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ロシア制裁の影響拡大 軒並み上昇
  • MRA商品市場レポート

2022年3月2日 第2145号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「ロシア制裁の影響拡大 軒並み上昇」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格はごく一部の商品を除いて大幅に上昇した。ロシアに対する制裁が拡大、ロシアからのエネルギー供給に制限が出始めるとの懸念が強まる中で、広く供給懸念が強まったことが背景。

ロシアが主要生産国である商品は当たり前だが、エネルギー供給に支障が出れば、広く工業品にも影響がでる。また、バーチャルの世界ですらエネルギーは必要でありこちらも影響を受けることになる。

各国の制裁によってロシア国債のデフォルトの確率は高まっている(というより、ほぼ確実視され始めている)。

国際金融協会(IIF)の試算では、ロシアの対外債務4,800億ドルのウチ、1,350億ドルは1年以内に償還となる。各国の制裁によってロシア中央銀行の外貨準備の半分程度が資産凍結されているとすると、高い確率でデフォルトとなる。

デフォルトは債券保有者の損失となるが、その後、ロシアは恐らくリファイナンスができない。経済危機でデフォルトしたのではなく、自らの戦争でデフォルトするわけで、IMFなどが経済安定化のための支援をするとも思えない。

ロシア国内は深刻な財政難に陥り、インフレは加速、内部からプーチン政権はダメージを受けることになる。ある意味「兵糧攻め」である。

しかしここまで追い込まれると「窮鼠猫を噛む」の格言通り、各国に核攻撃を仕掛ける可能性ももはやゼロではない。

また、ここまでにならなかったとしても、ロシアから撤退する事業や企業が増える中、保有していたロシア関連株が無価値となり、多額の損失が発生する投資家が増えることが予想される。この場合、クレジットクランチがおき、足下のエネルギー供給不足や金融引き締めも影響もあって世界恐慌のリスクも、絵空事ではなくなってきた。

【本日の見通し】

本日もウクライナ・ロシア情勢が最も重要な要因となるが、各国、企業とも脱ロシアを進め、それに対するロシア(と思われる)西側諸国へのサイバー攻撃などにより、経済が混乱する可能性が高まっており、「供給懸念が価格を押し上げるが、自体の収束後の価格下落余地が拡大している」ことは念頭に置いておくべき状況にある。

本日予定されている材料で注目はOPECプラス会合。恐らく、OPECプラスのメンバーがロシアに配慮して、いままでと同じスタンスになると考えられる。

場合によると欧米の要請でサウジアラビアやUAEなどが「自主的に」増産をする可能性はゼロではないが、その可能性は高くないと考える。

その他、インフレ伸張とロシア制裁による世界恐慌のリスクが無視できなくなる中でFRBパウエル議長が下院議会証言でどのようなコメントをするかに注目している。

【昨日のトピックス】

昨日発表された、中国の重要統計の評価以下の通り。

◆製造業PMI

2月の製造業PMIは50.2(前月50.1)と小幅に回復した。生産は50.4(50.9)とやや減速したが、需要の指標である新規受注が50.7(49.3)と急回復、輸出向けも49.0(48.4)と回復した影響が大きい。昨年から中国政府が行っている経済対策の効果が出始めた、と考えられる。購買量も50.9(50.2)と回復している。

しかし、購買価格が60.0(56.4)と急上昇しており卸価格も54.1(50.9)と上昇、価格上昇が購買活動を押し下げる可能性が高まっている。

需給状況の指標である新規受注在庫レシオは、完成品が1.054(1.004)、原材料が1.072(1.027)と急上昇しており、需給環境も急速にタイト化、価格上昇を肯定しつつある。

PMI総合指数は改善しているが、規模別に見ると大企業(51.63→51.8)、中堅企業(50.5→51.4)は回復しているが、中小企業(46.0→45.1)の景況感は厳しい。規模別には景況感が全く乖離してしまっている。

今後このことは中国の回復の足かせとなるが、第3期目を目指す習近平国家主席のアキレス腱となるため、今後も金融面での中小企業サポートは強化されるのではないか。

先月と同様のコメントになるが、景気刺激などの一連の対策は国有企業中心の大企業がメリットを享受しているが、規模の小さい企業はその恩恵をまだ受けていないと考えられる。一連の対策の効果が出るにはまだ時間を要しよう。

◆鉄鋼業PMI・建設業PMI

2月の中国鉄鋼業PMIは総合指数は47.3(前月47.5)と2ヵ月振りに減速、50の閾値を割り込む状態が2020年6月から続いている。中国政府による住宅セクターの活動抑制の影響が続いていると考えられる。

新規受注(40.6→43.2)、輸出向け新規受注(45.0→47.3)ともに回復しているがまだ閾値の50を上回っておらず回復は途上。一方でオリンピック・パラリンピック期間中の稼働停止の影響もあり、生産が49.2(53.4)と急減速したことが影響したようだ。

このことは、在庫水準は完成品在庫35.9(36.7)、原材料在庫が42.7(36.6)となったことにも顕著に表れている。

今後、オリンピック・パラリンピックの終了に伴い製鉄所の稼働は回復、鉄鋼製品供給の増加が完成品在庫を押し下げて鉄鋼製品価格を押し下げる一方、原料在庫の取り崩しによる在庫積増し圧力から鉄鋼原料価格には上昇圧力が掛ろう。

価格に対する説明力が高い新規受注・完成品レシオは1.20(前月1.11)と上昇、原材料レシオは1.01(前月1.11)と低下。いずれも閾値の1を上回っているため、先行きの需給はタイト化が予想され、原料価格・鉄鋼製品価格とも緩やかに上昇圧力が掛ると見る。

中国の鉄鋼需要を牽引してきたのは建設セクターだが、2月の建設業PMIは57.6(前月55.4)と回復している。

しかし、この統計はコロナショックによるロックダウンが発生した2020年2月に26.6を付けた以外、統計発表開始から1度も閾値の50を下回っていない。どれだけ中国の不動産セクターが加熱していたかが分かるだろう。

2030年頃まではインフラ投資も含めた不動産開発は継続すると見られるが、逆に言えばあと8年程度でこれらの問題を解決する必要があるため、中国政府が不動産開発投資を抑制する方針はそう簡単には変わらないと予想される。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇してBrentは100ドルを上回って引けた。ロシアに対する制裁に対してBPがRosneft株を売却するなど、少しずつ制裁の効果が顕在化し始めていることでロシアからのエネルギー供給への懸念が強まったことが背景。

SWIFTからの排除にエネルギー取引は含まれていないとされるが、欧米の制裁のみならず「ロシア側から供給を止める」ということも充分にありえる「何でもあり」の状況になっているため、供給リスクが高まった形。

また、戦略備蓄の放出が決定されたが6,000万バレルと市場の期待を下回ったため影響は限定された。しかし備蓄放出は「つなぎ」の戦略であるため、これらの在庫も枯渇するということを忘れてはならない。

IEAの備蓄義務が90日、日本は半年程度の在庫を保有しているが、これが尽きるまでに事態を収束させなければならない、ということだ。

本日もロシア・ウクライナ情勢次第の状況は変わらないが、情勢は悪化しており供給懸念が価格を高値にじりじりと押し上げることになるだろう。

OPECプラス会合が予定されているが、恐らく同メンバーであるロシアに配慮して今までのスタンスを維持することを確認するに止まると考えられる。

本日、米石油統計が発表されているが、市場予想は+2.3MBの在庫増加予想だが、朝方発表のAPI統計では▲6.1MBの減少が確認されているため、価格の上昇要因となるだろう。

ただ、それ以上に原油生産の増加があるかどうかに注目したい。

◆石炭・LNG・天然ガス

豪州石炭スワップ先物価格はロシアに対する制裁強化観測を受けてついに300ドルを超えるに至った。

ドイツ政府が脱炭素を棚上げする方針に転換したことで、化石燃料需要が増加すると見られたことが背景。価格面において消費国にとって残念だが、予想通りの展開。

中国6大電力会社の在庫水準は減少しており、在庫日数も低下して14日分と、過去5年レンジを下抜けしている。石炭の在庫不足は変わらない。

欧州天然ガス価格は暴騰。ロシアに対する制裁強化でロシアからのガス供給が減少するとの見方や、ドイツの方針変更で化石燃料需要が増加するとの見方が強まったことが、LNG市場需給タイト化観測を強めた。

また、シェルのサハリン2プロジェクトからの撤退も、LNG市場の需給タイト化観測を強めた。

欧州のロシア産ガスへの依存は高い(LNGで輸入数量の15.0%、パイプラインで37.5%のガスをロシアからの供給に頼る)ため、直ちにこれがなくなるということは現実的ではないが、ロシアが供給と止める可能性ももはや選択肢に入りつつある。

なお、欧州に供給できない分を中国にという報道もあるが、リンク先の記事の通りガス田の位置、パイプラインの配置を考えると欧州分を中国に回す、ということは現時点ではほぼ不可能で、ロシア側も制裁を科されなければ供給は継続すると見られる。
https://oilgas-info.jogmec.go.jp/info_reports/1007679/1007948.html

ドイツは今回のロシアの軍事侵攻に対してノルドストリーム2の稼働凍結を決定、ノルドストリームも稼働を止める可能性が指摘され始めている。今のところノルドストリームは通常通り稼働しているが、今後、構造的にLNGや石炭の需要が増加する可能性はある。

TTFの期間構造は再び期近・期先とも上昇している。

仏独の原発の稼働率は再び低下しており、引き続き冬場の電力供給状況は不安定。

米国天然ガス価格は上昇。欧州向けの供給が増加し、域内需給がタイト化するとの見方が強まったことが背景。

極東のガス価格であるJKMも全ゾーン上昇している。

2月20日時点の発電用LNG在庫は182万トン(前年同月末230万トン、過去5年平均218万トン)と過去5年の最低である166万トンは上回っているが水準は低く、今後、欧州向けのLNG融通が増えるとみられることから、気温低下(ないしは夏場の上昇)があった場合充分な在庫ではなくなった。

2月21日~27日のLNGトレードだが、取引量は+20%の850万トンとなった。スポット取引のシェアは30%と先週の22%から上昇。東南アジア、北欧(英国、オランダ)向けのフローが増加した。

長期契約は韓国、中国の調達が増加。ロシアのヤマルLNGプロジェクトとサハリンプロジェクトからの輸出は増加。ヤマルの稼働率は113%に達した。

今後、ロシアからの供給減少の可能性が高いため、米国から欧州へのカーゴ融通が加速すると見られる。ただ、あと1ヵ月程度で冬場が終了するため、状況はやや厳しさが緩和する可能性はある。

本日もロシアからの石炭供給懸念などを材料に、海上輸送石炭価格は高値維持の公算。

天然ガス価格はロシアに対する制裁強化がガス供給に影響することは不可避であり、スポットカーゴ需要の増加で天然ガス・LNG価格は高値維持の公算。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は軒並み上昇した。特にロシアの依存度が高いニッケルやアルミ、エネルギー供給制限や価格上昇の影響で製錬コストへの影響が大きい亜鉛などの上昇が目立った。

また、昨日発表された中国の製造業PMIが予想外の改善となり、中国の国内需給がタイト化していることも価格の上昇要因となった。不動産市場の加熱沈静化に努めてきた中国政府だが、昨年から徐々に景気刺激に舵を切っているため、その影響が徐々に顕在化し始めているといえる(詳しくは昨日のトピックス参照)。

本日もロシア・ウクライナ情勢が非鉄金属価格を押し上げると考えるが、ここに来て価格高騰や制裁によってデフォルトするロシア企業、それによって損失を被る西側企業も増えてきたため、徐々に「供給懸念緩和時の下落余地が拡大」している状況に有ることは忘れてはならない。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は小幅に下落、上海鉄鋼製品先物は大幅に上昇した。

中国鉄鋼業PMIで生産が減速したものの、新規受注の回復と製鉄所の稼働減速による鉄鋼製品在庫指数の低下が確認され、受注・在庫レシオが上昇したことで需給タイト化観測が強まったことが背景。

また、ロシアに対する制裁によって原料炭市場の流動性も低下、価格が上昇する可能性があることも意識された。ただ、中国はロシアに対しては制裁を行わないと見られ、中国の輸入原料炭価格には低下圧力が掛りやすい。

本日は、中国の統計が需給のタイト化を示唆する内容だったことから、鉄鋼原料価格は高値維持の公算。なお、ロシアに対する制裁で原料炭の海上輸送市場需給はタイト化が予想されるため、原料炭価格は上昇へ。

◆貴金属

昨日の貴金属セクターは上昇した。ロシアに対する制裁強化で景気が悪化するとの見方から、安全資産である米国債が物色され原油価格も上昇、実質金利が低下したことが背景。

金の基準価格は1,647ドルと急上昇、逆にリスク・プレミアムは299ドルまで低下している。しかし300ドル近い水準(前回のシリアやクリミア半島併合時の水準とさほど変わらない)であり、インフレ・リスク両面で金は高い。

銀は安全資産需要が高まる中で絶対価格水準が金よりも安いことから、大幅な上昇となった。

PGMはロシアの供給依存が高いパラジウムが大幅に上昇、プラチナの上昇はそれほどでもなかった。

本日もロシア・ウクライナ情勢を受けた株・金利・原油動向に左右される形となるが、ロシアのデフォルト懸念やロシアからのビジネス撤退の中で企業業績が悪化、株価が調整しやすい地合にあることから貴金属価格は高値維持の公算。

◆穀物

シカゴ穀物市場は暴騰。ロシアとウクライナの情勢が全く緩和せず、ウクライナの港が稼働しないなか、海上輸送市場の需給がタイト化するとみられたことから。

また、ロシア国内が食品インフレに晒されるリスクが高まっているため、そもそも外貨決済が困難になるなかで「ロシアが小麦などの食品を輸出しない」という選択肢もありえる状況になっていることも、価格を大きく押し上げている。

本日もロシア・ウクライナ情勢次第であるが、両国を含む穀物輸出に影響が出ていることから、高値維持の公算。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・ロシア・ウクライナの衝突の影響が長期化し、欧州を中心に景気が減速する場合。

また、ロシアに対する制裁がロシアが主要生産地である商品の供給を制限し、価格を押し上げ、景気を悪化させるリスク(価格下落要因)。

なお、今回の対応如何では中国が台湾を武力で早期に併合する可能性を高めることになる。

・ロシア国債のデフォルトや、ロシアからのビジネス撤退が企業や信用市場に大きな永享を与え、クレジットクランチ(信用収縮)が発生する場合。

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

むしろこの可能性は高待っており、リスクシナリオではなくなりつつある。

・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。

・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。


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