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ウクライナ危機を背景に金属価格上昇
  • MRA商品市場レポート

2022年1月21日 第2117号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「ウクライナ危機を背景に金属価格上昇」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は貴金属・非鉄金属セクターが高騰し、エネルギーセクターは小幅に下落したが、総じて堅調な推移になったとの印象である。

弊社は10%もないだろうとみていたロシアのウクライナ侵攻だが、これまでの報道を見るにその可能性が極めて高くなっている。そのため、ロシアが世界供給のシェアの高い商品、原油、石炭、天然ガス、ニッケル、銅、PGMなどの供給不安が高まっていることから特にショートの手仕舞いが進んでいると考えられる。

ロシアの軍事侵攻は経済的なメリットが大きくないと見ていたが、ロシア側はそのような判断をしていないのかもしれない(詳しくは本日の見通しを参照ください)。

実際に軍事侵攻が起きれば欧州の経済活動にも影響が及ぶ可能性があるため、折からの利上げ加速緩速を背景に株価も調整を続けている。

この状況だと材料があり、投機筋からすれば割安だと判断される商品が物色されやすい流れが続いている。

【本日の見通し】

本日の商品価格は、一旦手仕舞い売りに押される流れになると考える。市場は米露外相会談の行方を見極めようとしており、週末の間に軍事侵攻や逆に和解の動きが強まる可能性が有るため、ポジション整理に動きやすいと考えられる為。

弊社は、ロシアがウクライナを攻撃することはないと考えていたが、ほぼ米国が軍事的に反撃することが無いこと(武器を供与するが、自軍がロシア軍とは対立しない)、香港併合時に欧米が大した制裁を中国に科していないこと、仮にエネルギーや鉱物資源会社に対して制裁を行っても「困るのは欧米だろう」という判断から、「ウクライナを武力で攻め取ってもメリットが大きい」と判断している可能性はあり、むしろ軍事侵攻がもはやメインシナリオかもしれない。

仮に軍事侵攻があるならば、プーチン大統領はオリンピックに出席予定なので、それの前か後、ということになる。

ただ、オリンピック・パラリンピック終了後だと雪解け水の発生で戦車が使用しにくくなるため、オリンピック前までに攻撃を行う、との見方も出てきた。

一縷の望みは今回の外相会合で、「米露首脳会談の設定」が取り決められる場合。この場合、ウクライナがNATO加盟を取りやめる、というロシア・欧州の緩衝地帯になることを受け入れる必要が出てくるが、ゼレンスキー大統領にすればそのハードルは高い。

しかしそれが無ければ、ロシアが軍事侵攻する可能性は高いと言わざるを得ない状況である。

【昨日のトピックス】

昨日発表された日本の貿易統計は、輸出額は前年比+17.5%と10ヵ月連続で増加。主に輸出価格の上昇が輸出金額を押し上げたが、これは輸入もまた真なりで、前年比+41.1%の大幅な増加となっている。

輸出増加に寄与したのは自動車で+17.5%、寄与度は+2.5。次いで鉄鋼(+75.1%、+2.4)、半導体など電子部品(+25.9%、+1.5)となった。

一方で輸入はほとんどが化石燃料であり、原油(+116.6%、+7.8)、LNG(+100.5%、+5.0)、石炭(+178.4%、+4.0)であった。急速に日本の気温が低下しているため恐らくLNGや石炭の輸入は今後も増加が予想される。また、世界的な資源インフレの流れの中、各々の価格が上昇していることも、輸入額の増加に寄与すると考えられる。

恐らくこの化石燃料輸入の増加が冬場一杯は少なくとも続くと予想され、為替の円安バイアスを強めることになる。

貿易統計でその他に注目は、米国向けの半導体製造装置輸出が増加(+101.0%、+3.6)している一方、アジア向けは半導体など電子部品の出荷が増加(+26.0%、+2.3)している点だ。

米国はサプライチェーンの見直しも含めて国内の半導体製造装置の拡充に動いているとみられる一方、アジアはその流れが一巡、半導体部品そのものを物色している点である。当面、半導体と半導体製造装置の輸出需要は堅調に推移すると予想される。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は小幅に下落した。ウクライナ・ロシア情勢不安が目先の供給不安を高めて価格を押し上げているが、90ドル超えはやや心理的に買い進める水準ではないため、米石油統計が原油に関してややベアな内容だったため、小幅に水準を切り下げた。

昨日発表の米石油統計は市場予想よりも原油・ガソリンベア、ディスティレートブルな内容だった。

原油在庫は前週比+0.5MB(市場予想▲13.3MB、前週▲4.6MB)、ガソリンが+5.9MB(+18.8MB、+8.0MB)、ディスティレートが▲14.3MB(▲0.8MB、+25.4MB)となっている。

原油は生産が増加せず、輸入が増加(+0.7MBD)、稼働率も低下(▲0.3%)したため、在庫増加となった。

一方、石油製品はガソリンは生産が増加(+0.1MBD)、出荷も輸出も減少したため在庫は大幅な増加となっている。ディスティレートはクラック・スプレッドの減少もあって生産減少(▲0.1MBD)、それに出荷増加(+0.2MBD)が在庫減少に寄与した。

石油製品の在庫日数は、ガソリンが過去5年平均を回復したが、ディスティレートは過去5年レンジを下回っており引き続き水準は低い。

弊社が注視している出荷は前年比+11.9%、2,019前年比+4.1%の21.16MBDと、輸出も含めた出荷は+6.2%、+1.5%の25.68MBDとなっており、需要面は好調を維持している。

総じて需要は堅調だが、供給がまだ不十分な状態であり原油価格は供給面を意識した堅調な推移が続きそうだ。

本日もウクライナ・ロシア情勢不安を背景に上昇余地を探る動きになると考える。米露外相会談が予定されているが、報道ベースではこの会談が決裂したとしてロシアが攻撃の材料にする可能性はある。

もし仮に本当に軍事行動を起こした場合、米軍が反撃しないことは明らかで武器供与を受けたウクライナ軍が対応することになるため、実施されれば数日でキエフも陥落するだろう。

これに対する制裁は大きなものになると思われるが、ロシア側の算段としてはそれでも経済的なメリットがあると判断している可能性がある。

実際に攻撃が始まれば高騰の後、材料出尽くしと利益確定で一旦下落、その後制裁動向を背景に再び上昇、という形になるのではないか。

◆石炭・LNG・天然ガス

豪州石炭スワップ先物価格は上昇して225ドルに上昇。中国、インドの在庫水準は決して高くなく、発電燃料不足の状態は続いている。

なお、石炭が高いからといってLNGや天然ガスにシフトする、ということは発電設備の保有状況によるため価格裁定の影響は限界がある。

また、インドネシアの石炭輸出制限は、国内市場への供給義務(DMO)を満たした企業139社に対して緩和されたと報じられている。

石炭の売り手は販売量の4分の1を買い手に販売しなければならず、価格は70ドルが上限で、これを遵守できた企業から輸出が認められ、現在75隻が輸出認可を取得、12隻が審査中である。

中国の石炭輸入の指標の1つであるバルチック海運指数は続落し、過去5年レンジ水準まで低下している。

欧州天然ガス価格はLNGカーゴの増加と中国のカーゴ販売報道を受けて水準を小幅に切り下げた。しかし、ロシアのウクライナへの軍事行動の可能性が極めて高くなっていることを考えると、在庫不足の中での供給減少懸念は根強く、価格は下支えされやすい。

報道では、中国UNIPC(SINOPECのトレーディング部門)が2月~10月デリバリーの北アジア向けカーゴを45隻オファーしている。

ガス安定調達のためにはロシアからの調達を増やさざるを得ないと考えられ、独ショルツ首相が言うようにウクライナ危機顕在化時に、ノルドストリーム2の停止を行う場合、欧州は深刻なエネルギー供給不足に直面することが予想される。

この状況でロシアからの輸入を長期間制限しているのは、価格面が理由と思われるものの、ややうがった見方かもしれないが、「ロシアとウクライナが軍事的に衝突した場合、ガス供給は実際に止まってしまうためLNGなどの別の調達手段を今のうちに確立しておくこと」を意識しているのかもしれない。

この状況を打破するためには、恐らく(ドイツを除き)原発をクリーンエネルギーと位置づける国が増加すると考えられる。

なお、域内最大の原発を有するフランスの原発稼働率は急速に回復しているが、まだ過去5年レンジの下限である。

米国天然ガスは、気温の低下見通しはあるものの、LNG市場の需給緩和で欧州向けの輸出が鈍化するとの見方などから水準を切下げている。

JKMは欧州天然ガスの低下と、域内LNG需給の緩和で急速に水準を切下げ20ドル台に。ただし2023年の価格構造はコンタンゴとなっており、この夏、年末~年始にかけての供給不足懸念がまだ払拭されていないことを示唆している。

供給問題が解消すれば2024年の先物水準である12~14ドル程度の水準に低下することが予想されるが、ロシア情勢不安などもあって解消の目処が立ったとは言い難い。

2022年1月10日~1月16日のLNG輸入は前週比▲3%の890万トン(前週+10%の920万トン)となった。

うち、スポット取引のシェアは23%(前週36%)と低下した。中国、韓国、日本、台湾向けのスポット輸出が減少したことによる。

中国はターム契約での調達を前週比+26%と増加させており、スポットカーゴの調達は減少している。オリンピック・パラリンピック期間中の需要減少を考慮したものと考えられる。

スエズ以東・以西ともタンカーレートが大幅に低下し、過去5年の最低水準を下回っており、足下のスポットLNG価格の下落と整合がとれてきた。

本日の石炭価格は、中国の調達需要が鈍化する一方で生産も減速するとみられ、海上輸送炭価格は高止まりと考える。

天然ガス価格はLNGスポットカーゴ需給が緩和していることから軟調とみるが、ロシア情勢が不安定なため、カーゴ物色の動きが再び強まる可能性があるためやはり高値を維持。

この週末にロシアがウクライナに軍事侵攻するようなことがあれば、週明けに急騰するリスクは残る。弊社は軍事侵攻の可能性は10%程度とみていたが、ここまでの報道を見るに、最早軍事侵攻がメインシナリオかもしれない。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は大幅上昇となった。株価が調整する中で脱炭素や米中対立を背景とするライン重複投資などの需要面のテーマがある中、厳冬やオミクロン株の影響で供給が減少、さらにロシアに対する制裁で供給が減少するのでは?といった供給面が強く意識され、投機の買いを巻き込みながら価格が急騰する流れが続いてる。

ニッケル価格は昨日暴騰しているが、恐らくロシアの情勢不安を背景とする供給面が意識され、ショートの手仕舞いが入ったと考えられる。ただ、最大消費国である中国では不動産セクターの抑制とオリ・パラを控えた稼働低下で主要用途のステンレス鋼需要が減少していると報じられており、やはり一旦調整が有る可能性は高いと見られる。

また、錫は急騰して過去最高値を更新。インドネシアからICDX経由での輸出の認可がまだ下りていないとの報道が供給面を強く意識した。輸出認可の事務手続き上の問題のようで月内には輸出認可が下りるとみられているものの、供給面は足下、買い材料となりやすい。

LME非鉄金属ではないが、昨日、セルビアのアナ・ブルナビッチ首相は、環境保護団体の反対を背景に、Rio Tintoに対するJadarリチウムプロジェクトに対する認可を取り消した。

今後、類似の開発反対の動きが強まり、必須資源であっても供給が確保されないという事態は頻発することになろう。

本日も供給制限をテーマとする買いが入り、上昇余地を探る動きになると考えるが、週末と言うこともあって一旦利益確定の売りに押されるのではないか。

ただし、電力供給やオミクロンなどの供給不安材料が残存するため、下落時の余地は限定されるとみる。

目先の注目は米露外相会合だが、その結果によってはさらに上昇、あるいは手仕舞いで急落する可能性はあるため注目。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭先物は上昇、上海鉄鋼製品先物は上昇した。

中国中央銀行がプライムレートを引き下げ、景気刺激に舵を切っているとみられることや、鉄鋼生産者の生産減少に伴う製品在庫の減少、鉄鋼製品価格の上昇が鉄鋼原料価格を押し上げた。

本日は中国勢の動きが鈍化しているものの、鉄鋼製品価格が在庫減少を受けて堅調に推移しているため高値を維持すると考える。

◆貴金属

昨日の貴金属セクターは堅調地合を維持。金はややリスク・プレミアムが低下する形で水準を切下げたが、その他の金属はロシア情勢不安と、ロシアに対する制裁観測で特にPGMが大きく水準を切り上げた。

本日も、ロシア情勢不安を背景に金価格は堅調、PGMも供給不安で上昇余地を探る動きになると考える。

本日の最大の材料は米露外相会談。ここで仮に米露首脳会議に道筋を付けることができればかなり緊張が緩和するが、むしろ、「オリンピック開幕までに決着を付ける」とロシアが電撃的に動く可能性はあり、その場合は貴金属価格は高騰した後利益確定で下落、その後制裁動向を睨みながら再び上昇、という展開になると考えられる。

なお、ロシアがウクライナに軍事侵攻した場合、台湾有事のリスクの高まるため金価格はいずれにしてもしばらく高止まりしよう。

◆穀物

シカゴ穀物市場はトウモロコシ・大豆が上昇、小麦が下落した。

トウモロコシは大豆に連れ高となったが、ドル高の進行とエネルギー価格が小幅に調整したことが頭を押さえた。大豆はブラジルやアルゼンチンでの不作観測が価格を押し上げ。

小麦はドル高の進行や、ロシアからエジプト、モザンビーク、シリアなどに小麦が輸出されたこともあり若干利益確定の動きが強まったことが売り材料になったとみられる。

本日の穀物価格は、リスク回避のドル高進行が上値を抑えるが、ロシアのウクライナ侵攻の可能性が非常に高まっていることから、小麦を中心に水準を切り上げる展開が予想される。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・実施が期待されていた1.75兆ドルの米税制・支出法案が複数議員の造反で成立しない、ないしは規模が縮小される場合(景気減速でリスク資産価格の下落要因に)。

・ロシアと西側諸国の軍事衝突のリスク(世界経済の減速要因)

・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

・資源価格上昇によるインフレや、米テーパリング・利上げ観測を背景とした新興国通貨安で新興国が想定以上のペースで利上げを行わねばならず、世界的に金融引き締めモードに転じた場合(リスク資産価格の下落要因)。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。

・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。

・ロシア・ウクライナ・ベラルーシ・欧州を巡る対立が激化し、軍事的な衝突が発生する場合(景気の減速を通じて景気循環系商品価格の下落要因)。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。


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