主要市場休場
- MRA商品市場レポート
2022年4月18日 第2175号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「主要市場休場」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品市場は、グッドフライデーでほとんどの主要市場が休場だったため、動意薄く、オープンしている市場では上海で金属セクターの一角が上昇したが、同時に売られる金属もあり、ポジション調整的な取引が主体だったと考えられる。
昨日に関してはロシア・ウクライナ関連の目立った材料がなかったが、中国人民銀行が景気刺激のために預金準備率を引き下げたことが比較的影響がある大きな材料だったといえるだろうか。
ただ、上海に代表されるゼロコロナを目指したロックダウンの動きが明らかに中国の景気にマイナスに作用しており、輸入物価、企業物価の上昇はあるものの金融緩和で中小企業の資金繰りを支援しなければならない状態に中国は陥っていることを示唆している。非常に難しい政策運営を要求されている。
この状況においてロシアから支援要請があったとしても、仮にロシアが当初想定していたように数日で終戦していれば支援をしたかもしれないが、現状は「出来れば積極的に関わりたくない」というのが本音ではないだろうか。
【本日の見通し】
週明け月曜にはイースターで欧州・香港などが休場であるため、まだ動意が薄く方向感が出難い展開は継続すると予想される。
予定されている重要イベントは、IMF経済見通しと中国のGDPをはじめとする重要統計。
IMF見通しは景気見通しが引き下げられる見通しであり、景気循環系商品価格の下押し要因となる。
中国の重要統計は、先週、中国人民銀行が金融緩和に舵を切っていることから、悪い統計だったとしても「追加対策期待」が高まるため、特に鉱物資源価格の上昇要因になると考えられる。市場予想は以下の通り。
Q122中国GDP 前年比+4.2%(前期+4.0%)
3月中国工業生産 前年比+4.0%(前月+4.3%)
小売売上高 前年比▲3.0%(前月+1.7%)
固定資産投資 年初来前年比+8.4%(1-2月+12.2%)
不動産投資 年初来前年比+1.2%(1-2月+3.7%)
【昨日のトピックス】
総務省は15日、2021年10月1日時点の人口推計を発表した。15-64歳の生産年齢人口は総人口の59.4%となった。
日経新聞の分析では生産年齢人口の減少はコロナ鎖国による労働者の流入減少が影響したとしているが、それ以前に団塊ジュニア世代(1971年~1974年)が、昨年、節目となる50歳となり出産適齢期が終了、人口増加のめどが立たないままこの世代が大量に退職する2045年を迎えることがほぼ確実となった。
少子化の理由は色々挙げられるが、バブル崩壊後の不況で「結婚どころではない」となったり、ライフスタイルの変化で初婚年齢や第一子出産年齢が上昇したことが影響したとみられる。
人口の減少は恐らく現在懸念されている二酸化炭素の排出削減につながるだろう。実質二酸化炭素排出ゼロを目指す2050年には、国連の推計(上記の日本総務省の推計とは異なる)では、日本の国民は1億580万人と、2022年の1億2,559万人から▲15.8%も減少する見通しだ。
恐らく、二酸化炭素の排出量もこれだけで2割程度減少すると予想される。しかし、このときの労働人口は非労働人口とほぼ1:1であり、非常に深刻な労働力不足に陥ることが予想される。恐らく賃金はかなり高くなるだろう。
その状況で今の生活水準を維持しようとした場合、1.労働力を海外から確保して生産年齢人口を増やす(しかし移民を受け入れると継続的に受け入れない限り、先々高齢化時の負担が重くなる)、2.ロボットを使う、3.より高付加価値のビジネスに強烈にシフトする、といったことを真剣に考える必要がでてくる。
その上で、脱ロシアや、サプライチェーンの見直しを考える必要がある。特にロボットを用いる場合、継続してエネルギーが必要になってくる。稼ぐ力が低下する中で海外と購買競争で勝つことが出来るのか、といった問題も出てくるだろう。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は欧米市場が休場のため、オープンしていたTOCOMなどの原油価格は小動きで、若干前日比マイナスで引けた。
目先、需給が直ちに緩和する材料は以下の通りだが、一長一短である。
1.戦略備蓄放出の大盤振る舞い
2.西側諸国(除く日本)の急速な金融引き締めによる景気減速観測
3.中国のオミクロン株感染拡大によるロックダウン・需要減少
4.停戦
1.は恐らく年後半には「再び在庫を積む動き」で逆に価格上昇要因となり2.は年後半には価格下落要因に3.はこの20年の経験則上、中国の影響はファンダメンタルズ的に大きいはずなのに、なぜかさほど価格に影響を与えず4.は早期の停戦が否定された。また停戦になっても脱ロシアは継続するため影響は限定される。
ロシア以外の供給先としては、米シェールオイル企業の増産(これは米政府も要請済み)、イラン・ベネズエラの供給再開だが、後者はOPEC諸国の反米機運の高まりから容易ではない。
現在のロシア・ウクライナ情勢シナリオ別原油価格見通しでは、脱ロシアに欧州が舵を切る可能性が高まったため、2.のシナリオに近づいたといえる。
下記シナリオは数ヵ月の短期的なものであるが、長期的にはレーショニング・金融引き締めの影響・景気循環による需要減少による「基準価格(供給懸念が後退したときの着地点となる価格)は徐々に切り下がっていると考えている。
なお、年後半に掛けて米金融引き締めが進むことによる景気過熱感の沈静化で、年後半にかけての価格見通しは下向きである。
<シナリオ別原油価格見通し>
1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない(ないしはその可能性が強く意識される) Brent 125-140ドル
2.1.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 110-130ドル
3.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 100-125ドル
4.3.の状態で産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 80-115ドル
↑ 上記は停戦が行われない場合のシナリオ
↓ 下記は停戦が行われた場合のシナリオ(現在は徐々にこちらに移りつつある)
5.ロシアがウクライナから撤退するが原油の脱ロシアが進むBrent 100-120ドル
6.5.に加えて産油国のいずれかが増産する(規模による)Brent 80-100ドル
7. 脱ロシア完了Brent 50-80ドル
※産油国の増産は、鍵となるイランで130万バレル、ベネズエラで50万バレル程度を想定している。米国の戦略備蓄100万バレル放出は半年の次元付。
週明け月曜日はイースターで欧州・香港などが休場であり、まだ動意は薄いと考えられる。
引き続き、ロシアに対する制裁動向が価格を左右するが、恐らく下方修正が見込まれるIMF世界経済見通しや、中国のQ122GDP、その他の中国の主要統計を受けてやや下値余地を探る動きになるのではないか。
◆石炭
豪州石炭スワップ先物価格は休場だった。
豪州、南アフリカ、インドネシアなどの主要石炭輸出国5ヵ国の週間石炭輸出は、今年に入ってから安定的に過去5年平均の水準を回復するに至っていない。異常気象に伴う港湾の稼働率低下が影響しているとみられる。
この中で欧州は脱ロシアのために石炭消費を一時的に増やす見通しだが、一時的で有るが故にドイツなどが自国生産を増やす可能性は低く、海上輸送炭市場需給は当面タイト化することになろう。
中国政府は2022年の石炭生産目標は昨年12月の過去最高水準を上回る1,260万トン/日(3億9,060万トン/月)に設定してるとされ、これが達成されるとほぼ輸入が不要となる。逆に言えば中国は脱炭素を実施するつもりはない、といえる。
しかし、1-2月の石炭生産は前年比+11%の1,160万トン/日(2ヵ月合計で6億8,700万トン、3億4,350万トン/月)と、増加しているものの目標は下回っている。
中国は、1.ロックダウンの影響、2,コロナの影響による燃料輸送の障害、3.異常気象による水力発電の不足、4.電力価格に制限が設けられていることによる石炭生産の阻害、などから今年の夏、石炭不足・電力不足が発生する可能性を懸念している。
週明け月曜日はイースターで欧州・香港などが休場で、動意薄いと考えられる。
引き続きロシアの制裁動向に左右されるが、用途は異なるがロシアが原料炭の禁輸に踏み切る可能性が示唆されており、燃料炭にも影響が及ぶことが懸念され、やはり高値を維持することになろう。
◆天然ガス・LNG
欧州天然ガス先物市場は休場。
欧州は脱ロシアに進む見通しであり、引き続きLNGを積極的に輸入すると予想される。しかし、LNGのターミナルを有しない域内最大のエネルギー消費国であるドイツは、1.域内供給の増加、2.その他の熱源の利用(風力、太陽光含む)、3.需要の削減、によってガス在庫を積み上げるしかないが、結局その大半はロシアからの輸入に頼らざるを得ない。
現在、ロシア→ドイツ向けのノルドストリームは過去5年平均を上回る稼働となっているが、昨年の水準は遙かに下回っている。
ドイツの風力発電は急速に回復していたが低迷しており、全体の発電量も低下している。
米国天然ガス先物市場は休場。
JKMは休場。
JKMは、1.欧州の脱ロシアの動き、2.猛暑が予想される夏場に向けた在庫の積増し(今のところ日本の発電業者のLNG在庫の水準は高くない)、を背景に高値での推移が続いている。
岸田政権は原発稼働も視野に入れているが、国内の反対も多く、かつ、稼働に向けたスケジュールを変更しなければ2023年まで再稼働は難しいとの指摘もあり、実質的に直ちに稼働出来る発電設備にはカウント出来ない。
結果、石炭やLNGによる発電に頼らなければならない状態は続くと予想される。ただ火力発電は老朽設備も多く、安定稼働への懸念も払拭仕切れない。
4月10日時点の日本の発電用LNG在庫は166万トン(前年同月末201万トン、過去4年平均190万トン)と先週から小幅に増加した。今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の供給不足のリスクは小さくない。
4月4日~10日のLNGトレードだが、取引量は前週比▲5%の760万トンとなった。スポット取引のシェアは23%と前週の25%から低下。
スポット契約はインドとバングラディシュ向けが33万トン増加、長期契約は韓国や東南アジア向けが減少したが、欧州向けが増加した。
全体で日本中国韓国台湾の輸入は▲44万トン(韓国▲58万トン、中国▲35万トン、台湾+10万トン、日本+39万トン)となった。
週明け月曜日もイースターで欧州・香港などが休場であり、動意薄いと考える。
しかし、LNG在庫の積増しが北半球では旺盛とみられることから、高値圏を維持の公算。
※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。
◆非鉄金属
LME非鉄金属価格は休場だった。オープンしていた中国市場は、中国人民銀行の預金準備率引き下げ報道を受けて水準を切り上げた。
週次の上海在庫は銅とニッケルの在庫が減少したがその他は増加している。上海在庫の水準を個別に見ると、亜鉛・鉛の在庫水準が過去5年レンジを上抜けして多いが、銅、アルミ、ニッケル、スズなどの在庫水準は依然として低く、国内の供給は決して十分とはいえない。
先日も記載したが、一方でLME指定倉庫在庫の減少は続いており、単純なLME指定倉庫在庫の合計水準は2000年以降で最低となっている(ただしアルミの影響が大きい)。
しかし、その他の金属も在庫水準は歴史的に見て低い。2000年以降の最低、平均と比較すると在庫の水準は以下の通り。
銅 11万700トン(最低 2万5,500トン、平均 31万8,000トン)亜鉛 11万5,600トン(4万9,600トン、45万4,000トン)鉛 3万9,800トン(2万900トン、14万3,000トン)アルミ 60万8,000トン(29万8,900トン、222万1,000トン)ニッケル 7万2,600トン(3,000トン、14万9,000トン)スズ 2,700トン(600トン、1万1,000トン)
週明け月曜日はイースターで欧州・香港などが休場であり、動意薄い状態が続くと予想される。
しかし最大消費国である中国で、人民銀行の預金準備率引き下げが決定されたことからオープンしている市場では、上昇余地を探る動きになると考える。
一方、中国のロックダウンは内陸部にも広がる懸念が強まっており、経済活動の本格回復にはまだ時間が掛ると予想され、上昇余地も限定されると考える。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は休場、大連原料炭価格は上昇、上海鉄鋼製品先物は中心限月が上昇した。
中国政府が景気刺激のために預金準備率を最大で▲50bp引き下げたことで需要が喚起される、との見方が強まったことが背景。
また原料炭に関してはロシアが6倍に上昇している国内炭価格上昇の抑制のため、原料炭を禁輸措置にする見通しとロシアのメディアであるRBCが報じたことなどが材料となった。
しかし、上海のロックダウンに象徴されるように主要都市のロックダウンは続き、さらには内陸部への感染拡大も懸念されている状況で中国の経済活動回復には時間が掛る見通し。
週間の在庫統計では、鉄鉱石在庫が前週比▲200万トンの1億5,290万トン、鉄鋼製品在庫が▲22万6,000トンの1,819万9,000トン、原料炭が+5万トンの169万トンとなった。
週明け月曜日は中国政府の景気刺激や、ロシアからの原料供給減少懸念などを背景に、鉄鋼製品・鉄鋼原料とも上昇余地を探る動きになると予想。
◆貴金属
昨日の貴金属市場は欧米主要市場が休場のため取引は閑散であり、基本的にはポジション調整主体だったと考えられる。
金は小幅高、銀・プラチナは小幅安、パラジウムは小幅高となった。
週明け月曜日はイースターで欧州・香港などが休場であり、動意薄い状態が続くと予想される。
しかし貴金属価格は、ベンチマークである金価格が高値を維持する見通しであり、全体として強地合を継続すると考える。
◆穀物
シカゴ穀物市場は休場だった。
週明け月曜日は需給ファンダメンタルズのタイトさから高値維持の公算。
※穀物セクターのデイリーコメントは4月一杯で終了となります(不定期ですがMRA's Eyeでの農産品セクターの解説は継続の予定です)。
※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・脱炭素・脱ロシア進捗による資源需要の高まりによる価格上昇や、資源の供給不足(枯渇のリスクも)が発生し、経済活動が抑制される場合(価格上昇→景気減速による価格下落リスク)
・米中対立激化にロシア問題も加わり、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。
むしろこの可能性は高待っており、もはやメインシナリオか。
・自由主義国vs専制主義国の対立加速、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・ロシア・ウクライナの衝突の影響が長期化し、欧州を中心に景気が減速する場合。
また、ロシアに対する制裁がロシアが主要生産地である商品の供給を制限し、価格を押し上げ、景気を悪化させるリスク(価格下落要因)。
ウクライナへの侵略戦争は長期化がほぼ確実であり、景気下押し要因となるという展開はメインシナリオとなる可能性。
・ロシア国債のデフォルトや、ロシアからのビジネス撤退が企業や信用市場に大きな影響を与え、クレジットクランチ(信用収縮)が発生する場合。
・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。
・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。
・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。
・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。
◆本日のMRA's Eye
「市場はブロック経済化を織り込まず?」
商品価格の高騰が続いている。価格上昇はそもそもコロナショックの影響で人の移動が制限され航空便が減少、それに伴う航空輸送能力の低下で船便の需給がタイト化、さらに労働力不足で港湾の稼働が低下、輸入品の受け入れ能力が低下したことが影響している。
また、コロナ発生による需要の減少に対応するため、OPECプラス諸国が原油を大幅に減産、その後、十分な増産を行ってこなかったことで価格が急騰し、輸送燃料の価格が上昇して物流コストを押し上げたことも無視できない。
ここまでの問題であればコロナを克服し、人の流れが回復し、労働力の確保が可能になれば供給面の問題が解消するため物価は早晩低下することが予想される。
FRBも同様に判断していたがほとんど物価は低下してきていない。失業率も低下しているがコロナを景気とする働き方や社会構造の変化によって適切な人員を確保出来ていないことが影響しているようだ。結果、積極的に金融引き締めを行わなければならない状況に陥っている。
しかし、さらに状況を難しくしたのが今回のロシアのウクライナへの侵略戦争である。これにより、さらに物流は分断され、場合によっては資源の供給も途絶し、さらには制裁によって自主的にロシアからの調達を制限して非常に高い価格で資材を調達しなければならなくなっている。
これが短期的なものになれば良いのだが、社会は緩やかな「ブロック経済化」に向かうと予想する向きが多い。このとことは世界的に大規模にサプライチェーンの再構築が必要であることを示唆している。
つまり、新しいインフラを整備していくことが必要であり、そのためには低利で潤沢な資金が供給されることが必要になるが、今、上述の通り世界中、インフレを抑制するためにこれとは逆の政策を取らざるを得なくなっている。
この状況に対応するため、特に製造業は非常に難しい舵取りを要求されることになるだろう。
今回の出来事は第一次・第二次オイルショック時に脱中東を進めた時と状況が似ている。かねてから投資ブームが起きている中で発生した原油供給ショックであり、その後、インフレが加速したため世界的に大きな需給ギャップが発生することになった。
さらに1989年にはベルリンの壁が崩壊して安価な東側製品が西側諸国に流入、デフレの一因となった。
では今回はどうかというと上述の通り、恐らく「1989年よりも前の時代」即ち新冷戦の構造に逆戻りするのではないか、と見ている。つまり供給能力の増加や設備の増強がその後の供給過剰に繋がらない可能性があると言うことだ。
この場合、物価上昇率は3~6%に上昇し、中央銀行は伝統的な「インフレファイター」に逆戻りすることが想定される。
オイルショックの頃の期待インフレ率はどうだったのだろうか。
当時はインフレ連動債が存在しなかったので、期待インフレ率は消費者物価指数ベースで推計するしかないが、当時はなんと10%を超える期待インフレ率となっていた。直近の数値は9.03%とこれに迫る勢いである。
しかし、である。市場参加者のインフレのコンセンサスである期待インフレ率はそんな上昇にはなっていない。もし、当時と同じような世界になるのなら、もっと期待インフレ率が上昇していてもおかしくないのだが、まだ2年・10年の期待インフレ率は3%程度であり、ミシガン大学調査の5年-10年期待インフレ率も3%程度である。
市場は、「コロナが落着き、物流が改善し、金融引き締めの効果もあってインフレは抑制される」とみているようだ。別の言葉を使えば、市場は東西社会の分断は発生しないと考えている、ともいえる。
しかし仮にこの数値が上昇を始めた場合、上述のような「分断された社会でコストが上昇して物価が押し上げられる世界」を市場が受け入れたとも考えられるため、今後、この数値は今後を占う上ではより重要性を増すことになるだろう。
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