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あらためて意識される円の弱み
  • MRA外国為替レポート

2022年3月14日号

◆先週の市場総括


先週もウクライナ情勢は不透明な状態が続いた。米国がロシア産原油の禁輸を関係各国と協議する方針を示したことから週初に原油価格が急騰。エネルギー供給懸念やインフレ懸念から株価は急落して始まった。

その後はUAEの増産意向などを受けて原油価格の上昇が一服。株価は下げ止まり。週末にかけては上下動を繰り返した。

注目されたECB理事会・ラガルド総裁会見では、景気見通しが不透明にもかかわらずインフレ懸念を重視してタカ派スタンスが示された。量的緩和縮小を前倒し実施。年内利上げの可能性も否定せず。

米国では消費者物価指数が発表され40年来の高い上昇率に。米長期金利は次週のFOMCを前に上昇した。ユーロは週前半に買い戻されたが、ECBを終えてウクライナ情勢の悪化が続くなか反落。1.08台半ばから1.11に上昇したが反落して週末は1.09近辺。

そうしたなか円安が際立った。

ユーロ円相場は124円台半ばから128円台半ばに上昇して週末にかけては128円を挟んで上下。際立ったのはドル高円安。週初に114円台後半で始まると一貫してじり高。木曜日には116円ちょうどに。

週末はドル高円安が加速して週末は117円30銭で引けた。日本の対外収支が悪化するなか、さらに日銀と米欧の金融政策格差が意識された。

日経平均は25,000円を割り年初来安値を更新した後、週末はかろうじて大台を維持。

月曜日の東京市場では日経平均が急落。6日・日曜日に米ブリンケン国務長官がロシア産原油の禁輸の可能性を同盟国と協議する、と述べたことを受け未明に原油価格が急騰。北海ブレントは140ドル目前へ、WTIは週末の115ドル台から130ドルへ2008年以来14年ぶりの高値。

原油急騰による日本経済の先行き不透明感で日経平均は25,400円近辺の大幅安で寄り付いた後も続落。25,000円ちょうどに迫り、下げ幅は▲900円を超えた。

25,000円近辺では底固く、その後じり高、引けにかけ持ち直して下げ幅を縮め▲764円安の25,221円で引けた。

為替市場では朝方にユーロが急落。ユーロドル相場は1.093から1.082へ、ユーロ円相場は125円50銭~60銭から124円40銭に下落した。その後ユーロは下げ止まりも値動き荒く上下した。夕刻にかけてユーロドル相場は1.088~1.089に反発したが欧州時間には反落して1.081。

ユーロ円相場は125円30銭近辺へ反発した後、124円40銭に急反落した。ドル円相場は114円80銭で始まり90銭近辺でもみ合い。欧州株は大幅下落し、ドイツDAX指数は高値から2割の下落となった。

原油価格は上げ幅を縮めてもみ合い。ドイツはロシア産原油の禁輸に難色を示した。

ユーロは欧州市場から米国市場にかけて持ち直し。ユーロドル相場は1.093、ユーロ円相場は125円90銭近辺へ急反発。ドル円相場は欧州市場から米国市場にかけて115円50銭近くに上昇した。

米国株は大幅安。原油価格急騰でスタグフレーション懸念が重石となった。ウクライナとロシアの3回目協議も合意に至らず。原油価格WTIは119.40ドル。

NYダウは▲797ドル安の32,817ドル、ナスダックは▲482ドル安の12,830ドル。VIX指数は+4.54ポイント上昇して36.55と高水準に。

一方、米長期金利は小幅上昇。10年債利回りは1.78%。2年債利回りは1.545%。ユーロは反落。ユーロドル相場は1.085~1.086。ユーロ円相場は上下しながら125円10銭~20銭。ドル円相場はやや下落して115円30銭近辺で引けた。ドルインデックスは99に上昇した。

火曜日の東京市場では日経平均は大幅続落。前日の米国株が大幅安。3回目協議も進展なく、24,800円台で安寄り。その後はNY市場で原油高が一服したことを手掛かりに、25,000円の大台割れで長期投資家の打診買い・押し目買い、短期筋の買い戻しが入って25,300円近辺に反発した。

しかし昼前から原油価格が上昇を始めWTIが120ドル台に乗せたことを嫌気して反転下落。後場はじり安となり、▲430円安の24,790円で安値引け。

ドル円相場は115円30銭で始まり50銭に上昇。夕刻にかけては40銭~50銭で上下した。ユーロは方向感なく上下。ユーロドル相場は1.086から1.088台へ上昇した後夕刻には1.085に反落。

ユーロ円相場は日経平均株価動向につれた動き。125円20銭で始まり60銭に上昇したが午後は軟調。20銭近辺に押し戻された。

発表された日本の1月の国際収支は、経常収支が1兆1,900億円の赤字となった。赤字額は2014年1月に次ぐ過去2番目の大きさ。

欧州時間に入るとユーロが反発。EUが共同で大規模な債券発行を計画、防衛費やエネルギー高への対処に充てる、と報じられた。

これを受けてユーロが上昇した。ユーロドル相場は1.092へ、ユーロ円相場は126円10銭へ。その後反落したが米国市場にかけて底固く推移した。

米国株は軟調に始まった。米国政府はロシア産原油の禁輸を決定。ドイツが難色を示していることもあり欧州等同盟各国には判断を委ねた。代替策としてベネズエラからの輸入などで対応を検討へ。

米国株は悪材料出尽くしとの見方から押し目買い、売り方の買い戻しで上昇。さらにウクライナのゼレンスキー大統領がNATO加盟撤廃など譲歩を示したことで停戦期待が高まり、ロシア産原油禁輸決定で129ドル台に上昇していた原油価格WTIが120ドル割れに反落。株価を押し上げた。

NYダウは一時前日比+600ドルほど上昇して33,400ドルに。ただ買い一巡後は売り優勢となりマイナス圏へ反落。引けは▲184ドル安の32,632ドル。ナスダックは▲35ドル安の12,795ドル。VIX指数は▲1.32ポイントやや低下したが依然35.13と高止まり。

原油価格WTI先物は結局123.70ドルと120ドル台のまま引け。金相場は2,043.3ドルに上昇した。

米長期金利はインフレ懸念、3年債入札がやや不調だったことで上昇。2年債は1.60%、10年債は1.84%。

ユーロドル相場は1.09ちょうどを挟んで上下に振れたがゼレンスキー発言で1.096に上昇。ただ引けは反落して1.090近辺。ユーロ円相場は126円30銭から125円60銭に下落していたが、同発言で126円70銭に急反発。その後じり安となり126円10銭で引け。

ドル円相場は115円40銭台に反落ののち、米長期金利上昇に支えられ反発して115円60銭~70銭近辺。

水曜日の東京市場では日経平均が4営業日続落。寄付きから自律反発狙いの買い優勢でプラス圏で推移。一時25,000円を回復した。ただウクライナ情勢の不透明感は重石。海外投資家の消極姿勢続き引けにかけて下落。マイナスに転じた。引けは▲73円安の24,717円。

ドル円相場は115円70銭近辺で始まり底固く、欧州市場にかけて70銭~90銭で緩やかに上下し欧州時間昼頃には115円90銭。

ユーロは底固く推移した。ユーロドル相場はアジア時間に1.09ちょうど近辺でもみ合い、夕刻にかけてはやや強含み1.092近辺で上下した。ユーロ円相場は126円ちょうど~10銭でのもみ合いから上昇して126円40銭~50銭を中心にもみ合い。

欧州市場では欧州株が大幅反発。ウクライナが譲歩を示し、人道回廊が機能するなど一定の前進がみられたことを好感。欧州通貨は米国市場にかけて大きく反発した。ユーロドル相場は1.092近辺から1.098へ、さらに1.109へ急騰。

ユーロ円相場も126円50銭近辺から127円40銭に上昇し、その後チェルノブイリ原発が停電と伝えられ警戒感で一時126円80銭に押したが、廃棄物冷却水は十分との報にさらに128円40銭に急騰した。

ドル円相場も一時115円60銭に下落したが反発。115円90銭をつけた。リスク選好が回復し米国株が大きく上昇。米長期金利が上昇してドル円相場を支えた。

停戦協議進展への期待に加え、原油価格が大幅反落して過度なインフレ懸念が後退したことが支え。

UAEが増産方針を示したことでWTIが108.7ドルに大幅反落。NYダウは+653ドル高の33,286ドル。ナスダックは+459ドル高の13,255ドル。VIX指数は▲2.78ポイント低下したがなお水準高く32.35。

米10年債利回りは1.94%台に大きく上昇。2年債利回りは1.67%台。10年債入札が不調に終わったことが金利を押し上げた。為替市場は引けにかけ落ち着き、ドル円相場は115円80銭近辺、ユーロドル相場は1.107、ユーロ円相場は128円20銭。

木曜日の東京市場では日経平均が急反発。原油高が一服したことでインフレ急進による景気悪化懸念が緩和。前日に米国株が大きく反発。押し目買いや自律反発狙いの買いが強まった。

25,400円近辺で大幅高寄りし続伸。25,600円~700円でもみ合いじり高。上げ幅は一時+1,000円を超えた。引けは+972円高の25,690円。

ドル円相場は堅調。115円80銭で始まった後、昼過ぎには116円20銭に上昇した。ウクライナとロシアの外相会談を前にユーロ安も一服。ユーロドル相場は1.1070近辺で始まり朝方1.1040に下落したが持ち直し夕刻は1.1070近辺。

ユーロ円相場も同様に128円20銭で始まり上下したが夕刻は128円50銭近辺。ただ外相会談が物別れに終わると再びリスク回避が強まるとともにユーロは下落。

ユーロドル相場は1.1030近辺、ユーロ円相場は127円80銭近辺へ。ドル円相場は115円80銭に下落。

この日はECB理事会が開催された。ウクライナ情勢が悪化して欧州経済への悪影響が懸念されるなか今回は現状維持との見方が大勢だった。

しかし、結果は予想外にタカ派に傾斜。景気見通しは強気でインフレ警戒が前面に。量的緩和縮小を加速して、毎月200億ユーロに縮小するタイミングを従来の10月までから6月までに前倒し。終了時期を早ければ7月~9月とした。

利上げは量的緩和終了後しばらくしてから実施とされたが年内利上げの可能性は残った。ラガルド総裁は、経済の先行きリスクが高まっているが、予期せぬエネルギーコスト上昇によるインフレ上振れサプライズが続くと述べた。

発表された見通しによれば、今年の成長率は3.7%と12月の4.2%から下方修正されたが相応に高く、インフレ見通しは3.2%から5.1%に大幅に上方修正された。

その後は23年が2.1%、24年は1.9%に鎮静化するとの見通し。ユーロは一時急騰しユーロドル相場は1.1120へ、ユーロ円相場は128円90銭へ。

ただスタグフレーション懸念が台頭し急反落。ユーロドル相場は1.098~1.099、ユーロ円相場は127円50銭~60銭。

米国株は下落。外相会談の物別れで投資家心理が冷やされた。米国のCPI(2月)は前年同月比+7.9%と予想通りながら前月+7.5%から加速。コア指数も同+6.0%から+6.4%に加速した。

長期金利は上昇。2年債利回りは1.7%に乗せ、10年債利回りは一時2.0%台に乗せて引けは1.992%。ハイテク株は軟調。ナスダックは▲125ドル安の13,129ドル。NYダウは▲112ドル安の33,174ドル。VIX指数は▲2.22ポイント低下したが依然として30.23と高水準。

原油価格WTIは▲2.7ドル下落して106ドル近辺。ドル円相場は底固く116円近辺の狭いレンジで推移。116円10銭近辺で上下して引けた。

金曜日の東京市場では日経平均が大幅反落。前日の急騰の反動、ウクライナとロシアの外相協議物別れ、米国のインフレ率(CPI)が40年ぶりの高水準、長期金利上昇、などが重石。25,400円近辺で安寄りすると続落して25,000円ちょうどを試す値動き。

大台では底固く引けにかけてはやや持ち直した。引けは前日比▲527円安の25,162円。

ドル円相場は堅調。116円10銭で始まり昼前には30銭に上昇してもみ合い。午後から夕刻にかけて117円ちょうど近辺に上昇した。円は対ユーロでも下落。ユーロ円相場は127円50銭近辺で始まり昼前に128円に上昇。一旦押したが夕刻には128円20銭~40銭で上下した。

ユーロドル相場は1.099で始まり1.100を挟んで上下。欧州市場で1.097に下落した。

その後、プーチン大統領がベラルーシの大統領にウクライナとの協議に一定の進展があったと述べたことでユーロは反発。ユーロドル相場は1.104へ、ユーロ円相場は129円ちょうどに上昇した。

ただその後米国市場では大きくユーロ安・ドル高が進んだ。インフレ高進によりFOMCでタカ派スタンスが示されるとの見方が強まった。ドルは独歩高。ユーロドル相場は1.091へ、ユーロ円相場は127円90銭~128円ちょうどへ下落。

ドル円相場は116円90銭近辺でもみ合いの後、米国市場午後に一段高。117円30銭近辺でもみ合い引け。日米金融政策格差を意識したドル買い・円売りが支え。

ドルは独歩高となり、ドルインデックスは99台に乗せた。

米国株は下落。底固く始まったが、買いは続かず午後には下げに転じた。ロシア軍の攻撃は続き、米国はロシアをWTO規定による最恵国待遇から除外。インフレリスクも意識され市場心理が悪化した。

NYダウは▲229ドル安の32,944ドル、ナスダックは▲286ドル安の12,843ドル。VIX指数は+0.52ポイント上昇して30.75と高水準。

原油価格WTI先物は+3.18ドル上昇して109.20。米10年債利回りは1.997%と前日に続き2%近辺で推移。2年債は上昇して年初来最も高い1.746%。

発表されたミシガン大学消費者信頼感指数(3月)は前月62.8から59.7に低下。短期インフレ期待が前月の4.9%から5.4%に大きく上昇しており、消費者のインフレ懸念が高まりマインドを悪化させていることを示した。

◆今週の3つの注目ポイント


1.FOMC(連邦公開市場委員会)

火曜日・水曜日の2日間、FOMCが開催され、終了後にパウエル議長が会見を行う。すでにパウエル議長は議会証言で今会合において0.25%の利上げ実施が適切との明確な利上げ方針を示した。

先週、ECBは、欧州景気の先行き不透明感が漂うなかでも、インフレ警戒から一段とタカ派姿勢へ傾斜し、量的緩和終了を前倒しすることを決めた。

米国経済はなお雇用堅調でウクライナ問題の直接的な影響は欧州より少ないとみられ、金融正常化を躊躇する可能性は低い。どれほどのタカ派スタンスが維持されているのか、今後の利上げペースやバランスシート縮小もペースに何等かのヒントがあるか。

2.米国の経済指標

米国経済の堅調さが再確認できるか。

火曜日 NY連銀製造業景気指数(2月、予想7.8、前月3.1) 生産者物価指数(2月、前年同月比、予想+10.0%、前月+9.7%)

水曜日 小売売上高(2月、前月比、予想+0.4%、前月+3.8%) 輸入物価指数(2月、前月比、予想+1.5%、前月+2.0%)

木曜日 住宅着工(2月、季節調整済み年率換算、予想1,700千戸、前月1,638千戸) 米週間新規失業保険申請件数 フィラデルフィア連銀製造業景気指数(3月、予想15.5、前月16.0) 鉱工業生産(2月、前月比、予想+0.5%、前月+1.4%) 中古住宅販売(2月、季節調整済み年率換算、予想615万戸、前月650万戸)、

3.日銀金融政策決定会合、貿易収支、消費者物価指数

木曜日・金曜日の2日間にわたり、日銀金融政策決定会合が開催され、終了後に黒田総裁が会見を行う。資源価格の高騰などを背景に価格引き上げの動きが相次ぐが、景気にはむしろ不透明感が増しており、現状の超金融緩和策は継続とみられる。

欧米との金融政策スタンスの違いがなお鮮明となるか。金曜日には消費者物価指数(2月、前年同月比、予想+1.0%、前月+0.5%)が発表される。

また水曜日には通関ベースの貿易統計(2月)が発表される。収支は前月の2兆円を超える赤字から、ほぼ収支トントンが予想されているが、予想以上に赤字幅が拡大していないか。

このほか、木曜日にはイギリス中銀金融政策決定会合が開催され政策金利は0.75%から1.00%へ利上げ予想。火曜日にドイツZEW景況感指数(3月)が発表されるが、ウクライナ情勢悪化の」影響でどれほど悪化しているか。

◆今週のMRA's Eye


あらためて意識される円の弱み

ウクライナ情勢の不透明感が市場心理を悪化させた状況が続くなかでも「リスク回避の円高」の動きは弱い。欧州通貨安は紛争地域に隣接することから当然だとして、それを加味してもむしろ円安に振れている。先週は2つの材料が円の弱さを意識させた。

ひとつは日本の経常収支。火曜日に発表された日本の国際収支(1月)で、経常収支が1兆2千億円弱となった。すでに発表されていた1月の通関統計で貿易赤字が2兆円を超えていたことから驚きではないが、投資収益収支も合算した経常収支が大幅な赤字になったことはあらためて実需による為替需給が円安に傾いていることが確認された。

リスク回避の円高には3つの局面がある。

最初の局面は投機筋の手仕舞い、円買い戻しによる円高。これはリスクイベントが発生すると直ちに生じ、持続期間は短い。

足の速い投機筋が主体となるためだ。手仕舞いに時間をかけず、逃げ足が速い。円高の度合いは、直前の円売りの積み上がり次第。

今回は先進国いずれも超低金利で金利差がなく、円売り他通貨買いはさほど積み上がっていなかった。とくに円売りの相手は金利先高感が強まっていたドルが大半だったとみられる。

またシカゴの通貨先物のポジションをみても円売りはピークの半分ほど。ウクライナ情勢、欧州懸念の局面ではドルも買われるため、ドル売り円買いが生じても、ドル買いの動きに紛れ、またそもそも円売りが溜まっていなかったことから、この最初のフェーズの円高は強くなかった。

そして次のフェーズが投資家のリスク回避、国際間の投資資金移動の停滞により、貿易収支・経常収支主導の為替変動。これは相応の期間継続する。

リスクイベントが終了するまでは積極的な投資資金の移動が生じず、一方で経済は動いていることから貿易による国際間資金決済が残るためだ。

この点、かつて日本は1兆円を超える大幅な貿易黒字を持続し、経常黒字は2兆円にも達していた。そのため、こうしたリスクイベントでは貿易黒字による円高圧力が顕在化した。

しかし今回は様相が異なる。

すでにウクライナ情勢悪化以前に、原油その他の資源価格上昇で日本の輸入金額は急増。貿易黒字は大きく減少。そして1月には2兆円の赤字になっていた。そこにウクライナ紛争による原油価格やその他資源、農産品価格の急騰がさらに日本の対外収支を悪化させると予想される。

それをあらためて意識させたのが先週の経常収支だ。このフェーズではかつては円高が生じたが、現状では円安が生じることになる。

第3のフェーズが国際金融市場・金融システムの混乱、欧米の景気後退、グローバルリセションによる投資資金の自国回帰、リパトリエーションによる円高。

この場合、対外債権国は海外に資産を保有していることから、自国回帰による通貨高が生じる。

典型的なのがリーマンショックだ。日本の投資家は実際に欧米、とくに欧州から資金を引き揚げ、大幅な円高が生じた。

なお対外債務国通貨は、海外からのファイナンスに頼っていることから常に脆弱だ。

短期債務があればファイナンスの危機に陥る。この点が、円の弱さを意識させた先週の2つ目の要因とも関係する。

先週のECB理事会は想定外な内容だった。

ウクライナ情勢による欧州経済への悪影響が懸念されるなか、今回は様子見、政策変更はなしと予想された。しかし結果は想定外にタカ派。公表された景気見通しでは、今年の成長率は12月時点の4.2%から下方修正されたものの3.7%となお高い水準を見込んだ。来年も2.8%との見通し。

インフレ率が上方修正されたのは当然で、今年は3.2%から5.1%に引き上げた。来年以降は2%近辺に低下を見込んでいる。

ECBは景気よりもインフレを重視して量的緩和の縮小を加速する決定を行った。7月~9月には量的緩和を終了する見込みだ。

その後の利上げはしばらく時間を経て、とするものの年内利上げは否定されなかった。また、ロシア向け不良債権による欧州金融機関や金融システムへの悪影響は軽微との判断も示された。

最も懸念される欧州の景気や金融システムが問題ないとすれば、先に示したリスク回避の円高の第3のフェーズは発生しない。

残ったのは、第2フェーズ、投資停滞、貿易収支による為替への影響の増加だ。これが円安に働くことから、円高の余地は小さく、むしろ円安傾向が続くとの結論となる。

さらにドル高円安を促す材料は今週のFOMCと日銀金融政策決定会合のコントラストだ。

ECBでさえむしろタカ派に傾くなか、FRBが金融正常化を緩めるとは思えない。米国経済は良好な雇用情勢を背景に堅調に推移しており、資源国である米国は価格上昇の悪影響が相対的に少ないことは欧州より大きく優位にある。

バイデン政権は依然としてインフレ対策が大きな課題であり、FRBはECBよりタカ派に傾きやすい。

先週発表されたCPI消費者物価指数はさらに上昇が加速。総合指数は前年同月比7.9%に。ミシガン大学消費者信頼感の調査による期待インフレ率(短期)は前月の4.9%から5.4%に上昇した。

来週のFOMCでは0.25%の利上げがほぼ確実だが、景気堅調のもとインフレ加速で、年内の利上げが現状想定されている4回ないし5回より減少することは考えにくい。バランスシートの縮小も、当初予定通り年央から開始するスタンスに変化はなさそうだ。

これに対して日銀は国内経済への悪影響が懸念されるなか、従来の超金融緩和政策を当面維持することとなりそうだ。足元では様々な価格上昇の動きがみられるが、来週発表予定のCPI(2月)では前年同月比は前月の+0.5%から上昇が加速するものの+1.0%に留まるとみられている。

欧米とのインフレ圧力には大きな違いがあり、日銀に金融正常化を急がせる状況ではない。

すでに市場ではこうしたことが意識され、とくに対ドルでの円安が加速している。当面はドル高円安傾向が続きそうだ。

緩やかなドル高円安を見込んでいたが、リスクはむしろドル高円安が想定よりも加速するサイド。なお欧州経済の悪化、金融市場の混乱、クレジットスプレッドの拡大、信用市場の混乱、などには留意が必要だが、これがリスクイベントとして円全面高として働く局面は、なお発生確度の低いリスクシナリオとみられる。


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