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ロシア関連エネルギー銘柄大暴騰
  • MRA商品市場レポート

2022年3月3日 第2146号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「ロシア関連エネルギー銘柄大暴騰」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格はロシアに対する制裁強化がじわりと拡大、燃料炭・天然ガス・原油などが大暴騰した。石炭に至っては前日比4割の上昇、天然ガスもスポットが35%の上昇となった。

このタイミング(春)でスポット400ドルを超える豪州炭価格は異常だが、それだけ世界供給の2割弱を占めるロシアの石炭供給が減少するリスクが高まっていることを示唆している。当然、スポットLNG価格も上昇している(詳しくは個別セクターの解説のコラムをご参照ください)。

また、昨日も小麦価格が急騰している。ここで改めて考えなければならないのは、春・冬、2回播種をする小麦のうち春小麦の作付が黒海周辺の一大穀倉地帯で実施されない可能性がある、ということである。この場合、世界中に顕著な食品供給不足が発生することになる。

この状況はロシアの軍事行動が終了する、あるいは価格上昇が景気を悪化させて消費が落ち込む、といったことが起きるまで継続すると見られる。

なお、このタイミングだと「価格上昇はどこまで?いつまで?」ということが議論の中心となるが、今回の価格上昇で消費国経済は傷み始めており、さらにFRBを中心に金融引き締めが続くことになる。

望まれるのは軍事侵攻終了による価格下落だが、何かが切っ掛けで発生する価格下落時の「下落幅が拡大」していることは充分に考えるべき時期に来ているといえる。

多くの企業や消費者が、目先の上昇に備えて値決めを急ぐ必要に迫られているが、先々の下落リスクを回避するためにプットオプションの活用を考える必要がある。

オプションを価格リスクマネジメントに用いるには充分な準備が必要になるが、「デリバティブは悪い物だからやらない」というイメージをもっている企業も多いと思うが、そうした固定概念を捨て、選択肢の1つとして検討を始めるべきではないだろうか。

【本日の見通し】

本日もウクライナ・ロシア情勢が最も重要な要因となるが、ロシアに対する制裁継続で供給懸念が強まっており、まだショート筋の買い戻しが継続すると見られることから高値維持の公算。

繰り返しになるが、消費者は価格上昇に備えつつ(値決め実施)、下落リスクを排除(プットオプションの活用)することを検討することが必要だろう。

本日もFRB議長の議会証言が行われるが恐らく新味はないだろう。米ISM製造業指数や米週間新規失業保険申請件数の発表もあるが米労働市場の逼迫を確認する内容になり、実需面の堅調さ、金融引き締めの必要性を確認する内容になるとみられ、恐らく両者が相殺される形で価格へのインパクトは、ウクライナ情勢による対ロシア制裁や、それに伴うクレジットクランチリスクに比べれば限定されると考える。

【昨日のトピックス】

昨日注目のパウエル議長の議会証言が行われた。現状のインフレに関してどのような判断、ロシア・ウクライナ情勢の金融政策ヘの影響を見込んでいるかに注目が集まっていたが、取りあえず3月に25bpの利上げを行う方針を主張したため、ややハト派、と判断されたようだ。

ただ、公表されたステートメントでは、インフレ率が2%を大きく上回り、労働市場が力強い中でFF金利の目標レンジを今回の会合で引き上げるのが適切」とし、「FF金利引き上げとバランスシートの縮小の両方を行うことになる」と発言しておりこれまでのトーンから大きく変化はしていない。

ウクライナ問題に関しては、「ウクライナ侵攻とその後続いている戦争、経済制裁や今後のイベントが米経済に及ぼす短期的な影響は不確実性が高い」とし、「この環境で適切な金融政策を策定するには、経済は想定外の形で変化するものであることを認識する必要がある」

とし、結局の所、今後の進展を見極めつつ政策に反映していくということを明らかにし、足下直ちに利上げを加速させる、という懸念は払拭された。実際50bpの大幅な利上げの可能性も否定していない。

同時に発表されているベージュブックでは緩やかな景気回復継続と、サプライチェーン問題、低在庫が成長を抑制、特に建設セクターでそれが顕著に見られたとしており、米景気が過熱していることを再確認する内容である。

昨日のこの重要な2つの材料が示唆することは、世の中に「絶対にない」はないが、予見不可能であるため事態が顕在化してから対応を決める、ということである。

実際、軍事侵攻やそれに伴うインフレ加速を前もって想定して、予防的に経済政策や金融政策を変更することは難しい。

パウエルFRB議長はかなり市場との対話に成功していると考えるが、上記を考えると政策会合で想定外のスタンス変更が今後も起こり得ることを認識せざるを得なかった。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇してBrentは110ドルを突破した。ロシアに対する制裁がじわりと広がる中で、エネルギー供給も徐々に制限されるとの見方が強まっていることが材料となった。

また、IEAが協調して世界の戦略備蓄6,000万バレルを放出することを決めたが「十分ではない」と判断されたことも買い材料になった、と報じられている。

しかし、戦略備蓄は価格を下げることを目的に放出されるものではなく、物理的に供給が停止した時のバックアップであり、価格が下がらなくても当然である。

仮にロシアから半分の500万バレルが供給されなくなった場合、12日分に相当する。世界の需要で割れば半日分程度の規模だ。

今回の備蓄放出は、消費国の「結束」を示すやや象徴的な決定と考えるべきだろう。

また、OPECプラス会合が開催されたが予想通り40万バレルの増産継続。今回の決定は、1.ロシアに対する制裁がある中で増産、ということはOPECプラスの結束に影響、2.仮に増産幅を拡大した場合、これまで充分な計画増産ができていないことから増産達成率が低下して逆に価格が上昇してしまう(OPECプラスの信用低下)可能性、を意識したと考えられる。

昨日は米石油統計が発表されたが、米石油製品需要が堅調に推移(前年比+11.0%、2019前年比+6.1%の21.73MBD)する中で石油製品供給が充分ではないことが確認された。

より注目していたのは原油生産だが11.6MBDと横這いだった。結局、この状況でも米国生産者は増産に舵を切っていない、ということである。DOEの予想では増産は4月以降と見られており当面、原油需給はタイトな状態が続くことになりそうだ。

本日もロシア・ウクライナ情勢が不安定な中、需給はタイトな状態が続き高値維持の公算。

◆石炭・LNG・天然ガス

豪州石炭スワップ先物価格は暴騰し、400ドルを超えた。ロシアに対する制裁でパニック的な買いが入ったため。ロシアは石炭の世界供給の2割弱を占めるため、これが止まる可能性は顕著にショート・スクイーズを引き起こす。

独政府がエネルギー方針を転換したことも影響したとみられる。

また、ラニーニャ現象の影響による豪州の洪水やインドネシアの2月の禁輸、といった供給面の問題が発生していたこともこの価格上昇を後押しした。

パニック買いであるため収束すると見られるが、しばらくは信じられない高さでの推移が続くことになるだろう。

欧州天然ガス価格は2日連続で暴騰。ロシアに対する制裁強化の動きを受けてショート・スクイーズが発生しているためと考えられる。また代替燃料である石炭も排出権価格が大きく低下したことで割安(ではないが)感から急騰したこともガス価格の押し上げに寄与した。

日経新聞の記事にも出ていたが、ロシアからのガスを全て置き換えようとした場合、スポットカーゴ全てを欧州に回したとしても「足りない」訳であり、ロシアが供給停止カードを切った場合のリスクが強く意識されたと考えられる。

なお、欧州が輸入しているLNGは世界のLNG貿易の21.2%(2020年BPデータより)、ロシアから購入しているLNGは欧州の調達の15.0%に相当する。

ロシアからのガス・LNGは世界のLNG貿易の37.9%に相当。LNGスポット取引のシェアが20%~30%であることを考えると、どうやっても足りない計算になる。

なお、欧州の再ガス化キャパシティはBBGデータなどを元に計算すると2,285億トン/年で、ロシアのガス・LNG供給が1,849億トンであることを考えると受け入れキャパシティの「ヘッドラインの数字」上は処理可能となる。

しかし、受け入れ基地の場所やカーゴの手配、LNGとしての備蓄設備保有など、オペレーショナルな問題や、日本や韓国、中国もスポットでLNGを購入している事実を考えると数字の上でつじつまが合っても実際にロシアからの供給減少をLNGで代替することは、現時点ではかなり難しい。

なお、欧州に供給できない分を中国にという報道もあるが、リンク先の記事の通りガス田の位置、パイプラインの配置を考えると欧州分を中国に回す、ということは現時点ではほぼ不可能で、ロシア側も制裁を科されなければ供給は継続すると見られる。
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1007679/1007948.html

ドイツは今回のロシアの軍事侵攻に対してノルドストリーム2の稼働凍結を決定、ノルドストリームも稼働を止める可能性が指摘され始めている。今のところノルドストリームは通常通り稼働しているが、今後、構造的にLNGや石炭の需要が増加する可能性はある。

TTFの期間構造は再び期近・期先とも上昇している。軍事侵攻前と比較すると期近はおよそ70ユーロ、期先も10ユーロほど上昇している。かなり期先の価格が安く見えるが、絶対水準は高すぎで消費者が許容できるレベルではない。

仏独の原発の稼働率はフランスが上昇したが、ドイツは再び低下している。

米国天然ガス価格は欧州向けの供給増加観測が価格を押し上げた。極東のガス価格であるJKMも全ゾーン上昇している。足下は調達が足りているためさほど上昇していないが、2022年中は開戦前と比較して20ドル以上上昇している。

2月27日時点の発電用LNG在庫は180万トン(前年同月末230万トン、過去5年平均万トン)と過去5年の最低である166万トンは上回っているが水準は低く、今後、欧州向けのLNG融通が増えるとみられることから、気温低下(ないしは夏場の上昇)があった場合充分な在庫ではなくなった。

2月21日~27日のLNGトレードだが、取引量は+20%の850万トンとなった。スポット取引のシェアは30%と先週の22%から上昇。東南アジア、北欧(英国、オランダ)向けのフローが増加した。

長期契約は韓国、中国の調達が増加。ロシアのヤマルLNGプロジェクトとサハリンプロジェクトからの輸出は増加。ヤマルの稼働率は113%に達した。

今後、ロシアからの供給減少の可能性が高いため、米国から欧州へのカーゴ融通が加速すると見られる。ただ、あと1ヵ月程度で冬場が終了するため、状況はやや厳しさが緩和する可能性はある。

本日もロシアからの石炭供給懸念などを材料に、海上輸送石炭価格は高値維持の公算。

天然ガス価格はロシアに対する制裁強化がガス供給に影響することは不可避であり、スポットカーゴ需要の増加で天然ガス・LNG価格は高値維持の公算。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格はまちまちだが、ロシアのとの関連が強い金属が大幅な上昇となった。石炭価格大暴騰を受けてアルミは上昇、制裁強化はほぼ確実とみられ、Glencoreやその他の企業も取引を制限しつつあるニッケルも大幅な上昇となった。

欧州向けエネルギー価格の暴騰を受けて亜鉛価格も顕著に上昇しており4,000ドルを目指す展開に。

足下は供給面が材料になっていることはほぼ明らかで、ロシアとの取引を切る中で発生するショートカバーが続いていると考えられる。当面この流れは続くだろう。

本日もロシア・ウクライナ情勢が非鉄金属価格を押し上げると考える。これがどこまで、いつまで続くかは全く不透明であるが、この価格水準が消費に耐えられるレベルではないことはほぼ明らかであり、米国の金融引き締めやロシアのデフォルトを切っ掛けとするクレジットクランチ発生で、下落に転じる可能性は低くない。

ロシアの制裁が続く中では高値を維持し、その高値継続が「供給懸念緩和時の下落余地を拡大」していることは充分に注意したい。

仮にオペレーション上、許されるのであればプットオプションの活用を検討するべき時期に来ていると考えられる。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は急騰、大連原料炭価格は小幅に下落、上海鉄鋼製品先物は上昇した。

中国鉄鋼業PMIで生産が減速したものの、新規受注の回復と製鉄所の稼働減速による鉄鋼製品在庫指数の低下が確認され、受注・在庫レシオが上昇したことが昨日も鉄鋼製品を押し上げ、鉄鋼原料価格の上昇要因となった。

なお、ロシアに対する制裁強化で燃料炭市場は信じられないレベルでの急騰となっており、既に価格水準は高いが、程度の差こそあれ原料炭市場でも同様のことが起きかねない。

本日も、中国の経済活動回復(建設業セクター)とそれに伴う在庫積増しの動きで堅調推移を予想。なお、ロシアからの石炭供給減少で中国以外の海上輸送市場需給はタイト化が予想されるため、特に豪州炭価格には上昇圧力が掛ることになろう。

◆貴金属

昨日の貴金属セクターは金銀が下落、PGMが上昇した。金はパウエル議長の発言を受けて、3月のFOMCでの利上げが25bp程度に止まるとの見方が広がり株価が反転上昇、長期金利も株高を受けて急上昇したため、原油価格が急騰する中でも実質金利が上昇したことが影響した。

これにより、金の基準価格は1,608ドルと前日から▲39ドル下落、一方、戦況に改善が見られないウクライナ情勢を反映して再び安全資産としての金物色でリスク・プレミアムは320ドルと前日から+21ドル上昇している。

銀は金銀レシオが76.7倍(▲1.4)に低下、対金での割安感からの物色が続いたが、金価格の下落で前日比マイナス。

PGMはロシア包囲網が形成されつつ有る中での供給制限観測から大幅な上昇となっている。

本日もロシア・ウクライナ情勢を受けた株・金利・原油動向に左右される形となるが、このところ株の上昇の翌日は調整売り・債券高・金利安となることが多いため、金銀は上昇を予想。

PGMに関しては、これからロシアに対する制裁が強化されこそすれ弱まることは考え難いことから高値維持の公算。

◆穀物

シカゴ穀物市場はまちまち。小麦は引き続きウクライナ・ロシアからの供給不安、同地域での春小麦の作付への影響が懸念されている。戦闘行為が続いた場合、世界有数の大穀倉地帯である黒海周辺の春小麦の播種が不可能になり、深刻な食糧危機となるリスクがある。

大豆はアルゼンチンの豪雨による作柄の改善期待が売り材料となった。というよりはここまで供給不安で上昇してきたが、南米の生産回復観測でヘッジ売りが入ったと考えられる。

本日もロシア・ウクライナ情勢次第であるが、両国を含む穀物輸出に影響が出ていることから、高値維持の公算。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・ロシア・ウクライナの衝突の影響が長期化し、欧州を中心に景気が減速する場合。

また、ロシアに対する制裁がロシアが主要生産地である商品の供給を制限し、価格を押し上げ、景気を悪化させるリスク(価格下落要因)。

なお、今回の対応如何では中国が台湾を武力で早期に併合する可能性を高めることになる。

・ロシア国債のデフォルトや、ロシアからのビジネス撤退が企業や信用市場に大きな永享を与え、クレジットクランチ(信用収縮)が発生する場合。

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

・コロナ・ウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

むしろこの可能性は高待っており、リスクシナリオではなくなりつつある。

・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。

・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。

◆本日のMRA's Eye


「2021年原油市場の回顧~2022年を占うために」

2021年は世界中を襲ったコロナ・ショックからの立ち直りの始まりの年だった。また、4年間続いた米トランプ政権が大統領選挙で敗北、バイデン新大統領が誕生してこれまでの強烈な米国孤立主義から再び協調路線に舵を切り、悪化していた欧州との関係改善を企図して前政権が一方的に離脱したパリ協定に復帰、脱炭素を推進することを決定した。また長年の上流部門投資不足で非OPECプラスのみならず、OPECプラス諸国もタイムリーな増産ができなかったことは供給面に、この数年続いている異常気象も化石燃料の需要面に大きな影響を与えた。

2021年1月4日、OPECプラスは2月からの減産規模の縮小について議論したが、原油価格の低迷を背景に減産規模維持を主張するサウジアラビアと、増産を主張するロシア・カザフスタンの主張が対立した。

しかし、これまで自国優先だったサウジアラビアが両国の増産を認める一方、100万バレルの自主減産を決定した。この結果、1月の原油価格は比較的落着いた推移となり北海Brent原油、WTI原油とも50ドル台半ばでの推移となった。

この頃、原油とは市場が異なるが、極東地域の気温が低下して天然ガスのスポット調達価格が上昇、東京の電力スポット価格も1月13日には過去最高となる154.6円/kwhを記録した。

1月20日には大統領選の混乱を乗り越えバイデン大統領が誕生、カナダの油田とメキシコ湾の製油所を結ぶキーストンXLパイプラインの建設認可を取消し、パリ協定への復帰も宣言、脱炭素に再び舵を切った。

しかし、この政策が化石燃料の上流部門投資をさらに鈍化させ、年後半の原油価格上昇の一因となる。また、バイデン政権はサウジアラビアやイスラエルとの関係の見直しや、前政権時代に一方的に離脱したイランとの核合意への復帰にも意欲を見せた。

特にイラン核合意復帰への取り組みは欧州諸国との関係を重視したことによる。

2月~3月の原油相場はワクチン接種の進捗を背景として日米欧の景況感が改善したこと、3月4日のOPEC会合ではOPECプラスで50万バレルの増産、サウジアラビアの自主減産終了が期待されていたが、いずれも見送られたことで原油価格は上昇。

しかし、この頃から景気過熱を受けて米国内で金融緩和解除の議論が少しずつ強まり、好調な経済統計が逆に原油価格を押し下げる局面が増えるようになっていく。一方、欧州ではロシア軍がウクライナとの国境近くに防空システム、短距離弾道ミサイル、電子戦を展開できる部隊を集結させた。

これはウクライナのゼレンスキー大統領のクリミア半島返還を求める「クリミア・プラットフォーム構想」への牽制が目的とみられたが、2022年2月に実際にウクライナに軍事侵攻するためそのための準備目的だった。

4~6月の原油相場はOPECプラスが減産規模縮小を決定したこと、米連邦準備銀行(FRB)の早期金融引き締め観測の後退が長期金利を押し下げ、株高・ドル安が進行、ドル建て資産である原油価格を金融面で押し上げることになった。

この頃の原油市場は、産油国側が増産に慎重な姿勢を崩さず、コロナ・ウイルスのワクチン接種進捗による経済活動の回復を材料に需要が回復していたため、価格は上昇を続け、6月以降、Brent原油は70ドル台を安定的に上回るようになる。

この頃、2020年2月29日に米前政権とアフガニスタンの反政府武装組織タリバンが締結した和平合意に基づき、2021年5月から米軍のアフガニスタン撤退が始まる。

しかし、タリバンは米軍撤退を受けて急速に支配地域を拡大、2021年8月15日に全土を支配下に置き9月7日にアフガニスタン・イスラム首長国の建国を宣言するに至った。

この5月から始まったアフガニスタンからの米軍撤退が拙速過ぎたとしてバイデン政権の支持率を低下させ、年後半のイランとの核協議に小さからぬ影響を及ぼすことになる。

7月に入ってからこの流れが変わる。

OPECプラスは増産ペースを維持したが、2020年10月にインドで発生したコロナ・ウイルスの変異株であるデルタ株の感染が世界的に拡大、欧州でロックダウンや医療崩壊の懸念が強まるなど、コロナからの脱却に黄色信号が点り原油価格は水準を切下げた。

その後、8月27日の米ジャクソンホール・シンポジウムでFRBパウエル議長がテーパリング開始を示唆、ほぼ市場予想通りだったため、むしろ価格面でプラスに作用したが、長らく続いた金融緩和路線が終了に向かうことが確認された。

10月頃からOPECプラスが計画どおり増産できていないこと、これまで重要な生産地域であった米国の生産が回復しないことが原油価格を大きく押し上げ北海Brent原油は86.70ドル/バレルまで上昇する。

米国の生産回復の遅れは、脱炭素の影響に加え、コロナ・ショック以降石油掘削・開発に携わる労働者を確保することが困難になったことも影響したとみられる。

米国のガソリンの平均価格は既に消費に影響が出ると見られるガロン3ドルを大きく上回り、10月の後半には3.7ドルに迫った。そのためバイデン大統領は10月30日のG20サミット(イタリア)で産油国に対して増産を要請するが、OPECプラス諸国からは前向の回答は得られなかった。

その後、エネルギー価格の上昇などの影響で止まらないインフレを抑制する目的で、11月2・3日のFOMCでは市場の想定通り量的緩和の規模を縮小するテーパリング開始を決定、2022年中頃からの利上げ開始を示唆した。この結果、原油価格はじりじりと水準を切下げ始める。

さらに、2021年11月23日、米政権は戦略備蓄から5,000万バレルの放出を決定、日本、中国、インド、韓国、英国などの主要消費国も米国の要請に応じる形で戦略備蓄の協調放出を決めた。

日本は湾岸戦争や米カトリーナ、リビア危機などの時に各国と協調して、東日本大震災の時には単独で在庫を放出してきたが、いずれも民間事業者の備蓄からで、国家備蓄を放出したのはこれが初めてである。

しかし、規模が市場の想定を下回ったほか、在庫放出の影響は一時的であるとして反応は限定された。

ところが11月26日、WHOは南アフリカ共和国などで検出されていたコロナの変異株を「懸念される変異株(Variant Of Concern)」に指定、オミクロン株と命名した。

オミクロン株はこれまでの変異株と比較して致死率は低いものの感染力が高く、再び医療崩壊やロックダウンへの懸念が強まり原油価格は急落した。

しかし、夏から続くラニーニャ現象の影響で北半球が厳冬になり、欧州の一部では風力発電の不足で自然エネルギー供給が減少、南半球ではブラジルなどで渇水の影響で水力発電が不足してディーゼルオイルを発電用に用いる必要が出てくるなどの事態が発生。

脱炭素を進めていた欧州ではそもそも化石燃料の供給が制限されているうえ、猛暑の影響で天然ガスの在庫水準が低下していたことから深刻な燃料不足に悩まされることになり、世界的に代替燃料として原油・石油製品を求める動きが強まり、価格上昇で稼働停止や廃業に追い込まれる工場・企業が増加した。

このときベラルーシとポーランドの国境に移民が殺到、欧州の治安が不安定化する懸念が強まった。これを扇動していたのがベラルーシのルカシェンコ大統領だったが、8月の同国の大統領選挙の不正に対するEUの制裁への報復が目的で、さらに欧州へのガス供給制限を示唆し、欧州のエネルギー供給不安が高まった。

また、2021年9月10日から実施されたロシアとベラルーシの合同軍事演習以降、ロシアとウクライナの国境付近に通常3万5,000人程度配置されているロシア軍の兵力が徐々に増強され始め、米マコンビル陸軍参謀総長は12月4日時点で9万5,000人~10万人のロシア軍が配置されていると発表、欧州の地政学的リスクが急速に高まることになる。

12月1日からイラン核合意債権のための間接協議が再開され、この状況緩和に寄与すると期待されたが、アフガニスタンからの撤退やインフレへ対応で米国内での支持率が低下しているバイデン政権や、エネルギー不足に悩む欧州は足下を見られ、早期合意が困難になった。

また北アフリカの重要な産油国であるリビアでも12月24日に予定されていた大統領選挙が選挙運営上の混乱を理由に延期された。リビアはカダフィ政権崩壊後の内戦で原油生産が安定しておらず、今回の大統領選挙を巡る混乱も供給懸念を強め、原油価格の上昇要因となった。

ロシアは12月17日に欧州安全保障の新たな合意案を公表、NATOの東方拡大停止や1997年時点の水準まで軍事力を縮小させることを要求、21日にはプーチン大統領が欧米が攻撃的な態度をとり続けるのであれば軍事的な対抗措置を取ると警告、30日には米露ウェブ会談が行われるが両国の主張は平行線のまま終了する。

原油価格はこうした供給面の緊張を背景に、Brent原油が77.78ドル/バレル、WTI原油が75.21ドル/バレルで越年、嵐の2022年を迎えることとなった。


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