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商品セクターへのシフトとロシアの供給不安で上昇
  • MRA商品市場レポート

2022年1月19日 第2114号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「商品セクターへのシフトとロシアの供給不安で上昇」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格はその他農産品の一角や、金、銅などが下落したがその他の商品はエネルギーや穀物、銅・鉛以外の非鉄金属など幅広く物色されて上昇した。

株価は大幅に低下、債券利回りも上昇しており、明らかに伝統的な市場からの資金流出が始まっているとみられ、実需以外の市場参加者は投資ウェイトの変更を始めていると考えられる。

商品市場に目を移すと景気循環系商品はインフラ投資や脱炭素といった「景気の影響を受けにくい投資」が見込まれる一方、オミクロンや地政学的リスクの影響で供給が制限されている状況であり、「需給タイト化が続く」というテーマ性が有るため資金を振り向けやすい(続きは本日の見通しを参照)。

特に、ロシアがウクライナに侵攻する可能性が市場では強く意識されている。米サキ報道官は、「極めて危険な情勢だ。ロシアはいつでもウクライナへの侵攻を開始する可能性がある」としており、こうなった場合に原油やガス、小麦やアルミ、ニッケル、PGMの供給が危機的な状態になるのは明らかである。

それでも軍事侵攻はまだ可能性の低いリスクシナリオの位置づけであるが、少なくともショート筋は買い戻しを急ぐため、対象商品価格の上昇要因となるだろう。

【本日の見通し】

本日の商品価格は、ロシアとウクライナの緊張を背景とした対象となるエネルギーや金属のショート買い戻しが入り、堅調な推移になると考える。

また、予定されている目立った手がかり材料に乏しい中、商品セクターへのリアロケーションが進むと予想されることも、価格を押し上げることになろう。

基本、弊社は先物市場に流入する資金は証拠金として流入するため、売りも買いも成り立ち得ることから「投機資金が流入して商品価格が上昇する」という説明は間違っていると考えている。

しかし、商品先物のパフォーマンスに連動するETFが広く不急する中、現物を保有しない投機資金はまず買いから入りやすい。個人も商品ETFに投資をする場合は、信用取引をしていない限り買いから入らざるを得ない。

勿論、商品ベア型の商品もあるので必ずしも買いばかりではないのも事実だが、ニュースやネットで情報を見る限りやはりまずは買いから入る投機家が多いと考えられる。

こうした買いが足下の商品価格上昇を支えているとみられるが、目先、FOMCが予定されており、場合によると25bpではなく50bpの利上げを行う可能性もある。

そのことを考えるとやはり一時的な投機買いはこの四半期末にかけて一旦調整し、その後、再び上昇に転じると考えるのが妥当と考える。

【昨日のトピックス】

昨日の日銀政策会合で、黒田総裁は一時的な資源価格の上昇に対して金融引き締めを行うことはない、利上げは議論すらされていないと発言した。

ここのトーンが変われば株価が下落し、円高が進行する、との懸念があるためと思われるが正直な所、現在の日本にとっては輸入インフレの方が影響が大きい。

物価上昇率を2%にするため金融緩和を行っていたが、新規の需要が創出されなければ物価が上昇することは難しく、アベノミクス・クロダノミクスに行われた政策では物価が上昇しなかったことはほぼ証明されている。

しかし今回の物価上昇は外的要因によるものであり、場合によると構造的な物価上昇が起きかねず、この状況でゼロ金利やマイナス金利を続けた場合、金利差による円安バイアスが強まる可能性は無視できない。

問題は、「こうなった場合には金融緩和解除や利上げを検討しなければならない」といった「議論をすること」すら封印されている点である。

実際に問題が起きてから議論して対応したとしても、後手に回って満足な対応ができなくなる。

これと同じことが通常の経済活動にもいえる。通常、日本が購入している商品は過去の価格を参考にして決められるため、市場価格の上昇が反映されるのに時間差がある。しかし、「実際に価格が上昇してから、何か対策をしよう」となると、打てる手は限られる。

弊社が繰返し主張しているように、火事になってからでは火災保険には入れない。このときに「ミラクル」を期待して一か八かの掛けに出るケースも多い。

そのため、「まだ大丈夫」「今は相場が変動してそれどころではない」ではなく、今こそさらなる上昇や仮に上昇に対応した後の急落への対応を検討する必要があると言える。

なお、通常、こうした価格の急変リスクに対応するための準備は1週間や2週間、1ヵ月といった時間では無理であり、どんなに短く見積もっても数ヵ月はかかるため、前倒しの対応が重要になる。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は続伸した。引き続き、OPECからの供給が十分ではないのでは、との見方や、投資銀行が相次いで100ドル超えの予想を出し始める中で投機の買いが入ったためと考えられる。

また、地政学的な供給不安も実需のショート買い戻しを誘っているとみられる。米国のサキ報道官は「ウクライナ情勢が非常に厳しい状況になっており、いつ、ロシアが侵攻してもおかしく無い」と発言、こうなった場合のロシアに対する制裁が予想され、制裁が無かったとしてもガスや原油が供給されない可能性は否定できない。

昨日発表されたOPEC月報ではほぼ需給見通しは据え置かれた。しかし、足下の市場は供給が十分ではない、利上げの影響が需要の減少に繋がっていない、と判断し供給不足に焦点を当てた買いを入れたとみられる。

ドローン攻撃による爆発や、ウクライナ、カザフスタン、リビア情勢といった供給面の材料は多い。厳冬で需要が増加している中での供給制限は、いわゆるスクイーズをもたらし買い材料となる。

今のところよほど強い金融引き締めや、地政学的リスクの後退といった材料が無ければ「買い」と判断している市場参加者の方が多いとみられる。

足下、供給面や長期の構造変化を材料に投機の買いが価格を押し上げているのは事実だが、金融引き締め加速や循環的な景気の減速を受けて価格は春先に向けて調整する、という見方は維持している。

しかし、ここまで水準訂正が起きると弊社の見通し価格を変更せざるを得ないと考えており、4月の見直しでは水準を切り上げることになるだろう。とは言え、今月のFOMCの結果~3月までの推移を確認してからになる。

ショートスクイーズが入っている中では、上昇余地を探りやすく、上値を議論しても余り意味が無い。しかし、金融引き締めバイアスが強まり株の調整も続いていることから、引き続き上値は限られるとみている。

とは言え既にBrentは90ドルが視野に入りつつあり、投機が主語となっている以上、一旦90ドルは試す動きになるのではないか。

◆石炭・LNG・天然ガス

豪州石炭スワップ先物価格は上昇して220ドルを維持。冬場の石炭調達は十分ではなく、中国のオリ・パラで生産減少が見込まれることも海上輸送石炭需要を増加させたとみられる。

中国の石炭輸入の指標の1つであるバルチック海運指数は続落し、過去5年レンジに到達した。中国がオリンピック・パラリンピックで経済活動を鈍化させる見通しであることが影響しているとみられる。

欧州天然ガス価格はまちまち。ノルウェーの生産減少とLNGカーゴの流入の綱引きとなった。現在、欧州はロシアからガスを購入していないが、スポット価格水準が高いことから割安なLNGを選好している状態とみられる。

ただ、安定調達のためにはロシアからの調達を増やさざるを得ないと考えられ、現在、独ショルツ首相が言うようにウクライナ危機顕在化時に、ノルドストリーム2の停止を行う場合、欧州は深刻なエネルギー供給不足に直面することが予想される。

この状況を打破するためには、恐らく(ドイツを除き)原発をクリーンエネルギーと位置づける国が増加すると考えられる。

なお、域内最大の原発を有するフランスの原発稼働率は急速に回復しているが、まだ過去5年レンジの下限である。

米国天然ガスは気温低下見通しを背景に堅調な推移となっている。今のところ長い間レジスタンスとして意識されていた200日移動平均線を上回っているため価格はテクニカルにも強含みやすい。

JKMは欧州天然ガスの低下と、恐らく中国勢力のもあって小幅に水準を切下げた。中国の経済活動鈍化が影響しているとみられる。ただ、それでもスポットLNGの需要は旺盛であり、北半球の冬が本格化する1~2月の上昇リスクは小さくない。

2022年1月10日~1月16日のLNG輸入は前週比▲3%の890万トン(前週+10%の920万トン)となった。

うち、スポット取引のシェアは23%(前週36%)と低下した。中国、韓国、日本、台湾向けのスポット輸出が減少したことによる。

中国はターム契約での調達を前週比+26%と増加させており、スポットカーゴの調達は減少している。オリンピック・パラリンピック期間中の需要減少を考慮したものと考えられる。

スエズ以東・以西ともタンカーレートが大幅に低下し、過去5年の最低水準を下回っており、足下のスポットLNG価格の下落と整合がとれてきた。

本日の石炭価格は、中国の調達需要が鈍化する一方で生産も減速するとみられ、海上輸送炭需要は増加すると予想されることから、価格は高値維持。

天然ガス価格は中国勢力のスポットカーゴ物色の動きが減速しているため、軟調な推移になると考える。ワイルドカードはロシアのウクライナに対する軍事侵攻の可能性だが、弊社はその可能性は10%程度とみている。

しかし、価格が下落すれば価格感応度の高い中国勢が買いを入れてくる可能性は高く、欧州の在庫水準が低い状態に変わりも無いこと、ロシアとウクライナの緊張、ガス供給元として期待される米国の気温急低下見通しを受けて高値を維持の公算。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格はまちまち。マクロ経済動向の影響を強く受ける銅は下落、冬場の調達に目処が立ったか、鉛も下落した。

一方、石炭価格上昇→電力価格上昇で生産コストが上昇し、オミクロンやオリンピック・パラリンピックの影響で中国の生産が減少するとみられるアルミや亜鉛、ニッケルなどは堅調な推移となった。

なお、昨日発表されたLME COTレポートでは、亜鉛、鉛、錫などでロングの解消が見られたがその他の金属はロングが積み増され、亜鉛、鉛、アルミ、錫はショートの解消が進んだたため、結果として錫以外は投機のネット買越し幅は拡大している。

しかし、先週に関してはほとんど価格水準が拮抗していたため、実需の売りとほぼバランスしていたと見られる。

ただし、個別の金属では上昇が顕著なものもあり、特に錫の上昇が顕著だ。

昨日は錫の3ヵ月公式セトルメント価格は+992ドル上昇、過去最高値を大幅に更新した。錫価格は余りマクロ経済動向と関係無く上昇しており、経済動向よりもより個別の需給要因が影響しているとみられる。

これに対して最もマクロ経済動向の影響を受けるのは銅である。

錫在庫は年末に向けて積み上がっていたがこれが取り崩され、インドネシアの輸出ライセンスの更新時期に当たる。足下、インドネシア政府は非鉄金属資源の輸出を管理・抑制する方向に舵を切っているため、交渉が不調となった場合、LME在庫の取り崩しが進めばさらに高値を目指すことになるだろう。

弊社は電力供給不安の改善などによって錫価格は年末に向けて調整すると見ていた(実際中国の経済活動の鈍化で年初の消費者の動きは緩慢だった)が、春先にかけてそれでも一旦調整するが、その後、年末に向けて上昇する見通しに変更する可能性がある。

また、アルミとニッケルも見通しを変更する可能性がある。足下、想定以上に石炭価格が上昇して生産コストの上昇が意識されること、ロシア問題、インドネシアの資源ナショナリズムを背景として供給不安も懸念されていることが、足下、商品市場全体に広がる供給不足問題を強く意識させるため。

本日もLME指定倉庫在庫の減少が続いていること、中国や欧州の供給不安を材料とする買いが入り、上昇余地を探る動きになると予想する。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭先物は上昇、上海鉄鋼製品先物は直近限月価格が上昇、中心限月価格が下落した。

中国の鉄鋼生産者の稼働が減速するなか、鉄鋼向け需要が減少するとみられる一方、景気減速を背景に中国政府が何らかの対策を行うとの期待感が価格を下支えしている。

昨日発表されたRio TintoのQ421鉄鉱石生産はRio Tinto持ち分で前年比▲1.6%の72,561千トンとなり、通年では▲3.3%の276,557千トンと減少している。

2023年の生産ガイダンスはPilbara Iron Ore(豪州)全体で320百万トン~335百万トン(2021年実績322百万トン)と増産見通しであるが、鉱石生産は天候に左右されるためラニーニャ現象が続く中、生産の下振れリスクは小さくない。

本日は中国勢の動きが鈍化することが予想されるため、鉄鋼原料は軟調な推移が予想される。

◆貴金属

昨日の貴金属セクターは高値圏でもみ合った。金は長期金利の急上昇が実質金利を押し上げ、基準価格は1,528ドルまで低下しているが、恐らく地政学的リスクや、米利上げに伴う新興国の財政悪化懸念などを材料に、リスク・プレミアムが上昇しており、それが価格を高値に維持した。

米国のサキ報道官は「ロシアがウクライナに侵攻する、非常に深刻な状況にある」と発言、地政学的リスクが強く意識されている。

逆に言えば、リスク要因がなくなった時の下落余地は大きいといえ、仮に過去5年平均程度までリスク・プレミアムが縮小したとすれば▲100ドル程度価格が下落してもおかしくない。

銀は価格がジャンプしているが、特段材料があったわけではなく、何らか投機の買いが割安感から入ったと見られるが詳細は不明。

PGMは金がロシア問題で物色されている様に、ロシアに対する制裁でPGM供給が止まるのでは、との見方の強まりと「株から商品へのシフト」がテーマになっていることから物色された。

本日は目立った手がかり材料に乏しいが、ロシア問題を背景に金が物色され銀も連れ高、供給懸念でPGMは上昇すると考える。

また、金利高・株安・商品ヘのシフト、といった大きな流れも貴金属価格を高値に維持しよう。

◆穀物

シカゴ穀物市場は軒並み堅調な推移となった。

小麦がロシアとウクライナの緊張を受けた供給不足、トンガ噴火の影響による豪州からの輸出が停滞するリスクなどを意識して急上昇、トウモロコシはこの小麦の上昇と、原油価格の上昇に連れた。

大豆もトウモロコシ価格の上昇を受けて水準を切り上げたが、ドル高進行が抑制した。

本日の穀物価格は、高値圏でのもみ合いになると考える。トンガの噴火の影響による輸送制限や、ロシア・ウクライナの緊張による輸出の減少観測が強まっていることが海上輸送市場需給をタイト化させるとみられるため。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・実施が期待されていた1.75兆ドルの米税制・支出法案が複数議員の造反で成立しない、ないしは規模が縮小される場合(景気減速でリスク資産価格の下落要因に)。

・ロシアと西側諸国の軍事衝突のリスク(世界経済の減速要因)

・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

・資源価格上昇によるインフレや、米テーパリング・利上げ観測を背景とした新興国通貨安で新興国が想定以上のペースで利上げを行わねばならず、世界的に金融引き締めモードに転じた場合(リスク資産価格の下落要因)。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。

・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。

・ロシア・ウクライナ・ベラルーシ・欧州を巡る対立が激化し、軍事的な衝突が発生する場合(景気の減速を通じて景気循環系商品価格の下落要因)。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。


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