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宇露和平協議期待と上海ロックダウンで軒並み下落
  • MRA商品市場レポート

2022年3月29日 第2163号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「宇露和平協議期待と上海ロックダウンで軒並み下落」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は軒並み下落した。上海が実質的にロックダウンとなったことで景気への懸念が強まったこと、という需要面に加え、ロシア・ウクライナ情勢は膠着状態が続いているが、トルコが仲介して和平協議が行われることヘの期待が供給面で商品価格を押し下げた。

ただ、ロシア・ウクライナの主張には隔たりがあるとされ今回の和平協議が成功する可能性は高くないと考えられる。しかしそのメルクマールであるパラジウム価格はこの2営業日大きく下落しており、今のところ市場は今回の交渉を前向きに捉えていると考えられる。

しかし、結局最終的に合意に至るまではどう転ぶか分からない(合意に至ったとしても仮初めの停戦であり、ロシアが再侵攻するための準備期間を設けるための停戦、と考える方が適切かもしれない)。

上海のロックダウンは、3期目を目指す習近平政権に冷や水を浴びせる格好に。景気回復に向けた財政出動や不動産規制の一部緩和、金融緩和を進めてきたがこの効果が相殺されてしまう。

結局、飲み薬が広く普及して自宅で治療が出来る体制に完全に移行するまではこうしたリスク(景気下押しリスク)は残ろう。恐らく今の開発や普及度合いを見るとまだ完全鎮圧までは数年はかかるのではないか。

【本日の見通し】

本日はウクライナ・ロシアの和平協議の動向に注目が集まる。市場は何らかの合意があるのではとの期待感があり、それを市場は織り込んで商品価格が軒並み下落しているが、報道によれば両国の思惑には隔たりがあり、合意に至らない可能性も高い。

その場合、昨日の逆が起きて株価下落と商品価格上昇が起きる可能性がある、ということである。

その他、予定されている材料としてはやはり利上げを加速させる見通しであるFOMCメンバーの講演(ニューヨーク連銀、フィラデルフィア連銀、アトランタ連銀総裁)に注目したい。

【昨日のトピックス】

昨日のトピックスとしては、ドル円が125円をワンタッチしたことだろう。日銀が長期金利を0.25%以上に上昇させないという強い姿勢を示したことが材料となった。

125円の水準を付けるのは2015年8月以来のことで、この頃は米国のテーパリングが完了し、利上げに舵を切り利上げが意識されていた時期である。

また、この頃、チャイナショックによるドルyへの逃避や、資源価格が「OPECショック」の影響で下落し、資源国通貨安・ドル高バイアスが強まっていた時期にも重なっている。

しかし足下は、既に利上げが始まっており、ロシアショックで株は下落、商品価格は暴騰しているがそれでもドル高・円安が止まらないという状況であり日本にとって楽観できる様な状況ではない。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は急落した。ドル高が進行したことや中国の上海が実質的にロックダウンされたことでコロナ感染拡大に伴う需要減少懸念が強まったこと、(それほど期待は持てないが)ロシア・ウクライナの和平協議進捗期待が背景。

弊社は昨年後半に世界の景況感はピークアウトしており、そこに米国や欧州の利上げ、供給懸念による資源高が発生しているため年後半に今のロシア問題が一服すれば価格水準は一旦切り下がる、と見ているがそれが顕在化した形。

しかし、ロシア問題はこれからが本番ともいえ、供給面の問題解消にはほどとおい。即時の増産カードとして期待されたイランの制裁解除は「早期には困難」と米国側が発言している。

これはフーシ派の攻撃が強まり実際に被害を受けているサウジアラビアに配慮しなければならなくなっていることを意味している。UAEも「生産能力を増強するが勝手に増産はしない」としている。

バイデン政権は昨年2月にサウジアラビアに対する武器供与を凍結(昨年11月に解除)、これに対してサウジ政府は立腹しているのだろう。

制裁解除は原油価格高騰で消費国が困った状態になって行われたものであり、サウジアラビアやUAEからすれば「散々好きなことをしておいて、ここで増産要請とは自分勝手も甚だしい」と思っていることだろう。

バイデン政権はオバマ・トランプ・バイデンと続くこの14年近い時間の流れの中で状況が変わっていることを十分に理解出来ていなかった(そもそも異常気象やロシア情勢といった想定外の事態で原油価格がここまで上昇するとは想定していなかった)といえるだろう。

現在のシナリオ別原油価格見通しでは、以前、3.にいると考えられる。OPECプラスの増産シナリオはやや後退した。

下記シナリオは数ヵ月の短期的なものであるが、長期的にはレーショニング・金融引き締めの影響・景気循環による需要減少による「基準価格(供給懸念が後退したときの着地点となる価格)は徐々に切り下がっていると考えている。

なお、イランの制裁が解除されれば最大で130万バレル程度、ベネズエラで50万バレル程度の供給増加が期待されるが、即時は恐らく難しく、原油の性状もどこでも受け入れられる訳ではないため、実際の需給が緩和するには時間が掛ると予想される。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない(ないしはその可能性が強く意識される) Brent 125-140ドル

2.1.の状態でOPECプラスのどこかが増産する(規模による)Brent 110-130ドル

3.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 90-125ドル

4.3.の状態でOPECプラスのどこかが増産する(イラン130万バレル、ベネズエラ50万バレル程度)Brent 80-105ドル

↑ 上記は停戦が行われない場合のシナリオ

↓ 下記は停戦が行われた場合のシナリオ(現在はこちらに移行しつつある)

5.ロシアがウクライナから撤退Brent 70-100ドル

6.5.に加えてOPECプラスのどこかが増産(イラン130万バレル、ベネズエラ50万バレル程度)Brent 60-80ドル

本日はなんと言ってもトルコで行われるウクライナとロシアの和平協議だろう。ただ報道ではまだ両国の主張には乖離があり、今回、何らかの合意が進捗するとは考え難いが、仮に進捗があればBrentで100ドル近辺までの下落は有り得、合意しなければ120ドルの心理的節目をトライする動きになると考える。

◆石炭・LNG・天然ガス

豪州石炭スワップ先物価格は限月交代によって大幅に下落し、中国上海の実質ロックダウン報道を受けてさらに水準を切下げた。これまで説明力が高かった原油価格が下落したことも影響したとみられる。

しかし、電力向けの燃料として代替性の低い原油と石炭価格の相関が高い状態が続くというのもなかなか説明は難しく、今後の状況にもよるがしばらくは競合燃料であり、石炭よりもより流動性があるTTFを石炭価格推定の目安とした方が良さそうだ。

原油を基準とした回帰分析の結果、NEWCは345ドルが適正となるが、TTFベースだと225ドル程度である。今後、欧州が石炭を利用することになるため結果的に石炭ヘッジ市場の流動性は増すと予想されるため、流動性の問題が価格を押し上げていたとするのであれば225ドル程度までの下落はあるのではないか。

欧州天然ガス価格は期近が上昇、期先が小幅に下落。気温低下見通しと中期的には米国からのLNG供給増加期待が価格を下押ししたようだ。

ただし域内の生産は減速しており、LNG市場の需給もタイトであるため、結果的に冬の前に90%の在庫水準を達成するには、ロシアからのガス供給は欠かせない。

今のところ欧州の天然ガス在庫は季節性よりも早いタイミングで増加に転じており、このペースで行けるのなら在庫の積増しは無理ではなくなってきた。

ただし、Gazpromが欧州に保有するタンク(総キャパシティの1割程度)に在庫を積んだとしてもそれは安全保障上のリスクのある在庫であるため、実質的には現在の貯蔵能力の90%が在庫積増しの上限、といえる。

G7はルーブル建て決済を拒否する方針を確認したが、一部報道ではプーチン大統領が3月31日に天然ガス供給料金のルーブル支払いに関する状況について報告を受け、これは毎月実施されるとしており実際に供給が止まる可能性はある(ただしこれはインタファクス通信の報じるところで、今、このサイトにはアクセス出来なくなっている)。

中長期的に脱ロシア戦略をEUは進める方針であるが、脱ロシアが完了してからはガス・LNG市場は需給が緩和して下落に転じる可能性が高い。

ただしこれは「脱炭素の枷」が外れた状態になるという前提で成立するものだ。今までのようにデモまで起こして上流部門開発を停止せよ、という動きが強まったままの状態が続くようであれば、恐らく上流部門投資が行われず、価格は上昇したままとなる可能性がある。今後の特に脱炭素を主導しているEUの方針を注視せざるを得ない。

仏独の原発の稼働率はフランス・ドイツとも低下している。

米国天然ガス価格は下落。気温見通しが影響した。しかし期先の価格を見ると上昇しており、構造的に欧州向けの供給増加が見込まれることが徐々に期間構造に影響を及ぼしていると見られる。

JKMは期近が下落、期先が上昇、さらに期先は下落している。JKM価格のJEPX価格への影響が高まっているため、今後、JEPXベースで調達している電力会社の業況に影響する可能性は高い。

恐らく今のメインシナリオでは脱ロシア完了後にJKM価格も下がると予想されるが、価格変動リスクが高い状態は続くため価格変動リスク制御ヘの対応は焦眉の急といえる。

3月20日時点の日本の発電用LNG在庫は168万トン(前年同月末241万トン、過去4年平均219万トン)と再び減少している。今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の供給不足のリスクは小さくない。

3月14日~20日のLNGトレードだが、取引量は▲5%の770万トン(前週+11%の810万トン)となった。スポット取引のシェアは34%と前週の23%から上昇。主に欧州向け(英国、フランス)の供給増加がスポットカーゴ増加に寄与。

長期契約は日本・韓国・中国・台湾で減少。特に日本は▲52万トンの減少となった。

本日はロシア・ウクライナの和平協議の動向に左右されるが、中国上海の大規模ロックダウンの影響で短期的な需要減少が見込まれることから、石炭価格は下押しされる展開を予想。

LNG・天然ガス価格も材料は同じであり、高値流れも調整圧力が強まる展開になるのではないか。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格はニッケルやアルミが下落したが、その他の価格は上昇した。週末に発表された工業セクター利益が、中国製造業の業況改善観測を強めたことが背景。ニッケルとアルミはロシア・ウクライナの和平協議への期待や、石炭価格の下落もあってやや水準を切下げた。

昨日時点の在庫から推定されるニッケル価格は24,664ドル、誤差を1標準偏差考慮で27,742ドル、2標準偏差で30,821ドル。

アルミはLME指定庫在庫の水準で説明可能なアルミ価格は2,943ドル、誤差考慮後(2標準偏差)は3,372ドル。NEWCを元にした回帰では3,141ドル、1標準偏差考慮後の水準が3,406ドルであり、足下の価格はコスト面からは是とされない水準。

亜鉛はLME在庫水準からの推定では3,702ドル、2標準偏差で4,053ドル、TTFとの回帰では3,504ドル、2標準偏差で3,916であり、辛うじて在庫で説明可能な水準の上限。

LME非鉄金属、その他の商品共に同様であるが流動性の低下が価格の不連続性を生んでおり、需給動向の分析のみで価格動向を推定するのが非常に難しくなっている。

本日はロシア・ウクライナの和平協議の動向次第では上下両方のシナリオが有り得るため神経質な推移となりやすい。

しかし目の前で起きている最大消費国の重要都市のロックダウンは需要減速を想起させるものであり、本日はどちらかと言えば下落か。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは小幅に下落、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は上昇、上海鉄鋼製品先物は上昇した。

日曜日に発表された中国工業セクター利益が12月から製造業の景況感が改善していることを示すものだったことから、これに素直に反応して鉄鋼製品価格が上昇、それを受けて鉄鋼原料価格も高止まりした。

鉄鋼製品価格からの回帰分析による鉄鉱石価格は156ドル程度、原料炭価格は243ドル程度が目処。

本日は上海で大規模なロックダウンが起きていること、それに伴う経済活動の鈍化観測が鉄鋼製品価格を押し下げ、鉄鋼原料価格の下押し要因に。

しかし同時に鉄鋼ミルの稼働も減速するとみられ、結局の所現状の高値でのもみ合い継続と考える。

◆貴金属

昨日の貴金属価格は下落した。米実質金利が原油価格下落を受けた期待インフレ率の低下で上昇したこと、株価が堅調に推移したことで安全資産需要がやや後退したことが材料になった。

金の基準価格は1,492ドル(前日比▲4ドル)、リスク・プレミアムは431ドル(▲31ドル)といずれも低下。リスク・プレミアムの低下は、ロシア・ウクライナの和平協議進捗期待。

金価格の下落もあって銀は金銀レシオを77倍程度に維持しながら水準を切下げ。プラチナも銀価格の下落に連れた。

パラジウムは大幅に下落。ロシア・ウクライナの和平協議開催への期待と、株価が戻る中で一旦利益を確定する動きが強まったため。

ここまでの価格上昇はロシアからの供給不安に備えるという意味でどちらかと言えば投機(ETF)の買いによるもの。ただし昨日はETF残高はむしろ増えているため先物主導の下げだったと見られる。

週明け月曜日は金銀価格は米金融引き締め継続観測を受けた長期金利の上昇圧力を受けて調整、PGMは恐らくロシア・ウクライナ情勢に進捗がないため、再び買い戻されると予想。

◆穀物

シカゴ穀物市場は下落した。原油価格が中国のロックダウンを材料に大幅に下落したことを受けてトウモロコシが下落、それに連れる形となった。

需給ファンダメンタルズ面ではブラジル植物油産業協会(Abiove)が2021-2022年の大豆生産予測を1月見通し比▲7.7%の1億2,530万トンに下方修正するなど、むしろ上げ要因の方が多い。

昨日は小麦も大幅に下落しているが、大豆、トウモロコシの下落に連れる形となった。ただしウクライナの春小麦生産は非常に絶望的な見通しであり、ロシアの小麦もほとんどが中国に流れる可能性が高いことを考えると、シカゴやカナダ、豪州小麦が物色される可能性は高い。

今のところ市場は来週発表の米作付意向面積に注目しているが市場予想は以下の通り、価格上昇を受けていずれも作付面積が増加する見通し(除コメ)となっている。

全小麦 4,762万エーカー(前年4,636万エーカー)トウモロコシ 9,197万エーカー(9,114万エーカー)大豆 8,891万エーカー(87,600万エーカー)コメ 251万エーカー(271万エーカー)

本日は昨日の下落が大きかったこともあり、上述の通り需給ファンダメンタルズ面はタイトと見られることから買い戻しで上昇すると考える。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・ロシア・ウクライナの衝突の影響が長期化し、欧州を中心に景気が減速する場合。

また、ロシアに対する制裁がロシアが主要生産地である商品の供給を制限し、価格を押し上げ、景気を悪化させるリスク(価格下落要因)。

なお、今回の戦争の後、ロシアがソ連復活を目指してジョージアやモルドバに侵攻するリスクや、今回の対応如何では中国が台湾を武力で早期に併合する可能性を高めることになる。

・ロシア国債のデフォルトや、ロシアからのビジネス撤退が企業や信用市場に大きな影響を与え、クレジットクランチ(信用収縮)が発生する場合。

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

むしろこの可能性は高待っており、リスクシナリオではなくなりつつある。

・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。

・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。

◆本日のMRA's Eye


「円安急進のリスク」

円が急速に下落し、125円を付けるに至った。切っ掛けは日銀が3月29日から31日まで無制限の買入オペを行い、10年金利を0.25%にするという方針を強く打ち出したこと。一方で米国はインフレ抑制のために急速に利上げに舵を切っており日米金利差が急拡大すると見られたことが背景である。

日銀は円安が日本にプラスと考えているため、さらにデフレの兆候があれば躊躇なく追加緩和を行うとしている。

しかし2013年から始まったアベノミクス・クロダノミクスは多くのリフレ派のエコノミストが主張したような2%への物価上昇をもたらしておらず、10年近いオペレーションの中でほぼ効果がないことが明らかになっている。

この間、構造改革を進めるための緩和だったはずだが、それも頓挫している。

そしてコロナ・ウクライナ危機を通じて貿易収支が赤字となり経常収支も赤字に転じた。資源高が続くようであれば資源購入のための外貨調達・円売り圧力が強まるためさらに円安が加速することになる。

資源価格が下落してくれれば良いのだが、このコラムでの主張している「3つの重複投資(脱炭素・有炭素、米国圏・中華圏、インド・中国)」に加え「脱ロシア」の投資が加わったことで今後数年はインフラ投資向けの資源需要が増加して価格を押し上げる可能性が高まっている。

2000年以降の為替レートとドル円相場の推移を見ると、非常にざっくりとであるが円安・資源安、円高・資源高の組み合わせが多かった。これは円安の際にドル高が進行し、ドル高の時には資源価格が下落、円高の際にはドル安が進行し、ドル安の時には資源価格が上昇する、という逆相関の関係があるためだ。

基本、商品を購入する場合、商品現物が持つ物質としての価値は為替レートに依拠しないため、為替がドル高になるのならより少ないドルで現物の購入が可能であるため商品のドル建て名目価格は低下するし、逆の場合は上昇することになる。

しかし今回の資源価格上昇は為替変動によるものではなく、構造的な(強制的な)需要の増加に供給面の問題が重なったことによるものである。

別の言葉を使えば、「米景気改善→需要増加→ドル金利上昇→ドル高」という因果関係だったが、今回の資源高とドル高はこの因果関係の枠外での出来事、ということである。

となるとドル建て資源価格の上昇は上述の3つの重複+脱ロシアで継続する可能性が高く、米国も利上げを継続することからしばらくは円建て商品価格は上昇することが予想される。

このとき、産業関連表を参考にすると製造業・非製造業のコストに占めるエネルギーの単純平均は10%、金属は9%程度である。売上高原価率を80%とすると両者を合計すれば売上の15.2%が資源の調達コストということになる。

既に年初から円建ての原油価格は58%も上昇(ドル建ては47%)、銅価格も12%(6%)上昇している。

エネルギーコストの売上に占める比率は12.6%(上昇前は8%)に上昇し、金属は銅を基準にすれば8.0%(7.2%)と、両方の項目を合計すると売上高対比で3.4%近く上昇していることになる。これは製造業のみならず、非製造業の業績にも影響があろう。

このまま資源高・円安が続いた場合深刻なインフレが我々の生活を直撃することになる。

今回の日銀の対応が国内のコストプッシュインフレを企図してのことか、あるいは原油価格や資源価格が下落する中で日本にとって日銀がプラスと考える円安を加速させるための戦略なのか、そこは数年後に出る結果次第ではあるが、コロナ・戦争といった未曾有の危機に直面する我が国には、かなり厳しい選択なのではないかといえる。

特にGDPの53%(2020年度)を占める個人消費への影響は不可避だ。この状況で上記のコストアップ分を転嫁することは難しく、企業業績への影響も不可避である。リスクが顕在化する前にリスク量を把握し、事前に先物やデリバティブ、サプライヤーへの一定期間の固定価格販売(もはやこれは難しい環境に)を要請、といった選択肢を考える必要があるのではないか。


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