CONTENTSコンテンツ

リスク回避の巻き戻しで多くの商品価格が反転
  • MRA商品市場レポート

2022年1月31日 第2123号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「リスク回避の巻き戻しで多くの商品価格が反転」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格はまちまちの展開となった。株式市場が反発し、長期金利も低下。これまでのリスク回避の目的で「目先のテーマが明確な」商品市場に資金が流入(ETFの発達により、投機資金が商品市場に流入する場合、ETFの買いから入るケースが多い。特に個人などの小口投資家)、価格を押し上げていたが、この利益を確定して本来の市場に資金が還流する流れになったと考えられる。

しかし、米国の利上げ観測やQT(バランスシートの縮小)の動きが緩和するとも思えず、ロシア・ウクライナ情勢は特段進展がなかっただけで状況は改善していないため、週末を控えて「一旦ポジションを調整しよう」という流れになったとみられる。

その観点では、最も価格が上昇したのがビットコインで、安全資産の代表格である金のリスク・プレミアムが急低下したことを考えると、金曜日に関しては市場参加者のリスク選好が戻った、と考えるのが妥当だが、この流れが継続するか否かは、ロシア情勢・FRB情勢次第といえる。

【本日の見通し】

週明け月曜日も、FRBとロシア・ウクライナ情勢がメインテーマとなり、神経質な推移が予想される。

来週からFOMCメンバーの講演が再開され、月曜日はサンフランシスコ連銀総裁がオンラインイベントで講演の予定。今回のパウエルFRB議長の会見では「毎回のFOMCで利上げの可能性が否定されなかった」と「解釈」されたが、こういったスタンスに微修正があるかどうかに注目している。

ロシア問題に関しては、ガス供給に懸念が残る場合、欧州の景気に明らかにマイナスであるため、それを解消するためにバイデン大統領がLNGの最大輸出国であるカタール首長が訪米するタイミングで会談が予定されているが、どのような会見になるかは注目したい。

ただし、カタールのLNGを全て欧州に振り向けたとしても、そもそもの輸送能力や欧州側の受け入れキャパシティを考えると状況改善への寄与度はそれほど大きなものにならないだろう。

【昨日のトピックス】

日本のレギュラーガソリンの平均価格が1月24日時点で170.2円と170円を超えた。これを受けて27日からガソリンの補助金が始った。これにより、元売り系のガソリンスタンドは、前の週に比べて0.9円安く仕入れることができるようになる。

何もしなければ、先週と比較して2.5円値上げの予定だったが、3.4円補助金が支給されるため▲0.9円の値下がりとなる。

しかし、ここに販売社の利益が上乗せされるため、実際に価格が低下するかどうかは微妙である。

こういった補助金は財源に制限があるため、未来永劫続けるのは難しい。より直接的に価格を下げようと思えばガソリン税を下げるなどの措置をする必要があるが、このように以前から課税されているものは、一応、資金使途が決定しているためこれを変更するのは簡単ではなく、即効性という意味で補助金が選択されたと言える。

しかし、こうした税金が米国のようにゼロになった場合、しばらくの間は良いが、多くの調査機関が100ドル、200ドルと原油価格予想を引き上げており、仮に200ドルまで上昇すれば、恐らく減税の効果は消失することになる。

つまり、結局の所「本体価格をいかにマネージするか」が重要になる、ということである。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・ロシアと西側諸国の軍事衝突のリスク、それに乗じて中国が台湾に侵攻するリスク(世界経済の減速要因)

・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

・資源価格上昇によるインフレや、米テーパリング・利上げ・BS縮小観測を背景とした新興国通貨安で新興国が想定以上のペースで利上げを行わねばならず、世界的に金融引き締めモードに転じた場合(リスク資産価格の下落要因)。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。

・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。

・ロシア・ウクライナ・ベラルーシ・欧州を巡る対立が激化し、軍事的な衝突が発生する場合(景気の減速を通じて景気循環系商品価格の下落要因)。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。

◆昨日のセクター別動向と見通し


---≪エネルギー≫---

【昨日の原油市場と見通し】

昨日の原油価格は上昇した。年初から続くウクライナ・ロシア情勢の緊張を背景に、供給不安が高まる中で買いが継続した。また、株の下落による資金シフトで上昇してきた部分はあるのだが、昨日は株価の上昇も買い材料とされた。

週明け月曜日の原油価格は高値でのもみ合いが継続すると考える。今のところロシアとウクライナの軍事衝突の懸念、ロシアに対する制裁、共に否定されていないため。

来週は2日に予定されているOPECプラスの閣僚級会合での増産有無だが、OPECプラスとしても、OPECプラスのメンバーであるロシアを制裁した場合、「足りないから増産してくれ」という欧米の要求は通らないと考えられ、恐らくOPECプラスとしては今まで通りの40万バレルの増産、としか発表のしようがないのではないか。

あるとすればOPECプラスの増産は40万バレルだが、余力のあるサウジアラビアが「自主的に」増産するケースだが、今のところはリスクシナリオの位置づけ。

中・長期的にはOPECプラスの供給能力への懸念、気温低下に伴う季節的な需要増加が続いているため高値を維持すると考える。ただし、米金融引き締めのペースが加速する可能性が高く、景気の減速と季節要因で春先に向けて価格が調整する見通しを変更する必要は無いと考えている。

ただし、期間の長い中期的(来年の春以降)には、ウィズコロナの進捗で行動制限が解除され、輸送燃料需要(特に航空機向けの需要)が回復することからやはり上昇に転じると見ている。

足下、原油100ドル超えの可能性が指摘されている。リーマンショック前後の100ドル超えの時は、投資銀行が油田や製油所、タンカーの現物に投資銀行が投資を行ない、エネルギー「現物」資産の「ロングポジション」を有している状態だったが、その状態で調査部門は「株価よりも割安だ」「供給が間に合わない」というロジックで100ドル、200ドル、といった予想を発表しており、既視感がある。

このときと市場環境が異なるため同列には議論できないが、足下の需給がタイトであることは事実であり、この数ヵ月で供給が間に合うとは考え難いため、1~2月は原油価格は弊社が想定している以上に強含むと予想され、仮にウクライナ問題が顕在化すれば100ドル原油も短期的には有り得る話だ。

より長期的な観点では、脱炭素が継続するとの前提に立ち、「脱炭素による供給制限と、消費者側の脱炭素の動きは特にエネルギー需要のドライバーである新興国では遅々として進まない可能性が高いこと」を考えると、水準を切り上げていく展開が予想される。

需要の構造はそう簡単には変わらない、ということである。問題はこの長期にわたる価格上昇を、消費者側が本当に許容できるかどうかだろう。

【見通しの固有リスク】

・ロシアのウクライナ侵攻に対して、欧米がロシアのエネルギー企業に制裁、供給が逼迫した場合(価格上昇要因)。

・電力・ガスをはじめとするエネルギー供給制限が経済活動を強制的に停止させ、需要が減少する場合(価格下落要因)。

・米国経済が正常化する中で金融緩和解除が加速、急速なドル高を通じて投機的な売り圧力が高まる場合(価格下落要因)。

・OPECプラスの増産ペースの遅れないしは上流部門投資不足による供給不足。あるいは上流部門投資をしてこなかった結果、思った増産ができない場合(価格上昇要因)。

価格が上昇する中でOPEC諸国の減産維持統制が効かなくなり、増産競争に舵が切られる場合(下落要因)。

・脱炭素の進捗、生活様式の変化による構造的な需要減少が加速した場合(価格下落要因)。

・脱炭素の過剰な進捗による供給懸念(価格上昇要因)。

 1.中東産油国の財政悪化によって情勢不安が顕在化、供給途絶リスクが高まる場合

 2.中東以外の産油国の生産者の破綻

 3.上流投資部門投資が減速し、インドなどの新興国需要顕在化時に供給が間に合わない場合

 4.価格面、数量面で予算を確保できない産油国が、OSPを大幅に引き上げる場合(第3次オイルショック)

なお、脱炭素が完了しても100%原油が不要になることはなく、OPECの価格支配力が増すため、この場合でも価格は上昇へ。

【石炭市場のまとめと見通し】

豪州石炭スワップ先物価格は小幅に下落したが226ドル台を維持している。最大生産国である中国が、オリンピック期間中の生産を制限していること、ロシアがウクライナ向けに石炭の輸出を停止していることなど、供給面と厳冬が意識されている。

中国の石炭輸入の指標の1つであるバルチック海運指数は久しぶりに反発したが、過去5年レンジ内での推移であり異常な水準高騰は訂正された。しかし、コンテナ指数は引き続き高い水準で推移している。

週明け月曜日の石炭価格は、市場環境に大きな変化がない中で高値圏での推移が続くと予想される。需要期が終了して下落するのはまだ1~2ヵ月先だろう。

中期的には、春先に向けて暖房向けの需要が減少して下落した後、再び上昇に転じるとみているが、ラニーニャ現象が夏頃まで継続する見通しの中、豪州が洪水のシーズンに入ることもあって、この下落余地が限定される可能性はある。

また、オリンピック・パラリンピックが終了した後、工場向けの需要増加が見込まれる中国勢の買い圧力が強まることも、春先の価格下落余地を限定するリスクがある。

中国政府主導による石炭増産は、冬が本格化するなかで、主要生産地が中国北部であることを考えると思った通りの増産ができるとは考え難い。

しかし、12月の生産は3億8,467万トンと(前月3億7,084万トン)と過去最高水準となった。

その結果、12月の中国の石炭輸入は前年比▲20.8%の3,095万トン(前月+198.1%の3,505万2,000トン)と急速に減速している。

しかし、寒さが厳しくなる1~2月の増産有無、オリンピック・パラリンピックが終了すれば工場の稼働は再開するため、「豪州の洪水シーズン中の、中国の工場稼働再開」は価格上昇リスクを高めるとみている。

【見通しの固有リスク】

・ロシアのウクライナ侵攻に対して、欧米がロシアのエネルギー企業に制裁、石炭供給が逼迫する場合(価格の上昇要因)。

・今冬はラニーニャ発生が厳冬リスクを高めているが、懸念に反して暖冬となる場合(価格下落要因)。

・電力・ガスをはじめとするエネルギー供給制限が経済活動を強制的に停止させ、需要が減少する場合(価格の下落要因)。

・Nord Stream2の稼働が停止され、天然ガス価格が上昇する場合(上昇要因)。

・世界的な環境重視型世界へのシフトを受けた、石炭上流部門への投資規制強化による、供給減速懸念(価格の上昇要因。これは既に顕在化)。

【天然ガス・LNG市場のまとめと見通し】

昨日の欧州天然ガス価格は小幅に下落した。ロシアからの供給は途絶えたままだが、LNGの輸入増加で下落していたものの、やはり供給が十分ではないため高値での推移となっている。

ただしLNG船1隻で運べるLNGの数量は7万トン程度であり、欧州10隻増えても70万トンの増加となる。欧州のLNG地下在庫貯蔵能力が1,000億立方メートル(7,100万トン、現在160億立方メートルの増強作業中、LNG100万トン=天然ガス1,400億立方メートルとした)であることを考えると、「LNG貯蔵能力の」1%程度であり、やはりパイプラインによるガス供給能力確保がエネルギーの安定供給には必須となる。

米国天然ガスは気温低下見通しや欧州向けの供給体制強化方針をバイデン政権が示していることもあって、高値での推移となった。JKMも欧州ガス価格の上昇で同様に水準を切り上げている。

週明け月曜日もウクライナ情勢を巡って神経質な推移が続くと予想されるが、急にロシア情勢が改善するとは考え難いため、ガス価格は高値を維持するだろう。

JKMに関しては、中国のカーゴ増加もあり期近は低下し、コンタンゴとなっているが、再び欧州の調達増加観測が強まっていることから、期先については特に上昇圧力が掛ると予想される。

中期的にガス価格は、冬場の終了に伴う季節的な需要減少から価格は下落すると考えているが、ウクライナ情勢が緊迫し、実際にロシアからの供給が制限されれば水準は切り上がることになると予想される。

また一昨年の猛暑から始まる欧州の天然ガス在庫の減少は危機的な状態にあり、今のままだと今年の夏が普通の夏になったとしても十分なガスが確保できない可能性は高く、2022年~2023年前反のTTFやJKM価格を高止まりさせている。

仮にノルドストリーム2が予定通り夏頃に稼働を始めれば、供給の安定で2023年は危機を脱する、というのが希望的観測も含めたメインシナリオではある。

この状況を打破するためには、恐らく(ドイツ・オーストリアなどを除き)原発をクリーンエネルギーと位置づける国が増加すると考えられる。なお、域内最大の原発を有するフランスの原発稼働率は急速に回復しているが、まだ過去5年レンジの下限である。

LNGの最大輸入国となった中国だが、12月の中国の天然ガス生産は前年比+2.6%の1,356万2,000トン(前月+5.2%の1,253万トン)と増加、過去5年レンジを上回っているが増加ペースは鈍化した。※1立方メートル0.7067トンとしてトンベースとした数値(JAPEXのHP掲載の数字を参照)。

12月の中国の天然ガス輸入は前年比+3.7%の1,165万トン(前月+16.9%の1,073万トン)と過去5年レンジを上回っているが輸入ペースは鈍化している。

12月の中国のLNG輸入は前年比+0.5%の762万8,875トン(前月+4.4%の690万1,275トン)と過去5年レンジを上回っているが水準は減少している。

中国はパイプライン経由での天然ガスは主にトルクメニスタンから行っているが、「シベリアの力」パイプラインが開通して以降、ロシアからの調達も増加している。

ロシアの中国向け輸出は増加していた。そもそもシベリアの力経由での輸出は2021年で85億立方メートルに増加させる見込みだが、輸出の増加は契約通りとするロシアの主張に沿っている。

12月までの輸出が106億6,400万立方メートルであり(天然ガス1トン=1,415立方メートルとして弊社算出)、この計画を上回ったことになる。

ガス調達は、天然ガス生産→天然ガス輸入→LNG輸入の優先順位と考えられるが、天然ガス生産の増加、ロシアからの輸入増加(シベリアの力2)により、LNGの輸入需要が低下する可能性がある。

しかし、環境面からCoal to Gasを進める可能性が高いため、顕著にスポットLNG需要が減少するというわけではないだろう。

【見通しの固有リスク】

・ラニーニャ現象による厳冬の影響が価格上昇をもたらしているが、予想に反して冬場が早く終了したり暖冬になったりする場合(価格下落要因)。

・電力・ガスをはじめとするエネルギー供給制限が経済活動を強制的に停止させ、需要が減少する場合(価格の下落要因)。

・Nord Stream2が稼働して欧州のガス需給が緩和した場合(価格下落要因)。

・石炭と同様、「化石燃料であること」を理由に上流部門投資が制限される、あるいは原油生産減少による随伴ガス供給が減少する場合(構造的な価格上昇要因)。

・産油国の減産継続による随伴ガス供給の減少懸念(価格上昇要因)。

【投機筋のポジション動向】

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

WTIはロングが492,310枚(前週比 ▲10,868枚)ショートが118,895枚(+1,498枚)ネットロングは373,415枚(▲12,366枚)

Brentはロングが313,823枚(前週比▲4,236枚)ショートが71,306枚(+1,125枚)ネットロングは242,517枚(▲5,361枚)

---≪工業金属≫---

【昨日の非鉄金属市場と見通し】

昨日のLME非鉄金属価格は下落した。最大消費国である中国が春節前で動きが緩慢であり、かつ、オミクロン株の影響で経済活動が停滞していること、米金融引き締め加速懸念で週末を控えた利益確定の動きが強まったため。

年初からの価格上昇は投機が主導した上昇である可能性が高いが、そのため、金融政策動向がタカ派に転じる中では利益確定の動きが強まりやすい。

週明け月曜日も、ロシア問題を背景とする供給制限と、エネルギー不足に焦点が当たり高値を維持すると考えるが、同時にそれに伴うインフレ抑制加速観測が米国で強まっていることが、ドル高や実質金利高をもたらし、高値と言いつつも調整圧力が強まる展開を予想する。

さらに下落があるとするとウクライナ情勢の緩和だが、状況に進展はなく、ウクライナのNATO不加盟に応じなかった米国の回答に対して、ロシアがどのような対応をするかに注目が集まる。

足下、欧州の電力供給問題は解消しておらず、各地で発生する悪天候や天災の影響で、多くの鉱物資源の生産・出荷に影響が出ており、かつ、ゼロコロナを標榜し、オリンピック・パラリンピックを目前に控える中国は、積極的にロックダウンを行っていることから、再び供給懸念が強まっている。

中国の発電量を見ると、12月は前年比▲0.6%の7,234億kwhと前月の前年比+1.9%の6,540億kwhから減少、一方で電力消費は前年比+26.1%の8,156億kwh(前月+3.9%の6,718kwhh)と伸びは加速しており、発電量を上回っている。

同時同量の原則があるため両者は同じ数値であるべきだが、統計の集計方法によるものと考えられる。

しかし、需給はタイトな状態が続いているといえ、本格的に電力依存の高い精錬品の生産が回復している感じはない。そのため、精錬品の価格は高止まりすると見る。

中期的には、ロシアに対する制裁はリスク要因と整理すると、米国の急速な利上げとそれに追随する新興国の利上げで一旦調整し、その後、経済対策の効果(米国のインフラ投資や、中国の金融緩和など)の影響、脱炭素向けの資源需要の増加で上昇に転じると考えている。

米バイデン政権は8年間で1兆2,000億ドルのインフラ投資を実施の計画で、主に以下の分野に資金が配分される。

道路・橋梁・主要プロジェクトに1,090億ドル、電力インフラに730億ドル、旅客・貨物鉄道に660億ドル、ブロードバンド・インターネットサービスに650億ドル、公共交通機関に490億ドル、空港に250億ドル。

長期的にはインドの人口ボーナス期入り、まだ脱炭素の流れが続いていること、省エネや脱炭素の流れに変わりがないこと、世界的な資源国の「資源ナショナリズムの流れ」を受けて、供給面・需要面の制限から価格が上昇するという見通しを変更する必要はないと考えている。

【2022年LME金属需給見通し】

銅 生産 26,351千トン(前年25,043千トン) 需要 26,782千トン(25,613千トン) 需給 ▲432千トン(▲571千トン)

亜鉛 生産 14,293千トン(13,975千トン) 需要 14,423千トン(14,092千トン) 需給 ▲130千トン(▲117千トン)

鉛 生産 12,437千トン(12,437千トン) 需要 12,463千トン(12,243千トン) 需給 ▲26千トン(+194千トン)

アルミ 生産 69,003千トン(68,782千トン) 需要 70,441千トン(70,116千トン) 需給 ▲1,438千トン(▲1,334千トン)

ニッケル 生産 2,927千トン(2,886千トン) 需要 2,960千トン(2,758千トン) 需給 ▲33千トン(▲75千トン)

錫 生産 423千トン(413千トン) 需要 428千トン(425千トン) 需給 ▲5千トン(▲13千トン)

※カッコ内は修正前予想。

【見通しの固有リスク/個別金属の特殊要因】

・ウクライナ問題を巡り、ロシアが欧米から制裁を受けてニッケルやアルミなど、同国への供給依存が高い商品の供給が逼迫する場合(価格の上昇要因)。

・中国不動産セクターの調整が長びき、中国の不動産バブルがはじける場合(価格下落要因)。

・ロジスティクスに障害が残る中、非鉄金属の偏在が現物プレミアムを押し上げるリスク(欧米で顕在化)。

・猛暑や渇水による燃料価格上昇で、1.電力供給不足による稼働停止・供給減少、2.発燃料価格の上昇を通じて生産コストが上昇する、場合(価格上昇リスク)。

・米国経済が正常化する中でドル高が進行し、投機買いが膨らんでいる非鉄金属市場で投機の手仕舞い売り圧力が高まる場合(下落リスク)。

・上流部門投資不足並びに鉱石の品位低下による、鉱山供給の制限。

・チリやペルーを始めとする鉱産国で資源ナショナリズムの流れが強まっていること、あるいは対欧米政策で「後部資源大国」である中国が特定資源の供給を制限する場合(供給減少ないしは生産コスト上昇で価格の上昇要因)。

・環境に配慮したメタル使用の義務化などが欧州で進む場合などのコストアップ(グリーン・メタルの義務化によるコスト増加)。

【投機筋のポジション動向】

・LME投機筋買い越し金額投機筋ネット買い越し・LME投機筋買い越し数量0

【昨日の鉄鋼原料市場と見通し】

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は小幅に下落、大連原料炭先物は上昇、上海鉄鋼製品先物は上昇した。

中国の鉄筋スポット価格は先物価格の上昇を受けて上昇している。また、春節、オリンピック・パラリンピックを控えた中国の鉄鋼生産減速観測が鉄鋼製品価格を押し上げ、これらのイベント明け以降の鉄鋼製品需要増加を見越した鉄鋼原料買いが継続しているためとみられる。

週次の鉄鋼製品在庫は前週比+108万6,000トンの1,214万5,000トン(過去5年平均 1,164万4,000トン)と例年を上回っている。

鉄鉱石港湾在庫は前週比▲100万トンの1億5,405万トン(過去5年平均1億3,341万6,000トン)、在庫日数は33.0日(過去5年平均 29.6日)と数量ベース・日数ベースでも過去5年の最高水準を上回っており、需給は緩和した状態が続く。

原料炭は最大生産地区である河北省の主要港である、京唐港の港湾在庫は前週比▲4万4,000トンの110万トンとなり、過去5年の最低水準である135万トンを下回った。カレンダーが2022年に変わったこともあるが、過去と比較して需給はタイト化している。

在庫日数も4.4日と、過去5年の最高水準である5.5日を下回り、需給タイト化している。

週明け月曜日は中国勢が春節入りするため、工場の稼働が低下することから在庫物色の動きも鈍化し、鉄鋼原料価格は下落すると予想する。

また中期的には、オリンピック・パラリンピックの終了に伴う工場の増産が見込まれ、かつ、春先頃からプライムレート下げなどの影響で中国の需要が緩やかながら回復すると見込まれることから、上昇すると予想される。

オリ・パラの期間、北京市、天津市、河北省、山西省、山東省、河南省では粗鋼生産を▲30%以上削減、河北省唐山市は大気汚染物質の排出を▲40%以上削減、山西省は鉄鋼やアルミ、鋳造、セメントなどの建材生産を制限、河北省はセメント生産を制限する方針を打ち出している。

粗鋼生産が減少すれば、鉄鉱石の在庫水準の指標である在庫日数も、分母が小さくなるため上昇が予想され、鉄鉱石価格の下落要因となる。これは原料炭も同様。

長期的な観点では供給が増加を上回り、現在の生産コストに近い水準である期先の価格(90ドル程度)まで水準を切下げる展開が予想されるが、中国に加えてインドが人口ボーナス期入りしているため、構造的な需要の増加が見込まれることから高値圏での維持を見込む。

特に原料炭は供給ソースが制限されるため高値を維持するだろう。

【見通しの固有リスク】

・中国の不動産セクター減速が、建材需要を減少させる可能性(鉄鋼製品価格の下落を通じて鉄鋼原料価格の下落要因)。

・世界的に広がる環境規制強化の流れで、鉄鉱石や原料炭などの生産に一定の影響が起きる場合(価格上昇要因)。

・コロナウイルスの感染拡大長期化による、鉱山生産の減少リスク(価格上昇要因)。

【工業金属関連の中国重要統計の評価】

◆製造業PMI

12月の製造業PMIは50.3(前月50.1)と改善した。生産が51.4(52.0)とやや減速下が、原材料在庫(47.7→49.2)、完成品在庫(47.9→48.5)の増加などが水準を押し上げた。

景気は基本的には減速基調にあるため、在庫の積み上がりは必ずしも良い在庫の積み上がりとは言えない。また、投入価格(52.9→48.1)、卸価格(48.9→45.5)と低下しており、徐々に需給環境は緩和しているようだ。

実際、需給状況の指標である新規受注在庫レシオは、完成品が1.02(前月1.03)、原材料が1.01(1.04)と低下しており、中国の製品・原材料需給は緩和していると考えられる。

また、PMIは改善しているものの主に大企業(50.2→51.3)の改善によるもので、中小企業の景況感は悪化(48.5→46.5)している。中国製造業の景況感は決して良いとは言えない。

◆鉄鋼業PMI

12月の中国鉄鋼業PMIは総合指数は38.7(前月36.6)と改善したが、50の閾値を割り込む状態が2020年6月から続いている。引き続き、中国政府による住宅セクターの抑制が続いていると考えられる。新年早々、恒大集団の株が香港で取引停止になるなど、同国の不動産市場の混乱は続いている。

サブインデックスの新規受注は低迷(39.0→28.2→25.9→28.1)、輸出向け新規受注も(39.5→38.7→34.8→36.3)と、内外需とも低迷が続いており、在庫水準も完成品在庫が31.8(前月28.6)、原材料在庫が35.2(32.8)と低いものの前月からは増加している。

価格に対する説明力が高い新規受注・完成品レシオは0.88(前月0.91)と低下しており製品需給は緩和している。原材料レシオは0.80(前月0.79)と小幅に上昇しているが水準は低い。

◆建設業PMI

中国の鉄鋼需要を牽引してきたのは建設セクターだが、12月の建設業PMIは56.3(前月59.1)と閾値の50は上回っているが、減速感が強まっている。

まとめると、全体として需要は不動産セクター、自動車など低迷しており、輸出税還付の廃止も輸出需要の減速に大きな影響を及ぼした。中国政府は国内の炭素排出抑制を目的として粗鋼生産を2021年度程度に抑えると予想される。

◆工業生産・固定資産投資・不動産投資

工業金属のフロー需要に影響する工業生産は、単月ベースでは+4.3%(前月+3.8%)とやや回復したが、1-12月累計で前年比+9.6%(1-11月期+10.1%)と伸びが鈍化しており、電力供給不足や不動産セクターの抑制によって工業活動が減速したと見られる。

不動産開発投資は1-12月期累計で前年比+4.4%の14兆7,602億元(1-11月期+6.0%の13兆7,314億元)と減速している。中国政府による不動産市場加熱抑制は継続していると見られる。

ストック需要の指標である固定資産投資も年初来累計で+4.9%(+5.2%)と減速。公的セクターの伸び鈍化は所与(+3.0%→+2.9%)だが、よりボリュームの大きな民間部門が前年比+7.0%(+7.7%)と減速していることの影響は小さくない。

とは言え、ソフトランディングを目指す中国政府の対策(不動産規制緩和・預金準備率引き下げ)の影響で減速は数ヵ月後に底入れするだろう。

電力供給の制限やオリ・パラの開催を考えると、回復は3月以降になると見る。

◆自動車販売

2021年の中国全国乗用車市場情報連合会が発表した2021年の自動車総販売台数は前年比+4.5%の2,050万台、そのうちEVは244万台となっている。

なお、EV戦略に慎重なスタンスだったトヨタ自動車が2030年までにEV車を350万台/年販売する方針。モーターやバッテリーを組み込んだ自動車を販売トップのトヨタがEVに舵を切った場合、他社も追随する可能性。

◆貿易統計

(銅)

12月の中国の貿易統計を見ると、ベンチマークである精錬銅の輸入は前年比+15.0%の58万9,000トン(前月▲9.1%の51万402トン)と過去5年レンジを上回り輸入が増加した。

国内の電力供給不足による生産制限を受けて輸入が増加したとみられる。

一方、銅精鉱の輸入は前年比+9.6%の206万トン(前月+19.6%の218万8,000トン)と高い水準を維持している。TCが高止まりする中、上海在庫が著しく少なく季節的には2月~3月にかけてが在庫の積み増し時期に当たるため、それに備える動きと考えられる。

エネルギー不足の影響で輸入の伸びが減速していたが、中国政府の対策推進によりやや国内生産が回復した可能性はある。

中国の大規模銅製錬事業者の12月の稼働率は96.0%と前月唐は回復しているが、同じ時期の過去5年平均は下回っている。

12月の銅スクラップの輸入は前年比+38.4%の16万1,619トン(前月+76.6%の16万4,652トン)。

(鉄鋼製品・鉄鋼原料)

12月の中国の鉄鋼製品の輸入は前年比▲26.9%の100万1,000トン(前月▲23.0%の142万4,000トン)と減速。

12月の中国粗鋼生産は前年比+2.3%の8,619万トン(前月▲25.1%の6,931万トン10月▲24.5%の7,158万トン、9月▲21.2%の7,375万トン、8月▲13.2%の8,324万トン、7月▲8.4%の8,679万トン、6月+1.5%の9,388万トン、5月+6.6%の9,945万トン)と急回復。

燃料供給の回復や、1~3月のオリ・パラ期間中の稼働停止を見込んだ前倒し生産が進んだため。

12月の鉄鋼製品の輸出は前年比+3.6%の502万6,450トン(前月▲0.9%の436万1,000トン)と前月からやや回復したが、それでも過去5年の最低水準であり国内供給を優先させていることが窺える。

12月の鉄鉱石の輸入は前年比▲11.0%の8,607万トン(前月+7.0%の1億496万トン)と急減速した。鉄鉱石の港湾在庫が積み上がり、かつ、1~3月のオリ・パラ期間中の製鉄所の稼働が低下することを見込んだ前倒し調達が一巡したためと考えられる。ほぼこれまでの予想通り。

12月の中国の原料炭輸入は前年比+109.7%の748万7,956トン(前月+108.0%の774万1,656トン)と減速も高い水準を維持。豪州からの輸入は272万5,682トン(前月267万793トン)と高い水準を維持した。

---≪貴金属≫---

【昨日の貴金属市場と見通し】

昨日の貴金属セクターは週末を控えた調整売りに押された。株価が戻りを試し、実質金利も低下する中で金の基準価格が切り上がったが、過去5年平均水準を大幅に超えて上昇していたリスク・プレミアムが235ドルまで低下し、目先のリスク回避姿勢が弱まった形。

今回のリスク・プレミアムの上昇は、米金融引き締め観測を背景とした新興国の財政不安と、ウクライナ・ロシアの地政学的リスクが背景となるが、昨日は金融引き締めの悪影響ヘの懸念がやや後退したとみられ、リスク・プレミアムが低下した。

銀・プラチナも金価格の下落を受けて調整。パラジウムはロシア・ウクライナ問題や、株の戻りもあって上昇した。

週明け月曜日も、ウクライナ・ロシア情勢不安を背景にした安全資産需要と、金融引き締め観測を背景とする基準価格の低下のせめぎ合いで高値を維持すると考える。

金価格は、地政学的リスクの高まりでリスク・プレミアムが上昇しており、安全資産需要の高まりでしばらくの間、高値で推移すると予想される。

また、今年は食品価格の高騰をはじめとするインフレの懸念が強いため、現在懸念されているロシア・ウクライナ以外にも地政学的リスクが顕在化する可能性が高い。

しかし中長期的には米国の利上げに伴う名目金利の上昇と、インフレ懸念の沈静化にともなう実質金利の上昇を受けて水準を切り下げるというのがメインシナリオだ。

供給懸念を背景とするインフレは時間経過と共に沈静化し、今の水準を維持するとは考え難い。

現在の金の実質金利で説明可能な価格(金基準価格)は1,556ドル、そこからの乖離(リスク・プレミアム)は235ドル。

リスク・プレミアムは5年平均で186ドルであり、地政学的リスクが後退した場合、金価格が50ドル程度下落する余地があることを示唆している。

以上を勘案すると、結局の所、金価格は当面1,700ドル~1,800ドルをコア・レンジとする推移が予想される。

銀価格は金価格が高止まりすることから同様に高い水準での推移が予想される。金銀レシオを80倍とすれば、コアレンジは21.25~22.50ドル、ということになる。

長期的には自動車や家電製品のハイテク化の中で接点部品としての需要(電線やはんだなど)増加で、電子製品向けの需要が増加し、金銀レシオは過去5年平均程度の65倍程度を目指す(工業活動が回復する)ことになるだろう。この場合は、26.15~27.70がコアレンジとなると予想される。

プラチナ・パラジウムは恐らく半導体供給不足が2023年まで長びくことが予想されるため、しばらくの間は供給過剰を背景に投機の動きが価格を左右することになる。

逆説的だが、現在、ウクライナ問題でロシアヘの制裁懸念が強まっているが、まだ供給が制限されていないものの(供給過剰に変わりはないものの)買いが入りやすくなるといったイメージ。

長期的にはEVヘのシフトで需要が減少して価格が下落する、との見方があるが、新興国の自動車が全てEVとなる可能性は低い。

実際、車での移動が大半である米国が充電ステーションを整備してまでEVに舵を100%切るとは考え難く、来年の中間選挙で脱炭素を進める民主党が苦戦することはほぼ必定であることを考えると、一定のガソリン車需要は残る(あるいは減少ペースが脱炭素派が期待するほどのものではない)可能性を排除しない。

【見通しの固有リスク】

・ウクライナ問題を巡って欧米諸国がロシアの鉱山会社に対して制裁を科し、供給減少が起きる場合(価格上昇リスク)。

・主要生産国の南アフリカの電力供給不安や、コロナウイルスの影響拡大で供給が滞る場合(PGMの価格上昇要因)。

南アフリカ政はEskomの一部石炭火力に対する温室効果ガス排出規制を免除する申し出を棄却したことで、同国の3分1の電力供給16,000MWの供給が困難になる可能性。

・米国をはじめとする先進諸国が金融引き締め方向に舵を切っており、アフリカや中南米、東南アジア、東欧など新興国から資金が流出して信用リスクが高まる場合(安全資産価格の上昇要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速による安全資産需要の増加(実際に破綻が意識されるのは2030年以降か)。

・世界的なEVシフト加速による、PGM需要の激減。

ただし、環境重視型社会へのシフトが加速、「水素社会」まで到達すると、燃料電池車需要が増加して構造的にプラチナ価格の上昇要因となる可能性。

【投機筋のポジション動向】

・直近の投機筋のポジションは、金はロングが313,415枚(前週比 +22,887枚)、ショートが93,264枚(▲3,057枚)、ネットロングは220,151枚(+25,944枚)、銀が63,923枚(▲2,062枚)、ショートが31,782枚(▲4,503枚)、ネットロングは32,141枚(+2,441枚)

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

プラチナはロングが27,429枚(前週比 +125枚)ショートが13,637枚(▲6,438枚)、ネットロングは13,792枚(+6,563枚)

パラジウムが2,839枚(+157枚)、ショートが4,827枚(▲1,164枚)ネットロングは▲1,988枚(+1,321枚)

---≪農産品≫---

【昨日の穀物市場と見通し】

昨日の穀物価格は上昇した。ウクライナ・ロシア問題を背景とする小麦やトウモロコシの供給不安に加え、この状態でも米国で進む環境規制強化に伴う、バイオ燃料混合義務の規制とりまとめが終了したと発表され、バイオ燃料向けの猶予期間がなくなってきた、と判断されたことも大豆などの価格を押し上げることとなった。

週明け月曜日の穀物価格は、ウクライナ情勢の緊迫継続を背景に、小麦・トウモロコシの輸出市場での需給タイト化観測と、再び南米で乾燥気候になっていることに伴う、トウモロコシ、大豆供給減少観測を背景に高値維持の公算。

中期的にもシカゴ穀物価格は堅調な推移になると考える。冬場のラニーニャ現象が冬で終了せず、北半球の重要な生育期である夏場まで継続する見通しが示されていることや、脱炭素進捗に伴う代替エネルギー需要が高まること、ロシアとウクライナの対立を背景にした供給制限懸念などが材料。

12月の中国の大豆輸入は前年比+17.9%の887万トン(前月▲10.6%の857万トン)と過去5年平均を上回った。

中国の大豆港湾在庫は過去5年レンジの最高水準は下回っているが、高い水準を維持しており、以前ほど需給は逼迫していない。

Locust Watchではソマリアとエチオピアに影響が限定されているが、ソマリアで発生した群生相の一部がエチオピア南部、ケニア北部に飛来している。

今のところ北アフリカ全域に大きな被害をもたらすような状態ではない。https://www.fao.org/ag/locusts/common/ecg/75/en/220106update.jpg

【見通しの固有リスク】

・ラニーニャ現象継続による投機筋の買い圧力の強まり(価格の上昇要因)。

・環境重視型社会へのシフトにより、燃料向け穀物需要が増加する場合(価格の上昇要因)。現在はそれほどの数量でもない、バイオディーゼル向けの大豆需要増加など。

・新型コロナウイルスの影響拡大による、輸出活動の停滞(シカゴ定期を含む生産地価格の下落要因)。

【米農務省需給報告データ】

・米作付け意向面積トウモロコシ 9,114万エーカー(市場予想9,313万エーカー、前年9,699万エーカー)大豆 8,760万エーカー(9,010万エーカー、8,351万エーカー)小麦 4,636万エーカー(4,495万エーカー、4,466万エーカー)綿花 1,204万エーカー(1,215万エーカー、1,370万エーカー)

・米穀物最終作付け面積 実績(前年)トウモロコシ 9,269万エーカー(9,082万エーカー)大豆 8,756万エーカー(8,383万エーカー)小麦 4,674万エーカー(4,425万エーカー)

・1月米需給報告単収見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 177.0Bu/エーカー(177.1、177.0)大豆 51.4Bu/エーカー(51.3、51.2)小麦 44.3Bu/エーカー(NA、44.3)

・1月米需給報告生産見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 151億1,500万Bu(150億7,818万Bu、150億6,200万Bu)大豆 44億3,500万Bu(44億3,400万Bu、44億2,500万Bu)小麦 16億4,600万Bu(NA、16億4,600万Bu)

・1月米需給報告輸出見通し(実績/前月)トウモロコシ 24億2,500万Bu(NA、25億Bu)大豆 20億5,000万Bu(NA、20億5,000万Bu)小麦 8億2,500Bu(NA、8億4,000万Bu)

・1月米需給報告在庫見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 15億4,000万Bu(14億8,315万Bu、14億9,300万Bu)大豆 3億5,000万Bu(3億5,319万Bu、3億4,000万Bu)小麦 6億2,800万Bu(6億926万Bu、5億9,800万Bu)

・12月末四半期在庫 実績(前期末)トウモロコシ 116億738万Bu(116億4,700万Bu、12億3,500万Bu)大豆 31億4,900万Bu(31億2,781万Bu、2億5,700万Bu)小麦 13億9,000万Bu(14億1,496万Bu、17億7,400万Bu)

・1月CONABブラジル作付け面積(市場予想/前月)トウモロコシ 2,094万ha(2,087万ha、2,094万ha)大豆 NA(4,049万ha、4,035万ha)

・1月CONABブラジル生産量(市場予想/前月)トウモロコシ NA(1億1,574万トン、1億1,718万トン) 単収 NA(5,546kg/ha、5,596kg/ha)大豆 1億4,050万トン(1億3,582万トン、1億4,279万トン) 単収 NA(3,355kg/ha、3,539kg/ha)

【投機筋のポジション動向】

・直近の投機筋のポジションは以下の通り。

トウモロコシはロングが524,903枚(前週比 +48,454枚)、ショートが85,805枚(▲2,506枚)ネットロングは439,098枚(+50,960枚)

大豆はロングが197,316枚(+17,655枚)、ショートが48,444枚(▲3,202枚)ネットロングは148,872枚(+20,857枚)

小麦はロングが109,676枚(+2,913枚)、ショートが98,015枚(▲3,908枚)ネットロングは11,661枚(+6,821枚)

◆本日のMRA's Eye


「鉛価格は自動車不調をラニーニャ現象の影響が相殺し高値維持」

年初から原油価格が上昇し、その他の資源価格も景気循環系商品を中心に物色された。コロナの影響による供給制限が、世界最大の鉱産国である中国に及び、かつ、北半球の厳冬に伴う発電燃料の不足が精錬品の供給不安を高めているためだ。

この相場展開の非常に複雑なところは、供給不安に伴うコストプッシュインフレにもかかわらず、供給側の改善が困難であるため需要を減速させるための利上げや金融引き締めを行わなければならなくなっているところだ。

もちろん、感染症対策のために人流や(結果的に)物流が抑制される中で景気刺激策を行えば、需給ギャップが広がって価格が上がるのは当然といえば当然である。

その意味で、現在の各国の金融政策はコロナ対策の金融・財政面でのやり過ぎを修正する流れであり首肯されるものだ。

しかしその結果、景況感の悪化観測が強まり、製造業PMIも減速感が強まるなかで商品価格が上昇するという不一致が起きており、供給面の解消があれば価格が急落するリスクを孕んでいる。

通常、鉛はその流動性や環境面の問題から、投機の市場でもアルミや銅、ニッケルなどに比べれば高くはない。1月21日時点の投機のシェアは33.4%と、アルミやニッケル(各々4割程度)に比べれば低い水準となっている。その意味では現在の鉛価格は比較的素直に需給環境を反映したものと言えるだろう。

LMEの指定倉庫在庫はさほど変動していないが絶対水準の高さが鉛価格を高値に維持している。しかし中国の国内在庫水準が高く、LME鉛価格が上昇していることもあり、中国からの輸出増加が鉛価格を押し下げると予想する。

また、鉛の主要用途は依然、自動車の車載バッテリー向けであるが、半導体供給不足が解消しておらず、今年の春には解消すると期待されていた半導体供給の回復が2023年までずれ込むとの見方も強まっており、自動車販売の回復は緩慢なものになる見通し。

しかし、今年の2~3月には終了すると見られていたラニーニャ現象が今年の夏が終る頃まで長びく可能性が出てきた。過去の価格推移を見てみると、ラニーニャ現象が発生した期間が鉛の需要期(夏・冬の前)に当たると、価格が上昇しているケースが多い。

そのため、車載バッテリー販売の減速を、想定外のラニーニャ長期化による交換用バッテリー需要の増加が相殺するため、結果的に鉛の需要は底堅く推移することが予想される。

鉛価格に対する説明力が高い中国の自動車販売はやや回復してはいるものの、前年の高水準からは低い水準。しかし、今年の秋に開催される党大会で3期目を確実なものにしたい習近平国家主席が、昨年後半から景気刺激に舵を切っていることを考えると、中期的な鉛価格の見通しは強気となる。

長期的には、影響が顕著になるのはまだ先であるが、構造的に中国の自動車販売に占めるEV車の比率が上昇すれば、自動車向けの需要が減少するため、自動車販売の影響を受け難い構造に転じて行くと予想される。


主要ニュース/エネルギー・メタル関連ニュース/主要商品騰落率/主要指数/市場の詳細データPDFは、有料版「MRA商品市場レポート」にてご確認いただけます。
【MRA商品市場レポート】について