CONTENTSコンテンツ

中国景気刺激で総じて堅調
  • MRA商品市場レポート

2022年5月23日 第2200号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「中国景気刺激で総じて堅調」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品市場は総じて堅調な推移となった。米国のインフレがピークアウトした、との期待感が高まる中で過度なリスク回避姿勢が緩和したこと、急速に経済環境が悪化している中国が、景気刺激のために貸出金利を引き下げたことで、特にこれまで売られてきた工業金属が物色される流れとなった。

これまで金利引き上げとそれに伴う景気の減速への懸念が強かったが、「あと2回の政策会合で50bpの利上げを行い、その後は様子見になるのではないか」といった見方も出始めており、過度なリスク回避を見直す動きになっていると考えられる。

しかし、仮にそうだとしても、昨年後半にピークアウトしている景気の軌道にもどっただけ、とも言え、一旦買い戻しが広く入って上昇した後、供給に大きな問題がない商品を除けば徐々に水準を切り下げる動きになると予想される。

【本日の見通し】

週明け月曜日は目立った手がかり材料に乏しく、中国の景気刺激や、米国のインフレピークアウト期待などを背景とするリスク資産の打診的な買いにより、商品価格は総じて底堅い推移になると予想される。

リスクイベントとすれば、アトランタ連銀総裁が講演を予定しているが、アトランタ連銀のボスティック総裁はこの数週間比較的タカ派な発言を繰返しているため、再び金融引締めやQTが意識されてリスク資産価格を押し下げる可能性はある。

【昨日のトピックス】

昨日発表された日本の4月の生鮮食品を除く消費者物価指数は、ついに前年比+2.1%となり、物価上昇目標の2.0%に達成、黒田総裁は退任前に公約としていた2.0%の物価上昇率をヘッドラインCPIベースでは達成した形となった。

ただ、これはクロダノミクスが成功したから、ということではなく海外の資源価格が上昇し、コロナやウクライナ情勢の悪化によって物流が停滞、それに伴う調達コストの上昇が物価を押し上げただけであり、典型的なコストプッシュ型のインフレ、といえる。

ただ、非常にフェアに考えると、食料及びエネルギーを除いた「コアコアCPI」は前年比+0.1%と2.0%には達しておらず、これを当初目標の2.0%に押し上げるとするならば、それが我々の生活にプラスかどうかは別にして緩和継続は妥当、ということになる。

日銀の金融緩和は日米の金融政策格差から円安に働くが、米国のインフレがピークアウトした可能性があり、景気の減速観測が強まる中ではドル高・円安傾向にも調整圧力が掛ってもおかしくない状況だ。

ただ、金融政策格差は厳然と残るため、円安水準が続くことは変わらない。輸出企業など海外で事業を展開している企業にとっては円安は慈雨となるが、内需型企業にとっては明らかにマイナスとなる。コストプッシュ型のインフレに消費者が耐えられないためだ。

今後、恐らく海外市況から時間差をもってコアコアCPIにも上昇圧力が掛ると予想される。このときにGDPの6割を占める個人消費にどの程度の悪影響が出るか。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇した。目立った手がかり材料に乏しい中、週末を控えた買い戻しが優勢になったためと考えられる。

今週WTIとBrentの価格が逆転した。米国内の需要が堅調に回復、低迷していたジェット燃料の出荷も回復、ほとんど全ての原油・石油製品在庫の水準が過去5年の最低水準を下回る中、需給がタイト化していることがWTIを押し上げている。

これに対して経済的な繋がりが大きく、中国のロックダウンの影響をより受けている欧州の需要が減速していると見られ、WTIとBrentの価格差に影響していると考えられる。

今後は米金融引締めや製品価格上昇に伴うレーショニング発生、循環的な景気の減速により、年後半に掛けては価格が下落するという見通しに変わりはないものの、短期的には高値を維持しそうだ。

年後半でやや気になっているのが、OECDで協調放出した原油の「在庫再積増しが即時に行われるかどうか」。現状を考えると先送りされることになるとは思うが、仮に価格が下落していて、やはり在庫積増しとなれば価格の上昇要因となる。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は2.のステータスにあるが、場合によると3.に移行する可能性がある。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない(ないしはその可能性が強く意識される) Brent 120-140ドル

2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 95-125ドル

3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 90-120ドル

4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 85-120ドル

5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-105ドル

↑ 上記は停戦が行われない場合のシナリオ

↓ 下記は停戦が行われた場合のシナリオ(現在は徐々にこちらに移りつつある)

6.ロシアがウクライナから撤退するが原油の脱ロシアが進むBrent 95-115ドル

7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-100ドル

8. 脱ロシア完了(東西諸国の分裂が発生した場合)Brent 60-90ドル

9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。OECD諸国の戦略備蓄130万バレル放出は半年の時限付。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

週明け月曜日は目立った手がかり材料に乏しく、株式市場のリスクテイク先行の回復動向を受けた為替動向に左右され、結局高値でのもみ合いになると予想する。

◆石炭

豪州石炭スワップ先物価格は上昇して420ドルを目指す展開となった。特段材料はなかったが、中国・インドなどの主要国の在庫が不充分な中、欧州の脱ロシアの動きを受けて高値を維持している。

足下、中国のロックダウンの影響で石炭不足が発生するとの中国政府の見通し通りの展開となっており、石炭輸入を不要とする目的を中国は恐らく果たせていないと考えられること、気温上昇の影響もあって石炭不足に喘ぐインドの調達も増加しているとみられる。

なお、熱量換算ベースでの回帰分析を行うと、石炭価格は過去の価格の関係性と比較した場合原油・天然ガスから大きく上方に乖離しており、需要面というよりは供給面の問題が価格を押し上げていると考えられる。

中国は、以下の理由から引き続き石炭不足・電力不足が発生する可能性を懸念しているが、恐らくこのリスクは顕在化していると考えられる。。

1.ロックダウンの影響

2,コロナの影響による燃料輸送の障害

3.異常気象による水力発電の不足

4.電力価格に制限が設けられていることによる石炭生産の阻害

中国政府は2022年の石炭生産目標は昨年12月の過去最高水準を上回る1,260万トン/日(3億9,060万トン/月)に設定しているとされ、これが達成されるとほぼ輸入が不要となる。

なお、4月の中国の石炭生産は、前年比+12.6%の3億6,300万トン(1,209万トン/日)と前月の+16.1%の3億9,600万トン(1,277万トン/日)からは減少している。

結局、海上輸送炭の輸入需要は昨年までよりは低下しているものの、完全に不要という訳ではない。4月の国別の燃料炭輸入はインドネシアからの輸入が前月比+191万トン、ロシアが+43万トン、カナダが13万トン増加している。

結局、ロックダウンは中国の電力需要を減じるものの、生産も制限するため海上輸送炭市場をタイト化させているといえるだろう。

日本も対岸の火事ではなく、今年の夏は猛暑が予想されているため、石炭価格の高騰が電力会社の業績を圧迫するのみならず、逆ざや発生に伴う電力供給制限が起きる可能性も意識しなければならない状況。

週明け月曜日は目立った手がかり材料に乏しく、需給環境の大きな改善がない中、高値を維持する見通し。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物市場は下落した。ロシアがフィンランド向けのガス供給をルーブル建ての支払いを拒否したことで21日から停止する、と報じられたが、ロシアから欧州へのガスフローは比較的安定しており、かつ、季節的な需要の減少やLNG輸入の増加と相まって、欧州のガス貯蔵施設へのガス流入量が過去5年レンジを上回っていることが、目先の価格を押し下げている。

地味ではあるがこの週末2日間の調整で、長らく上回っていた200日移動平均線のサポートラインをTTF価格は割り込んでいる。

市場参加者の注目点が景気そのものに移行しつつある中、さらに直近価格の水準は切り下がる可能性が出てきた。

LNGのターミナルを持たない域内最大のエネルギー消費国であるドイツは、

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかないが、結局その大半はロシアからの輸入に頼らざるを得ない。なお、欧州全体のガス在庫は19日時点で41.7%(前日41.2%)と順調に在庫が積み上がっている。

米国天然ガス先物市場は下落。欧州ガス価格の下落や週次の価格上昇が顕著だったことから、週末を控えた手仕舞い売りに押されたと考えられる。

JKM先物は期近が小幅に上昇、期先が下落、2023年以降が上昇した。足下、景況感の悪化もあって最大輸入国である中国の輸入需要が鈍化しているが、構造的な調達圧力の強まりに大きな変化はなく、特に今冬の価格は高止まりしている状況。

5月15日時点の日本の発電用LNG在庫は213万トン(前年同月末194万トン、過去4年平均198万トン)と先週から増加した。今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の供給不足のリスクは小さくない。

5月9日~15日のLNGトレードだが、取引量は740万トン(前週836万トン)、スポット取引のシェアは27%と前週の25%から上昇した。

スポット契約は日本・韓国・中国・台湾の輸入が前週比▲25万トンの減少、一方、北欧・イタリアの輸入が+16万トンの増加となった。

長期契約ベースの輸入は、日本・韓国・中国・台湾向けの輸出が+81万トンの増加となった。主に中国と日本の輸入増加(+81万トン)によるもの。一方、北欧とイタリアの輸入は▲52万トンの減少となった。

週明け月曜日も欧州のロシアとのガス供給状況に価格が左右されやすいことに変わりはないが、市場の関心は景気そのものに移っているため、期近に関してはやや下値余地を探る動きになるのではないか。

ただし、構造的なLNG需要の増加に変わりはなく、高値は維持する公算。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格はニッケル・亜鉛が下落したがその他の金属は上昇した。中国人民銀行が5年ローンレートを引き下げ、特に住宅セクターを意識した金融面での支援策が打たれたことで、工業金属・建材向け需要の増加期待が高まったため。

先物価格は調整が進んでいたが、現物の需給逼迫は継続しており概ね、非鉄金属の現物プレミアムは高い水準を維持している。即ちこれまでの調整はややファイナンシャルな材料が影響していると考えるのが妥当である。

実際、これまでの間投機筋のポジション解消の動きが顕著であり、枚数ベースでは4割近くポジションが落されているため、何かしらの「期待需要(いわゆる仮需)」を高める材料には現物需要を有しない投機筋は反応しやすい。

弊社のベースとなる見通しは、世界経済が後退局面入りするまでのオーバーキルは発生しない(回避するための努力が各国行われる)としているが、中国当局もオーバーキル状態を解除したいと考えていると見られる。

しかし、景気にマイナスとなるロックダウンと景気刺激のための金融緩和、といった相反する政策が打たれていることも事実であり、これが中期的なトレンド(数ヵ月)になるかどうかは、どのタイミングでロックダウンが解除されるかどうかに依拠している。

週明け月曜日は目立った手がかり材料に乏しいが、中国政府が景気刺激に少しずつ軸足を移していることから買い戻しで上昇すると考える。しかしロックダウンが解除されたわけではないため、上昇余地は限定されるだろう。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は上昇、上海鉄鋼製品先物は直近限月が下落、中心限月が上昇した。

中国政府が5年ローン金利を引き下げたことや、そろそろロックダウンが解除されるとの期待、割安感などから買い戻しが入った形。鉄鋼製品価格との回帰から推定される鉄鉱石の価格は142ドルであり、現在の134ドル前後は割安である。

また、先日発表された週間の鉄鉱石港湾在庫は前週比▲450万トンの1億3,725万トンと、過去5年平均を上回ってはいるが、在庫の減少ペースが急であり、ロックダウン期間中の在庫取り崩しが顕著だったことをうかがわせる。

在庫日数ベースでは28.7日(前週比▲0.9日)と、過去5年平均(29.9日)を下回った。徐々に需給はタイト化していると見られる。

鉄鋼製品在庫も▲13万5,000トンの1,661万トン(過去5年平均1,301万1,000トン)と減少したが、まだ例年よりも水準は高い。

原料炭の唐山市京唐港の講話在庫は前週比+4万トンの114万トンと、過去5年平均である171万6,000トンを下回る在庫水準となっており、在庫日数も4.4日と過去5年平均の7.1日を大きく下回り、引き続き供給はタイト。

なお、4月の中国の原料炭の国別内訳が発表されたが、全体で輸入量が前月比+49万トンとなっているが、モンゴル(+34万トン)、ロシア(+28万トン)、カナダ(+30万トン)、インドネシア(+12万トン)が増加したが、米国からの輸入が▲28万トン、豪州からの輸入が▲34万トン減少したことがこれを相殺した。

引き続き、中国国内の生産が不充分であり、増産方針であっても海上輸送炭の需要はなくなっていない。

短期的には再びロックダウン継続で水準は低いが、ロックダウン解除後を睨んで中国政府が対策を打ち始めていること、これまでの下落による割安感から上昇すると予想される。

週明け下眺望本日は中国のロックダウン拡大観測が地合を悪化させており、価格は再び鉄鋼製品主導で下落の公算。ただし、鉄鉱石に関しては割安感から、原料炭は供給面の問題から一定の買い需要はあると見られ、下落余地も限定されると考える。

◆貴金属

昨日の金価格はもみ合い、前日比小幅な上昇となった。米インフレはピークアウトしたとの見方が強まる中、長期金利、期待インフレ率とも小幅に調整を始めており、実質金利上昇を背景とする金の基準価格低下には歯止めが掛りつつある状況。

一方リスクプレミアムは高い水準を維持しており、クレジットイベントに備えるための安全資産需要は継続していると考えられる。

銀価格は下落。詳しくはMRA's Eyeを参照頂きたいが、労働者が市場に復帰することで、これまで給付金で取引をしていた個人投資家が「手仕舞い売り」を継続している可能性がある。PGMも大きく水準を切下げた。

週明け月曜日は手がかり材料に乏しい中、引き続き神経質な推移になると考える。ただ、そろそろ調整は一巡、との見方も根強く銀・PGMについては安値拾いの買いで上昇するのではないか。

◆穀物

シカゴ穀物市場はまちまち。

トウモロコシ価格は下落した。そもそも高値圏にある中、遅れていた作付が進捗するのではとの期待感から利益確定の売りが出たためと考えられる。

大豆は上昇。世界的な油脂類の不足の中、米国産大豆の輸出が増加するとの見通しがシカゴ定期を押し上げた。

小麦はインドの輸出停止報道で価格がジャンプしていたが、パニック的な買い戻しが一巡したため水準を切下げていると考えられる。

しかし、2022-2023年の世界の穀物供給は楽観できる様な状況にない。International Grain Councilは、2022-2023年は、小麦の生産が7億6,900万トンと4月見通しの7億8,000万トンから下方修正した。

トウモロコシは11億8,400万トン(11億9,700万トン)、大豆は3億8,700万トン(3億8,300万トン)となる見通し。

輸出はインドの穀物輸出が660万トン(前回調査時1,160万トン)と激減する見通し。ウクライナは2,830万トン(2,060万トン)と下方修正だが、ロシアは4,460万トン(4,180万トン)と増加の見通し。ウクライナから収奪した穀物を転売するから、という見方も出ている。

週明け月曜日も、穀物需給に関わる状況は大きく改善しないとみられ、総じて堅調だろう。下落したトウモロコシや小麦は割安感から買い戻しが入ると考えられる。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・ロシア・ウクライナの衝突の影響が長期化し、欧州を中心に景気が減速する場合。

また、ロシアに対する制裁がロシアが主要生産地である商品の供給を制限し、価格を押し上げ、景気を悪化させるリスク(価格下落要因)。

ウクライナへの侵略戦争は長期化がほぼ確実であり、景気下押し要因となるという展開はメインシナリオとなる可能性。

・ロシア国債のデフォルトや、ロシアからのビジネス撤退が企業や信用市場に大きな影響を与え、クレジットクランチ(信用収縮)が発生する場合。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

◆本日のMRA's Eye


「転換点を迎えた可能性がある銀市場」

大幅に上昇していた銀価格の調整圧力が高まっており、現在の銀価格は21ドル台後半まで低下した。

コロナショック後、30ドルまで上昇していたが、米FRBがインフレ抑制のために利上げを急速なペースで行い、QTも実施する方針を示したことで高値で推移していた貴金属のベンチマークである金価格が下落、それに歩調を合わせる形で水準を切下げてきた。

しかし、下落のペースは金よりも早く、2022年初を基準としたときの騰落率は、原稿執筆時点で金が+0.95%であるのに対して、銀は▲6.58%と明らかに下落が顕著だ。なお、この下落率はプラチナ(▲1.19%)、パラジウム(+3.15%)よりも大きい。ではなぜ銀がここまで売られたのだろうか。

弊社は米国がコロナ禍から脱却し、経済活動が通常に戻りつつあることが要因ではないかと考えている。

まず、銀の需給バランスをSilver Instituteのデータを元にすると、2022年の需給バランスは▲50.2百万オンスの供給不足となる見込みであり、2021年の▲38百万オンスの供給不足から供給不足幅が拡大する見通しだ。

これは主に、工業品、宝飾品などの現物需要が増加(合計+61.8百万オンス)するほか、投機需要(+45.3百万オンス)が増加することによる。

しかし、投機需要は市場のセンチメントに左右されるため、いわゆる景気に連動する実需とは言い難いためこれを除いて考えると、需給バランスは+236.1百万オンスの供給過剰であり、引き続き市場参加者のセンチメントや、投機筋の動向に価格が左右されることを示唆している。

少し視点を変えて2019年頃からの銀の価格を動きを見てみると、米中対立の影響で景気が減速しFRBが断続的に利下げを行ったタイミングで銀価格は上昇しているが、その後、コロナの感染拡大によるロックダウンが米国でも発生、そのタイミングで換金売りに押されて下落した。

しかし、銀価格は2020年3月頃から急速に上げ足を速めた。これは米トランプ政権がコロナの影響で職を一時的に失った人達や貧困層にたいして補助金を支給したタイミングと重なる。

このとき、本当に生活に困っていた人々にとってはこの補助金は生活の足しになったはずだが、一時的な休職、あるいは休職中も給与が一部支払われている中間層以上は、取得した資金を「運用に回していた」可能性は高い。

銀は金と異なり安価であり、「貧者の金」と言われる。実際この時期、SNSの「レディット」で広がった銀を購入しよう運動も上げに拍車を掛けた。

また、2020年7月にはバイデン候補がトランプ大統領への対抗政策として「太陽光パネル数百万枚設置」を公約したことで上昇に火が付いた。

その後、2回補助金が支給されるがいずれのタイミングでも銀価格は上昇している。

しかしその間、経済活動は回復し、労働参加率も徐々に戻り始めた。賃金をもらうよりも給付金をもらっている方が「トク」と判断した人達が労働市場に復帰しなかったため、2021年6月頃から共和党の州知事21人が6月から給付金の上乗せを終了する方針を示したことが切っ掛けとなった。

こうなると「種銭」がなくなるためポジションを解消する人も増えたと考えられる。そしてその後、9月に給付金の上乗せは終了、このタイミングで労働参加率も急上昇し、銀価格に対する下押し圧力が強まる形となっている。

以上を考えると「コロナ前」に戻るのであれば銀価格は20ドル割れまで下落することになる。

しかし、コロナ前には米政権による太陽光パネル設置の話も、ロシア問題を背景とした脱ロシア加速で欧州が太陽光パネル設置を新築住宅に義務づけること、などの追加の材料は含まれていない。現在の水準はほぼ、「バイデンの太陽光パネルショック」直後の水準である。

また、上述のSilver Instituteの予想では投機を除く実需面でも前年からは需給が若干タイトになると予想されていること、を考えると、当面は20ドルが下値として意識され、これをさらに下回るかどうかは、金価格動向に左右されることになると考えられるため、現時点で価格水準を断定するのは難しい。

ただ、現在の銀市場が「転換点」に来ている可能性はあるため、金以上に銀価格動向は注視していきたい。


主要ニュース/エネルギー・メタル関連ニュース/主要商品騰落率/主要指数/市場の詳細データPDFは、有料版「MRA商品市場レポート」にてご確認いただけます。
【MRA商品市場レポート】について