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ドル高・IMF見通し下方修正で総じて下落
  • MRA商品市場レポート

2022年4月20日 第2177号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「ドル高・IMF見通し下方修正で総じて下落」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品市場は、ドル指数の上昇やIMFの景気見通し下方修正を受けて多くの商品が下落した。上昇した商品は最大消費国である中国の景気刺激期待が高い非鉄金属や自国通貨建て商品、畜産品など。

昨日発表された米住宅着工は伸びが鈍化したが市場予想に反して前月比で増加、着工件数はバブル崩壊前の2006年以来の高水準となり、「インフレや金利上昇があっても米経済は堅調」との見方が広がったことが、金利高・株高に繋がった。

しかし商品は既に供給障害や景気の過熱を織り込んだ価格で取引されているため、急速にドル高が進み、今後の景気見通しの指標であるIMF経済見通しが大きく下方修正されている状況では下押し圧力が掛りやすい。

【本日の見通し】

本日は昨日調整した商品が多いこと、基本的に供給制限状態に変わりはないことから買い戻しが入る商品が多いと考えられる。

なお、今後を占う上では世界がどのような枠組みに落着いていくのか?という大きくかつ根本的な問題、即ち、1.コロナ対応(再び別のパンデミックが発生する可能性も排除せず)、2.ロシアの侵略戦争後のユーラシア大陸の枠組み、3.東西冷戦に入るのか、4.今までと前提条件が変わる中で脱炭素を進めても良いのか、といった問題に答えを出していく必要がある。

その意味で、本日開催されるG7・G20財務相・中央銀行総裁会合などの国際会議の重要性が高まることになる。

また、脱ロシアなのかロシアとの付き合いを続けるのか。自己主張が強いフランスで行われる大統領決選投票候補2人の討論会にも注目したい。

また今後の米金融政策、特にQTの規模がどの程度であるかを測る上での手がかりとなるベージュブック、各連銀総裁の講演には注目したい。

また、それを受けた米20年債の入札(前回応札倍率 2.72倍)にも注目したい(ドル指数動向に影響)。

【昨日のトピックス】

昨日発表されたIMF経済見通しではほとんど全ての地区の見通しが引き下げられた。ロシアの侵略戦争による経済的損失の拡大や、それに伴う物価上昇などが要因で、食料品や燃料価格の上昇が低所得国を直撃すると分析している。

結果、2021年には+6.1%の成長見通しだったが、2022年・2023年は+3.6%に減速が見込まれる。2023年以降の長期見通しでは成長ペースは+3.3%に鈍化すると予想された。

物価上昇については戦争が主因で一次産品が上昇するとしているが、先進国(+5.7%)よりも新興国(+8.7%)の物価上昇が顕著であり、経済成長への重石となる。

特に金利の引き上げは債務負担の増加している低所得国を直撃するため、商品需要にとってはマイナスに作用することになる。

商品需要を牽引するのはGDP規模的に先進諸国が大きいが、今後の増加ペースという観点ではやはり新興国ということになる。先進諸国の成長見通しは、+3.3%(▲0.6%)、2023年は+2.4%(▲0.2%)と減速見通しで、新興国は+3.8%(▲1.0%)、+4.4%(▲0.3%)と回復見通しである。

鍵となる国の1つである中国は+4.4%(▲0.4%)、2023年が+5.1%(▲0.1%)、インドは+8.2%(▲0.8%)、+6.9%(▲0.2%)となる見通しであり、やはり景気循環系商品やインフラに用いられる鉱物資源価格の下押し要因となるだろう。

なお、これらは中期的な景気循環に基づく需要の増減であり、人口動態に基づく構造的な資源需要増加、あるいは脱炭素、新冷戦を睨んだ構造的な需要増加は別途検討する必要がある。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は下落した。注目のIMF経済見通しでほとんど全ての地区の経済成長見通しが下方修正されたことで、需要減速観測が強まったことが背景。また、米長期金利が上昇し、ドル指数が上昇したことも価格を下押しした。

基本、原油をはじめとする商品価格は需要面の影響を受けやすく、広く参照されているIMF見通しの下方修正の影響は小さくない。

今後、どういった形で脱ロシアが完成するか(どのようなエネルギーミックスに落着くか)不透明であるが、少なくとも脱ロシアの最中は原油価格が上昇する可能性は高いと市場は判断していると考えられる。

目先、需給が直ちに緩和する材料は以下の通りだが、一長一短である。

1.戦略備蓄放出の大盤振る舞い

2.西側諸国(除く日本)の急速な金融引き締めによる景気減速観測

3.中国のオミクロン株感染拡大によるロックダウン・需要減少

4.停戦

1.は恐らく年後半には「再び在庫を積む動き」で逆に価格上昇要因となり2.は年後半には価格下落要因に3.はこの20年の経験則上、中国の影響はファンダメンタルズ的に大きいはずなのに、なぜかさほど価格に影響を与えず4.は早期の停戦が否定された。また停戦になっても脱ロシアは継続するため影響は限定される。

ロシア以外の供給先としては、米シェールオイル企業の増産(これは米政府も要請済み)、イラン・ベネズエラの供給再開だが、後者はOPEC諸国の反米機運の高まりから容易ではない。

現在のロシア・ウクライナ情勢シナリオ別原油価格見通しでは、脱ロシアに欧州が舵を切る可能性が高まったため、2.のシナリオに近づいたといえる。

ただIMF見通し下方修正の影響が大きいため、想定価格レンジを小幅に修正した。

下記シナリオは数ヵ月の短期的なものであるが、長期的にはレーショニング・金融引き締めの影響・景気循環による需要減少による「基準価格(供給懸念が後退したときの着地点となる価格)は徐々に切り下がっていると考えている。

なお、年後半に掛けて米金融引き締めが進むことによる景気過熱感の沈静化で、年後半にかけての価格見通しは下向きである。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない(ないしはその可能性が強く意識される) Brent 120-140ドル

2.1.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 105-125ドル

3.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 95-120ドル

4.3.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル

↑ 上記は停戦が行われない場合のシナリオ

↓ 下記は停戦が行われた場合のシナリオ(現在は徐々にこちらに移りつつある)

5.ロシアがウクライナから撤退するが原油の脱ロシアが進むBrent 95-120ドル

6.5.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-100ドル

7. 脱ロシア完了Brent 50-75ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。米国の戦略備蓄100万バレル放出は半年の時限付。

本日は昨日の反動で上昇すると考える。ただしベージュブックが公表され、恐らくタカ派な内容になると見込まれることから上昇余地を限定しよう。

なお、今晩発表予定の米週間石油統計では、原油在庫の増加+3.1MBが見込まれておりこの通りであれば下落要因だが、朝方発表のAPI統計では▲4.5MBの在庫減少が確認されており、想定外に上昇する可能性は低くない。

◆石炭

豪州石炭スワップ先物価格は上昇して320ドルを超えた。脱ロシアが進む中、異常気象による供給制限が引き続き材料視されている。

中国政府は2022年の石炭生産目標は昨年12月の過去最高水準を上回る1,260万トン/日(3億9,060万トン/月)に設定してるとされ、これが達成されるとほぼ輸入が不要となる。逆に言えば中国は脱炭素を実施するつもりはない、といえる。

しかし、1-2月の石炭生産は前年比+11%の1,160万トン/日(2ヵ月合計で6億8,700万トン、3億4,350万トン/月)と、増加しているものの目標は下回っている。

中国は、1.ロックダウンの影響、2,コロナの影響による燃料輸送の障害、3.異常気象による水力発電の不足、4.電力価格に制限が設けられていることによる石炭生産の阻害、などから今年の夏、石炭不足・電力不足が発生する可能性を懸念している。

本日は、主要石炭輸出国の週間輸出が増加していることもあり、若干調整で下落すると考えるが、基本的な石炭調達意欲は旺盛であるため、高値維持の公算。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物市場は下落した。域内の太陽光発電の回復や、IMF見通し下方修正などを背景とする景気への懸念が影響していると見られる。

ただし、ドイツをはじめとする欧州諸国の発電需要は夏場に向けて減少するのが一般的な季節性であり、その影響が大きかったと見られる。

欧州は脱ロシアを推進しており、引き続きLNGを積極的に輸入すると予想される。しかし、LNGのターミナルを有しない域内最大のエネルギー消費国であるドイツは、1.域内供給の増加、2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)、3.需要の削減、によってガス在庫を積み上げるしかないが、結局その大半はロシアからの輸入に頼らざるを得ない。

また、仏大統領選でむしろ親ロシアの政策を推奨しているルペン候補が支持率を上げており、その結果によってはロシア制裁がなし崩し的になる可能性はある。この場合、ガス価格には下押し圧力が掛ろう。

米国天然ガス先物市場は急落した。短期的に上昇しすぎたことで利益確定の売りが価格を押し下げた形。また欧州の天然ガス価格の下落やIMF経済見通し下方修正も影響したと考えられる。

JKM先物は期近が下落、期先が上昇した。足下の下落は欧州価格下落の影響を受けたが、年後半にかけての調達圧力が強く、期先は上昇している。

JKMは、1.欧州の脱ロシアの動き、2.猛暑(+今冬の厳冬)が予想されるため在庫の積増し(今のところ日本の発電業者のLNG在庫の水準は高くない)、を背景に高値での推移が続く見込み。

岸田政権は原発稼働も視野に入れているが、国内の反対も多く、かつ、稼働に向けたスケジュールを変更しなければ2023年まで再稼働は難しく、実質的に直ちに稼働出来る発電設備にはカウント出来ない。

結果、石炭やLNGによる発電に頼らなければならない状態は続くと予想される。ただ火力発電は老朽設備も多く、安定稼働への懸念も払拭しきれない。

4月10日時点の日本の発電用LNG在庫は166万トン(前年同月末201万トン、過去4年平均190万トン)と先週から小幅に増加した。今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の供給不足のリスクは小さくない。

4月4日~10日のLNGトレードだが、取引量は前週比▲5%の760万トンとなった。スポット取引のシェアは23%と前週の25%から低下。

スポット契約はインドとバングラディシュ向けが33万トン増加、長期契約は韓国や東南アジア向けが減少したが、欧州向けが増加した。

全体で日本中国韓国台湾の輸入は▲44万トン(韓国▲58万トン、中国▲35万トン、台湾+10万トン、日本+39万トン)となった。

本日は季節的に欧州の調達意欲が後退するが、今年は例外的にLNG調達が増加する見通しであり、やはり高値を維持する見込み。

限月交代後の窓埋めの動き(限月交代による価格急落による、不連続性の解消の上昇)があるか否かは引き続き注目点。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は上昇した。中国のロックダウン解除観測や、住宅セクターでの景気刺激期待が需要を押し上げるとの見方が強まったため。

この間もLME指定倉庫在庫の減少は続いてるが、オフワラント率の低下圧力が強まっている他、銅、鉛、アルミ、ニッケルの期間構造は期近がコンタンゴとなっており、足下の需給は緩和圧力が強まっている。

しかし上述の通り中国政府が景気刺激策に舵を切らざるを得ない状況に追い込まれていることを考えると、再び期近が上昇する展開はありえる。なお、弊社は各国の金融引き締めの加速で年後半には一旦、循環的に価格水準が低下すると予想している。

本日も中国のロックダウン解除期待や金融緩和観測が価格を押し上げるものの、IMFの経済見通し下方修正やそれでもロックダウンが続いていることから上昇余地も限られるとみる。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は下落、上海鉄鋼製品先物は上昇した。

鉄鋼製品価格は中国政府による住宅セクターでの景気刺激策への期待から需給がタイト化すると見られたため上昇、鉄鉱石価格は在庫水準の高さ(絶対水準、在庫日数両方とも水準は高い)が意識された。

原料炭は国内増産への期待はあるものの物流の制限が続いているため在庫水準が低く、高値を維持している。

現在の鉄鋼製品価格を基準にした回帰分析の結果は、鉄鉱石価格が156ドル、原料炭価格が255ドルとなっている。原料炭はこの水準から200ドル程度高いが、概ね流動性リスク分、価格が高いといえるだろう。

本日は、中国政府の景気刺激への期待や徐々にロックダウンが解除となっていることから鉄鋼製品価格が上昇しやすい一方、物流環境の改善期待が原料供給状況を改善するため、鉄鋼製品価格の上昇と原料価格の調整が続くと予想する。

◆貴金属

昨日の金価格は、米長期金利の上昇と、原油価格の下落による期待インフレ率の低下で実質金利が大幅に上昇したため基準価格が1,332ドル(▲29ドル)に低下、リスク・プレミアムが618ドルで横這いだったため、水準を大きく切下げた。

銀は金価格の下落を受けて大幅に低下、銀二連動しやすいプラチナも下落、パラジウムも金価格の下落に押された。

プラチナ・パラジウムは足下、ロシア・ウクライナ情勢を反映する指標としての色彩が強まっているが、昨日は金価格下落の影響の方が大きかったと考えられる。

本日もドル高基調が維持されていること、ロシア・ウクライナ情勢不安を背景に安全資産需要が高まっていること、といった強弱材料が混在する中で、金銀プラチナ価格は高値維持。

一方パラジウムは制裁に伴う供給リスクの方が強く意識されていることから、やはり高値維持の公算。

◆穀物

シカゴ穀物市場は総じて軟調な推移となった。急速にドル高が進行したこともあり、前日の上昇の反動で利益確定の動きが強まったため。

基本的に今年の生産見通しは気象状況の影響で、期待通りの増産にはならないと予想される。

本日もロシア情勢不安とそもそもの気象状況の悪化を受けて生産ヘの懸念が強いことから高値維持の公算。

※穀物セクターのデイリーコメントは4月一杯で終了となります(不定期ですがMRA's Eyeでの農産品セクターの解説は継続の予定です)。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

むしろこの可能性は高待っており、もはやメインシナリオか。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・ロシア・ウクライナの衝突の影響が長期化し、欧州を中心に景気が減速する場合。

また、ロシアに対する制裁がロシアが主要生産地である商品の供給を制限し、価格を押し上げ、景気を悪化させるリスク(価格下落要因)。

ウクライナへの侵略戦争は長期化がほぼ確実であり、景気下押し要因となるという展開はメインシナリオとなる可能性。

・ロシア国債のデフォルトや、ロシアからのビジネス撤退が企業や信用市場に大きな影響を与え、クレジットクランチ(信用収縮)が発生する場合。

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。


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