CONTENTSコンテンツ

米国経済軟着陸を巡る不安感
  • MRA外国為替レポート

2022年5月9日号

◆先週の市場総括


先週は米国で重要指標のほかFOMC(米連邦公開市場委員会)など重要なイベントが相次いだ。最も注目を集めたFOMCでは事前予想通り0.50%の利上げが実施された。

今後2会合連続での利上げも明言されたが、0.75%の大幅利上げも想定されるなか0.50%として検討外とされた。バランスシート縮小は想定より当初は緩慢なペース。

株式市場はそうした慎重な姿勢を当初は好感し急騰したものの、逆にインフレ抑制が難しくなり、急速な利上げで経済の軟着陸も困難になるとの見方が広がると急落。荒れ相場となった。

長期金利は一段と上昇して10年債利回りは3.1%に。ナスダック指数は年初来安値を更新して大幅下落。ISM景気指数は予想より弱め、雇用統計は堅調な雇用情勢が続いていることを示した。

ドル円相場は米金利上昇に支えられたものの、事前の予想通り、かつ株価波乱でリスク選好が抑制されたことで130円を巡り上下した。ユーロドル相場もドル高一服。

月曜日の東京市場では日経平均が小幅安。FOMCを前に買い手控え、連休の谷間で市場参加者が少なく動意に乏しかった。週末に米国株が大幅安となったのに比べて落ち着いた値動き。引けは前週末比▲29円安の26,818円。

ドル円相場も130円をはさんで方向感なく上下。129円80銭で始まり早朝に130円30銭に上昇したが9時頃には129円60銭に反落。その後は130円10銭~20銭でもみ合い15時には130円50銭。

ただ欧州市場から米国市場朝方にかけて129円70銭に反落した。

ユーロ円相場は136円80銭から137円30銭台に上昇したものの136円70銭に反落。その後は上下しながら持ち直し夕刻、欧州市場朝方には137円70銭。ユーロドル相場は1.0550で始まり軟調。15時頃には1.0510。

ただ16時過ぎには大きく反発して1.0560に戻した。ユーロは米国市場にかけて反落、上下しながら軟調。ユーロドル相場は1.0510へ、ユーロ円相場は136円60銭へ下落。その後はそれぞれ1.0510~30、136円60銭~80銭で上下。

その後は1.0490、136円30に下落して引けは持ち直し、1.0510、136円80銭。ドル円相場は130円10銭~30銭で上下して20銭近辺で引け。

米国株はハイテク株が堅調。NYダウは午後に▲500ドル安となったが引けにかけ下げ渋り、前週末比+84ドル高の33,061ドルで引け。ナスダックは+201ドル高の12,536ドル。

発表されたISM製造業景気指数が弱く売りを誘う場面もあった。供給制約やインフレが企業景況感を圧迫。ディフェンシブ銘柄が軟調、ハイテク株が堅調。VIX指数は▲1.06ポイント低下の32.34。

ISM製造業景気指数(4月)は前月57.1から58への改善予想に反して55.4と悪化。2020年9月以来の低水準。雇用指数が56.3から50.9へ、新規受注指数は53.8から53.5へ、価格指数は87.1から84.6へそれぞれ低下した。

米10年債利回りは一時3.01%に乗せた後低下して2.977%。ただ既往高水準。2年債利回りは2.73%。5年債利回りは3.00%。

火曜日の東京市場は休場。アジア時間のドル円相場は130円20銭で始まり129円90銭~130円ちょうど近辺でもみ合い。夕刻には持ち直し130円30銭。

ユーロは引き続き軟調。ユーロ円相場は136円80銭で始まり136円60銭~80銭で上下動。夕刻には137円10銭に上昇したが136円60銭に反落した。

ユーロドル相場は1.0510で始まり1.0530に上昇したがじり安。夕刻から欧州市場では1.0490~1.0530で上下した。米国市場朝方は米長期金利の低下にともないドルが軟調。

ドル円相場は129円70銭に下落。ユーロドル相場は1.0570へユーロ高ドル安。ユーロ円相場はユーロ高につれ137円30銭に上昇。

米10年債利回りは2.91%に低下した。ただ経済指標が強めだったことから長期金利は上昇に転じ、引けは2.981%。2年債は2.784%。

ドル円相場は持ち直して130円10銭~20銭。ユーロドル相場は1.0520~30に反落。ユーロ円相場は136円90銭~137円ちょうどで上下した。

米国株は小幅高。NYダウは+67ドル高の33,128ドル、ナスダックは+27ドル高の12,563ドル。VIX指数は▲3.09ポイント低下して29.23。

米国の製造業新規受注(3月)は前月比+2.2%と前月▲0.5%の減少から増加に転じた。JOLT求人者数(3月)は前月11,266千人から11,549千人に微増。いずれも予想より強い数字だった。

水曜日の東京市場は引き続き休場。アジア時間の為替市場はFOMCの結果を前に様子見、小動き。ドル円相場は130円10銭~20銭でもみ合い。ユーロ円相場は136円90銭~137円ちょうどでもみ合い、その後は80銭~90銭とややレンジを下げた。ユーロドル相場は1.0520~30でもみ合いの後1.0510~520。

欧州市場から米国市場朝方にかけてはややユーロ高ドル安。ユーロドル相場は1.0550へ、ユーロ円相場は137円ちょうどへ上昇。一方ドル円相場は129円80銭に下落した。

その後FOMC結果を前に130円を挟んで上下。ユーロドル相場は1.0530~560、ユーロ円相場は137円ちょうど~20銭。

注目のFOMC声明文では、予想通り0.50%の利上げが決定され、FF金利誘導水準は0.75%~1.00%に。バランスシート縮小は6月1日に開始。6月、7月、8月、は毎月475億ドルの縮小とし、9月以降は最大950億ドルとされた。

タカ派から0.75%の利上げを主張する反対意見はなく全会一致だった。

予想通りの利上げ、バランスシート縮小はやや慎重で、ドルは下落。さらにパウエル議長の会見を受けて過度な引き締め観測が後退してドルは大幅安。

ドル円相場は129円80銭に下落した後、さらに128円60銭台に急落した。引けにかけてやや持ち直し129円10銭台で引け。ユーロドル相場は1.0620へ急騰。

ユーロ円相場は136円60銭に下落した後、持ち直して137円20銭で引け。ドルインデックスは前日からおよそ1ポイント下落して102.51。

パウエル議長は、インフレ高騰への不快感をあらたに表明する一方、景気の底固さにも言及した。ただ今後0.75%の利上げは積極的には検討しない、として否定的な考え。今後2会合では0.50%の利上げが妥当との見方を示した。

また9月以降のバランスシート縮小も上限額を下回る可能性が大きいと述べた。

米10年債利回りはやや低下して2.946%。2年債利回りは低下幅が相対的に大きく2.654%。米国株は過度な引き締めへの警戒感が後退して急騰。NYダウは前日比+932ドル高の34,061ドル、ナスダックは+401ドル高の12,964ドル。VIX指数は▲3.83ポイント低下して25.42。

発表されたISM非製造業景気指数(4月)は前月58.3から57.1へ改善予想に反して悪化。ADP雇用報告(4月)は雇用者数前月比、247千人増と前月455千人増から増加ペースが予想350千人増を下回って鈍化した。

木曜日の東京市場は引き続き休場。アジア時間の為替市場ではFOMC後の流れのままドルが底固い値動き。

ドル円相場は129円20銭で始まり50銭台に上昇した後128円80銭に反落したが、夕刻から欧州市場にかけて129円80銭に上昇した。ユーロドル相場は1.0620で始まり軟調。夕刻には1.0580~1.0610でもみ合い。

ユーロ円相場は137円20銭で始まり136円90銭に下落した後は、持ち直し137円40銭~50銭で上下動。米国市場にかけては大きくドル高が進んだ。

FOMCの結果を受けて、また経済指標から、FRBによるインフレ抑制は難しく金融引き締めが長期化し、景気が悪化、経済の軟着陸は難しいのではないかとの見方が強まった。

米10年債利回りが一時3.1%に上昇。労働生産性(1-3月期)が前期の+6.6%から一転して▲7.5%に悪化しインフレ加速要因を示しているとの見方が広がった。

また決算発表では中国懸念やインフレに伴う消費減退の見方などが示されて不安を誘った。米国株は大幅急落。NYダウは一時前日比▲1,300ドル安。引けは▲1,063ドル安の32,997ドル。

ナスダックは金利上昇による高PER銘柄の大幅安から▲647ドル安の12,317ドルと年初来安値を更新した。VIX指数は+5.78ポイント上昇して31.20。

米10年債利回りの引けは3.035%、2年債は2.712%。ドル円相場は金利上昇につれて130円50銭近辺でもみ合い、金利上昇一服で130円ちょうど近辺に反落したあと引けは130円20銭近辺。

ユーロドル相場は大きくユーロ安ドル高が進み1.0500~20で上下、引けは持ち直して1.0540。ユーロ円相場は136円90銭~137円50銭で大きく上下したあと、137円ちょうど~30銭近辺で引け。

ドルインデックスは103.55に上昇した。この日、イギリス中銀は金融政策決定会合で予想通り政策金利を0.75%から1.00%に引き上げた。

金曜日の東京市場では日経平均が底固い値動き。連休中に米国株が大きく乱高下、下落したことで、朝方はグロース株中心に売り先行。月曜日比▲200円超下落したものの下げ幅は限定的。バリュー株中心に買われた。

決算への期待や円安継続で輸出関連株が買われた。引けは+185円高の27,003円と大台を回復。

ドル円相場は130円20銭で始まり昼前に80銭へ上昇。ただその後は反落。午後から欧州市場にかけては上下しながら下落し130円20銭台をつけた。米国市場朝方、雇用統計発表前は130円50銭近辺。

ユーロドル相場は1.0540で始まり一貫して軟調。欧州時間朝方は1.0480へ下落した。ただその後急反発。1.0590へ上昇した。

ユーロ円相場は137円30銭で始まり50銭~60銭で上下した後、136円80銭に下落。その後欧州時間に入ると急反発して138円10銭。ECB理事が早期利上げを支持する発言をしたことでユーロが反発した。

発表された米雇用統計(4月)は総じてしっかりした数字だった。非農業部門雇用者数・前月比は428千人増と前月と同水準の大幅増で予想330千人増を上回った。

失業率は3.6%で前月と変わらず低水準。平均時給は前年同月比+5.5%と前月+5.6%から伸びがやや鈍化したが引き続き高水準。

直後のドルは乱高下。ドル円相場は130円20銭台~70銭で上下。ユーロドル相場は1.0560~90で上下動。ただ米長期金利が上昇し引けにかけてはドルが堅調となった。

ドル円相場は130円60銭近辺、ユーロドル相場は1.0550近辺で引け。ユーロ円相場は137円80銭~138円10銭で上下した後引けは137円70銭。

米10年債利回りは3.142%に上昇。2年債利回りは2.735%。米国株は荒れ相場。インフレ長期化懸念からNYダウは一時▲500ドル続落。その後引けにかけては買い戻され▲98ドル安の32,899ドル。

長期金利上昇を嫌気してハイテク株、高PER銘柄は売られ、ナスダックは▲173ドル安の12,144ドルと年初来安値を更新して2020年11月以来の安値。VIX指数は▲1.01ポイント低下したが30.19と高止まり。

◆今週の3つの注目ポイント


1.米国の経済指標

市場で今後想定されるFRBの金融引き締め策ではインフレ抑制が難しいのではないか、との疑念が強まるなか、足元の物価指標は注目される。強い数字となれば市場の警戒感は一段と強まりかねず株価の波乱、リスク回避となる可能性があるので留意を要する。

水曜日 消費者物価指数(4月、前月比、予想+0.2%、前月+1.2%、コア指数、予想+0.4%、前月+0.3%、前年同月比、予想+6.1%、前月+6.5%)

木曜日 生産者物価指数(同、前年同月比、予想+10.6%、前月+11.2%、コア指数、同、予想+8.9%、前月+9.2%) 米週間新規失業保険申請件数

金曜日 輸入物価指数(4月、前月比、予想+0.6%、前月+2.6%) ミシガン大学消費者信頼感指数(5月速報、予想63.6、前月65.2)

2.日銀金融政策決定会合議事要旨、日本の経済指標

月曜日に日銀金融政策決定会合の議事要旨が公表される。今会合では現状の長期金利上昇抑制策を強固なものとするため、無制限の債券購入・指値オペを連日実施し常態化することを決定した。

その背景にある超金融緩和姿勢をあらためて確認することになるか。欧米各国との金融政策スタンスの違いがあらためて意識され、円安を促すこととなるか。

経済指標としては、木曜日の国際収支(3月)が為替需給面からの円安圧力をあらためて意識させるか。景気ウォッチャー調査(4月)は心理悪化・景気低迷継続を示すか。

3.中国の経済指標

感染拡大・ロックダウン地域の拡大により、中国景気の先行き懸念が強まっている。そうしたなか月曜日に発表される貿易収支(4月)は中国経済が直面するリスクを匂わせるか。

水曜日には消費者物価・生産者物価(4月)が示される。消費者物価は前年同月比、予想+1.9%、前月+1.5%、生産者物価指数は予想+7.8%、前月+8.3%、と消費者物価と生産者物価の伸び率格差が縮小する予想となっている。

◆今週のMRA's Eye


米国経済軟着陸を巡る不安感

ゴールデンウィーク中の米国株は荒れ相場となった。

FRBは予想通り0.50%の利上げを実施し、バランスシート縮小開始を決定した。ただパウエル議長は今後0.75%の利上げの可能性を否定。今後2会合連続で0.50%の利上げを実施することを示唆し、市場の急速な利上げ観測を抑止。またバランスシート縮小についても、6月開始とし、8月までは475億ドルの縮小にとどめ、9月以降の上限を950億ドルとする漸進的なスタンスを示した。

また9月以降もその上限に達しないことが多くなるとの予測も示している。総じてみれば、急激な引き締めを警戒していた市場の想定よりもやや穏やかとの印象だ。

株式市場は、想定よりも穏健なスタンスに当初は安心感を抱き、決定当日こそ米国株は大幅上昇となった。

しかし翌日以降はそれを上回る急落となり、ナスダック指数は年初来安値を更新している。米10年債利回りは3.1%へ上昇した。FRBは急激な金融引き締めによる悪影響、市場の混乱を抑止するつもりだったようだが、結果は裏目に出たようだ。

こうしたFRBのスタンスでは、足元で進むインフレ高進を抑止できないのではないか、結果的に急速な利上げ、引き締めに追い込まれるのではないか、利上げよりもインフレ高進によって消費の減退や企業業績の悪化が生じるのではないか、との不安が台頭したようだ。

FRBは景気堅調を損なわずにインフレを抑制するという米国経済の軟着陸を目指しているが、それが難しいとの見方が強まっている。

今後の利上げやバランスシート縮小をFRBが示したことは異例。今後3ヵ月程度は予測可能となり、金融政策を巡る不透明感が排除されたという利点はある。

しかし、今後3か月間で状況が変化した場合、それでも今回のような事前の決定のまま引き締めを実施できるのか、スタンス変更するようならFRBの信認が失われかねない。

インフレが想定外に高まり鈍化の兆しがなければ0.75%の利上げを迫られることはないか。逆に景気減速やインフレピークアウトの兆しがみえるなかでも0.50%の利上げを継続し、バランスシート縮小を9月以降加速するのか。

状況が極めて流動的ななかで、今後数か月にわたる確定的な政策を示すことに、漠たる不安感が強まった可能性はある。

中国経済はロックダウンの強化により足元で景気減速感が否めない。グローバルな生産物流ロジスティックスへの悪影響が当面続くと懸念される。感染抑制が叶えば数か月後には状況が改善されるとみられるが不透明だ。

またロシア・ウクライナ情勢の不透明感も拭えない。ロシア産天然ガス・原油輸入の制限・禁止により、欧州経済あるいは世界経済全体へのネガティブな影響が顕在化し始めるのはこれからとみられる。

ECB内ではインフレ抑止のため早期利上げに前向きな意見が散見されるが、欧州では米国以上に経済軟着陸が難しくなっている。欧米ないし日本についても、今後の企業業績不透明感は今後さらに高まるとみられる。

世界の金利動向・水準を左右する米国の長期金利は、インフレが高進した状態では低下しにくい。

インフレピークアウトが経済指標で確認されるのが好ましいが、それまで今しばらく時間がかかりそうだ。

長期金利上昇は資産価格にとって逆風となる。株式市場は引き続き荒れ相場、乱高下を続けると想定される。ナスダック指数が年初来安値を更新していることにみられる通り、リスク選好は抑制された状況が続きそうだ。

ドル円相場の見通しはこれまでよりも不透明となってきた。

米国の利上げ進捗、米長期金利の上昇は、金利面からはドル高要因だ。3%台の米10年債利回りは投資家にとって魅力的だろう。FF金利が3%を超えて上昇する可能性はあるが、一時的とみれば、ドル金利のなかで考えても投資水準として見合う。

ただ、逆にいえば、日本の投資家からみて、為替ヘッジコスト=日米短期金利差を支払って投資しても良い。

現状、すでに大きくドル高円安が進んだ状況からは、為替ヘッジをした米国債投資が合理的。米国債への資金流入がドル買いを伴わない可能性がある。

日米金利差の拡大がドル高円安と連動、相関を有するが、投機的なドル買い円売りで、相関が強化される状態、自己相関、となっている可能性がある。

株式市場が荒れ相場を続け、あるいは大きく調整し、ボラティリティが上昇、リスク回避が強まった状態では、日米金利差とドル円相場の相関が崩れる可能性がある。

投機筋の動きは相関の変化に弱い。

インフレ高進、景気・企業業績への懸念、米国経済の軟着陸への不透明感・不信感、のなかで、米長期金利が上昇ないしドル金利が上昇しても、必ずしもドル高とならない点には留意を要する。

投機筋の手仕舞いは、現時点では円買い戻しであり、短期的円高リスクは強まった状態だ。

ただ中期的に米国景気減速、需要減退、資源価格調整、長期金利ピークアウト、となる可能性は以前より高まっている。ドル円相場のリスクバイアスは、ここまではドル高円安サイドだったが足元では中立に変化。短期的にはドル安円高サイドと判断される。


主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
【MRA外国為替レポート】について