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ロシア情勢の解釈分かれるが総じて堅調
  • MRA商品市場レポート

2022年2月17日 第2136号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「ロシア情勢の解釈分かれるが総じて堅調」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格はエネルギーや非鉄金属などに買い戻しが入り、総じて堅調な推移となった。ロシア情勢不安は市場によって解釈がまちまちとなり、株高によるリスク再開とドル安が総じて価格を押し上げる方向に働く一方、原油などはまだ供給不安が解消していないとして水準を切り上げている。

また、FOMC議事録が市場が懸念しているよりもハト派よりな内容であり、50bpの利上げや早期のQT実施に関してもコメントがなかったことから、ファイナンシャルな面では価格の下支え要因となった。

結局の所ロシア・ウクライナ問題は何らかの合意に至るまで続くと考えられ、市場が懸念するエネルギー価格の上昇も、軍事的緊張緩和、ないしは冬場が終了するまで継続すると見られる。

今のところ欧米は冬場の終了によってロシアの交渉能力が低下するのを待つ「持久戦」を選択しているように見られ、一方で厳冬という交渉カードが1枚なくなる可能性がある冬場の終了を控えてロシアが落とし所を探っているように見える。

ただ、春でもロシアがガスを供給しなければ欧州が厳しい状態に置かれることはほぼ自明であり、同問題が欧州経済、ひいては世界経済の減速要因になることは継続することになろう。

【本日の見通し】

本日も引き続き、ロシア・ウクライナ情勢問題が市場動向を左右すると見るが、昨日発表のFOMC議事録の内容を勘案するとファイナンシャルな面で価格は下支えされるため総じて高い水準で推移することになると見ている。

本日、EU首脳緊急会合やG20財務相・中央銀行総裁会議が予定されているが、恐らく目立った進捗や手がかり材料になる発言はほとんど出ないと予想される。

それよりは、クリーブランド連銀総裁やセントルイス連銀総裁の講演の方が重要だろうか。今回のFOMC議事録を下敷きにどのようなコメントが出るかに注目したい。

予定されている経済統計では、米週間新規失業保険申請件数(市場予想21.8万件、全集22.3万件)、フィラデルフィア連銀製造業景況指数(市場予想20.0、前月23.2)と強弱まちまちな内容が見込まれおり、どちらも市場の方向性を決定づける統計にはならないのではないか。

【昨日のトピックス】

昨日発表された中国の消費者物価指数と生産者物価指数は市場予想を下回り、同国のインフレ観測が後退していると共に、企業活動が市場予想よりも鈍化している可能性があることを示唆する内容だった。

しかし、生産者物価指数は前年比+9.1%(市場予想+9.5%、前月+10.3%)と減速しているがそれでも9%オーダーの価格上昇が続いている以上、調達環境は厳しいといえる。

一方、消費者物価指数も+0.9%(+1.0%、+1.5%)と減速している。このことはコロナの影響などによる最終消費が減速していることを示しており、調達価格の上昇と販売価格の伸び鈍化が企業収益を悪化させる可能性が高いといえる。

Citiが算出している中国経済統計の「サプライズインデックスを見ると、昨年7月頃が底でそれ以降回復を続けてきた。サプライズインデックスは、市場予想よりも統計が上振れするとプラス、下回るとマイナスになる指標であるが、今年の1月頃にピークアウトしている。

通常、市場予想は過去のトレンドや実績を考慮しながら作成されるため、その過去のトレンドの前提とは異なる結果が出始めていることを示している。

つまり、予想の前提となった経済環境と現在とは状況が異なっていることを意味しており、このまま特段対策が行われなければ、中国の統計が減速して、鉱物資源価格などに一時的な価格調整をもたらす可能性が高いとみる。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇後下落した。ウクライナ情勢不安がやや後退したように見えたが実際は後退していないと米国が主張したことを受けて買い戻しが優勢となったが、米石油統計で原油在庫のヘッドラインの数字が市場予想に反して増加したことが材料となった。

昨日発表された米石油統計は、原油が市場予想比弱気、ガソリンが強気、ディスティレートが予想通りだった。なお、WTIヘの説明力が高いクッシング在庫は大幅に減少(▲1.9MB)している。

米原油生産は横這い、輸入は減少したが、稼働率の低下の影響で原油在庫は+1.1MBの増加、在庫日数も+0.9日の上昇となっている。しかし、WTIに対する説明力が高いクッシング在庫は、稼働率の低下・輸入減少はあったものの▲1.9MBの減少となっており、ヘッドラインの数字ほど強気な内容ではない。

ガソリン出荷は過去5年平均をやや下回ったが、ディスティレート出荷は好調で過去5年の最高水準を超えている。製品全体では大幅な増加となり、過去5年レンジを+7.0%上回っており好調だ。

ただし石油製品の輸出は過去5年レンジを下回って推移しており、全体の出荷はやや過去5年レンジを上回る程度となっている。ただ、コロナの影響で航空需要が減少していることを差し引いても、米国の需要は旺盛といえるだろう。

本日もウクライナ情勢不安が材料となるが、ロシアの主張と異なり米国は「むしろ国境付近の軍を増強している」と主張しており、供給不安が拭えない中、高値圏での推移になると予想される。

◆石炭・LNG・天然ガス

豪州石炭スワップ先物価格はロシア情勢の緊張緩和の影響で続落したが、やはり情勢不安が完全に解消されていないこともあって高値圏を維持した。中国やインドの在庫水準は低く、ロシアとの対立の中で高値圏で推移する天然ガス以外の発電燃料として石炭が欧州で物色されているとみられることが価格を押し上げている状況。

中国の石炭輸入の指標の1つであるバルチック海運指数は高水準を維持し、5年レンジを上回っている。

欧州天然ガス価格は小幅に続落。プーチン大統領が欧米との交渉を継続すると発言したことで供給懸念が後退していることが背景。しかし、米国の主張ではロシア軍は国境に集結しており、緊張が解消されるには至っていない。

テクニカルには200日移動平均線でサポートされているが、さらに下落があるかどうかはこのポイントを下抜けるかどうかに依拠している。

しかし、昨年2月のガス価格の水準が20ユーロ/MWhであることを考えると、現在の70ユーロ近辺の水準は高すぎであることに変わりはない。

仏独の原発の稼働率は低下しており、引き続き冬場の電力供給状況は不安定。

米国天然ガスは米北東部の気温低下に伴って上昇した。しかし来週以降は米東側での気温上昇が予想されているため、上昇は一時的で100日移動平均線がレジスタンスとして意識されている。

JKMは欧州ガスの下落はあったが小幅に上昇した。徐々に冬場が終了に向かっているが、まだ冬場の需要期である。

ただ、2月6日時点の発電用LNG在庫は163万トン(前年同月末230万トン、過去4年平均163万トン)と大幅に減少している。LNGの欧州への融通を決めたが気温低下があった場合充分な在庫ではなくなった。

また、恒常的に欧州にガスを融通するならば、日本のスポット調達圧力が恒常的に高まることになるため、厳冬・猛暑の現物ショートのリスクは無視できない。

2月7日~13日のLNGトレードだが、取引量は+11%の820万トンとなった。主に日本と中国向けの長期契約ベースのカーゴ流入増加が背景。

一方、スポット取引のシェアは24%と先週の29%から大きく低下している。主に東南アジア・南アジア向けのカーゴが減少したことによるもので、主要輸入国である中国・日本・韓国・台湾の輸入量はほぼ変わらずだった。

弊社ではデータが取得できないが大西洋航路のLNG船の船賃が急低下、LNGカーゴが供給過多になっているとみられる。

それを反映してかスエズ東西のフレートも低水準での推移が続いている。つまり、フレートレートのみでは足元の現物需給環境を判断するのが難しい状況。

本日の石炭価格も欧州勢・アジア勢の買い継続で高値維持の公算。

天然ガス価格はロシア情勢の緊張緩和でやや調整したが、ロシア・ウクライナ問題は解消していないため、高値維持の公算。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は上昇した。ロシア情勢不安を背景としたリスク回避相場が反転して株高・ドル安となったこと、一方で軍事的な緊張は緩和していないとして原油価格が上昇、再び非鉄金属の供給制限が意識されたこと、その中でLME指定倉庫在庫減少継続(銅は昨日は増加)を背景に水準を切り上げる流れとなった。

また、中国のCPI・PPIが減速したことでむしろ中国政府による景気刺激策への期待が高まったことも材料になったとみられる。

基本的にエネルギー供給不足やオミクロンの影響による供給側の制限が続いている中、景気の過熱沈静化に各国とも慎重であるため価格は高値を維持している状況。

本日は昨日のFOMC議事録の内容を時間的に織り込めなかったため、市場予想よりもタカ派ではなかったFOMC議事録の内容を受けてドル安進行・株回復の中で上昇余地を探る展開を予想。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は上昇、上海鉄鋼製品先物は大幅に上昇した。

鉄鋼製品価格先物が続落していたため買い戻しで上昇したことを受けて、鉄鋼原料価格も上昇した。

なお、回帰分析を行うと現在の原料価格の水準では、鉄鋼製品生産で充分な利益が確保出来ない。そのため鉄鋼製品価格が上昇するか、生産が減少するかのいずれかの選択になるが、鉄鋼製品在庫は過去5年平均を上回って増加している。

先々の需要を見越した増産ないしは、オリンピック・パラリンピック期間中の減産を見込んだ増産とみられるが現在の原料炭の市場価格水準では(市場で取引されない、原料炭鉱山から製鉄所への直接販売があると考えられるものの)生産維持は困難と見られ、製品価格の上昇か鉄鋼製品の減産か、いずれかが起きるとみている。

本日も鉄鋼製品価格次第であるが、鉄鉱石の在庫水準は高いのでこちらは軟調、原料炭在庫は主要港である京唐港の港湾在庫の水準が低いことを考えると供給面で高値圏での推移が続くと予想される。

◆貴金属

昨日の貴金属セクターは上昇した。実質金利はFOMCを受けてやや低下したが、ロシア情勢不安が継続しているとの判断からリスク・プレミアムが上昇したため。

基準価格は1,470ドル(▲4ドル)と低下、一方リスク・プレミアムは400ドル(+20ドル)と大幅に上昇している。また、ロシアからの供給の影響を受けやすいPGMは大幅な上昇となった。

本日はロシア情勢不安が継続していること、昨日のFOMC議事録が市場が想定しているよりもややハト派であることから上昇余地を探る展開に。

◆穀物

シカゴ穀物市場は上昇した。ドルがリスクテイク再開の中で総じて軟調な推移になる中、かねてからの需給ファンダメンタルズのタイト観測を背景に買い戻しが優勢となった。

なお、ロシア・ウクライナ問題は米国政府の発表では「国境近辺の軍事力を強化している」とされており、まだ供給不安は解消していない。

本日もロシア・ウクライナ情勢不安が実は解消していないこと、昨日のFOMC議事録を受けたドル安圧力を受けて上昇余地を探る展開を予想。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

・ロシアと西側諸国の軍事衝突のリスク、それに乗じて中国が台湾に侵攻するリスク(世界経済の減速要因)

・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。

・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。

・ロシア・ウクライナ・ベラルーシ・欧州を巡る対立が激化し、軍事的な衝突が発生する場合(景気の減速を通じて景気循環系商品価格の下落要因)。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。

◆本日のMRA's Eye


「亜鉛価格は調整へ」

亜鉛価格もその他の金属と同様高い水準を維持している。亜鉛価格の先行きを見通す上で、これもその他の商品と同様に、「需給バランスの前年比変化」は参考になる。

グラフの通り、前年比で需給バランスがタイト化すると前年比で亜鉛価格は上昇、緩和すると前年比で下落することが分かる。もちろん、投機的な動きや流動性の問題もあって必ずこのようになるわけではないのだが、この加工をすることで調査機関の需給見通しの差をさほど意識しなくても良くなるため扱いやすい指標の1つだ。

この見通しを元にすると需給バランスのタイト感は今年中にピークアウトし、Q123にかけて前年比で緩和する見通しである。

その結果、過去の例を参考にすると、亜鉛価格の前年比上昇率は▲10%程度の低下になる見通しであり、やや期間の長い見通しでは亜鉛価格は調整すると予想される。

ただしより長期の見通しの場合、1.中国・インドが同時に人口ボーナス期入りすること、2.脱炭素に伴う「新規の発電設備」の投資増加、などによる鋼材需要の増加によって、より長期的には鋼材需要の増加で上昇すると見ている。

大規模鉱山生産が見込まれていないこと、即時の供給が困難でありいわゆる構造的な需要増加に供給が追いつかないと考えられる為だ。

話を足下の状況に戻すと、直近の亜鉛需給バランスの指標であるキャッシュvs3ヵ月先渡しスプレッドはLME指定倉庫在庫の減少はあるものの上昇(コンタンゴに向かう)しており、足下の需給が緩和しつつあることを示唆している。亜鉛生産増加率が上昇するに伴い、TCも低下している。

また、LME指定倉庫在庫と価格の間には高い相関関係があり、現在の価格はほぼ在庫水準で説明可能な範囲だ。

その一方、需給動向はエネルギー供給制限や輸送能力の制限が続く中で地域差が出ており、最大消費国である中国の現物プレミアムは定価基調にあるが、欧州と米国の現物プレミアムは上昇を続けており、地域によっては供給不足の状態が続いている。

ここまでの亜鉛価格の上昇は、ロシアとウクライナの対立によるエネルギー供給不足を背景とする欧州の生産減少、エネルギー価格の上昇や不足、オミクロン株の影響、オリンピック・パラリンピックを控えた中国の生産減少による供給面を材料にしたものであるが、春に向けて季節的な供給不足は解消されることが期待されること、米国が積極的に行う見込みの金融引き締めによって投機的な動きが抑制されることから、春先にかけて下落する見込みだ。

この数ヵ月のLMEの実需・投機の動きを見ると、投機の買いの増加によって価格が顕著に上昇しているため、米金融引き締めによる亜鉛価格調整の可能性は高い。


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