CONTENTSコンテンツ

悪い統計が逆に経済対策・金融引締め鈍化観測を誘発 上昇
  • MRA商品市場レポート

2022年5月17日 第2196号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「悪い統計が逆に経済対策・金融引締め鈍化観測を誘発 上昇」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品市場は軒並み上昇した。各国の経済統計は正直良い内容とはいえなかったが、逆にこれまで市場が予想していたほどの苛烈な金融引締め(主に米国)にならないとの見方が強まったことで、これまでの調整の反動で買い戻しが入った形。下落した商品はニッケルや大豆など、一部の商品だった。

ただ、総じてエネルギーセクターは価格上昇が顕著である。今年の年初来上昇率を見ると上位はほとんどがエネルギーであり、最も上昇しているのが豪州炭(年初来上昇率+137.3%)、米天然ガス(+114.1%)、米RBOB(+79.9%)、TOCOM原油(+68.3%)、米灯油(+67.3%)、欧州ガスオイル(+63.9%)となっている。

昨日、フィンランドに続いてスウェーデンもNATO加盟を正式に申請した。中立の体制を取っていてもロシアの脅威を払拭することが出来ないため、NATOの核の傘に入った形。

しかし、両国の加盟に関してNATO加盟国であるトルコが難色を示している。これはシリアとトルコ領内でトルコ政府と対立するクルド人勢力への弾圧を、両国が批判しているためだ。

ただ、クルド人勢力もトルコで反政府行動を行っており多数の死者が発生するなど、第三者の目から見ればどちらにも問題があるため軽々にどちらが正しいとは言い難い。

また、米国との関係悪化でトルコはロシアとの距離を縮めていることもあり、その点も両国の加盟に反対する背景の1つとなっている。NATO加盟は全会一致が条件となるため、トルコがどう出るか正直よく分からないため、この加盟が本当に承認されるかどうかは微妙なところだ。

また、昨日小麦生産世界3位のインドが小麦輸出停止を決定した。この影響は小さくなく、今年の秋の収穫期前後に世界の地政学的なリスクが高まることになる(詳しくは穀物のコラムをご参照ください)。

【本日の見通し】

本日は米統計の減速を受けて再び米金融政策に注目が集まることになる。また、その発言の前提になる小売売上高にも注目が集まる。

今のところ苛烈な金融引締めはどうもないのではないか、との見方が強まっているため総じてリスク資産の買い戻し圧力になるが、それをFOMCメンバーがどれだけ否定してくるか(あるいは肯定してくるか)に注目したい。

本日講演予定のFOMCメンバーは以下の通り。この中では当然であるがFRBパウエル議長の講演内容に注目が集まる。

セントルイス連銀総裁フィラデルフィア連銀総裁クリーブランド連銀総裁パネル討論会冒頭で挨拶シカゴ連銀総裁FRB議長WSJ主催会議で講演

4月米小売売上高 市場予想 前月比+1.0%(前月+0.7%) 除く自動車 +0.4%(+1.4%) 除く自動車・ガソリン +0.7%(+0.7%) 除く自動車・建材 +0.7%(+0.7%)

【昨日のトピックス】

昨日は4月の中国の重要統計が複数発表になった。

工業金属のフロー需要に影響する工業生産は、単月ベースで▲2.9%(前月+5.0%)と急減速、1-4月累計でも前年比+4.0%(1-3月期+6.5%)と減速、苛烈なロックダウンが経済活動を顕著に鈍化させていることを確認する内容となった。

住宅セクターは加熱沈静化を目的とした政策が2020年夏頃から採用されているが、コロナの影響とロックダウンの影響で1-4月の不動産開発投資は前年比▲2.7%の3兆9,154億元(1-3月期+0.7%の2兆7,765億元)と顕著に減速した。

住宅販売はそれに輪を掛けて不調で、前年比▲32.2%の2兆6,073億元(1-3月期▲25.6%の1兆3,652億元)となった。

住宅セクターの加熱沈静化は中国政府が望むところだったが、恐らくそれを遙かに上回る水準の減速になってしまっているのではないか。

ストック需要の指標である固定資産投資も1-4月期が前年比+6.8%(1-3月期+9.3%)と減速、内訳は公的セクターが+9.1%(+11.7%)、民間セクターが+5.3%(+8.4%)と減速している。明らかにロックダウンの影響だろう。

とは言え、今夏に3期目の続投を長老に確認する習近平国家主席がこのままの景気減速を容認出来るとは考え難く、そろそろロックダウンが解除されるのではないか。実際、この弱気な統計発表後、景気循環系商品は逆に物色される流れになっている。

株価動向を通じて商品価格に影響を与えると見られる小売売上高は、1-4月期が前年比▲0.2%の13兆8,142億元(1-3月期+3.3%の10兆8,659億元)、4月実績が前年比▲11.1%の2兆9,483億元(▲3.5%の3兆4,233億元)と低迷しており、やはりロックダウン解除は景気回復や習近平続投の必要条件になりつつあるといえる。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇した。ドル指数が断続的に下落したことで、ドル価減価に伴う習性が入ったこと、供給が充分でないことは昨日今日の話ではなくかなり前からそうなのだが、ここに来て石油製品供給不足が材料視され、石油製品価格が上昇していることが材料にされたようだ。

年初来の価格上昇率は、最も上昇しているのが豪州炭(年初来上昇率+137.3%)であり、ついで米天然ガス(+114.1%)、その次が米RBOB(+79.9%)、TOCOM原油(+68.3%)、米灯油(+67.3%)、欧州ガスオイル(+63.9%)となっている。

今後は米金融引締めや製品価格上昇に伴うレーショニング進ちょくにより、年後半に掛けては価格が下落するという見通しに変わりはないものの、短期的には上昇余地を探る動きになりそうだ。

今後の比較的短期的な見通しは以下の通り。現在は2.のステータスにあると考えられる。即時の下落があるとすれば、OPECプラス諸国の増産だろうが、現状、望み薄の状態。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない(ないしはその可能性が強く意識される) Brent 120-140ドル

2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とし、それが実行されるBrent 95-125ドル

3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 90-120ドル

4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 85-120ドル

5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-105ドル

↑ 上記は停戦が行われない場合のシナリオ

↓ 下記は停戦が行われた場合のシナリオ(現在は徐々にこちらに移りつつある)

6.ロシアがウクライナから撤退するが原油の脱ロシアが進むBrent 95-115ドル

7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-100ドル

8. 脱ロシア完了(東西諸国の分裂が発生した場合)Brent 60-90ドル

9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。OECD諸国の戦略備蓄130万バレル放出は半年の時限付。

※上記価格レンジは市場動向を反映して、逐次微修正している。

本日は製品側の供給能力問題がここに来てクローズアップされていること、上海のロックダウンが6月に解除されるのでは、との見通しと米景気減速観測が相殺し合う形で現状水準維持の公算。

◆石炭

豪州石炭スワップ先物価格は上昇し、豪州炭は400ドルを超えた。中国の石炭生産が前年比+12.6%の3億6,300万トンと前月の+16.1%の3億9,600万トンから減少、ロックダウンや事故の影響で生産が減少したとみられ、輸入需要が増加するとみられたことが材料となった。

足下、中国のロックダウンの影響で石炭不足が発生するとの中国政府の見通し通りの展開となっており、石炭輸入を不要とする目的を中国は恐らく果たせていないと考えられること、気温上昇の影響もあって石炭不足に喘ぐインドの調達も増加しているとみられる。

なお、熱量換算ベースでの回帰分析を行うと、石炭価格は過去の価格の関係性と比較した場合原油・天然ガスから大きく上方に乖離しており、需要面というよりは供給面の問題が価格を押し上げていると考えられる。

中国は、以下の理由から引き続き石炭不足・電力不足が発生する可能性を懸念しているが、恐らくこのリスクは顕在化していると考えられる。。

1.ロックダウンの影響

2,コロナの影響による燃料輸送の障害

3.異常気象による水力発電の不足

4.電力価格に制限が設けられていることによる石炭生産の阻害

中国政府は2022年の石炭生産目標は昨年12月の過去最高水準を上回る1,260万トン/日(3億9,060万トン/月)に設定しているとされ、これが達成されるとほぼ輸入が不要となる。

なお、4月の中国の石炭生産は、前年比+12.6%の3億6,300万トン(1,209万トン/日)と前月の+16.1%の3億9,600万トン(1,277万トン/日)からは減少している。

海上輸送炭の輸入需要は減少しているとは思われるものの、当初期待していたほどの増産になっていない、あるいは生産出来ていても生産地からの輸送がままならない状態にあり、輸入需要が増加している可能性はある(通常海上輸送炭の受け入れ地から発電所は近いところにあるため)。

結局、ロックダウンは中国の電力需要を減じるものの、生産も制限するため海上輸送炭市場をタイト化させているといえるだろう。

日本も対岸の火事ではなく、今年の夏は猛暑が予想されているため、石炭価格の高騰が電力会社の業績を圧迫するのみならず、逆ざや発生に伴う電力供給制限が起きる可能性も意識しなければならない状況。

本日も供給環境の改善が週明け月曜日も状況に大きな変化なく、インド・中国をはじめ調達圧力が強いことから高値維持の公算。

◆天然ガス・LNG

欧州天然ガス先物市場は下落した。EUがロシア産ガスの購入継続を容認、ルーブル建ての支払いは認めないとしたものの、現実的にはガスプロムバンクにルーブル建ての口座を開設する企業が増加しており、制裁がなし崩しになるのではないか、との見方が強まったこと、景気自体の減速懸念が需要を減じると見られたことが材料となった。

今年10月1日までに90%の在庫積増しを達成したとしても、脱ロシアが完全に終了するまで欧州はLNGを積極的に輸入すると予想される。なお、欧州全体のガス貯蔵率は5月14日時点で39.5%(前月38.9%)と積増しは進んでいる。

通常欧州は夏場に掛けてはガス需要が減少するのだが、冷夏にならずに猛暑になった場合など、この在庫積み増しのハードルは上がることになる。

LNGのターミナルを持たない域内最大のエネルギー消費国であるドイツは、

1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減

によってガス在庫を積み上げるしかないが、結局その大半はロシアからの輸入に頼らざるを得ない。現在のドイツの在庫率は40.8%(40.2%)と積増しは進捗している。

米国天然ガス先物市場は上昇した。先週末の下落を受け、安値拾いの買いが入ったためと考えられる。1日限りの材料というよりも、国内供給の不足や欧州向けの輸出需要の増加観測が価格を押し上げている状況。

JKM先物は期近が下落した。中国の景況感悪化に伴う輸入需要減少観測や、TTFの下落が材料となった。なお、前月交代をしたため水準は大きく切り下がっているが、今冬の価格は25ドルを超えている状況が続いている。

5月8日時点の日本の発電用LNG在庫は202万トン(前年同月末194万トン、過去4年平均198万トン)と先週から増加した。今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の供給不足のリスクは小さくない。

5月2日~8日のLNGトレードだが、取引量は836万トン(前週695万トン)、スポット取引のシェアは25%と前週と変わらず。

スポット契約は日本・韓国・中国の輸入が前週比+36万トン増加した。ほとんどが日本と中国の輸入増加によるもの。ほとんどの地区で輸入が増加している。

長期契約ベースの輸入は、主に南アジア向けが+43万トンの増加となった。主にインド向けの増加によるもの。北欧とイタリア向けの輸出も+41万トンの増加で、主にベルギー、フランス、英国の輸入増加によるもの。

本日は在庫積増し需要が継続する中で、昨日の下落の反動から欧州・極東の天然ガス・LNG価格は上昇すると予想する。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は上昇した。発表された中国の重要統計(詳しくは昨日のトピックスをご参照ください)は悪化したものの、1.ここまで下落したことによる割安感、2.統計悪化を受けて逆に中国政府の経済対策期待が高まったこと、3.中国のロックダウンが6月に解除され需要が増加するとの見方、から水準を切り上げる流れとなった。

また、価格に対する説明力が高いドル指数が、米国の経済統計の悪化を受けた金利低下などを材料に下落したことも、非鉄金属価格を押し上げる形となった。

これまでの下落がロックダウンを材料にしたものであるため、これが解除されれば、これまでの価格下落や投機のポジション整理が進んでいることもあって、一時的に上昇余地を探る動きになるというのがメインシナリオである(ただその後は下落か)。

本日は昨日の上げが大きかったこと、米統計の悪化から一旦売られるだろうが、ドル安や経済対策期待、ロックダウン解除期待を背景に最終的には上昇に転じると予想。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は下落、上海鉄鋼製品先物は上昇した。

中国の重要統計が発表され、市場予想を下回る悪い内容であり中国の経済活動が減速していることが明らかになったが、これを受けた経済対策期待、ロックダウン解除の見通しも報じられていることが鉄鋼製品価格を押し上げ、鉄鋼原料価格の上昇要因となった。

短期的にはロックダウンの影響で価格には下押し圧力が掛りやすく、中期的にはロックダウン解除後の経済対策の効果で鉄鋼製品・鉄鋼原料価格とも上昇圧力が掛りやすい。

もう少し長い期間でも、中国政府は企業に対して2022年の粗鋼生産を2021年を下回るよう指導しており、結果的に鉄鉱石需要が減少すると予想され、国内生産の増加や投機規制強化によって鉄鉱石価格は低下すると考える。

現在の鉄鋼製品価格を基準にした回帰分析の結果は、鉄鉱石価格が145ドル、原料炭価格が243ドルとなっており、鉄鉱石価格は推測値を下回っている。

本日も中国の対策期待・ロックダウン解除期待とここまでの下落による割安感からの買いで鉄鋼原料価格は水準を切り上げると考える。

◆貴金属

昨日の金価格は10年期待インフレ率が高止まりする中、米長期金利が米統計の減速を受けて低下、実質金利が低下したこと、ドル減価に伴うリスク・プレミアムの上昇が価格を押し上げた。

銀は割安感からの買いが入り上昇。金銀レシオは84.4倍(前日比▲1.4倍)と低下しているが、かなり水準が高いのは事実であり金対比で割安な状態は続いている。PGMは銀価格との連動性が高いプラチナは小幅高。

パラジウムはロシアのウクライナ侵攻前の水準まで下落していたことから割安感があり、中国のロックダウン解除観測を受けた買い戻しで上昇した。

本日は米国の金融政策に関する発言や、注目の小売売上高を受けて神経質な推移になると考える。

◆穀物

シカゴ穀物市場はまちまち。トウモロコシは原油価格の上昇もあり連れ高となった。

大豆は前日の大幅高の反動と、4月の米大豆圧搾高が1億6,980万Buと、昨年の1億6,030Buから減少したが、油脂不足を背景に1億7,340万Bu程度に増加する、と予想していた市場予想を大きく下回ったことが売り材料視された。

小麦は世界3位の生産国であるインドが小麦の国内供給を優先するため、輸出停止を決定したことで、供給懸念が顕著に高まり暴騰。

小麦はフランスの生産減少や、ウクライナ・ロシアの小麦が実質的に輸出困難とみられていること、ラニーニャ現象の継続から秋の春小麦の収穫(そもそもこの作付も遅れている地域が多い)が下振れするリスクは高く、地政学的リスクが年後半にさらに高まるリスクは無視できなくなってきた。

本日も需給ファンダメンタルズがタイトであることを背景に高値維持の公算。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)

・米中対立激化にロシア問題も加わり、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・ロシア・ウクライナの衝突の影響が長期化し、欧州を中心に景気が減速する場合。

また、ロシアに対する制裁がロシアが主要生産地である商品の供給を制限し、価格を押し上げ、景気を悪化させるリスク(価格下落要因)。

ウクライナへの侵略戦争は長期化がほぼ確実であり、景気下押し要因となるという展開はメインシナリオとなる可能性。

・ロシア国債のデフォルトや、ロシアからのビジネス撤退が企業や信用市場に大きな影響を与え、クレジットクランチ(信用収縮)が発生する場合。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

◆本日のMRA's Eye


「銅の調整はそろそろ一巡か」

中国景気の指標の1つである「ドクター・カッパー」銅が急落、一時3ヵ月先渡し価格は9,000ドルを割り込んだ。これまでは供給面が意識される中で上昇してきたが、懸念していたほどの供給途絶になっていないことが確認され、結果的に景気に焦点が当たる形になり水準が切り下がった。

景気を材料とする下落はその他のリスク資産も同様であり、主な材料は

・景気の循環的な減速(昨年後半に景況感は既にピークアウトしている)・米国の金融引締め加速とそれに伴う経済オーバーキル・中国のロックダウンによる工業活動の減速・中国の景気減速とロシア問題を背景とする欧州の景気減速

といったところであり、現状の改善がなければ非鉄金属を含む工業金属の価格は下落する可能性が高い。

なお、足下の銅価格はLME指定倉庫在庫の動向よりもS&P500との連動性が高く、需給ファンダメンタルズというよりは市場のセンチメントに左右されている可能性が高い。

実際、LME指定倉庫在庫の増加傾向は続いているが、在庫の増加ペース以上に水準が切り下がっている。このことは現物需給以上にセンチメント(パニック売り)が価格を左右していることの証左だ。

また、米国が急速に進める方針のQTも先々の流動正を低下させるとみられ、このことも銅価格を押し下げている。米国の金融市場の流動正の指標であるシカゴ連銀金融環境指数も需給タイト化を示すプラス圏に転じている。

では需給面の影響がないのかといえばそうではなく、中国の金融緩和姿勢の強化に伴い人民元が対ドルで急速に水準を切下げており「輸出に有利だが、輸入には不利」な環境になっている。

実際、人民元建てのLME銅価格は過去最高水準で推移しており、レーショニングを引き起こしている。

このことは中国国内で足下、ダブついていると考えられる現物の海外流出を加速させ、LMEベース価格の押し下げに寄与、LME上海のスプレッドは縮小している。逆に言えばそろそろアービトラージウィンドウはクローズし、中国からの輸出は減少する可能性がある、ということである。

しかしここまでの相場調整を見てFRBもさらなる金融引締めを加速させるとも考え難く、現在延長されている中国のロックダウンも時間経過と共に解除されることは必定であること、その後の景気刺激で銅需要が増加すると見られることから、メインシナリオ的には過度な景気減速懸念は徐々に払拭される、と考えている。

ただ今までの路線が継続されればハードランディングの可能性は排除出来ないため、リスクは下向きである。


主要ニュース/エネルギー・メタル関連ニュース/主要商品騰落率/主要指数/市場の詳細データPDFは、有料版「MRA商品市場レポート」にてご確認いただけます。
【MRA商品市場レポート】について