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インフレをテーマとする買いで大幅上昇
  • MRA商品市場レポート

2022年1月13日 第2111号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「インフレをテーマとする買いで大幅上昇」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格はほとんどの商品価格が続伸した。ベージュブックや米消費者物価指数などは米国のインフレ懸念が根強いことを確認するないようだったものの、「想定内」としてむしろリスク資産・インフレ資産が物色される流れとなった。

昨日最も上昇したのが米天然ガス。最大需要地区である東海岸の気温低下や欧州向けの輸出増加が材料となった。引き続き厳冬を背景とする発電燃料価格の上昇、それに伴う工業品の供給懸念は継続すると予想される。

昨日発表された米消費者物価指数はほぼ予想通り~やや上振れ、という結果となった。消費者物価指数の内訳を見ると最も上昇しているのがエネルギーセクターで前年比+29.3%であり(前月比では▲0.4%の低下)、食品は+6.3%、コア指数は+5.5%の上昇となった。

また、引き続き半導体供給不足などを背景に中古車やトラックの価格上昇(前年比+37.3%)が続いており、前月比でも+3.5%となっている。

供給面の障害が物価上昇に繋がっている面は否めないが、オミクロンの影響やオリンピック・パラリンピックの影響、欧州の厳冬による供給不足が想定以上に長びく可能性が高まっており、FRBが期待する2022年中判のインフレ沈静化が難しくなるかもしれない。

昨日は非鉄金属が2日連続で暴騰しているが、供給面を材料にした実需の買いに、昨年10月からの調整でポジションが軽くなった投機の買いが入っていると考えられる。

【本日の見通し】

本日の商品価格はこの2日間のインフレ資産・リスク資産の上昇が顕著だったことから一旦下落すると考えている。

本日予定されている材料では米FOMCメンバーの発言や米週間新規失業保険申請件数に注目しているが、「インフレ観測を背景とするインフレ資産物色」の流れの圧力の方が強そうだ。

【昨日のトピックス】

昨日発表された中国の消費者物価指数は、前年比+1.5%(市場予想+1.7%、前月+2.3%)と減速、生産者物価指数も+10.3%(+11.3%、+12.9%)と伸びが鈍化した。

内訳を見ると、生産者物価指数は鉱産財が+44.2%(前月+60.5%)と高い水準ではあるが伸びが鈍化したこと、原材料が+19.7%(+60.5%)と減速したことが影響した。

消費者物価指数は食料品価格が▲1.2%(前月+1.6%)と低下し、その他の物価指数の上昇も抑制された。供給制限が有る中で個人消費の回復が緩慢であることを示唆している。

現在、中国でもオミクロン株の影響が拡大していることを考えると、今後、消費者物価指数には低下圧力が掛る一方、供給制限再開で生産者物価指数には上昇圧力が掛る展開が想定される。

同時に発表されたファイナンス関連統計は、資金調達総額が2兆3,700億元(市場予想2兆4,008億元、前月2兆6,141億元)と市場予想、前月とも下回った。

人民元建て新規融資も1兆1,300億元(1兆2,500億元、1兆2,732億元)と伸びが減速、企業活動は回復してない。

しかしこの状況を打破するために金融緩和を行った結果、製造業活動の先行指標であるM1は前年比+3.5%(+3.3%、+3.0%)と回復している。足下、オリンピック・パラリンピックの開催を控えていること、オミクロン株の影響を考えると急速に回復することは難しいが、恐らく春先には一連の金融緩和の影響が顕在化し、特に工業金属価格の上昇要因になると考える。

それがバブルを作るか否かはまた別の議論だが、足下は「供給とコスト」春先以降は「需要」に焦点が移ることが予想される。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は大幅に続伸した。市場参加者のリスクテイクが再開され株高・ドル安となったことや、米石油統計で市場予想を上回る原油在庫の減少が確認されたことが材料となった。

昨日発表された米石油統計は原油ブル・製品ベアな内容。

原油生産が減少、輸入が増加したが、在庫は▲4.6MBと大幅な減少となった。一方でガソリンは出荷が減速(▲0.4MBD)、ディスティレートも▲0.3MBDと減少したため、製品在庫はガソリン・ディスティレートとも増加している。

弊社がより注視している製品出荷は、過去5年平均、2019前年比とも上回り好調、輸出も含めた総出荷も同様で好調である。

昨日も指摘したがこれに春先以降のコロナの移動制限解除がもしあれば、100万バレルオーダーで原油需要が増加するため、期待されている春先にかけての価格下落が極めて限定した物になるかもしれない(Brentで70ドル程度まで調整すると見ていたが、この水準を見直しする必要が有り得る)。

足下、OPECプラスの供給能力制限、非OPECもほとんど上流部門投資を行っていない一方、想定以上に景気が堅調であることから90ドルを超え、100ドルを上回る見通しも出始めた。

弊社は春先にかけて調整し、その後上昇する見通しであるが年末にかけて70ドル台半ばというよりは80ドル台半ばを目指す可能性が出てきた。

本日はこの数日の上昇が顕著であるため一旦調整売りに押されるが、市場参加者の資源物色の流れが強まっているため、調整幅は限定されるだろう

◆石炭・LNG・天然ガス

豪州石炭スワップ先物価格は上昇して200ドルを上回った。インドネシアの石炭禁輸は段階的に解除される見通しが示されているが、インドネシア政府は、国内供給義務達成を条件に輸出を許可する方針を示した。

企業側の対応次第であるが、直ちに輸出が全面的に再開されるわけではなく、当面価格の上昇要因となりそうだ。い。

中国の石炭輸入の指標の1つであるバルチック海運指数は小幅に続落したが、同じ時期の過去5年の最高水準を上回った状態が続いている。

欧州天然ガス価格は下落した。米国からのLNGカーゴ供給増加観測が価格を押し下げている。なお、ロシアからの輸入は再開していない。反対に米国天然ガスは欧州向け輸出増加や200日移動平均線のレジスタンスを上抜けしたこと、最大需要地区である東海岸の寒波襲来で大暴騰している。

欧州のガス在庫の減少は続いており、かつ、ウクライナ情勢の影響もあってか(恐らく欧州側がロシアからの購入の意図がない)、ロシアからのガス供給は低迷しており、価格は下支えされやすい。

この状況が続けば、春~夏までに十分なガス在庫を確保できずにガス価格が高止まりする展開は、よほど冬が暖かく無い限り最早メインシナリオではないか。

なお、フランス・ドイツの原発稼働率は非常に低い状態。仏EDFは1,500MWのChooz-2原子炉の稼働再開を4月20日まで延期することを決定しており、域内の電力供給の懸念材料に。

JKMは欧州天然ガスの低下もあって小幅に水準を切下げた。2022年のガス価格は20ドルを目指す展開に。ただしそれでもスポットLNGの需要は旺盛であり、北半球の冬が本格化する1~2月の上昇リスクは小さくない。

2022年1月3日~1月9日のLNG輸入は前週比+10%の920万トンとなった。うち、スポット取引のシェアは36%(前週29%)と上昇した。主に、北欧向けの輸出が増加したことが影響た。

一方、スエズ以東・以西ともタンカーレートが大幅に低下し、過去5年の最低水準を下回っている。しかしこれは足下の価格水準とは整合が取れておらず、引き続きタンカーレート動向は注視が必要だ。

本日の石炭価格はインドネシアからの供給の段階的再開を受けてやや軟調に推移するとみるが、アジア太平洋地区の需給逼迫の状況に変わりは無いため高値維持の公算。

天然ガス価格は欧州の在庫水準が低い状態に変わりは無く、ロシアからの供給も増加していないため、高値を維持。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は大幅に続伸した。欧州の気温低下に伴う金属工場の稼働停止や、中国でのオミクロン株の感染拡大に伴う工場の稼働停止、などによる供給減少観測、LME指定倉庫在庫の減少継続が価格を押し上げる形となった。

また、オリンピック・パラリンピックで中国の工場の稼働が低下することも供給懸念に拍車を掛け、インドネシア政府のニッケル銑鉄、フェロニッケル輸出への累進課税導入検討報道も、資源ナショナリズムへの懸念を高めるもの。

昨日も指摘したが、昨年11月からの投機のポジション調整が進んでいたため、「供給不足の中での資源インフレ」をテーマに、割高な株から資源そのものへのシフトが起きている可能性は高い。

本日はこの2日の価格上昇が大きかったこともあって一旦調整売りで下落すると考えるが、足下、資源インフレと供給制限をテーマとする買いが入りやすい地合であり、価格は高値を維持の公算。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭先物は上昇、上海鉄鋼製品先物は上昇した。

ブラジルの豪雨により、341の都市が非常事態にあり1億トンの供給に支障が出るとされている。また原料炭については豪クイーンズランド州からの12月輸出が▲16.9%と減少したことが材料となっている。

鉄鋼原料の海上輸送市場はタイトな状態が続いている。

中国のミル稼働の低下が見込まれるものの、供給面での障害が多く、鉄鋼原料価格は高値維持の公算。

◆貴金属

昨日の貴金属セクターは金銀プラチナが上昇した。ベージュブックは新たな材料はなかったものの、CPIの上昇を受けた長期金利・短期金利の上昇で実質金利が上昇したことが金価格を押し下げた。金基準価格は1,579ドルまで低下している。

一方、ロシア・ウクライナなどの地政学的なリスクも高まっているため、リスク・プレミアムが247ドルまで上昇したことが金価格を支えた。銀価格は金銀レシオを80倍に維持したまま上昇。

PGMはプラチナが上昇、パラジウムは小幅安で引けた。

本日は、金がリスク回避の金物色で高値を維持すること、株価の戻りから貴金属セクターは総じて堅調な推移になると考える。

◆穀物

シカゴ穀物市場はまちまち。昨日発表された米需給報告では、トウモロコシ・小麦の在庫見通しが市場予想を上回り、大豆が下回った。比較的この数値を素直に反映した値動きとなった。

・1月米需給報告単収見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 177.0Bu/エーカー(177.1、177.0)大豆 51.4Bu/エーカー(51.3、51.2)小麦 44.3Bu/エーカー(NA、44.3)

・1月米需給報告生産見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 151億1,500万Bu(150億7,818万Bu、150億6,200万Bu)大豆 44億3,500万Bu(44億3,400万Bu、44億2,500万Bu)小麦 16億4,600万Bu(NA、16億4,600万Bu)

・1月米需給報告輸出見通し(実績/前月)トウモロコシ 24億2,500万Bu(NA、25億Bu)大豆 20億5,000万Bu(NA、20億5,000万Bu)小麦 8億2,500Bu(NA、8億4,000万Bu)

・1月米需給報告在庫見通し(実績/市場予想/前月)トウモロコシ 15億4,000万Bu(14億8,315万Bu、14億9,300万Bu)大豆 3億5,000万Bu(3億5,319万Bu、3億4,000万Bu)小麦 6億2,800万Bu(6億926万Bu、5億9,800万Bu)

・12月末四半期在庫 実績(前期末)トウモロコシ 116億738万Bu(116億4,700万Bu、12億3,500万Bu)大豆 31億4,900万Bu(31億2,781万Bu、2億5,700万Bu)小麦 13億9,000万Bu(14億1,496万Bu、17億7,400万Bu)

本日はリスクテイク再開で再びドル安基調となっていることから、穀物セクターにも広く買いが入ると予想される。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・実施が期待されていた1.75兆ドルの米税制・支出法案がマンチン上院議員の造反で成立しない、ないしは規模が縮小される場合(景気減速でリスク資産価格の下落要因に)。

・ロシアと西側諸国の軍事衝突のリスク(世界経済の減速要因)

・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

・資源価格上昇によるインフレや、米テーパリング・利上げ観測を背景とした新興国通貨安で新興国が想定以上のペースで利上げを行わねばならず、世界的に金融引き締めモードに転じた場合(リスク資産価格の下落要因)。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。

・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。

・ロシア・ウクライナ・ベラルーシ・欧州を巡る対立が激化し、軍事的な衝突が発生する場合(景気の減速を通じて景気循環系商品価格の下落要因)。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。

◆本日のMRA's Eye


「銅価格は上昇へ~想定よりも調整幅が限定される可能性」

12月の中国製造業PMIは50.3(前月50.1)と改善した。生産が51.4(52.0)とやや減速下が、原材料在庫(47.7→49.2)、完成品在庫(47.9→48.5)の増加などが水準を押し上げた。

景気は基本的には減速基調にあるため、在庫の積み上がりは必ずしも良い在庫の積み上がりとは言えない。また、投入価格(52.9→48.1)、卸価格(48.9→45.5)と低下しており、徐々に需給環境は緩和している。

実際、需給状況の指標である新規受注在庫レシオは、完成品が1.02(前月1.03)、原材料が1.01(1.04)と低下しており、中国の製品・原材料需給は緩和していると考えられる。

また、PMIは改善しているものの主に大企業(50.2→51.3)の改善によるもので、中小企業の景況感は悪化(48.5→46.5)している。中国製造業の景況感は決して良いとは言えない。

GDP対比での新規貸出の伸びを示す指標、「クレジットインパルス」は急速に水準を切り下げてきた。

クレジットインパルスとLME非鉄金属の間には比較的有意な相関性が見られるが、概ね借り入れ活動が先行し、それに遅効する形で非鉄金属価格が変動することが多い。

中国政府は年末の資金繰り悪化を回避するために預金準備率を引き下げ、不動産市場規制も緩和の方向に舵を切っている。しばらく景気の減速(調整)に伴う価格下落は続こうが、春先以降に、新規貸出が回復し、非鉄金属価格を押し上げる可能性は高い。

2021年末にかけて銅価格は調整圧力が強まった。銅価格の下落は、1.米国でテーパリングが始まり、早期の利上げの可能性も否定できなくなってきたこと、2.中国政府による不動産規制の強化、3.オミクロン株の発生に伴う経済活動の鈍化への懸念(ただしその他の変異株よりは影響限定)、4.電力供給再開による生産活動回復への期待、が材料。

しかしこの間、LME指定倉庫在庫は2000年以降の最低水準まで減少、上海在庫も過去5年レンジを大きく下回っており、供給が十分でないことは明らかだ。

昨年5月にコンゴのKamoa-Kakula鉱山が稼働を始め、今後も複数のプロジェクトの増産が見込まれているが、長期的には新規鉱山の開発案件は不足しており、十分な供給が確保できない可能性は高い。

また、LME指定倉庫在庫とLME銅価格の間には高い逆相関性があるが、現在の在庫水準は直近1年の最低水準であり、市場のモメンタムに変化があれば在庫水準からだけの判断だと、12,000ドルまでの上昇余地があることに(中国銅精錬業者の稼働率も過去5年の最低水準を回復していない)なる。

現在は、昨年10月頃からロングポジションを落として来た投機筋が、「インフレ・資源価格高は今年のテーマ」として、割高な株を回避して銅をはじめとする非鉄金属の投資ウェイトを高めている可能性が高い。

一方、主な公的需要である中国の電線向け投資は低迷していたが昨年後半にかけて加速しており、人民銀行が金融緩和(預金準備率を引き下げ)、習近平国家主席が不動産市場の規制緩和を指示、来年以降は米国でのインフラ投資が始まるとことを考えると、足下、価格は調整しているが北京オリンピック・パラリンピックが終了する春以降(全人代終了以降か)に、銅価格が上昇する可能性は高い。

ただし恐らく電力供給不足に伴う銅生産の減少が一服すること、利上げが予想されることから上昇ペースは緩やかなものになる見込み。


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