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景気循環系商品売られる
  • MRA商品市場レポート

2022年4月12日 第2171号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「景気循環系商品売られる」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格はその他農産品や貴金属セクターが上昇したが、その他のいわゆる景気循環系商品価格は下落した。

インフレ抑制目的の米国の利上げやQTは加速しこそすれ鈍化する感じでは無いこと、それに伴うドル高進行、中国のロックダウンの影響が広がり経済活動が停滞していることが影響した。明確に景気の先行きを懸念した下落といえる。

しかし、ロックダウンはこれまでのコロナ禍でも見られたように、経済活動を強制的に停止する行為であり、ロックダウン解除後にペントアップ需要が顕在化して需給をタイト化させて価格を押し上げることが多いことも事実である。

そのように考えると足下の価格下落は一時的であり再び上昇に転じると考えて置いた方が良さそうだ。

また、もう少し長期の目線で見た場合は循環的な景気減速が見込まれることから年末に掛けて現在よりも価格水準を切下げる景気循環系商品は多いと予想される。

なお、昨日特筆すべきは金のリスク・プレミアムが弊社の算出基準で過去最高を超えたこと。貴金属セクターの価格水準が変わった可能性があるため今後の動向は要注目である(詳しくはこの数日の貴金属セクターのコラムをご参照ください。近々、MRA's Eyeで開設の予定です)。

【本日の見通し】

本日は米金融引き締めやロックダウンの影響による景気の減速懸念、ロシアに対する原油禁輸でEUがまとまらなかったことを考えると、やや軟調な推移が続くと予想される。

本日は、まず原油価格動向を占う上での手がかりとなるOPEC月報に注目している。バルキンド事務局長はロシアに対する制裁でロシア原油が供給出来なくなった場合その他のOPEC諸国が出来ることは殆ど無い、としており、ロシアの生産見通しをどのように判断しているかが焦点。

また、米金融政策が商品価格に影響を与えていることも間違いが無く、米CPIやブレイナードFRB理事の発言、リッチモンド連銀総裁講演、米10年債入札動向も要注目だ。

3月米CPI 市場予想 前月比+1.2%(前月+0.8%)、前年比+8.4%(+7.9%)コア +0.5%(+0.5%)、+6.6%(+6.4%)米10年債入札 前回実績 応札倍率2.47倍

【昨日のトピックス】

昨日発表された中国のファイナンス関連統計は市場予想・前月も上回り経済活動が再開していることを確認する内容だった。

3月のマネーサプライ(M2)は前年比+9.7%の249兆7,700億元(前月+9.2%の244兆1,500億元)と伸びが加速した。しかし、OECD諸国の製造業活動の6ヵ月先行指標であるM1は+4.7%の64兆5,100億元(+4.7%の62兆1,600億元)とやや伸びが鈍化した。

ただしファイナンス総額は4兆6,500億元(1兆1,928億元)と明らかに加速しており、中国政府による金融緩和の影響が出始めていると考えられる。特に製造業PMIを規模別で見た場合の「中小企業製造業」の景況感悪化が顕著であったため、それに対応するための金融緩和が小規模企業の経済活動改善に寄与していると考えられる。

しかし一方で、PPIは前年比+8.3%(市場予想+8.1%、前月+8.8%)と、生産者物価の上昇は国際価格の上昇を受けて継続している。この価格上昇にさすがに耐えられなくなったと見られ、消費者物価指数も+1.5%(+1.4%、+0.9%)と伸びが加速した。

以上を総合すると、景気刺激のための金融緩和が経済活動を回復させているものの、これは物価上昇に歯止めを掛けていないことを示唆しており、オミクロン株の影響が残る中で「物価上昇下に置ける金融緩和」により、中国の物価に上昇圧力が掛り、結果的に景気を下押しする可能性が高いといえる(物価上昇→消費減速、金融緩和→中小企業支援、という整理が適切か)。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は下落した。欧州がロシア産原油の禁輸措置で合意に至らなかったことからロシア産原油供給が継続する見通しとなったことや、米インフレ抑制のための金利上昇・ドル高が継続していることに加え、上海のロックダウンの影響が価格を下押しした。

しかし、その影響は大きいはずであるが中国要因で原油価格が下落したことは実はほとんどなく、供給面と米金融引き締めの影響の方が影響としては大きかったと考えられる。

目先、需給緩和要因は、1.戦略備蓄放出の大盤振る舞い、2.西側諸国(除く日本)の金融引き締めによる景気減速観測、3.中国のオミクロン株感染拡大によるロックダウン・需要減少だが、1.は恐らく年後半には「再び在庫を積む動き」で逆に価格上昇要因となり、2.は年後半には価格下落要因に、3.はこの20年の経験則上、中国の影響はファンダメンタルズ的に大きいはずなのに、なぜかさほど価格に影響を与えないが、昨日から徐々にロックダウンが解除され始めているため今後、逆に価格の上昇要因となろう。

戦略備蓄放出の間に代替供給先を確保する必要があること、それが出来なければ「脱ロシア」が完了するまでは原油価格が高止まりする可能性は高い。

ロシア以外の供給先としては、米シェールオイル企業の増産(これは米政府も要請済み)、イラン・ベネズエラの供給再開だが、後者はOPEC諸国の反米機運の高まりから容易ではない。

現在のシナリオ別原油価格見通しでは、OECD諸国が「OPECの代わりに」増産したため、4.の状態にあると考えられる。

下記シナリオは数ヵ月の短期的なものであるが、長期的にはレーショニング・金融引き締めの影響・景気循環による需要減少による「基準価格(供給懸念が後退したときの着地点となる価格)は徐々に切り下がっていると考えている。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない(ないしはその可能性が強く意識される) Brent 125-140ドル

2.1.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 110-130ドル

3.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 100-125ドル

4.3.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 80-115ドル

↑ 上記は停戦が行われない場合のシナリオ

↓ 下記は停戦が行われた場合のシナリオ(現在は徐々にこちらに移りつつある)

5.ロシアがウクライナから撤退Brent 90-100ドル

6.5.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 70-90ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。米国の戦略備蓄100万バレル放出は半年の次元付。

本日は昨日の下落が大きかったこともあり、一旦買い戻しが入る展開が予想されるが、米引き締めや欧州のロシア原油禁輸制裁が見送られる中では下押し圧力が強まるため、上値も重くなっていると考えられる。

ただ、供給停止はほぼ政治的な判断であり、不連続に材料となるため上記シナリオ4.のレンジ内での推移は十分にありえる(上昇もありえるということ)。当分荒っぽい推移が続くことになろう。

なお、本日はOPEC月報が発表されるが、昨日のバルキンド事務局長の発言に見られるようにロシアの制裁が着々と進んだ場合その他のOPEC諸国が出来ることには限りがある、としている。ロシアの生産見通しをどのように判断しているかに注目したい。

◆石炭・LNG・天然ガス

豪州石炭スワップ先物価格は下落した。主要産炭国の輸出は減速しているものの、欧州の最大エネルギー消費国であるドイツの風力発電が急速に回復しており、石炭火力向けの需要が減少していることが影響したとみられる。

とは言え、EUはロシア炭の輸入禁止を打ち出しているため、海上輸送炭市場はタイトな状態が続くと予想される。

今後、産炭国であるドイツが脱ロシアの中で自国産の石炭生産を回復させるのかどうかはポイントとなる。もししなければ恐らく海外炭を求めることになるためアジア太平洋周りの石炭価格も上昇圧力が掛ることが予想される。

直近2月の生産統計では褐炭・瀝青炭・無煙炭とも生産指数が急減している。これは1.風力発電の回復、2.国内炭ではなく海外輸送炭を物色していること、が背景にあろう。であれば、海上輸送炭価格は高止まりする可能性が高い。

欧州天然ガス価格は期近が下落した。ロシアからのガス流入は減少しているが、LNG輸入が季節的にも絶対水準的にも記録的な水準にあることや、欧州域内の風力発電回復に因って化石燃料需要が減少していることが影響したとみられる。

しかし、ロシアのガスなしで10月までに十分な在庫を詰めるとは考え難い。ガスは電力向け、というイメージが強いが化学製品の原料でもある。

そのように考えると産業への影響は甚大であり、EUが足並みを揃えて、今のタイミングでロシアに対するガス制裁の決定は難しいのではないか。欧州はただでさえ足並みが揃いにくく決定に非常に時間が掛る仕組みの地域である。

仏大統領選挙でルペン候補が追い上げていることも、結局現状のインフレへの不満が影響しているとみられる。

中長期的に脱ロシア戦略をEUは進める方針であるが、脱ロシアが完了後はガス・LNG市場は需給が緩和して下落に転じる可能性が高いと見ている。ガスに関しては「上流部門投資を制限」という枷は外されたと考えて良いだろう。

欧州最大の発電需要を有するドイツの風力発電は急速に回復している。

米国天然ガス価格は西部の気温低下予報と、欧州向けのガス輸出増加観測が引き続き価格を押し上げている。米稼働在庫の水準も年初は高かったが、ここに来て減少が顕著になっており、価格を押し上げ要因となっている点は無視できない。

JKMは小幅に下落した。欧州のLNG輸入需要が再生可能エネルギー供給の回復などでやや緩んでいるとみられることが背景。現状、脱ロシア完了後にJKM価格も下がると予想されるが、それが達成されるまでの移行期間中はガス価格は高い状態が続くというのがメインシナリオ。

4月3日時点の日本の発電用LNG在庫は165万トン(前年同月末201万トン、過去4年平均190万トン)と再び減少している。今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の供給不足のリスクは小さくない。

3月21日~27日のLNGトレードだが、取引量は先週と変わらず770万トン(前週▲5%の770万トン)となった。スポット取引のシェアは28%と前週の34%から低下。長期契約ベースの調達が、スポットベースの調達減少を相殺した形。

スポット契約は英国とフランスの調達が減少、長期契約は逆に英国とフランスの調達が増加した。

本日の石炭価格は欧州の風力発電回復などで調達圧力が緩和すると予想されるものの「風任せ」であること、生産国の供給状況も大きく改善している訳ではないことか週明け月曜日の石炭価格は、EUの脱ロシア炭の動きを背景に上昇余地を探る展開を予想。

LNG・天然ガスはロシアとの供給契約は当面継続する見通しであり価格の下押し要因となるが、在庫水準はまだまだ低いこと、脱ロシアが進む中ではスポットのLNG市場需給はタイトになるため、石炭と同様、高値維持の公算。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は総じて下落した。米国の金融引き締め強化観測を背景にドル高基調に歯止めが掛っていないこと、中国のロックダウンが全土に広がり、生産活動が著しく影響を受けていることが需要減少観測を通じて価格の下押し要因となった。

LME非鉄金属価格動向を占う上で重要な期間構造を見てみると、銅・鉛・アルミは「コンタンゴ」の状態となっており、一時の需給タイト感は解消している。

しかし、中国のロックダウンが需要を減じて価格を押し下げているならば、ロックダウン解除後は価格が上昇する可能性が高いと言うことでもある。

3月の中国自動車生産はCAAM(China Association of Automobile Manufactures)の調べでは、前年比▲11.7%の23万台(前月+19.4%の174万台)となった。

NEV(新エネルギー車)の販売は前年比+114.1%の48万4,000台(前月+197.5%・前月比▲18.6%の36万8,000台)。

中国の自動車販売は緩やかな回復基調をたどると期待されるものの、ロックダウンの影響で新車販売に下押し圧力が掛っていることは無視できない。また、ウクライナ情勢を受けた資源価格の高騰が生産車物価指数を押し上げており、自動車メーカーの業況にも影を落している。

また、米国の自動車販売も3月は1,333万台(市場予想1,340万台、前月1,407万台)と前月・市場予想共下回っている。当面、自動車セクターの減速は非鉄金属を含む工業金属価格の下押し要因となろう。

本日は中国のロックダウンが部分的に解除となる方針が示されていることから、安値拾いの買いで上昇すると考える。しかし非鉄金属価格動向に大きな影響を与えるドル指数が上昇傾向を維持しているため、上値も重いと考えられる。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は下落、上海鉄鋼製品先物は下落した。

中国のコロナ感染拡大の影響によるロックダウンで工業活動が停滞していることが鉄鋼製品需要を減じ、鉄鉱石品価格の下落が鉄鋼原料価格を押し下げる状況が継続している。中国唐山市の鉄鋼所稼働率は74.8%と過去5年平均である78.7%を下回っている。

例年よりも水準が低かった鉄鋼製品在庫は季節性を無視して高止まりしており、ロックダウンの影響が鉄鋼製品需要を減じていることが見て取れる。

しかし、非鉄金属のところでもコメントしているが、ロックダウンが解除されて経済活動が戻れば価格は上昇する可能性が高く、仮初めの下落ともいえる。

また、中国の鉄鋼業PMIの内数である新規受注÷在庫レシオは上昇しているため足下の製品・鉄鋼原料の需給は統計よりもタイトであり、高値を維持している状況。

鉄鋼製品価格からの回帰分析による鉄鉱石価格は155ドル程度、原料炭価格は255ドル程度が目処であり、それ以上は流動性プレミアムと考えられる。

本日は、中国のロックダウンが徐々に解除となる方針が湿されていることから安値拾いの買いが入り、上昇すると考える。しかしロックダウンが完全二解除されている訳ではないため、上値も重いと予想する。

◆貴金属

昨日の貴金属価格は上昇した。実質金利が上昇して基準価格は前日比▲12ドルの1,379ドルまで低下したが、2016年のデータを基準に弊社基準で算出しているリスク・プレミアムが577ドルと、ついに過去最大となった「米国債格下げショック」の574ドルを上回ったことが影響した。

まだ分からないが、米国の金融引き締め加速や足下のインフレを背景に、新興諸国でのデフォルトが発生した場合、さらにこのリスク・プレミアムが上昇し「新たな世界」に突入する可能性が否定出来なくなってきた。

過去のオイルショックなどのイベントを見ると、イベントの終盤にリスク・プレミアムが急拡大し、終了することが多いのでさらにリスク・プレミアムが上昇するかどうかは微妙である。

しかし、第一次オイルショック・第二次オイルショックの時の「リスク・プレミアムの金価格に対する割合」は最大で67.1%だった。2002年以降の分析では62.6%が最大である。6割程度がリスク・プレミアムとなる。

もし仮に、この水準が基準となった場合、現在の金基準価格が1,400ドル前後であるためこの価格を基準とすると3,500ドル程度までの上昇余地が出てくることになる(さすがにここまでの上昇が起きるときは、市場が壊滅的に混乱している時だと思われるが)。

銀は金銀レシオを引き下げつつ、金を上回る上昇に。恐らく、金価格が高値であるが故に「貧者の金」としての需要が高まったためと考えられる。プラチナは小幅高、パラジウムは株の調整もありほぼ前日比変わらずで引けている。

本日も地政学的リスクの高まり、クレジットリスクの高まりから安全資産としての金の需要が増加していること、それによって貴金属の基準価格が上昇していること、欧州の「脱ロシア」が進んでいることによる供給不足から貴金属セクターは高止まりを予想。

◆穀物

シカゴ穀物市場はまちまち、トウモロコシと大豆は水準を切下げ、小麦は上昇した。米需給報告でトウモロコシ・大豆の需給率が輸出需要の減少で低下した一方、小麦は生産が微増だった一方で国内需要が増加、受給率が上昇したことが価格を押し上げた。

本日は需給見通しの緩和を受けてトウモロコシ・大豆の価格は低下が見込まれる一方、小麦価格は上昇が見込まれる。

※穀物セクターのデイリーコメントは4月一杯で終了となります(不定期ですがMRA's Eyeでの農産品セクターの解説は継続の予定です)。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米中対立激化にロシア問題も加わり、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

むしろこの可能性は高待っており、もはやメインシナリオか。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・ロシア・ウクライナの衝突の影響が長期化し、欧州を中心に景気が減速する場合。

また、ロシアに対する制裁がロシアが主要生産地である商品の供給を制限し、価格を押し上げ、景気を悪化させるリスク(価格下落要因)。

ウクライナへの侵略戦争は長期化がほぼ確実であり、景気下押し要因となるという展開はメインシナリオとなる可能性。

・ロシア国債のデフォルトや、ロシアからのビジネス撤退が企業や信用市場に大きな影響を与え、クレジットクランチ(信用収縮)が発生する場合。

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

◆本日のMRA's Eye


「ロシア炭制裁の非鉄金属価格への影響」

石炭価格はロシア・ウクライナ戦争を背景にロシアの輸出が減少、最大輸出国である豪州東部の洪水とそれに伴うフォースマジュールの影響で減速、輸出市場主要5ヵ国の輸出量が急速に減少している。一時的に回復する局面があっても、過去5年平均を定常的に上回るには至っていない。

ロシアのウクライナとの停戦があれば輸出が再開する可能性はあるが、今のところ「脱ロシア産エネルギー」の流れが強まっており、停戦合意となってもロシア産の石炭輸出が影響を受けることは恐らく免れない。

現時点でも既にロシア発着の船便には保険が適用されず、実質的に輸出は止まっている状況で、中国などの特定の地域のみ輸出が行われている可能性が高い。今後、ロシアのウクライナ侵略を巡る問題は数年単位で解決(するのかも分からないが)するまでに時間が掛るだろう。

今後、夏・冬に向けた発電・暖房燃料の在庫積増しの動きは加速するとみられ、季節的な価格下落が難しくなっている状況だ。現在のガス価格を基準に簡単な回帰分析を行うと、NEWCは225~250ドル程度が妥当な水準であり高止まりが予想される。

これまで脱炭素を進めてきたドイツの発電燃料構成を見ると、石炭火力発電が回復している。ドイツは昨年夏以降石炭生産を増加させており、自国内生産がさらに増加する可能性も。しかし、これまで十分な上流部門投資を行っていない(見送ってきた)こともあり、基本的には海上輸送炭を求めると予想されるため海上輸送石炭需給がタイト化するとみる。

このような状況下、多くの非鉄金属の生産動向にも影響が出ている。特に製錬の過程で多くの電力を使用するアルミの影響は小さくない。

また、これまでの価格高騰は電力だけでなく、豪州がアルミナの輸出を即時停止すると決定したことで供給不安が台頭したことも影響している。ロシアはアルミの原料であるアルミナの約20%を豪州からの供給に頼っており、これが即時停止することで原料調達コストの上昇と、製錬アルミ現物供給懸念が台頭したことが背景だ。

通常、アルミや銅などの景気循環系商品価格は景気に価格が連動しやすいが、明らかに足下はコストが価格を決めている状況。これまで石炭価格の上昇による燃料コストの上昇の価格への影響が大きかった。これにアルミナの供給不安が重なった形。

恐らく、電力コストが価格に影響を与えるという意味では亜鉛や銅なども同じだろう。

LMEのアルミ指定倉庫在庫の水準のアルミ価格への説明力は高いが、ロシアに対する制裁強化への懸念が強まる局面では大幅に上昇しており、回帰直線からはかなり乖離した水準となっている。

回帰分析の結果が必ずしも万能ではないが、回帰直線からの乖離の標準偏差を用いた分析では、2標準偏差の水準である3,367ドルを大きく上回る3,500ドル近辺で推移している。

最大生産国である中国のアルミ製錬業の稼働率は低く、中国のアルミ需要に対する説明力が高い住宅販売の減速に比べると現在のアルミ価格がこうした過去データから乖離して上昇していることが分かる。

このことはひとえに現物調達が困難なことによるものであり、各地の現物プレミアムはほとんどの地区で上昇している。ロシアが撤兵したとしても制裁が解除されるかどうかは分からないが、現状、アルミ価格が下落するために停戦・ロシア軍撤兵は必要条件である可能性が高い。


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