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ロシア不安若干の緩和でエネルギー・貴金属・穀物が安い
  • MRA商品市場レポート

2022年2月16日 第2135号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「ロシア不安若干の緩和でエネルギー・貴金属・穀物が安い」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格はエネルギーや貴金属、穀物価格が下落した。ロシア軍がベラルーシ合同軍事演習の後に帰国の途に就いたとの報道、プーチン大統領が欧米との交渉を継続すると発言したことで緊張が緩和、供給懸念が意識されていたエネルギーや貴金属、穀物の供給不安がやや後退したことが背景。

その結果、リスク・オン相場となりドル安が進行、その他農産品や非鉄金属が物色される動きとなった。

ただし、ロシアは今後も交渉を継続するとコメントしているものの、既にウクライナの国防省のホームページにはサイバー攻撃が仕掛けられているようでサーバーがダウンしており、アクセスが出来ない状態になっている。

このことを考えるとNATOの東方拡大を撤回しない限り、ロシア・ウクライナの情勢不安は解消しないとみるべきだろう。そのため供給不安解消で売られた商品の下げ幅も限定されているとの印象。

【本日の見通し】

本日はウクライナ情勢の緊張が若干緩和していることを受けたリスク・オン相場の回復でドル安が進行、多くの商品に買い戻しが入ると考える。

ただ、ウクライナ情勢を材料に上昇していた原油や貴金属、農産品は一旦下落することになるだろう。しかし、上述の通り既にロシア(と思われる)のサイバー攻撃が発生していると見られ、同問題の根本的な解決にはまだかなりの時間を要することになるだろう。

本日の材料で注目は1月のFOMC議事要旨。この会合では政策金利は据え置かれたが、近く政策金利の引き上げが適切になると3月利上げを示唆、その後のFRB議長の記者会見では利上実施の後、年後半のQTを示唆している。

これ利上げのタイミングやQTに関する具体的な言及について注目したい。

【昨日のトピックス】

昨日発表された日本のQ421のGDPが発表され、前期からは回復したものの市場予想は下回った。緊急事態宣言の解除で人流が回復、飲食店の時間制限などもなくなったことが消費増加に寄与した。

コロナの影響から脱却したと見られるGDPだったが、既に新しいコロナの影響を受けているためQ122のGDPは悪化が見込まれる。結局回復軌道に乗るかどうかはコロナの状態次第ということにならざるを得ない。

また、昨日はロシアがベラルーシとの合同軍事演習後にロシアに撤収を始めたと報じられキエフへの侵攻懸念は後退した。昨日のMRA's Eyeでもコメントしたとおりロシアも財政状況を考えると実際に軍事行動を起こすのはリスクシナリオと整理しておくべきだろう。

ただ、注意すべきは想定されていたことではあるが(2022年2月10日付MRA's Eye「他人事ではないウクライナ問題」参照)、ロシア海軍がオホーツク海で軍事演習を行っている点だ。

今のところこれもリスクシナリオでは有るが、ウクライナ問題は日本は欧米に追随する対応しかしないが、それを行った場合、サハリンからのLNGや原油調達に影響が出る、場合によると漁船なども拿捕されるといったことが起きる可能性は高い。

こうした地政学的リスクの高まりに晒されていることを考えると、日本にとってウクライナ問題は全く対岸の火事とはいえないどころか、隣の火事、である。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は大幅に下落した。攻撃があるのでは、と懸念されていたロシア・ベラルーシ合同軍事演習中のウクライナ侵攻懸念が後退、一部の軍が帰途に就いているとの報道、プーチン大統領が欧米と交渉を続けると発言したことが材料となり、緊張が緩和したため。恐らく価格がピークだとして実需のヘッジ売りが入ったと考えられる。

また、イランが核合意の早期復帰を望む発言をしたことも、価格押し下げに寄与した。

本日はウクライナ情勢の緊張緩和で軟調推移が予想されるものの、既にウクライナの国防省に対してサイバー攻撃が仕掛けられており(弊社もアクセスを試みたがサーバーがダウンしているようでアクセス出来ない)、両国の軍事緊張並びにロシアに対する制裁懸念は排除されていないため、高値維持の公算。

本日発表の米週間石油統計では原油在庫の減少(▲0.7MB)が見込まれているが、朝方発表のAPI統計では▲1.1MBの減少が確認されているため、上昇要因となる見込み。

また、FOMC議事録にも注目が集まるが、原油の場合は供給不安問題の影響の方が大きいため影響は限定されるとみている。

◆石炭・LNG・天然ガス

豪州石炭スワップ先物価格は小幅に下落したが240ドル近辺で推移。ロシアとウクライナの緊張緩和によるガス価格の調整が影響したとみられる。

中国の石炭輸入の指標の1つであるバルチック海運指数は高水準を維持し、5年レンジを上回っている。石炭だけではなく、中国勢の市場復帰で物流が回復しているためとみられる。

欧州天然ガス価格は大幅に下落。プーチン大統領が欧米との交渉を継続すると発言したことで供給懸念が後退、実需や投機の手仕舞い売りを誘ったと見られる。

ただしその後もウクライナはサイバー攻撃を受けており、両国の対立が解消したわけではなく、下げは限定されている。

仏独の原発の稼働率は低下しており、引き続き冬場の電力供給状況は不安定。

米国天然ガスは米北東部の気温低下で上昇した。なお来週以降は気温上昇の見込みであり気温による価格上昇の影響は一時的か。

JKMは欧州ガスの下落を受けて水準を切下げた。28ドルを上回っていた2022年-2023年冬場のJKM価格は25ドル台まで低下している。

ただ、2月6日時点の発電用LNG在庫は163万トン(前年同月末230万トン、過去4年平均163万トン)と大幅に減少している。LNGの欧州への融通を決めたが気温低下があった場合充分な在庫ではなくなった。

また、恒常的に欧州にガスを融通するならば、日本のスポット調達圧力が恒常的に高まることになるため、厳冬・猛所の現物ショートのリスクは無視できない。

2月7日~13日のLNGトレードだが、取引量は+11%の820万トンとなった。主に日本と中国向けの長期契約ベースのカーゴ流入増加が背景。

一方、スポット取引のシェアは24%と先週の29%から大きく低下している。主に東南アジア・南アジア向けのカーゴが減少したことによるもので、主要輸入国である中国・日本・韓国・台湾の輸入量はほぼ変わらずだった。

弊社ではデータが取得できないが大西洋航路のLNG船の船賃が急低下、LNGカーゴが供給過多になっているとみられる。

それを反映してかスエズ東西のフレートも低水準での推移が続いている。つまり、フレートレートのみでは足元の現物需給環境を判断するのが難しい状況。

本日の石炭価格も欧州勢・アジア勢の買い継続で高値維持の公算。

天然ガス価格はロシア情勢の緊張緩和でやや軟調も、サイバー攻撃継続などの報道もあり結局高値維持か。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は上昇した。ロシア情勢不安が若干緩和したことでリスク・オン相場となりドル安が進行したことが材料となった。

非鉄金属は最大消費国である中国の情勢が価格に大きな影響を与えるが、昨日は特段中国で材料が出たわけではないため、ドル安という「外的要因」、LME指定倉庫在庫の減少は変わらないことから価格は上昇した。

本日もロシア情勢不安を背景とする金属・エネルギーの供給不安で高値圏での推移が予想される。供給面が価格にプラス、需要面はマイナス、ファイナンス要素は徐々に価格にマイナスに作用しやすく、本日は水準を切下げる金属が多いのではないか。

なお、外的要因への反応が高まっていることを考えると本日のFOMC議事録には注目しているが、LME非鉄金属は時間的にこれを織り込めないため明日以降の材料に。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは大幅に下落、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格は上昇、上海鉄鋼製品先物は大幅に続落した。

鉄鋼製品価格先物は続落したが、特段新規の材料があったわけではなく、休み明けの中国勢の買いが一巡したこと、中国当局の投機的な動きを監視するという数週間前の方針発表が影響した可能性がある。

ただ、純粋に読み解けば、中国の不動産市場加熱抑制がまだ継続しており、鉄鋼需要の回復に繋がっていないとも解釈出来、中国の経済活動は停滞していると考える方が適切かもしれない。

本日も鉄鋼製品価格次第であるが、鉄鉱石の在庫水準は高いのでこちらは軟調、原料炭在庫は主要港である京唐港の港湾在庫の水準が低いことを考えると供給面で高値圏での推移が続くと予想される。

◆貴金属

昨日の貴金属セクターは下落した。ロシア・ウクライナ情勢の緊張が若干緩和したことでリスク・オン相場となり、米長期金利の上昇を受けて実質金利が上昇、金の基準価格が大幅に下落したことが背景。

基準価格は1,474ドル(▲26ドル)と低下、一方リスク・プレミアムは380ドル(+9ドル)と高止まりした。なお、リスク・プレミアムの中にはドル要素も含まれている点は留意。

銀は金価格の下落を受けて大幅に下落。金銀レシオはほぼ変わらず。プラチナも銀価格の下落を受けて下落した。

パラジウムはロシアからの供給懸念が上昇要因となっていたため、緊張緩和報道で水準を大きく切下げた。

本日もロシア情勢不安の後退を材料に、リスク・オン相場となる中で米長期金利に上昇圧力が掛かり、金価格が調整すると見られることから総じて貴金属セクターは軟調な推移に。

なお、ロシア問題が材料としては一旦棚上げとなる中で、1月のFOMC議事録には注目したい。

◆穀物

シカゴ穀物市場は下落した。小麦・トウモロコシがウクライナ情勢の若干の緊張緩和を背景に調整したことを受けて、大豆も売られる流れとなった。

本日も南米の生産下振れ観測とリスク・オンのドル安進行が価格を下支えするが、目先のロシア・ウクライナ情勢の緊張緩和観測から軟調推移を予想。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

・ロシアと西側諸国の軍事衝突のリスク、それに乗じて中国が台湾に侵攻するリスク(世界経済の減速要因)

・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。

・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。

・ロシア・ウクライナ・ベラルーシ・欧州を巡る対立が激化し、軍事的な衝突が発生する場合(景気の減速を通じて景気循環系商品価格の下落要因)。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。


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