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露ガス供給停止と中国対策期待で一部銘柄上昇
  • MRA商品市場レポート

2022年4月27日 第2182号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「露ガス供給停止と中国対策期待で一部銘柄上昇」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品市場は広く買い戻しが入り、自国通貨建て商品や、その他農産品などが水準を切り下げる展開となった。

前日の下落が大きかったこともあってまずは買い戻しからスタートとなった商品が多かったが、中国の景気刺激策や、ロシアが実際にガス供給を停止し始めたことなどが材料となり結果的に景気循環系商品価格が上昇する展開となった。

「ロシアからの供給を止めることはできないし、それはロシアもできないだろう」という見方がこの数週間で強まっていたが、ロシアから影響の小さい国(規模が小さい、あるいは既に在庫が十分)を対象に制裁を行い始めたことで、このロジックが当てはまらない、との見方が再び強まったことは、昨日のある意味最大のイベントだったかもしれない。

中国では景気刺激、特に中小企業の資金繰り支援に舵が切られたが、シャドーバンキングを通じた資金調達が規制される中では、銀行側が野放図に資金を供給できる訳ではないこと、コロナで経済活動が止まっていることに変わりはないことから、恐らく今回の預金準備率引き下げが景気にプラスに作用するのはGW明け以降になるのではないか。

【本日の見通し】

本日は足下、価格への影響が大きくなっている株価動向に左右され、どちらかと言えば軟調な推移になると予想される。

しかし、中国政府の景気刺激やロシアからのエネルギー供給途絶、といった固有の材料もあるため、需給ファンダメンタルズ面が価格を下支えし、結局高値圏での推移になると予想される。

本日発表の材料で注目は、3月の中国工業利益。先ほど発表され、恐らく減速すると見ていたが、前年比+8.5%(1-2月期+5.0%)と伸びが加速しており、鉱物資源セクター価格の上昇要因となる。

【昨日のトピックス】

昨日は株価が大幅に調整、企業決算や決算見通しの下振れが意識されたため。市民の不満を解消するためのインフレ抑制策(金融引き締め)が奏功しておらず、金利は上がるが物価やモノの価格は高い、という状態が米国では続いている。

株の下落と共に長期金利が低下した。即ち、FOMCメンバーが想定しているほどのペースでの利上げは困難と市場が考え始めていることを示唆している。ある意味かなりのペースで金利が上昇してきたので、スピード調整だろうか。

実際、昨日の米新築住宅販売は前月比▲0.6%予想のところが▲8.6%と大幅な減速、コンファレンスボード消費者信頼感指数も現況指数が152.6(前月153.8)と減速しており、金利上昇や物価上昇亜景気に悪影響を及ぼしつつある状況。

循環的には景気が減速する局面であるため、統計数値が悪化しても自然なのだが、今年の年末の選挙を睨むと景気を悪くするわけにも行かず、ということもあり、政府の圧力もあってFOMCがスタンスを変更する可能性があることから、今後のFOMCメンバーの発言を再び注視する必要が出てきた。

◆石炭

豪州石炭スワップ先物価格は小幅に下落した。新規手がかり材料に乏しいが、中国の石炭不足は続き、主要国の石炭輸出も減少していることからこの時期としては異例に高い水準での推移が続いている。

最大消費国でありかつ、最大生産国である中国の生産が、苛烈なロックダウンの影響で停滞していることも価格を押し上げている。

しかし、やはり景気への懸念が強いこと、中国の増産観測もあるため期先の価格は総じて安い(それでも十分高い水準)。

中国は、以下の理由から引き続き石炭不足・電力不足が発生する可能性を懸念している。

1.ロックダウンの影響2,コロナの影響による燃料輸送の障害3.異常気象による水力発電の不足4.電力価格に制限が設けられていることによる石炭生産の阻害

中国政府は2022年の石炭生産目標は昨年12月の過去最高水準を上回る1,260万トン/日(3億9,060万トン/月)に設定してるとされ、これが達成されるとほぼ輸入が不要となる。逆に言えば中国は脱炭素を実施するつもりはない、といえる。

なお、3月の中国の石炭生産は、前年比+16.1%の3億9,600万トン(1,277万トン/日)まで急増しており、燃料炭輸入需要は減少している。ただし、目標は下回っている。

足下中国の6大電力会社の石炭在庫は過去5年の最低水準を上回っているが、在庫日数は同じ時期の過去5年の最低水準よりも低く、供給は十分とはいえない。

なお、港湾在庫は減少しているが、国内供給を優先させる方針のため輸入が減少しており、在庫が減少していてもある意味当然かもしれない。

本日も特段石炭供給・需要に関わる状況に大きな変化がない中、高値での推移を継続すると見ている。中国やインドの石炭在庫が十分でないこと、欧州の脱ロシア炭の動きを受けて価格は高値を維持すると考える。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物市場は大幅に上昇した。ロシアがポーランド、ブルガリア向けのガス供給を停止した、との報道を受けて需給逼迫懸念が強まったことが背景。

昨日、Gazpromがポーランド向けのガス供給を停止したと、ポーランドのガス大手PGNiGが発表した。ブルガリアも27日~ガス供給が停止されるという。

ルーブルでの支払いを拒否したことが理由のようだが、ロシア侵攻のある意味最前線にある国をターゲットにした報復といえる。

ポーランドのガス貯蔵キャパシティはそれほど大きくなく、現時点でもタンクの75%程度の在庫積増しが終了しており、直ちに供給不安が顕在化するわけではないが、ブルガリアは17%程度しか在庫を積んでいないため、今後の供給リスクは小さくない。

欧州全体の在庫はタンク貯蔵量の31.6%(前日31.1%)と増加はしているが在庫積増しは遅々として進んでいない。

今回のロシアのガス供給停止の動きが本当に広がれば、冬場に向けた在庫積増しが困難になり価格上昇のみならず、供給不安が顕在化する。この場合、欧州がエネルギーを巡って分裂、ということもあるため小さなリスクではない。

大きな方向性として、欧州は脱ロシアを推進する計画であり、引き続きLNGを積極的に輸入すると予想される。

しかし、LNGのターミナルを有しない域内最大のエネルギー消費国であるドイツは、

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかないが、結局その大半はロシアからの輸入に頼らざるを得ない。

米国天然ガス先物市場は上昇。欧州ガス価格の急騰を受けて、輸出需要が増加すると見られたことが背景。

北米の天然ガス・プロパンガス在庫の水準は過去5年と比較して低い状況が続いている。

JKM先物は期近が小幅に下落したが、需要期となる夏場以降の価格は大幅に上昇、期先は下落した。今冬の上昇は欧州向けのガス供給をロシアが停止し始めたことが材料であり、期先の下落は景気の減速に伴う需要減少が意識されたと考えられる。

岸田総理大臣が原発再稼働に関して発言をしたことが、天然ガス需要を減らす、として価格が下落した可能性も否定はしないが、JKM市場の流動性は投機が主体で動くほど流動性があるわけではないため、やはり何らかの理由で実需筋が売りを入れたためと考えるのが妥当だろう。

4月17日時点の日本の発電用LNG在庫は176万トン(前年同月末201万トン、過去4年平均190万トン)と先週から小幅に増加した。今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の供給不足のリスクは小さくない。

4月18日~24日のLNGトレードだが、取引量は720万トン、スポット取引のシェアは23%と前週の19%から上昇。

スポット契約は欧州向けが+30万トン程度増加、主にイタリアと英国向け。長期契約ベースの数量は▲3%と減少。フランス向けが減少した。日中台韓向けの輸出は横這い。

注目すべきはロシアヤマルからのLNGが、インド、インドネシア、ベルギー向けに増加している点。イタリアなどの輸入は主に米国・カタール産。

本日もロシアからの供給途絶が一部顕在化したことを受けて、スポット価格は上昇すると予想される。ただし、中国・欧州の景気減速の可能性が高まっているため、上昇余地も限られよう。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は上昇した。中国政府がロックダウンの影響で停滞する景気を刺激する目的で経済対策を実施する見通しを示したことで、景気への過剰な懸念が後退したこと、この数日の大幅な下落で割安感から買いが入りやすい地合にあったことが材料となった。

非鉄金属の需給は足下、中国の景気減速観測で緩和しており、中国からの精錬品輸出も貿易統計で確認出来る限りでは増加している(アービトラージがオープン)。

そのため、足下の需給は緩和しており、亜鉛とスズ、ごく直近限月の銅を除けば期近はコンタンゴになっている金属が大半となった。

一方、異常気象やコロナの影響、ウクライナ問題で物流に支障を来していること、エネルギーコストの上昇継続などのある意味突発事象がコスト面で価格を下支えする状態は続くと予想される。

本日は中国の景気への懸念が「やや」後退したこと、工業セクター利益の改善から、買い戻しは継続すると予想。ただし、株価が調整していることもあり、株価の影響を強く受けるベンチマークの銅価格には下押し圧力が掛りやすいため、上昇余地も限定されるとみる。

特に上述の期間構造がコンタンゴになっている商品はその傾向(上昇余地限定)が強いと予想。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは小幅に上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は上昇、上海鉄鋼製品先物は下落した。

中国のロックダウンの動きが続いていることで鉄鋼製品価格は調整していたが、その後、中国の景気刺激策の影響で価格は上昇に転じ、鉄鋼原料価格の上昇に寄与した。

中期的には、中国政府は企業に対して2022年の粗鋼生産を2021年を下回るよう指導しており、結果的に鉄鉱石需要が低下する見通し。また、国内生産の増加や投機規制強化によって鉄鉱石価格は低下が見込まれる。

なお、鉄鉱石の国内生産は前年比+4.3%の2億6,800万トンに増加すると見られている(BBGによる推計)。石炭も同様だが、中国は海外資源への調達依存が価格動向を不安定化させるため、環境汚染は一旦横に置き、国内サプライチェーンの拡充に力を注ぐ方針と考えられる。

その意味で、中国は当面、脱炭素を行うつもりはないともいえる。

現在の鉄鋼製品価格を基準にした回帰分析の結果は、鉄鉱石価格が151ドル、原料炭価格が256ドルとなっており、原料炭に関してはまだ水準が高い状態。

本日は中国政府の景気刺激策への期待から、鉄鋼製品価格が上昇すると予想され、鉄鋼原料価格も上昇余地を探る動きになると考える。

◆貴金属

昨日の金価格は米株下落を受けて長期金利が低下、原油価格の上昇で実質金利が低下したことから、リスク・プレミアムはドル高進行で目減りし、▲16ドルの低下となったが、全体では前日比プラスで引けた。

銀・PGMも相場展開は金とほとんど同じだったが、銀は前日比マイナスで引け、PGMはプラスで引けた。

本日も企業決算の不透明感が強まる中で株安が続くとみられることから、実質金利にも低下圧力が掛る可能性があり、貴金属セクターは堅調な推移を予想。

◆穀物

シカゴ穀物市場は上昇。ドル高進行が価格の上昇を抑制しやすいが、そもそもの需給ファンダメンタルズがタイト(生産見通しは明るくない)であることから、価格には需給面で上昇圧力が掛りやすい状況が続いている。

本日も需給ファンダメンタルズがタイトであることから上昇余地を探る動きになると予想するが、株安を受けたドル高が進行しており、上値も思いと予想。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

むしろこの可能性は高待っており、もはやメインシナリオか。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・ロシア・ウクライナの衝突の影響が長期化し、欧州を中心に景気が減速する場合。

また、ロシアに対する制裁がロシアが主要生産地である商品の供給を制限し、価格を押し上げ、景気を悪化させるリスク(価格下落要因)。

ウクライナへの侵略戦争は長期化がほぼ確実であり、景気下押し要因となるという展開はメインシナリオとなる可能性。

・ロシア国債のデフォルトや、ロシアからのビジネス撤退が企業や信用市場に大きな影響を与え、クレジットクランチ(信用収縮)が発生する場合。

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。


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