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ロシア情勢を受けて高安まちまち
  • MRA商品市場レポート

2022年2月25日 第2142号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「ロシア情勢を受けて高安まちまち」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は高安まちまちとなった。ロシアが想定外のウクライナ全土に軍事侵攻を行ったことで特定商品の供給懸念が高まったことと、それに伴う価格上昇が調達コストの上昇を通じて景気を悪化させる、との見方が強まったことが材料となった。

調達コストが上昇する、との懸念が強まっているのが原油・ガスが筆頭で、欧州天然ガススポット価格は昨日1.5倍に上昇し、極東のLNGスポット価格であるJKM価格は1.3倍の上昇となった。

また、ロシア・ウクライナが主要な輸出国である小麦・トウモロコシの上昇も顕著で、ニッケル、アルミも同様だった。

一方、安全資産として物色されてきた金は株価急落による益出しで下落(今回の金需要は、デフォルトリスク警戒というよりは、株価急落への備えであるため株が売られる時にはまさに保険として機能して売られる)した。ベンチマークである金価格の下落でパラジウムを含むPGMも下落。しかし、今後の情勢不安継続を背景に高値を維持している。

今後は既にウクライナ全土を掌握しつつあるロシアに対してどのような制裁を科すかは問題で、既に軍事行動の抑止にはならない。また、いかなる制裁を行っても不退転の決意で軍事行動を行っているプーチン大統領の考えを改めさせることは無理だろう。

となると、プーチン政権に打撃を与えてロシアの政権崩壊を促す戦略しかなくなるが、この場合はロシアの屋台骨であるエネルギーに対して制裁を科すしかない。

脱炭素は長期的にはロシアの関与を低下させるが、同時に脱炭素に必要な物資はロシア・中国陣営がその大半を掌握していることを考えると今、これを強硬に進めることは得策とはいえないし、時間が掛る。

仮にエネルギー調達やそれに必要な資源調達、メンテナンスを中国やロシアなどの「自国陣営ではないところ」に依拠した場合、今回の欧州やウクライナと同様のリスクに晒されることになる。

誤解を恐れずに言えば、一時脱炭素を棚上げして同盟国内で強固なエネルギー・資源調達の安全保障体制を構築する必要がある。その上での脱炭素だろう。

今回のことで明らかになったのは、真の同盟国ではない限り、全く信頼できる供給先にはならないということである。

(ロシア問題に関して詳しくは以下のMRA's Eyeをご参照ください)

・2022年1月20日「ロシア・ウクライナ軍事衝突懸念」
https://marketrisk.jp/news-contents/contents/20512.html

・2022年2月15日「ロシア不安の資源供給への影響」
https://marketrisk.jp/news-contents/contents/20462.html

・2022年2月22日「ロシア軍事侵攻の金価格への影響」
https://marketrisk.jp/news-contents/contents/20540.html

※2月15日、22の解説は、有料の商品市場レポートの読者の方向けにメールで配信しています(上記リンクから全文は参照できません)

【本日の見通し】

本日もロシア・ウクライナ情勢次第で非常に不安定な推移になると考える。

ウクライナのゼレンスキー政権は、ウクライナ国民に対して国家総動員令を発令、全土の兵士と予備役が招集され、ロシアと軍事的な対立を継続する方針を示している。

この状況でNATOは兵を送らない、米国も軍をウクライナには派遣しない、と明言している。しかし「どうせ何もしてこない」とたかを括っているプーチン大統領を利するのみであり得策とはいえない。

この状況だと、仮に経済制裁を行っても状況の改善には時間が掛り、1ヵ月程度の早期収束がメインシナリオだったが、想定以上に問題解決に時間が掛ることは想定しておく必要があるだろう。

【昨日のトピックス】

ウクライナに対してロシアが全面的に軍事侵攻を開始した。ウクライナ東部、ドネツク・ルガンスクなどの親ロシア派の武装勢力が支配する地域の独立をロシア政府が一方的に認め、そこの治安維持のためにロシアが軍を派遣して実効支配を強め、それに対する牽制として経済制裁を行うというある意味段階的な展開が想定されていたが、それが一気に覆されることとなった。

最早、経済制裁が軍事侵攻を踏み止める効果は期待できず、制裁が行われてもロシア軍が撤兵するとは思えない。しかし、西側諸国は今後の中国・台湾問題を考えると西側諸国が武力による現状変更を容認する訳にはいかない。

そのため、何らかの経済精査は行われることになると予想されるが、恐らく消費国も非常に大きな影響を受けるがロシア経済の屋台骨である資源輸出に対して制限を掛けることを選択せざるを得ないだろう。

この場合、原油やガス、小麦といった生活必需品のほか、電気自動車のバッテリーに用いられるニッケルや、半導体のメッキや自動車の排ガス触媒に用いられるパラジウムといった資源が対象になる。

既にこれらの商品は供給減少リスクを意識して買いが優勢となり価格が上昇しているが、具体的に制裁が科された場合さらに価格は上昇することが予想される。

特にウクライナの穀物輸出の一大港でありウクライナ海軍が駐留していたオデッサ港が攻撃され(軍事設備のみで、港湾設備自体は破壊されていない模様)、現状、港湾は稼働していない。

今後、穀物の生産のみならず輸出に影響が出ることが予想され、小麦の価格は大幅に上昇している。

日本は輸入小麦の大半を米国・カナダ・豪州から行っているが、ロシアの供給減による輸出市場の需給はタイト化が予想されるため、価格には上昇圧力が掛る。

小麦の調達が困難になる、価格が上昇するというだけでなく食品価格の高騰は新興国などの不満を高めることになるため、各地で暴動が頻発するリスクは無視できない。

ただでさえ今年もラニーニャ現象の影響で小麦は生産が下振れするリスクが小さくないのだ。原油やガスも、仮に直接ロシアから購入していなかったとしても、日本が輸入する価格には同様に上昇圧力が掛ることになるだろう。

今回、西側諸国がどの程度の制裁を行うかが不透明であるが、資源価格が上述の通り上昇した場合インフレ抑制の観点から利上げや、中央銀行のバランスシートの縮小を行うQT(Quantitative Tighting)が加速して物価上昇沈静化の軟着陸に失敗、経済がオーバーキルとなる可能性もある。

また原油をはじめとする原材料価格の上昇も、消費国にとっては金融引き締めと同様の効果をもたらすため景気にマイナスに作用するため下振れリスクは小さくない。

もちろん、景気減速懸念が強まる中で金融引き締めペースが鈍化することもあり得るが、現時点では引き締め加速の可能性の方が高いのではないか。

日銀は金融緩和を継続する見通しで金利差からの円安進行が見込まれる中、輸入インフレは加速することとなろう。

日本の金融政策はある意味、急速なインフレの発生を前提とせずに行われていたため実際にインフレとなった場合に非常に難しい舵取りを迫られることになる。我々日本人にとってもウクライナ問題は対岸の火事ではなく隣の火事であり、今はまさに正念場といえる。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇後下落したが、一時的に100ドルを大きく上回ったが、IEAが戦略備蓄の協調放出の可能性を示唆したことや、景気減速への懸念から引けに掛けて急速に水準を切り下げた。

欧米各国はロシアに対する制裁を発表したが、市場が懸念していたSWIFT除外やエネルギーの禁輸措置は「返り血」を浴びたくない、あるいはそれをやるだけの準備が整っていないとしてエネルギー分野への制裁が見送られていることも、原油価格を押し下げることとなった。

昨日米石油統計も発表になった。情報の重要度の観点からは昨日の市場ではそれほど材料視されなくなってしまっている。

この状況で注目すべきは原油生産が全く増加していないこと、一方で輸入は増加、製油所の稼働率は上昇しているが原油在庫は増加している点。今後、ロシアとの対立が強まることは必至であり、原油生産動向が注目される。

ガソリンの需要は低迷、ディスティレートは好調という構図は変わらずだが米国の石油製品全体の出荷は過去5年レンジを遙かに上回っており需要は堅調だ。

米国内出荷が好調なため輸出が低迷しているものの、製品需要は旺盛でありやはり脱炭素の看板を一時的に下ろして化石燃料供給を増加させるべき時に来ているのではないか、と感じる内容。

本日もロシア・ウクライナ情勢を受けた欧米の制裁動向に左右される展開が予想されるが、今のところエネルギー分野への制裁が見送られているため、「景気減速」と「戦略備蓄放出」が意識されることから、需給ファンダメンタルズ緩和で価格はやや下落しよう。

しかし、地政学的リスクが解消するまで構造的な供給不安は変わらないこと、から高値維持の公算。

実際に原油の禁輸措置が行われれば恐らく120~140ドル程度がコアレンジになると予想される。

◆石炭・LNG・天然ガス

豪州石炭スワップ先物価格はロシア情勢不安を背景に、ロシアからの石炭供給減少懸念の高まりを受けて水準を切り上げる展開となった。

中国の石炭輸入の指標の1つであるバルチック海運指数はさらに上昇、過去5年レンジを大きく上回っている。

欧州天然ガス価格は大幅に上昇した。ロシアのウクライナ侵攻を受けてドイツがノルドストリーム2の認可を停止、さらにロシア軍がウクライナ全土に展開、ベラルーシも関与しており、ロシアからのガス供給は事実上、当分の間制限されるとの見方が強まったことが、買い戻しを誘った形。

今後、どこのタイミングで軍事行動が終了し、かつ、欧米の制裁も見送られてガス供給が再開されるかは分からないため、その不安心理が買いを誘う形となっている。

なお、TTFの期間構造は期近の上昇が顕著で1.5倍程度上昇しているが、期先の上昇も無視できず、2022年~2023年ゾーンは+20羽の上昇となっている。期間構造の変化が起き始めている状況。

仏独の原発の稼働率は低下しており、引き続き冬場の電力供給状況は不安定。

米国天然ガス価格は小幅に下落。欧州問題はあるが気温の上昇が需要を減じるとの見方から。なお、米国からLNG輸出が加速して需給がタイト化するほどの輸出は起きておらず、そのような裁定取引が働くようになるには、輸出能力の改善も含めてまだ時間がかかるだろう。

JKMは欧州ガスの上昇を受けて急騰。TTFほどでは愛が、1.3倍程度の上昇となっている。2023-2024年の天然ガス価格は全期間で20ドルを上回った。

2月20日時点の発電用LNG在庫は182万トン(前年同月末230万トン、過去5年平均218万トン)と過去5年の最低である166万トンは上回っているが水準は低く、今後、欧州向けのLNG融通が増えるとみられることから、気温低下(ないしは夏場の上昇)があった場合充分な在庫ではなくなった。

2月14日~21日のLNGトレードだが、取引量は▲13%の710万トンとなった。スポット取引のシェアは22%と先週の24%から低下。欧州の域内生産増加の影響もあり、北欧のスポットカーゴ物色圧力が低下した。

ターム契約ベースの取引は▲11%の減少。日本韓国向けの輸出が減った他、欧州向けの供給は変わらずだった。

今後、ロシアからの供給減少の可能性が高いため、米国から欧州へのカーゴ融通が加速すると見られる。ただ、あと1ヵ月程度で冬場が終了するため、状況はやや厳しさが緩和する可能性はある。

本日の石炭価格はロシアの軍事侵攻に対する制裁、ロシアの欧米の制裁に対する報復などへの懸念から、石炭価格は上昇余地を探る展開。

天然ガス価格はロシアのウクライナ全面侵攻を受けて供給再開の目処が立っていないことからさらに高値を試す展開に。

ベラルーシがロシア側であり、ノルドストリーム2が事実上稼働しないことを考えると、残るのはノルドストリームぐらいのものであり(現在も稼働中だが流入量はやや減少傾向)、充分な供給インフラがない。

JKMも同様の理由で調達圧力が強まることから、水準を切り上げる展開に。なお、2022年~2023年の価格が20ドルを超え、さらに上昇するリスクが出てきた。期間構造が変化する可能性は、現状を考えると高いと言わざるを得ない。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は上昇した。ロシアのウクライナへの軍事侵攻で欧州向けのエネルギー供給が減少する可能性が高まり、さらに精錬品の生産に影響が出ると見られたこと、価格上昇が最大生産国である中国の生産コストにも跳ね返るとの見方が強まったことが背景。特にロシアの生産シェアが大きなアルミ・ニッケルの上昇が顕著。

本日もロシア情勢不安を背景とするエネルギー価格の高騰がコストプッシュ型の価格上昇圧力となるほか、ロシアに対して何らかの制裁が行われることが確実で、「代替調達先がある」アルミやニッケルは、エネルギーと異なり制裁対象となりやすいことを考えると、アルミ、ニッケルなどの価格はより上昇することが予想される。

一方、資源価格の上昇が景気悪化(資源価格上昇による調達コストの上昇は、消費国にとっては金融引き締めと同様の効果)をもたらすため、価格上昇は余り望まない形(景気悪化による需要減少)で終焉を迎えて下落に転じる可能性は低くないと見ている。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップはほぼ変わらず、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は上昇、上海鉄鋼製品先物は下落した。

鉄鋼製品価格は製品在庫の積み上がりと、ロシア情勢不安を受けた景気への懸念、中国政府の不動産セクターの加熱沈静化方針継続を受けて軟調な推移、鉄鉱石や原料炭は生産地の供給不安で高値を維持している。

本日は、中国国内の鉄鋼製品在庫の増加と、ロシア情勢不安の悪化を受けた景気への懸念から鉄鋼製品価格が下落すると予想されるため、鉄鋼原料価格も小幅に調整か。

◆貴金属

昨日の貴金属セクターは軟調な推移となった。ロシアのウクライナ侵攻を受けて急騰していたが、原油価格がSPRの放出観測で下落したこと、株価下落を受けた「利益確定」の動きが出たため。銀、PGMも金価格の下落に連れる形となった。

本日もロシア情勢次第となるが、ロシアがウクライナに全面侵攻しもうすぐ全土が掌握される見通しで、これに対する制裁が行われると予想されることから、供給不安が価格を押し上げることになると予想する。

◆穀物

シカゴ穀物市場はまちまちとなった。小麦・トウモロコシはロシアのウクライナ侵攻でウクライナの主要港全てが閉鎖となっていることから大幅な上昇、大豆も同様の展開となった。

しかし、リスク回避のドル高が進行する中で上げ幅を削る展開となり、大豆についてはロシア・ウクライナが主要生産国ではないこともあって最終的には前日比マイナスとなった。

なお、ウクライナ・ロシアで小麦輸出市場の3割弱、トウモロコシのウクライナの輸出市場でのシェアは15%と高く、同地域の混乱継続は価格上昇に繋がる。

なお、昨日、米農務省が作付面積予測を発表しているが、ほとんど材料にはされなかった(概要は以下の通り)。

トウモロコシ 9,200万エーカー(前年9,200万エーカー)大豆 8,800万エーカー(9,000万エーカー)小麦 4,800万エーカー(4,500万エーカー)

本日もウクライナ・ロシア情勢を背景に小麦・トウモロコシの供給懸念が強まり高値を維持する見込み。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・ロシア・ウクライナの衝突の影響が長期化し、欧州を中心に景気が減速する場合。

また、ロシアに対する制裁がロシアが主要生産地である商品の供給を制限し、価格を押し上げ、景気を悪化させるリスク(価格下落要因)。

なお、今回の対応如何では中国が台湾を武力で早期に併合する可能性を高めることになる。

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

むしろこの可能性は高待っており、リスクシナリオではなくなりつつある。

・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。

・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。


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