投機の円売り抑制も実需の円安圧力続く
- MRA外国為替レポート
2022年4月4日号
◆先週の市場総括
先週は円相場が大きく変動した。日米金融政策格差が鮮明となりドル高円安見通しが強まるなか、前週末に日銀・黒田総裁が、円安は日本経済全体にとってプラス、と述べ円安を容認。さらに月曜日に日銀が連日の指値オペ、長期金利上昇を抑制するための債券無制限購入の連日実施を表明。これらが強力に円先安感を煽った。
投機筋の円売りに加え、本邦輸入企業のストップロスの円売りも重なり、ドル円相場は125円へ、ユーロ円相場は137円50銭へ急騰した。
ただその後は投機筋の円買い戻し、政府・財務省が急速な円安を牽制する動きや発言が続き円安に急ブレーキがかかった。ドル円相場は121円台半ばに下落してもみ合い。原油価格の上昇が一服したことも円安にブレーキをかけた。
週末の米雇用統計は強い数字。ドル円相場は一時123円ちょうどをつけるなど持ち直し122円台半ばで引け。
ユーロはウクライナ停戦協議の進展期待で週後半にかけて堅調。ユーロドル相場は1.09台半ばから1.11台後半に上昇した。ただ強い米雇用統計を受けたドル高の勢いに押され週末の引けは1.10台半ば。
米国では利上げ加速観測で中短期債金利が上昇し2年債は2.4%台半ばへ。10年債は急速な利上げが景気を冷やすとの見方から上昇一服し2.4%割れ。逆イールドに。
米国株はウクライナ情勢の緊張緩和期待で週前半にかけ上昇。しかし目立った進展がないなか、期末・期初の利益確定売りに押されほぼ前週末と同水準に押し戻された。日経平均は28,000円の大台を維持できず、米株安や円安一服で27,600円台に押されて引けた。
月曜日の東京市場では日経平均が10営業日ぶりに反落。前週までの大幅高の反動で利益確定売りが優勢となった。週末の米国でハイテク株が売られたことから東京市場でもハイテク関連株が売られた。
一方、円安進行で輸出関連株には買いが入った。日銀の指値オペによる金融緩和継続姿勢も好感され下値を支えた。引けは前週末比▲205円安の27,943円。
日銀は3日連続で指値オペを行うことを表明。長期金利上昇を抑制し、現状の強力な金融緩和を継続する姿勢を鮮明にした。これを材料に為替市場では急速に円安が進んだ。
ドル円相場は122円ちょうど近辺で始まり午前中に123円ちょうどに上昇。欧州市場にかけて円安が加速して125円台をつけた。
ユーロ円相場も134円ちょうど近辺で始まり137円50銭に急騰。その後は急速な円安の反動で下落。ドル円相場は米国時間昼頃には123円20銭に下落し米国市場の引けは123円90銭。
米10年債利回りがアジア時間午後に一時2.55%をつけたが、その後欧米市場にかけては反落して米国市場の引けは2.466%に。2年債も同様に2.40%をつけた後は低下に転じて2.336%で引けた。
5年債入札は好調で金利下押し要因となったが、2年債入札は低調。ユーロ円相場も値動きの荒い展開。135円20銭に下落した後、20銭~80銭で上下し、引けにかけては上昇して136円20銭近辺。
ユーロドル相場は東京市場では1.099近辺で始まりドル堅調のなか1.095~1.096で上下。欧州市場では1.097~1.099で上下した後、1.095割れにユーロ安ドル高。ただ米国市場終盤には米金利低下から1.100~1.099に反発した。
原油価格WTI先物は7ドル以上下落して105.96ドル。
米国株は上昇。原油価格下落で過度なインフレ懸念が後退。長期金利上昇が一服したことでハイテク株は堅調。一方、エネルギー関連株や金融株が軟調。NYダウは一時▲300ドル下落したが持ち直して+94ドル高の34,955ドル。
ナスダックは+185ドル高の14,354ドル。VIX指数は▲1.18ポイント低下して19.63とようやく20を割り込んだ。
火曜日の東京市場では日経平均が反発した。期末配当権利付き売買最終日にあたり、先物に配当再投資を見込んだ買いが入った。米長期金利上昇一服を好感して成長株が堅調。
一方、28,000円の大台を回復したことで利益確定・戻り売りも散見された。引けは前日比+308円高の28,252円と1月18日以来の高値。
円相場はユーロ円相場を中心に値動きの荒い展開。ドル円相場は123円90銭近辺で始まり朝方124円20銭に上昇したあと123円40銭に下落。10時の仲値近辺では124円20銭に急上昇し、昼過ぎには再び123円20銭近辺に下落した。その後は123円50銭~80銭で上下動。
ユーロ円相場は136円ちょうど近辺で始まり値動き荒く、朝方136円40銭に上昇した後、135円60銭に反落。仲値近辺では136円30銭に急反発し、昼過ぎには135円40銭に反落し底値をつけた。
夕刻には136円30銭台に上昇し135円80銭に反落するなど大きく上下して欧州時間朝方は136円40銭~60銭で推移した。
この日はロシアとウクライナがトルコで対面による停戦交渉を実施。一定の進展がみられた。ロシアは首都キエフへの攻撃を劇的に減らし、ウクライナは安全が保障されるかたちで中立化を受け入れるとし、クリミア半島の主権問題は15年間棚上げを提案。
市場はこれを好感。欧州株は上昇。為替市場ではユーロ買い、ドル売りの動きとなった。ユーロドル相場はアジア時間には1.099近辺で始まり1.098~1.100でもみ合い底固く推移。
欧州時間には1.1040~50に上昇していたが、交渉進展を受けて1.1130台に大幅高。ユーロ円相場は137円20銭に上昇した。
原油価格WTI先物が大きく下落。ドル円相場は122円ちょうど近辺に下落した。ユーロ円相場は135円80銭に急反落し、135円80銭~136円40銭で上下し引けは136円20銭。
ドル円相場は反発して122円60銭~80銭で上下した後、引けは122円90銭近辺。ユーロドル相場は反落して1.107~1.109で上下し引けは1.109近辺。
米国株は大きく上昇。NYダウは4営業日続伸。停戦交渉で一定の進展がみられたこと、原油価格が下落したこと、長期金利上昇が一服したことが好感された。ただし対ロシア制裁の行方は不明。NYダウは前日比+338ドル高の35,294ドル、ナスダックは+264ドル高の14,619ドル。VIX指数は▲0.73ポイント低下し18.90。
原油価格WTI先物は104.24ドル。米10年債利回りは2.5%台に上昇していたが、停戦交渉進展をうけたインフレ懸念の後退で低下し2.4%ちょうど近辺。2年債利回りは2.372%。
水曜日の東京市場では日経平均は反落。下げ幅は一時▲500円を超えた。配当権利落ちで配当狙いの買いが剥落。とくに高配当銘柄の重石となった。
円安ドル高の一服で輸出関連株が勢いを失った。日銀が債券買いオペ額を増額し超長期債も対象としたことから長期金利が低下。銀行株の重石となった。
ただ底固さもあり引けは下げ幅を縮めて▲225円安の28,027円で引けた。
ドル円相場は122円90銭で始まり早々に123円20銭に上昇。しかしその後急速に円高に振れた。岸田首相と黒田総裁が会談するとの報道で、政府と日銀が協調して円安に対処するとの見方が広がった。
ドル円相場は昼過ぎに121円30銭までおよそ2円の急落。ユーロ円相場は136円20銭から60銭に上昇した後、135円割れに下落した。
その後夕刻にかけては円高一服。ドル円相場は122円ちょうどに戻した後、欧州市場にかけては121円60銭~122円ちょうどで上下。米国市場では121円80銭近辺でもみ合い引けは121円90銭。
ユーロ円相場は136円に戻した後、135円40銭~70銭で上下しその後は136円20銭に上昇し引けは136円ちょうど近辺。
ユーロドル相場は東京市場朝方に1.1090で始まり夕刻は1.1120へさらに欧州市場朝方は1.1160に上昇した。その後は1.11台前半で上下、1.1160近辺でもみ合い引けた。
米国株は下落。短期的な過熱感から消費関連株、ハイテク関連株に利益確定売りが入った。ウクライナ情勢に関しては、前日は2国間協議による停戦期待で買いが広がったがロシアの攻撃は続いており期待が後退。原油価格が上昇したことも嫌気された。
NYダウは前日比▲65ドル安の35,288ドル、ナスダックは▲177ドル安の14,442ドル。VIX指数は+0.43ポイント上昇して19.33。
原油価格WTI先物は107.82ドル。米10年債利回りは2.358%へ、2年債利回りは2.312%へ、前日から小幅低下した。
発表されたドイツの消費者物価指数(3月)は前年同月比が前月+5.1%から+7.3%へ上昇加速。ECBの利上げ観測が強まりユーロを支えた。米国のADP雇用報告(3月)は雇用者数前月比が前月+475千人に続き+455千人と大幅な増加を示し、雇用情勢の堅調さを確認した。
木曜日の東京市場では日経平均が続落。前日の米国株が下落したことで安くスタート。3月期末で幅広く利益確定売りが出た。中国の弱い景況感指数で景気減速への警戒感が強まった。また週末の米雇用統計を前に様子見姿勢も強まった。引けは前日比▲205円安の27,821円。
中国のPMI製造業景況感指数(3月)は49.5と景況感の分かれ目である50を5か月ぶりに下回った。
ドル円相場は乱高下。121円80銭で始まり朝方は122円40銭に上昇。その後は上値重く122円ちょうど~30銭で上下し、午後には大きく下落して欧州朝方には121円30銭台。
欧米市場でも方向感定まらず。122円20銭に戻したあと急反落して121円30銭へ。引けにかけて持ち直し121円70銭。ユーロ円相場は136円ちょうどで始まり136円80銭に上昇したが夕刻から欧州市場にかけて135円40銭に下落、136円ちょうどに反発など乱高下。
その後米国市場にかけては一段とユーロ安円高が進んだ。134円50銭近辺に下落し、引けは134円60銭。
ユーロドル相場はアジア市場では落ち着いた値動き。1.1160~1.1180で上下。欧州市場に入ると大きく下落して1.1070へ。米国市場では一時1.1130に反発する場面もあったが引けは1.1060~70。
欧州株は下落。ドイツ株が不芳。ロシア産天然ガスの供給懸念が重石。米国株は大幅安。月末・四半期末で利益確定売りが優勢となり引けにかけて下げ幅が拡大した。ウクライナ問題の長期化観測も重石となった。
NYダウは前日比▲550ドル安の34,678ドル、ナスダックは▲221ドル安の14,220ドル。VIX指数は+1.23ポイント上昇して20.56。
原油価格WTI先物は大きく下落して100.28ドル。バイデン政権が6か月間、1日100万バレルの史上最大の石油国家備蓄放出実施を決定した。
経済指標は概ね予想通りで長期金利上昇は一服した状況が継続。10年債利回りは2.345%、2年債は2.335%。一時利回りが逆転する逆イールドとなった。
週次の失業保険新規申請件数は前週の187千件から202千件に増加。継続受給者数は1,350千件から1,307千件に減少。個人所得(2月)は前月比+0.5%と予想通り堅調、消費支出は+0.2%と予想より弱め。前月に+2.1%と大幅増加のあとで弱かった。
消費支出価格指数は+6.4%と前月+6.1%から一段と上昇加速。40年振りの高水準となった。シカゴ購買部協会景気指数(3月)は前月56.3から62.9へ上昇して予想57.4を上回った。
金曜日の東京市場では日経平均が3営業日続落。四半期末の米国株が大きく下落したこと、期初の利益確定売りが優勢となり寄付きから下落。下げ幅は一時▲400円超下落して27,400円近辺をつけた。
ただその後は下げ渋り、持ち直し。円安や原油価格下落が支えとなり27,700円近辺でもみ合い。引けは▲155円安の27,665円。
発表された日銀短観(4月)は大企業・中小企業、製造業・非製造業、現状・先行き、にわたり幅広く業況判断が小幅悪化した。大企業製造業の設備投資計画は予想を下回った。
為替市場では円安。ドル円相場は121円70銭で始まり昼にかけて122円70銭へ大きく上昇。ユーロ円相場も134円60銭で始まり135円80銭に上昇。その後は円安が一服して不安定に上下し、ドル円相場は122円30銭割れ~70銭台、ユーロ円相場は135円20銭~80銭を上下。
欧州市場から米国市場朝方にかけては再び円が軟調。ドル円相場は122円40銭~50銭のもみ合いから123円ちょうどへ、ユーロ円相場は135円20銭~50銭の上下動から80銭へ上昇した。
ユーロドル相場はアジア時間に1.1060~70で小動きのあと、欧州時間には上下動を広げて1.1040~70で軟調。米国時間朝方にかけて1.1030へユーロ安ドル高。
注目の米国の雇用統計(3月)は強い数字で雇用の堅調さを示した。
非農業部門雇用者数は+431千人とほぼ予想通りだったが、前月が+678千人から+7501千人に上方修正、1月も上方修正された。
失業率は前月3.8%から3.6%へ低下。平均時給は前年同月比+5.6%と予想より強めで前月+5.2%から上昇率が加速した。
一方、ISM製造業景気指数(3月)は前月58.6から57.1へ悪化して予想58.3を下回った。雇用指数は52.9から56.3へ上昇したが、新規受注が61.7から53.8へ悪化。価格指数は75.6から87.1へ上昇。価格上昇や供給制約が景況感の重石。
ドル高円安は一服し、ドル円相場は反落して122円50銭近辺で引け。ユーロ円相場は135円30銭近辺。ユーロドル相場はやや持ち直して1.1040~50。
米国株は小幅高。雇用が強く消費関連株に買いが入った。期初の投資資金流入期待で引けにかけしっかり。ただ利上げ加速観測が強まったことでハイテク株には重石となった。
NYダウは前日比+139ドル高の34,818ドル。ナスダックは+40ドルの14,261ドル。VIX指数は▲0.93ポイント低下して19.63。
原油価格WTI先物は99.38ドル。米長期金利は中短期債が上昇、長期債は上昇一服となり2年債利回りが2.463%、10年債が2.389%と、逆イールドに。強い雇用統計が大幅利上げ観測、5月会合での0.50%利上げ予想を後押し。一方、ISM景気指数が弱かったこともあり景気減速懸念が強まった。
◆今週の3つの注目ポイント
1.FOMC議事録、当局者発言
水曜日に3月のFOMC会合の議事要旨が公表される。この会合では、ウクライナ情勢による景気懸念・インフレ懸念双方が強まるなか、いずれに傾くか注目されたが、結果は一段とタカ派の姿勢が示された。
政策金利見通しは利上げペースが加速するとの見方で、最終的に中立水準を上回って引き上げられるとの予測に。こうしたタカ派スタンスをあらためて確認することになる。
また地区連銀総裁の発言が水曜日、木曜日に続く。強い雇用統計を受けてこちらもタカ派姿勢を確認することとなるか。火曜日のISM非製造業景気指数が強く米国経済の堅調さを確認するかも注目される。
2.ECB理事会議事要旨、欧州の経済指標
木曜日に3月に開催されたECB理事会の議事要旨が公表される。
ウクライナ情勢の悪化、エネルギー供給不安や価格上昇の景気への悪影響が懸念されるなか、ECBも想定外にタカ派に傾斜した。米国のみならず欧州も金融正常化に傾き、日銀の現状維持が際立ったことで円独歩安となった。
この議事要旨ではその議論の詳細が明らかになる。
また水曜日のドイツ製造業受注、木曜日のユーロ圏小売売上高、ドイツ鉱工業生産、の数字が景気動向が維持されているか、悪化の兆しがみえるか、ウクライナ情勢の影響はこれから顕在化するとみられるが、市場心理に影響する可能性がある。
3.日本の国際収支
金曜日に日本の国際収支(2月)が発表される。すでに発表されている通関ベースの貿易収支(2月)は1月の▲2兆円からは減少したものの▲6,700億円の赤字と予想を大きく上回る赤字幅となった。
季節変動があるなかでも収支悪化は続いている。あらためて経常収支の悪化傾向が確認され、為替需給面からの円先安感を支えることとなるか。
◆今週のMRA's Eye
投機の円売り抑制も実需の円安圧力続く
昨年秋にはすでに資源価格が上昇し対外収支が悪化の兆しをみせ、円安や交易条件の悪化が日本経済に悪影響をもたらすとの懸念が強まっていた。
さらに資源価格上昇と対外収支の悪化が円安をもたらし、収支悪化と円安のスパイラルが生じるとみられてきた。
そこに生じたウクライナ情勢の悪化は、資源価格の急騰をもたらし、日本の対外収支がさらに悪化するとの見方を強め、円先安感がさらに強まった。加えて、欧米の金融政策は景気懸念よりもインフレ懸念に傾き、とくに米FRBは利上げ加速方針を鮮明にした。
一方で日銀は景気懸念を強めて超金融緩和政策を維持する姿勢を示し、欧米と日本の金融政策格差が拡大。これだけでも円独歩安となりやすいが、黒田総裁が円安容認発言をしたことで円先安感の火に油を注ぐかたちとなった。
先週初には125円をつけたが、オプション取引によるドル買い円売り契約が、消滅条件であるドル高円安水準をつけたことによる一時的なドル買い円売りや、ストップロスによる円売りも影響した可能性がある。
黒田総裁は頑なに円安が日本経済にメリットがあるとの認識を示し、その見方は変わらないようだ。
確かに円安がプラスの側面もあるが、個別企業の状況によるだろう。主として大企業・製造業にはプラス、輸入企業にはマイナスなことは明らか。
輸入企業は海外製造・国内卸・小売業で中堅中小企業が多い。大企業・製造業の下請け企業も原材料価格の上昇・国内大手企業への販売となるため資源高や円安は逆風となる。
価格転嫁の動きはすでに広範に及び家計を圧迫し始めた。
家計は永遠の輸入サイドであり円安はデメリット。大企業・製造業でさえ、海外生産・販売比率を高めていることから、円安のメリットはかつてより小さくなっている。為替相場変動に左右されない体制、円高耐久力をつけてきたことが、かえって円安メリットも抑制している。
一方、岸田政権はインフレ対応・価格抑制に追われている。岸田政権は安部政権の経済政策と一線を画し、成長も重視するが、より分配に配慮する方針を打ち出してきた。
その方針からすれば、円安を放置し、過剰な円安で企業間格差、企業と家計の格差が拡大することは容認できないだろう。
日銀・黒田総裁は、超金融緩和・円安容認による成長重視・デフレ脱却を主眼とする安倍政権のもと、政府・日銀が一体となって政策を進めてきた。そうした黒田総裁の政策スタンスが、岸田政権の方針と差異を生じるのは当然だ。
欧米の政府・政権はインフレ対策に舵を切っている。
とくに米バイデン政権はインフレ高騰で支持率が低下。日本でも岸田政権が物価上昇への対応を迫られるなか、日銀と政府の政策に整合性がとれないとの見方もあろう。
先週初に急速に円安が進んだことで、さすがに岸田政権・政府・財務省から市場の動きを牽制する動きがみられた。
為替相場を所管するのは財務省。神田財務官は米当局と連絡を密にしている、として、為替動向、急速な円安を注視していることを表明し市場を牽制。さらに岸田首相は黒田総裁と会見を行い、市場の円安容認観測を牽制した。
金融政策を与る黒田総裁は金融政策に専念し、その結果として円安となることはファンダメンタルズに沿った動きとして、なおも円安容認姿勢を崩さず。
ただ岸田政権は引き続き円安警戒姿勢を続けるだろう。黒田総裁の任期はなお1年程度残るが、市場は次第に「次」を気にし始めている。
水準がすでに120円台に達したこと、政府の円安けん制姿勢を踏まえれば、投機的な一方的円売りは今後抑制された状況が続きそうだ。
政府の円安けん制姿勢により、投機筋の円の売り買いは方向感定まらず、円相場の上下動はこれまでに比べて大きくなり、変動率すなわちリスクは大きくなりそうだ。
ただファンダメンタルズや需給がドル高円安を支える状況には変わりがない。資源価格動向はウクライナ情勢や経済制裁の動向、OPECのスタンスなどにより予測が難しいが、高止まりする状況が不変なら、日本の貿易収支が悪化した状況が続き円安圧力は継続するとみられる。
日米金利差はこれからさらに拡大する可能性があり、ドル高円安を促すとみられる。
ただ金利差に応じて動く投資資金も、ここからドルのリスクをとって一方的にドル資産を買い進めるのは難しくなるだろう。結果、投資資金の慎重なスタンス、投機筋の方向が定まらない動き、底流での収支面からの円安圧力、を前提に相場動向を予測。
当面は120円~125円の範囲で定着しつつ、緩やかなドル高円安基調ながら変動は上下振れが大きく、年央に125円超のリスクもはらみつつ、年末から来年にかけていずれかの水準でピークアウトを探る、との見方をメインシナリオとしたい。
そのうえで、リスクバイアスは引き続きドル高円安サイドに傾いた状態が続きそうだ。
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