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原油価格調整とドル高進行で概ね軟調
  • MRA商品市場レポート

2022年4月4日 第2165号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「原油価格調整とドル高進行で概ね軟調」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は鉄鋼原料や工業金属の一部、その他農産品価格が上昇したが、エネルギーセクターは総じて軟調な推移となった。

固有の目立った材料があったのはエネルギーで、世界が協調して原油の戦略備蓄放出の方針を決定する中、それが長期にわたる見通しであることが価格を押し下げている。

一方工業金属は中国のオミクロンの影響で生産活動が低迷、通常であれば価格が下がって良い所だが同時に生産も制限されるため在庫水準が低下、原料調達の必要性が出ていることが価格を押し上げていると整理出来る。

とは言え、米国が利上げのペースを加速させる可能性が高まる中でドル高バイアスが掛っており、それを受けて週末のイベントリスク発生前のポジション調整があり概ね軟調な推移だったといえるだろう。

【本日の見通し】

週明け月曜日は予定されている大きな材料がなく、OECD諸国の原油備蓄協調放出(数ヵ月?)を受けて原油価格に下押し圧力が掛る中、株価の上昇を通じてリスクテイク意欲が回復、多くの商品が一旦安値拾いで上昇すると予想する。

【昨日のトピックス】

昨日発表された米雇用統計は、非農業部門雇用者数が前月比+43.1万人と市場予想の+49万人を下回ったが、前月の実績が+75万人と速報から+7.2万人上方修正されたため、これを考慮すれば、市場予想を上回ったといえる。

また、失業率も3.6%(市場予想3.7%、前月3.8%)と市場予想・前月とも下回っており、労働参加率も62.4%(62.4%、62.3%)と改善、不完全雇用率も6.9%(7.2%)と低下しており、米国の労働環境の改善は続いているとみられる。

平均時給も前月比+0.4%(+0.4%、+0.1%)、前年比+5.6%(+5.5%、+5.2%)と伸びが加速。労働時間が34.6時間と前月から短くなったものの上昇している。

このことはコロナの影響による働き方の変化によって、引き続き雇用側と労働者側のニーズのミスマッチが存在していることを示唆している。

2020年4月が米国におけるコロナショックが目に見える形で顕在化した月で、失業者は前月の716万5,000人から2,303万8,000人と3倍増となった。労働人口は1億6,276万4,000人から1億5,635万8,000人に急減している。

現在の失業者は595万2,000人、労働人口は1億6,440万9,000人であり、既にコロナ発生前の労働環境を上回る状態である。労働参加率はプレ・コロナの水準(63.4%)に達していないが、仮にこのときまでに戻ることが可能とすれば、およそ260万人ほど労働力人口が増加することになるが、逆に言えばその程度だ。

米国の労働人口は今後も移民などで増加する見通しだが、労働参加率は2000年の67.3%をピークに減少傾向が続いており、人口動態的に労働力が不足する(高齢者が増加する)ステージに入っているといえ、専制主義vs自由主義の分断が続き、安価な専制主義国からの物資供給が無ければ、今後も構造的な賃金上昇が続く可能性は高いといえる。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は続落した。IEA緊急会合が開催され、米国に続いてその他の加盟国も協調減産に賛同する方針を示したことで、需給緩和期待が高まったことが背景。ただし時期や数量などでは合意出来ず、持ち帰りとなった。

また、米雇用統計やISM製造業指数が良好な内容だったためこれに伴う金融引き締め加速緩速と金利上昇がドル高を誘発、ドル建て資産価格の下落要因となった。

今回の協調放出は数ヵ月という未曾有の大規模放出である。通常、天災や戦争などの影響による一時的な供給不足に対応するために用いられる備蓄だが、ロシアに対する制裁とそれに伴う供給不安が価格を押し上げていることに対応するものであり、従来の戦略備蓄の使い方とはやや異なる使われ方をしている。

備蓄放出が行われている間は増産と同じ効果を持つため価格の下落要因となるが、その後、再び在庫の積増しが行われるはずなので先々の価格上昇要因となる。

なお、FT紙では米政府関係者の話として「80ドルで再び在庫を積み増す」としている。逆に言えば価格が下落したとしても80ドルがフロアになる可能性があるということだ。

また、この数ヵ月(半年?)の間に、1.非OPECプラス諸国が原油の生産能力を増強、2.イランやベネズエラなどの生産が再開される、3.OPECプラスが増産に本腰を入れる、といったことが起こらなければ上述の通りとなる(もちろんこのときの需要環境にもよるのだが)。

1.については実質的に可能なのは米シェール企業のみ。ただこれにしても人材確保が難しく1年程度は掛るとされている。先日発表された雇用統計で石油掘削業への就労者数は12万5,400人(前月12万5,800人)と減少しており、コロナの影響による働き方の変化などによって十分な人材が確保できていない可能性を示唆している。

また、米中対立が本格化しない中では、設置後直ちに発電出来るという意味では広大な土地を有する米国では太陽光発電の設置にバイアスが掛かり、原油が二の次になる可能性も否定出来ない。

2.は今回の備蓄放出決定を後押ししたと考えるが、恐らくイランとの核合意が進捗していないのだろう。3.は昨日の報道にもあるように、OPECプラスは前月比+9万バレルしか増産出来ておらず、サウジアラビアやUAEなどを除けば実際の増産能力が乏しいことを示唆している。

この数ヵ月の時間稼ぎで増産に目処を立たせることはそれほど簡単ではない。

現在のシナリオ別原油価格見通しでは、米国が「OPECの代わりに」増産したため、4.の状態にあると考えられる。なお、この数週間の情勢変化を受けて各シナリオの想定レンジを微調整している。

下記シナリオは数ヵ月の短期的なものであるが、長期的にはレーショニング・金融引き締めの影響・景気循環による需要減少による「基準価格(供給懸念が後退したときの着地点となる価格)は徐々に切り下がっていると考えている。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない(ないしはその可能性が強く意識される) Brent 125-140ドル

2.1.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 110-130ドル

3.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 100-125ドル

4.3.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 80-115ドル

↑ 上記は停戦が行われない場合のシナリオ

↓ 下記は停戦が行われた場合のシナリオ(現在は徐々にこちらに移りつつある)

5.ロシアがウクライナから撤退Brent 90-100ドル

6.5.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 70-90ドル

※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。米国の戦略備蓄100万バレル放出は半年の次元付。

週明け月曜日は目立った手がかり材料に乏しく、目先の供給要因となるIEAの協調放出動向に注目が集まる。しかし、ここまで下落すると安値拾いの買いも入りやすく、月曜日は上昇から入るのではないか。

◆石炭・LNG・天然ガス

豪州石炭スワップ先物価格は小幅に下落したが250ドル台を維持した。限月交代後、窓埋めの動きも見られず流動性危機がやや後退したように見られる。

競合燃料であり、石炭よりもより流動性があるTTFとの相関では、石炭価格は240ドル程度が妥当な水準となりかなり水準が切り下がっている。

ドイツの発電量は昨日は増加しているが、基本的に季節性に従った減速が続いている。直近では風力のシェアが回復(31日時点14.4%、前日10.0%、いずれも7日移動平均ベース)しておりそれにつれて石炭火力の比率は38.7%(40.1%)と低下した。しかしドイツの発電が足下、ほぼ石炭に頼る状態になっているところはポイントだろう。

今後、産炭国であるドイツが脱ロシアの中で自国産の石炭生産を回復させるのかどうか。もししなければ恐らく海外炭をもめることになるためアジア太平洋周りの石炭価格も上昇圧力が掛ることが予想される。引き続き、政府の方針に価格は左右されることになるだろう。

欧州天然ガス価格は期近が大幅に下落した。ロシアがユーロ建てのガス代金の支払いを当面認めたことで、ロシアからのガス供給の停止懸念が後退していることが背景。

ただし、プーチン大統領はルーブル建てで無ければ供給を停止する趣旨の発言を繰返しておりこれまでの軍事行動を含む一連の同大統領の動きを見るとその可能性は排除出来ないことに変わりは無い。

ただし域内の生産は減速しており、LNG市場の需給もタイトであるため、結果的に冬の前に90%の在庫水準を達成するには、ロシアからのガス供給は欠かせない。

しかし、Gazpromが欧州に保有するタンク(総キャパシティの1割程度)に在庫を積んだとしてもそれは安全保障上のリスクのある在庫であるため、実質的には現在の貯蔵能力の90%が在庫積増しの上限、といえる。

中長期的に脱ロシア戦略をEUは進める方針であるが、脱ロシアが完了してからはガス・LNG市場は需給が緩和して下落に転じる可能性が高いと見ている。ガスに関しては「上流部門投資を制限」という枷は外されたと考えて良いだろう。

仏独の原発の稼働率はフランス・ドイツとも低下している。

米国天然ガス価格は輸出需要の増加を背景に上昇した。JKMはほぼ全ゾーンパラレルに低下している。

恐らく今のメインシナリオでは脱ロシア完了後にJKM価格も下がると予想されるが、それが達成されるまでの移行期間中はガス価格は高い状態が続く可能性がある。

3月27日時点の日本の発電用LNG在庫は166万トン(前年同月末241万トン、過去4年平均219万トン)と再び減少している。今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の供給不足のリスクは小さくない。

3月21日~27日のLNGトレードだが、取引量は先週と変わらず770万トン(前週▲5%の770万トン)となった。スポット取引のシェアは28%と前週の34%から低下。長期契約ベースの調達が、スポットベースの調達減少を相殺した形。

スポット契約は英国とフランスの調達が減少、長期契約は逆に英国とフランスの調達が増加した。

週明け月曜日も石炭価格は、競合燃料である天然ガス価格がロシアからの供給契約の不透明さから高値を維持する見通しであり、同様に高値を維持の公算。

今後については豪州やインドネシアからの供給減少の回復の度合い、ドイツが自国内の石炭増産に舵を切っているか否か、などがポイントとなる。

LNG・天然ガスはロシアとの供給契約の不透明さから高値維持の公算。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格はまちまちだった。石炭価格の下落を受けてアルミは下落、銅もオミクロンの感染による中国ロックダウンの影響で下落した。その他の金属は概ねLME指定倉庫在庫の減少継続や、米経済統計の改善を受けた株価上昇などのセンチメントに押されて上昇している。

値動きは激しいものの、需給が逼迫した状態が続く中で高値もみ合いを続けているという印象は否めない。

その中で昨日、FreeportのCEOが銅の供給能力について発言している。以前から指摘されている銅鉱石の品位低下や、Oyu Tolgoi、Kamoa-Kakulaなどの大規模鉱山のプロジェクトは今後もいくつか予定はされているものの、脱炭素で必要な電化向けの需要を満たすだけの供給には時間が掛り、間に合わないといった趣旨だった。

鉱山会社(生産者)であるため、自然と強気な見通しになるが(逆に消費者の場合、見通しが低めになりやすい)、弊社もこの見方には賛成である。

脱炭素のみならずインドなどが近代化に向けた投資を主要都市以外にも拡大する可能性が高いことを考えると、早晩、非鉄金属の供給問題が顕在化すると予想される。

問題はこれらの鉱山はシェールオイルのように比較的早く、経済合理性のみで増産が即時に可能ではない点だ。数年~10年の単位での投資が必要になるため、中国が国際商流に組み込まれて世界の工場となる中で価格が上昇した2000年以降の様な上昇が、再び起きる可能性は否定出来ない。

週明け月曜日は手がかり材料に乏しい中、引き続き供給懸念と中国のロックダウンによる経済活動鈍化観測の綱引きとなり高値でのもみ合い継続を予想。ただし米金利上昇によるドル高が上昇を抑制すると考える。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は限月交代もあって絶対水準が大幅に低下したが、全体的に前営業日から低下、大連原料炭価格は下落、上海鉄鋼製品先物は中心限月価格が上昇した。

週次の在庫統計で鉄鉱石港湾在庫が前週比▲40万トンの1億5,560万トンとなり、在庫日数も37.1日(前週比▲1.3日)と減少したことが材料となったようだ。

また、鉄鋼製品在庫も▲16万3,000トンの1,848万4,000トン(過去5年平均1,806万9,000トン)と減少したことも鉄鋼製品価格を押し上げた。ただし在庫水準自体は過去5年平均を上回っている。

中国京唐港の原料炭在庫は前週比+22万トンの139万トンとまだ過去5年平均の171万4,000トンには届いていない。日数ベースでも6.2日(過去5年平均7.3日)と低い。

鉄鋼製品価格からの回帰分析による鉄鉱石価格は156ドル程度、原料炭価格は251ドル程度が目処であり、それ以上は流動性プレミアムと考えられる。

週明け月曜日は上海で大規模なロックダウンが起きていること、それに伴う経済活動の鈍化観測が鉄鋼製品生産減少を通じて価格を逆に押し上げることから、鉄鋼原料価格も高値維持の公算。

◆貴金属

昨日の貴金属価格は金銀は小幅に下落、PGMは上昇した。

金は米雇用統計やISM製造業指数が良好だったことで株高・債券安・金利高となったことや原油価格の続落を受けた期待インフレ率の低下で実質金利が上昇したため、基準価格が1,473ドル(前日比▲17ドル)と低下、リスク・プレミアムが453ドル(+6ドル)と高止まりしたため小幅な下落となった。

銀は金銀レシオが78倍に上昇したが金と同様に小幅安。

PGMは昨日はロシア・ウクライナ関連の報道がそれほど無かったが、どちらかと言えば週末を控えたポジション調整で割安感からの買いが入ったと考えるのが妥当だろうか。

週明け月曜日は、米統計の改善やそれに伴う利上げ観測、OECD諸国の原油備蓄協調放出観測を背景に原油価格がこの数ヵ月の中では比較的低位で推移すると予想されることから、実質金利が上昇し、軟調な推移を予想。

◆穀物

シカゴ穀物市場は総じて軟調な推移となった。新規材料に乏しかったが、米統計を受けた利上げ加速観測を背景にドル高が進行したため、週末を控えたポジション調整があったものと考えられる。

大豆は先日の作付意向面積が市場予想を上回ったことに加え、四半期末在庫の水準が市場予想を上回ったことがさらに価格を押し下げた。しかし、ロシア・ウクライナ情勢不安やラニーニャ現象の影響で、農産品の生産環境は決して価格面で下押し要因となるような状況にはない。

週明け月曜日は需給ファンダメンタルズのタイトさから、安値拾いの買いで上昇すると予想。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・ロシア・ウクライナの衝突の影響が長期化し、欧州を中心に景気が減速する場合。

また、ロシアに対する制裁がロシアが主要生産地である商品の供給を制限し、価格を押し上げ、景気を悪化させるリスク(価格下落要因)。

なお、今回の戦争の後、ロシアがソ連復活を目指してジョージアやモルドバに侵攻するリスクや、今回の対応如何では中国が台湾を武力で早期に併合する可能性を高めることになる。

・ロシア国債のデフォルトや、ロシアからのビジネス撤退が企業や信用市場に大きな影響を与え、クレジットクランチ(信用収縮)が発生する場合。

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

むしろこの可能性は高待っており、リスクシナリオではなくなりつつある。

・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。

・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。

◆本日のMRA's Eye


「短観物価水準はオイルショック並みに」

4月1日に発表された日銀短観は市場予想(12)は上回ったものの14と前回調査(17)から悪化した。製造業PMIが昨年後半にピークアウトするなど循環的な減速に加え、オミクロン株の感染拡大による移動制限やロシアのウクライナへの軍事侵攻で物流が混乱したことが影響したとみられる、先行き見通しは9(市場予想10、前回調査13)と悪化見通しだった。

売上高の上期厚・下薄で年後半に掛けて業績が悪化する見通し。各国の金融引き締めの影響が反映されていると考えられる。

2022年度の設備投資は中小企業が前年から大きく下方修正(全産業で4.3%→▲11.4%)されたが、大企業製造業(7.9%→8.4%)、中堅企業(6.9%→21.6%)と伸びが顕著で、製造業全体では9.0%(7.6%)と過去5年で見た場合最も高い水準となっている。

生産・営業用設備判断DIを見ると不足が増えており、人手不足も相まって設備投資需要は旺盛と見られる。

またソフトウェアを含む設備投資を見てみると、全規模で製造業+6.8%(前年度+6.5%)、非製造業が▲0.7%(+3.7%)となっている。恐らく、グリーン化などの投資が製造業は必要になっている可能性が高い。

一方非製造業は中堅企業が+0.4%(▲4.1%)と前年比増加が見込まれているが、大企業・中小企業が前年比マイナスであり、全体でも▲4.0%(+2.9%)と減速見通し。

2022年度のドル円想定レートは111円台と現在の水準から10円近く円高想定となっている。調査期間中(2月24日~3月31日)の水準を大きく上回る円高であり少なくとも内需系輸入企業にとっては厳しい状況にあるといえる。

弊社が最近の日銀短観の中で最も重要と考えている需給判断DIは、1973年以降で見た場合、過去に大企業の需給判断が水面上に出たことは2回しかなかった。

今回も需給判断DIが水面上に上昇し、その後需給が急速に緩和する方向にシフトすると予想されたが、まだ高い水準を維持している。

一方、企業の販売・仕入価格DIを見てみると、ロシアのウクライナへの軍事侵攻の影響とそれに対する各国の経済制裁実施によって、さながら「第三次オイルショック」の様相を呈している。

日銀短観のデータ取得が可能な1974年以降では、現在の水準はリーマンショック前の水準を除けば、第一次・第二次オイルショックの時と同様の水準になっている。

過去と同様であれば、ショックイベント終了後に急速に仕入・販売価格とも水準を切下げることになるが、今回のロシアに対する制裁は戦後も継続する可能性があること、脱ロシアを進めざるを得ない状況になっていることから「代替調達」を進める中で仕入価格が高止まりする可能性はあり、さらに販売価格も高止まりする可能性が出てきた。

この場合、コストプッシュ型のインフレとなり、景気減速が同時に進行するリスクも無視できない。また1989年の世界に戻る(緩やかなブロック経済圏化)することが想定される中では、物価水準(調達価格水準)が低下してこない、という可能性もありえる。

この場合、高い価格水準での乱高下のリスク(供給途絶への耐性がグローバル調達が困難になることから低下すると予想されるため)は高まることになる。企業は、これに対応出来る社内体制整備も必要になってくるだろう。


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