停戦期待減速とロシアデフォルト不安やや後退で上昇
- MRA商品市場レポート
2022年3月18日 第2157号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「停戦期待減速とロシアデフォルト不安やや後退で上昇」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品価格は再び上昇した。ロシア、ペスコフ報道官が「ウクライナとの和平協議が進展しているというのは誤り」と発言したことを受けて停戦合意への期待が急速に剥落、ロシア・ウクライナ情勢不安解消を期待した商品の売戻しが再び逆転したため。
ただし株価は上昇した。これはデフォルトが懸念されていたロシアがドル建て国債の支払いをドルで実施したことで信用不安が後退したことが影響したとみられる。
下落した商品はロブスタやアラビカなどのコーヒー豆や、畜産品、ビットコイン、ガス対比で割高過ぎる石炭などだったが限定されている。
なお、仮にプーチンが停戦に合意したとしてもそれは「弾を込め直すための停戦」となる可能性は低くないと考える。
報道ベースではロシアの軍需物資や食料の供給も不充分でかつ、重要な将軍が何名も殺害されている中でロシア軍の中で厭戦気分が高まりつつ有ることを考慮し、「ロシア軍の立て直し」を目的とした停戦を急ごうとしている、と考えるのがこれまでのプーチンの言動をみるに適当ではないか。
どのような形で終戦を迎えるかはなんともいえないが、今回の戦争で仮にロシアがウクライナを制圧したとしてもウクライナの国内がここまで破壊されてしまったことや、住民殺害で嫌ロシアの機運が高まっていること、これまでのロシアの軍事資産の喪失、経済負担を考えると、ロシアが戦争前の状態に戻ることは最早ないのではないか。
このことが分かっているが故に何らかの戦火を得るまでプーチンが戦争を続ける可能性は高く、市場の混乱要因となる状態がまだ続くことになるだろう。
【本日の見通し】
本日はウクライナ・ロシア情勢の「再びの巻き戻し」が起きると予想されるため、これまで売られてきた商品が再び物色される展開になるのではないか。
予定されている材料で注目は米連銀総裁の講演があるが、先日のFOMCを受けてさらに材料視されるとは考え難いため影響は中立だろう。
また、ロシアが政策金利を発表する。市場予想は20%と据え置きであるが足下のインフレ加速で利上げを追加的に行うかに注目が集まる。
【昨日のトピックス】
昨日発表された米国の住宅着工は、前月比+6.8%の176.9万戸(前月▲5.5%の165.7万戸)と、市場予想の+3.8%、170万戸を大きく上回った。
住宅ローン金利が上昇しているが、住宅供給不足が住宅建設を下支えしていることを示唆している。
ただし、建設許可件数は前月比▲1.9%の185.9万戸(前月+0.5%の189.5万戸)と、市場予想の▲2.4%の185万戸は上回ったものの減速感が強まった。
FRBの金融緩和正常化策の急速な進行観測によって長期金利が上昇、住宅ローン金利も急上昇しているため、駆け込み需要が出ているとみられるが、金利上昇は時間差を以て需要に影響するため、住宅セクターの減速は避けられないだろう。
ただし、コロナの影響による生活様式の変化から住む場所や住む家の大きさを変更する需要は強い。実際、住宅建設で最も大きなシェアとなっている一戸建て住宅の着工件数は、+5.7%の121.5万戸と北東部と中西部、南部で増加している。
しかし同時にコロナの影響による資材不足や、昨年のカナダのブリティッシュコロンビア州での洪水の影響による資材供給の遅れ、といった供給面の問題が住宅の「ペントアップ需要」を長期化させている側面も否めず、減速したとしても住宅着工は下支えされると考えられる。
これは現在、半導体供給不足で販売が低迷している自動車にも同様のことがいえて、半導体共有が戻る過程では徐々に需要が顕在化するため、資源価格の下支え要因となる。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は反発した。ロシアがウクライナとの協議は進展していないと交渉進展を否定する発言をしたことなどを切っ掛けに買い戻しが優勢となり、急速に水準を切り上げた。
以下に示す「シナリオ別」の見通しの「停戦合意がない」方向に市場のマインドが傾いたためと考えられる。即ち、以下の3と5で5に傾きつつあったが、3に戻った、ということだろう。
仮に停戦合意してもこれまでのプーチンの発言をみるにウクライナ征服をそう簡単に諦めるとは思えず、「ロシアが弾を込めるための仮初めの停戦」となる可能性は充分にありえる。
1のシナリオ以外では、仮にロシアに対する制裁が段階的なものであり実際に制裁が行われない(エネルギー分野への制裁が行われない)、あるいは時間を掛けて脱ロシアが進み、即時のロシア産原油締め出しが起きない、となればより上値は抑えられることになる。
また、1~4の場合、景気に悪影響になるため、先行きの需要は減少して価格が下落する展開が想定される。価格水準が持続可能、という意味では5~6のシナリオの場合だろう(侵攻前の状態に戻るシナリオ)。
<シナリオ別原油価格見通し>
1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない(ないしはその可能性が強く意識される) Brent 125-140ドル
2.1.の状態でOPECプラスのどこかが増産する(規模による)Brent 110-130ドル
3.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 90-125ドル
4.3.の状態でOPECプラスのどこかが増産するBrent 80-105ドル
↑ 上記は停戦が行われない場合のシナリオ
↓ 下記は停戦が行われた場合のシナリオ(現在はこちらに移行しつつある)
5.ロシアがウクライナから撤退Brent 70-100ドル
6.5.に加えてOPECプラスのどこかが増産Brent 60-80ドル
本日もウクライナ・ロシアの停戦合意動向が価格を左右することになるが、報道をみるに停戦への期待は再び遠のいた。ロシアからの原油供給は止まっていないものの、徐々に制裁の影響と脱ロシアが進む中ではショートを積極的にとり難く、価格は下支えされ高値を維持する公算。
◆石炭・LNG・天然ガス
豪州石炭スワップ先物価格は続落して340ドルを割り込んだ。そもそも高値過ぎたこともあって、中国の増産期待などを通じて価格が低下したとみられる。ただし、豪州、インドネシア、南アフリカなどの主要生産国での天候要因悪化による供給の遅れが価格を高止まりさせている状況。
しかし、競合燃料である天然ガスのスポット価格対比での石炭価格は225ドル程度まで低下している。
足元の上昇はパニック的な買いによるものであり、早晩この水準まで収れんするとみられるがそれにしても高すぎる。
中国の2021年の総発電容量は前年比+9.8%の8,377TWh、そのうち9割が石炭である火力発電は+9.1%の5,646TWhと高いシェアを維持。
今後、発電容量の伸びも伸び率では再生可能エネルギーが大きいが、実数ベースでは圧倒的に火力発電の比率が高い。まだ石炭が燃料として用いられ構造的に価格を高止まりさせよう。
欧州天然ガス価格は上昇した。昨日のロシアからのガスフローは、ヤマルがゼロ、ノルドストリーム1の稼働も大幅に低下し、供給への懸念が高まったことが背景。
ただし、ロシア側は基本的には要請があれば供給を行うため、欧州側が調達を行っていない可能性が高い。需要が景気の影響や春に向けて減速している可能性はあるが今後、冬に向けてタンクのキャパシティ90%まで在庫を積み増す見通しであることを考えると、LNGなどのでの調達にシフトしている可能性が高い。
この間、TTFやJKMの価格は高止まりが予想される。
脱ロシアを模索する動き(完了するのは早くても、米国のLNG供給能力が拡充される2027年頃か)、と見られるが今後、供給・購入契約の中でロシア産のガスは調達すると思われるが戦争の結果次第で価格に関しても、何らかの圧力が掛って価格が急騰する展開のリスクはまだ残る。
その後、ロシアの扱いがどうなるかはよく分からないが、恐らくガス・LNG市場は需給が緩和して下落に転じるのではないか。
ただしこれは「脱炭素の枷」が外れた状態になったうえで成立するものだ。今までのようにデモまで起こして上流部門開発を停止せよ、という動きが強まったままの状態が続くようであれば、恐らく上流部門投資が行われず、価格は上昇したままとなる可能性がある。
なお、欧州に供給できない分を中国にという報道もあるが、ロシアのパイプラインシステムは東西で分断されているためこれを開通させるためには相当規模の融資が必要になる。シベリアの力2の稼働も必須だろう。
この場合、現在、ロシアに対して欧米諸国が資金を提供することはないため、力を貸すならば中国であるがその負担を中国のみで引き受けるとは考え難い。「割安」という意味では既に稼働しており、現在日本が死守しているサハリン1・2を取得することを中国は考えているのではないか。
仏独の原発の稼働率はフランス・ドイツとも低下している。
米国天然ガス価格は上昇。米ガス統計で在庫ヘの注入量が市場予想を下回ったことが材料となった。
JKMは欧州ガス価格の上昇もあって水準を切り上げた。期間構造はほぼパラレルに上昇しているが、2023年以降が下落している。
価格上昇に伴う景気減速が意識されたというのが一般的な解釈だが、期先の売買は予め計画的に調達される実需のヘッジと考えられるため、何らかの理由でJKMの買い手が売りに回ったと見るのが妥当だろう。
3月6日時点の発電用LNG在庫は147万トン(前年同月末241万トン、過去4年平均219万トン)と水準は低く、今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の供給不足のリスクは小さくない。
3月7日~13日のLNGトレードだが、取引量は+11%の810万トンとなった。スポット取引のシェアは23%と先週の29%から低下。韓国のスポット調達が増加したが西欧向けは減少した。長期契約分の増加は、日本、韓国、中国、台湾が増加。
なお、欧州は米国からのLNG調達が前月比▲14%減少したが、その代わり、ロシアのYamal LNGの輸入が増加したことでロシア産が+27%と増加している。やはり両地域はまだエネルギー供給面で切り離せるような状況にないことを示唆している。
本日の石炭価格はロシア・ウクライナの情勢不安が再び高まっているものの、ガス価格との乖離もあって徐々に水準を切下げる展開。
天然ガス価格はロシア・ウクライナの停戦合意期待の後退で高値維持。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。
◆非鉄金属
LME非鉄金属価格はまちまち。中国劉鶴副首相の経済対策発言を受けて株価が戻る中、ロシアのデフォルト懸念がやや後退したことを材料に上昇した株価の影響が大きい銅やアルミは上昇したが、その他は概ね下落している。
ロシア・ウクライナの停戦期待がやや後退したことで再び供給面から買い戻しが入ってもおかしくない地合だが、中国の景気への懸念は根強く劉鶴副首相のリップサービスも、市場参加者のマインドが影響しやすい銅やアルミ以外は、昨日、それほど材料にはならなかったようだ。
ニッケルは値幅制限一杯の▲8%安まで低下したため再びLME±12%に値幅制限を拡大するとした。ニッケル市場が落着く前にはまだ時間が掛りそうだ(当局の異例な介入の歴史については2022年3月17日の非鉄金属コラムをご参照ください)。
ニッケル在庫との関係から単純に算出されるニッケル価格の推計値は23,683ドル程度に低下しているが、供給不安を材料に統計的には上ブレしており、2標準偏差の誤差を考慮すると28,800ドル程度が在庫で説明可能な上限となる。
同様に、ロシアからの供給不安後退を材料にアルミも下落するとすれば、単純な回帰分析による推計値は3,002ドル(2標準偏差を統計で説明可能なギリギリの水準とすれば3,421ドル)
ただ、NEWCを基準に石炭価格との比較をすれば3,500ドルと、コスト面が意識された場合の水準はまだ高く結局高値を維持しよう。
本日は中国の経済対策期待と同時に、ロシア・ウクライナ情勢の不安定化から再び供給懸念が材料とされやすく上昇余地を探る展開を予想。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは小幅に下落、豪州原料炭スワップ先物は小幅に下落、大連原料炭価格は上昇、上海鉄鋼製品先物は上昇した。
鉄鋼製品価格はコロナの影響による工業活動の減速が価格を下押ししていたが、劉鶴副首相の経済対策関連発言を受けて先物価格は上昇した。鉄鉱石価格は小動きだが高値を維持、原料炭価格も鉄鋼製品価格上昇で同様に高値を維持した。
鉄鋼製品価格を元にした回帰分析の結果、鉄鉱石価格は151ドル、原料炭価格は228.6ドル程度が推測値。鉄鉱石は上昇余地が拡大している。
原料炭は供給リスクが顕在化しているため、この水準を400ドル程度高い水準で推移する状態は続くことになろう。
本日は中国の経済対策期待を受けた鉄鋼製品先物価格の上昇が全体を押し上げるため、鉄鉱石・原料炭とも高値維持を予想。
◆貴金属
昨日の貴金属価格は上昇した。ロシア側がウクライナと停戦協議で進捗はしていない、誤りだという発言が有る中で「停戦期待」相場が逆転し、貴金属には買いが入った。
長期金利は小幅低下、期待インフレ率は原油価格上昇で上昇、実質金利が低下したために金の基準価格が1,581ドル(前日比+49ドル)と上昇。
リスク・プレミアムは359ドル(▲33ドル)と低下した。ロシアドル建て債の利払いがドルで行われたことが、やや安心感を広げたようだが、それでもまだ水準は高い。
金銀レシオは低下して76.6倍となり、銀価格は金以上の上昇率となった。プラチナは景気への懸念からかやや上げ幅は抑制された。
「ロシア侵攻の市場判断の目安」であるパラジウムは大幅に上昇している。停戦がなく、進軍が続くと市場は判断しているようだ。昨日もETFの解約はあったがそれでも上昇しているため、先物主導の上昇だったと考えられる。
本日はロシア・ウクライナの停戦合意への期待がやや後退したことによる「さらなる巻き戻し」で貴金属セクターは上昇を予想。
◆穀物
シカゴ穀物市場は大幅に上昇した。ロシア側がウクライナ・ロシアの停戦合意進捗を否定、誤りであると発言したことで供給不安が再び高まったことが背景。
ウクライナ側がロシアの兵糧が尽きるのは5月頃、と指摘していることからも分かるようにこのままだとウクライナからの小麦やその他の食品生産は回復しない可能性が高い。
穀物セクターは、これまでも調整したといってもその他の商品ほど大きく調整はしていない。
本日もロシア・ウクライナ情勢次第の状況が続くが、停戦合意期待が後退したことで本日は上昇余地を探る展開か。
※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・ロシア・ウクライナの衝突の影響が長期化し、欧州を中心に景気が減速する場合。
また、ロシアに対する制裁がロシアが主要生産地である商品の供給を制限し、価格を押し上げ、景気を悪化させるリスク(価格下落要因)。
なお、今回の戦争の後、ロシアがソ連復活を目指してジョージアやモルドバに侵攻するリスクや、今回の対応如何では中国が台湾を武力で早期に併合する可能性を高めることになる。
・ロシア国債のデフォルトや、ロシアからのビジネス撤退が企業や信用市場に大きな影響を与え、クレジットクランチ(信用収縮)が発生する場合。
・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。
・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。
・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。
むしろこの可能性は高待っており、リスクシナリオではなくなりつつある。
・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。
・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。
・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。
・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。
・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。
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