中国減速・金融引締め警戒で下落
- MRA商品市場レポート
2022年5月10日 第2191号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「中国減速・金融引締め警戒で下落」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品市場はほとんどの商品が下落した。上昇したのはパラジウムや原料炭、木材などの商品に限られた。
中国のロックダウンがまだ収束する気配が見えず、貿易統計が同国経済の減速を明確に示す内容だったことが影響した。中国の減速は貿易で繋がりの深い欧州の景気も下押しするため影響が大きい。
また、米国の利上げが今後2回のFOMCで2回、0.5%を基準に行われることがほぼ確定しているというある意味異例の決定も改めて意識されるかたちとなり、大幅な調整となった。GWは相場が下方向に荒れることが多いが、今年も例外ではなかった、ということだろう。
ただ、下落要因の1つである中国のロックダウンは時間経過と共に解消し、さらには景気刺激に中国が舵を切る可能性が高いことから再び価格は上昇、その後循環的な景気の減速で、年末に向けて多くの商品価格が下落するのではないか。
【本日の見通し】
本日も世界経済が短期的には「下りのエスカレーター」に乗っているため、基本的にはリスク資産価格は下落すると考えられる。
しかし、このGWの下落幅が大きかったことから商品に関しては実需筋が割安感から買いを入れる可能性は高く、一旦上昇するのではないか。
本日予定されている材料としては、相場下落の一因である米国の金融政策動向を探る上で重要な、米各連銀総裁の講演に特に注目したい。
(予定されている高官発言)・ニューヨーク連銀総裁、講演・リッチモンド連銀総裁、講演・ウォラーFRB理事とミネアポリス連銀総裁、討論会参加・クリーブランド連銀総裁、パネル討論会出席・アトランタ連銀総裁、講演・バイデン大統領、インフレについて発言
【昨日のトピックス】
昨日発表された4月の中国の貿易統計は輸出が前年比+3.9%(前月+14.7%)と減速したが市場予想(+2.7%)は上回ったものの、一方で輸入は±0.0%(市場予想▲3.0%、前月▲0.1%)と市場予想・前月を上回ったが引き続き低迷した。
景気の循環と特に関係ないロックダウン、ゼロコロナ政策が明らかに中国経済にマイナスに作用していることを再確認する内容だった。
実際、原油・石炭輸入を除くと季節性を考慮しない単純計算で輸入は前年比▲5.0%の減少となっており、中国国内の経済活動がロックダウンの影響で低迷していることを示唆している。
報道ベースではまだロックダウンは続く見通しであり、想定外の「経済活動強制停止」が長期化する可能性は低くない。中国経済の鈍化は世界経済にマイナスであることは明らかだが、特に貿易面で繋がりの強い欧州経済への影響が無視できない。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は大幅に下落した。中国のロックダウン拡大の動きが世界的な景気の重石になること、米金融引き締めが景気の状況にかかわらず今後2回のFOMCで0.5%ずつ行われる見通しであること、などが改めて意識されたため。
以前から主張しているように昨年後半でピークを打った原油価格は下落する見通しだが、ロシア問題を背景とする供給不安が価格を高値に維持してきたが、それを上回る景気減速の可能性が意識された、と考えられる。
しかしそれでもBrent・WTIとも100ドルを超えており、供給は充分ではない。
4月の中国の原油輸入は前年比+6.6%の4,303万トン(前月▲13.9%の4,271万トン いずれも季節調整を行わない単純な前年比)と前月からは回復して過去5年平均も上回った。
目先、需給が「直ちに」緩和する材料は以下の通りだが、1~3が顕在化している状況。
1.戦略備蓄放出の大盤振る舞い
2.西側諸国(除く日本)の急速な金融引き締めによる景気減速観測
3.中国のオミクロン株感染拡大によるロックダウン拡大・需要減少
4.停戦
下記シナリオは数ヵ月の短期的なものであるが、長期的にはレーショニング・金融引き締めの影響・景気循環による需要減少による基準価格(供給懸念が後退したときの着地点となる価格)は徐々に切り下がると考えている。
年後半に掛けて米金融引き締めが進むことによる景気過熱感の沈静化で、年後半にかけての価格見通しは下向きである。
なお、現在の状況は2.にあると考えられるが、足下の景気減速に伴う需要減少を背景に、価格のレンジを多少下方修正した。
<シナリオ別原油価格見通し>
1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない(ないしはその可能性が強く意識される) Brent 120-140ドル
2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とするBrent 100-120ドル
3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 95-115ドル
4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 90-110ドル
5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-105ドル
↑ 上記は停戦が行われない場合のシナリオ
↓ 下記は停戦が行われた場合のシナリオ(現在は徐々にこちらに移りつつある)
6.ロシアがウクライナから撤退するが原油の脱ロシアが進むBrent 95-115ドル
7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-100ドル
8. 脱ロシア完了Brent 50-75ドル
9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル
※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。OECD諸国の戦略備蓄130万バレル放出は半年の時限付。
本日は昨日の下落が大きかったことから一旦買い戻しが入ると考えられるが、景気の先行きが強く懸念される中では再び下落に転じよう。
ただ、夜間にはFOMCメンバーが多数講演の予定であり、この足下の相場下落を受けてややハト派の発言をする可能性は有り得、ロシア産原油の禁輸方針もあり、下げ余地も限定されると考える。
◆石炭
豪州石炭スワップ先物価格は小幅に下落したが、370ドル台を維持した。中国の貿易統計で中国の経済活動が鈍化していることが確認されたことが、エネルギー需要の減少観測を意識させたため。
ただし、中国・インドの石炭調達は異常気象の影響もあって充分ではなく、この時期としては異例な水準での推移となっている。
インド北西部を熱波が襲い、北西部の都市ビカネルでは1日の平均気温が39度に達し(平年34度)、5月1日・2日の最高気温が47度を超えるなど、電力需要が増加している。
4月の中国の石炭輸入はは原料炭・燃料炭合計で前年比+8.4%の2,354万9,000トン(前月▲39.9%の1,642万3,000トン)と急速に回復した。中国は国内炭の増産を企図しているが、コロナの影響で充分な増産が行えず、結果、海外炭輸入に依拠せざるを得ない状況にあると考えられる。
国営メディアによると石炭生産目標は昨年12月の過去最高水準を上回る1,260万トン/日に設定しているとされ、このペースであれば31日の月は3,906万トンの石炭が生産されることになる。
生産能力は約3億トン積み増す見通しだが、この3億トンは一般的な年の石炭輸入量に相当する。海上輸送炭市場の需給緩和に寄与することになろう。
この中で発電量の7割を占める石炭火力向けの石炭国内生産が充分ではなく、海外炭の需要が増加していることが、海上輸送炭市場の需給をタイト化させている状況。
日本も対岸の火事ではなく、今年の夏は猛暑が予想されているため、石炭価格の高騰が電力会社の業績を圧迫するのみならず、逆ざや発生に伴う電力供給制限が起きる可能性も意識しなければならない状況。
しかし、やはり景気への懸念が強いこと、中国の増産観測もあるため期先の価格は総じて安い(それでも十分高い水準)。
中国は、以下の理由から引き続き石炭不足・電力不足が発生する可能性を懸念している。
1.ロックダウンの影響
2,コロナの影響による燃料輸送の障害
3.異常気象による水力発電の不足
4.電力価格に制限が設けられていることによる石炭生産の阻害
中国政府は2022年の石炭生産目標は昨年12月の過去最高水準を上回る1,260万トン/日(3億9,060万トン/月)に設定してるとされ、これが達成されるとほぼ輸入が不要となる。逆に言えば中国は脱炭素を実施するつもりはない、といえる。
なお、3月の中国の石炭生産は、前年比+16.1%の3億9,600万トン(1,277万トン/日)まで急増しており、燃料炭輸入需要は減少している。ただし、目標は下回っている。
本日も、インドをはじめ、調達圧力が強いことから高値維持の公算。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物市場は下落した。ロシアからのガス供給への懸念は拭えないが、中国景気の減速やそれを受けた欧州景気の減速観測、季節的なガス需要の減少が価格を押し下げた。
中国のロックダウンが続く中では供給面もさることながら、需要面の方がより重用になると考えられる。
4月の中国の天然ガス輸入は前年比▲20.3%の809万トン(前月▲8.6%の798万トン)と伸びが大幅に減速したが、過去5年平均は上回る水準となっている。
足下、ロックダウンの影響で恐らく需要が減少していると考えられること、国内の天然ガス生産が増加していること(3月生産は前年比+6.5%の1,448万5,000トン)、保管が石炭に比べて困難なガスのプライオリティが低下しているとみられる。
中国国家発展改革委員会は、2025年までに2,300億立方メートルまで生産を増加させる計画である。2021年の生産量は1,950億立方メートルだった。
※中国のガス統計は、データソースや単位換算で数値が一致しないことがあります。予めご容赦ください。
欧州は脱ロシア産ガスに舵を切っているが、足下の脱ロシアが困難としても、大きな方向性として、欧州は脱ロシアを完遂する計画であり、引き続きLNGを積極的に輸入すると予想される。なお、欧州全体のガス貯蔵率は5月7日時点で36.2%(35.4%)と十分な在庫は積まれていない状況。
LNGのターミナルを持たない域内最大のエネルギー消費国であるドイツは、
1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減
によってガス在庫を積み上げるしかないが、結局その大半はロシアからの輸入に頼らざるを得ない。現在のドイツの在庫率は38.0%(37.1%)と欧州全体よりは高いものの、依然として低い水準である。
米国天然ガス先物市場は大暴落した。米国の金融引き締め加速観測や、中国のロックダウンの影響によるガス需要の減少観測、中国景気減速が欧州に波及するリスクによってLNG輸出需要が減少する、との見方から急速に値を下げた。
商品価格を決定する要因のうち、需要の影響の方が大きいことを確認する形となった。
JKM先物はほぼ全ゾーン下落した。中国ロックダウンや米国の金融引き締め加速観測を受けて需要が減少するとみられたことが背景。
しかしそれでも全てのゾーンの価格が20ドルを超えており、構造的なLNGの需要増加は続くとみられている。。
4月24日時点の日本の発電用LNG在庫は195万トン(前年同月末201万トン、過去4年平均190万トン)と先週から小幅に増加した。今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の供給不足のリスクは小さくない。
4月18日~24日のLNGトレードだが、取引量は720万トン、スポット取引のシェアは23%と前週の19%から上昇。
スポット契約は欧州向けが+30万トン程度増加、主にイタリアと英国向け。長期契約ベースの数量は▲3%と減少。フランス向けが減少した。日中台韓向けの輸出は横這い。
注目すべきはロシアヤマルからのLNGが、インド、インドネシア、ベルギー向けに増加している点。イタリアなどの輸入は主に米国・カタール産。
本日も中国・欧州・米国の景気が急にフォーカスされているため軟調な推移となりやすいが、昨日の下落が大きかったこと、夏場・冬場向けの調達は継続する見通しであることからまずは買い戻しが入り、上昇すると見る。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。
◆非鉄金属
LME非鉄金属価格は続落した。最大消費国である中国のロックダウンが長期化しており、さらに続く見通しが示されていること、米国の利上げ・QTによるドル高進行が需要減少観測を強めた。
4月の中国の貿易統計では、ベンチマークである精錬銅の輸入は前年比▲4.0%の46万5,330トン(前月▲8.7%の50万4,009トン、2月+12.1%の45万9,461トン)と低迷が続いている。
過去5年の水準との比較では過去5年平均を上回っているため「少ない」という訳ではないが、少なくとも前月からは減速していることは否めない。
一方、銅精鉱の輸入は前年比▲1.9%の188万3,593トン(前月+0.7%の218万4,257トン)と急速に減少している。ロックダウンの影響で工業向けの需要が減速している可能性が高く、銅のTCも高い水準で推移しており世界の鉱石需給は緩和しているとみられる。
実際、中国の大規模銅製錬事業者の3月の稼働率は90.3%と前月の90.9%から低下しており、過去5年平均の91.5%も下回っている。ロックダウンの影響が大きかったためと考えられる。先月はロックダウンの影響は4月には解消すると見込んでいたが、期待が外れた。
3月の銅スクラップの輸入は前年比▲12.8%の14万9,935トン(前月+36.6%の10万9,806トン)と、こちらも減速している。
現状、中国のロックダウンの解除が進んでおらず、景気に明確に悪影響になっている(詳しくは昨日のMRA's Eyeをご参照ください)。
ただし、今回の価格下落は政府の強制的な経済活動停止によるものであり、投機筋の買越し幅も急速に減少して投機筋のポジションが軽くなっていることも考えると、ロックダウンが明ければ再び価格は上昇すると予想される。
本日は、ここ数日の下落が大きいこともあって安値拾いの買いが入るとみるが、それでもロックダウンの解除が進んでいないことからやはり下値余地を探ることになりそうだ。
中国のロックダウンと合わせて下げの一因となっている米国の金融政策に関して、本日は複数のFOMCメンバーの講演が予定されているため、発言内容に一喜一憂の展開となろう。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは大幅に続落、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は下落、上海鉄鋼製品先物は大幅に下落した。
中国のロックダウンによる経済活動の減速が確認されていることが、引き続き鉄鋼製品価格を押し下げ、鉄鋼原料価格の下げ余地も拡大している状況。
4月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲18.3%の95万6,300トン(前月▲23.4%の101万1,330トン)と低迷が続き、過去5年の最低水準を下回った。他の鉱物資源と同じだが、ロックダウンの影響で工業活動が停滞していることが背景。
4月の中国粗鋼生産は前年比▲6.1%の8,830万トン(前月▲9.7%の7,496万トン)と回復している。ロックダウンの影響による鉄鋼製品不足で鉄鋼製品価格が高値を維持していることが生産増加に繋がったと考えられる。
中国政府は2022年の粗鋼生産を2021年実績を上回らないようにする計画。
4月の鉄鋼製品の輸出は前年比▲37.5%の497万7,000トン(前月+34.4%の494万4,880トン)と減速している。エネルギー価格の高騰や循環的な景気減速、物流問題の残存などから世界的に鉄鋼製品需要が減速している可能性が高い。
4月の鉄鉱石の輸入は前年比▲12.7%の8,606万トン(前月▲14.5%の8,728万トン)と低迷し、過去5年平均を下回っている。鉄鉱石の港湾在庫が積み上がっていることや、ロックダウンの影響でそもそも中国の鉱石需要は低迷している可能性が高い。
4月の中国の石炭輸入は原料炭・燃料炭合計で前年比+8.4%の2,354万9,000トン(前月▲39.9%の1,642万3,000トン)と急速に回復した。中国は国内炭の増産を企図しているが、コロナの影響で充分な増産が行えず、結果、海外炭輸入に依拠せざるを得ない状況にあると考えられる。
国営メディアによると石炭生産目標は昨年12月の過去最高水準を上回る1,260万トン/日に設定しているとされ、このペースであれば31日の月は3,906万トンの石炭が生産されることになる。
生産能力は約3億トン積み増す見通しだが、この3億トンは一般的な年の石炭輸入量に相当する。海上輸送炭市場の需給緩和に寄与することになろう。
短期的にはロックダウン解除、その後の経済対策の効果で鉄鋼製品・鉄鋼原料価格とも上昇を見込んでいるが、中期的には、中国政府は企業に対して2022年の粗鋼生産を2021年を下回るよう指導しており、結果的に鉄鉱石需要が減少すると予想され、国内生産の増加や投機規制強化によって鉄鉱石価格は低下すると考える。
現在の鉄鋼製品価格を基準にした回帰分析の結果は、鉄鉱石価格が147ドル、原料炭価格が255ドルとなっており、鉄鉱石・原料炭とも水準が高い。
本日は昨日の下げが大きかったことから打診的な買いが入って鉄鋼原料価格は上昇するとみるが、現状、短期的に経済が下りのエスカレーターに乗っていると考えられる為、上昇余地も限られよう。
◆貴金属
昨日の金価格は米長期金利が低下したが、原油価格が大きく下落したため実質金利が上昇、金の基準価格は1,234ドル(前日比▲10ドル)と低下、ドル高進行に伴いリスク・プレミアムが620ドル(▲20ドル)となったことで大幅な下落となった。
銀は金銀レシオが上昇していることもあり、下落率は金を上回った。
銀との価格相関が高いプラチナは900ドルの節目に近づく中ではテクニカルな買い戻しが入ったが、前日比マイナス。パラジウムはプラチナとほぼ同じ相場展開となったが前日比プラスで引けた。
本日の貴金属価格は、金の下落が大きかったこと、長期金利が低下していること、恐らく今日は原油に買い戻しが入り、期待インフレ率の上昇が予想されることから一旦買い戻しが入り、上昇余地を探ると考える。
◆穀物
シカゴ穀物市場は下落した。ドル高の進行やエネルギー価格の下落を受けてトウモロコシ価格が下落、同様にエネルギーとしての油脂需要が減少するとみられたことで大豆価格も下落した。
小麦も連れ安となったが、そもそも供給懸念は強く下げ幅は限定された。
昨日発表された中国の貿易統計では大豆の輸入が前年比+8.4%の807万9,000トン(前月635万トン)と急速に増加した。中国も他国と同様、油脂不足に陥っているとみられ、中国大連の大豆油は過去5年レンジを遙かに上回る高水準で取引されている。
その他の地区でも油脂類は干ばつや、ウクライナ・ロシアに関しては戦争の影響で供給が充分ではない。
本日は昨日の下落が大きいこと、基本的に生産は下振れするリスクが大きいことから安値拾いの買いで上昇すると予想。
※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。
・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。
・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・米中対立激化にロシア問題も加わり、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。
・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・ロシア・ウクライナの衝突の影響が長期化し、欧州を中心に景気が減速する場合。
また、ロシアに対する制裁がロシアが主要生産地である商品の供給を制限し、価格を押し上げ、景気を悪化させるリスク(価格下落要因)。
ウクライナへの侵略戦争は長期化がほぼ確実であり、景気下押し要因となるという展開はメインシナリオとなる可能性。
・ロシア国債のデフォルトや、ロシアからのビジネス撤退が企業や信用市場に大きな影響を与え、クレジットクランチ(信用収縮)が発生する場合。
・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。
・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。
◆本日のMRA's Eye
「ロシア問題はコーヒー価格にも影響」
コーヒー価格が高値圏で推移しており、この時期の価格としてはラニーニャ現象の発生により世界的に穀物をはじめとする農産品価格が急騰した2011年、1972年から長期にわたるラニーニャ現象発生に見舞われ、その後エルニーニョ現象が発生してブラジル一帯の霜害が発生した1977年、ICE認証在庫がやはり天候の影響で減少した1997年に次ぐ価格水準である。
価格上昇の背景は様々であるが、昨年から続いているラニーニャ現象の発生による天候要因に加え、コロナの発生に伴う人員不足や賃金の上昇、ロシア・ウクライナ問題を背景とする燃料や肥料価格の上昇が影響していると考えられる。
昨年12月時点の米農務省の需給見通しでは、2021-2022年はそもそも生産が減少する「裏年」に当たり、生産量が前年比▲847万8,000袋の1億6,747万4,000袋に減少することが見込まれている。
主要生産地であるブラジルの生産が主要品種のアラビカ豆の生産減少によって▲1,360万袋の5,630万袋となる見込みであることが、その他の地域の増産見通しを完全に相殺することが要因である。
一方、国内需要は順調に回復しており前年比+145万袋の1億6,486万2,000袋が見込まれるが、生産減少に伴う輸出需要の減少(▲509万2,000袋、主にブラジルの輸出減少に因るもの)によって前年比▲364万袋の減少が見込まれる。
需要も減少するのだが供給の減少がそれを上回るため、価格に対する説明力が高い需給率は91.7%と、過去、価格が最も上昇した2011年の91.2%を上回る過去最高になると予想される。この状況を勘案するとコーヒー豆の価格はさらに上昇してもおかしくない。
アラビカ豆価格に対する説明力が高い昨年12月末時点の認証在庫は、既に154万1,000袋と過去5年の最低水準である142万袋に迫る低い水準であり、その後も減少を続けて直近では112万3,000袋まで減少している。これは同じ時期の過去5年の最低水準である143万1,000袋を大きく下回る水準だ。
即ち、昨年12月の米農務省の需給見通し発表から、さらに需給環境がタイト化している可能性が高いことを示している。
さすがに価格上昇が顕著であるためブラジルからのアラビカ豆の輸出は314万2,000袋と過去5年の最高水準である312万袋を上回り、輸出市場の需給緩和に寄与すると思われるが、ブラジル自体の生産が最も危ぶまれている状況であることを考えると、高水準の輸出が継続するとは言い難い。
2021-2022年の期初在庫は336万5,000袋であり、輸出余力が充分とは言い難く、当面価格は高止まりする可能性が高い。
また、肥料価格の高騰も無視できない。グリーン・マーケッツ提示の北米肥料価格指数の2022年の平均は1,029ドル/ショートトンと、昨年同時期の537ドル/ショートトンと前年比+91.6%の上昇となっている。
背景にはロシアのウクライナの侵攻、それに対する制裁強化を受けた石油・ガス供給の不足がある。コーヒーも他の農産品と同様、有機農法にシフトして化学肥料を使わないようにする動きもあるが、化学肥料を使用しているケースは多い。
より安価な廃棄物を用いた肥料へのシフトが加速する可能性もあるが、同時に生産性が低下するリスクもあるため、肥料の転換が進めば生産性が低下し、そのまま肥料を用いれば肥料価格の高騰で生産コストが上昇して価格が上昇する可能性もありえる。
今後、異常気象が続き、ロシアのウクライナ侵攻が長期化する可能性が高まる中では、アラビカ豆価格が高止まりする展開が予想され、アラビカ豆価格が高値で推移すれば歴史的に見ても割安感が出ているロブスタ豆が代替品として物色される展開は充分に考えられる。
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