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ロシア関連銘柄の暴騰続く
  • MRA商品市場レポート

2022年3月4日 第2147号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「ロシア関連銘柄の暴騰続く」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格はロシア関連銘柄と発電燃料関連価格、穀物価格が大幅な上昇となった。ロシアに対する制裁が強化されこそすれ、緩和されることがないとの見方が強まっていることが供給懸念を強めた形。

また、先ほどのニュースだが、欧州最大のザポリージャ原子力発電所にロシア軍が砲撃を開始したとロイターが報じた。

今のところ火事で止まっているようだが、仮に爆発など起きようものならウクライナが立ち直ることは相当難しくなるだろう。
https://jp.reuters.com/article/idJPL3N2V700J

もし放射性物質が欧州に拡散した場合、小麦などの食品生産も影響を免れない。報道は誤りであって欲しいところだが、もし事実だとすればロシア、ロシア軍はもうおかしくなっているとしかいいようがない。

今後は恐らく、ウクライナが降伏し、ゼレンスキー政権幹部が捕まるまで戦闘は続くと予想される。しかしそれで全て終了でロシアとのビジネス再開、ということにはならないだろう。

今回の戦争を後悔させる、あるいはプーチン政権が倒れるまでこの戦いは続くと考えられる。この場合、長期にわたる制裁が行われるため、エネルギーのみならず、ロシアから供給される資源は出てこないものという前提で考える必要がある。

間接的にロシアの同盟国である中国からも必須資源や部品の輸出が突如止められる可能性も充分にありえる状況だ。

【本日の見通し】

本日もウクライナ・ロシア情勢が緊張の度合いを高める中、ロシア産の資源価格は上昇が予想され、エネルギー価格の上昇が多くの商品価格を押し上げることになるだろう。

しかし、価格上昇が景気を減速させる可能性が高まるため、先々、需要減少に伴う価格下落の可能性は低くないと考える。ただしロシアに対する制裁強化で充分な供給が担保されないため、下がったとしても高い水準に止まろう。

本日予定されている統計では、米雇用統計に注目しているが、恐らく米金融政策を変更(引き締め加速や引き締めペースの鈍化)には至らず、緩やかにドル高を進行させてむしろ価格の下落要因になるとみている。

非農業部門雇用者数 前月比+42.3万人(前月+46.7万人)失業率 3.9%(4.0%)平均時給 前月比+0.5%(+0.7%)、前年比+5.8%(+5.7%)

【昨日のトピックス】

昨日発表された米ISM非製造業景況指数は、56.5(前月59.9)と前月から減速した。減速の要因となったのは新規受注(61.7→56.1)と雇用(52.3→48.5)の影響が大きい。

しかし輸出向け新規受注(45.9→53.0)や受注残(57.4→64.2)の改善がみられ、閾値の50を上回っており、まだ米景気の過熱は続いている状況。

ただ、改善傾向にあった仕入遅延指数は66.2(前月65.7)と悪化、景況感の過熱が続いているものの、雇用のミスマッチで主に対人接客業向けに人材が確保できていないことが影響しているとみられる。

それは、昨日発表された米週間新規失業保険申請件数が215千件(前週 233千件)と低下していることからも窺える。

また、資源高の影響で仕入価格も極めて高い水準(82.3→83.1)が続き、このままだと販売価格の上昇が景況感を悪化させる可能性は低くない。

同時に発表された米製造業新規受注は前月比+1.4%(前月▲0.4%)と改善、動きの大きな輸送機器を除く受注は+1.0%(+0.5%)とやはり改善。米国経済は拡大を続けており、結局、米FOMCでの金融引き締め加速を容認する内容だったといえる。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は下落した。前日の上昇が顕著だったことの反動に加え、イランとの核合意への期待や、価格上昇が需要に影響を及ぼすとの懸念が価格を下押しした。

しかし、ロシアのSWIFT排除、BPやシェルのロシアからのビジネス撤退で上流部門投資はさらに減速が予想されることが徐々に影響が出始めており原油価格を高値に維持している。

価格下落には終戦、ではなくロシアに対する制裁解除が必要になるが、もはやロシアはウクライナを完全に「征服」するまで戦争を止めない。となると、今回の戦争を後悔させるためにもロシアに対する制裁は続くと見られ、かなり長い期間にわたってロシアからの原油供給が制限される、というシナリオをメインシナリオに想定する必要がある。

本日もロシア・ウクライナ情勢が不安定な中、需給はタイトな状態が続き高値維持の公算。

◆石炭・LNG・天然ガス

豪州石炭スワップ先物価格は下落して400ドルを割り込んだ。さすがに一昨日のパニック買いで上昇した水準は維持できず、生産者のヘッジ売りや消費者の買い手控えが起きたと考えられる。

ではどこまで下落するのか、様々なアプローチが有るが、仮にロシアに対する制裁が解除されたとしても既に限界生産コストの水準の目安となる期先の価格は150ドルに上昇しており、この水準を下回るのは難しくなったといえる。

パニック買いであるため収束すると見られるが、しばらくはかなりの高水準で推移することになるだろう。

1年程度の原油価格との関係性を参考にすれば石炭価格は337ドル程度までの下落がありえ、天然ガスを参考にすると238ドルまでの下落がありえるが、それでもこの水準である。

欧州天然ガス価格は下落した。昨年から稼働していなかったヤマルパイプライン(ポーランド、ベラルーシ経由)が再稼働したこと、ハンガリー経由の通過ポイントであるウェレケ・カプシャンイ通過のガス流量も増加を続けていることで、域内需給の緩和期待が高まったことが背景。

なお、欧州に供給できない分を中国にという報道もあるが、リンク先の記事の通りガス田の位置、パイプラインの配置を考えると欧州分を中国に回す、ということは現時点ではほぼ不可能で、ロシア側も制裁を科されなければ供給は継続すると見られる。
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1007679/1007948.html

ロシアからの供給が安定する保証はないなか、価格上昇でロシア産ガスの購入を手控える企業も増えると予想されること、価格上昇が需要を減じる可能性があることを考えると、やはり現状の高値は続かないとみられる。

しかし、目先の供給不安は継続し、ロシアに対する制裁は戦争終結後も続くとみられることから、構造的な価格上昇は続くと予想される。

昨日のコメントを再掲するが、ロシアからのガスを全て置き換えようとした場合、スポットカーゴ全てを欧州に回したとしても「足りない」。

欧州が輸入しているLNGは世界のLNG貿易の21.2%(2020年BPデータより)、ロシアから購入しているLNGは欧州の調達の15.0%に相当する。

ロシアからのガス・LNGは世界のLNG貿易の37.9%に相当。LNGスポット取引のシェアが20%~30%であることを考えると、どうやっても足りない計算になる。

なお、欧州の再ガス化キャパシティはBBGデータなどを元に計算すると2,285億トン/年で、ロシアのガス・LNG供給が1,849億トンであることを考えると受け入れキャパシティの表面上の数字上は受け入れ可能となる。

しかし、受け入れ基地の場所やカーゴの手配、LNGとしての備蓄設備保有など、オペレーショナルな問題や、日本や韓国、中国もスポットでLNGを購入している事実を考えると数字の上でつじつまが合っても実際にロシアからの供給減少をLNGで代替することは、現時点ではかなり難しい。

TTFの期間構造は小幅に下落したが、小幅な下落に止まった。

仏独の原発の稼働率はフランスが上昇したが、ドイツは再び低下している。

米国天然ガス価格はガス統計で市場予想を上回るガス在庫の減少が確認されたものの、気温上昇観測で小幅に調整した。しかし今後、欧州向けの輸出増加が確実視される中、高値での推移が続きそうだ。

極東のガス価格であるJKMは大幅に上昇した。足下の需給は比較的緩和しているが、経産省発表の発電業者のLNG在庫水準をみると水準は非常に低く、この夏に向けて、欧州とカーゴの取り合いになる可能性が高いことが意識されたと考えられる。2022年以降は全て20ドルを超えている。

2月27日時点の発電用LNG在庫は180万トン(前年同月末230万トン、過去5年平均万トン)と過去5年の最低である166万トンは上回っているが水準は低く、今後、欧州向けのLNG融通が増えるとみられることから、気温低下(ないしは夏場の上昇)があった場合充分な在庫ではなくなった。

2月21日~27日のLNGトレードだが、取引量は+20%の850万トンとなった。スポット取引のシェアは30%と先週の22%から上昇。東南アジア、北欧(英国、オランダ)向けのフローが増加した。

長期契約は韓国、中国の調達が増加。ロシアのヤマルLNGプロジェクトとサハリンプロジェクトからの輸出は増加。ヤマルの稼働率は113%に達した。

今後、ロシアからの供給減少の可能性が高いため、米国から欧州へのカーゴ融通が加速すると見られる。ただ、あと1ヵ月程度で冬場が終了するため、状況はやや厳しさが緩和する可能性はある。

本日もロシアからの石炭供給懸念などを材料に、海上輸送石炭価格は高値維持の公算。

天然ガス価格はロシアに対する制裁強化がガス供給に影響することは不可避であり、スポットカーゴ需要の増加で天然ガス・LNG価格は高値維持の公算。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は大幅に上昇した。ロシアに対する制裁が強化される方針であること、具体的にロシアの生産者との資本関係を解消するといった動きもみられていることが供給懸念を強めることになった。

昨日のLME非鉄金属3ヵ月先渡しの上昇率を見ると以下の通り。

(ロシア関連)アルミ +4.1%ニッケル +3.9%

(その他)銅 +1.8%亜鉛 +1.5%鉛 +0.3%スズ +1.7%

と、ロシアの調達依存が高い金属の上昇が顕著で、この動きは数日続いている。ロシアの供給依存が高くない商品は、エネルギー価格の上昇が生産に影響を与えると見られていると考えられる。

SWIFT排除の影響がエネルギーセクターにも及び始めている中で、「生活必需品ではない」非鉄金属に対する制裁は実施される可能性がより高いことを考えると、これらの金属価格は高くなってもある意味当然だろう。

しかし、ここまで価格が上昇すると需要が影響を受けると考えられ、需要減少が価格を下押しする可能性もある。足下の価格上昇は、将来の景気減速に伴う下げ幅拡大リスクを高めていることは念頭に置くべきタイミングか。

本日もロシア・ウクライナ情勢が非鉄金属価格を高値に維持すると考える。ただ、米雇用統計の発表があり、非鉄金属に影響が大きいドル指数の上昇が予想されるため本日は小幅に調整か。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は暴騰、大連原料炭価格は上昇、上海鉄鋼製品先物は上昇した。

中国の製造業活動回復を受けて鉄鋼製品需要が回復、鉄鋼製品向けの需要も増加すると見られたことが材料となった。

特にロシアに対する制裁によって供給が減少すると見られる海上輸送原料炭価格の上昇は顕著であり、鉄鋼製品価格をコスト面で大きく押し上げることが予想される。これは業種を問わず、国内製造業に取っても非常に大きな影響が出ることになる。

本日も、中国の経済活動回復(建設業セクター)とそれに伴う在庫積増しの動きで堅調推移を予想。なお、ロシアからの石炭供給減少で中国以外の海上輸送市場需給はタイト化が予想されるため、特に豪州炭価格には上昇圧力が継続の公算。

◆貴金属

昨日の貴金属セクターは銀が下落、その他の貴金属は上昇した。金は株価の下落と共に長期国債利回りが低下、実質金利が低位で推移したこと受けて基準価格が高止まり、ロシアのデフォルトなどのクレジット・クランチへの懸念がリスク・プレミアムを押し上げた。

金の基準価格は1,608ドルで変わらず、リスク・プレミアムは328ドル(前日比+8ドル)となった。

銀は金銀レシオがこの数週間でも低水準である76.2倍(前日比▲0.4倍)まで低下していることもあり割高感からの調整が入ったとみられる。プラチナも基本は金と変わらず。

本日もロシア・ウクライナ情勢を受けた株・金利・原油動向に左右される形となるが、本日の雇用統計は恐らく米金融政策を変更するような内容にならず、引き締め観測を強める結果になると予想され、実質金利が上昇して基準価格を押し下げる一方、リスク・プレミアムはロシア軍がウクライナ最大の原子力発電所に砲撃しているとのニュースもあり、上昇すると見られることから結局、高値維持の公算。

PGMはロシアに対する制裁が強化されこそすれ弱まることは考え難いことから高値維持の公算。

◆穀物

シカゴ穀物市場は暴騰した。ロシア・ウクライナの情勢不安を背景に春小麦やトウモロコシの播種が困難なのではとの見方や、戦争長期化に伴う港湾封鎖が続いていることが足下の需給をタイト化させていることが材料となった。

このままの状態が続けば、少なくともウクライナの生産は影響を受ける。また報道通り欧州最大の原発をロシアが攻撃している、との報道が事実であり、仮にチェルノブイリと同様のことが起きれば、食品の播種どころではなく、欧州全体にその影響が及ぶことになる。

本日もロシア・ウクライナ情勢が悪化していることから供給懸念は継続し、価格は上昇するとみる。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・ロシア・ウクライナの衝突の影響が長期化し、欧州を中心に景気が減速する場合。

また、ロシアに対する制裁がロシアが主要生産地である商品の供給を制限し、価格を押し上げ、景気を悪化させるリスク(価格下落要因)。

なお、今回の対応如何では中国が台湾を武力で早期に併合する可能性を高めることになる。

・ロシア国債のデフォルトや、ロシアからのビジネス撤退が企業や信用市場に大きな永享を与え、クレジットクランチ(信用収縮)が発生する場合。

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

むしろこの可能性は高待っており、リスクシナリオではなくなりつつある。

・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。

・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。


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