CONTENTSコンテンツ

原油は中東情勢不安で上昇~ロシア情勢は新規材料乏しく
  • MRA商品市場レポート

2022年3月28日 第2162号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「原油は中東情勢不安で上昇~ロシア情勢は新規材料乏しく」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格はエネルギーや農産品が上昇し、非鉄金属や貴金属が下落した。ロシア・ウクライナ情勢に大きな進捗がない中、米インフレ懸念の高まりを受けてFOMCメンバーが利上げペースの加速を容認する発言をしたことが金利高・ドル高を助長し、この影響の大きい金属セクターが売られる流れとなった。

一方、原油はサウジアラビアに対してイエメンのフーシ派がドローン攻撃を仕掛け石油施設が脅かされていることが供給懸念を強め、価格を押し上げた。

農産品は最早ウクライナからの供給減少は免れないことや生産コストの上昇(エネルギー・肥料価格の上昇)は不可避として物色されたとみられる

※詳しくはエネルギー・農産品のコラムをご参照ください。

ロシア・ウクライナの問題は両国とも停戦を望んでいると考えられるものの、お互いの目標は一致しておらずこのまますんなりと停戦が合意するとは思えない。今のままだと恐らく停戦となっても、何らかの理由を付けてロシアが再びウクライナを攻撃する可能性は高い。このあたりの落とし所はまさに政治であるが、今後考えなければならないのは終戦後の世界がどうなるか、だろう。

戦前に戻り、当たり前のように前と同様のポジションでロシアが国際商流に復帰する、というシナリオは可能性としてはほぼゼロに近いのではないか。

このことは結局、ロシア由来あるいは親ロシア地域からの供給に障害をもたらすことを示唆しており引き続き、供給面が資源価格を高止まりさせる可能性が高いと予想される。

【本日の見通し】

週明け月曜日も引き続きウクライナ・ロシア情勢が価格に影響を与えるが、目先、急速に状況が改善する可能性は低く特にロシアの依存度が高いエネルギー価格は高値を維持すると予想される。

【昨日のトピックス】

週末は大きな材料もそれほどなかったが、FOMCメンバーの発言が目を引いた。というのもこれまでは穏健かつ慎重な利上げを継続する方針を維持していたが、急速にタカ派に傾きつつあり、50bpペースでの利上げを否定しないどころか肯定する動きが強まっている。

本日のMRA外国為替レポート「世界経済・長期トレンド転換とボラティリティ拡大のリスク」で詳述しているが、今回の物価上昇は一過性のものではなく、新しいトレンドになる可能性は無視できない。

ベルリンの壁崩壊後、なし崩し的に共産主義社会が崩壊、結果的に中国も国際商流に組み込まれる形になり、膨大かつ安価な労働力を背景とする「デフレの輸出」が発生し、1990年以降、一貫して長期金利やインフレ率は低下した。

今回、コロナの影響による物流の目詰まりなどを背景に物価は上昇してきたがコロナを景気とする「中国のサプライチェーンからの切り離し」や、今回のロシアのウクライナ侵略を受け、このコラムでも繰り返し主張しているように「親中国と親米国」に世界の国々が色分けされる可能性が高まっている。これは最早「メインシナリオ」と考えるべきだろう。

となると時計の針を30年巻き戻しそれよりも前の時代に世界が戻る、ということを念頭に置く必要がある。平たく言えば、物価上昇率が30年前に戻る可能性があるということだ。

となると、これまでのFOMCメンバーの超タカ派的な戦略は首肯出来るところでもあり、物価は2%が目標ではなく、3~4%が発射台ということになるのではないか。

これは否応なしに日本の輸入物価を押し上げ、日銀が「躊躇なく」追加で緩和することが容認出来なくなるタイミングが早晩訪れることを示唆している。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇した。イランが支援するとされるイエメン・フーシ派がサウジアラビアに対してドローン攻撃を実施、サウジアラビアの原油貯蔵施設が相次いで攻撃を受けていることによる。

米国はオバマ政権時代にイラン問題を解消すれば中東問題は解決で、その後、戦力を中国に充てるとしてきた。この戦略にも賛否があるが、弊社としては「イランを定期的に監視出来る」ためサンセット条項があったとしてもこの合意は無駄ではなかったと考えている。

しかしその後、トランプ大統領が一方的に核合意からの離脱を宣言、イランに制裁を科した。これはイスラエルやサウジアラビアがからの要求もあったとされ、核合意離脱後に両国はこれを歓迎する声明を発表している。

しかしこの間、イランが核開発を継続出来る「口実」を与えてしまったのも事実でありその意味では拙速だったといえる。そして現状、イランを交渉テーブルに着かせるために制裁解除はエスカレートしており、結果的にサウジアラビアと代理戦争をしているイエメンの戦況をより激化させ、サウジアラビアやUAEヘのフーシ派を通じたイランの攻撃が過熱することになっている。

この状態でバイデン政権は昨年2月にサウジアラビアに対する武器供与を凍結(昨年11月に解除)、これに対してサウジ政府が立腹していることは間違いがない。凍結解除は原油価格高騰で消費国が困った状態になって行われたものであり、サウジアラビアやUAEからすれば「散々好きなことをしておいて、ここで増産要請とは自分勝手も甚だしい」と思っていることだろう。

バイデン政権はオバマ・トランプ・バイデンと続くこの14年近い時間の流れの中で状況が変わっていることを十分に理解出来ていなかった(そもそも異常気象やロシア情勢といった想定外の事態で原油価格がここまで上昇するとは想定していなかった)といえるだろう。

現在のシナリオ別原油価格見通しでは、EUがロシア産原油輸入停止で合意出来なかったことで、再び1.のシナリオから3.に移行しつつある。そして上述の通りOPEC増産はイランが有り得そうだが、OPECプラスとしての増産は、米国側の中東戦略の見直しが行われ無ければ難しいと予想される。

ロシア原油の市場からの締め出しは、実際には難しい。恐らくは同盟国である中国、パキスタン問題でロシアの援助を得たいインドなどが「大幅なディスカウント」で購入すると見られることから玉突き的に需給が緩和すること、この状況下、ベネズエラやイランなどへの制裁が解除される可能性があること、価格上昇による需要の減速を考えると、仮に1.になった場合でも長期にはならない、と見ている。

なお、イランの制裁が解除されれば最大で130万バレル程度、ベネズエラで50万バレル程度の供給増加が期待されるが、即時は恐らく難しく、原油の性状もどこでも受け入れられる訳ではないため、実際の需給が緩和するには時間が掛ると予想される。

<シナリオ別原油価格見通し>

1.ロシア・ウクライナ情勢沈静化せず、ロシアの原油が半分程度市場に出てこない(ないしはその可能性が強く意識される) Brent 125-140ドル

2.1.の状態でOPECプラスのどこかが増産する(規模による)Brent 110-130ドル

3.戦闘状態が継続するがロシアからの原油・石油製品供給が減少しないBrent 90-125ドル

4.3.の状態でOPECプラスのどこかが増産するBrent 80-105ドル

↑ 上記は停戦が行われない場合のシナリオ

↓ 下記は停戦が行われた場合のシナリオ(現在はこちらに移行しつつある)

5.ロシアがウクライナから撤退Brent 70-100ドル

6.5.に加えてOPECプラスのどこかが増産Brent 60-80ドル

週明け月曜日は目立った新規材料にとぼしく、現状の高値圏でのもみ合いが続こう。

31日はOPEC総会が予定されているが上述の通り、恐らく今回も予定通りの40万バレルの増産決議に止まると予想される。

◆石炭・LNG・天然ガス

豪州石炭スワップ先物価格は小幅に上昇して327ドルとなった。ただし限月交代に伴う値動きといえ、第2限月以降は軒並み水準を切下げている。

NEWC先物は限月交代となるが、これによって直近の水準だった300ドル台まで戻るのか、現在の水準に定着するのかは今後の状況による。

しかし、欧州最大の電力消費国であるドイツの発電構成を見るに、不安定な風力発電状況を受けて石炭火力の比率が上昇しており、これまで時期的・地域的に石炭の需要が旺盛ではなかった欧州向けの需要が増加する可能性を考えると、高値での推移になると考える方が適切だろう。

なお、石炭価格と原油価格の相関性は高く、Brent120ベースだとNEWC価格は390ドル程度が説明可能な水準となる。

欧州天然ガス価格は下落。米国と欧州がLNG供給契約で合意に至ったことが域内供給不安の解消に繋がるとの見方が強まったため。

手元の統計で確認できるデータだと、域内最大の生産国であるノルウェーの生産は過去5年平均に達していない一方、LNG輸入が過去5年の最高水準で推移していること、石炭火力の増加、景気の減速で需要が減速していることが在庫積増しに寄与していると見られる。

しかし、今年の冬に向けてタンクのキャパシティ90%まで在庫を積み増す見通しであることを考えると、LNG調達のみで今冬(その前にこの夏は猛暑の可能性)の在庫を充分にするには、ロシアからの供給は欠かせない。この間、TTFやJKMの価格は高止まりしよう。

中長期的に脱ロシア戦略をEUは進める方針であるが、脱ロシアが完了してからはガス・LNG市場は需給が緩和して下落に転じると予想される。

ただしこれは「脱炭素の枷」が外れた状態になるという前提で成立するものだ。今までのようにデモまで起こして上流部門開発を停止せよ、という動きが強まったままの状態が続くようであれば、恐らく上流部門投資が行われず、価格は上昇したままとなる可能性がある。

仏独の原発の稼働率はフランス・ドイツとも低下している。なお、ドイツの発合計発電量は季節性に従って減少している。総じて原発は横這い、風力発電の減少分を石炭とガスで補っている状況。

※前回まで原発稼働状況の発電量の水準が正しく計算されておらず、本日より修正しました。ご迷惑をおかけしますが、こちらの水準がただしい水準となります。

米国天然ガス価格は上昇。米中西部の気温低下予報と、欧州ヘのガス供給契約合意で欧州向けのガスフローが増加すると見られたことが材料。JKM先物は直近限月が小幅な下落、期先が下落した。

3月20日時点の日本の発電用LNG在庫は168万トン(前年同月末241万トン、過去4年平均219万トン)と再び減少している。今年の夏は猛暑が見込まれているため、夏場の供給不足のリスクは小さくない。

3月14日~20日のLNGトレードだが、取引量は▲5%の770万トン(前週+11%の810万トン)となった。スポット取引のシェアは34%と前週の23%から上昇。主に欧州向け(英国、フランス)の供給増加がスポットカーゴ増加に寄与。

長期契約は日本・韓国・中国・台湾で減少。特に日本は▲52万トンの減少となった。

週明け月曜日の石炭価格は、欧州向けの需要増加で堅調だがつい先日までマークしていた300ドル台に復帰するのか、現状水準が肯定されるかに注目が集まる。

LNG・天然ガス価格は米国の欧州向け供給増加観測で、HHとTTFのスプレッドが縮小する(TTF低下、HH上昇)と予想され、TTFの下押し圧力でJKMも小幅に低下しよう。

※LNGの数量とガスベースの換算レートは、注記がなければBP提示の 1トン=1,360立方メートルを用いている。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は鉛と亜鉛が前日比プラスで引けたが、その他の金属は水準を切下げた。ドル高の進行と欧州製造業PMIの減速を受けた景気への懸念が価格を下押しした。

ロシア・ウクライナ情勢が価格に影響していることは間違いがないものの、新しい材料に不足しておりパニック的な買い戻しが一巡する中、ドル高の進行を背景に調整売りに押されたと整理するのが妥当だろう。

高騰していたニッケル価格は週末は下落して引けている。青山控股集団のポジション解消の買い戻しが価格を値幅制限一杯まで押し上げていたが、買い戻す側としてもマージンコールの調達に目処が立った中では無理に買い戻しを急ぐ必要がなくなり、下落した局面での買い戻し戦略に転じたと考えられる。

いずれにしても青山控股集団のヘッジ外しがしばらく続くと予想されることから、ニッケルは当面の間、高値での推移を余儀なくされそうだ。

昨日時点の在庫から推定されるニッケル価格は24,538ドル、誤差を1標準偏差考慮で27,558ドル、2標準偏差で30,578ドル。

先日、Apple社がElysis社の技術を用いたグリーンアルミの使用について報じていた。アルミニウムは生産工程で多量の二酸化炭素を排出するが、今回の技術では、アルミナ溶液を電気分解するときに電極として用いるカーボン・アノードをカーボンを使わない、不活性アノードに変更することで二酸化炭素ではなく酸素を排出する仕組み、ということだ。画期的な技術といえる。

とはいえ製造工程で電力が不要になるわけではなく、火力を用いるようであれば二酸化炭素は排出されるため、仮に本当にクリーンを達成するためには水力、その他のクリーンエネルギーへのシフトが必須となる。

今回は水力から得るとしているが、恐らく商用的な需要を満たすだけのアルミを全てクリーンエネルギーで取得するのにはコストと時間がまだ必要になるだろう。

アルミはLME指定庫在庫の水準で説明可能なアルミ価格は2,953ドル、誤差考慮後(2標準偏差)は3,380ドル。

NEWCを元にした回帰では3,457ドル、1標準偏差考慮後の水準が3,716ドルであり、コスト面からはまだ上昇余地があることになる。

亜鉛はLME在庫水準からの推定では3,697ドル、2標準偏差で4,044ドル、TTFとの回帰では3,491ドル、2標準偏差で3,897であり、足下の水準はこれより高くなった。ロシアからのエネルギー供給途絶によるリスクが強まっていることによると考えられる。

週明け月曜日はロシア・ウクライナ関連の新しいニュースが出てこないが、引き続き供給面が意識されていることから高値を維持すると考える。

なお、先ほど発表された1-2月の中国工業生産は前年比+5.0%と12月の+4.2%から伸びが加速しているため、このことも価格を下支えしよう。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は小幅に下落、大連原料炭価格は上昇、上海鉄鋼製品先物は上昇した。

中国のコロナ感染拡大による工場稼働の鈍化が鉄鋼製品供給を制限していることから鉄鋼製品価格が高止まり、鉄鉱石・原料炭価格を押し上げる状況が継続している。

週次の鉄鉱石在庫は前週比+20万トンの1億5,600万トンと過去5年平均の1億3,924万トンを上回っており、在庫日数も38.4日(過去5年平均35.6日)を上回り再び日数ベースの在庫水準は上昇、需給は緩和している。

一方鉄鋼製品在庫は前週比▲7万2,000トンの1,864万7,000トン(過去5年平均1,881万9,000トン)と過去5年平均を下回っており平年比で製品在庫水準が低い状態が続き、需給はタイト。

基本的に原料炭供給不足が定常化しており、今後、ロシア炭は中国向けの供給が増えるがその他の地域への供給は増加しないため、中国と海外の内外価格差は広がると予想される。

とは言え、鉄鉱石も原料炭も絶対価格水準が高いことは事実であり、日本の調達する鉄鋼原料価格は高止まり、鉄鋼製品価格への転嫁が進むため消費者の負担は増加するだろう。

鉄鋼製品価格を元に行った回帰分析の結果は、鉄鉱石価格が154ドル、原料炭価格が243ドル程度を示唆している。

週明け月曜日もコロナの影響による経済活動の鈍化とそれに伴う鉄鋼製品供給減少、コスト高の影響の綱引きとなり、高値圏での推移が続くと予想される。

◆貴金属

昨日の貴金属価格はまちまちとなった。米金融引き締めを加速させることを意識させるような発言がFOMCメンバーから多数聞かれたこと、株価が再び上昇していることで長期金利が上昇し、実質金利が上昇したことが金の基準価格を1,496ドル(前日比▲21ドル)と高い水準を維持したため高値を維持した。

銀価格ももみ合った結果ほぼ前日比変わらず。

PGMは大幅に下落。特に材料はなかったが米国時間に入ってからのパラジウムの下落が顕著だった。週末を控えたポジション調整の売り、と考えるのが妥当だろうが週末を挟んでロシア・ウクライナ情勢に何らかの進捗があるのでは、との懸念がポジション調整(利益確定)を急がせた可能性はある。

週明け月曜日は金銀価格は米金融引き締め継続観測を受けた長期金利の上昇圧力を受けて調整、PGMは恐らくロシア・ウクライナ情勢に進捗がないため、再び買い戻されると予想。

◆穀物

シカゴ穀物市場は上昇した。前営業日の下落を受けて安値拾いの買いが入ったためと考えられる。ロシア・ウクライナ情勢に改善がみられず、このままだとウクライナからの供給が減少することはほぼ確実な情勢であり、需給逼迫懸念がシカゴ穀物価格を高止まりさせている。

今のところ市場は来週発表の米作付意向面積に注目しているが市場予想は以下の通り、価格上昇を受けていずれも作付面積が増加する見通し(除コメ)となっている。

全小麦 4,762万エーカー(前年4,636万エーカー)トウモロコシ 9,197万エーカー(9,114万エーカー)大豆 8,891万エーカー(87,600万エーカー)コメ 251万エーカー(271万エーカー)

週明け月曜日も目立った新規材料に乏しい中、供給不足懸念が強いことから高値維持の公算。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・ロシア・ウクライナの衝突の影響が長期化し、欧州を中心に景気が減速する場合。

また、ロシアに対する制裁がロシアが主要生産地である商品の供給を制限し、価格を押し上げ、景気を悪化させるリスク(価格下落要因)。

なお、今回の戦争の後、ロシアがソ連復活を目指してジョージアやモルドバに侵攻するリスクや、今回の対応如何では中国が台湾を武力で早期に併合する可能性を高めることになる。

・ロシア国債のデフォルトや、ロシアからのビジネス撤退が企業や信用市場に大きな影響を与え、クレジットクランチ(信用収縮)が発生する場合。

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

むしろこの可能性は高待っており、リスクシナリオではなくなりつつある。

・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。

・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。

◆本日のMRA's Eye


「供給リスクでアルミは高値維持」

ロシア・ウクライナの停戦協議関連報道を受けて調整していたアルミ価格だが再び急騰している。

ウクライナに対するロシアの侵略戦争に対して豪州がアルミナの輸出を即時停止すると決定したことで供給不安が台頭、ロシアはアルミの原料であるアルミナの約20%を豪州からの供給に頼っており、これが即時停止することで原料調達コストの上昇と製錬アルミ現物供給懸念が台頭したことが背景にある。

通常、アルミや銅などの景気循環系商品価格は景気に価格が連動しやすく、最大消費国である中国やその最大貿易相手経済圏であるユーロ圏の減速が見込まれる中では価格の下落圧力は強まりやすい。

しかし明らかに足下はコスト要因が最終価格に与える影響が大きいといえる。これまで石炭価格の上昇による燃料コストの上昇の価格への影響が大きかった。中国がアルミの最大の生産国であり、世界全体で見たときに6割程度が石炭火力で発電した電気でアルミを生産しているからだ。

ここにアルミナの供給制限が重なり、価格が上昇した形となる。なお、アルミナはLMEアルミ価格を参考に価格がフォーミュラ(一定の式に基づいて価格が決まる方式。アルミ価格×A+B といった形で決定されることが多い)になっていることも多く、この場合、アルミ価格が上昇する局面ではよりアルミ価格が上昇するといったことが起きる。

LMEのアルミ指定倉庫在庫の水準のアルミ価格への説明力は高いが、ロシアに対する制裁強化への懸念が強まる局面で価格は大幅に上昇しており、回帰直線からはかなり情報に乖離した水準で取引されている。

回帰分析は必ずしも万能ではないが、回帰直線からの乖離の標準偏差を用いた分析では、2標準偏差の水準である3,420ドルを大きく上回る3,500ドルで推移している。

在庫は需要と供給の「最終的なバランス」を示すものでありこの中には需要と供給両面の要素が含まれている(期初在庫+生産-当期需要=期末在庫、となるため)。

最大生産国である中国のアルミ製錬業の稼働率は低く、中国のアルミ需要に対する説明力が高い住宅販売の減速に比べると現在のアルミ価格がこうした過去データから乖離して上昇していることが分かる。

このことはひとえに現物調達が困難なことと、それ以上にコスト面が意識されているためと考えられる。仮にNEWCをベースに分析を行うと現在の価格は概ね豪州炭の価格で説明が可能な水準での推移となっており、石炭価格によるアルミ価格分析は引き続き有効であることを示している。

今回、脱ロシアを進める中で石炭火力を用いる可能性は高く、かつ、石炭供給は悪天候などの影響で制限されているため、通常であれば需要期が終る春先には価格が下落するのだが、それが期待したほどの下落にならない可能性は高いだろう。

一方、各地の現物プレミアムはほとんどの地区で上昇しており、足下の需要もまだ旺盛であることを示唆している。

ロシアが撤兵したとしても制裁が解除されるかどうかは分からないが、現状、アルミ価格が下落するためには停戦・ロシア軍撤兵は必要条件である可能性が高い。


主要ニュース/エネルギー・メタル関連ニュース/主要商品騰落率/主要指数/市場の詳細データPDFは、有料版「MRA商品市場レポート」にてご確認いただけます。
【MRA商品市場レポート】について