CONTENTSコンテンツ

米引き締め加速観測で総じて軟調
  • MRA商品市場レポート

2022年4月8日 第2169号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「米引き締め加速観測で総じて軟調」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は欧州向け輸出増加や気温低下を受けた米天然ガスや、ロシア情勢不安による安全資産需要からの貴金属、直接影響を受けていないその他農産品が物色され、ベースメタルやエネルギーなどの景気循環系商品が売られる流れとなった。

米雇用関連統計の改善を受けた需要の回復期待、というよりもそれに伴う金融引き締め加速が強く意識されていると考えられる。

なお、パニック的に上昇を続けてきた原油価格はこうした米国の金融引き締め加速緩速を背景に需要が減少するとみられ始めている。ある意味想定通りでは有るが、これはベースメタルなどにも影響しており、ドル高が価格を下押ししている(ベースメタルの場合は中国のオミクロン株の影響も大きい)。

現在、ロシアの侵略戦争を受けて「国際的な秩序の変化」が起きていると考えられ、それに伴い資源のフローや価格水準も変化する可能性が高まっている(詳しくは本日のMRA's Eye「国連人権理事会の投票結果を受けて」をご参照ください)。

【本日の見通し】

本日は予定されている目立った材料が少ない中、昨日の米雇用関連統計の改善を受けた金融引き締め加速観測を受けて価格水準を切下げるドル建て資産が多いと考える。

とはいえ、コンテナ船の不足や、コロナの影響による労働力不足の状態は続いており、「総合的なコストの上昇」から遠距離への物資輸送が困難な状況が続いていることが供給不足・流動性の不足をもたらすため、高値での推移は続くと予想される。

【昨日のトピックス】

昨日発表された米週間新規失業保険申請件数は16万6,000件と1968年11月の16万2,000件の最低水準に迫った。明らかに米国の労働市場は改善しているといえる。

しかしその一方で労働力が十分ではないことも事実であり、今後、労働力の不足が物価上昇(フィリップス曲線はその有効性が復活)並びに経済活動の足かせとなる可能性があることを示唆している。

恐らく米国の労働参加率は賃金の上昇と共に改善すると予想されるが、先週の統計では不完全雇用率が6.9%とまだ高い水準にあり、雇用者と労働者の間でミスマッチが起きていることを示唆している。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は下落した。IEAによる原油協調放出で130万バレル/日程度の原油が供給される見通しとなったことや、米雇用関連統計の急速な回復に因る賃金上昇・金融引き締め加速緩速、それを受けたドル高、ロシア・ウクライナ情勢が膠着状態となっていることが材料となった。

恐らく昨日に関してはドル高進行によるファイナンシャルな影響が大きかったと考えられる。

戦略備蓄の放出は「今の価格を下げ、将来の価格を上げる」可能性を高める。放出した後、再び在庫は積み増さなければならないためだ。

そしてこの「つなぎ」の時間に代替供給案を確保しなければならない。可能性が高いのが米シェールオイル企業の増産(これは米政府も要請済みで、米原油生産は週間統計では+0.1MBD増加している)である。

しかし、米中対立が本格化しない中では、設置後直ちに発電出来るという意味では広大な土地を有する米国では太陽光発電の設置にバイアスが掛かり、原油が二の次になる可能性も否定出来ない。

イランに対する制裁解除もまとまった原油が供給される、という意味では非常に期待が高い。しかし、イランも「困ってるんだろ?」と交渉しどきと判断し、かなり交渉は難航している。また、仮に制裁が解除されても、反米(というより反バイデンか)姿勢を強めるサウジアラビア・UAEなどの国が、予定通りの増産を行ってくれるかどうかも不透明である。

このように考えると、この数ヵ月の時間稼ぎで増産に目処を立たせることはそれほど簡単ではなく、金融引き締めによる需要の過熱沈静化の方が需給をバランスさせるためには現実解なのかもしれない。

現在のシナリオ別原油価格見通しでは、OECD諸国が「OPECの代わりに」増産したため、4.の状態にあると考えられる。

下記シナリオは数ヵ月の短期的なものであるが、長期的にはレーショニング・金融引き締めの影響・景気循環による需要減少による「基準価格(供給懸念が後退したときの着地点となる価格)は徐々に切り下がっていると考えている。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない(ないしはその可能性が強く意識される) Brent 125-140ドル

2.1.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 110-130ドル

3.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 100-125ドル

4.3.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 80-115ドル

↑ 上記は停戦が行われない場合のシナリオ

↓ 下記は停戦が行われた場合のシナリオ(現在は徐々にこちらに移りつつある)

5.ロシアがウクライナから撤退Brent 90-100ドル

6.5.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 70-90ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。米国の戦略備蓄100万バレル放出は半年の次元付。

本日は目立った材料乏しく、昨日の米雇用関連統計を受けたドル高バイアスが継続すると見られることから、やや軟調な推移を予想する。

◆石炭・LNG・天然ガス

豪州石炭スワップ先物価格は小幅に下落した。ロシア産石炭禁輸方針が示される中、石炭価格が上昇していたが競合の天然ガス価格が下落したこともあって水準を小幅に切下げた。

ドイツの発電量(7日移動平均ベース)は急増しているが、風力発電が急速に回復していることによるもの(37.9%)。この結果石炭発電のシェア(28.0%)、ガス火力のシェア(7.2%)は大幅に低下している。

今後、産炭国であるドイツが脱ロシアの中で自国産の石炭生産を回復させるのかどうか。もししなければ恐らく海外炭を求めることになるためアジア太平洋周りの石炭価格も上昇圧力が掛ることが予想される。引き続き、政府の方針に価格は左右されることになるだろう。

欧州天然ガス価格は期近が下落した。ロシア産のガス輸入に関して、プーチンの熱烈な支持者であるハンガリーのオルバン首相がルーブル建てでガスを購入する方針を示していることや、イタリアは「EUが一致した場合」ガス禁輸を実施すると発言したことで、禁輸にはならないとの見方が強まったことが、上述の風力発電の回復もあり、ガス価格の押し下げ要因となった。

しかし、ロシアのガスなしで10月までに十分な在庫を詰めるとは考え難い。仮にガスが無かった場合、ドイツの製造業、特に化学セクターは大きな影響を受けることは確実であり、EUが足並みを揃えて、今のタイミングでロシアに対するガス制裁が決断出来るとは考え難い。

また、Gazpromが欧州に保有するタンク(総キャパシティの1割程度)に在庫を積んだとしてもそれは安全保障上のリスクのある在庫であるため、実質的には現在の貯蔵能力の90%が在庫積増しの上限、といえる。

中長期的に脱ロシア戦略をEUは進める方針であるが、脱ロシアが完了してからはガス・LNG市場は需給が緩和して下落に転じる可能性が高いと見ている。ガスに関しては「上流部門投資を制限」という枷は外されたと考えて良いだろう。

仏独の原発の稼働率はフランス・ドイツとも低水準を維持している。

米国天然ガス価格は西部の気温低下予報と、欧州向けのガス輸出増加観測が価格を押し上げている状況。基本的にアービトラージが聞きにくい米欧天然ガス・LNG市場だが徐々に裁定が働き始めている。

恐らく今のメインシナリオでは脱ロシア完了後にJKM価格も下がると予想されるが、それが達成されるまでの移行期間中はガス価格は高い状態が続く可能性がある。

4月3日時点の日本の発電用LNG在庫は165万トン(前年同月末201万トン、過去4年平均190万トン)と再び減少している。今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の供給不足のリスクは小さくない。

3月21日~27日のLNGトレードだが、取引量は先週と変わらず770万トン(前週▲5%の770万トン)となった。スポット取引のシェアは28%と前週の34%から低下。長期契約ベースの調達が、スポットベースの調達減少を相殺した形。

スポット契約は英国とフランスの調達が減少、長期契約は逆に英国とフランスの調達が増加した。

本日の石炭価格は、ロシア産ガス供給はしばらく続く見通しであることや、風力発電の回復などでやや軟調な推移を予想。ただし産炭国の週間輸出は再び減少していることや制裁実施から下値も堅い。

LNG・天然ガスはロシアとの供給契約は当面継続する見通しであり価格の下押し要因となるが、脱ロシアが進む中ではスポットのLNG市場需給はタイトになるため、高値維持の公算。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は下落した。米雇用関連統計の改善を受けて米国の長期金利が上昇、価格に対する説明力が高いドル指数が上昇したことや、中国のコロナ感染拡大に伴うロックダウンの影響で需要が減少しているためと考えられる。

コロナの影響が具体的に経済活動にどの程度の影響を与えているかの判断は難しいが、中国の銅線生産者の3月末の稼働率は74.9%と過去5年の最低水準である75.6%を下回っている。

一方、手元で取得可能な直近データが2月であるため恐らくこの水準よりも低いと思われるが、大規模銅精錬業者の稼働率は90.9%と、過去5年平均である89.1%を上回っており、「恐らく」製品向けの原料需要は鈍化していると予想される。

それでも銅が高値であるのは恐らく3月の稼働が低下し、原料供給にも支障が出ているためと考えられる。実際、銅のTCは上昇しており、鉱石需給は緩和しているとみられる。

本日は目立った手がかり材料に乏しい中、米国のインフレ懸念、それを受けた金融引き締め加速緩速を背景に軟調推移を予想。ただし非鉄金属相場は膠着状態となっており、この数日の下げもあって安値拾いの買いが入ると予想されることから、下値余地も限定されよう。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は下落、上海鉄鋼製品先物は中心限月が下落した。

非鉄金属のところのコメントとやや重複するが、コロナの影響による工場の稼働率低下により、製品向け需要が減少しているとみられることが材料。

しかし、中国の鉄鋼業PMIを見ると、ヘッドラインの数字は減速しているが、新規受注÷在庫レシオは上昇しているため足下の製品・鉄鋼原料の需給は統計よりもタイトであることから、下がったといっても余地は限定されている。

鉄鋼製品価格からの回帰分析による鉄鉱石価格は158ドル程度、原料炭価格は251ドル程度が目処であり、それ以上は流動性プレミアムと考えられる。

本日も、中国の経済活動の鈍化はあるものの製品・原料需給はタイトであるため価格は高値維持の公算。

◆貴金属

昨日の貴金属価格は上昇した。米雇用関連統計の改善を受けたインフレ、金融引き締めへの懸念から長期金利が上昇、一方で原油価格が下落したため実質金利が上昇、同時にロシアの人権理事会からの追放を受けた地政学的なリスクの高まりを受けて、リスク・プレミアムが大幅に上昇し541ドルとなったことがこれを相殺して上回った。

弊社は2016年のデータを基準にリスク・プレミアムを算出しているが、過去最大となった「米国債格下げショック」の574ドルが目前となっている。

仮に米国の金融引き締め加速や足下のインフレを背景に、新興諸国でのデフォルトが発生した場合、さらにこのリスク・プレミアムは上昇し「新たな世界」に突入する可能性が出てくる。

新たな世界、とはリスク・プレミアムの水準自体が切り上がることを意味する。これは1989年以降の冷戦が終了した比較的平和な時代から、再び非常に大きなリスクを抱えた時代に突入することを意味する。

なお、第一次オイルショック・第二次オイルショックの時の「リスク・プレミアムの金価格に対する割合」は最大で67.1%だった。2002年以降の分析では62.6%が最大である。6割程度がリスク・プレミアムとなる。

もし仮に、この水準が基準となった場合、現在の金基準価格が1,390ドルであるためこの価格を基準とすると3,475ドル程度までの上昇余地が出てくることになる(さすがにここまでの上昇が起きるときは、市場が壊滅的に混乱している時だと思われるが...)。

銀は金価格上昇を受けて上昇、プラチナも上昇、パラジウムはロシアに対する追加制裁や株価上昇が支援材料となり大幅な上昇となった。

本日は米FOMCメンバーのタカ派な発言を受けてドル高が進行するため、リスク・プレミアム(弊社の分類では実質金利以外の要因はリスク・プレミアムに内包されるとしている)を削ることから軟調な推移を予想。しかし、上述の通り高値を維持すると見る。

◆穀物

シカゴ穀物市場はまちまち。トウモロコシと大豆は上昇したが、小麦は下落した。

トウモロコシはCONABの作付目席が減少し、生産見通しが引き下げられたこと、米国のトウモロコシ輸出が増加したことでシカゴの需給タイト化観測が強まったことが背景。

大豆はCONABの統計で作付面積の増加が見込まれたが、単収減少で生産見通しが下方修正されたことが買い材料となった。世界的な油脂不足の影響もあって大豆需要が増加するとの見方も価格を押し上げている。

小麦はロシア・ウクライナ問題を背景に供給不足となる可能性が高いものの、昨日はドル高進行もあって恐らく投機の利益確定や実需の売りが入った。

CONABの統計は以下の通り。

・4月CONABブラジル作付け面積(市場予想/前月) トウモロコシ 2,124万ha(2,127万ha、2,112万ha) 大豆 4,081万ha(4,069万ha、4,070万ha)

・4月CONABブラジル生産量(市場予想/前月) トウモロコシ 1億1,560万トン(1億1,565万トン、1億1,234万トン)  単収 5,443kg/ha(5,437kg/ha、5,320kg/ha) 大豆 1億2,243万トン(1億2,419万トン、1億2,277万トン)  単収 3,000kg/ha(3,055kg/ha、3,016kg/ha)

本日は、需給ファンダメンタルズがタイトなことから高値維持と考えるが、ドル高が進行していることが上値を抑えると考える。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米中対立激化にロシア問題も加わり、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

むしろこの可能性は高待っており、もはやメインシナリオか。

・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・ロシア・ウクライナの衝突の影響が長期化し、欧州を中心に景気が減速する場合。

また、ロシアに対する制裁がロシアが主要生産地である商品の供給を制限し、価格を押し上げ、景気を悪化させるリスク(価格下落要因)。

ウクライナへの侵略戦争は長期化がほぼ確実であり、景気下押し要因となるという展開はメインシナリオとなる可能性。

・ロシア国債のデフォルトや、ロシアからのビジネス撤退が企業や信用市場に大きな影響を与え、クレジットクランチ(信用収縮)が発生する場合。

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

◆本日のMRA's Eye


「国連人権理事会の投票結果を受けて」

ロシアのウクライナ侵攻時の大量虐殺の詳細が明らかになり、国連人権理事会からのロシア追放の投票が行われ、投票者の3分の2の賛成を持って追放が決定された。

しかし、投票国の内訳を見ると、賛成が93ヵ国、反対が24ヵ国、棄権が58ヵ国であった。

棄権は「これが虐殺にせよ、そうでなかったにせよ現状をきちんと調査した上でないと評価は出来ない」とする国が多かったことも事実であるが、同時に人権問題を抱え「痛い腹を探られたくない」「専制君主国家で大なり小なり類似の国民弾圧が存在する」といった国が含まれていることも事実だろう。

言葉を換えれば、82ヵ国は「何かあったら西側諸国に反対する可能性がある国々」ともいえる。このことは世界が大きく分断されており、かつ、我々自由主義諸国に属する国の少なさと、国民数の少なさが浮き彫りとなった。多数決のみの議論で行けば、我々は「少数派」と言うことになる。

上述の主張はやや極端であるため明確に反対票を投じた国を挙げると

アルジェリアベラルーシボリビアブルンジ中央アフリカ共和国中国コンゴキューバ北朝鮮エリトリアエチオピアガボンイランカザフスタンキルギスタンラオスマリニカラグアロシアシリアタジキスタンウズベキスタンベトナムジンバブエ

となっており、これらの国は比較的明確に西側諸国と対立する可能性がある、あるいはロシアを国としてサポートする国、という位置づけとなる。

このような世界になっていることを前提とすると、戦後、我々日本が行ってきた政策や戦略が持続可能なのかどうか、という問題に突き当たることになる。つまり対立国が多く、地政学的なリスク、カントリーリスクが大きくなる中では加工貿易を生業とする日本にとって「輸出」自体、あるいはその国に拠点を設けること自体がリスクとなってしまう可能性があるということである。

そうなった場合、投資先は同盟国内に制限され、人件費も高いことからこれまでのような安い値段で物資を調達出来るということは恐らく無くなることになる。今まで以上にコスト管理を強化し、資源供給の不安定さを背景とする価格の乱高下に対する制御の必要性が高まることになる。

一方、新興諸国は進んだ西側の製品を獲得することが出来なくなるため、技術力の低下がリスクとなるだろう。その一方でこちらの世界では恐らく物価は安くなる。

そして大なり小なり世界経済はブロック経済化するため、物価は「冷戦時代」の水準に戻る可能性が高まる。これまでデフレの一因であった安価な新興国の労働力を用いて作った製品が獲得出来なくなり、物価上昇率は1989年のベルリンの壁崩壊前の水準である2~6%になるのではないか。

そして、中央銀行の責務も「2%に物価を上げること」が目標ではなく、「2%に物価を下げること」が目標になり、従来の「インフレファイター」に戻る可能性がある。

また、これまで加熱してきた脱炭素だが、最早、「温暖化防止のための手段としての脱炭素」ではなく、「エネルギーの安全保障、国家安全保障の観点からの脱炭素」に目的が変わった可能性がある。

温暖化防止は平和で戦争がなく、持続可能な状態で成立するが、今回のロシア問題は主権国家が侵略される可能性が有り得ることを明らかにしてしまった訳であり、まずは国を維持するにはどうするのか、といった議論のプライオリティの方が高くなったといっても言い過ぎではないだろう。

そしてこのことは、国家運営において一にも二にも「外交」が重要になることを示唆する。

また、国家安全保障の観点からは、脱炭素だけでは不充分であり、結局バックアップ燃料として化石燃料もその重要性は増す。日本の場合、原発の再稼働を選択に入れなかった場合従来のソース(中東)の重要性がさらに高まることになる。しかしこの場合、販売価格は先方の都合で乱高下するため、こちらの価格制御も必須となってくる。

我々は今、この大きな世界の構造転換に直面している可能性がある。予断を許さず、制御・対応が可能なものについてはまだ平和な今のうちに準備・対応していく必要があるのではないか。


主要ニュース/エネルギー・メタル関連ニュース/主要商品騰落率/主要指数/市場の詳細データPDFは、有料版「MRA商品市場レポート」にてご確認いただけます。
【MRA商品市場レポート】について