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ロシア制裁一巡で様子見 株高・商品安の組み合わせ
  • MRA商品市場レポート

2022年3月25日 第2161号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「ロシア制裁一巡で様子見 株高・商品安の組み合わせ」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格はエネルギーや工業金属が下落し、その他農産品や貴金属などが物色される流れとなった。

G7首脳会議が開催されロシアに対する制裁継続、中国に対してロシア制裁の抜け穴にならないよう望む、といった発言はあったが追加でロシアに経済的な打撃を大きく与えるような新規材料が出てこなかったため、「一旦様子見」となったとみられる。ロシアに対する制裁が強化されると「商品高・株安」となっていたがこれの巻き戻しが起きた。

ここから先は制裁する側もされる側も「痛みを伴う」制裁になることはほぼ間違いがなく、どこまでどちらが我慢出来るかの勝負になる。

西側諸国はプーチンが考えを改めるまで(あるいは失脚するまで)制裁を続けると予想されるが、今年の夏は猛暑が予想され、西側諸国の国民の不満が高まることが予想されるため、日本では余り考えられないが欧州で「我々の生活を脅かすロシア制裁は一部緩和するべき」という論調が強まる可能性がある。

ロシア側も今回の戦闘による財政的な負担は重く、やはり早期に一旦「弾を込めるための停戦」を望むと予想される。ただ、今年の夏頃まではこの状態が続く可能性がある。

中国がロシアに軍事的な協力や経済的な協力を決断することは最大の懸念材料の1つであるが、今のところこの動きはみられていない。

【本日の見通し】

本日も引き続きウクライナ・ロシア情勢が価格に影響を与えるが、G7で強力な追加対策が打たれた訳ではなく、EUも脱ロシア原油で合意出来なかったことからエネルギー供給懸念が若干後退しているため、商品安・株高となるのではないか。

ただしロシアがガス販売をルーブル建てに変更することを要求するなど、交渉カードにエネルギーを利用し始めていることが潜在的な同国からの資源供給リスクを高めることになるため、結局資源価格はしばらく高い水準を維持すると予想される。

本日はウクライナ問題関連では米・ポーランド首脳会談、米大統領・欧州委員長会談に注目している。

その他ウクライナ関連以外では、米FOMCメンバーの講演が多数予定されているためこれも注目している。ただFRBパウエル議長はあと年6回程度の利上げを示唆する発言をしており、昨日の米PMIが好調だったことを考えるとこのタイミングでこの方針を覆すような発言は出ないと思われ、それほど材料視はされないとみる(利上げ幅の拡大発言があれば別だが)。

【昨日のトピックス】

昨日発表されたPMIはコロナやウクライナ・ロシアの戦争の影響による資源価格の高騰やエネルギー価格の高騰などで日本・欧州が前月から悪化した。

日本はサービス業のPMIが閾値の50を下回った状態が続いているが、その他の地域は50を超えており、まだ景況感は本格的に悪化していない。

また、いずれも市場予想を上回っており想定よりも景況感が悪化していないことが確認された形。

一方、米国の製造業PMIは市場予想・前月から改善している。マスク着用義務の撤廃やオフィスへの出社再開といったコロナ関連規制の緩和で個人消費が回復するとの期待が高まっていることが背景。

米国は市場の見通しでは今年あと6回の利上げを予定しているがコロナの状況が改善傾向が続き、ウィズ・コロナが定着する形になれば徐々に制限が解除に向かうため金利引き上げによる景気への悪影響を緩和し、米国の景気が後退するところまでは行かずに済む可能性は高まった。

しかし今回のウクライナ危機による制裁強化やそれに伴う資源価格の上昇といったリスク要因は時間差を以て市民生活に影響を与えるため、この影響が顕在化するのはもう少し先であり、まだ予断は許せない。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は下落した。価格変動性の高まりを背景にCMEが原油取引のマージンを引き上げたことや、EU諸国がロシア産の原油禁輸で合意出来なかったことでロシアからの供給懸念がやや後退したこと、カザフスタンからロシアを通じて黒海に抜けるCPCパイプライン(56万バレル/日)が一部稼働を再開したと報じられたことが背景。

ただし、ロシアがガス決済をルーブル建てに変更するなど、原油供給減少に関する将来的なリスクは取り除かれておらず高値圏での推移となっている。

現在のシナリオ別価格見通しでは、EUがロシア産原油輸入停止で合意出来なかったことで、再び1.のシナリオから3.に移行しつつある。

ロシア原油の市場からの締め出しは、実際には難しい。恐らくは同盟国である中国、パキスタン問題でロシアの援助を得たいインドなどが「大幅なディスカウント」で購入すると見られることから玉突き的に需給が緩和すること、この状況下、ベネズエラやイランなどへの制裁が解除される可能性があること、価格上昇による需要の減速を考えると、仮に1.になった場合でも長期にはならない、と見ている。

なお、イランの制裁が解除されれば最大で130万バレル程度、ベネズエラで50万バレル程度の供給増加が期待されるが、即時は恐らく難しく、原油の性状もどこでも受け入れられる訳ではないため、実際の需給が緩和するには時間が掛ると予想される。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない(ないしはその可能性が強く意識される) Brent 125-140ドル

2.1.の状態でOPECプラスのどこかが増産する(規模による)Brent 110-130ドル

3.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 90-125ドル

4.3.の状態でOPECプラスのどこかが増産するBrent 80-105ドル

↑ 上記は停戦が行われない場合のシナリオ

↓ 下記は停戦が行われた場合のシナリオ(現在はこちらに移行しつつある)

5.ロシアがウクライナから撤退Brent 70-100ドル

6.5.に加えてOPECプラスのどこかが増産Brent 60-80ドル

本日もウクライナ・ロシアの停戦合意動向が価格を左右することになるが、昨日のG7ではロシア原油の供給が意図的か意図的でないかは定かでないが供給が減少しているため高値維持の公算。

なお本日のG7首脳会議でロシア産原油の扱いをどうするか、場合によると原油生産に関して何らかの見通しが示される可能性はあり注目したい。

◆石炭・LNG・天然ガス

豪州石炭スワップ先物価格は小幅に上昇。この数日の価格下落で割安感(といっても十分高い)が出たこともあって買いが入ったと見られる。

NEWC先物の直近限月と第2限月の価格差は第2限月価格の上昇で小幅縮小。期先の価格は140ドル程度であり恐らく流動性リスクが後退すればこの水準までの下落は有るが、ロシアや豪州の供給懸念が残る中でこの水準までの下落はすぐに起きると考え難い。

なお、石炭価格と原油価格の相関性は高く、Brent120ベースだとNEWC価格は400ドル程度が説明可能な水準となる。

欧州天然ガス価格は下落。EU全体の天然ガス在庫スペースへのガス流入量が増加しており、域内需給の緩和期待が高まっていることが背景。

手元の統計で確認できるデータだと、域内最大の生産国であるノルウェーの生産は過去5年平均に達していない一方、LNG輸入が過去5年の最高水準で推移していること、恐らく需要が減速していることが在庫積増しに寄与しているようだ。

なお、昨日コメントしたロシアのガス販売ルーブル決済については、やはり購入国側から「契約違反だ」とコメントが発せられたが、これまで想定外の決断をし続けているロシアが実際に一時的にでもガス供給を止めるリスクは残存している。なお、ロシアからの欧州へのガス供給は流量は少ないが継続している。

需要が景気の影響や春に向けて減速している可能性はあるが今後、冬に向けてタンクのキャパシティ90%まで在庫を積み増す見通しであることを考えると、LNG調達のみで今冬(その前にこの夏は猛暑の可能性)の在庫を充分にするには、ロシアからの供給は欠かせない。この間、TTFやJKMの価格は高止まりしよう。

中長期的に脱ロシア戦略をEUは進める方針であるが、ロシアの扱いがどうなるかはよく分からないが、脱ロシアが完了してからはガス・LNG市場は需給が緩和して下落に転じると予想される。

ただしこれは「脱炭素の枷」が外れた状態になったうえで成立するものだ。今までのようにデモまで起こして上流部門開発を停止せよ、という動きが強まったままの状態が続くようであれば、恐らく上流部門投資が行われず、価格は上昇したままとなる可能性がある。

仏独の原発の稼働率はフランス・ドイツとも低下している。

米国天然ガス価格は上昇。近々、米国から欧州へのLNG供給契約が締結となり、米国からの輸出増加で需給がタイト化するとみられたことが材料となった。

JKM先物は直近限月が上昇したが期先が低下している。一昨日大きく上昇した反動とみられる。

3月13日時点の日本の発電用LNG在庫は172万トン(前年同月末241万トン、過去4年平均219万トン)と水準は低く、今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の供給不足のリスクは小さくない。

3月14日~20日のLNGトレードだが、取引量は▲5%の770万トン(前週+11%の810万トン)となった。スポット取引のシェアは34%と前週の23%から上昇。主に欧州向け(英国、フランス)の供給増加がスポットカーゴ増加に寄与。

長期契約は日本・韓国・中国・台湾で減少。特に日本は▲52万トンの減少となった。

本日の石炭価格は新規材料に乏しい中、高値圏での推移継続。

LNG・天然ガス価格はロシアのルーブル建て決済強要報道を受けて上昇していたが、続報待ちの状態で本日は現状水準での推移か。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は下落した。中国の最大貿易相手経済圏であるユーロ圏の製造業PMIが減速(といっても水準は高い)したことや、ドル高進行が材料となった。

一方、ニッケル価格は急騰して値幅制限一杯の15%上昇となった。青山控股集団がフェロニッケル価格の下落リスクヘッジのために保有していたショート・ポジションを、この数日の下落を受けて買い戻ししたためと考えられる。

同社は恐らくLMEのヘッジから撤退することはないと思うが、恐らくマージンコールの調達が出来る範囲でしかポジションを取れないと考えられる為、現在のように変動性が高く、最もヘッジが必要と思われるところでは逆にヘッジを外さざるを得なくなると予想される。

いずれにしても青山控股集団のヘッジ外しがしばらく続くと予想されることから、ニッケルは当面の間高値での推移を余儀なくされそうだ。

昨日時点の在庫から推定されるニッケル価格は24,631ドル、誤差を1標準偏差考慮で27,325ドル、2標準偏差で30,264ドル。

アルミはLME指定庫在庫の水準で説明可能なアルミ価格は2,963ドル、誤差考慮後(2標準偏差)は3,388ドル。

NEWCを元にした回帰では3,452ドル、1標準偏差考慮後の水準が3,712ドルであり、コスト面からはまだ上昇余地があることになる。

亜鉛はLME在庫水準からの推定では3,690ドル、2標準偏差で4,034ドル、TTFとの回帰では3,562ドル、2標準偏差で3,962であり、足下の水準はこれより高くなった。ロシアからのエネルギー供給途絶によるリスクが強まっていることによると考えられる。

本日はロシアの供給懸念問題が追加材料不足で一旦棚上げとなる中、最大消費国である中国の景気減速観測と金利上昇によるドル高バイアスが価格を押し下げる見込み。

ただしロシアからの潜在的な供給減少リスクは残り、ロシア関連金属は下支えされると考える。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは小幅に上昇、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は小幅に上昇、上海鉄鋼製品先物は上昇した。

中国のコロナ感染拡大による経済活動鈍化はあるが、物流も停滞しているため鉄鋼製品価格は上昇し、それを受けて鉄鋼原料価格も高値での推移となった。

基本的に原料炭供給不足が定常化しており、今後、ロシア炭は中国向けの供給が増えるがその他の地域への供給は増加しないため、中国と海外の内外価格差は広がると予想される。

とは言え、鉄鉱石も原料炭も絶対価格水準が高いことは事実であり、日本の調達する鉄鋼原料価格は高止まり、鉄鋼製品価格への転嫁が進むため消費者の負担は増加するだろう。

鉄鋼製品価格を元に行った回帰分析の結果は、鉄鉱石価格が153ドル、原料炭価格が233ドル程度を示唆している。

なお、原料炭の期先の価格は230ドル程度でありこの分析とほぼ水準が合致する。結果、300ドル程度の供給プレミアムが上乗せされている形となる。

本日も中国の経済活動鈍化観測で価格は低下するが、原料供給懸念が特に原料炭については解消しておらず、鉄鋼製品価格を高値に維持するため、結果的に鉄鉱石価格も高値維持の見込み。

◆貴金属

昨日の貴金属価格は総じて堅調な推移となった。米株上昇によるリスクテイク再開で株価が上昇、長期金利も上昇、原油価格が小幅に調整したことで実質金利が上昇したことが金の基準価格を引き下げた(1,517ドル、前日比▲36ドル)が、リスク・プレミアムが上昇(+49ドル)して441ドルと高い水準を維持したため。

銀は金価格の上昇を受けて上昇、プラチナも金銀価格の上昇に連れた。パラジウムは新規材料に乏しく(というよりもロシアの制裁関連で新規材料が出てきていない)、小動きとなった。

G7では追加でロシアに新たな制裁を科すという感じではないが、制裁が続くことでロシアとの緊張が高まった状態が続くことから、リスク・プレミアムが価格を押し上げる形で金価格は高値維持、その他の貴金属もベンチマークである金価格が高値を維持することから同様に高値維持の公算。

◆穀物

シカゴ穀物市場は下落した。ロシアに対する一連の制裁が目先出尽くし感が出ていることからドル高侵攻を受けて特に投機のロング筋が利益確定の売りを入れたためと考えられる。とは言え価格水準は十分高い。

本日もロシア・ウクライナ情勢次第の状況が続くが、ロシアに対する制裁が一巡していること、黒海周辺地域の作付の減少、ラニーニャ現象の影響を考えると高値維持の公算。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・ロシア・ウクライナの衝突の影響が長期化し、欧州を中心に景気が減速する場合。

また、ロシアに対する制裁がロシアが主要生産地である商品の供給を制限し、価格を押し上げ、景気を悪化させるリスク(価格下落要因)。

なお、今回の戦争の後、ロシアがソ連復活を目指してジョージアやモルドバに侵攻するリスクや、今回の対応如何では中国が台湾を武力で早期に併合する可能性を高めることになる。

・ロシア国債のデフォルトや、ロシアからのビジネス撤退が企業や信用市場に大きな影響を与え、クレジットクランチ(信用収縮)が発生する場合。

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

むしろこの可能性は高待っており、リスクシナリオではなくなりつつある。

・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。

・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。


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