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景気の先行き懸念で軒並み下落
  • MRA商品市場レポート

2022年6月23日 第2223号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「景気の先行き懸念で軒並み下落」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は一部の商品を除いて下落した。米国の金融引締め加速方針を受けて景気自体に市場参加者の注目が集まる中、パウエル議長が議会証言でリセッション入りを否定しなかったことで、さらに景気への懸念が加速、景気循環系商品価格を押し下げ、さらには株価の下落がその他のリスク資産価格も押し下げることとなった。

昨日、価格が上昇しているのは実際に需給がタイトな石油製品や発電燃料の他、景気に連動し難いコーヒーや農産品の一角、自国通貨建て商品が上昇した。

これまで米金融引締め、それに伴うドル高進行、円独歩安、という流れになっていたが、米国の景気が悪化する見通しであれば今度はドル安圧力が掛かりやすい。これは弊社の為替見通しに沿った動き。

しかしこの10~20年の間に、次代の成長を担う新しいビジネスや産業が日本で拡大しているという訳でもなく、中国のみならず日本も人口動態の減速も確実であることから、その国の相対評価である通貨はやはり下押し圧力が掛かりやすい。

そのことを考えると、グローバルリセッションとなって円が自国に回帰するようなことが起きる、というリスクシナリオを前提としなければ、大幅な円高方向へのシフトは考え難い。

しかし、GDPの6割が個人消費である日本としては、現状、国際商品相場の上昇に加えて、円安進行による「プラスαのリビングコストの上昇」は、所得環境が大きく変化していない中では耐えがたい苦痛であり、多少の円高シフトは慈雨となる。

とはいえ、円安基調に大きな変化がない中で、インバウンドや海外からの投資促進、といったことをいかに考えるかが重要になるが、選挙も控えており政治的にドラスティックな動きを期待するのは難しいのではないか。

【本日の見通し】

本日も景気に焦点が当たる中、軟調な推移になる商品が多いと考えられる。しかし、商品市場の場合実需家がメインプレイヤーであるため、価格高騰時期に充分に調達が出来なかったところが「買い下がる」可能性は高く、一旦買い戻しが入る商品(特に景気循環系商品)は多いのではないか。

また本日もパウエル議長の議会証言が予定されているが、昨日「リセッションリスク」を指摘したため、本日もその点に質問が集中する可能性があるため、やはりリスクは下向き、といえる。

そのほか注目材料は、景気の先行指標である各国PMIに注目しているが軒並み低下見通しであり、景気循環系商品価格の下落要因に。

6月独製造業PMI 市場予想 54.0(前月54.8)独サービス業PMI 54.5(55.0)

ユーロ圏製造業PMI 53.8(54.6)ユーロ圏サービス業PMI 55.5(56.1)

米製造業PMI 56.0(57.0)米サービス業PMI 53.3(53.4)

【昨日のトピックス】

昨日、ドイツ銀行のCEOとシティバンクなどが世界景気のリセッションリスクについてコメントしている。

ドイツ銀行のCEOは中国のサプライチェーンの崩壊や、食料問題の値上がりが個人消費や世帯を直撃、世界経済へのリスクが高まっていることを指摘、そしてリセッション入りの確率を50%とした。

シティグループのエコノミストも50%の確率でリセッション入りするとしており、理由はほぼ同じだが、上記に加えて、インフレ抑制のための金融引締めが影響していると指摘している。

インフレは世界的に消費税が引き上げられているのと同じ効果をもたらし、消費国から資源国への所得移転を促す。資源国がこの状況で各国の株式市場に投資をして得た資金をある意味還元するならば、その影響は緩和される。

しかし、同時に食糧問題や消費国の経済減速は資源国にも跳ね返ってくるため、結局ここで得た資金は輸入インフレ抑制などの国内政策に向かわざるを得なくなる。ここに失敗すれば暴動が起きるため、非常に難しい。

デフレで暴動が起きるのは資源国だが、インフレはほとんどの国で治安の不安定化をもたらす。その観点では景気が悪くなったとしても金融引締めを加速させるという動きはある意味理にかなっている。

今回は2000年頃の状況に似ているが、あのときは2002年頃から中国経済が勃興して、金融引締め後の景気後退を乗り越えることが出来た。しかし最早中国にその体力はない。

今のところ2023年は「腰だめの年」で2024年以降に景気回復(ないしは米大統領線を控えて景気刺激策が施行される)というのがメインシナリオであるが、景気回復が想定よりも遅れるリスク(景気牽引の担い手不在)の高さは、今回のリセッションの度合いに依拠することになるだろう。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は下落した。米国の金融引締め加速に伴うリセッションリスクが「メインテーマ」となりつつある中、昨日も水準を切下げる展開となった。

これまでドル高にも関わらず原油価格が上昇していたが、昨日に関しては「米国の景気の先行きへの懸念から、ドル安・原油安」が同時に起きている。

ただし供給面の制限もあって下値では実需と思しき買いが入り安く、Brentは100日移動平均線のサポートラインを維持した。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は2.の状態にあると考えられる。

今回のバイデン大統領の中東訪問で3.に移行することが期待されるが、OPECプラスの結束を優先すると考えられるサウジアラビアやUAEが、米国の増産要請にどの程度応じるかは全く不透明。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない Brent 120-150ドル

2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 100-130ドル

3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 90-125ドル

4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 85-120ドル

5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

6.ロシアがウクライナから撤退Brent 95-120ドル

7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

8. 脱ロシア完了(西側諸国+OPECで完全にロシア産原油代替可能の場合)Brent 60-90ドル

9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。OECD諸国の戦略備蓄130万バレル放出は半年の時限付。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

長期的な視点では、以下のような流れが想定される。基本的には下りのエスカレーターに乗る中で、供給面の材料が価格を高止まりさせる、という見通し。

2024年以降は、現在のインフレ抑制がどの程度進むか、脱ロシアがどのような形で収束するか、に依拠するためまだなんともいえないところ。

現在~Q422 需要の伸び高止まり・供給制限継続・金融引締め加速(→)Q422~Q123 需要の伸び減速・供給不足期 (↓)      リセッションの場合 (↓↓)Q123~Q423 需要減速底入れ・供給回復期 (↑)2024年以降 需要回復・脱ロシア進捗(非OPECプラスの増産) (→)

※矢印の向きは価格の方向性。

本日も、供給制限とインフレ抑制のための中央銀行のスタンスの綱引きとなり、高値でのもみ合い維持を予想。

パウエル議長の議会証言も予定されているが、昨日リセッションについてコメントしているため、それがさらに深く追求された場合、さらなる下落要因となる可能性はある。

本日、米石油統計の発表が予定されているが、市場予想は▲0.9MBの原油在庫減少の予想だが、朝方発表のAPI統計では+5.6MBの増加となっており、下落要因となる可能性が高いと見ている。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物価格は上昇した。FreeportのLNGターミナル火災の影響でLNGカーゴ市場がタイト化する中、ロシアのノルドストリーム経由でのガス供給が絞られた状態が続いていることが背景。

これを受けて、これまで順調に増加していた欧州のガス貯蔵施設へのガス注入量は急速に減少しており、夏場は欧州の場合影響が緩和されるにしても、冬場に向けた在庫の積増しは容易ではなくなってきている。

ロシアはガス供給減少は技術的な問題、としてるが、ドイツの在庫が6割に迫り、かつ、LNGの供給が制限されているタイミングでの供給減少であり、明らかにロシアの「嫌がらせ」だろう。

欧州全体のガス在庫は6月20日時点で55.1%(前日54.7%)と増加。ロシアからすれば「在庫積増しを邪魔する良いタイミング」といえる。

域内最大の消費国であるドイツはガス供給に関し、早期警告、警報、緊急の3段階を設置しており、今は警報のレベル。

仮に緊急(Emergency)となった場合、病院や家庭など向けの供給を優先することになるため、企業活動が停止するリスクが高まることになる。

ドイツはLNGのターミナルを持たないため、少なくともあと数年は

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかない。

域内の電気供給が一番とりあげられているが、ガス供給が充分ではない場合、世界最大の総合化学メーカーである独BASFなどの化学セクターへの影響は小さくなく、場合によると化学製品の供給途絶を通じて、世界経済に大きな打撃となる可能性も否定出来ない。

現在の天然ガス・LNGのスポット価格変動要因を整理すると概ね以下に集約される。

1.脱ロシアの継続(スポットカーゴ価格の上昇要因)2.LNGターミナル・ガス田の不慮の停止3.欧州vsロシアの対立(価格の上昇要因)4.景気減速(価格下落要因)5.気象状況(今のところ需要増加で価格上昇要因)6.季節要因7.そもそもの在庫不足(在庫積増しバイアスで価格上昇要因)

日々これらに関わる材料が処理されて価格が動いているが、欧州が脱ロシアを進める方針に変わりはなく、スポットのガス調達を増やして調達構造を変化させる見通し。

「脱ロシアの供給ソースの完全確保」が出来るまではスポット価格は高い水準を維持、その後は下落、というのがメインシナリオとなる。

現在、2.に関して、米Freeport社のLNGターミナル火災による輸出停止リスクが顕在化、3.も顕在化している状況。

Freeport社のLNG液化容量は全米の16.5%に相当。2020年実績を元にすると、世界のLNG貿易量の4.1%に相当するため影響は大きい。

報道ベースでは部分回復は9月頃、完全回復は年後半とされるターミナルの不稼働に伴う供給リスクが顕在化している状況。

なお、一部の国ではLNGの受入キャパシティ上限まで輸入が増加しており、供給が充分であっても受入側の都合でこれ以上輸入量を増加させるのは技術的に困難とみられる。

これらのリスクが顕在化した場合、自国民の生活や産業に著しい不利益が生じるため、欧州域内からロシア制裁解除の声が高まる可能性はある。米国のLNG供給制限もその動きを加速させるのではないか。

ロシアが音を上げるか、欧州か、まさにチキンゲームの様相を呈している。

LNGのタンカーレートはスエズ以西・以東とも急落。恐らくFreeportの事故の影響とみられるが、これでほぼ過去5年平均程度まで水準が低下した。

このことは在庫を例年以上のペースで積増ししなければいけないタイミングで、例年程度のフローしかなくなっている可能性を示唆している。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

米国天然ガス先物市場は上昇した。米景気の減速懸念や、FreeportのLNGターミナル火災の影響による輸出減少が域内ガス需給を緩和させるとの期待で下落していたが、再び気温上昇予想となったことや、割安感からの買いが入った形。

本日発表が予定されている米天然ガス統計は、在庫変化が+61.64BCF(前週+92BCF)と増加ペースが鈍化の見込み。

ただし季節的には夏場に向けて需要が増加するため、在庫の流入量のペースは鈍化する次期に当たる。

※週次(原則金曜日)の更新となります。

JKM先物は今冬の期先の価格が大きく上昇した。夏場の気温上昇リスクも高まっているが、Freeportの供給停止によるスポット調達需要が増加したためと考えられる。

アジアを含めた輸入者はターム契約が許す限りの上限で調達をすると考えられるが、夏・冬の気温次第でスポットカーゴの需要は増加するため、足下のリスクは上向きである。

なお、期先(2023年以降)の価格の高止まりはLNG市場の構造変化を反映したものであり、脱ロシアが完了し、ロシアのガスが「浮く」状態になってからは再び水準が切り下がると考えているが、それはまだ先のことになる見込み。

6月19日時点の日本の発電用LNG在庫は229万トン(前年同月末204万トン、過去4年平均195万トン)と増加し、例年の在庫水準を上回った。なお、弊社集計データによる過去5年平均との比較では、まだ例年のレベルを回復していない。

今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の供給不足のリスクは小さくなく、実際、政府は夏場の省電力を要請している。

6月6日~6月12日のLNGトレードだが、取引量は700万トン(前週731万トン)と減少した。スポット取引のシェアは26%(前週31%)と低下した。

スポット契約はJKTC(日本、韓国、台湾、中国)向けが▲27万トンの減少となった。主に韓国の輸入が減少したことによるもの。

欧州向けもポーランドやクロアチアの輸入が減少したことで▲32万トンの減少となった。

一方、ターム契約分の調達は、JKCTで+55万トンの増加。主に中国向けであり、恐らくロックダウンが解除されることに伴う夏場の需要期に向けての調達と考えられるが、再びロックダウンの懸念が強まっているためなんともいえないところ。

欧州のLNG輸入は114万トンに達したが、前月の同時期からは▲21%低い水準。カタール・ロシアの供給減少を米国の輸出が相殺した。

本日もFreeportの稼働停止、欧州向けにロシアがガス供給を制限していることから、スポットカーゴ価格は高値を維持する公算。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。

◆石炭

豪州石炭スワップは小動きだが400ドル近辺を維持した。

基本、石炭とガスを「価格を見て切り替える」ことができる発電業者は限られるものの、Freeport問題やロシアのガス供給減少などの報道を受けたLNG・ガス価格の上昇で、カロリーベースの割安感が出たことや、豪州の寒波の影響による石炭輸出の減少懸念(発電燃料の主力は引き続き石炭)が価格を押し上げている状況。

ただし中国のロックダウンの影響で同国の電力向け需要は低迷が予想され、海上輸送炭の需要も減少すると見られることから、価格の高騰は抑制されるだろう。

ロックダウンの影響がどの程度であるかを分析し難くしているのは、ロックダウンとほぼ同時期に欧州から打ち出された「脱ロシア炭」の動きと、これに伴うロシア以外の石炭需要の増加、豪州や南アフリカの洪水の影響による供給停止、豪州の寒波の影響による化石燃料輸出の制限といった事象が重なったこと。

しかし5月末からのロックダウン解除→再度のロックダウンの間の動きを見るに、ロックダウンによる中国国内の需要減少がより価格に影響を与える、といえそうだ。

しかしそれでも石炭価格は高い。在庫水準の低さ、夏場に向けた調達圧力、供給ソースの制限が背景にある。

期近と期先の価格差を流動性プレミアム(コンビニエンスイールドの効果)とするならば、180ドル程度の流動性プレミアムが付加されていることになる。

中国政府は2022年の石炭生産目標は昨年12月の過去最高水準を上回る1,260万トン/日(3億9,060万トン/月)に設定しているとされ、これが達成されるとほぼ輸入が不要となる。

なお、5月の中国の石炭生産は、前年比+12.7%の3億6,800万トン(1,187万トン/日)と、前月+12.6%の3億6,300万トン(1,209万トン/日)からは減速してる。

また、5月の燃料炭輸入は前年比▲22.0%の1,055万8,000トンと減少している。ロシアからの輸入は+92万トンの増加となったが、インドネシアからの輸入が▲96万トン、カナダからの輸入が▲16万トンの減少となったことが相殺した。

結局、ロックダウンの影響で電力需要が減少しているためと考えられる。ただし在庫水準が充分ではないため、やはり海上輸送炭市場の需給はタイトな状態が続くことになろう。

日本も今年の夏は猛暑見通しであり、石炭価格の高騰が電力会社の業績を圧迫するのみならず、逆ざや発生に伴う電力供給制限が起きる可能性も意識しなければならない状況。

温室効果ガス対策を施していない石炭火力を根絶する方針だった欧州も、背に腹は変えられず、電力供給不足を補うために休止予定だった石炭火力発電所を利用する方針を表明しており、構造的な石炭需要は底堅く、価格を高値に維持するとみる。

米国でも夏場の電力供給不足への懸念が指摘されていたが、Freeportの事故の影響もあって結果的に域内供給が間に合う可能性は得てきた。

本日も、欧州ガス価格の上昇が裁定的な取引を促すこと、上海ロックダウンの影響による中国の輸入需要の減少のせめぎ合いとなるが、高値維持の公算。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は下落した。上昇した。この1~2週間の株価調整や中国のロックダウン解除後の経済活動の戻りが緩慢なこと、7月末までにまたロックダウンがあるのではないか、との見方が強まっていることが価格を大きく調整させてきたが、昨日は割安感から、恐らく実需家の安値拾いの買いが入ったと考えられる。

多くの非鉄金属価格に対して説明力が高いのは米株価と期待インフレ率であり、米国はこの期待インフレ率を押し下げようとしている(これに加えてQTを行うことで物価連動債の価格は下落し、実質金利は上昇しやすい)ことから、基本的には下りのエスカレーターに乗っている状況で、価格には下押し圧力が掛かりやすい。

最大消費国である中国の景気はロックダウンの影響で景気が悪化しており、「この不況は欧米のロシア制裁のせいだ」と西側諸国を非難している。しかしロシアに対する制裁が解除されるわけではないことから、3期目を目指す習近平国家主席は、景気刺激テコ入れを示唆し、複数の中国メディアがこれを報じている。

結局、GDPに占める個人消費のシェアが高まった結果、「収入が増えて物流も安定し...」ということが起きなければ消費が回復するわけではなく、かつ、ロックダウン状態では消費が増えるはずがないためだ。

そのため、地方特別債の調達資金は全てインフラ投資に充てるなど、政府の意向で即時景気刺激策となる分野がテコ入れされることになる。これは日本と同じだ。

財政規模は2020年のコロナショック時よりも小さいが、昨年を上回る規模の景気刺激策の予算が確保されているため、恐らく一時的に非鉄金属を含む工業金属価格は上昇することになるだろう。

そしてその後、景気の減速で下落することになると見ている。ただし、景気減速の度合いによって下落幅が異なるため、まだ着地については追加情報が必要な状況に変わりはない。

市場は景気の先行きの不透明さから価格見通しが下向きになっているが、この状況でも実需の買い下がりが入ると予想されるため、まずは上昇から始まると考える。

その後、景気の先行指標である各国PMIの発表が予定されている。特に非鉄金属価格に対する説明力が高い独製造業PMIは54.0(前月54.8)と減速見込みであり、非鉄金属価格の下落要因となり上げ幅を削る展開を予想。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、豪州原料炭スワップ先物は小幅に下落、大連原料炭価格は上昇、上海鉄筋先物は下落した。

中国経済がロックダウンの影響から脱しておらず、経済状況が非常に厳しい状態にあり鉄鋼需要も減少していることが価格を下押ししている。

逆説的だが、昨日は複数の中国メディアが景気刺激、インフラ投資(個人の意思とは関係なく、比較的即時に需要として顕在化しやすい)を加速する、というコメントが出ているということは、足下の状況が厳しいことを示唆している。

しかし、経済対策のテコ入れが実際に行われる場合、工業金属需要が増加することは明らかで、鉄鋼製品価格・鉄鋼原料価格にも上昇圧力が掛かりやすい。

しかし、同時に、不動産市場の沈静化は続ける必要があるため上昇は一時的なものに止まるのではないか。

本日も、鉄鋼製品先物価格動向に左右される展開が予想されるが、今のところ中国景気の先行きは否定的な見方をする市場参加者が多く、鉄鋼製品先物価格には下押し圧力が掛かりやすいため、価格にも下押し圧力が掛かりやすい。

◆貴金属

昨日の金価格は上昇した。FRBパウエル議長のタカ派発言に変わりはなかったが、リセッション入りの可能性を否定しなかったことで景気の先行きへの懸念が広がり長期金利が低下、実質金利が低下したことが材料となった。

銀は株価の調整を受けて下落、PGMも下落した。

本日は半期に1回のパウエル議長の議会証言(下院)が予定されているが、昨日のリセッションリスクに関するコメントが再び蒸し返される可能性はあり、その場合は金価格は上昇、銀・PGM価格には下押し圧力が掛かることになるだろう。

日々、景気は減速するのか、その前の利上げの影響がどの程度か、再びリセッション入りすると金融緩和になるのか、といった思惑が交錯し、市場が落着きどころを探らんとしていることは確かであり、不透明感が強い中では安全資産の代表格である金は高値維持、その他は軟調な推移になりやすい。

◆穀物

シカゴ穀物市場はまちまち。トウモロコシは期近が上昇したが、期先は下落、大豆は全ゾーン下落、小麦は期近が高かったが、来年3月以降の冬小麦の収穫シーズン価格はやや下落した。

足下、米国の金融引締めに伴う景気の後退入りが市場で強く意識されており、エネルギー需要の将来的な減少観測を強めている。

穀物需要は基本的には景気に連動しないが、エネルギー需要が減少すればエタノール向け、ないしは最近ブームである再生可能エネルギー向けのバイオディーゼル燃料などの需要も減少するため、「緩やかな景気循環系商品」になりつつある。

そのため、エネルギー価格の下落は昨日の調整要因となった。

しかし、今のところ異常気象やロシア問題を背景とする供給不安が解消されてる訳ではないこと、肥料やエネルギー供給制限の問題が解消されていないことを考えると、流通面やコスト面で価格は高止まりの可能性が高い。

足下、米国の金融政策動向を受けた原油価格動向の影響が大きくなっていることから、今晩の米石油統計次第の展開か。

本日の石油統計は原油在庫の減少が見込まれているが、朝方のAPI統計では原油在庫が増加しているため、下げが拡大するとみている。ただし、需給ファンダメンタルズはタイトな状態が続いているため、高値は維持する見込み。

※中長期見通しは、7月・11月にリリースの商品市場為替市場動向見通しをご参照ください(有料)。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

また、米国の金融引締めが新興国経済に打撃を与える可能性も。

・中国のゼロコロナ政策にこだわるスタンスがロックダウンを頻発させ、中国景気がハードランディングする場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・ロシア国債のデフォルトや、ロシアからのビジネス撤退が企業や信用市場に大きな影響を与え、クレジットクランチ(信用収縮)が発生する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・渇水に拠る水不足や、発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・ロシア・ウクライナの衝突の影響が長期化し、欧州を中心に景気が減速する場合。

また、ロシアに対する制裁がロシアが主要生産地である商品の供給を制限し、価格を押し上げ、景気を悪化させるリスク(価格下落要因)。

ウクライナへの侵略戦争は長期化がほぼ確実であり、景気下押し要因となるという展開はメインシナリオとなる可能性。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

◆本日のMRA's Eye


「原油供給能力と石油製品価格」

原油価格は高騰していたが、ここに来て調整圧力が強まっている。米FRBによる景気を悪くしてもインフレを抑制せんとする動きが、需要の減速観測を強めているためだ。

しかしそれでもWTI・Brentとも100ドルを超える水準を維持しており、供給制限が価格を押し上げている構図となっている。

原油価格の上昇の背景に、石油製品の在庫不足とそれに伴う製品価格の高騰が挙げられることがある。石油製品価格の上昇は端的に原油の需要増加をもたらし、原油需給が逼迫する形で価格が上昇するということが起きる。

現在、ロシアに対する制裁強化の中でウラル原油の供給に支障が出ており、海上輸送しているものは船舶に保険が掛けられない状態であるため実質的に輸出が出来なくなっている。通常、ロシアからウラル原油を輸入して欧州はそこからディーゼルオイルを得ていた。

また、欧州はロシアからも石油製品を購入しており、その中には当然ディーゼルオイルも含まれている。この供給に制限が掛っている状態であるため、Brentなどの中間留分リッチな原油の価格はWTIなどと比較して割高に推移しておかしくない。

こうした製品の供給不足で製品価格が上昇している場合、通常であれば製油所の稼働率が上昇していてもおかしくない。しかし、米国の石油統計を見ると製油所の稼働率は直近で93.7%と高いといえば高いのだが、同じ時期の過去5年の水準と比較してみると最高水準が95.7%であるため、まだフル稼働、という感じではない。

恐らく製油所の処理能力の問題もあるが、それよりは原油供給自体が回復していないことの方が製品供給への影響が大きいと考えられる。

米国の原油輸入と自国生産の合計はフローの供給の指標であるが、シェールブーム以降は自国内生産が増加し、直近の米国の「自国生産比率」は64.5%に達している。

もちろんカナダなどの近隣諸国からも原油は輸入しているが圧倒的に国内の供給のシェアが大きい。

しかし、グラフの通り米国の原油供給はまだコロナショック前の水準を回復するに至っていない。これは1,400万バレル程度の生産量だった米原油生産が、まだ1,200万バレル程度までしか回復していないことによる。

米国の原油生産回復の遅れは、このコラムでも指摘してきたが、1.労働力の確保が充分出来ていないこと、2.資材の確保に遅れが生じていること、などが影響していると見られる。

となると、海外、特にOPEC諸国からの増産が供給改善に必須となるが、米国は中東ヘの依存度を低下させて来たこと、米民主党政権嫌いの中東諸国からすれば米国に原油供給をしたいとは思っていないこと、などから増加が頭打ちとなっている。

やはり当面は自国で原油生産を増加させるか、冒頭のコメント通り景気を減速させるしか方法はなさそうである。そうなると実際に利上げやQTの影響が顕在化するのは、通常3~4ヵ月程度は掛るため恐らく今年の秋以降に、その需要減速が顕在化すると予想される。

それまでは供給制限が意識され、結局高値圏での推移が続くと予想される。


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