米金融引き締めと中国景気懸念で総じて軟調
- MRA商品市場レポート
2022年5月9日 第2190号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「米金融引き締めと中国景気懸念で総じて軟調」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品市場は軒並み下落した。米雇用統計は米国の雇用が順調に回復していることを確認する内容だったが、雇用のミスマッチが継続し、賃金上昇が継続、インフレ沈静化のための金融引き締めを当局が強化するのでは、との見方が広がったことが、リスク資産価格を総じて押し下げることとなった(雇用統計の評価は「昨日のトピックス」を参照)。
この中で上昇が続いたのは原油と石油製品。原油はロシアに対する制裁強化を欧州が打ち出したことで、供給不安が高まったことが背景。
ただ同時に、ロシアの代表原油であるウラル原油も上昇しており、中国やインドなど、ロシアと積極的に敵対していない国々が、インフレ抑制かつ、「割安だから」という実利を求めて購入していると考えられ、対ロシア制裁で世界が足並みを揃えることは容易でないといえる。
その他、下落が顕著だったのは英天然ガスと米天然ガス。ロシア産のガス輸出がポーランドなどに対して再開していることや、中国の景気減速による輸入需要減少観測が価格を下押ししたようだ。中国の景気、という意味では鉱物資源価格も影響を強く受けた。
【本日の見通し】
週明け月曜日は米国の金融引き締め並びに中国のロックダウンの影響継続による、景気の先行き不透明感から株に調整圧力が掛りやすく、広くリスク資産価格には下押し圧力が掛る展開が予想される。
ただし、ロシアに対する制裁強化の方向が明確になっているエネルギーセクターは、供給制限によってベンチマークとなるBrent、WTI、ドバイなどの価格は上昇すると予想され、石炭、ガスも同様だろう。
脱ロシアがどのような形で完了するか、今のところ不明であるが仮に達成が可能とすればこれらの資源はロシア分が「浮く」ことになるため、脱ロシア完了後は普通に考えれば下落する可能性が高い(仮に東西が厳密に分割された状態であれば、西側諸国のエネルギー価格は高いまま)。
そのほか、15日までに発表の予定であるが、中国のファイナンス規模、新規融資、マネーサプライには注目したいところ。
また政治的な関連では、マルコス大統領の長男(親中国)がリードするフィリピン大統領選挙にも注目しておきたい。
【昨日のトピックス】
昨日発表された米国の雇用統計は雇用者数の増加が前月比+42.8万人(市場予想+38万人、前月+42.8万人)と好調な内容、製造業部門の雇用者数も+5.5万人(+3.5万人、+4.3万人)と回復基調を維持した。
製造業のみならず、レジャー・接客業の雇用者数が前月比+7.8万人となるなど、コロナの影響が緩和(ウィズコロナの積極推進)したことにより、サービス業の活動が通常状態に戻りつつあることを示唆する内容だった。
一方、失業率は3.6%と前月から横這い。失業者数が減少したが労働参加率が低下したため失業率の低下にはならなかった。一方、不完全雇用率は7.0%(前月6.9%)と上昇しており、このことは希望の職種に就けずに就労を諦めている人が増加していることを示唆している。
一方、時間あたり賃金の上昇は前月ベース、前年ベースとも伸びが鈍化、労働時間も頭打ちとなっていることから、一連の金融引き締めの効果を先取りした長期金利の上昇などが、徐々に経済活動及び雇用市場に影響し始めていると考えられる。
ただ、上述の通り雇用者と労働者の間のミスマッチが残存しているため、企業側は必要な人員を確保するために賃上げを余儀なくされると考えられるため、まだインフレが沈静化するには時間を要する見込み。
結果、FRBの利上げは秋頃までハイペースで続くと予想される。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は上昇した。EUが脱ロシア産原油を段階的に進める方針を示したことや、予想通りであるがOPECプラスは予め決められた以上の増産を見送る方針を示したこと、といった供給面の制限が強く意識されたため。
ドル高や中国のロックダウン継続による需要の減速観測はほとんど材料視されなかった。
目先、需給が「直ちに」緩和する材料は以下の通り。
1.戦略備蓄放出の大盤振る舞い
2.西側諸国(除く日本)の急速な金融引き締めによる景気減速観測
3.中国のオミクロン株感染拡大によるロックダウン拡大・需要減少
4.停戦
1.は恐らく年後半には「再び在庫を積む動き」で逆に価格上昇要因となり
2.は年後半には価格下落要因に
3.はこの20年の経験則上、中国の影響はファンダメンタルズ的に大きいはずなのに、なぜかさほど価格に影響を与えていないが、株の下落やドル高を通じて今回は価格に影響を及ぼすと考えられる。
4.はロシア5月9日の終戦宣言を目指しているとされる。ロシアからの供給制限は比較的限定されているものの、目先の最大の材料が一旦終了することで「一旦手仕舞い」となる可能性はある。
ロシア以外の供給先としては、米シェールオイル企業の増産(これは米政府もメジャー各社に要請済み)、イラン・ベネズエラの供給再開だが、後者はOPEC諸国の反米機運の高まりから容易ではない。
また食品価格高騰による飢饉の影響でナイジェリアなどの情勢が不安定化しており、原油パイプラインからの盗掘も増加しているため、中東の生産状況も不安定である。
現在のロシア・ウクライナ情勢シナリオ別原油価格見通しでは、脱ロシアに欧州が舵を切る可能性が高まっている。そのため、現在OPECプラスの増産が始まっていることから、2.の状態にあると
また、ロシアが一部の国のガス供給を停止したことで、類似の対応が原油でも取られる可能性がある点は価格のアップサイドリスクだ。
下記シナリオは数ヵ月の短期的なものであるが、長期的にはレーショニング・金融引き締めの影響・景気循環による需要減少による基準価格(供給懸念が後退したときの着地点となる価格)は徐々に切り下がると考えている。
なお、年後半に掛けて米金融引き締めが進むことによる景気過熱感の沈静化で、年後半にかけての価格見通しは下向きである。
<シナリオ別原油価格見通し>
1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない(ないしはその可能性が強く意識される) Brent 120-140ドル
2.戦闘状態が継続し、欧州をはじめとする西側諸国がロシア原油を段階的に禁輸とするBrent 105-125ドル
3.1.ないしは2.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 100-120ドル
4.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 95-115ドル
5.4.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-110ドル
↑ 上記は停戦が行われない場合のシナリオ
↓ 下記は停戦が行われた場合のシナリオ(現在は徐々にこちらに移りつつある)
6.ロシアがウクライナから撤退するが原油の脱ロシアが進むBrent 95-120ドル
7.6.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 75-100ドル
8. 脱ロシア完了Brent 50-75ドル
9. 東西冷戦構造が構築されなかった場合(前回オイルショック時と同様に化石燃料の生産が増えて顕著な供給過剰となる場合)Brent 40-60ドル
※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。OECD諸国の戦略備蓄130万バレル放出は半年の時限付。
週明け月曜日も脱ロシア産原油の動きがマーカー原油価格を高値に維持すると考えられ、高値圏での推移を予想。
◆石炭
豪州石炭スワップ先物価格は上昇し、360ドル台に迫った。インド北西部を熱波が襲い、北西部の都市ビカネルでは1日の平均気温が39度に達し(平年34度)、5月1日・2日の最高気温が47度を超えるなど、電力需要が増加している。
この中で発電量の7割を占める石炭火力向けの石炭国内生産が充分ではなく、海外炭の需要が増加していることが、海上輸送炭市場の需給をタイト化させている状況。
日本も対岸の火事ではなく、今年の夏は猛暑が予想されているため、石炭価格の高騰が電力会社の業績を圧迫するのみならず、逆ざや発生に伴う電力供給制限が起きる可能性も意識しなければならない状況。
しかし、やはり景気への懸念が強いこと、中国の増産観測もあるため期先の価格は総じて安い(それでも十分高い水準)。
中国は、以下の理由から引き続き石炭不足・電力不足が発生する可能性を懸念している。
1.ロックダウンの影響
2,コロナの影響による燃料輸送の障害
3.異常気象による水力発電の不足
4.電力価格に制限が設けられていることによる石炭生産の阻害
中国政府は2022年の石炭生産目標は昨年12月の過去最高水準を上回る1,260万トン/日(3億9,060万トン/月)に設定してるとされ、これが達成されるとほぼ輸入が不要となる。逆に言えば中国は脱炭素を実施するつもりはない、といえる。
なお、3月の中国の石炭生産は、前年比+16.1%の3億9,600万トン(1,277万トン/日)まで急増しており、燃料炭輸入需要は減少している。ただし、目標は下回っている。
足下中国の6大電力会社の石炭在庫は過去5年の最低水準を上回ってはいるものの、在庫水準は極めて低い状況。
なお、港湾在庫は減少しているが、国内供給を優先させる方針のため輸入が減少しており、在庫が減少していてもある意味当然か。
週明け月曜日もインドをはじめ、調達圧力が強いことから高値維持の公算。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物市場は下落した。ノルドストリームの流量が増加、ベラルーシからポーランド向けのガス流量が増加していることで、域内需給が緩和すると見られたことが材料となった。
欧州は脱ロシア産ガスに舵を切っているが、足下の脱ロシアが困難としても、大きな方向性として、欧州は脱ロシアを完遂する計画であり、引き続きLNGを積極的に輸入すると予想される。なお、欧州全体のガス貯蔵率は5月5日時点で35.0%(34.0%)と十分な在庫は積まれていない状況。
LNGのターミナルをもたない域内最大のエネルギー消費国であるドイツは、
1.域内供給の増加2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)3.需要の削減
によってガス在庫を積み上げるしかないが、結局その大半はロシアからの輸入に頼らざるを得ない。現在のドイツの在庫率は36.7%(36.3%)と欧州全体よりは高いものの、依然として低い水準である。
ロシアのポーランドやブルガリアに対するガス供給停止は一旦解除となっているようだが、この動きがその他の国に広がれば、冬場に向けた在庫積増しが困難になり価格上昇のみならず、供給不安が顕在化する。この場合、欧州がエネルギーを巡って分裂、ということもあるため小さなリスクではない。
米国天然ガス先物市場は下落。欧州ガス価格の調整に伴う、週末を控えた調整と考えられる。北米の天然ガス・プロパンガス在庫の水準は過去5年と比較して低い状況が続いている。
JKM先物は期先が下落。引き続き今年の夏場以降の水準は高いが、金融引き締め強化や中国の需要減少観測が期先の需給バランスをやや緩和しているためと考えられる。
4月24日時点の日本の発電用LNG在庫は195万トン(前年同月末201万トン、過去4年平均190万トン)と先週から小幅に増加した。今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の供給不足のリスクは小さくない。
4月18日~24日のLNGトレードだが、取引量は720万トン、スポット取引のシェアは23%と前週の19%から上昇。
スポット契約は欧州向けが+30万トン程度増加、主にイタリアと英国向け。長期契約ベースの数量は▲3%と減少。フランス向けが減少した。日中台韓向けの輸出は横這い。
注目すべきはロシアヤマルからのLNGが、インド、インドネシア、ベルギー向けに増加している点。イタリアなどの輸入は主に米国・カタール産。
週明け月曜日はロシアからの供給途絶が一旦解消していると見られること、景気の先行きへの懸念、季節性の観点からやや軟調な推移になると予想。
ただし基本的にはロシア産原油が必要であり、同時にLNGカーゴを物色する動きも継続するため安値拾いの買いは入ると予想されることから下落したとしても余地は限定されよう。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。
◆非鉄金属
LME非鉄金属価格は下落した。中国のロックダウンの動きが継続していること、5月のGW明けではあるが恐らくこの週末までは経済活動が回復しないとみられること、米金融引き締め観測を背景としたドル高の進行が価格を下押しした。
現状、中国のロックダウンの解除が進んでおらず、景気に明確に悪影響になっている(詳しくは本日のMRA's Eyeをご参照ください)。ただし、今回の価格下落は政府の強制的な経済活動停止によるものであり、ロックダウンが明ければ再び価格は上昇すると予想される。
また、異常気象やコロナの影響、ウクライナ問題で物流に支障を来していること、特に欧州向けのロシア産エネルギー供給がリスクに晒されており、亜鉛などはエネルギーコストの上昇継続などのある意味突発事象がコスト面で価格を下支えする状態は続くだろう。
週明け月曜日は、休み明けの中国勢の買いが回復すると予想されることから、安値拾いの買いが入り、上昇余地を試す展開を予想。ただしロックダウンが解除されていないことから上昇余地も限られるだろう。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは大幅に下落、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は上昇、上海鉄鋼製品先物は下落した。
中国政府のゼロコロナ政策の影響で経済活動が停止している状態が続いており、建築・建設向けの鋼材需要が低迷する中、鉄鋼製品価格が下落、それを受けて鉄鉱石価格も水準を切り下げた。
一方、週次の鉄鉱石港湾在庫は前週比▲365万トンの1億4,535万トンと過去5年平均を上回り、在庫日数は30.4日(前週比+0.2日)と、過去5年平均の30.2日を上回っており在庫水準は潤沢。
一方、原料炭は供給制限が継続しており高値を維持している。港湾在庫は前週比+10万トンの123万トンとなったが、過去5年平均の150万トンを大きく下回っておりはっきり言って充分な在庫ではない。結果、調達コストが上昇するため、鉄鋼製品価格を高値に維持しよう。
短期的にはロックダウン解除、その後の経済対策の効果で鉄鋼製品・鉄鋼原料価格とも上昇を見込んでいるが、中期的には、中国政府は企業に対して2022年の粗鋼生産を2021年を下回るよう指導しており、結果的に鉄鉱石需要が減少する見通しであり、国内生産の増加や投機規制強化によって鉄鉱石価格は低下を予想する。
なお、鉄鉱石の中国国内生産は前年比+4.3%の2億6,800万トンに増加すると見られている(BBGによる推計)。
石炭も同様だが、中国は海外資源への調達依存が価格動向を不安定化させるため、環境汚染は一旦横に置き、中国は国内サプライチェーンの拡充に力を注ぐ方針と考えられる。
現在の鉄鋼製品価格を基準にした回帰分析の結果は、鉄鉱石価格が152ドル、原料炭価格が254ドルとなっており、鉄鉱石・原料炭とも水準が高い。
週明け月曜日は休み明けの中国勢の活動再開が期待されることから安値拾いの買いが入り、鉄鋼原料価格は上昇すると予想。ただし、ロックダウン解除がまだ本格化しない中では上昇余地は限定されると考える。
◆貴金属
昨日の金価格は米長期金利が上昇して実質金利が上昇したことで金の基準価格が1,244ドル(前日比▲29ドル)と低下、リスク・プレミアムが640ドル(+34ドル)と上昇したことで、前日比小幅なプラスとなった。
銀価格は金銀レシオが84倍と上昇、中国のコロナの影響によるロックダウンが実体経済に悪影響を及ぼしていることから、工業金属の色彩が金よりも強い銀は小幅な下落となった。供給過剰で銀との相関性が高いプラチナは大幅な下落。
パラジウムは現状、ロシア産のパラジウム供給制限が起きていないことから、中国の経済活動鈍化に伴う実需減少観測が価格を下押しすることとなった。
週明け月曜日も再び米国の金融引き締め動向に注目が集まると予想され、金利高・ドル高が続く見通しであることから、貴金属セクターは総じて軟調な推移を予想。
◆穀物
シカゴ穀物市場はまちまち。トウモロコシと大豆は下落したが、小麦は上昇した。トウモロコシ・大豆は米国の生産地の天候状況改善やドル高が材料となり、小麦は引き続きロシア・ウクライナ問題が価格を押し上げている。
仏ケイロス社の分析では、ウクライナの小麦生産は現段階で2,100万トンと見込まれているが、これは前年比で▲1,200万トンの減少、過去5年平均と比較して▲23%低い水準である。
また、仮に無事に収穫出来たとしてもロシアがウクライナ産小麦の主要輸出基地であるオデーサを封鎖をしているため、輸出は困難であり、自国向けにロシアが収奪する可能性も高いため、小麦の供給は不安定となる見込み。
これはその他のひまわり油、トウモロコシなどでも同様である。
週明け月曜日もロシア・ウクライナ情勢、ラニーニャ現象の継続から価格は堅調推移も、ドル高が続いていることが上値を抑える公算。
※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・米中対立激化にロシア問題も加わり、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。
むしろこの可能性は高待っており、もはやメインシナリオか。
・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・ロシア・ウクライナの衝突の影響が長期化し、欧州を中心に景気が減速する場合。
また、ロシアに対する制裁がロシアが主要生産地である商品の供給を制限し、価格を押し上げ、景気を悪化させるリスク(価格下落要因)。
ウクライナへの侵略戦争は長期化がほぼ確実であり、景気下押し要因となるという展開はメインシナリオとなる可能性。
・ロシア国債のデフォルトや、ロシアからのビジネス撤退が企業や信用市場に大きな影響を与え、クレジットクランチ(信用収縮)が発生する場合。
・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。
・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。
・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。
・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。
◆本日のMRA's Eye
「中国ロックダウンの金属価格への影響大きく」
非鉄金属の需給は足下、中国の景気減速で緩和しており、中国からの精錬品輸出も貿易統計で確認出来る限りでは増加している(アービトラージがオープン)。
弊社はベンチマークの銅価格のQ222の見通しを10,500ドル、としていたがロックダウンの影響が想定以上に長びいており、中国経済への影響が無視できなくなっている.
このため、全ての非鉄金属の平均価格が、4月初に見直した見通し価格よりも低い水準での着地になる可能性が高まっていると言わざるを得ない。
昨日だけを取ってみても、中国上海総合株価指数が前日比▲2.2%、香港ハンセン指数が▲3.8%と下落しているのに対し、S&P500は▲0.6%、NYダウは▲0.3%の下落に止まっている。
いかに市場参加者が足下の中国の経済活動の鈍化を懸念しているかが分かる。
経済活動の鈍化と非鉄金属価格の動向は相関性が高く、ウェイボー集計の北京・上海・広州の地下鉄利用者数の推移と銅価格の間には一見して正の相関性があり、足下の乗客数の減少=経済活動の鈍化、を受けて銅価格が下落していることが分かる。
これは逆に言えば、経済活動が回復すれば銅価格が上昇する可能性があることを示唆している。
この夏の北戴河会議で3期目を確実にする見通しの習近平国家主席が景気のこの状況を放置するとは考え難い。
かつ、現在の中国のロックダウンが感染が危機的な状況にあることによるロックダウンではなく、習近平・共産党自身のメンツのために行っているゼロコロナ政策の影響によるものであることは無視できない。
恐らく、ひとたびロックダウンが解除されれば、中国政府が公言しているように経済対策が行われ、急速に景況感は回復すると予想される。
また、現在、LMEのファンド筋(純粋な投機)の買越しポジションは急速に減少しているためポジションが軽く、ロックダウン解除の動きの中で再び買いが入って価格が上昇する可能性は高いと考えられる。
見通しのリスクとしては、想定以上にロックダウンの動きが拡大し、景気が回復しないレベルまで景気が調整してしまうことだろうか。
ただ、そもそも循環的には景気が減速する局面にあることも事実であり、鉱業・工業・鋼業セクターの先行指標である中国住宅・ビル販売(12ヵ月移動平均)は今年の2月から前年比マイナスに転じており、やはり中期的な価格見通しは下向きである。
まとめると、やや複雑になるが
・ロックダウン解除後に経済活動再開、投機の買い戻しで上昇
・その後、恐らく8月の北戴河会議前後で3期目の了承が取れた後、過剰な経済対策を緩和・見送り
・米国の利上げやQTの影響で価格に対する影響が大きいドル指数が上昇、年後半にかけてはもう一度価格は下落
といった展開になるのではないか。
主要ニュース/エネルギー・メタル関連ニュース/主要商品騰落率/主要指数/市場の詳細データPDFは、有料版「MRA商品市場レポート」にてご確認いただけます。
【MRA商品市場レポート】について