ドル高進行で利益確定売りに押される
- MRA商品市場レポート
2022年1月28日 第2122号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「ドル高進行で利益確定売りに押される」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品価格は軒並み水準を切下げる商品が目立った。注目の米GDPは市場予想を上回る内容となり、米FRBによる金融引き締めは予定通り行われ、場合によると年5回~6回、QT(バランスシートの縮小)も夏前に始る、といった見通しが支配したため、調整売りが続いた商品が目立った。
一方、昨日最も上昇したのは米天然ガスで、一時70%を超える上昇となっている。米国の気温低下が材料と言えば材料だが、限月交代に伴うショートスクイーズであるためやや特殊な状況。
しかし、気温低下やロシア問題による供給不安を背景に、特に現物ではなく先物の場合に同様のスクイーズが起きる可能性は以前よりも高い。
ロシア情勢がプーチン次第、ということを考えるとベースになるマクロ経済動向を注視すべきだが、昨日発表の米GDPは強めの数字であり、それを受けた景気過熱沈静化を目的とする金融引き締めが起きる流れであり、ベースの価格の方向性は、特殊要因による供給不安がなければ中期的に下向きではないか。
【本日の見通し】
本日もロシア情勢と米FRBの金融引き締め観測など、需給両面の材料が混在するため高値維持と考えるが、リスク回避的な動きが強まっていること、年初以降の商品価格の上昇は投機がドライブしていたことも事実であることから、週末を控えた利益確定で、小幅に水準を切り下げる商品が多いと考える。
本日発表が予定されている経済統計で注目は、米個人所得・支出・デフレータと、イベントでは仏露首脳会談。
12月の米個人所得は前月比+0.5%(前月+0.4%)と小幅に増加の見通しだが、支出は▲0.6%(+0.6%)と12月のクリスマス商戦の月だったが、減速が見込まれている。
物価指数は前月比+0.4%(+0.6%)、前年比+5.8%(+5.7%)、コア指数は+0.5%(+0.5%)、前年比+4.8%(+4.7%)と高い水準が続く見通しであり、FRBの引き締め観測を後退させる内容にはならなさそうだ。
また、仏露首脳会談でウクライナ問題を巡る何らかの打開策が見いだせないか、という点で注目しているが、恐らく何も、平和にとってポジティブな内容は出てこないだろう。
【昨日のトピックス】
昨日発表された中国の工業セクター利益は、 12月が前年比+4.2%の7,342億元(前月+9.0%の8,060億元)と前月から伸びが減速、年初来の累計でも前年比+34.3%の8兆92億元(1-11月期+38.0%の7兆9,750億元)の減速となった。
通年で見たときの前年比増加は統計発表以来の高い伸びとなり、中国の成長が堅調であったことを伺わせる内容。
しかし、中国政府は一昨年から住宅セクターバブルの抑制に動いているうえ、コロナ対策や気温低下に伴う電力供給不足の影響で工業セクターの活動が鈍化しており、11月・12月の前年比増加率は急速に鈍化している。
また、製造業PMIなどの「規模別」の景況感を見てみると、引き続き中小企業の景況感は悪く、回復は政府系である企業が多い大企業や、中国政府が共産党員を送り込んで支配を強めつつある中堅企業しか改善していない。
日本も他国の統計の真偽については口出しできる様なポジションではないが、やはり中国の実態の統計は発表される統計よりも良くない可能性の方が高い。
ただ、中国人民銀行はまだ金融緩和の余地を残しており、他国比で見たときに政策面で打てる手があるため、恐らく春先以降に回復する(させる)展開に大きな変化はないと考えている。
米国ではQ421のGDPが発表され、前期比年率+6.9%(市場予想+5.5%、前期+2.3%)と市場予想、前期とも上回った。GDPの7割を占める個人消費が+3.3%(前期+2.0%)と加速したほか、総民間国内投資も+32.0(+12.0%)と加速しており、好調さを維持したため。
しかしFRBの金融引き締めやコロナの影響、物価上昇の継続を受けてQ122のGDPは減速する見通しが示されている。ただ、循環的にもこの調整はあるべきタイミングであり、じつは健全な成長再開のためにはあるべき調整である、とも言える。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は上昇し、Brentは90ドルを上回ったがひけは小幅に90ドルを下回った。米国がロシアの提案を拒否、ウクライナのNATO加盟排除を認めないとしたことで、ロシアの軍事侵攻懸念が強まったことが価格を押し上げた。
また、この状況でもQ421の米GDPが市場予想を上回ったことで、需要が堅調と見られたことも価格を押し上げた。
ただし、ドル高が進行したことでここまで買いをドライブしてきた投機の手仕舞い圧力が強まったことが上値を抑えた。
本日もウクライナ情勢がポイントとなり、原油価格は高値維持の公算。ただしFOMCが想定よりもタカ派であり、金融引き締め加速観測がドル高を誘発する具体的な軍事侵攻があるまでは現状水準でもみ合うと予想される。
◆石炭・LNG・天然ガス
豪州石炭スワップ先物価格は小幅に下落したが、230ドル近辺での推移。折からの暖房燃料、発電燃料不足に加え、ウクライナ情勢不安で石炭輸出も制限される、との見方が価格を高値に維持している。
中国の石炭輸入の指標の1つであるバルチック海運指数は続落し、過去5年レンジ水準まで低下している。中国の経済活動減速が、結果的に海上輸送市場の緩和に繋がっている。
一方、ばら積み船ではなく、多くの場合製品を輸送するのに用いられるコンテナ船指数は昨年末から急上昇しており、依然、製品海上輸送市場の状況は改善していない。
欧州天然ガス価格は高値維持。米国がロシアの提案を拒否したことで武力衝突への懸念と、それに伴うガス供給停止観測が強まったことが背景。
欧州は代替燃料の確保が急務となるが、域内最大の原発を有するフランスの原発稼働率は急速に回復しているが、まだ過去5年平均を回復していない。
米国天然ガスは、一時70%以上、上昇し、その後引けに掛けて下落した。限月交代に伴うショートスクイーズによるものだが、ロシア・ウクライナの情勢を巡って見通しが錯綜しており天然ガス市場の不安定な状態は続く。ただ、足下は総じてリスクは上向きだろう。
JKMは欧州ガスの高値維持を受け、小幅に調整しながらも高値維持となった。
JKMの期間構造は2022年~2023年冬の水準が30ドルを超えた。足下、ロシア情勢不安による調達構造の変化リスクを織り込み始めたと言える。懸念すべきは2023年が16ドルに迫っている点。
2022年1月17日~1月23日のLNG輸入は前週比▲12.4%の780万トン(前週▲3%の890万トン)となった。
うち、スポット取引のシェアは25%(前週27%)と小幅に低下した。韓国のスポット調達が減少したことが影響。
ターム契約での調達は▲13%の減少で、中国向けの輸出が減少したことが影響している。一方、日本やフランスはターム契約での調達を増加させている。
スエズ以東・以西ともタンカーレートは低水準で横這いとなっている。
本日の石炭価格は新規材料に乏しく、冬場の需要増加で高値維持の公算。
天然ガス価格は欧州情勢の悪化で上昇、LNG価格は南米の需要が鈍化したためやや軟調も高値維持の公算。
◆非鉄金属
LME非鉄金属価格は総じて下落した。アジア時間に発表された中国の工業セクター利益が前月から減速、中国経済が調整局面に入っているとの見方が強まったことが、供給不安を上回ったため。
また、リスク回避のドル高の動きが強まったことが、新年以降加速していた投機の買いポジションの解消売りを誘ったと考えられる。
昨日発表された中国の工業セクター利益は、単月ベースで見た場合、10月の前年比+24.6%から、11月は+9.0%、12月は+4.2%と急減速している。エネルギー供給制限や不動産投資規制の強化に加え、オミクロン株の感染拡大・それでも北京オリンピックを何とかしたい、との政府の「メンツ」を保つための強制的な移動制限を行っている。
工業セクター利益は非鉄金属に対する説明力が高く、特に銅の「前年比上昇率」に対する説明力は高い。過去の関係性と統計のバラツキを考慮して銅価格を推定すると、7,181ドル~14,078ドルとなり、中央値が10,630ドルとなる。
現在の水準よりも高い所が中央値となるが、供給不安が解消する中では、恐らくこの±1標準偏差の下限(7,181ドル)を試す動きになるのでは無いか。ただし供給不安や中国の金融緩和もあって、さすがにここまでは調整しないだろう。
本日は、ファンダメンタルズはマクロ経済の減速に伴う需要減少観測と、オミクロンやエネルギー供給懸念を背景とする生産減速観測の綱引きで高値維持と考えるが、FRBのタカ派政策見通しが投機の手仕舞いを誘うため、結果。小幅に水準を切り下げると予想する。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは変わらず、豪州原料炭スワップ先物は変わらず、大連原料炭先物は下落、上海鉄鋼製品先物は小幅に上昇した。
この週末から中国正月が始るため、事前の調達が一巡したためと考えられる。新規の手がかり材料としては工業セクター利益(非鉄金属のコラム参照)の減速。これに伴い鉄鋼セクターの減速も不可避か。
本日も中国勢の動きが鈍化していることから、高品位原料を求める動きは継続するため海上輸送市場価格は高値維持の公算。
◆貴金属
昨日の貴金属セクターは金銀プラチナが下落、パラジウムが上昇した。
ロシア・ウクライナ情勢の変化はないものの、実質金利低下に伴う金価格上昇があったが、一時、株価が反発したことでリスク回避的な動きが「やや」後退したことが影響した。
リスク・プレミアムは308ドルから262ドルと46ドル低下しており、市場のリスクオン・リスクオフの動きが不安定であることを示唆している。ただ、リスク・プレミアムの過去5年平均が186ドルであることを考えると、現在の水準はまだ高い。
投機的な色彩が強い銀・プラチナは金の下落で下落、パラジウムは半導体リードフレームのメッキ向けの用途があるほか、ロシア情勢不安による供給懸念が材料となり、ある意味、株からの逃避的に買われている状況。
本日もロシア情勢不安、株価の不安定さを背景に貴金属セクターは高値維持の公算。ただし株価がやや反発の兆しを見せているため、逃避的に流入して買いを入れていた投機資金が、株式市場に還流する可能性はあり上値は重いと考える。
PGMは株の戻りがあれば上昇へ。
◆穀物
シカゴ穀物市場は高安まちまち。トウモロコシは原油価格の調整とドル高で下落、小麦も同様。大豆はアルゼンチンの乾燥気候が材料となったようだが、つい先日まで降雨の予報で下落していたため、取って付けた感は否めない。
穀物は引き続き、ラニーニャ現象による生産減少懸念とロシア・ウクライナの情勢不安、米金融引き締め観測によるドル高進行の綱引きで高値維持の見通し。
※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・ロシアと西側諸国の軍事衝突のリスク、それに乗じて中国が台湾に侵攻するリスク(世界経済の減速要因)
・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。
・資源価格上昇によるインフレや、米テーパリング・利上げ・BS縮小観測を背景とした新興国通貨安で新興国が想定以上のペースで利上げを行わねばならず、世界的に金融引き締めモードに転じた場合(リスク資産価格の下落要因)。
・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。
・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。
・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。
・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。
・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。
・ロシア・ウクライナ・ベラルーシ・欧州を巡る対立が激化し、軍事的な衝突が発生する場合(景気の減速を通じて景気循環系商品価格の下落要因)。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。
・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。
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