株安とユーロ高・ドル安で高安まちまち
- MRA商品市場レポート
2022年2月4日 第2127号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「株安とユーロ高・ドル安で高安まちまち」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品価格はまちまちとなった。米統計は減速が見られたものもあったが総じてそれほど悪い内容ではなく、米金融政策の変更は起きないとみられたことが米長期金利を上昇させて貴金属セクター価格を押し下げた。
しかし統計がさほど悪くないこともあって需要は堅調と見られたエネルギーセクターの上昇は続き、さらにはECBがタカ派に転じたと取られる報道が散見されたためユーロ高・ドル安が進行、ファイナンシャルな要因で価格が下支えされた商品が目立った。
足下、多くの商品が供給不安を背景に上昇している状況だが、エネルギーは季節的な要因で需要は堅調、非鉄金属は最大消費国である中国が、オリ・パラで不在のうえ不動産セクターの加熱抑制継続で需要が弱く、景気循環商品の中でも強弱が出始めている。
基本的には世界的な金融引き締め方針が確認されていることから、足下の供給不安や季節要因の剥落があれば商品価格は下落する、というのがメインシナリオである。
【本日の見通し】
本日は市場参加者の関心が需要や供給ではなく、金融政策に向いていることから雇用統計を睨み、アジア~欧州時間にかけては様子見気分が強く、むしろ昨日の反動でドル高が進行して軟調な推移になると考える。
米雇用統計は雇用者数の変化が+13.4万人(前月+19.9万人)、失業率が3.9%(3.9%)、平均時給が前月比+0.5%(+0.6%)、前年比+5.2%(+4.7%)と予想されており、恐らく米金融政策の方針を変えるほどのないようにはならず、影響は中立とみられる。
しかし米サキ報道官が1月の雇用統計は「オミクロン株感染による病欠で、雇用統計が紛らわしい内容になるかもしれない」と早くも牽制球を投げている。
恐らく、ヘッドラインの数字は相当悪くなるのではないか。ただしこれが金融緩和期待を高めることにならないように、ということだと思われるが、ヘッドライントレードをしているファンドからすれば、悪い数字→緩和解除ペースやや鈍化→リスク資産買い、の連想が働く可能性もあるため、統計の商品価格に対するリスクは上向きである。
【昨日のトピックス】
昨日発表された米ISM日製造業指数は59.9と2021年2月以来の水準に減速した。内容を見ると米ADP雇用統計は想定外の悪化となった。ただし閾値の50を超えてヘッドラインの数値はまだ米国のサービス業の業況が良好であることを示している。
米国内の需要は61.7(前月62.1)と好調だが、輸出向けは45.9(61.5)と急減速している。やはりオミクロンの感染拡大や電力供給不足に伴う需要減少が影響しているようだ。
一方、新規受注は高い水準を維持しているものの在庫水準は上昇しており、正常化と景気拡大ペースの減速が併存していることを確認する内容だったといえる。
また昨日はECB会合が開催され、PEPP(パンデミック緊急購入プログラム)の3月終了方針は維持、「年内の利上げはあり得ない」としてきたラガルド総裁も「データ次第」として方針を変更している。
匿名を条件に政策委員会の関係者がコメントしたところでは、年内利上げの可能性を排除しない方が賢明、との見方で一致しているという。
英BOEが利上げを行い、米国も急速に金融引き締めに舵を切る中、金融緩和を維持する主要国は日本と中国ぐらいのものになった。
基本的に需要が回復しなければ物価上昇はない(デマンドプルインフレ)が、安倍政権・黒田日銀から加速した金融緩和は「インフレにならない」ことを前提とする政策であるため、仮に外的要因でインフレが始るとそれが止まらなくなる可能性がある。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は大幅に上昇し、Brent、WTIとも引けベースで90ドルを上回った。厳冬、OPECプラスの供給能力制限、ロシアに対する制裁懸念、といった需給両面の買い材料が多い中で、ECBがタカ派に転じたとみられることがドル安を誘発し、為替主導で水準が切り上がった形。
ISM非製造業指数の雇用関連のサブインデックスはいうほど悪くなく、米週間新規失業保険申請件数も改善したことから、米国の需要面での懸念が後退したことも価格上昇に寄与した。
本日はやはり雇用統計を控えてアジア時間は様子見気分が強い。恐らく昨日の反動でドルが買い戻されてやや軟調な推移になると考える。
米雇用統計はFRBの金融引き締め観測を後退させるような内容にはならないと考えるが、既にサキ報道官が雇用統計の悪化を示唆しており、ヘッドラインの数字が悪化することで引き締め観測がやや後退、投機的な買い(システム売買による買い)が価格を押し上げる可能性は有り得る。
◆石炭・LNG・天然ガス
豪州石炭スワップ先物価格は小幅に上昇して高値維持。欧州ガス価格が再び上昇したことが材料となった。
中国の石炭輸入の指標の1つであるバルチック海運指数は小幅に下落して、再び過去5年レンジ内に収まった。
欧州天然ガス価格は小幅に上昇。Velke Kapusany(ロシア→ウクライナ→スロバキアのウクライナ・スロバキア間のターミナル)のガス流量の増加が一時的で再び減少していることで、欧州のガス調達が困難な状況にあることが再び意識されているため。
米バイデン政権は、中国、日本、韓国、インドに対して欧州向けのLNG供給に協力するよう訴えたが、仮に100隻用意できたとしても欧州在庫は10%程度しか増加しないうえ、厳冬に苦しんでいるのはこれらの国も同じであり、要請には応じられないと考えられる。
むしろ、米国のロシアを巡る交渉は全く進捗していないと市場が判断する材料になり、買い材料になったといえる。
また、欧州排出権価格の高騰も天然ガス価格の押し上げに寄与している。
仏独の原発の稼働率は低下しており、引き続き冬場の電力供給状況は不安定。
米国天然ガスは暴落。米国南部の気温低下によるガスパイプラインの凍結は続いているが、昨晩の米天然ガス統計でガスの貯蔵量変化が▲268BCFと市場予想の▲278BCFを下回ったため、需給緩和観測が売り材料となった。
なお、米国の原油生産は恐らく今年の3月頃から増加するとみられ、春先に向けて米天然ガス需給が緩和する可能性があることは意識するべき。
JKMは欧州ガスが上昇したことで小幅に水準を切り上げた。今のところ中国勢が春節で不在のため価格は上昇し難いが、欧州・米国の情勢、ウクライナ問題を背景とする欧州支援の目的でLNGカーゴが積極的に物色される可能性が高いことを考えると、再び価格が上昇する可能性は低くない。
JKMの期間構造は2022年~2023年冬の水準が再び28ドルを超えた、
2022年1月17日~1月23日のLNG輸入は前週比▲12.4%の780万トン(前週▲3%の890万トン)となった。
うち、スポット取引のシェアは25%(前週27%)と小幅に低下した。韓国のスポット調達が減少したことが影響。
ターム契約での調達は▲13%の減少で、中国向けの輸出が減少したことが影響している。一方、日本やフランスはターム契約での調達を増加させている。
スエズ以東・以西ともタンカーレートは低下している。
本日の石炭価格は欧州・米国の天然ガス価格上昇を受けて小幅に上昇すると予想。
天然ガス価格はロシア情勢の改善がなく、米国で気温低下によるガス供給減少・需要増加が見込まれることから再び上昇余地を探る動きに。
なお、足下は石炭・天然ガスとも冬場の需要期であるため高い水準であるが、時間経過と共に暖房需要は減少するため、イベントリスクの顕在化がなければ、季節的に価格が下落することはメインシナリオ。
◆非鉄金属
LME非鉄金属価格は下落した後に上昇し、下げ幅を削る展開。中国勢が春節・オリンピックで市場に不在の中、買い手が乏しく水準を切下げる動きとなっていたが、ECBがタカ派に転じたとみられたことがユーロ高・ドル安を誘発し、投機的な買いが主導したと見られる買いで下げ幅を削って引けた。
基本的に厳冬や燃料不足に伴う供給不足と、最大消費国である中国の需要の伸び鈍化を受けて結果的に高値圏でもみ合いやすくなっている。
本日も需給ファンダメンタルズは結果的に価格に与える影響は中立である一方、中央銀行の金融政策巣スタンスが為替を動かし、商品価格を変動させると考える。
今晩の雇用統計は恐らくFRBの金融引き締め方針を変更させるような内容にはならず、恐らく昨日のユーロ高の反動でドル高となり価格を下押しすると考えるが、既に米サキ報道官が雇用統計が統計の集計の問題で悪くなる、と牽制球を投げており、ヘッドラインの数字が悪いことを材料に、金利低下・ドル安となれば価格は下支えされる可能性が高い。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは限月交代もあって上昇、豪州原料炭スワップ先物は直近限月が上昇したが期先は下落、大連原料炭先物は休場、上海鉄鋼製品先物は休場。
本日も中国勢不在の中で動意薄い展開を予想。ただし、鉄鉱石は鉄鋼製品価格の水準を元に回帰を行うと、推定値は142ドル程度であり高値維持の公算。
なお、原料炭価格の推計値は195.6ドルで現在の価格の半分であるが、供給不安が解消されるまでこの水準への回帰は難しいと考えられる。
◆貴金属
昨日の貴金属セクターは下落した。米長期金利が欧州の金融引き締め観測を背景に上昇し、実質金利が上昇したことで金価格が下落したことが影響した。
ただし、ベンチマークである金価格は、株価の下落やロシア情勢不安を背景にリスク・プレミアムを上昇させて比較的高値を維持したため、金価格の下落は限定された。金のリスク・プレミアムは286と前日から+23ドル上昇。
銀・プラチナは金価格の下落を受けて下落、パラジウムはハイテク関連株が売られたことで連鎖的に半導体向け需要が減少するとの見方が強まり大きく水準を切下げた。
なお、パラジウムの最大用途は自動車向けの触媒需要だが、半導体リードフレームのメッキにも用いられるため、投機的な観点では半導体市況の影響を受けやすいのも事実。
銀は金価格の上昇を受けて上昇、プラチナ、パラジウムは株価の上昇もあって水準を切り上げている。パラジウムは半導体のリードフレームのメッキにも用いられるため、半導体セクター株が戻る際に物色されることも多い。
本日は米雇用統計に注目が集まる。物価上昇や雇用者数の増減などはFRBの政策を変更するまでのないようにはならないとみられているため、影響は中立とみる。
しかしADP雇用統計のように余りに悪い統計が出た場合(既に悪い統計が出る可能性を政府は牽制している)、引き締めペースの鈍化観測が強まり、貴金属価格の上昇要因となる可能性も。
◆穀物
シカゴ穀物市場は下落した。ファンダメンタルズは買い材料が多いものの、利益確定の動きが継続したと見られる。
アルゼンチンでは主要な生産地に降雨があった後、寒気が流れ込み、その後、熱波が到来する見通しが示されており、トウモロコシ・大豆の生産環境は良好ではない。
穀物はラニーニャ現象や油脂類の供給不足、ドル安進行で高値圏を維持の公算。
※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・ロシアと西側諸国の軍事衝突のリスク、それに乗じて中国が台湾に侵攻するリスク(世界経済の減速要因)
・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。
・資源価格上昇によるインフレや、米テーパリング・利上げ・BS縮小観測を背景とした新興国通貨安で新興国が想定以上のペースで利上げを行わねばならず、世界的に金融引き締めモードに転じた場合(リスク資産価格の下落要因)。
・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。
・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。
・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。
・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。
・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。
・ロシア・ウクライナ・ベラルーシ・欧州を巡る対立が激化し、軍事的な衝突が発生する場合(景気の減速を通じて景気循環系商品価格の下落要因)。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。
・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。
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