CONTENTSコンテンツ

宇露情勢膠着と米引き締め・中国鈍化観測で軟調
  • MRA商品市場レポート

2022年3月23日 第2159号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「宇露情勢膠着と米引き締め・中国鈍化観測で軟調」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は鉱物資源セクターの価格が下落し、エネルギー価格も小幅に調整、発電燃料は天然ガス価格が上昇し、農産品は油脂類の価格上昇が顕著だった。

米FRBによる利上げ加速緩速が景気循環系商品価格の下押し材料となっていることや、鉱物資源の最大消費国である中国の経済活動鈍化への懸念も特に鉱物資源価格を押し下げた。

貴金属価格はFRBの利上げ加速観測による実質金利の上昇が価格を下押ししている。しかしリスク・プレミアムは高く、まだ地政学的リスクが価格を押し上げているという印象は否めない。

昨日、キエフベースのUkrAgroConsultのレポートでは、ウクライナの穀物・油脂類の作付が非常に厳しいとの見通しを発表している。この予想通りであれば農産品の作付は種類によって▲10%~▲50%減少することが予想され、さらにラニーニャ現象の悪天候が重なれば生産は極めて危機的な状態に陥ることが懸念される。

裕福な国はお金を払えばこれらのものを購入出来るが、アジアやアフリカの新興国は現物供給減少とそれに伴う価格上昇に耐えられるかどうか、非常に厳しい状況に陥ると予想され、暴動に繋がるリスクは無視できなくなってきた。

ロシアの侵略戦争が世界中に暴力の連鎖を広げる切っ掛けとなる可能性があり、一刻も早い停戦と、ロシアの態度を改めるための方策を議論する必要があるが、同時に相互依存の関係になっている国に対する制裁が技術的な困難を孕んでいること今回のことで分かってしまった。

この状況を受けて台湾問題を巡り、中国が「このような制裁を受けないように」と考えるのか「これだけ厳しい状況に置かれるならば制裁はされないだろう」と考えるのか。中国と世界は大きな岐路に立たされている可能性がある。

【本日の見通し】

本日も引き続きウクライナ・ロシア情勢が価格に影響を与えるが、今のところ戦況に大きな変化がないため、その他の国がどのように振る舞うかが市場動向に影響を与えることになる。

予定されている材料では、G7貿易相会合が予定されているがロシアに対してどのような追加制裁を科すかに注目している。

萩生田大臣はその後のIEA閣僚理事会にも出席予定だが、足下のエネルギー安保に関してどういった議論がなされるかにも注目したい。化石燃料採掘・上流部門投資に関してのスタンスが変わらないかどうかに注目したい。

その他の予定されている材料としては、米国の利上げバイアスが強まる中で金利に対する感応度が高く経済への波及効果も大きい米住宅販売に影響がどの程度出ているかを判断する材料として、米新築住宅販売に注目している。

2月米新築住宅販売 前月比+1.1%の81万戸(前月▲4.5%の80.1万戸)

【昨日のトピックス】

昨日というよりは4月に発表が予定されているIMFの経済見通しの「手がかり」になるという意味で、昨日、IMFのゲオルギエワ専務理事が世界経済の4.4%成長見通しの下方修正の可能性について指摘した。

下振れリスクの要因としてはロシアの侵略戦争を挙げており、これによってリセッションに陥るリスクがある国が増加していると指摘している。

リセッションに陥るか否かはこれまでコロナに対してどれだけ対応出来ているかもポイントとして挙げており、コロナに対応出来ている国、特に米国はこれ(リセッション)に対する耐性が強いが、その他のコロナから脱却できていない国は大きな打撃を受けると指摘している。

また、利上げは大きなショックをもたらすとしており低所得国の60%は債務返済に支障を来しているとした。

IMFの経済見通しは無料であり、かつ、分析が詳細であるためほとんどの市場参加者が参考にしている。この見通しが下方修正されると特に景気循環系商品の需要見通しが下方修正されるため、構造的な需要増加という特殊要因がない商品価格には下押し圧力が強まることになる。

また、IMFは景気拡大時の予想には強いが、景気後退時の予想は大きくはずしてしまうことが多く、かつ、多くの市場参加者がこれを参考にしていることを考えると、年後半の景気循環系商品の価格下落リスクは小さく無いといえるだろう。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は小幅に下落した。EUがロシア産原油の制裁導入について討議をしているとの報道が一昨日の価格上昇を引き起こしたが、一部の国がこれに反対しているとの報道を受けて小幅に調整した。

昨日、トラフィグラのCEOが現在原油・石油製品市場では250万バレル(原油100万バレル、製品150万バレル)の供給減少が起きていると指摘しており、これが原油価格を高止まりさせている。

需給バランスの前年比変化ベースでの議論ではこのコラムでも説明しているとおり、仮にロシアの原油を米欧が輸入しなくなった場合、500万バレル程度の原油が供給されなくなるため原油は下記シナリオの1.の水準まで上昇することになる。

ただし検討されているだけであり、恐らくまだ3.のステータスとみるのが妥当だろう。

実際は同盟国である中国や、パキスタン問題でロシアの援助を得たいインドなどが「大幅なディスカウント」で購入すると見られることから玉突き的に需給が緩和すること、この状況下、ベネズエラやイランなどへの制裁が解除される可能性があること、価格上昇による需要の減速を考えると、仮に1.の水準になったとしても長期にはならない、と見ている。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない(ないしはその可能性が強く意識される) Brent 125-140ドル

2.1.の状態でOPECプラスのどこかが増産する(規模による)Brent 110-130ドル

3.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 90-125ドル

4.3.の状態でOPECプラスのどこかが増産するBrent 80-105ドル

↑ 上記は停戦が行われない場合のシナリオ

↓ 下記は停戦が行われた場合のシナリオ(現在はこちらに移行しつつある)

5.ロシアがウクライナから撤退Brent 70-100ドル

6.5.に加えてOPECプラスのどこかが増産Brent 60-80ドル

現在、懸念しているのは世界的なディーゼルオイル(ガスオイルや灯油、ジェット燃料含む)の水準の低さ。世界的な発電燃料の不足を受けて火力発電向けの需要が増加している他、昨年の冬の厳冬・夏の猛暑・今回の厳冬の影響で需要が増加したためと考えられる。

例えばシンガポールや米国の中間留分在庫は昨年初は過去5年の最高水準だったが今は過去5年の最低水準を下回っており、欧州は過去5年平均程度だったがやはり過去5年レンジを下回っている。

欧州は通常の車の燃料にディーゼルオイルを用いており、米国や世界的にはトラックの燃料はディーゼルである。仮に欧州が脱ロシアを進めるのならば、輸送燃料の供給に大きな問題が出ることになる。これはインフレを抑制しようとしている米国でも同じことだ。

今後、折に触れてディーゼル市場の状況はアップデートしていきたい。

本日もウクライナ・ロシアの停戦合意動向が価格を左右することになるが、目先はG7を控えた欧米の追加制裁がエネルギー分野で起きるかどうかが重要であり、引き続き報道睨みの展開に。

なお、石油統計も発表されるが、市場予想は▲0.3MBの原油在庫減少見込みだが朝方発表のAPI統計は▲4.3MBの減少となっており価格には上昇圧力が掛ろう。しかしそれよりは原油生産(11.0MBD)の増加があるかどうか、需要(輸出+国内需要合計で26.56MBD)の減速はないか、に注目している。

◆石炭・LNG・天然ガス

豪州石炭スワップ先物価格は続落して330ドルを割り込んだ。そもそも高値過ぎたこともあって、中国の増産期待などを通じて価格が低下したとみられる。

期間構造を見ると直近限月は供給懸念で軽くスクイーズされている状態であり、第2限月は250ドル近辺で推移している。限月交代が起きた後、今の第2限月が250ドル近辺で推移するかどうかは大きなポイントとなるが、足下の流動性低下を考えると窓が開いたまま、というよりも恐らく330ドルと250ドルの中間程度に落着くことになるのではないか。

石炭価格と原油価格の相関性は高く、Brent115ベースだとNEWC価格は370ドル程度が説明可能な水準であり、原油価格高騰と春先に向けた需要の減少の綱引きとなるだろう。

欧州天然ガス価格は上昇した。欧州最大のガス田であるTrollガス田がコンプレッサーの故障で稼働率を落としたことが材料となった。ロシアからの輸入を制限する以上、域内での供給トラブルは価格の上昇要因となりえる。

なお、ロシアからの欧州へのガス供給は継続しているが過去5年レンジの最低レベルであり恐らく価格面から割安なLNGを求める動きが強まっているとみられる。ロシア側は基本的には要請があれば供給を行うため、欧州側が調達を行っていない可能性が高い。

需要が景気の影響や春に向けて減速している可能性はあるが今後、冬に向けてタンクのキャパシティ90%まで在庫を積み増す見通しであることを考えると、LNG調達のみで今冬(その前にこの夏は猛暑の可能性)の在庫を充分にするには、ロシアからの供給は欠かせない。この間、TTFやJKMの価格は高止まりしよう。

ただ、ガス供給が偶発的な物理攻撃で技術的に不可能となる可能性も、現在のウクライナ・ロシア情勢をみるにない話ではない。

中長期的に脱ロシア戦略をEUは進める方針であるが、ロシアの扱いがどうなるかはよく分からないが、恐らくガス・LNG市場は需給が緩和して下落に転じるのではないか。

ただしこれは「脱炭素の枷」が外れた状態になったうえで成立するものだ。今までのようにデモまで起こして上流部門開発を停止せよ、という動きが強まったままの状態が続くようであれば、恐らく上流部門投資が行われず、価格は上昇したままとなる可能性がある。

なお、欧州に供給できない分を中国にという報道もあるが、ロシアのパイプラインシステムは東西で分断されているためこれを開通させるためには相当規模の融資が必要になる。シベリアの力2の稼働も必須だが、巨額の資金が必要となるため財政状況が厳しい中国が一国でこれを賄うのは負担が重い。

仏独の原発の稼働率はフランス・ドイツとも低下している。

米国天然ガス価格は気温低下予想で上昇。足下の米天然ガス在庫は過去5年平均を下回っており、異常気象発生時の供給余力は十分ではない。JKMは小幅に下落。

3月13日時点の発電用LNG在庫は172万トン(前年同月末241万トン、過去4年平均219万トン)と水準は低く、今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の供給不足のリスクは小さくない。

3月14日~20日のLNGトレードだが、取引量は▲5%の770万トン(前週+11%の810万トン)となった。スポット取引のシェアは34%と前週の23%から上昇。主に欧州向け(英国、フランス)の供給増加がスポットカーゴ増加に寄与。

長期契約は日本・韓国・中国・台湾で減少。特に日本は▲52万トンの減少となった。

本日の石炭価格はロシア・ウクライナの情勢不安継続で高値維持。

LNG・天然ガス価格はロシア・ウクライナ情勢不安の継続で同様に高値維持の公算。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は総じて下落した。米FRBの金融引き締め加速緩速と、最大消費国である中国のコロナ感染拡大による経済活動減速観測が材料となった。

ロシアに対する制裁強化への懸念は根強く、アルミ、ニッケル。亜鉛が得に影響を受けているが昨日はいずれも下落した。

ニッケルは徐々に在庫統計で説明可能な水準まで低下してきている。その他の要素も影響するため在庫のみを対象に相関分析をしても十分ではないが、この1年の説明力は高い。

昨日時点の在庫から推定されるニッケル価格は24,087ドル、誤差を1標準偏差考慮で26,863ドル、2標準偏差で29,640ドルであり、まだ水準は高い。

アルミも同様の分析を行うと、LME指定庫在庫の水準で説明可能なアルミ価格は2,989ドル、誤差考慮後(2標準偏差)は3,410ドルであり、現在の水準はこれを上回っている。

NEWCを元にした回帰では3,457ドル、1標準偏差考慮後の水準が3,587ドルであり、コスト面からはまだ上昇余地があることになる。

ちなみに亜鉛はLME在庫水準からの推定では3,678ドル、2標準偏差で4,013ドルであり在庫との相関モデルで説明可能なレベルまで低下している。

本日はロシア関連銘柄であるアルミ、亜鉛、ニッケルには上昇圧力が掛るが、中央銀行の利上げやQT、最大消費国である中国のゼロコロナ策が工場稼働を低下させることから高値もみ合いを予想。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは小幅に下落。豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は上昇、上海鉄鋼製品先物は小幅に上昇した。

中国全土に新型コロナの感染報告が拡大し、中国の経済活動が鈍化するとの見方が強まったことが鉄鋼製品価格を押し下げているが、それでも過去5年のレンジを上回っており価格水準は高い。

「どちらが先か」議論ではあるが、鉄鋼製品価格の上昇と鉄鋼原料価格(特に原料炭)の上昇が相互に影響し、結局高値推移になっているという印象だ。

なお、鉄鉱石在庫の水準は絶対水準は高いが、在庫日数ベースでは35.2日と過去5年平均の36.8日を下回っており、以前よりも需給はタイト。鉄鋼製品価格からの鉄鉱石価格推計値は153ドルと足下の水準よりもやや高い。

中国原料炭港湾在庫の指標である京唐港の原料炭在庫水準は絶対水準が過去5年の最低水準であり在庫日数も同様と極めて需給はタイト。鉄鋼製品からの推計値は原料炭価格は233ドル程度。

本日は中国の経済活動鈍化観測で価格は低下するが、原料炭に関しては供給懸念が解消していないため高値維持の公算。

◆貴金属

昨日の貴金属価格は下落した。米FRBの利上げペース加速観測で長期金利の上昇が続き、実質金利が上昇したことが材料となった。

一昨日はロシアに対する追加制裁への懸念が価格を押し上げたが、昨日は金利要因でこれが巻き戻された形。貴金属市場は現状、実際の需給がタイト化している訳ではないため、値動きは市場参加者の思惑に非常に強く左右されている。

金は基準価格が1,509ドル(前日比▲28ドル)と下落、リスク・プレミアムは412ドル(+14ドル)と上昇したが全体でマイナスとなった。

ロシアのウクライナ侵攻への指標の1つとなっているパラジウムは大幅に下落して2,494ドルとなった。ウクライナ状況の改善、というよりは昨日は貴金属セクターのベンチマークである金価格が下落したことで、金に連れ安となったと考えるのが正しいか。

本日もG7を控えてロシアに対する制裁強化観測が強まっていることが金のリスク・プレミアムを押し上げるが、米金融引き締めへの懸念が強いことが価格を下押しすると予想される。

ロシア・ウクライナ情勢は流動的でありどちらに傾くかは断言が難しく、結局高値圏でも見合うことになろう。

◆穀物

シカゴ穀物市場はまちまちとなった。トウモロコシと小麦は前日の上昇の反動で小幅に下落、大豆は世界的な油脂類の供給不足を背景に大豆需要が増加するとみられていることが価格を高値に維持している。

小麦は小幅に調整しているが、エジプトなど黒海産の小麦の調達国が他国からの調達を増やす中で高値圏での推移が続いている。

なお、昨日ウクライナ農務相はウクライナのトウモロコシの作付面積は、2021年は540万ヘクタールだったが、今年は300万~330万ヘクタールに減少する可能性があると指摘している。

ウクライナベースのUkrAgroConsultのレポートでは、ひまわりの面積は前年比▲48%の350万~400万ヘクタール、大麦は▲29%の175万~180万ヘクタール、小麦は▲11%の630万~640万ヘクタール、菜種と大豆も▲10%程度作付が減少すると予想している。

作付面積ばかりでなく、種子、原料不足による肥料、労働力が不足しており、ウクライナの農産品生産は楽観的に見積もってもかなり厳しい状況にあるといえる。

本日もロシア・ウクライナ情勢次第の状況が続くが、ロシアに対する追加制裁の可能性が有ること、ウクライナの農産品生産が極めて厳しい状況にあることから高値圏での推移を予想。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・ロシア・ウクライナの衝突の影響が長期化し、欧州を中心に景気が減速する場合。

また、ロシアに対する制裁がロシアが主要生産地である商品の供給を制限し、価格を押し上げ、景気を悪化させるリスク(価格下落要因)。

なお、今回の戦争の後、ロシアがソ連復活を目指してジョージアやモルドバに侵攻するリスクや、今回の対応如何では中国が台湾を武力で早期に併合する可能性を高めることになる。

・ロシア国債のデフォルトや、ロシアからのビジネス撤退が企業や信用市場に大きな影響を与え、クレジットクランチ(信用収縮)が発生する場合。

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

むしろこの可能性は高待っており、リスクシナリオではなくなりつつある。

・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。

・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。

◆本日のMRA's Eye


「電力危機への備え」

供給能力の問題

昨日、東京電力管内では停電の恐れがあり各家庭でも節電が行われ、電力会社側の努力によってどうにか停電は乗り切った。

今回の停電は東北地方で発生した地震の影響で火力発電所の一部が停止、その復旧に時間が掛る中で季節外れの気温低下が発生するという不幸、天気が悪くなれば使えない太陽光発電が関東地方では充分に機能しなかったという不幸も重なった。

これまで電力自由化により競争が激化した電力市場だが、電力自由化は規制下で発生した余分な発電能力を削減する圧力が強まる。規制業種の自由化による無駄削減はかつて日本の銀行でも類似のことが起きた。

無駄を省いて筋肉質の体質になっていくということは、結果的に万一の時の対応能力が低下することを意味するが、利益を追求する企業である以上それは当然の帰結といえる。

日本の製造業はこれまで筋肉質の経営体質への転換に取り組み、余分な在庫を持たずグローバルに最適調達を行うことでこれを達成してきた。しかし、コロナやロシア問題顕在化による調達リスクが顕在化し、危機発生時の対応能力が低下していることが明らかになった。

結局、調達は何も起きていなくても調達手段は多様化しておく必要がある、といえるだろうか。

話を電気に戻すと、日本は再生可能エネルギーによってこの多様化を図ろうとしてきたが、それも今回の欧州危機や昨日の関東地方のように安定した熱源でないことが明らかになった(今回は地震による火力発電所停止の影響が大きいが)電力の安定供給に向けた熱源構成の見直しは必要といえるだろう。

このような場合に原子力発電は選択肢の1つだが、現在の日本では事実上原発は稼働が出来ない。そのため最後の選択肢は余剰電力で積み上げた揚水による発電となる。

個人的には蓄電池よりも大容量の蓄電、劣化がない、ということから水力発電は危機時の有力な発電手段と考えているが、昨日はそれが機能した。

しかし、あくまで「在庫」の取り崩しによるものであり、在庫は使ってしまえば終わりで、仮にまた同様の地震が別の地域で発生したり、また記録的な気温低下や太陽光発電が出来ない状況になった場合、類似のことが発生することになる。

当レポート執筆時点の朝時点の揚水発電所の発電可能残量はリンク先の通り42%まで低下している。今後数日の天気次第だが、まだ停電のリスクは残る。
https://www.tepco.co.jp/forecast/html/pdf/20220323.pdf

再生可能エネルギー強化のリスク

将来的には大規模な蓄電能力の確保が出来れば良い。しかし、このコラムでも繰り返し指摘しているようにその部材の多くは中国由来であり、今回のロシア危機からも分かるように1つの供給ソースに頼ったシステム構築は安全保障の観点からリスクとなる。

また、欧州問題で明らかになったように再生可能エネルギーは必要な時に充分な供給が得られない(気象状況が悪いときに供給が得られない)ことが起こり得る。

そうなると、中国などへの依存が高まるとは言ってもEVなどの普及による蓄電能力の改善は必要になってくる。しかし、完全にEVに移行した場合、今回の様な異常気象が数日続いて供給が途絶すればEVに蓄電された電気の在庫も枯渇することになるため、状況改善のための必要条件ではあるが十分条件とはいえない。結局、何らかの方法で発電出来るバックアップが必要になる。

追加調達のリスクと価格リスク制御の必要性

今回の様な発電能力の毀損がなかった場合、どこに熱源を求めるかがポイントとなるが、日本の電源構成上、現在最も発電シェアが大きいのシェア39.0%に達するLNG火力(3,906億kwh)。

しかし、厳冬・猛暑でスポットで需要が発生した場合、LNGをスポット市場で買い求めて稼働させる必要が出てくるが、最近の傾向として猛暑・厳冬は北半球(場合によると南半球も)で同時に起きる。

そして、今回のウクライナ危機を受けて欧州はLNGヘのシフトを進める方針であり、これからのLNGのスポット調達は困難になるだろう。このとき、買うことが出来れば良いが買い負ければ燃料不足が発生して電力供給が出来ないことになる(今回の電力不足は燃料不足ではなく、地震による火力発電所の停止に起因しているため電力供給という観点では同じであるが、燃料不足による供給途絶ではない)。

なお、今年の夏は記録的な猛暑が予想されており、電力不足が比較的早いタイミングで日本で再発する可能性があることを示唆している。厳冬であればまだ着込めば命の維持はできようが、猛暑の場合は限界があるため、この夏のリスクは小さくない。

恐らく今回、ないしは夏のリスク顕在化を通じてエネルギー市場のあるべき姿に関してもう一度、国内で議論されることになると思うがその制度設計の変更や修正を待っていても、それがいつ達成されるかは不透明である。

そうなると、企業や消費者はそのリスクに今から備える必要があるが、消費者側の対抗策としては節電や省エネを心掛ける、あるいは価格上昇に備えて何らかのヘッジを行うことだ。

省エネはこれまで経験があるため、その経験を参考に進めれば良い。一方、価格リスクへの対応は時間が掛るため今から新たに社内体制の整備などが必要になるが、日本の電気・ガスの価格制度設計上、夏の価格はもうほぼ確定している。

では何もやらなくて良いかといえばそうではなく、夏が猛暑の場合来年の冬場の価格は上昇が確定するため、今からの備えは次の冬以降への備え、と考えた方が良い。このような社内体制の整備は焦眉の急といえる。


主要ニュース/エネルギー・メタル関連ニュース/主要商品騰落率/主要指数/市場の詳細データPDFは、有料版「MRA商品市場レポート」にてご確認いただけます。
【MRA商品市場レポート】について