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イラン緊張若干緩和で原油下落
  • MRA商品市場レポート

2022年2月9日 第2130号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「イラン緊張若干緩和で原油下落」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格はその他農産品など景気に循環しない商品が物色され、エネルギーセクター関連が広く下落することとなった。

昨日のエネルギーセクターの下落は、イランの核合意復帰とそれに伴う禁輸措置の解除への期待が高まったことが恐らく材料であるが、ロシア・ウクライナ情勢が解決しない限りは本格的な調整にはなり難い。

ウクライナ・ロシアを巡る情勢不安は日に日に悪化しており、プーチン大統領が指示をすればいつでも攻撃出来る状態にあるが、それでもマクロン大統領との会談では軍事演習が終了すれば、ベラルーシから軍は引き揚げるなどのコメントもしており、やや膠着感が強まっている状況。

なお、日本政府は余剰LNGを欧州に供給する方針を固めたが、これにより足下のガス価格は下落が予想されるが、夏場の調達圧力が再び高まることになるため、むしろ期先の価格が上昇、夏場のLNG価格の上昇リスク、電力価格(JEPXの価格)の上昇リスクを高める。

なお、日本の電力会社・ガス会社のガス購入価格は、通常原油価格に連動するベースで購入し、不足が発生したときにスポット(極東の場合JKM)で購入する。

ただし、これらの購入価格の上昇はいわゆる原燃調ベース価格の場合、6ヵ月程度の時間差を以て価格に反映されること、スポット調達の比率が高くないことから影響は緩和される。

【本日の見通し】

本日も企業決算やウクライナ情勢、米国の国債入札動向を睨みながら神経質な推移が予想される。ただし、エネルギー価格がそろそろピークにさしかかっているとみられること(詳しくはエネルギーのコラムをご参照ください)から、上値も重くなるのではないか。

本日予定されている米10年債入札は、前回の応札倍率が2.51倍、最高落札利回りが1.723%、最低が1.600%、最高利回り応札倍率が23.99%だった。

ただ、昨日の3年債入札の結果を考えると、それほど良好な入札にはならず長期金利に上昇圧力が掛り、ドル高を通じてリスク資産価格の下押し要因となろう。

株は銘柄を選定しつつ、高安まちまちで供給面が強く意識されている商品市場への直接的な影響は限定されると考える。

また予定されている材料で注目は中国のファイナンス関連統計。中国は景気の軟着陸を目指して金融緩和に動いているためファイナンス規模は増加が予想され、鉱物資源価格を下支えするだろう。

資金調達総額 5兆4,000億元(前月2兆3,682億元)人民元建て新規融資 3兆7,000億元(1兆1,318億元)マネーサプライ(M1) 3.2%(3.5%)

【昨日のトピックス】

ロシア・ウクライナ情勢は特段大きな進捗はないが、黒海にロシア軍艦6隻が軍事演習に参加しており、場合によると北部からではなく南部からロシア軍が展開する可能性も出てきた。

こうなるとウクライナ側は南部に軍を貼り付けざるを得ず、北部が手薄になりその手薄になったところを...という戦略も想定されてくる。それでもまだ弊社は戦争は回避されると見ている。

今回の軍事衝突の懸念は、ロシア側が想定する「東部の住民投票による独立、その後、ロシアが(勝手に)独立したところを併合、そこの治安が不安定になった場合には『内戦』の位置づけとしてなし崩し的にロシア軍を展開」が起きることだが、ロシアもここまではしたくないだろう。

ロシアは当初、クリミアは軍事的なメリットがあるために併合したが、ドンバス地域を併合する動きは見せなかった。これは軍事的なメリットがないためである。

しかしそれでもドンバスをロシアが支援したのは、この地区にロシア系住民が多く、クリミア併合を受けて極右勢力が分離独立、ロシア併合を訴え始めたためウクライナがこれを武力で鎮圧する動きが強まったため、ロシアも庇護せざるを得なくなったからだ。

ミンスク合意は独仏、欧州安全保証機構がとりまとめたものだが、停戦合意だけではなく、ドンバス地域の自治を認めるといった政治的な条件も含まれているためウクライナとしては受け入れられない内容。

結局、これを不服とするウクライナがドネツク・ルガンスクを武力で取り返そうとしているのが今回の軍事侵攻懸念の背景にある。

どちらが良いか悪いかの話は非常に長い話になるためなんともいえないが、今回の軍事衝突を回避するためには、結局、ウクライナ側がドネツク・ルガンスクを武力で奪還することを諦めるしかないのではないか。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は下落した。イランと米国の核合意に伴い、イランの禁輸措置が解除されるのではとの見方が広がっていることが材料。DOE月報も米国の生産見通しが大幅に上方修正されたため、需給緩和見通しが強まったことも価格を押し下げた。

足下、実需が供給不足を懸念してショートを買い戻していることが価格上昇の最大要因だが、それに対して投機がロングを売り手じまい始めており2007年に最高値を付けた時の動きと類似している。

ロシアの軍事侵攻や制裁があれば価格は急騰するだろうが、短期的な上げ局面も終盤にさしかかっている可能性がある。

本日もウクライナ情勢不安を背景に高値圏での推移が続くと考える。注目材料は米週間石油統計。市場予想は+1.3MBの原油増加を見越しているが、朝方発表のAPI統計は▲2.0MBの減少、クッシングも▲2.5MBの減少となっており、本日は買い戻しが入るのではないか。

◆石炭・LNG・天然ガス

豪州石炭スワップ先物価格は上昇して240ドルに迫った。中国勢の市場復帰による買いと欧州勢の買いが入ったとみられる。

また、欧州のガス不足で欧州向けにも石炭が物色されていることが材料となった。中国の石炭輸入の指標の1つであるバルチック海運指数は小幅に下落。

欧州天然ガス価格は小幅に下落。ウクライナ情勢が膠着状態となる中で、気温が温暖になるとの見通しが価格を下押しした。冬場の需要期による需要増加・価格上昇であるため時間経過と共に価格は季節的に下押しされやすくなる。

とは言え、ロシアのガスフローがなければ充分な在庫が確保できないことは間違いが無く、ウクライナ問題が解決しなければ夏~冬への調達懸念は続くことになる。

仏独の原発の稼働率は低下しており、引き続き冬場の電力供給状況は不安定。

米国天然ガスは続落。暴風の影響が緩和して生産量が回復したことが材料となった。

JKMは欧州ガスが下落したものの、石炭価格の上昇もあって水準を小幅に切り上げた。まだ影響は不透明だが、日本が欧州向けにLNGを融通すること政府方針え決定したため、足下の価格はやや下押しされることになろう。

しかし、夏場に向けてのバッファを放棄することにも繋がるため、春先の需給緩和時期にLNGのスポット調達が増加する可能性があること、本当にロシアからガス供給がなくなった場合、スポットカーゴ市場の需給が構造的にタイト化する可能性があるため、予断を許せなくなってきた。

なお、弊社ではデータが取得できないが、ニュースでは大西洋航路のLNG船の船賃がマイナスとなっていると報じられた。LNGカーゴが供給過多になっているとみられる。

それを反映してかスエズ東西のフレートも低水準での推移が続いている。つまり、フレートレートのみでは足元の現物需給環境を判断するのが難しい状況。

本日の石炭価格も新規手がかり材料に乏しいが、休み明けの中国勢の買いで上昇余地を探る展開に。

天然ガス価格はロシア情勢に大きな進捗がなく、高値でのもみ合い継続。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格はまちまちとなった。アルミは生産コストの大半を占める電力価格への影響が大きい石炭価格が、欧州・アジアで上昇していることからコスト面で価格が押し上げられた。

銅・亜鉛は小動き、ニッケルやスズ、亜鉛は恐らく利益確定売りに押されるかたちで水準を切下げた。

本日は中国のファイナンス関連統計が発表されるが、昨年からの金融緩和の影響が徐々に顕在化するとみられ前回の水準からは上振れが予想され、非鉄金属価格の上昇要因に。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは大幅に上昇、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格も下落、上海鉄鋼製品先物は上昇した。

休み明けの中国勢の買いが続く中、鉄筋価格の上昇が鉄鉱石価格を押し上げた。石炭価格は回帰分析からの推測値の2倍以上に上昇しており供給が足りていないことは明らかだが、昨日は水準を切下げた。

豪州西部の主要鉄鉱石生産地区であるPilbaraではコロナの感染が拡大しており、生産に影響が出る可能性が高い。

中国政府の緩和措置の影響が徐々に顕在化し始めていると見られ、本日のファイナンス関連統計で中国のファイナンス規模が増加する見通しであり、鉄鋼製品価格の上昇が鉄鋼原料価格を押し上げると予想。

◆貴金属

昨日の貴金属セクターは金銀プラチナが上昇、パラジウムは下落した。金は米3年債入札がやや不調で応札倍率が低下したことで実質金利が上昇、基準価格が1,482ドルに低下したものの、リスク・プレミアムが344ドルと前日から+15ドル上昇したため、高値維持となった。

銀価格は金銀レシオが80オーバーとなって割安だったこともあって、昨日も物色された。投機的な色彩が強いプラチナは金銀価格の上昇で上昇。

パラジウムはプラチナと並んでロシア情勢不安が価格を押し上げているが、昨日のパラジウムに関しては、特段材料がなく、年初来の上昇率がセクター内で最も大きかったことから利益確定売りが出たとみられる。

本日もウクライナ情勢不安を背景に金銀は高値を維持し、PGMには下押し圧力が掛る展開が予想される。

本日は金価格により影響を与えやすい米10年債の入札が予想されているが恐らくそれほど旺盛な入札とはならず、金の基準価格をさらに押し下げるとみている。

◆穀物

シカゴ穀物市場はトウモロコシ・大豆は下落した。トウモロコシは原油価格の下落を受けて水準を切下げ、大豆も連れ安となった。

小麦は米生産地の降雨不足が材料となったようだが、この類いの需給ファンダメンタルズ要因はトウモロコシ、小麦、大豆とも需給タイトであり価格は上昇しやすい地合。

引き続き、アルゼンチンやブラジルの大豆・トウモロコシの生産減少観測が供給不安を高め、ロシア・ウクライナ情勢不安が小麦・トウモロコシの供給不安を高めるため高値を維持。

本日発表の需給報告の市場予想は以下の通り。

・1月米需給報告在庫見通し市場予想(前月)トウモロコシ 14億9,819万Bu(前月15億4,000万Bu)大豆 3億1,567万Bu(3億5,000万Bu)小麦 6億3,381万Bu(6億2,800万Bu)

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

・ロシアと西側諸国の軍事衝突のリスク、それに乗じて中国が台湾に侵攻するリスク(世界経済の減速要因)

・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。

・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。

・ロシア・ウクライナ・ベラルーシ・欧州を巡る対立が激化し、軍事的な衝突が発生する場合(景気の減速を通じて景気循環系商品価格の下落要因)。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。


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