パウエル議長発言で材料一巡 買い戻し
- MRA商品市場レポート
2022年1月12日 第2110号 商品市況概況
◆昨日の商品市場(全体)の総括
「パウエル議長発言で材料一巡 買い戻し」
【昨日の市場動向総括】
昨日の商品価格はほとんどの商品価格が上昇した。注目のパウエルFRB議長の公聴会での発言で、「新しいタカ派的な内容」がなかったことで、目先の材料が一巡した、との見方が広がり長期金利が低下、ドル安も急速に進行したことが材料となった。
リスク資産価格が上昇して欲しい投機目的の市場参加者からすれば、昨日のパウエル議長発言がかなり都合良く解釈されたように感じる。しかし、利上げやバランスシートの縮小も行う方針を示しており、それほどハト派な内容ではない。
ただ、2023年頃まで続くとみられていたインフレ懸念は、昨年夏頃のトーンに後退、2022年中頃でインフレは収束するとの見通しを示している。このことは「それほどパウエル議長はインフレ抑制に積極的ではない」と見做された可能性はあろう。
現在のスタンスのままインフレ懸念が後退する、あるいはその兆しが見えてこない場合、1月のFOMCでテーパリングのペースのさらなる加速(これは難しいか)や3月利上げ、バランスシート縮小に関する発言が出る可能性はある。
しかしこのときも比較的穏健な発言を行った場合には、急速に巻き戻し(金融引き締め)を行う必要が出てくるため、年後半の調整リスクを高めることになるだろう。
【本日の見通し】
本日の商品価格は、昨日のパウエル議長発言を受けて「目先の材料一巡」感がなぜか市場で強まっていることもあり、総じて堅調な推移になると予想される。しかし昨日の上昇が顕著だったことから、朝方は一旦売りに押される展開になるのでは無いか。
本日予定されている材料で注目は米消費者物価指数。インフレの発生源は議論が分かれるところだが、恐らく供給制限による物価上昇の可能性が高く、オミクロン株の影響が継続する中では想定を上回る可能性がある。
その場合、「一旦火消しが終った」はずの米国市場が再び長期金利上昇によって逆転する可能性がある。
その意味で、時間的に織り込める商品とそうではない商品が分かれるが、FOMCの議論のたたき台となる米国時間の後場後半に発表されるベージュブックの内容は特に注目したいところだ。
12月米消費者物価指数 前月比+0.4%(前月+0.8%) 前年比 +7.0%(+6.8%) コア指数 前月比+0.5%(前月+0.5%) 前年比 +5.4%(+4.9%)
【昨日のトピックス】
オミクロン株の感染が拡大している。ほんの1週間前には水準が低かった日本も、気がつけば7日平均でコロナの感染者数は5,000人を超えている。
オミクロン株は致死率が低いが感染力は強い、ということで医療従事者が隔離されるなどの事態が発生し、医療崩壊に繋がりかねないため各国とも比較的慎重な対応をしてきた。
しかし、欧米は致死率の低さと経済優先の観点から対応を緩和しているとの印象を受ける。実際、発生源である南アフリカは昨年12月中旬にピークを付け、既に収束の兆しが見え始めている。感染力が強いが故に、かなり早い速度で集団免疫獲得に向かっているのではないだろうか。
期待通り収束してくれれば良いが、これから春先にかけて隔離によって労働力の確保が難しくなった場合、沈静化を期待しているインフレ収束が後ろ倒しになるリスクはある。
この場合、FRBの金融政策はよりタカ派にならざるを得ない。
【昨日のセクター別動向と本日の見通し】
◆原油
原油価格は大幅に上昇した。パウエル議長はこれまでのタカ派なトーンを維持したが、追加の材料が出てこなかったため一旦材料出尽くしと判断され、長期金利が低下しドル安が進行、株価も反発したことが材料となった。
引き続き、リビアからの供給制約(これは解消)による欧州地区の石油製品需給の逼迫や気温低下、DOE月報で示されたように、OPECプラスが想定通りの増産ができていないことが強く意識されている。
今後、コロナの影響が改善して移動制限が解除されれば、航空燃料需要が回復することが予想される。仮に、2019年基準に戻ったとすると、米国だけで現在の需要から25万バレル程度需要が増加することになる。
2019年の米国のジェット燃料消費シェアは17%であるため、単純計算でも150万バレル近い需要の増加となる。こうなると今のOPECプラスの増産能力、非OPECプラスの増産能力では供給が足りなくなる可能性は高い。
年後半にかけては経済活動の回復と景気刺激が行われる可能性があることを考えると、弊社が予想している70ドル前半まで下落した後、70ドル台半ばに上昇するという見通しはやや弱気過ぎるかもしれない。
本日は昨日の上昇幅が大きかったことから一旦売られると考えるがm昨日のパウエル議長の会見で新味がある発言が無かったことから市場はこれを楽観、リスク選好が回復しているため高値を維持する公算。
ただ、朝方発表されたAPI統計で原油在庫が▲1.1MBの減少となり、DOE予想の▲1.6MBを下回っているため、昨日の上昇が大きかったことから統計の内容次第では短期的な利益確定の売りに押される可能性も排除せず。
◆石炭・LNG・天然ガス
豪州石炭スワップ先物価格は小幅上昇して200ドルに迫る展開。世界最大の石炭輸出国であるインドネシアの禁輸は段階的に解除される見通しが示されているが、大規模な供給再開があるかどうかは本日見通しが示される予定。
ただ、北東アジアの気温低下や石炭在庫が低い状態に変化はないため、やはり冬場は高値維持の見込み。
中国の石炭輸入の指標の1つであるバルチック海運指数は小幅に下落したが、同じ時期の過去5年の最高水準を上回った状態が続いている。
欧州天然ガス価格は下落した。米国からのLNGカーゴ供給増加観測が価格を押し下げた。なお、ロシアからの輸入は再開していない。反対に米国天然ガスは欧州向け輸出増加や200日移動平均線のレジスタンスを上抜けしたこと、気温低下予想で上昇、ややアービトラージウィンドウが縮小しつつある。
しかし、欧州のガス在庫の減少は続いており、かつ、ウクライナ情勢の影響もあってか(恐らく欧州側がロシアからの購入の意図がない)、ロシアからのガス供給は低迷しており、価格は下支えされやすい。
この状況が続けば、春~夏までに十分なガス在庫を確保できずにガス価格が高止まりする展開は、よほど冬が暖かく無い限り最早メインシナリオではないか。
なお、フランス・ドイツの原発稼働率は非常に低い状態。仏EDFは1,500MWのChooz-2原子炉の稼働再開を4月20日まで延期することを決定しており、域内の電力供給の懸念材料に。
JKMは欧州天然ガスの低下もあって小幅に水準を切下げた。これにより、2022年のガス価格は25ドルを割り込む水準に。しかしそれでもスポットLNG価格の水準は高い。
2022年1月3日~1月9日のLNG輸入は前週比+10%の920万トンとなった。うち、スポット取引のシェアは36%(前週29%)と上昇した。主に、北欧向けの輸出が増加したことが影響た。
一方、スエズ以東・以西ともタンカーレートが大幅に低下し、過去5年の最低水準を下回っている。しかしこれは足下の価格水準とは整合が取れておらず、引き続きタンカーレート動向は注視が必要だ。
本日の石炭価格はインドネシアからの供給の段階的再開を受けてやや軟調に推移するとみるが、アジア太平洋地区の需給逼迫の状況に変わりは無いため高値維持の公算。
天然ガス価格は欧州の在庫水準が低い状態に変わりは無く、ロシアからの供給も増加していないため、高値を維持。
◆非鉄金属
LME非鉄金属価格は大幅に上昇した。FRB議長の議会証言で追加的にタカ派的な発言が出なかったことや、それに伴う株価の上昇、長期金利の低下に伴うドル安の進行、LME指定倉庫在庫減少、といった強気な材料が多かったため、昨年11月頃からロングを手仕舞っていた投機の買いが、新年度入りして新たに入ったことが影響したとみられる。
非鉄金属の投機筋ポジション動向(1月7日時点)を見ると、ネットロングが減少したのは銅のみであり、その他はネットロングを大きく増加させている。新年度入りし、鉱物資源インフレが意識される中で新しく買いポジションを積み上げる動きが診られているようだ。
なお、2021年の中国全国乗用車市場情報連合会が発表した2021年の自動車総販売台数は前年比+4.5%の2,050万台、そのうちEVは244万台となっており、徐々にEV車のシェアが伸びている。しかしニッケル市場需給をタイト化させるほどの市場規模増加にはもう少し時間が掛るだろう。
しかし、「期待」が投機を動かしているのも事実であり、こうしたニュースは脱炭素系の金属(銅、ニッケル、アルミなど)価格を押し上げよう。
本日は昨日の上昇幅が大きかったこともあって一旦調整売りで下落すると考えるが、パウエル議長発言で市場の楽観が回復していること、LME指定倉庫在庫の減少を受けて投機が買いに動いていることが価格を押し上げていることから、高値は維持する公算。
◆鉄鋼・鉄鋼原料
中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭先物は上昇、上海鉄鋼製品先物は直近限月が下落、中心限月が上昇した。
ブラジルの豪雨による鉄鉱石供給の減少観測を受け、高品位鉱石価格は上昇することになった。鉄鋼製品は先物が上昇しているが、年明け以降の中国の生産活動が、オリンピック・パラリンピックの影響で鈍化するとの見方から、現物価格はやや軟調。
本日も鉄鋼製品生産減少を背景とする鉄鋼製品価格の高止まりと、ブラジルからの供給減少観測を受けて、鉄鋼原料価格は高値を維持すると考える。
◆貴金属
昨日の貴金属セクターは金銀が上昇、PGMも上昇した。注目のパウエル議長の公聴会での発言が「追加的にタカ派な発言が無かった」ことを受けて長期金利が低下、実質金利も低下、金利低下を受けてドル安が進行したことが材料。
現在の金基準価格は1,604ドルに上昇、リスク・プレミアムは218ドルとやや下落。銀価格は金価格の上昇を受けて水準を切り上げた。なお、金銀レシオは80倍で、価格上昇時の上方向への感応度は高い。
PGMは金銀価格の上昇と株価の上昇で同様に上昇。プラチナの上昇が目立った。
本日は米金融引き締めへの過剰な警戒がやや後退する中で上昇余地を探る展開に。株価が戻っていることからPGMの上昇は大きくなるものと予想される。
◆穀物
シカゴ穀物市場は上昇。パウエルFRB議長の公聴会での発言が追加的にタカ派ではなく、ドル安が進行したことで買いが入った。
そもそもチャートのレジスタンスラインを上抜け、小麦などは在庫の水準が低いため買いが入りやすい環境にあることも価格を押し上げた。
本日は、パウエル議長の発言を受けて市場でリスク選好が回復しているため、ドル安バイアスが強まることから上昇余地を探る動きに。
※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。
【マクロ見通しのリスクシナリオ】
・実施が期待されていた1.75兆ドルの米税制・支出法案がマンチン上院議員の造反で成立しない、ないしは規模が縮小される場合(景気減速でリスク資産価格の下落要因に)。
・ロシアと西側諸国の軍事衝突のリスク(世界経済の減速要因)
・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。
・資源価格上昇によるインフレや、米テーパリング・利上げ観測を背景とした新興国通貨安で新興国が想定以上のペースで利上げを行わねばならず、世界的に金融引き締めモードに転じた場合(リスク資産価格の下落要因)。
・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。
・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。
・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。
・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。
・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。
・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。
逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。
・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。
・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。
・ロシア・ウクライナ・ベラルーシ・欧州を巡る対立が激化し、軍事的な衝突が発生する場合(景気の減速を通じて景気循環系商品価格の下落要因)。
・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。
2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。
・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。
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