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金融引き締めなのか、正常化なのか
  • MRA外国為替レポート

2022年1月31日号

◆先週の市場総括


先週はFOMCおよびパウエル議長の会見を受けて、FRBの金融正常化ペースアップへの思惑が強まった。市場は今年4回以上、1%以上の利上げを織り込み、ドル金利先高感が強まって長期金利も大きく上昇。

米国株は高PER銘柄、ハイテク株が大きく下落した。一方、景気・雇用情勢は堅調に推移しており、好決算銘柄は支えられた。NYダウの下げ幅は相対的に小さかった。

週末には長期金利上昇が一服し株価も持ち直し。ただ投資家の警戒感は続き、VIX指数は週末でも27ポイントと高止まり。

ドル円相場はドル金利上昇を受けて大きく上昇。113円台後半で始まり週末にかけて一時115円台後半に上昇し、引けは115円20銭近辺。ドルは対ユーロでも上昇。

ユーロドル相場は1.13台半ばで始まり週末は1.11台半ば。ユーロ円相場はやや弱含んで129円ちょうどから128円台へ。ウクライナ情勢への警戒感は継続したが、これを材料にリスク回避が強まることはなかった。

月曜日の東京市場では日経平均は小幅高。朝方は週末に米国株が大きく下落したことを受けて▲300円超下落して27,200円台で取引を開始。ただその後は値ごろ感から押し目買いが入り反発。米国株先物がアジア時間に堅調に推移したことも支え。

後場には上げ幅を拡大し一時+100円高。引けは+66円高の27,588円。

ドル円相場は113円70銭で始まり、株価堅調のなか円がじり安、ドル円相場はじり高。午後には114円ちょうどを回復した。しかしその後欧州市場にかけてはウクライナ情勢への懸念から欧州株が大幅安となるなか円高に振れて113円50銭に反落した。

ユーロ円相場は129円ちょうど近辺で始まり夕刻には128円60銭に下落。欧州市場から米国市場にかけてユーロ安がさらに進み128円40銭に下落した。ユーロドル相場は東京市場で朝方1.1340。その後じり安となり1.1290へ下落した。

NATO軍が東欧に集結して防衛体制を強化。米国軍も直ちに8,000人を直ちに欧州に派遣できる体制を整えたと報じられた。

ウクライナ情勢の緊迫化でドイツ株、フランス株、の主要株価指数は4%近く下落した。米国株も大きく下落。FOMCを前にした早期金融引き締めへの警戒感、ウクライナ情勢不安、弱めの景況感指数、などで不安心理が強まった。

NYダウは昼過ぎに一時▲1,100ドル安と急落。ハイテク株主導の下落でナスダックも一時13,000ドル目前まで下落した。VIX指数は急上昇して一時39ポイントに接近。

ただその後は下げ過ぎとの見方から買い戻しが入り大幅反発。NYダウは前週末比+99ドル高の34,364ドル。ナスダックは+86ドル高の13,855ドル。VIX指数は+1.05ポイント上昇の29.90まで押し戻された。

米10年債利回りは一時1.70%台に低下したが引けは1.776%。2年債利回りは0.938%に低下した後0.969%。

ドル円相場は米国市場で114円ちょうどをつけた後、一時113円70銭に下落したが、株価反発で持ち直し114円ちょうどで引け。ユーロ円相場は129円10銭に戻した。ユーロドル相場は1.1330に戻した。

PMI景況感指数(1月)は、ユーロ圏製造業が59.0と前月58.0からやや改善、サービス業は53.1から51.2へ悪化。米国の製造業は57.7から55.0へ悪化、サービス業は57.6から50.9へ悪化した。サービス業では感染拡大の影響が、全般には人手不足・人件費上昇が景況感を圧迫した。

火曜日の東京市場では日経平均が大幅安。前日の米国株が大幅安のあとで戻したものの、FRBの早期金融正常化、ウクライナ情勢を巡る地政学的リスク、が重石。決算発表が本格化するなか、業績に上振れ期待が持てず、投資家がリスク回避姿勢を強めた。

27,500円割れで安寄りした後、大きく下落し27,000円手前でもみ合い。後場には一時27,000円の大台を割り込んだ。引けに戻して▲457円安の27,131円。

ドル円相場は113円70銭で始まり90銭~114円ちょうどでもみ合い、一時114円台を回復した。その後は70銭に押したが底固く、午後には反転上昇に転じ夕刻は113円90銭。

ユーロ円相場は129円10銭で始まり下落して夕刻にかけて128円70銭~80銭近辺で上下。ユーロドル相場は1.1320で始まりやや軟調。1.1300~10で推移した。

欧州時間に入るとユーロが下落、ドルが上昇。ユーロドル相場は節目の1.13ちょうどを割ると下げが加速し1.1270に下落した。ユーロは対円でも下落し128円30銭。

発表されたIFO景況感指数(1月)は前月94.8から95.7に上昇したがユーロの支えとならず。米10年債利回りが1.79%に上昇したことがドルを支えた。

ただドル円相場は114円10銭台に上昇したがその後は伸び悩み、米国市場に入ってからは113円90銭を中心として上下。

ユーロは米国時間に持ち直し。ユーロドル相場は1.13ちょうど近辺へ、ユーロ円相場は128円70銭に反発した。

欧州ではウクライナ情勢の緊迫も米国が欧州のエネルギー供給不安解消に向けて対策を検討。NATO軍の体制が整ったことで戦闘に陥るリスクは後退との見方もあり欧州株は反発。下落していた米国株先物も反発して下げ幅を取り戻した。

ただ米国株は不安定な展開。NYダウは寄付きから大きく下落し序盤に一時▲800ドルを超える下げ。

ただ下げ過ぎとの見方から反発狙いの買い、予想を上回る好決算銘柄への買いが入って持ち直し。引けにかけて上昇し一時プラス圏となるなど大きく戻して▲66ドルの34,302ドルで引け。

一方ナスダックは▲3%の大幅下落のあと終盤に持ち直したが、ハイテク株・高PER銘柄は引き続き上値重く▲315ドル安の13,539ドル。値動きの荒い相場展開、ウクライナ情勢やFOMCへの警戒感は解けず、VIX指数は+1.26ポイント上昇して31.16。

米10年債利回りは1.78%台、2年債利回りは1.03%台、と前日からやや上昇した。

発表された米国の経済指標は、ケースシラー住宅価格指数(11月)は前年同月比+18.3%と前月+18.5%とほぼ同水準。消費者信頼感指数(1月)は前月115.8から113.8へ悪化したが予想111.8を上回った。

リッチモンド連銀製造業指数(1月)は前月16から8に低下した。

水曜日の東京市場では日経平均が寄付きから下落。米国ハイテク株が大きく下落したことを受け26,800円台に下げた。その後は米国株先物が持ち直したことで上昇。ただFOMCの結果を前に神経質な展開となった。引けは▲120円安の27,011円。

為替市場は小動き。ドル円相場は113円80銭~90銭で、ユーロ円相場は128円70銭~80銭で、ユーロドル相場は1.1300~10で、それぞれ方向感なくもみ合った。東証引け後、欧州時間から米国時間にかけてはドルが堅調。ドル円相場は114円30銭~40銭に上昇。

ユーロドル相場は1.1280割れ~1.1290台。円は対ユーロでも下落して、ユーロ円相場は129円を挟んで上下した後129円20銭に上昇。

注目のFOMCおよびパウエル議長の会見は想定よりタカ派と受け止められた。声明文では、2%を優に超える物価と力強い労働市場を踏まえ委員会は政策金利の引き上げが間もなく適切になると予想する、として3月の利上げ実施を示唆。

同時に、バランスシートの縮小に対する原則、を発表した。その後パウエル議長は会見で、労働需給の逼迫はこれまでみたことがないレベル、賃金インフレを警戒、労働市場を損ねることなく利上げが可能、と述べた。

バランスシートの縮小については利上げ開始後にスタートするとして、年後半開始から年央開始に前倒しになったとの印象を与えた。また質疑で毎回の会合での利上げの可能性を否定せず、年4回以上になるとの見方が台頭した。

米長期金利は短い期間を中心に大きく上昇。2年債利回りは1.158%。10年債利回りも1.88%に上昇した。米国株は底固く推移していたが、パウエル議長の会見を受けて主要3指数がいずれもマイナスに転じた。

NYダウは一時▲400ドル超下落。ただその後は持ち直し下げ幅を縮めて▲129ドル安の34,168ドル。ナスダックは+2ドル高の13,542ドル。VIX指数は+0.39ポイント上昇して31.55。

ドルは一段高。ドル円相場は値動きの荒い株価動向に左右され大きく上下しながら114円70銭に上昇。ユーロドル相場は1.1240へ急速に下落。ユーロ円相場は株価動向につれ128円70銭に下落した後、持ち直して128円90銭で引けた。

木曜日の東京市場で日経平均が急落。寄付きこそFOMCを終えたイベント一巡感で自律反発狙いの買いから前日比プラスで始まった。

しかしFRBおよびパウエル議長のスタンスが想定以上にタカ派との見方は根強く急反落、大きく下落した。

米国株先物がアジア時間に軟調に推移したことも重石。海外投資家からの売りも嵩んだ。

日経平均は後場には26,000円近くに下落。個人投資家の押し目買いが支えとなり下げ止まって、前日比▲841円安の26,170円で引けた。

ドル円相場はドル金利上昇に支えられる一方、株価急落によるリスク回避で円買いもあり高値圏で上下動。114円70銭で恥なり80銭に上昇した後、50銭に下落。ただ夕刻から欧州市場にかけては114円90銭台に上昇し115円に接近した。

ユーロドル相場は1.1240で始まり軟調。夕刻には1.1220で推移したが、欧州市場に入ると下げ足を速めて1.12ちょうどを割り込んだ。ユーロ円相場は128円90銭で始まり朝方129円をつけたが反落。夕刻にかけては128円60銭~70銭で上下した。

欧州株は堅調。ロシアがウクライナ侵攻の意図なく米国との対話を続ける、と表明した。米国株は大幅高寄り。NYダウは前日比+600ドルの34,700ドル後半で始まった。しかしすぐに反落して大幅に下落。34,000~34,200ドルでもみ合い、結局引けは前日比ほぼ変わらず▲7ドル安の34,160ドル。

ナスダックも同様に大きく高寄りして始まったが買いは続かずすぐに大幅反落。安値圏でもみ合い▲189ドル安の13,352ドルで引けた。

VIX指数は▲1.47ポイント低下したものの30.49で高止まり。10-12月期のGDP速報や耐久財受注は強めだったが、かえってFRBの早期利上げを促すとの見方が株価の重石となった。

2年債利回りは一時1.2%をつけ1.194%。10年債利回りは株安で上昇が抑制され1.808%。

ドル円相場は115円50銭に上昇したが株安で上昇が抑制され115円20銭~50銭で上下して引けは115円40銭近辺。ユーロドル相場は米国時間朝方に大きく下落して1.1140割れ。その後は下げ止まり1.1440~50でもみ合い。

ユーロ円相場は128円90銭台に上昇したものの欧州時間には反落して128円50銭~70銭でもみ合い。その後米国株安に応じて128円40銭割れに下落した。引けはやや戻して128円60銭。

原油価格WTIはやや下落して86.61ドル。金相場は米金利上昇やウクライナ情勢への過度な警戒感がやや後退して続落し1,800ドルを割って1793ドル。

発表された米国の耐久財受注(12月)は前月比▲0.9%と前月+3.2%から減速。ただ民間部門の設備投資動向を示す非国防・除く航空機は+1.3%と前月+0.4%から加速した。

週次の失業保険新規申請件数は260千人(前週290千人)に減少、継続受給者数は1,675千人(同1,624千人)とやや増加した。GDP(10-12月期・速報)は前期比年率+6.9%と前期+2.3%から大きく加速して予想+5.6%を上回った。

個人消費が+3.3%と前期+2.0%から加速して好調。設備投資も堅調だった。

金曜日の東京市場では日経平均が4日ぶりに大幅反発。26,600円近辺で大幅高寄りした後も底固く、26,700円台でもみ合い高値引け。

3日間で大きく下げたことから反発狙いの買いが入り、アジア時間に米国株先物が堅調に推移したこと、ドル高円安が進行したことも支えとなった。引けは前日比+547円高の26,717円。

ドル円相場は115円30銭台で始まり底固く40銭を中心にもみ合い。夕刻から欧州市場にかけてはドル高が進み115円60銭台に上昇した。ユーロ円相場は128円50銭で始まり80銭に上昇。

ただ夕刻から欧州市場にかけてユーロ安ドル高に振れたことで128円50銭に反落した。

ユーロドル相場は1.1140台で始まり1.1150近辺でもみ合い、その後夕刻には反落して1.1130~40で上下した。

米国株は下落して始まったが反発。米国株は下落して始まった。NYダウは一時▲300ドル超下落。発表された消費関連指数が弱めだった。

その後は長期金利上昇が一服したことでハイテク株、高PER銘柄が持ち直し。好決算銘柄にも買いが入った。引けにかけて上げ幅が拡大。NYダウは前日比+564ドル高の34,725ドル。ナスダックは+417ドル高の13,770ドル。

VIX指数は▲2.83ポイント低下したものの27.66となお高水準で不安感が残っていることを示した。

米10年債利回りは朝方1.85%に上昇していたが1.78%に低下。2年債利回りも1.22%に上昇していたが1.17%台に低下した。株、債券、ともに週末で一旦売り方の買い戻しが入ったとみられる。

米金利低下をうけ、また為替市場でも手仕舞いが入って、ドル円相場は115円20銭に下落。ユーロドル相場は1.1170に反発して引けは1.1150。ユーロ円相場は128円40銭~50銭。

発表された米国の経済指標は、雇用コスト指数(10-12月期)が前期比+1.0%と前期+1.3%から上昇率が減速し予想+1.2%を下回った。

個人所得・消費支出(12月)は前月比+0.3%・▲0.6%と概ね予想通り。消費支出価格指数は前年同月比+5.8%と前月+5.7%から加速、コア指数も+4.9%と前月+4.7%から上昇して予想を上回った。

ミシガン大学消費者信頼感指数(1月確報)は67.2と速報68.8から下方修正された。

◆今週の3つの注目ポイント


1.米国の経済指標(ISM景気指数、雇用統計)

今週は重要指標の発表が相次ぐ。強い経済指標は過度な景気懸念を緩和する材料だが市場が懸念するのは先々の状況。かつ強い数字はFRBの早期金融正常化への思惑を一段と強める可能性がある。

月曜日 シカゴ購買部協会景気指数(1月、予想62.5、前月64.3) ダラス連銀製造業活動指数(1月、前月19.2)

火曜日 ISM製造業景気指数(1月、予想58.0、前月58.7) JOLT求職者数(12月、予想11,075千人、前月10,562千人)

水曜日 ADP雇用報告(1月、前月比雇用者数増減、予想+250千人、前月+807千人)

木曜日 米週間新規失業保険申請件数 ISM非製造業景気指数(1月、予想59.6、前月62.0) 製造業新規受注(12月)

金曜日 雇用統計(1月、非農業部門雇用者数・前月比、予想+238千人、前月+199千人 失業率、予想3.9%、前月3.9% 平均時給、前年同月比、予想+5.1%、前月+4.7%)

2.ECB理事会、ラガルド総裁会見

木曜日にECB理事会が開催され終了後にラガルド総裁が定例会見を行う。先日、ラガルド総裁はFRBほど積極的な金融正常化は行わないと述べた。

ラガルド総裁はハト派として知られ、そうしたスタンスは想定内。ただ他のメンバーの考え方はどうか。

今回政策変更は想定されないが、金融正常化に関して、ECBは急がない、との意見で一致するか。あるいはタカ派的な意見が散見され、ハト派で一枚岩でないことが明らかとなり、金融正常化懸念が台頭するか。

ECBのハト派姿勢がグローバルな長期金利上昇、ひいては米10年債利回りの上昇抑制にひと役買っている面もあり、議論の内容に留意を要する。

3.株価動向

米国株の調整が止まらない。

とくにPERの高い銘柄、ハイテク株の調整が顕著。FRBの早期金融引き締めへの警戒感、利上げを織り込んだ長期金利の上昇、さらにウクライナ情勢の不透明感が重石となっている。

あるいは金融引き締めによる景気悪化警戒感が株価の重石との見方もある。

ただ景気動向はなお足元で堅調。金利上昇基調は続くとみられ、株価の上値の重さは続くとみられるが、一方で景気動向が堅調な限り株価調整がトレンドとして長期化するとは考えにくい。

雇用統計を経て下落一服。市場のリスク回避ムードが緩和するか。リスク回避での円安抑制・円高圧力もポジション調整による一時的な動きとみられるが、株価調整一服すればドル高円安が加速する可能性がある。

◆今週のMRA's Eye


金融引き締めなのか、正常化なのか

FRBが行おうとしているのは金融引き締めなのか、金融正常化なのか。どちらのフレーズを使うかで認識の相違が示される。

株価下落の理由をFRBの金融政策に求めたいのなら「金融引き締め」ということになるだろう。トレンドを重視する市場は、利上げ開始、バランスシート縮小、を引き締めと認識、表現しやすい。

しかしFRBにとっては、景気・物価動向と金融政策の水準がマッチしているか、が問題。トレンドではなく水準を重視する。あくまでも金融正常化であり、過剰な金融緩和が今の状況にマッチしていないので修正するということだ。

「引き締め」は中立水準からさらに利上げないし資金供給を絞り景気を冷やそうという意図がある場合。こうして、トレンドに警戒感を強める市場と、水準に警戒感を強めるFRBに、認識相違が生じる。

市場は、金融引き締めにより景気が悪くなる、と心配し、あるいは株価に優しくして欲しい、と求める。

しかしFRBは、そうした市場の懸念、株価動向に、お構いなしで行動する可能性がある。市場はようやくそれを理解し始めたのかもしれない。

先日のFOMCで、FRBは金融正常化の手綱緩めず、むしろスピードアップの可能性を留保する姿勢を示した。

利上げは次回3月の会合で実施することはほぼ確実。注目のバランスシート縮小は6月ないし7月には実施し、そのペースがかなり速くなることが示唆された。

市場が不安心理を抱いたのは、質疑で毎回会合での利上げの可能性を問われたパウエル議長が否定しなかったことだ。

議長は、労働市場はなお堅調で、雇用改善を損なわずに利上げが可能と述べた。景気雇用情勢を楽観視、インフレ警戒感は高まったままだ。

米国株は高PER銘柄、ハイテク株を中心に大きく調整し、その後も不安定な値動きを続けている。その背景について、早期金融引き締めによる景気悪化懸念、リスク回避との解説もみられる。

しかし、景気や業績を本格的に懸念したこと、景気サイクルがダウントレンド入りしたことを懸念したことが株安の背景ではないだろう。金利観が大きく変わったことによるバリュエーション調整が主要因だ。

要求利回りが大きく上昇したことにより、株式に求められる利回りが上昇。株式益回りが上昇するためには、1株利益が上昇するか、株価が下落するか、いずれかしかない。

足元で決算発表が相次いでいるが、業績内容・利益見通しが予想に届かなかった銘柄、すでに高いPERの銘柄には株価下落圧力がかかる。

FRBの金融正常化スタンスが強固であることを確認したことで「PERショック」、PER低下=株価下落による株式益回りの修正・上昇が生じたということになる。

このバリュエーション調整の震源地はドル金利上昇だ。

景気堅調、雇用情勢逼迫、インフレ圧力の高止まりが背景。業績懸念ではない。ドル金利上昇はまたドル高を促す。ドル高は米国企業の業績にもやや向かい風だろう。

市場全体の資金動向を踏まえれば、株安・リスク回避はドル高を支える。投資家の資金が米国債など安全資産さらにはグローバルなキャッシュであるドルに回帰するためだ。この局面では株安とドル高は両立する。

バリュエーション調整による株安は大幅となりうるが長期化しないと考えられる。適正とみられる水準まで調整すれば止まる。

その後は、景気拡大継続、企業収益の伸び、と、上昇した金利水準とのせめぎ合いとなる。

上昇トレンドは崩れないとしても、金利が上昇した分だけ緩慢にならざるを得ない。あるいは横ばい、もみ合いとなりやすい。株価下落はトレンドではなく、上値が重く伸び悩み局面入りと想定される。

株安の背景がバリュエーション調整、ポジション調整、なら円高は一時的だ。米欧景気が本格的に調整しない限り、景気トレンドが下降局面入りしない限り、円高もポジション調整にとどまる。

株安とドル金利上昇・ドル高の併存となり、ドル安円高は一時的かつ限定的。その後はドル金利上昇のドル高の勢いが勝り、ドル高円安傾向が続くことになる。

市場には、株価大幅下落によりFRBの金融正常化の手綱が緩むのではないか、との期待もあるかもしれない。しかしそれは望み薄ではないか。

基本的にFRBは景気(雇用)・物価しか考えない。株価動向は景気・雇用・物価に影響する範囲内で考慮するにとどまる。

行き過ぎた金融緩和が株価を支えていたなら、金融正常化による株価下落を許容するだろう。

株安が企業の資金調達リスクプレミアムの上昇につながるかが鍵。クレジットスプレッド(信用スプレッド、国債対比で社債利回りへの上乗せ金利)が拡大して企業の資金調達に支障が生じるようなら手綱を緩める可能性がある。

ただ今のところそうした兆候はみられない。

長期金利の上昇は住宅ローン金利の上昇を通じて住宅市場にブレーキとなる可能性がある。ただ住宅価格が高騰している現状で、市場を冷やすことにさほど違和感はなさそうだ。

総じて、コロナ禍前に頓挫した金融正常化、バランスシート縮小の「発射台」が今回は高くなっており、利上げやバランスシート縮小のペースが前回局面より早くなるのは自然だろう。

ゼロ金利に加え、極めて過剰に膨らんだバランスシートのもと、景気堅調・インフレ率高騰となれば、伝統的なセントラルバンカーには耐えがたい状況で、焦りを感じるのではないか。

米国外をみれば、ECBがFRBほどタカ派とならない、FRBの金融正常化に追随しないことが明確となった。先般、ラガルド総裁は米欧の景気・物価動向格差を認めた。

2月3日のECB理事会、ラガルド総裁の会見でそれを追認するか。欧州にはウクライナ情勢のリスクも垂れ込める。エネルギー供給混乱のリスクは欧州に集中する。米国軍も関与するが、米国経済への影響はエネルギーの国際価格動向を通じて間接的にとどまる。

欧州発リスク回避であれば、ユーロ安、ドルと円がともに堅調、クロス円は軟調となる。

金融政策面ではECBに先立ち、日銀・黒田総裁は現状の金融政策を維持することを表明しており、金融正常化からもっとも遠いまま。

株価調整が一服すれば、円が全般的に軟調となり、なかでもドル高円安が加速するリスクがある。緩やかなドル高円安がメインシナリオだが、FOMCを経て、再びリスクバイアスはドル高が速まるサイドに傾いた。


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