パウエル議長タカ派発言も供給懸念で高値維持
- MRA商品市場レポート
2022年1月27日 第2121号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「パウエル議長タカ派発言も供給懸念で高値維持」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品価格は上昇した商品が多かった。市場の注目のFOMCは予想通りの内容も、パウエルFRB議長の発言がタカ派と捉えられ、米国債や株などの伝統的金融資産が売られる中、ロシア・ウクライナ情勢不安を背景とした買いがエネルギーを中心に入り、軒並み価格は押し上げられた。
ロシアが主要生産国である商品の価格が上昇するのは自然だが(詳しくは以下のリンクを参照)、エネルギー価格の上昇は広く価格の押し上げ要因となっている。
代替エネルギーの原料であるトウモロコシの価格上昇はその良い例であるが、通常、これらの農産品の製造にエネルギーや肥料が必要になるため、エネルギー価格の上昇は広くコストプッシュの価格上昇をもたらしやすい。
金属に関しては供給制限のみならず、エネルギー供給不安が材料となっている。当面、ロシア情勢が商品市場を強気にさせるとみる。
ただし、米国のタカ派な金融政策が需要を減じる方向に左右するため、「供給不安解消時の下落幅」は大きくなっていると考えるべきだろう。
【本日の見通し】
本日もロシア情勢が材料となり、テーマ性が有ることから投機の物色が続くと考えられ、多くの商品価格が上昇余地を探る展開になると予想する。
ただし、想定以上にタカ派なFRBパウエル議長の発言を受けてドル高・実質金利高となりやすく、上値を抑えることになろう。また、金融引き締めが加速した場合の経済の着地点が低下していることも、そろそろ重要なリスクになりつつあると認識すべきである。
本日予定されている材料で注目は、過去の統計だが商品価格への影響が小さくない米GDPに注目している。また、米設備投資の先行指標であるコア資本財受注も注目。
ただ、足下はロシア情勢や米金融政策動向の方が価格に対する影響が大きいため、これらの統計の影響は限定か。
Q421米GDP速報 市場予想 前期比年率+5.5%(前期+2.3%)PCE価格指数 +6.0%(+6.0%)コアPCE価格指数 +4.9%(+4.6%)
【昨日のトピックス】
昨日、世界中が注目するFOMCが開催され、想定通りのタカ派な内容となったが決定内容はほとんど想定の範囲内だった。最も影響を受けやすい株価も、FOMC決定以降はポジティブに反応していた。
しかし、パウエル議長の発言が始ったあたりから下落に転じている。具体的には利上げ開始後、毎回のFOMCでの利上げの可能性を否定しなかったこと、年後半にあるかもしれないとしていたバランスシート縮小も、3月・5月で議論するとしており、早ければ6月から開始される可能性が出てきたためだ。
FRBとしてインフレ退治にかなり力を入れることを示唆する内容であり、結局まとめてみれば想定よりもスタンスはタカ派、ということになる。
この結果、PMIやISMなどの景気に先行する指標は減速が予想され、リスク資産価格の下落要因となる。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は上昇し、Brentは一時90ドルを超えた。ブリンケン国務長官がロシア側の要求をはねつけ、ウクライナのNATO加盟を恒久的に認めない、とするロシア側の要求をはねつけ(しかし想定通り)、交戦懸念が強まったことが背景。
しかし、FOMC後のパウエルFRB議長の発言が想定以上にタカ派、と捉えられたためドル高が急速に進行し、引けに掛けて水準を切下げる展開となった。
昨日発表された米石油統計は、市場予想比でまちまちな内容。原油は弱気、石油製品は強気だった。
原油は生産が減少(▲0.1MBD)、輸入も減少(▲0.5MBD)したが、稼働率が低下して過去5年平均を下回ったため、原油在庫は増加した。
稼働率は低下したが製品生産は得率改善で供給が増加したが、ガソリン、ディスティレートともに需要が減速、ガソリンについては過去5年平均を下回り、在庫日数も5年平均を回復した。
ディスティレートは輸送需要が旺盛とみられ、過去5年のレンジを上抜け、在庫日数も過去5年レンジを割り込んでいる状態が続いている。
製品全体の国内出荷は引き続き過去5年レンジを上回って好調。しかし輸出も含めると過去5年の最高水準には達しておらず、米国内外の需要動向に差が出た形。恐らくコロナの影響や、発電燃料不足を背景とした経済活動の鈍化、などが需要の重石となりつつあると考えられる。
本日もウクライナ情勢がポイントとなり、原油価格は高値維持の公算。ただしFOMCが想定よりもタカ派であり、金融引き締め加速観測がドル高を誘発するた具体的な軍事侵攻があるまでは現状水準でもみ合うと予想される。
◆石炭・LNG・天然ガス
豪州石炭スワップ先物価格は上昇して230ドルを目指す展開。石炭市場には投機資金が入り難く、需給ファンダメンタルズを反映した価格となりやすい。そのため、足下の価格上昇は需給タイト化の証拠、ともいえ、期間構造はバックを維持。
中国の石炭輸入の指標の1つであるバルチック海運指数は続落し、過去5年レンジ水準まで低下している。中国の経済活動減速が、結果的に海上輸送市場の緩和に繋がっている。
一方、ばら積み船ではなく、多くの場合製品を輸送するのに用いられるコンテナ船指数は昨年末から急上昇しており、依然、製品海上輸送市場の状況は改善していない。
欧州天然ガス価格は高値維持。新規材料に乏しく、ロシアからの供給制限への懸念が継続している。ノルドストリーム2についてはスイスのオペレーターが稼働の前提となる事業法人(Gas For Europe GmbH)を発表、一歩前進したが独規制当局は同パイプラインの認証プロセスは停止している、と発表している。
昨日、独経済大臣が「ガス調達多様化の必要性」を協調していたが、恐らくこの状況を打破するために、原発をクリーンエネルギーと位置づける国が増加すると考えられる。
なお、域内最大の原発を有するフランスの原発稼働率は急速に回復しているが、まだ過去5年平均を回復していない。
米国天然ガスは、東部の気温低下の見通しで急上昇している。また、ロシア・ウクライナ問題が解決しない場合、米国からLNGを欧州向けに供給する必要が高まるため、そのことも価格を押し上げたようだ。
しかし、エネルギー価格が上昇するため米政権支持率の低下に寄与するため、与党としては非常に厳しい状況に。
JKMは欧州天然ガス価格の下落をうけて小幅に水準を切下げている。また、農産品のところでもコメントしているが、ブラジルでの降雨を受けて水力発電が回復、LNG調達圧力が低下していることもやや、需給を緩和させたようだ。
JKMの期間構造は2022年~2023年冬の水準が30ドルを超えた。足下、ロシア情勢不安による調達構造の変化リスクを織り込み始めたと言える。懸念すべきは2023年が15ドルを超えてきている点だ。
2022年1月17日~1月23日のLNG輸入は前週比▲12.4%の780万トン(前週▲3%の890万トン)となった。
うち、スポット取引のシェアは25%(前週27%)と小幅に低下した。韓国のスポット調達が減少したことが影響。
ターム契約での調達は▲13%の減少で、中国向けの輸出が減少したことが影響している。一方、日本やフランスはターム契約での調達を増加させている。
スエズ以東・以西ともタンカーレートは低水準で横這いとなっている。
本日の石炭価格は新規材料に乏しく、冬場の需要増加で高値維持の公算。
天然ガス価格は欧州情勢の悪化で上昇、LNG価格は南米の需要が減少したため、やや軟調な推移なるのではないか。
◆非鉄金属
LME非鉄金属価格は上昇した。ロシア問題を巡る供給懸念が強まる中で物色され、水準を切り上げた。昨日、FOMC後のパウエルFRB議長の発言はタカ派であったが時間的にこれを織り込めなかった。
本日は昨晩のFOMC後のパウエル議長の発言を織り込み、下落からスタートすると考える。ただし、エネルギーと同様、ロシア情勢不安の影響を受ける金属も多く(ニッケル、アルミなど)、マクロ経済統計やその他の市場動向の影響を受けやすい銅は比較的大きな下げになるのではないか(それでも価格は9,000ドル台後半を維持の見込み)。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は小幅に下落、大連原料炭先物は上昇、上海鉄鋼製品先物は上昇した。
中国生産者の春節以降の稼働に向けた在庫積み上げの動きが影響したと見られる。
なお、現在の鉄鋼製品の価格水準からみると鉄鉱石価格は143ドル程度までの上昇余地があり、逆に原料炭は192ドルまでの下落余地があることになる。
しかし原料炭に関しては供給不足の状態であり、豪州の洪水懸念もあり、中国の生産も劇的な増加が期待できない以上、この水準までの下落はあったとしても相当先になるだろう。
本日は中国勢の動きが鈍化していることから、高品位原料を求める動きは継続するため海上輸送市場価格は高値維持の公算。
◆貴金属
昨日の貴金属セクターは金銀が下落、PGMが上昇した。
金銀は金価格はパウエルFRB議長の発言が想定以上にタカ派であると捉えられたことで実質金利が上昇し、基準価格が1,506ドルに低下したことが影響した。
しかし、リスク・プレミアムは上昇しており、ロシア・ウクライナ問題が意識されている形。銀は金銀レシオを引き上げつつも水準を切下げた。
PGMはリスク・プレミアムの上昇に見られるようにロシア情勢、ロシアに対する制裁が意識された供給面を材料に水準を切り上げた。
本日は昨日のFOMCの流れを受けた実質金利の上昇が金銀価格を下押しするものの、リスク・プレミアムの上昇がこれを相殺し、高値維持の公算。
PGMは供給不安を背景に上昇余地を探る展開か。
◆穀物
シカゴ穀物市場は高安まちまち。トウモロコシは原油価格・ガソリン価格が上昇し、代替品としてのエタノール需要増加が価格を押し上げた。大豆もこれに連れ高。
小麦はFOMCの結果を受けたドル高進行を受けて、これまでウクライナ・ロシア情勢不安を背景に上昇していたが、一旦利益確定の動きが強まったため。
本日の穀物価格はロシア・ウクライナ情勢の悪化を背景に上昇余地を探る動きになると考えるが、FOMCの結果を受けてドル高が進行しやすく、上昇余地を限定することになるだろう。
※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・ロシアと西側諸国の軍事衝突のリスク、それに乗じて中国が台湾に侵攻するリスク(世界経済の減速要因)
・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。
・資源価格上昇によるインフレや、米テーパリング・利上げ・BS縮小観測を背景とした新興国通貨安で新興国が想定以上のペースで利上げを行わねばならず、世界的に金融引き締めモードに転じた場合(リスク資産価格の下落要因)。
・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。
・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。
・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。
・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。
・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。
・ロシア・ウクライナ・ベラルーシ・欧州を巡る対立が激化し、軍事的な衝突が発生する場合(景気の減速を通じて景気循環系商品価格の下落要因)。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。
・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。
◆本日のMRA's Eye
「ニッケル価格は高値維持」
ニッケル価格は大幅に上昇して10年来の高値となった。ほとんどのコモディティが株や債券の下落、それに伴う投資対象の変更で投機的な買いが入って上昇しているが、背景には需給がタイトな状態が続いていることがあると考えられる。
実際、投機筋のポジション動向を見ると、2019年に米中対立が厳しくなった時にロングが減少、ショートも増加して価格は下落していたが、コロナ後はほぼ一貫して投機の買い戻しと新規の買いが価格を押し上げている。
ニッケルの需給はステンレス鋼の需要が主要用途であるが、投機の場合は脱炭素の進捗に伴うバッテリー向け需要の増加が材料になったことは想像に難くない。
また、今も落着いてはいないがCOVID19への対処が遅れていた2019年~2020年は供給リスクも顕著であったことも価格を押し上げていた(もっとも、供給面で最も影響が大きかったのはSudburyのストライキによる供給停止であるのだが)。
しかし、足下の上昇は中国の不動産セクターのバブル抑制方針を受けて住宅セクターが減速、最大用途であるステンレス鋼生産が減少していたのだが、11月の中国の統計でステンレス鋼生産の回復が確認されていること、まだ規模としては影響が大きくないが中国国内のEV車販売が好調であり、バッテリー向けの需要も期待されたことが影響したと見られる。
その結果、LME指定倉庫在庫の減少は続いて、期間構造もバックワーデーションが顕著になっており、足下の需給バランスがタイトであることを示唆している。
今後については恐らく、その他の金属やエネルギーと同様、米金融引き締めや中国の不動産バブル抑制方針を背景に、一旦春先に向けて調整し、その後再び上昇に転じると予想される。
この直近1年間のニッケル価格とLME指定倉庫在庫の間には高い相関関係があり、在庫減少が価格上昇に繋がっていることが分るが、足下の価格水準は回帰分析の上昇リスク側の上限に達しており、さらなる価格上昇には在庫減少(需要の増加か生産の減少)が必要な状況である。このことを考えると、そろそろ下落に転じてもおかしくない。
しかし、インドネシア政府はニッケルの中間品輸出課税を強化する方針であることや、ウクライナ問題を背景に主要生産国であるロシアに対して制裁が行われ、Nornickelなどが制裁対象になるのでは?といった足下、顕在化していないが実際にそうなった場合に供給に大きな影響を及ぼす材料は増えている。
それにより投機の思惑買いが価格を押し上げることはあるだろう。かつてRusalが制裁対象となってアルミ価格が高騰したことと同様のことが起きる可能性が有るとの連想が働くためだ。
実際に制裁が行われると、ただでさえ供給が十分でないニッケル価格のさらなる高騰が見込まれる。
ロシアに対してどこまでの制裁を行うかは不透明であるが、制裁が行われる可能性がある、との認識が強まるだけでもショートポジションの買い戻しを促すため、在庫で説明可能な水準を超えて価格が上昇するリスクは無視できない。
主要ニュース/エネルギー・メタル関連ニュース/主要商品騰落率/主要指数/市場の詳細データPDFは、有料版「MRA商品市場レポート」にてご確認いただけます。
【MRA商品市場レポート】について