中国の景気不安で鉱物資源安くロシア不安でエネルギー高い
- MRA商品市場レポート
2022年4月22日 第2179号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「中国の景気不安で鉱物資源安くロシア不安でエネルギー高い」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品市場は非鉄金属・鉄鋼原料・貴金属などの鉱物セクターが水準を切下げる一方、エネルギーが上昇した。
鉱物資源セクター価格が下落したことは最大消費国である中国の景況感が思ったよりも回復していないこと、景気刺激策もそれほど大規模なものができる訳ではない、との見方や、遅々として進まないロックダウンの解除による景気への悪影響が強く意識されたことによるものと考えられる。
一方、エネルギーに関してはロシアに対する制裁は続き、供給面が強く意識されている状態に変わりはないことから安値では買いが入りやすく高値を維持しているという印象である。
年末にかけては水準を切下げる見通しであるが、当面、供給懸念が価格を下支えしそうだ。
【本日の見通し】
本日は週末を控えて様子見気分強く、現状水準でのもみ合いを予想する。ただしフォワードルッキングな指標の1つである製造業PMIが発表されるため、その内容によっては景気循環系商品を中心に価格が下振れする可能性があると考える。
市場予想は以下の通り。
ユーロ圏製造業PMI 市場予想 54.9(前月56.5)ドイツ製造業PMI 54.5(56.9)米製造業PMI 58.0(58.8)
なお、先ほど発表された日本の製造業PMIは53.4(54.1)と減速、一方でサービス業PMIが50.5(49.4)と改善した。
【昨日のトピックス】
昨日、G20が開催されたが、ロシアの発言の前に米・英・カナダの参加者は退席、G20は共同声明を発表出来なかった。
その後に開催されたG7では食品やエネルギー価格の高騰に苦しむ新興国を救済するため全ての利用可能な手段を用いる、と声明を発表した。
しかし、そもそもG7諸国は経済規模が相対的に低下し、発言力や影響力が低下したためわざわざG20という枠組みを作った訳で、今からG7で結束を確認しても時計の針が戻ることと同じだ。
さらに、発展途上にある国は、今回のロシア・ウクライナの問題は「遠い対岸の火事」という捉え方であり、それ以上にロシアに対する制裁強化で食品やエネルギーの価格が高騰して、生活に直結するリスクが顕在化している状態の国が多いはずだ。
この場合、明らかにロシアが悪いにもかかわらず「制裁をしている欧米が悪い」という論調になり、専制主義国陣営に帰参する国が増える可能性すらありえる。
国際社会は正念場を迎えているといえるのではないか(詳しくはMRA's Eyeをご参照ください)。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は上昇した。ドル指数の上昇やフィラデルフィア連銀指数の減速はあったものの、供給面の制約への懸念から買い戻しが入った形。結局、ロシアに対する制裁が続く以上、Brentやドバイなどのその他の原油の価格は高止まりしやすい。
今後、どういった形で脱ロシアが完成するか(どのようなエネルギーミックスに落着くか)不透明であるが、少なくとも脱ロシアの最中は原油価格が上昇する可能性は高いと市場は判断していると考えられる。
目先、需給が「直ちに」緩和する材料は以下の通りだが、一長一短である。
1.戦略備蓄放出の大盤振る舞い
2.西側諸国(除く日本)の急速な金融引き締めによる景気減速観測
3.中国のオミクロン株感染拡大によるロックダウン・需要減少
4.停戦
1.は恐らく年後半には「再び在庫を積む動き」で逆に価格上昇要因となり2.は年後半には価格下落要因に3.はこの20年の経験則上、中国の影響はファンダメンタルズ的に大きいはずなのに、なぜかさほど価格に影響を与えず4.はロシア5月9日の終戦宣言を目指しているとされるが、ウクライナの戦況は不透明である。
ロシア以外の供給先としては、米シェールオイル企業の増産(これは米政府も要請済み)、イラン・ベネズエラの供給再開だが、後者はOPEC諸国の反米機運の高まりから容易ではない。
現在のロシア・ウクライナ情勢シナリオ別原油価格見通しでは、脱ロシアに欧州が舵を切る可能性が高まったため、2.のシナリオに近づいたといえる。
下記シナリオは数ヵ月の短期的なものであるが、長期的にはレーショニング・金融引き締めの影響・景気循環による需要減少による「基準価格(供給懸念が後退したときの着地点となる価格)は徐々に切り下がっていると考えている。
なお、年後半に掛けて米金融引き締めが進むことによる景気過熱感の沈静化で、年後半にかけての価格見通しは下向きである。
<シナリオ別原油価格見通し>
1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない(ないしはその可能性が強く意識される) Brent 120-140ドル
2.1.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 105-125ドル
3.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 95-120ドル
4.3.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル
↑ 上記は停戦が行われない場合のシナリオ
↓ 下記は停戦が行われた場合のシナリオ(現在は徐々にこちらに移りつつある)
5.ロシアがウクライナから撤退するが原油の脱ロシアが進むBrent 95-120ドル
6.5.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-100ドル
7. 脱ロシア完了Brent 50-75ドル
8. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル
※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。米国の戦略備蓄100万バレル放出は半年の時限付。
本日も強弱材料が混在する中、基本的には脱ロシアを進める流れを受けて高値を維持すると予想。
◆石炭
豪州石炭スワップ先物価格は上昇して330ドル台に到達。両者影響氏合っていると考えられるが競合燃料の天然ガス価格が上昇したこと、主要輸出国の石炭輸出が過去5年平均を定常的に上回っておらず、供給懸念が根強いため。
中国政府は2022年の石炭生産目標は昨年12月の過去最高水準を上回る1,260万トン/日(3億9,060万トン/月)に設定してるとされ、これが達成されるとほぼ輸入が不要となる。逆に言えば中国は脱炭素を実施するつもりはない、といえる。
なお、3月の中国の石炭生産は、前年比+16.1%の3億9,600万トン(1,277万トン/日)まで急増しており、燃料炭輸入需要は減少している。ただし、目標は下回っている。
足下中国の6大電力会社の石炭在庫・在庫日数は同じ時期の過去5年の最低水準よりも低く、供給は十分ではない。なお、港湾在庫は国内供給を優先させる方針のため輸入が減少しており、在庫が減少していてもある意味当然かもしれない。
中国は、1.ロックダウンの影響、2,コロナの影響による燃料輸送の障害、3.異常気象による水力発電の不足、4.電力価格に制限が設けられていることによる石炭生産の阻害、などから今年の夏、石炭不足・電力不足が発生する可能性を懸念している。
本日も欧州の脱ロシア炭の流れを受けて高値維持の公算。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物市場は上昇。競合燃料の石炭価格の上昇や、ロシアヘの支払いをルーブル建てにしなければガスを供給しない、とのロシアの強硬姿勢、十分在庫が積増しされていないという現実を背景に、調達圧力が強まったため。
欧州の国別の在庫積増し状況を見ると、スペイン(59.9%)やポルトガル(84.7%)はかなり在庫が積増しされているが、ドイツ(31.6%)、フランス(28.1%)、イタリア(32.5%)、ハンガリー(19.0%)と、その他の地域はほとんど在庫が積み増されていないのが実情。
特にロシアに阿っているハンガリーや、マクロンを支持率でルペンが追い上げているフランスの在庫積増しは遅れている。ロシアの制裁を差し置いても、大衆迎合的な政策の方が支持されやすい地合になりつつあることを示唆している。
ただし、ロシアに対する制裁の方向性もある程度固まったが、一応欧州は不需要期に入るため価格への影響が徐々に薄らいできているとの印象を受ける。
大きな方向性として、欧州は脱ロシアを推進する計画であり、引き続きLNGを積極的に輸入すると予想される。
しかし、LNGのターミナルを有しない域内最大のエネルギー消費国であるドイツは、
1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減
によってガス在庫を積み上げるしかないが、結局その大半はロシアからの輸入に頼らざるを得ない。
米国天然ガス先物市場は、週間ガス在庫統計で市場予想を上回る在庫増加が確認されたものの、絶対水準の低さや欧州ガス価格の上昇を受けて輸出が増加するとの見方から上昇した。
これまで欧米のアービトラージ・カーゴは積極的に出ていなかったが、今後米→欧のフローが増加することで米国天然ガス価格と欧州ガス価格の差は徐々に縮小していくことが予想される。
北米の天然ガス・プロパンガス在庫の水準は過去5年と比較して低い。
JKM先物は期近が小幅上昇、期先は大きく上昇した。やはり夏・年末に向けた需要の増加(気温変化による)を見越した買いが価格を押し上げている(今のところ発電事業者のLNG在庫の水準は高くない)。
懸念すべきはかつては10ドル台前半だった2023年の価格が既に25ドルを超える水準まで上昇している点だ
恐らくこれは構造的な上昇であり、脱ロシアが完了するまで続くと想定する必要があるといえる。
岸田政権は原発稼働も視野に入れているが、国内の反対も多く、かつ、稼働に向けたスケジュールを変更しなければ2023年まで再稼働は難しく、実質的に直ちに稼働出来る発電設備にはカウント出来ない。
結果、石炭やLNGによる発電に頼らなければならない状態は続くと予想される。ただ火力発電は老朽設備も多く、安定稼働への懸念も払拭しきれない。
4月17日時点の日本の発電用LNG在庫は176万トン(前年同月末201万トン、過去4年平均190万トン)と先週から小幅に増加した。今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の供給不足のリスクは小さくない。
4月4日~10日のLNGトレードだが、取引量は前週比▲5%の760万トンとなった。スポット取引のシェアは23%と前週の25%から低下。
スポット契約はインドとバングラディシュ向けが33万トン増加、長期契約は韓国や東南アジア向けが減少したが、欧州向けが増加した。
全体で日本中国韓国台湾の輸入は▲44万トン(韓国▲58万トン、中国▲35万トン、台湾+10万トン、日本+39万トン)となった。
本日は季節的に欧州の調達意欲が後退するが、やはりロシアからの供給の不安定さを意識した買いで欧州価格が上昇していることもあり、高値圏での推移を予想。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。
◆非鉄金属
LME非鉄金属価格はまちまちとなった。しばらく落着いていた発電燃料価格が昨日はロシアからの供給不安などを材料に再び上昇したことによるコスト面、昨日は一部の金属で増加したがLME指定倉庫在庫の水準低下による供給面が価格を押し上げる一方、ドル高進行と株安がファイナンシャルな面で価格を下押ししたため。
昨日、複数の鉱山会社が決算を発表したが、概ね「悪天候・洪水・渇水」による生産障害でQ122の生産が前期・前年から大きく減少しているという傾向があった(詳しくはメタル関連ニュースを参照ください)。
コロナやロシアだけではなく、ラニーニャ現象の影響による気象条件の悪化が非鉄金属供給に大きな影響を及ぼしている。
また、石炭などの重要な熱源の供給も異常気象の影響をうけて滞っており、電力価格の上昇を通じて非鉄金属価格の上昇要因となる。
本日も中国のロックダウン解除期待や金融緩和観測が価格を押し上げるものの、中国の景気刺激策の遅れ、再びドル高が進行していることもあり、週末を控えて上値も重いと考える。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は下落、上海鉄鋼製品先物は小幅に下落した。
鉄鋼製品価格はこれまで中国政府による景気刺激策への期待で上昇してきたが、実需の回復は遅れており価格を切下げた。鉄鋼原料も鉄鋼製品価格の下落を受けて小幅に水準を切り下げた。
現在の鉄鋼製品価格を基準にした回帰分析の結果は、鉄鉱石価格が156ドル、原料炭価格が255ドルとなっており、原料炭に関してはまだ水準が高い状態。流動性プレミアムといって良いだろう。
本日は、中国政府の景気刺激への期待や徐々にロックダウンが解除となっていることから鉄鋼製品価格が上昇しやすい一方、物流環境の改善期待が原料供給状況を改善すること、思ったほど最終需要が回復していないことから、現状水準でのもみ合いになると予想する。
◆貴金属
昨日の金価格は実質金利が乱高下したが、引けに掛けて水準を低下させたため、基準価格が上昇、リスク・プレミアムは小幅に下落し、仕上がりで前日比小幅安となった。
銀は金銀レシオを若干引き上げながら金を上回る下落。プラチナ・パラジウムは日中の値動きがほぼ金と同じだったが、工業金属の色彩が強いため株価の下落に押されたかたち。
昨日、弊社も銀価格動向分析の諸元として利用しているシルバー・インスティテュート向けに情報を提供しているメタルズフォーカス社のレポートが公表された。
2022年の銀需要はデータが取得可能な2010年以降で最高になる見通しで、需給バランスは▲7,150万オンスの供給不足に陥る見込みと、昨年の▲5,180万オンスの供給不足から不足幅が拡大する公算。
主に工業需要の増加に因るものだが、特に太陽光向けの需要増加を見込んでいる、ロシア問題を受けた脱ロシアの流れの一貫で、太陽光向けの需要が増えるとみているようだ。
需給バランスの前年比変化は価格に影響を及ぼすため、価格の上昇要因となる。レポートでは供給不足は当面続く公算としつつも、ウクライナ情勢不安や景気減速の可能性が高いことを考えると需要の見通しリスクは下向きとしている(詳しくはメタル関連ニュースを参照ください)。
本日は、金融政策動向を大きく左右する材料が少なく、現状水準でもみ合いが予想される。しかし、プラチナ・パラジウムは独製造業PMI・ユーロ圏製造業PMIとの相関が高く、本日両方とも前月から減速の見通しであり、価格は下押しされると予想。
◆穀物
シカゴ穀物市場はトウモロコシ・小麦が下落、大豆が上昇した。
トウモロコシは米週間輸出統計が市場予想を下回ったことで需給緩和が意識されたこと、小麦は固有要因というよりも高値圏にあるためドル高が意識されて下落、大豆は米週間輸出統計が堅調だったことが要因となった。
本日もロシア情勢不安と、ラニーニャ現象の継続、米国の作付状況の遅れなどを背景に高値維持の公算。
※穀物セクターのデイリーコメントは4月一杯で終了となります(不定期ですがMRA's Eyeでの農産品セクターの解説は継続の予定です)。
※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・米中対立激化にロシア問題も加わり、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。
むしろこの可能性は高待っており、もはやメインシナリオか。
・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・ロシア・ウクライナの衝突の影響が長期化し、欧州を中心に景気が減速する場合。
また、ロシアに対する制裁がロシアが主要生産地である商品の供給を制限し、価格を押し上げ、景気を悪化させるリスク(価格下落要因)。
ウクライナへの侵略戦争は長期化がほぼ確実であり、景気下押し要因となるという展開はメインシナリオとなる可能性。
・ロシア国債のデフォルトや、ロシアからのビジネス撤退が企業や信用市場に大きな影響を与え、クレジットクランチ(信用収縮)が発生する場合。
・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。
・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。
・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。
・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。
◆本日のMRA's Eye
「資源高騰が発生しないリスク」
今後の世界は東西に分かれ、新冷戦に突入して資源の奪いが起きる-。
これまでのロシアのウクライナに対する侵略戦争、その前から起きていた専制主義国家の代表である中国と、自由主義国家の代表である米国の対立、の流れを考えるとこのように考えるのは自然である。
しかし、本当にこの方向に進むのかはまだ分からない。ロシアに対する制裁の足並みが揃わず、必ずしもロシアの残虐行為を否定している国ばかりではないからだ。
中国は新疆ウイグル自治区での人権弾圧が指摘され、サウジアラビアは皇子の指示でジャーナリストを殺害された可能性があり、新興国の雄であるインド、モディ首相はグジャラート州首相を務めていた時期に、ヒンズー教の自警団が暴走、イスラム教徒が虐殺された疑いが持たれている。
また、これらの国からすれば、大量破壊兵器があったウソの証拠を理由に、イラクの政権を打倒した米国と何が違うのだ、と考えていてもおかしくはない。
結局、自国国民の生活が最優先であるため、ロシアからの距離が離れるほど、ロシアから自国防衛のための兵器を供給されているほど、ロシアからのエネルギーや食品供給に依存しているほど、ロシアに対する制裁をためらうことになる。
反ロシアの急先鋒である欧州も一枚岩ではなく、ベラルーシはもちろん、ハンガリーなどロシアに阿る(おもねる)国も多い。
また、制裁を行うことで食品やエネルギーの価格が上昇し、以前から言われていることだが自国にブーメランのように跳ね返ってくる可能性もありえる。この場合、やはり自分の生活が優先されるため、「何のためのロシア制裁なのか」という意見が自国で出てきてもおかしくはない。
世界はコロナとの戦いが続き、それを切っ掛けとするインフレにも苦しんでいるところに、ロシア問題が加わったということは忘れられがちである。
となると、ロシアに対する制裁が緩和され、ロシアよりとされる中国からの安価な製品も引き続き流通し、それと同時に脱ロシアに備える国も出てくるという展開も予想される。
また、ロシア問題でなんとなくなし崩し的に「温暖化防止のための脱炭素」が「安全保障のための脱炭素」になり、COP26で決まった化石燃料上流部門投資への制限が解除される可能性はある。実際、脱炭素に協力しているとしていた中国は自国内での石炭生産を急増させる計画であり、米政権も昨年から原油増産をオイルメジャーに要請している状況だ。
上記のシナリオが顕在化すると、
1.化石燃料の供給は増加してエネルギー価格は下落
2.脱ロシアの動きや脱炭素の動きは継続するため鉱物資源価格は横這い、ないしは上昇
3.東西分裂が起きないため3~6%程度に上昇するとみられたインフレ率も、再び2%を下回る程度まで低下
といったリスクシナリオもありえる、ということだ。
リスクマネジメントの観点からは、市場価格が上昇する場合には粛々とそれに対応する必要があるが、値決め実施後は価格下落時のメリットを享受出来なくなるため、同時にプットオプションなどで下落リスクを回避する、という戦略が推奨される。
価格上昇リスク制御のために先物やスワップ取引を活用する企業も増えてきているようだが、さらに一歩踏み込んでオプションの活用についても準備・検討をするべき時期にあると考える。
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