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ロシア不安・インフレ懸念でまちまち
  • MRA商品市場レポート

2022年2月15日 第2134号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「ロシア不安・インフレ懸念でまちまち」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は非鉄金属の一角(上海)とその他農産品が下落したが、その他の商品は総じて堅調な推移となった。

ロシア・ウクライナの情勢不安を背景とする供給不安がロシア・ウクライナの供給シェアの大きな商品価格を押し上げる一方、米インフレ懸念の高まりを背景に、ハト派からタカ派に転じたセントルイス連銀ブラード総裁のタカ派発言継続を受けてドル高が進行したことが、今回のロシア問題の影響を受けにくい商品価格を押し下げた。

また、株や「リスクオンの指標」であるビットコインも水準を切り下げている。

足下、ロシア情勢不安が資源インフレをもたらし、それが先進各国の利上げペース加速に繋がるため、リスクオフをもたらしやすい。なお、資源価格の上昇は消費国から資源国への所得移転が起きることになるが、同時に発生しているインフレが新興国経済不安に繋がるため、その世界経済全体への影響はプラス、とは言い難い。

【本日の見通し】

本日も企業決算を受けた株価動向、ロシア・ウクライナ問題を巡る高官発言を受けて神経質な推移が続くと考えられるが、事態の急速な好転が望みにくい以上、供給懸念がある商品は高値を維持し、その他のリスク資産は下落する展開が予想される。

【昨日のトピックス】

昨日、セントルイス連銀のブラード総裁が再び利上げペースの加速に関して前向きは発言を行い、株価の下落に繋がった。

ブラード総裁は失業率が年内に3%を割り込み、行動の速度が遅いことに懸念を示している。確かにコロナショック後以降、フィリップス曲線の説明力が回復、失業率の低下と物価上昇の逆相関性が回復しつつある状況。

これまで安定的にハト派とされてきたFRBパウエル議長も明確にタカ派に転じており、利上げやQTが加速する可能性は高い。

その一方、昨日日銀は10年国債0.25%の無制限の指し値オペを行うと発表、長期金利の上昇を牽制してきた。黒田日銀は安倍政権誕生後、無制限の緩和を続けているがはっきりってその効果は出ておらず、インフレにはなっていない。

日銀の金融政策自体がインフレが発生しない、ということを前提としているものであるため、仮にインフレになった場合には打てる手が限られることは忘れてはならない。

黒田日銀は海外への投資からの収支が円安によって増加するため、円安はメリットの方が多いとしているが、GDPの6割~7割を占める個人消費はコロナ下で円安のデメリットを既に受けている。

アベノミクス・クロダノミクスの10年間を正しく評価し、政策の変更の必要性について議論するべき時期はとうの昔に到来している。

なお、「国債は国内で消化されているため、金利は上昇しない」というロジックを主張する向きも多かったが、黒田総裁が就任した時の外国人投資家の日本国債保有比率は8.46%だったが、昨年9月末段階では13.42%と過去最高水準になっており、増加傾向が継続。最早このロジックは通じないと考えるべきだろう。

さらに言えば、この状態でガソリン価格や電気料金の上昇を国費で何とかする、ということも国債の消化環境が変わりつつあることを考えると無制限に出来る政策ではない。

問題が起きる可能性を想定して、起きなければそれでよしという対応をすべきで、仮に長期金利が急上昇を始めて「火事」になってから対応方法を探しても選択肢は限られ、結局コスト負担も多くなるということを忘れてはならない。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇して引けた。ウクライナ情勢不安が継続し、供給面が強く意識される中で実需のショート買い戻しが継続しているためと考えられる。

この2週間、実需の買い戻しに投機が売り向かう構造となっており、過去150ドルに上昇した局面との比較ではそろそろ終盤に差し掛かっているといえる。

テクニカルにも上限といえ、単純なボリンジャーバンド(過去データを元にレンジを推定するテクニカル分析の1つ)分析では、過去、クリミア実効支配を行った時も3標準偏差上限まで上昇し、その後下落しているが、今回も3標準偏差に達しており、徐々に上値も重くなるだろう。

本日もウクライナ情勢不安を背景に高値圏での推移が続くと考える。結局、統計よりも首脳会談の方が注目されやすいが、本日は独露首脳会談が予定されている。

ドイツがウクライナのNATO入りを取り下げに関して言及するとは思えないが、在英ウクライナ大使がNATO加盟申請の取り下げに関して言及しており、ラブロフ外相もプーチン大統領に対して欧米との交渉継続を進言するなど、「やや」緊張緩和の兆しが見られることは、相場の重石となろうか。

◆石炭・LNG・天然ガス

豪州石炭スワップ先物価格は下落したが240ドル代を維持。欧州の物色と中国勢の買いが継続しているためと考えられる。

中国の石炭輸入の指標の1つであるバルチック海運指数は急騰し、5年レンジを上回っている。石炭だけではなく、中国勢の市場復帰で物流が回復しているためとみられる。

欧州天然ガス価格は小幅に下落。前日比で高い水準で寄りついていたものの、ロシア ラブロフ外相がプーチン大統領に欧米との交渉継続を進言したとの報道を受けて上げ幅を削る展開。

仏独の原発の稼働率は低下しており、引き続き冬場の電力供給状況は不安定。

米国天然ガスは欧州ガス価格の上昇と、北東部の気温低下見通しを受けて上昇。

JKMは欧州ガスの上昇を受けて小幅に水準を切り上げた。期間構造的には期近の需給が緩和しているが、引き続き2022年-2023年冬場のJKM価格は28ドルを超え、2023年-2024年冬場は18ドルに迫る展開。

1月16日現在、エネルギー庁の調べでは電力会社のLNG在庫は201万トンとされ、仮に今回3隻程度を融通するとなると在庫の10%程度に該当することになるが、これだけでは供給不足にはならないだろう。

ただ、恒常的に欧州にガスを融通するならば、逆に日本のスポット調達圧力が恒常的に高まることになるため、厳冬・猛所の現物ショートのリスクは無視できない。

なお、弊社ではデータが取得できないが大西洋航路のLNG船の船賃が急低下、LNGカーゴが供給過多になっているとみられる。

それを反映してかスエズ東西のフレートも低水準での推移が続いている。つまり、フレートレートのみでは足元の現物需給環境を判断するのが難しい状況。

本日の石炭価格も欧州勢・アジア勢の買い継続で高値維持の公算。

天然ガス価格はロシア情勢に大きな進捗がなく、高値でのもみ合い継続。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は軒並みスズと亜鉛が下落したがその他の金属は上昇した。ロシア情勢不安や石炭価格の上昇に伴う供給不安、LME指定倉庫在庫の減少が材料となった。

非鉄金属は為替の影響を受けやすいが、昨日のドル高はほとんど材料となっていない。

ただ、原油と同様、ボリンジャーバンドによる分析を行うと、アルミなどはテクニカルにボリンジャーバンドの上限に達しているが、その他の金属は実はまだその水準に達していない。しかしテクニカルな視点ではそろそろ上限に達しつつあるのも事実である。

本日もロシア情勢不安を背景とする金属・エネルギーの供給不安で高値圏での推移が予想される。供給面が価格にプラス、需要面はマイナス、ファイナンス要素は徐々に価格にマイナスに作用しやすく、本日は水準を切下げる金属が多いのではないか。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭価格は小幅に下落、上海鉄鋼製品先物は大幅に下落した。

昨日は休み明けの中国勢の買いが一服し、鉄鋼製品先物価格が下落したことが鉄鋼原料価格全体の重石となった。基本的に中国の不動産セクターの加熱沈静化の動きは継続しており、昨年から始った金融緩和の影響が出るのはこれからだろう。

本日も鉄鉱石・原料炭とも供給制限の影響もあって高値水準を維持の公算。

◆貴金属

昨日の貴金属セクターは総じて堅調な推移に。金はロシア情勢不安を背景にリスク・プレミアムを引き上げながら上昇した。基準価格は1,500ドル(▲6ドル)と小幅安だが、リスク・プレミアムは371ドルと+18ドル上昇している。

銀は金銀レシオを維持しながら上昇、プラチナも似た動きとなったが株の下落が重石となった。パラジウムはロシアからの供給不安で大幅に上昇した。

本日もロシア情勢不安を背景に高値維持の公算。恐らく独露首脳会議では目立った進捗はないだろう。

その中では株価の影響>ロシアからの供給不安となるプラチナは軟調推移となるか。

◆穀物

シカゴ穀物市場は高値でもみ合った。ロシア情勢不安を背景とする小麦・トウモロコシの供給不安が価格を高値に維持する一方、リスク回避のドル高進行で大豆価格は下落した。

本日も南米の生産下振れ観測、ロシア・ウクライナからの供給減少懸念、ドル高が混在する中で高値でのもみ合いを予想。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

・ロシアと西側諸国の軍事衝突のリスク、それに乗じて中国が台湾に侵攻するリスク(世界経済の減速要因)

・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。

・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。

・ロシア・ウクライナ・ベラルーシ・欧州を巡る対立が激化し、軍事的な衝突が発生する場合(景気の減速を通じて景気循環系商品価格の下落要因)。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。

◆本日のMRA's Eye


「ロシア不安の資源供給への影響」

ロシアがウクライナに軍事侵攻を行う、ないしは行うことを抑制するために欧米が制裁を科す(SWIFTからの排除など)場合、多くの資源供給に影響が及ぶことになる。

主要なところだけでも、原油・ガス、小麦市場への影響は大きく、資源価格の高騰のみならず、食品価格の高騰も誘発し、世界的に経済が混乱するリスクは小さくない(エネルギー・食品価格の高騰は「主要国の金融引き締め」と経済的には同等かそれ以上の影響)。

実はロシアの歳入に占める石油・ガスのシェアは実はそれほど高くないのだが、全体の2割弱。しかし全体の歳入の傾向を見ると、石油・ガスに関連するビジネス(鉱物資源を含む)ヘの影響が大きいとみられ、歳入はほぼ原油価格に連動していることが分かる。

ロシアは昨年末に2022年~2024年の中期の予算計画を発表したが、2021年~2023年までは財政黒字に転じるものの、2024年から再び財政赤字に転じるとしている。

財政状況悪化の背景には、社会保障・インフラ整備・補助金の負担増加がある。軍事費削減などの歳出削減は行っているが、コロナの影響もあって「焼け石に水」の状況だ。

この状況を勘案すると、仮にNATOがウクライナに進出した場合、これを軍事的に牽制するために軍事費をさらに積み増すゆとりはロシアにはない、ということだ。逆に言えば軍事費を割かねばならなくなるような、ウクライナ東部への軍事力投入は避けたい、というのが本音ではないだろうか。

ということもあって、かなり強い圧力を掛けている、と考えるのが妥当で、戦略的に中立地帯にしたいと考えている可能性は小さくないと見ている。以上を考えると 基本的に軍事侵攻はないというのがメインシナリオにはなる。

しかし軍事的な衝突は突如発生するためその可能性はゼロではない。また、仮に軍事侵攻や制裁がなかったとしてもその懸念が高まることで市場ではロシアの供給シェアが高い商品の価格が上昇し、世界的に悪影響を及ぼすリスクがある。商品価格の上昇は消費国にとって利上げと同じかそれ以上の効果をもたらすことになる。

主要なところではやはり原油・ガスのシェアが大きく、無視できないが、その他、バッテリーなどにも使われるニッケルや自動車の排ガス触媒に用いられるパラジウムなどの供給シェアも高い。

特に懸念されるのが小麦。輸出市場におけるロシアの供給シェアは大きい。仮にウクライナも戦火に巻き込まれて小麦の輸出ができなくなるとその影響はさらに大きくなる。ロシアとウクライナの小麦供給シェアを合計すると3割程度と高いためだ。

「Wheat Is Weed(小麦は雑草)」と言われるほど世界中で取れる比較的安定的に供給可能な商品であるが、さすがにこの2国からの供給が止まれば価格上昇は回避できず、食品・エネルギー価格の高騰が特に新興国の財政状況や治安に悪影響を及ぼす可能性は高い。

また、運が悪いことに夏頃まで穀物供給に影響が大きいラニーニャ現象が続く見通しであることも、こうしたリスクを高めることになる。ウクライナ・ロシア情勢は今回は沈静化するとみてはいるものの、ロシアと欧州の対立が完全に解消するまではこのリスクはなくならない。


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