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世界経済・長期トレンド転換とボラティリティ拡大のリスク
  • MRA外国為替レポート

2022年3月28日号

◆先週の市場総括


先週は大きく円安が進んだ。ドル円相場は119円近辺で始まり火曜日には121円をつけ、木曜日の海外市場では122円40銭に上昇した。

ユーロ円相場も131円台後半で始まり134円台後半へ。欧米が金融正常化に動くなか、日銀の超緩和政策維持姿勢が際立ち、円が全面安となった。日銀が景気下押し懸念を強めるなか、あらためて黒田総裁の円安容認発言も材料に円先安感が強まった。

一方、米国景気は堅調。景況感は良好なまま失業保険申請件数は歴史的低水準。FRB当局者はタカ派スタンスを強めており、大幅利上げ・利上げ前倒し観測が広がった。米10年債利回りは週末に一時2.5%を、2年債利回りも2.3%をつけた。

米国株は前週までの急騰の後だけに上昇ペースは鈍化し小幅高。一方、日経平均は米国株高・ドル高円安の進行を材料に28,000円の大台を回復した。ウクライナ情勢は膠着感が強まり、不透明感は残存しつつも新たにリスク回避が強まることはなかった。原油価格WTI先物は前週末から上昇して110ドル~115ドルで推移した。

月曜日の東京市場は休場。アジア時間の為替相場は小動き。ドル円相場は119円10銭で始まり20銭を中心に10銭~30銭の狭いレンジで上下。ユーロ円相場は131円80銭で始まり60銭~70銭でもみ合い。ユーロドル相場は1.1060で始まり1.1040~50でもみ合いじり安、1.1040を割った。

その後、欧州市場にかけてユーロが上下。ユーロドル相場は1.1060台に上昇した後1.1030に反落、ユーロ円相場は131円90銭台に上昇した後40銭に下落。

ロシアがウクライナに対し、マリウポリ市の放棄を要求し最後通牒を発したがウクライナがこれを拒否。紛争が一段と激化するとの懸念が広がった。

米国時間に入るとユーロはやや持ち直し。ユーロドル相場は1.1050へ、ユーロ円相場は131円70銭台へ。米国時間後半にはパウエルFRB議長のタカ派発言で米長期金利が上昇、ドルが全面高。

議長は、1回の会合で0.50%の利上げ実施の可能性を否定せず、中立金利を上回る必要があると判断すればそうする、と述べた。米10年債利回りは一時2.32%に上昇し2.297%、2年債は2.117%。

ユーロドル相場は1.1010~20へ下落。ドル円相場は119円50銭近辺に上昇して引けた。ユーロ円相場は変わらず131円60銭近辺。アジア時間から131円台後半を中心に上下し水準は変わらず。

米国株は反落。ウクライナ情勢への懸念、パウエル議長のタカ派発言が重石となった。NYダウは6営業日ぶりに下落し前週末比▲201ドル安の34,552ドル。ナスダックは5営業日ぶり反落し▲55ドル安の13,838ドル。VIX指数は▲0.34ポイント低下して23.53。

原油価格WTI先物はウクライナ情勢への懸念、サウジアラビア石油施設への攻撃から大幅高。前週末比+7.42ドル高の112.12ドル。

火曜日の東京市場では日経平均は上昇。前日の米国株は下落したものの金曜日に上昇したことを連休明けに反映。ドル円相場が120円台に乗せたことで輸出関連株が買われた。ショートカバーや年度末の配当取りの買いも支え。引けは前週末比+396円高の27,224円。

ドル円相場はもみ合いを挟みつつ段階的に上昇した。為替市場では円が全面安。前週来、日銀の超金融緩和継続姿勢、内外金融政策格差、黒田総裁の円安歓迎発言が円安を促す流れが続いた。

119円50銭近辺でのもみ合いから午前中に120円をつけた。その後119円90銭でもみ合い午後には120円40銭近辺でもみ合い。欧州市場に入るとさらに上昇して一時121円をつけた。その後米国市場の朝方にかけて120円40銭に反落。

ただ下値は固く、60銭~80銭で上下して引けにかけ120円80銭でもみ合い取引を終えた。

ユーロ円相場も大幅高。131円60銭で始まり、昼過ぎには90銭近辺から132円20銭台へ大幅高。さらに欧州市場に入ると133円ちょうどに急騰した。

米国市場では132円70銭~133円30銭で乱高下。その後米国市場終盤にかけては132円80銭から133円30銭へじり高となり高値引け。

ユーロはドル高の勢いに押されて東京市場では下落したが、欧州市場で切り返し反発上昇した。東京市場では1.1020から1.0980へ、一旦1.1000を回復したが、さらに欧州朝方には1.0960に下落した。

ただ欧州市場に入ると株高・リスク選好の強まりからドルは上昇一服、ユーロが反発。米国市場朝には1.1040へ上昇。その後は1.1010に反落したが引けにかけてはじり高。1.1030で取引を終えた。

米長期金利はFRB当局者のタカ派発言を受けてさらに上昇。10年債は2.38%。2年債は2.166%。

セントルイス連銀総裁は、インフレ抑制に向け積極的に行動する必要がある、政策金利を今年3%に引き上げるべき、と述べた。サンフランシスコ連銀総裁は、今こそ緩和策を縮小させるべき、インフレを抑制しインフレ期待を固めるため政策金利を中立水準以上に引き上げるべき、と語った。

米国株は金利上昇にかかわらず上昇。好決算銘柄が買われ、金利上昇で金融株が堅調。NYダウは+254ドル高の34,807ドル。ナスダックは+270ドル高の14,108ドル。VIX指数は▲0.59ポイント低下して22.94。

発表されたリッチモンド連銀製造業指数(3月)は前月1から13へ大きく改善し予想2を大きく上回った。

水曜日の東京市場では日経平均が7営業日続伸。1月18日以来およそ2か月ぶりに28,000円台で引けた。米国株の上昇を受け主力株全般に買い。ドル高円安を受けて輸出関連株が上昇した。

投資家の買い直し、売り方の買い戻し、期末の配当取りの短期買い、などで大幅高。前日比+816円高の28,040円で引け。

ドル円相場は120円80銭で始まり朝方に121円40銭に上昇。その後120円80銭に押し戻されたが昼にかけては121円ちょうど~20銭でもみ合い。

ユーロ円相場もドル円相場と同様に円中心の上下動。133円20銭で始まり早々に80銭台に上昇。20銭に反落した後、反発して133円70銭。ユーロドル相場は1.1030中心にもみ合い横ばい、夕刻は1.1040。

欧州市場から米国市場にかけてはユーロが下落。ユーロドル相場は1.0960台へ、ユーロ円相場は132円30銭台に下落した。ドル円相場も121円ちょうど近辺で推移していたが120円70銭近辺でのもみ合いに。欧米株式が軟調に推移しリスク回避が強まった。

米10年債利回りはアジア時間昼頃に2.41%に上昇していたが欧米市場にかけて低下して2.29%に。2年債利回りはやや低下して2.098%。

米国株は大幅安。原油価格の上昇で景気への懸念が強まり消費関連株が売られた。NYダウは前日比▲448ドル安の34,358ドル、ナスダックは▲186ドル安の13,922ドル。VIX指数は+0.63ポイント上昇して23.57。原油価格WTI先物は114.93ドルに上昇した。

米国市場ではユーロは持ち直し、円は下落。ユーロ円相場は大幅反発して133円30銭~40銭。ユーロドル相場は1.1000~1.1010近辺へ上昇。ドル円相場は121円ちょうど~10銭に反発し、引けは121円10銭台。

発表された米国の新築住宅販売(2月)は季節調整済み年率換算で772千戸と前月788千戸とほぼ変わらず。

木曜日の東京市場では日経平均が8営業日続伸。寄付きは27,700円近辺で安寄りし27,600円台に下落。急速に上昇した反動で主力銘柄に利益確定売りが入り値がさ株が下落した。

しかし終盤にかけて急速に戻してプラス圏を回復。半導体関連株、資源株、商社株などが買われた。

引けは前日比+70円高の28,110円。ドル円相場は米国市場にかけて段階的に上昇。日米金融政策格差が意識される流れが続いた。121円10銭台で始まり一時121円を割ったものの20銭近辺でもみ合い。

午後から夕刻にかけて70銭台に上昇。その後欧州市場では60銭~70銭でもみ合い。米国市場に入ると122円ちょうどをつけて121円80銭~122円ちょうどでもみ合い。さらに122円40銭に一段高となり30銭台で引けた。

ユーロ円相場も大きく上昇。株高・リスク選好回復が支え。133円30銭台で始まり20銭~40銭台で上下。一時133円を割ったものの午後から夕刻にかけて133円70銭に上昇した。

その後もみ合いの後、欧州市場から米国市場にかけて右肩上がり。134円60銭まで上昇して引けた。

円は全面安。ユーロドル相場は1.1000ちょうど近辺を中心に1.0980~1.1010のレンジで上下動し横ばい、NYの引けは1.1000。

米国株は上昇。米長期金利も上昇。失業保険申請件数が50年振りの低水準。PMI景況感指数も予想を上回り、景気楽観が広がり幅広く買われた。とくに半導体関連株が堅調。NYダウは+349ドル高の34,707ドル、ナスダックは+269ドル高の14,191ドル。VIX指数は▲1.90ポイント低下して21.67。

原油価格WTI先物は下落して112.34ドル。

発表された米国の週次失業保険新規申請件数は187千件と前週の214千件から大きく減少して1969年以来の低水準。継続受給者数は1,350千件と前週1,419千件からこちらも大幅減。1970年以来の低水準となった。

PMI景況感指数(3月)は製造業が56.5と前月57.3から低下したが予想55.8を上回った。サービス業は58.4と前月56.5からの悪化予想に反して上昇した。欧州のPMIは前月から悪化したものの、概ね予想を上回った。ウクライナ情勢についてはロシア軍が首都近郊で後退と伝えられた。

金曜日の東京市場では日経平均が小幅ながら9営業日続伸。前日の米国株が堅調。円安が進んだことで全般にしっかり。半導体関連株が引き続き堅調。朝方は一時前日比+200円超。後場は利益確定売りに押されて▲160円安となったが底固く、引けにかけて持ち直して+39円高の28,149円で引けた。

為替市場では円が大きく上下動。ドル円相場は122円30銭台~40銭近辺でもみ合い。9時以降に急速に下落し昼過ぎには121円20銭。ここ数日急速にドル高円安が進んだことの反動で短期筋の円買い戻しが入ったとみられる。

鈴木財務相が衆議院財務金融委員会で、為替相場の急激な変動は好ましくない、と述べたことが円安けん制発言ととられた。一方、黒田総裁は、円安進行で円の信認が失われたということではない、強力な金融緩和を粘り強く続け安定的な物価の上昇を目指す、と述べた。

その後15時すぎにかけて円は反転下落・円安に転じ121円90銭台。欧州市場にかけては再び円高に振れて121円40銭に下落。その後米国朝方は121円70銭に持ち直した。

ユーロ円相場も同様に上下。東京市場は134円50銭台で始まり70銭に小高くなった後、133円80銭に急落。午後には134円40銭に持ち直したが、欧州市場にかけては133円80銭に下落し134円ちょうど近辺でもみ合い。

ユーロドル相場は1.1000ちょうど近辺で始まり上昇して昼前後は1.1030近辺でもみ合い欧州市場にかけては1.1000に反落し、その後は1.1000~1.1020でもみ合いとなった。

米国株はまちまち。原油相場が堅調でエネルギー関連株がしっかり。WTI先物は112.58ドルに小幅続伸。一方、長期金利上昇で高PER銘柄や主力ハイテク株は売られた。

NY連銀総裁は、0.50%の利上げが適切なら、そうすべき、と述べた。大幅利上げ・利上げ前倒し観測が広がった。米10年債利回りは一時2.5%、2年債も2.33%に上昇し、引けはそれぞれ2.479%、2.278%。

NYダウは+153ドル高の34,861ドル、ナスダックは▲22ドル安の14,169ドル。VIX指数は▲0.86ポイント低下して20.81。米国市場では再び円安に振れた。

ドル円相場は米金利上昇にも支えられ122円20銭へ上昇し、121円80銭に反落した後じり高となり122円10銭~20銭で引け。ユーロ円相場は134円60銭に上昇した後134円ちょうど近辺に反落。40銭台に反発する場面もあったがユーロ安ドル高につれて上値重く134円10銭近辺で引け。

ユーロドル相場は米金利上昇に押されて1.0980近辺でもみ合い引けた。欧州で発表されたドイツのIFO景況感指数(3月)は、前月98.5から予想94.3を大きく下回り90.8。予測指数は98.4から85.1へ大きく悪化した。

◆今週の3つの注目ポイント


1.米国の経済指標

今週は重要な指標が相次ぐ。FRB当局者からの発言が相次ぎ、大幅利上げ、利上げ前倒し観測が強まっているが、さらに後押しするか。

月曜日 ダラス連銀製造業活動指数(3月)

火曜日 ケースシラー住宅価格指数(1月、前年同月比、予想+18.7%、前月+18.6%) 消費者信頼感指数(3月、予想107.8、前月110.5) JOLT求人者数(2月)

水曜日 ADP雇用報告(3月、雇用者数前月比、予想+400千人、+475千人) GDP(10-12月期確報)

木曜日 米週間新規失業保険申請件数 個人所得・消費支出(2月)、消費支出価格指数(同、前年同月比、予想+5.5%、前月+5.2%) シカゴ購買部協会景気指数(3月、予想57.4、前月56.3)

金曜日 ISM製造業景気指数(3月、予想58.3、前月58.6) 雇用統計(3月、非農業部門雇用者数前月比、予想+450千人、前月+678千人、失業率、予想3.7%、前月3.8%、平均時給・前年同月比、予想+5.5%、前月+5.1%)

火曜日、水曜日にFRB当局者の発言機会があり注目される。

2.日銀短観

4月1日、金曜日に日銀短観が発表される。景況感の悪化が示され、あらためて日米景況格差、金融政策格差が意識され、ドル高円安を促すことになるか。

業況判断DIは製造業・非製造医業、大企業・中小企業、いずれも概ね悪化が予想されている。

大企業・製造業は現況が前回18から予想12、先行き判断は13から10へ。非製造業は現況が9から5へ、先行き判断は前回8から変わらずの予想。

中小企業・製造業は現況が▲1から▲7へ、先行き判断は▲1から▲8へ、非製造業は現況が▲4から▲9へ、先行き判断は▲6から▲8へ、いずれもマイナスが深まると想定されている。

3.ウクライナ情勢

ウクライナ情勢は膠着感を強めている。そうしたなか先週は国際会議が開催されたが、ウクライナに対する具体的・直接的なアクションはなかった。

軍事介入はなおリスクシナリオで、当面は経済制裁強化で長期戦となるとみられる。停戦協議は継続しているが、ロシア軍が押されていることから逆にこちらも長期化する可能性が強まっている。

ロシア側が現状打開のために生物化学兵器などの使用に走れば状況が一転してリスク回避的な環境となる可能性がある点には留意を要する。

月曜日には米国で経済制裁やウクライナ支援を加味した政府予算が発表される。金曜日にはEU首脳と中国習近平主席が会談を行う。

ほか、31日木曜日、1日金曜日に、中国でPMI景況感指数の発表がある。

◆今週のMRA's Eye


世界経済・長期トレンド転換とボラティリティ拡大のリスク

足元で資源価格が急騰、供給網の混乱はなお続き、インフレ高騰・高止まり懸念が強まっている。欧米中央銀行は景気より物価を重視。金融正常化の動きを強めている。

とくにFRBが急先鋒。利上げペースを加速し、バランスシート縮小も前倒しとなりそうだ。

政策金利の水準は長期的な中立水準を超えて、引き締め水準までを見通している。これに対して日銀はむしろ景気懸念を強め、現状の超金融緩和政策を粘り強く続ける方針だ。

資源高と円安によって外生インフレは強まっているが金融正常化の動きはみられない。日本の対外収支は大幅に悪化。貿易赤字は拡大し経常収支も赤字に転落。これが長期化する可能性もある。

先週は円安が大きく進んだが、景気・金融政策・対外収支、いずれの面からも妥当とみられ、円高に反転する材料が当面見出しにくい。

こうした動きはコロナ禍に続くウクライナ紛争による一時的な動きともいえる。ただもう少し長期的な視野で、経済構造やインフレ、金融政策、金利環境、などのトレンド転換が生じつつあり、今回のイベントはそれを明確にする、背中を押したに過ぎないとみておくことも重要だろう。

コロナ禍によって実体経済に急ブレーキがかかった。

人の移動が極端に制限され、それが生産や物流に大きなマイナスとなった。これが生産の混乱による供給制約、物流停滞・混乱をもたらした。

消費については、サービス消費は急減したが、ものの消費は不変。むしろサービス消費が減少した分、ものの消費に向かい需要が強まった面もある。

中央銀行はコロナ禍による景気悪化に直面してまずは急激な金融緩和を行った。FRBでさえゼロ金利、超量的緩和に踏み切った。グローバルな超金融緩和に加え、財政支出も各国で拡大。超金融緩和と財政拡大、需給バランスの引き締まりに物流混乱が加われば、物価が急騰するのは必至。

コロナ禍が一服し経済規制が緩和・経済正常化に向かうなか、金融当局とくに景気堅調な米国のFRBが「正常な」金融政策に一刻も早く回帰しようと考えるのは当然だ。

ただ、コロナ禍で超金融緩和に振れた政策の巻き戻しに過ぎない、より長期的なトレンドの転換が始まった可能性は考えておく必要がある。

コロナ禍は主として人の国際間移動を停滞させたことが大きく、国際間物流には間接的な混乱が生じただけともいえる。

しかし、ウクライナ紛争は、単なる物流停滞ではなく、グローバルなエネルギー需給への根本的なショック、グローバル市場における資源供給量の減少を生じた。さらには経済安全保障を背景とする経済ブロック化、ひいては自国主義の強化の動きを招いている。

米国の金利低下の長期トレンドは90年初頭から始まり現在に至っている。そのトレンドを足元で上抜けたことで、その長期トレンドの終了が示唆される。

すなわち、長期的な金利低下を支えてきた経済構造が変化しつつあることを疑ったほうがよさそうだ。

振り返れば冷戦終結は1989年で、金利低下長期トレンドの出発点にあたる。ベルリンの壁が崩壊し、東欧の共産党政権が瓦解。1989年末にはソ連・ゴルバチョフ書記長と米・ブッシュ大統領の会談で冷戦終結が宣言され、91年にかけてソ連が崩壊した。

それによって「旧東側」・共産圏がグローバルな生産供給体制に組み込まれた。中国は80年代から改革開放政策がとられていたが、1989年の天安門事件で一時頓挫。しかし92年から再び経済改革が加速して一大生産拠点となった。

東欧・中国も含めた効率的な生産分業体制が確立し、これがインフレを抑制。インフレ率の低下トレンド、ディスインフレ、ひいては長期的な金利低下トレンドをもたらしたと考えられる。

今回のウクライナ紛争により、現在の東欧も含む民主主義陣営とロシア・中国の対立が激化。企業は生産供給体制の見直しを迫られている。効率重視から安全重視、非効率化のコストを厭わず、ということになりそうだ。

そもそも、中国や東欧の低賃金や労働力の活用によるインフレ抑制効果は限界にあった可能性もあろう。

あるいはIT化による生産性の向上・インフレ抑制効果も勢いが鈍化しつつあった可能性もある。

加えて、グローバルな環境重視政策も同様な方向感だ。効率重視ではなく環境保護のため非効率を受け入れる。コストを受け入れると同時に、インフレ率は上昇することになる。

資源供給網からロシアが除外され、さらには中国までもとなれば、グローバルに痛手だ。仮に冷戦が再燃し軍備拡大・財政支出拡大となれば、財政支出の効率化も損なわれる。冷戦終結後にITの民間活用で90年代に大きく生産性が向上したことを考えれば、やはり転換点を意識せざるをえなくなる。

これらは少なくともディスインフレの終焉、米国のインフレ率でいえば、2%未満の時代から、2%~4%の時代への回帰、を意味するのではないか。

FRBの金融政策は2%を上回ることを許容するのではなく、2%台前半になんとかインフレ率を抑制する時代に回帰することになるということかもしれない。

となると、ここ10年ほどの市場の経済・インフレ・金利の変動域の前提が崩れる。

市場参加者はここ数年、あるいはせいぜい10年程度の経済環境、市場動向、相関関係などのロジックをもとに、投資戦略などを考えていると思われる。

しかし今生じつつあるのが、30年ぶりの環境変化、あるいは新しい経済構造への変化だった場合、それが通用しなくなる。

今回のFRBのタカ派傾斜も想定外とみていたとすれば、それがひとつの証左だろう。金利水準はここ5年ほど見慣れたレベルから大きく上昇するかもしれない。あらたな金利環境に移行するリスクがあり、またそうした状況変化に思考がついていっていないことがリスクでもある。

ディスインフレが終焉すれば、インフレと金融政策・金利の変化幅が増し、金融・債券・株式市場では短期的のみならず中期的なボラティリティも上昇するだろう。

すでに日本の対外収支は大きく悪化し1月は経常赤字に転落した。

日本の貿易収支は2000年代半ばまで毎月1兆円ほどの黒字で推移していた。それが大きく減少し、東日本大震災で大幅な赤字に転落した時期を除いても概ね収支均衡からせいぜい5,000億円ほどの黒字で推移。そしてここ数か月は赤字が続いているが、これがいよいよ常態化するか。

経常収支がいよいよ収支均衡となり、さらには長期的に赤字化する入口、構造変化の入口に差し掛かったのか。そこまでの確実な証拠はまだないが、円相場はレンジを切り下げた可能性を疑う必要もある。

ドル円相場は105円~115円を中心に、上下さらに10円の範囲とみてよかった。それがドル高円安方向にズレが生じた可能性はないか。あるいはボラティリティが拡大して変動範囲が従来よりも広がった可能性を疑っておく必要はありそうだ。


主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
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