CONTENTSコンテンツ

ウクライナ情勢と為替相場
  • MRA外国為替レポート

2022年2月14日号

◆先週の市場総括


先週前半は前週の欧州の金融正常化や強い雇用統計を受けた米長期金利上昇が一服。感染ピークアウトによる経済正常化、底固い景気動向を好感して米国株は持ち直した。

しかし木曜日に発表された消費者物価指数(1月)が予想を上回り前年同月比+7.5%の上昇。さらにセントルイス連銀総裁が3月のFOMC会合で0.5%の利上げ、7月前半までに合計1%の利上げを支持すると発言。

米長期金利は再び上昇。10年債利回りは2%の大台に乗せ、2年債利回りも1.6%に達した。

米国株は大きく反落した。ドル円相場は週初115円台前半でもみ合ったが、米金利上昇に支えられて116円台に上昇した。

木曜日、日銀は長期金利の上昇を抑制するため14日に購入額に制限を設けない指値オペを行うことをアナウンス。日銀が金融緩和姿勢を維持することを鮮明にしたことは円先安感を強めた。

そうしたなか懸念されていたウクライナ情勢が週末に緊迫化。ロシア軍の侵攻がいつあってもおかしくない状況から米大統領補佐官が在ウクライナ米国人に対して48時間以内の退去命令を発した。

市場のリスク回避が一気に強まり米国株は大幅続落。NYダウの下げ幅は2日間で1,000ドルを超えた。米長期金利はリスク回避による資金流入で低下。米10年債利回りは1.92%へ。

リスク回避で円が全面高。ドルは堅調だったが、ドル円相場は米長期金利の低下に押されて週末は一時115円ちょうどまで急落したが、引けは115円40銭。

ユーロは売られユーロドル相場は週初の1.14台後半から週末は1.13台半ば。ユーロ円相場は132円台前半から一時133円をつけたが週末は130円台まで下落し引けは131円ちょうど近辺。

月曜日の東京市場では日経平均は下落。米金利上昇で高PERの割高株、値がさ半導体関連株、グロース株が売られた。一方でバリュー株には買いが入った。金利上昇で銀行・保健株が上昇。

日経平均は27,300割れで安寄りして27,100円近辺に下落。その後は下げ止まり27,150円~250円で上下し引けは▲191円安の27,248円。

ドル円相場は115円30銭で始まり朝方20銭を割ったがその後欧州時間が始まるまでは115円30銭近辺で小動き。ユーロはやや軟調。ユーロドル相場は1.1470で始まり夕刻にかけては1.1430~40でもみ合い。

ユーロ円相場は132円20銭で始まり131円70銭に下落。その後は持ち直して90銭近辺。欧州市場に入るとユーロ安円高に振れた。

発表されたドイツの鉱工業生産指数(12月)が前月比▲0.3%減少と前月▲0.2%減少に続きマイナスとなり予想+0.5%を下回った。

ユーロ円相場は131円30銭~50銭でもみ合い、米国市場ではユーロ安円高は一服し50銭~70銭で上下して引けは131円60銭台。ユーロドル相場は1.1420へ下落して20~50で上下動。

ドル円相場は一時115円ちょうどを割り、その後は下げ一服となり115円10銭近辺でもみ合い引けた。

米国株はまちまち。国内で感染拡大が大幅に減ったことで経済活動正常化の恩恵を受ける銘柄に買いが入った。一方、早期金融正常化観測が上値を抑制。高PER銘柄やハイテク関連株が売られた。

NYダウは+1ドル高の35,091ドル。ナスダックは▲82ドル安の14,015ドル。VIX指数は▲0.36ポイント低下して22.86。

米10年債利回りは一時1.94%に上昇し引けは1.92%近辺。2年債利回りは一時1.33%に上昇し引けは1.29%近辺。原油価格WTI先物は上昇一服も91.32ドルと高止まり。

火曜日の東京市場では日経平均は小幅高。27,300円近辺で寄付き一時27,450円を超え上げ幅は一時+200円高となったが、その後は引けにかけてじり安となり、前日比+35円高の27,284円で安値引け。

主要企業決算発表が続くなか業績・収益見通しが良好な銘柄に買いが入ったが、買い一巡後は利益確定売りに押され伸び悩み軟調となった。

為替市場では朝方円安に振れた。ドル円相場は115円10銭で始まり30銭~40銭に上昇。ユーロ円相場も131円60銭台から132円ちょうど近辺に上昇。

朝方発表された日本の経常収支(12月)は前月8,970億円の黒字から1,060億円への黒字縮小予想を超え、さらに悪化して▲3,700億円の赤字となった。午後にかけてはドル高ユーロ安が進んだ。

ユーロドル相場は欧州市場にかけて1.14ちょうど近辺に下落。ユーロ円相場は131円50銭に下落した。ドル円相場は115円50銭に上昇してもみ合い。

欧州市場に入るとユーロは下げ止まり。ユーロドル相場は1.1400~20で上下動。ユーロ円相場は131円70銭~80銭で上下して一時132円ちょうど近辺に上昇した。

ドル円相場は115円20銭台に下落して下げ止まり。米国時間には115円60銭に反発した。

米長期金利がさらに上昇するなかでも株価は堅調。ドル円相場を押し上げた。引けは115円50銭台。米10年債利回りは1.96%、2年債は1.34%に上昇した。

米国株は金利上昇で金融株が堅調。個別決算・業績見通しが良好な銘柄も上昇。景気敏感株やハイテク株の一角が買われるなど銘柄選別が続いた。NYダウは前日比+371ドル高の35,462ドル、ナスダックは+178ドル高の14,194ドル。VIX指数は▲1.41ポイント低下の21.45。

フランス中銀総裁は、ECB理事会の結果を受けた市場の反応は行き過ぎ、との考えを示し、長期金利上昇を牽制した。

水曜日の東京市場では日経平均は大幅高。前日の米国株が堅調で投資家心理が改善。決算を手掛かりに個別銘柄が物色され買いが入った。ハイテク株もしっかり。金利上昇基調を受けて金融株が買われた。

ドル円相場は115円50銭台で始まり60銭に上昇したが、昼にかけ115円30銭に反落した。午後から夕刻にかけては30銭台~50銭台で上下。ユーロ円相場は131円90銭台から132円をつけ、その後は上下しながら131円60銭近辺に下落。

ユーロドル相場は1.1420で始まり夕刻は1.14ちょうど近辺にややユーロ安。

欧州株はしっかり。米国株も上昇。米国では決算発表が一巡。米10年債利回りが上昇一服となり高PER銘柄・ハイテク株が買い直された。感染減少で消費関連株も買われた。

NY州では感染者がピークの3分の1以下となり規制緩和を発表したことが好感された。

終盤にかけてはCPIへの警戒感、10年債利回りの反発で伸び悩んだ。米10年債利回りは入札が好調で1.91%に低下。ただ引けにかけては翌日のCPIを警戒し上昇し1.947%。2年債利回りは前日からさらに上昇して1.364%。

クリーブランド連銀総裁は、3月の利上げを支持する、とし、バランスシート縮小について、保有国債の期落ちだけでなくMBS(住宅ローン担保債券)も売却すべき、と述べた。

ドル円相場はやや持ち直して115円40銭~50銭で小動きもみ合い、引けはややドル高に振れて50銭台。ユーロドル相場は1.1430~40でもみ合いの後1.1420台。ユーロ円相場は反発した後132円ちょうど近辺でもみ合い引けた。

木曜日の東京市場では日経平均が3日続伸。前日の米ハイテク株高を受けて半導体関連、グロース株に買いが入って27,800円台で大幅高寄り。前日比+300円超。

一方、ここ数日で上昇が目立った銘柄に利益確定売りが入り反落。27,600円割れ。好業績銘柄に買いが入り後場はじり高となって引けは+116円高の27,696円。

ドル円相場は115円50銭台でもみ合い、午後は60銭台で上下。ユーロ円相場は132円ちょうどで始まり、午後は132円10銭~20銭。ユーロドル相場は1.1420台~30台でもみ合い。

その後、欧州時間に入った夕方18時に、日銀が国債利回りの上昇に歯止めをかける指値オペを14日に実施することを公表。日本国債10年債が許容変動幅の上限である0.25%に接近したため3年7か月ぶりの実施へ。

これにより市場は日銀のハト派スタンスを確認、あるいは円安容認と受け止め、円安が進行。ドル円相場は115円80銭近辺で上下。ユーロ円相場は132円60銭に上昇した。

その後発表された米国の消費者物価指数(1月)を受けて今度はドルが上昇した。前年同月比は+7.5%と前月+7.0%から大きく加速して予想+7.3%を上回った。コア指数も+5.5%から+6.0%に加速。

この数字を受けて米10年債利回りは1.98%台へ、2年債利回りは1.46%台へ大きく上昇。

ドル円相場は116円30銭へ、ユーロドル相場は1.1380へ、ドル高が進んだ。その後は欧州でも金融正常化が進むとの見方からユーロドル相場は1.1490へ反発。ユーロ円相場は133円10銭に上昇。

ただセントルイス連銀総裁のタカ派発言でさらに米長期金利が上昇するとドルが対ユーロで上昇。

株価が大きく調整するとドル円相場は伸び悩み。ユーロドル相場は1.1410~30で推移。ドル円相場は116円割れに反落した後、116円ちょうど~10銭で推移した。ユーロ円相場は132円60銭に反落。

セントルイス連銀総裁は、3月に0.5%の利上げ実施を、7月前半までに合計1%の利上げを支持する、と述べた。米10年債利回りは2.036%に、2年債利回りは1.599%に、一段と上昇して引けた。

米国株はCPIやFRB地区連銀総裁のタカ派発言を受け金融正常化が速まるとの見方で売りが膨らんだ。高PER・ハイテク銘柄を中心に下落。景気敏感株も利上げによる悪影響を懸念して売られた。

NYダウは一時▲670ドル下落して引けは▲526ドル安の35,241ドル。ナスダックは▲304ドル安の14,185ドルで引け。VIX指数は+3.95ポイント上昇して23.91。

金曜日の東京市場は休場。アジア時間の為替市場ではユーロがやや軟調。ドル円相場は116円ちょうどで始まり底固く、116円10銭を中心に116円ちょうど~20銭で上下もみ合い。

ユーロ円相場は132円60銭で始まり下落して20銭~30銭でもみ合いさらに132円ちょうどに下落した。

ユーロドル相場も1.1430から1.1390に下落し、さらに上下しながら1.1370へ下落した。夕刻から欧州市場にかけてユーロは持ち直し、ユーロドル相場は1.1420へ、ユーロ円相場は132円30銭へ反発。ドル円相場はやや軟化して115円90銭近辺でもみ合い。

ユーロは上値重く、ユーロドル相場は1.1380~1.1410で上下。ユーロ円相場も131円90銭~132円20銭で上下した。

米国時間に入るとウクライナ情勢への懸念から急速にリスク回避が広がった。ロシアとベラルーシが合同軍事訓練を行っており、ウクライナ首都キエフへの侵攻が懸念されるなか、米大統領補佐官が、ロシア軍のウクライナ侵攻はいつ起こってもおかしくない、と述べ、在ウクライナの米国民に48時間以内に国外へ退去するよう命令。

イギリス、オランダ、日本政府も、同様に退去を命じた。一気に緊張が高まり市場ではリスク回避が急速に強まった。

米国株は全面的に売られ急落、大幅安。NYダウは一時▲600ドル下落して引けは▲503ドル安の34,738ドル。ナスダックは▲394ドル安の13,791ドル。VIX指数は+3.45ポイント上昇して27.36。

エネルギー供給不安から原油価格WTIは一時94ドル台をつけ93.93ドル。リスク回避で金は買われ1,860ドルに上昇。

為替市場では円が全面高。ユーロが下落。ユーロ円相場は130円40銭へ、ユーロドル相場は1.1330へ急落した。リスク回避による安全資産への逃避で米国債は買われ、米10年債利回りは1.918%に低下。2年債利回りも1.488%に低下した。

ドルは堅調となったものの、米金利低下でドル円相場は押され一時115円ちょうど近辺に下落。ただその後は持ち直して115円40銭近辺で引け。ユーロもやや持ち直し、ユーロドル相場は1.1350、ユーロ円相場は131円ちょうど近辺で週末の取引を終えた。

◆今週の3つの注目ポイント


ウクライナ情勢が最大の注目点。軍事衝突発生か、膠着継続か、緊張緩和か。

1.米国の経済指標

経済指標は予想対比で強弱まちまちながら、強い雇用情勢と高いインフレ率が続いていることを示した。今週の指標が米国経済の力強さを示し、ひいては米長期金利の下支えとなるか。

火曜日 生産者物価指数(1月、前年同月比、予想+8.9%、前月+9.7%) NY連銀製造業景気指数(2月、予想12.0、前月▲0.7)

水曜日 小売売上高(1月、前月比、予想+1.8%、前月▲1.9%) 鉱工業生産(同、予想+0.4%、前月▲0.1%) 設備稼働率(同、予想76.8%、前月76.5%) 輸入物価指数(同、前月比、予想+1.3%、前月▲0.2%)

木曜日 米週間新規失業保険申請件数 住宅着工件数(1月、季節調整済み年率換算、予想1,700千戸、前月1,702千戸) フィラデルフィア連銀製造業景気指数(2月、予想20.0、前月23.2)

金曜日 中古住宅販売(1月、季節調整済み年率換算、予想610万戸、前月618万戸)

2.FOMC議事要旨

水曜日に1月25日・26日に開催されたFOMCの議事要旨が公表される(日本時間木曜日未明4:00)。この会合では次回3月会合での利上げ実施が示唆されたほか、バランスシート縮小に関する原則を発表することも表明された。

またパウエル議長が会見で毎回の利上げを否定しなかったことが市場に早期金融正常化・正常化ペース加速観測をもたらしショックを与え、利上げ織り込みが加速し長期金利を押し上げた。

さらに詳しい議論の内容が明らかとなり、市場の利上げ加速、バランスシート縮小への警戒感を強めるか。

3.日本の経済指標

先週、日銀は上昇する長期金利を目標圏内に抑制する指値オペの実施をアナウンス。従来の金融緩和スタンスを維持する姿勢をあらためて示した。その背景となる景気、物価動向、さらには円相場観に影響を与える貿易収支が発表される。

火曜日 10-12月期GDP速報(前期比年率、予想+6.0%、前期▲3.6%)

木曜日 通関統計(1月、貿易収支、予想▲1兆6,140億円の赤字、前月▲5,820億円の赤字)

金曜日 消費者物価指数(1月、前年同月比、予想+0.6%、前月+0.8%、コア指数、同、予想▲1.0%、前月▲0.7%)

◆今週のMRA's Eye


ウクライナ情勢と為替相場

先週末にかけてウクライナ情勢の緊張感が一気に高まった。

ロシアとベラルーシは合同軍事演習を行っているが、同国はウクライナの首都キエフまでの距離が近く、演習に紛れてロシア軍が一気に首都進攻を図るとの懸念が生じている。

米大統領補佐官はいつウクライナへの侵攻が生じてもおかしくない、として、在ウクライナの米国民に48時間以内の国外退去命令を下した。イギリス、オランダ、日本も同様に退避を指示。軍事衝突の可能性が現実味を帯びてきたとして市場の警戒感は高まり、リスク回避が強まった。

株価は急落し、金融正常化前倒し観測で急上昇していた米長期金利もやや低下した。

為替市場では、リスク回避=円高という典型的な動きで円が全面高。中東での地政学的リスクと異なり、今回は欧州辺縁でのリスク。当事者であるユーロとロシアルーブルが売られた。

軍事衝突となれば不透明感が一気に高まり、とりあえず「欧州発リスク回避イベント」として当初はこうした反応が生ずるのは当然。問題はファンダメンタルズや金融システムにどのような影響が生ずるか。

持続的な動きとなるかどうかは、この点が重要だ。金融政策への影響は、ファンダメンタルズにどのような影響があるか次第。

すでに懸念されている通り、欧州にはエネルギー供給懸念が生じる。すでに西側諸国にはLNG供給支援要請がなされ日本も応じているが、実際にロシアからの供給が途絶した場合には、欧州経済には供給不足による景気への悪影響、グローバルには価格上昇による景気への悪影響が生ずる可能性がある。

一方、価格上昇がインフレ圧力を強める面もある。

その際に金融政策の反応は、景気へのマイナス影響を重視するか、インフレ圧力をさらに警戒するか、で分かれる。

後者の場合は、エネルギー価格以外の全般的な景気動向、強弱の判断が重要だ。また不透明なイベントの発生で金融正常化を一時停止する可能性もゼロではない。ただそれも景気そのものの底固さ、このイベントによる影響がどれほどのものかによる。

そうしてみると、ユーロ圏の経済に不透明感、景気ダウンサイドリスクが生ずることは不可避。ECBが金融正常化を一時様子見する力が働きやすい。

これに対して米国経済への悪影響は間接的かつ軽微となる可能性がある。FRBが金融正常化を一時停止する可能性は少ないのではないか。

むしろ一時停止した場合のほうが、一段とインフレリスクが強まり危険だと判断する可能性もある。従来通りの金融正常化を淡々と続ける可能性が大きい。

利上げは3月実施で揺るがず、さらに利上げ回数が年内5回(合計1.25%)~7回(同1.75%)との見方も維持されそうだ。

なお西側への天然ガス供給停止となれば、ロシア側にも経済制裁が科されるのは必至だろう。

そうなればロシア経済は苦境に陥る可能性がある。国内経済が堅調な中国が、米中が対立深まるなか、両国間で経済制裁の応酬となったのとは異なる。

それを踏まえれば、軍事衝突に至るリスクは割り引いて考えるほうが良いかもしれない。

市場全体にリスク回避が蔓延することは、米国債やドルにとっては有利に働きそうだ。

中東での地政学的リスクの場合、往々にして米国が紛争の当事者となることが多かった。しかし今回は欧州とロシアが当事者だ。米国軍も紛争に巻き込まれるが、少なくとも地理上はリスクの発生場所から遠い。

一般的に、リスク回避で投資家のキャッシュ化が強まれば、グローバルな現金通貨であるドルに資金が流入する。米国債利回りは資金流入によって低下する、ないし上昇一服となるが、米国景気の見方が悪化するのでなければ、ドル資産への資金流入はドル相場にポジティブだろう。

米国株から米国債に資金がシフトするのであれば、ドル相場にとっては中立であり、少なくともドルが下落する理由はない。

リスク回避で買われる通貨としては、ドルのほかにスイスフランと円が挙げられる。軍事衝突となれば、とくにスイスフランは永世中立国として資金の逃避先となりそうだ。

ただしスイスフラン高となるかどうかとなると別。フランの高騰をスイス中銀が許容するかどうかという問題がある。

フランが対ユーロで高騰することには相当の警戒感をもち、中銀がフラン高抑制に動く可能性がある。あるいはその可能性を市場が警戒するなら、結果的にスイスフラン高は抑制され、ユーロドル相場でのユーロ安につられ、スイスフランとドルではドルが優勢となるのではないか。

では円はどうか。

リスク回避=円買い、という短絡的な反応での円高には限界がある。円売りポジションが積み上がっていれば円買い戻しの圧力も大きくなる。

しかし足元ではピークの半分ほどだ。また買い戻しが原動力であれば、限界がある。積極的に円に資金が流入する必要がある。あるいは資本移動が停止して経常収支・貿易収支の為替需給で円高となるか。

この点、原油価格ほか資源価格がさらに上昇・高止まりするなら、日本の貿易収支はさらに赤字が拡大するだろう。ベースでの円安圧力が強まることになる。

ドルとの力関係では、米国債利回りが低下することで金利差面からドル安円高圧力が高まるようにみえるだろう。

しかし米国債への資金流入が主体で、米国景気の強さに著変なく、FRBの金融正常化スタンスが緩まないなら、ドル高円安基調は揺らぎそうにない。

リスクがあるとすれば、経済制裁が金融制裁に発展する場合。米国がロシアの金融機関に対してSWIFT、決済システムの使用を禁止するなどの措置に出た場合。

ロシアの金融機関が苦境に陥り、あるいは経営破綻に至るようなことがあれば、欧州の金融機関を中心に米国の金融機関も被害を受ける可能性がある。

信用スプレッドが急拡大すれば、金融市場の混乱が拡大する可能性がある。欧米の金融システムに陰りがみえれば、ユーロのみならずドルも下落する可能性が生ずる。

この場合には円に逃避資金が流入し円が独歩高となる可能性がある。スイスフランも上昇するだろう。ただこのシナリオは、なおかなり発生確率の低いリスクシナリオだ。


主要指標は、有料版「MRA外国為替レポート」にてご確認いただけます。
【MRA外国為替レポート】について