大輸入国である中国の輸入需要が鈍化、スポット価格に低下圧力が掛っているが、構造的な調達圧力の強まりに大きな変化はなく、特に今冬の価格は高止まりしている状況。
5月15日時点の日本の発電用LNG在庫は213万トン(前年同月末194万トン、過去4年平均198万トン)と先週から増加した。今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の供給不足のリスクは小さくない。
5月9日~15日のLNGトレードだが、取引量は740万トン(前週836万トン)、スポット取引のシェアは27%と前週の25%から上昇した。
スポット契約は日本・韓国・中国・台湾の輸入が前週比▲25万トンの減少、一方、北欧・イタリアの輸入が+16万トンの増加となった。
長期契約ベースの輸入は、日本・韓国・中国・台湾向けの輸出が+81万トンの増加となった。主に中国と日本の輸入増加(+81万トン)によるもの。一方、北欧とイタリアの輸入は▲52万トンの減少となった。
本日も目先の調達圧力の低下から日欧の天然ガス価格はやや軟調に推移しようが、米国のガス不足の可能性も出てきたため供給ソースが限られることから下落余地も限定されると考える。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。
◆非鉄金属
LME非鉄金属価格は上昇した。中国政府が景気刺激のために6分野33項目に及ぶ経済対策実施の方針を固めたことからリスクテイクが再開され、割安となった非鉄金属にも解が入った。
報道では中国国務院は税還付の規模を1,400億元超上積みするほか、乗用車購入税の負担も600億元削減することを決定している。先週、中国人民銀行の貸出金利引下げを決定しており、中国政府は5.5%の経済成長目標達成のための「下準備」を始めたと考えられ、ロックダウン解除後の一時的な経済活動の加速の地合が整いつつある。
ただこれは、夏の北戴河会議を睨んだ習近平国家主席の戦略であり、バブルを助長するつもりもないと考えられることから、年後半に掛けて再び水準を切り下げるとの見通しを現時点では大きく変更する必要はないと考えている。
本日も買い戻しで上昇してもおかしくないと考えられはするものの、昨日の上昇が大きいこと、再び感染が拡大しておりロックダウンが拡大する可能性も出てきたことからむしろ今日は下落するとみる。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップはまちまち、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は上昇、上海鉄鋼製品先物は直近限月が下落、中心限月が上昇した。
中国政府が景気刺激策を積極的に行う方針を示したことで期先の鉄鋼製品価格は上昇したが、足下、再びコロナの感染が拡大、ロックダウン対象地域が拡大するとの懸念が鉄鋼製品価格を押し下げ、鉄鋼原料価格の上値を抑えた。
結局、経済対策を行っても同時にロックダウンというブレーキを踏んでいる以上、政策効果が相殺されてしまうことになる。
ただ、中国の鉄鉱石在庫の水準は低下しており、原料炭の唐山市京唐港の港湾在庫の水準も低く、今後の経済対策実施を考えるとこれらの在庫積増し圧力は今後高まることになるだろう。
本日はロックダウンと経済対策期待、ロックダウン解除後を睨んだ在庫積増しの動きで鉄鋼原料価格は上昇余地を探る展開を予想。
◆貴金属
昨日の金価格は上昇した。株式市場でリスクテイクの動きがみられる中で長期金利が上昇、実質金利の低下で金の基準価格は低下したが、ドル安が進行したことで(▲1%程度)名目ドル価格が上昇した。
弊社のロジックではリスク・プレミアムの中にドル指数の変化が反映される形になっている。
銀も金価格の上昇を受けて小幅高(今後の見通しについては5月23日付けのMRA's Eyeをご参照ください)。より工業金属としての色彩が強いプラチナも上昇、パラジウムは中国の景気刺激策を材料に大きく上昇している。
本日は各国の製造業PMIが発表されるが、中国以外の国々のPMIは緩やかな減速基調でありむしろ株価の上昇要因になると考えられ、金銀価格は軟調、PGMは上昇すると見る。
◆穀物
シカゴ穀物市場はまちまち。
トウモロコシ価格は上昇した。リスクテイクでドル安が進む中、50日移動平均線を巡る攻防となり、この水準でサポートされた。
逆に大豆は50日移動平均線のサポートを試す展開で水準を大きく切下げ。そもそも価格水準が高いこともあり、作付の進捗期待などで売りが入りやすかったようだ。
小麦は上昇。作況に大きな変化はなく、熱波の影響で生産が減少するみられるインドなど、世界的にも供給への懸念が強まっていることが材料。
本日も穀物需給に関わる状況は大きく改善しないとみられ、総じて堅調に推移すると予想する。ただし朝方発表の作付進捗ではトウモロコシ・大豆とも大幅に作付が進捗しているため、これら2種の穀物の上値は重いと考える。
※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。
・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。
・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・米中対立激化にロシア問題も加わり、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。
・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・ロシア・ウクライナの衝突の影響が長期化し、欧州を中心に景気が減速する場合。
また、ロシアに対する制裁がロシアが主要生産地である商品の供給を制限し、価格を押し上げ、景気を悪化させるリスク(価格下落要因)。
ウクライナへの侵略戦争は長期化がほぼ確実であり、景気下押し要因となるという展開はメインシナリオとなる可能性。
・ロシア国債のデフォルトや、ロシアからのビジネス撤退が企業や信用市場に大きな影響を与え、クレジットクランチ(信用収縮)が発生する場合。
・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。
・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。
◆本日のMRA's Eye
「中国景気刺激で鉱物資源価格上昇か」
中国ではコロナのオミクロン株の感染が拡大、といっても他国と比較した場合は感染者数は少ないが、「ゼロコロナ」政策にこだわるが故に、ロックダウンの動きは苛烈で、経済活動に大きな影響が出ている。
特に経済規模が大きな沿岸部でのロックダウンが顕著であり、まだ感染拡大は終息していない状況。
中国の主要省・都市のQ122のGDP成長率を見てみると、内陸部の成長率が5.4%、中国全土の平均が4.8%であるのに対し、沿岸部の主要省・地域の成長率は4.7%に止まっており、ロックダウンの影響が小さくないことが伺われる。
しかし、3期目を目指す習近平国家主席がこの状況を放置するとは考え難いこと、景気の減速は逆に政治的に対立する共青団(李克強陣営)の発言権を高め、3期目に突入した場合の政策自由度が低下する可能性があること、などを考えると6月にはロックダウンを解除し、景気刺激に舵を切ると予想される。
ただ、沿岸部の感染が内陸部に広がり、ゼロコロナ政策の方針を堅持した場合、中国も経済がオーバーキルとなり、貿易面などで繋がりが深い欧州の景気下押し要因となり得るため、注意が必要である状況に変わりはない。
この間の中国の景況感の悪化は不可避で、製造業PMIはこの2ヵ月顕著に悪化している。特に中小企業の景況感悪化が著しかったが、現状は大企業の景況感も悪化しており、国民の「不満」が高まっている状況といえるだろう。
この状況を改善するために預金準備率の引下げを段階的に行い、特に中小企業向けの資金繰り支援策に力を入れるため、長期貸し出し金利の引き下げも決定した。
しかし同時に2020年から続けている住宅市場などの過熱沈静化も同時に行っているため、「アクセルとブレーキ」が同時に踏み込まれている状況であり、政策効果は相殺されている。
中国政府は2022年の経済成長目標を5.5%に設定している(IMF見通しは4.8%)が、2020年から始まった住宅セクターの加熱沈静化策の影響が顕在化していること、ロックダウンの影響が長期化していること、ロシアのウクライナ侵略戦争の影響で物流に影響が発生、資源価格も上昇する中で企業業績に悪影響が出ていると考えられること(企業物価の上昇と消費者物価の低迷)から、この目標達成は困難ではないか。
共産党政権はは2021前年比で経済対策を積増しするが、2020年の規模は下回る見通しだ。
ロックダウンや景気刺激、住宅市場加熱沈静化と住宅セクター刺激、といった相反する政策を同時に行う中では、この目標を達成するのは容易ではない。
とはいえ、8月頃とみられる北戴河会議までに習近平政権はある程度経済活動の回復を確実にしておく必要があるため、その後がどうなるかは置いておいてこの1~2ヵ月は景気刺激に舵が切られ、これまで特に売り込まれてきた工業金属価格は一時的にでも上昇余地を探る動きになるだろう。
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