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リスクテイク再開で総じて堅調
  • MRA商品市場レポート

2022年5月18日 第2197号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「リスクテイク再開で総じて堅調」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品市場はまちまちだったが、これまで下落していた非鉄金属が中国のロックダウン解除期待で上昇、供給懸念と中国の経済活動再開観測で発電燃料価格も上昇した。株価の上昇もあってリスクテイク再開の動きが見られ、総じて堅調という印象。

これまで供給面が価格動向を左右してきたが、ロシア問題を背景とする供給不安が確実に顕在化しているのはガス・石炭・食料品(小麦・トウモロコシ)であり、これらの商品価格は引き続き供給面が意識されると考えられるが、その他の商品はより価格への影響が大きい需要面にテーマがシフトしていると考えられる。

その意味では昨日発表された米小売売上高が、インフレ伸張の中でも良好な個人の購買活動が確認されており「過度な利上げは景気の腰折れに...」という懸念が昨日に関してはやや緩和した、と考えられる。

また、中国も早晩ロックダウン解除に舵を切る可能性が高いこともリスク資産の買い安心感を広げたといえるだろう。

【本日の見通し】

本日は市場の景気への楽観から買い戻しが継続すると見られ、上昇余地を探る動きになる商品が目立つと考えられる。

ただし、そうはいってもまだ中国はロックダウン状態にあること、景気過熱沈静化≒インフレ抑制の目的での金融引締めは確実に行われることから上昇余地も限られると考える。

今後の見通しは、年末に向けたパスが複雑であり断言することは難しいが、基本的に経済が下りのエスカレーターに乗っている(あるいは乗せようとしている)ことから景気循環系商品価格には下押し圧力が掛りやすく、逐次入ってくる供給面関連の材料を受けて上振れする局面が数度訪れる、という整理でよいのではないか。

本日は金利上昇の中で米住宅着工がどの程度減速しているかに注目している。

4月米住宅着工 市場予想前月比▲2.1%の175.6万戸(前月+0.3%の179.3万戸)許可件数 ▲3.0%の181.4万戸(+0.3%の187万戸)

【昨日のトピックス】

昨日発表の米小売売上高は、原油を含む小売売上高が前月比+0.9%(市場予想+1.0%、前月+1.4%)と市場予想を下回り、前月からも減速した。さすがに商品価格が上昇し、利上げを受けた金利上昇などが消費に影響を及ぼしていると考えられる。

ただ、自動車を除く販売は+0.6%(+0.4%、+2.1%)、除く自動車・ガソリンでは+1.0%(+0.7%、+1.2%)と市場予想は上回っており、市場参加者が想定するよりもインフレに伴う消費減速は見られておらず、米国の景気が引き続き堅調であることを確認する内容だった。

結果、仮に金融引締めがあったとしても景気への影響は限定されるとの見方を強める判断材料になったといえる。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は下落した。これまで「即時増産」イベントは戦略備蓄放出だけであり、かつ、先々在庫の再積増しがあることを考えると純粋に下落要因、と言いにくかったがOPECプラスのメンバーであるベネズエラに対して、米国が制裁を緩和する、との観測報道が流れたことで、需給緩和期待が高まったことが材料となった。

しかし、50日移動平均線のサポートラインを割り込むには至らず、正直なところテクニカルな売りだったと考える方が妥当である。

今後は米金融引締めや製品価格上昇に伴うレーショニング発生により、年後半に掛けては価格が下落するという見通しに変わりはないものの、短期的には上昇余地を探る動きになりそうだ。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は2.のステータスにあるが、場合によると3.に移行する可能性がある。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない(ないしはその可能性が強く意識される) Brent 120-140ドル

2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 95-125ドル

3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 90-120ドル

4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 85-120ドル

5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-105ドル

↑ 上記は停戦が行われない場合のシナリオ

↓ 下記は停戦が行われた場合のシナリオ(現在は徐々にこちらに移りつつある)

6.ロシアがウクライナから撤退するが原油の脱ロシアが進むBrent 95-115ドル

7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-100ドル

8. 脱ロシア完了(東西諸国の分裂が発生した場合)Brent 60-90ドル

9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。OECD諸国の戦略備蓄130万バレル放出は半年の時限付。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

本日も基本的にはレンジワークであり、昨日の反動で上昇すると見ている。

なお、本日発表予定の米石油統計では原油在庫が+1.5MB増加すると見られているが、朝方発表のAPI統計では原油在庫の減少(▲2.4MB)が確認されており、この点でも原油価格は上昇すると予想される。

◆石炭

豪州石炭スワップ先物価格は上昇し、410ドルを上回った。欧州天然ガス価格の上昇や、中国のロックダウン解除期待を受けた需要増加見通しなどが材料視されたと考えられる。夏場に向けた石炭火力保有地域の調達意欲は旺盛とみられる。

足下、中国のロックダウンの影響で石炭不足が発生するとの中国政府の見通し通りの展開となっており、石炭輸入を不要とする目的を中国は恐らく果たせていないと考えられること、気温上昇の影響もあって石炭不足に喘ぐインドの調達も増加しているとみられる。

なお、熱量換算ベースでの回帰分析を行うと、石炭価格は過去の価格の関係性と比較した場合原油・天然ガスから大きく上方に乖離しており、需要面というよりは供給面の問題が価格を押し上げていると考えられる。

中国は、以下の理由から引き続き石炭不足・電力不足が発生する可能性を懸念しているが、恐らくこのリスクは顕在化していると考えられる。。

1.ロックダウンの影響

2,コロナの影響による燃料輸送の障害

3.異常気象による水力発電の不足

4.電力価格に制限が設けられていることによる石炭生産の阻害

中国政府は2022年の石炭生産目標は昨年12月の過去最高水準を上回る1,260万トン/日(3億9,060万トン/月)に設定しているとされ、これが達成されるとほぼ輸入が不要となる。

なお、4月の中国の石炭生産は、前年比+12.6%の3億6,300万トン(1,209万トン/日)と前月の+16.1%の3億9,600万トン(1,277万トン/日)からは減少している。

海上輸送炭の輸入需要は減少しているとは思われるものの、当初期待していたほどの増産になっていない、あるいは生産出来ていても生産地からの輸送がままならない状態にあり、輸入需要が増加している可能性はある(通常海上輸送炭の受け入れ地から発電所は近いところにあるため)。

結局、ロックダウンは中国の電力需要を減じるものの、生産も制限するため海上輸送炭市場をタイト化させているといえるだろう。

日本も対岸の火事ではなく、今年の夏は猛暑が予想されているため、石炭価格の高騰が電力会社の業績を圧迫するのみならず、逆ざや発生に伴う電力供給制限が起きる可能性も意識しなければならない状況。

本日も供給環境に大きな変化なく、インド・中国をはじめ調達圧力が強いことから高値維持の公算。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物市場は上昇した。ルーブル建ての支払いが違反、とするEUの方針を受けてロシアからの調達減少観測が強まったことが背景だが、一昨日の下落の反動、と考える方が適切か。

今年10月1日までに90%の在庫積増しを達成したとしても、脱ロシアが完全に終了するまで欧州はLNGを積極的に輸入すると予想される。なお、欧州全体のガス貯蔵率は5月15日時点で40.1%(前月39.5%)と積増しは進んでいる。

しかし、夏場の気温が例年よりも今年は高くなる可能性があり、まだ冬場に向けた調達は予断を許さない状況。

LNGのターミナルを持たない域内最大のエネルギー消費国であるドイツは、

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかないが、結局その大半はロシアからの輸入に頼らざるを得ない。現在のドイツの在庫率は41.5%(40.8%)と積増しは進捗している。

米国天然ガス先物市場は続伸。米南部、西部の気温上昇観測と欧州ガス価格の上昇が背景。

JKM先物は期近が変わらずだったが、期先は大幅に上昇した。欧州ガス価格の上昇もあり、夏場~冬場に向けた調達圧力が強まったことが背景。

5月8日時点の日本の発電用LNG在庫は202万トン(前年同月末194万トン、過去4年平均198万トン)と先週から増加した。今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の供給不足のリスクは小さくない。

5月2日~8日のLNGトレードだが、取引量は836万トン(前週695万トン)、スポット取引のシェアは25%と前週と変わらず。

スポット契約は日本・韓国・中国の輸入が前週比+36万トン増加した。ほとんどが日本と中国の輸入増加によるもの。ほとんどの地区で輸入が増加している。

長期契約ベースの輸入は、主に南アジア向けが+43万トンの増加となった。主にインド向けの増加によるもの。北欧とイタリア向けの輸出も+41万トンの増加で、主にベルギー、フランス、英国の輸入増加によるもの。

本日も各地の在庫積増し需要が旺盛であり、高値圏での推移は続くと考えられる。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は総じて上昇した。中国のロックダウン解除期待とリスクテイク再開に伴うドル安進行が材料視された。

コロナショック以降の価格上昇を牽引してきた投機筋の買越しポジションは、数量ベースで3,947.1千トンとピークの7,073.8千トンから▲44.2%も買越し数量が減少している。

取引減少は、1.最大消費国である中国のロックダウンによる需要減少、2.ロシア問題を切っ掛けに発生したLMEニッケルの強制取引停止と溶け合いによる、LMEヘの不信感の高まり、3.米金融引締めによる景気減速懸念、4.金融引締めによるドルの増価、が背景にある。

ただここに来てロックダウン解除観測が高まっていること、ロックダウン解除後の中国政府による景気刺激策の実施、昨日の米小売売上高をみるに、金融引締めがあってもそこまでの景気減速にならないのではないか、との見方がポジションが軽くなった投機の買い戻しや、これまで買いそびれてきた実需の安値拾いの買いを促していると考えられる。

恐らく非鉄金属価格はしばらく上昇余地を探る動きになると考えられるが、そうはいっても循環的な景気減速と、米国の金融引締めによる景気減速で年後半に掛けては水準を再び切下げるとみている。

本日は2日連続の大幅な上昇となったこともあり、一旦調整売りに押されるが、この1~2ヵ月の調整売りで割安感が出ていることから、再び上昇に転じると考える。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は上昇、上海鉄鋼製品先物は直近限月が下落、中心限月が上昇した。

景気刺激策への期待から鉄鉱石に買いが入っていたが、昨日は鉄鋼製品直近限月価格が大きく下落したこともあって小幅に水準を切下げた。原料炭も同様。

鉄鋼原料価格は短期的にはロックダウン解除とその後の対策期待で上昇しやすく、もう少し長い期間では、中国政府は企業に対して2022年の粗鋼生産を2021年を下回るよう指導しており、結果的に鉄鉱石需要が減少すると予想され、国内生産の増加や投機規制強化によって鉄鉱石価格は低下すると考える。

現在の鉄鋼製品価格を基準にした回帰分析の結果は、鉄鉱石価格が145ドル、原料炭価格が243ドルとなっており、鉄鉱石価格は推測値を下回っている。

本日は中国の対策期待・ロックダウン解除期待とここまでの下落による割安感からの買いで鉄鋼原料価格は水準を切り上げると考える。

◆貴金属

昨日の金価格は長期金利上昇の影響で実質金利が上昇したため、水準を切下げた。リスク・プレミアムはドル減価の影響で上昇。

銀は小幅高、プラチナは株価の上昇もあって上昇、パラジウムはより株価の影響を受けやすいと考えられ、比較的大きな上昇となった。

本日は景気への楽観的な見方が、米国のタカ派な金融政策方針を肯定する、との見方が広がっているため軟調な推移になると予想する。一方、銀・PGMは株の戻りなどもあって上昇すると考える。

◆穀物

シカゴ穀物市場はまちまち。トウモロコシは原油価格の下落を受けて水準を切下げた。大豆は一昨日の大幅下落の反動で上昇、小麦は米国の作柄・作付の低迷と、欧州・ロシア・ウクライナ・インドといった世界各地の生産減少・輸出減少観測が材料となり大幅な上昇に。

以前から指摘しているように、ラニーニャ現象の発生が特に小麦生産に深刻な影響を及ぼしている状況。。

本日も需給ファンダメンタルズがタイトであることを背景に高値維持の公算。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・ロシア・ウクライナの衝突の影響が長期化し、欧州を中心に景気が減速する場合。

また、ロシアに対する制裁がロシアが主要生産地である商品の供給を制限し、価格を押し上げ、景気を悪化させるリスク(価格下落要因)。

ウクライナへの侵略戦争は長期化がほぼ確実であり、景気下押し要因となるという展開はメインシナリオとなる可能性。

・ロシア国債のデフォルトや、ロシアからのビジネス撤退が企業や信用市場に大きな影響を与え、クレジットクランチ(信用収縮)が発生する場合。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。


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