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米FRBタカ派スタンス維持観測で続落
  • MRA商品市場レポート

2022年1月11日 第2109号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「米FRBタカ派スタンス維持観測で続落」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は総じて軟調な推移となった。先日から続くFOMC議事録が非常にタカ派であったことを受けた、長期金利の上昇や業績悪化、不動産セクターの減速懸念が材料となり、株安・リスク資産安の流れが続いているため。

また、オミクロン株の感染が拡大しており、医療崩壊への懸念が欧米で強まっていることも売り材料となった。しかし、ニューヨーク市では既にオミクロン株の感染拡大がピークアウトした(過去最大の感染者数がピークを打った)可能性が意識されており、感染拡大による需要減少・価格下落の影響は徐々に緩和することが期待される。

昨日最も上昇したのは米天然ガス。米国の気温低下見通しや、欧州向けの輸出増加が意識された。逆に最も下落したのが欧州排出権と欧州天然ガス。供給不足は強く意識されているものの、景気の先行き自体への影響が懸念されていると考えられる。

ウクライナとロシアの問題に関して米露がジュネーブで会談を行ったが、予想通り平行線で急に収束する感じではない。ただ実際に武力衝突となるリスクは大きく無いとみている(詳しくは昨日のトピックスをご参照ください)。

【本日の見通し】

本日はFOMCメンバーがタカ派に転じていること、本日も複数のFOMCメンバーの講演が予定されており、突如ハト派に転じる可能性も高くないと考えられることから、軟調な推移となる商品が目立つとみている。

【昨日のトピックス】

米露のウクライナを巡る協議が行われたが、NATOの東方拡大を法的に制限することを要求するロシアと、ウクライナの緊張緩和を第一に主張する米国との隔たりが大きく、話し合いは平行線に終った。

ロシア側はウクライナを攻撃する意図はないとしているが、恐らくこれは本当だろう。というのも仮に攻撃をしたとしても、今まで以上の制裁が欧米から科される(場合によるとノルドストリーム2も認められない可能性)、仮にキエフを陥落させたとしても、ロシアの財政・軍事力ではウクライナ支配を維持することは難しい(中国まで参加して援助すれば話は別だろうが...)ことが理由だ。

ロシアが軍事侵攻圧力を強めている背景に、NATO軍がウクライナに侵入していることもあるが、恐らく支持率が下がっているゼレンスキー大統領が、ロシアの武装勢力が実効支配しているルガンスク州(およそ3分の1が実効支配される)、ドネツク州(半分)を奪還し、支持率回復を図っていることが背景にあるとみられる。

これらの地域はロシア語を日常語とする自身がロシア人だと考えている人達が多い地域であり、仮にここが軍事的にウクライナに奪還されると、ロシア人からの反発も有り得る。

となると、1.ウクライナ東部地区の独立可否を問う住民投票の実施、または、2.ウクライナ政府による東部ヘの軍事侵攻停止、のいずれかが達成される必要がある。弊社は、1.を最終目標とみていたが、恐らく2.が落とし所なのではないだろうか。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は下落した。米株が金利の上昇を背景に調整を続けていることで、主に投機筋と見られる利益確定の動きが強まったことが背景。

また、選挙の先送りで国内での暴動発生が強く意識され、悪天候の影響で輸出が停止していたリビアからの供給回復報道も材料となった。

本日も株価動向を睨みながら軟調な推移が予想されるが、オミクロン株の影響がニューヨークでピークを打った兆候が見られることを考えると下落余地は限定されると考える。目処はBrentで780ドル程度。

◆石炭・LNG・天然ガス

豪州石炭スワップ先物価格は高値を維持し、200ドルに迫る展開。世界最大の石炭輸出国であるインドネシアの禁輸と北東アジアの気温低下が材料となっている。

しかし、報道ベースではインドネシア政府は業界団体や海外からの要請を受けて段階的に石炭輸出を再開しており、この水曜日に大量に輸出を再開するか否か判断するとされている。仮に認可されれば価格は下押しされることになろう。

中国の石炭輸入の指標の1つであるバルチック海運指数は小幅に下落したが、同じ時期の過去5年の最高水準を上回った状態が続いている。

欧州天然ガス価格は下落。やや気温低下に落ち着きが見られることや、LNGカーゴの流入期待が材料になった。チャートを見るに陰線が増えており、上値が重くなっていることを示唆している。

しかし、欧州のガス在庫の減少は続いており、かつ、ウクライナ情勢の影響もあってか(恐らく欧州側がロシアからの購入の意図がない)、ロシアからのガス供給は低迷しており、価格は下支えされやすい。

なお、ヤマルパイプライン経由でのガス供給は昨年12月31日からゼロの状態が続いており、1月9日時点の統計でも回復は確認されていない。

この状況が続けば、春~夏までに十分なガス在庫を確保できずにガス価格が高止まりする展開は、よほど冬が暖かく無い限り最早メインシナリオではないか。

実際、こうした需給のタイト化を織り込んでか、2022年のガス価格は高いままである。この状況を打破するため、EUは「原発をクリーンエネルギー」に分類することに舵を切った(ドイツは反対。ただしガスは容認)。

なお、フランス・ドイツの原発稼働率は非常に低い状態。仏EDFは1,500MWのChooz-2原子炉の稼働再開を4月20日まで延期することを決定しており、域内の電力供給の懸念材料に。

JKMは欧州天然ガスの低下もあってやや水準を切下げた。30ドルを目指す展開となっていた2022年のガス価格は再び25ドル程度まで低下した。しかし、25ドルが下値となっており、2022年のスポットガス価格の水準は高止まりする可能性が高い。

一方、スエズ以東・以西ともタンカーレートが大幅に低下し、過去5年の最低水準を下回っている。しかしこれは足下の価格水準とは整合が取れておらず、引き続きタンカーレート動向は注視が必要だ。

米天然ガス価格は気温が温暖になるとの見通しが一転、気温低下が予想されていること、欧州向けのLNG輸出増加で水準を切り上げ、200日移動平均線のレジスタンスを上抜けた。

本日の石炭価格はインドネシアからの供給一部再開を受けてやや軟調に推移するとみるが、アジア太平洋地区の需給逼迫の状況に変わりは無いため高値維持の公算。

天然ガス価格は欧州の在庫水準が低い状態に変わりは無く、ロシアからの供給も増加していないため、高値を維持。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は高安まちまち。投機の対象となりやすい銅は株価の調整もあって下落、銅価格の影響を受けやすい亜鉛・鉛も下落した。

一方、アジア周りの石炭供給不足や欧州の電力供給制約を材料にアルミ価格は上昇、似た値動きとなりやすいニッケル、錫は上昇した。アルミ・ニッケルについてはインドネシアのジョコ大統領が改めて禁輸見通しを示したことも材料視されている。

本日も米FOMCメンバーの講演が複数予定されており、パウエル議長の再任に関する公聴会が行われる見通しであり、タカ派な発言があるか否かに影響を受け、神経質な展開を継続の見込みだが、基本、米金融政策はタカ派に舵が切られているため、下落要因となる見込み。。

ただ、LME指定倉庫のオフワラント率は、アルミやニッケルで再び40%台となっており払い出しの増加が需給をタイト化させ、価格を下支えするだろう。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは下落、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭先物は上昇、上海鉄鋼製品先物は直近限月が下落、中心限月が上昇した。

旧正月以降の需要増加が期待されるものの、天津市でオミクロンの症例が発表され鉄鉱石輸入需要が鈍化すると見られたことが鉄鉱石価格の下落要因となった。

一方、原料炭はインドネシアからの禁輸(近々解除の可能性も)やオミクロンの影響による生産減少などが意識された形で上昇。

中国鉄鋼協会は、2022年の中国の鉄鋼需要は2021前年比で横這いとなる見通しを示した。不動産セクターは下押し圧力に晒されているが、インフラ投資が増加する見通しであることが需要を下支えするとの見方。

本日も鉄鋼製品生産減少を背景とする鉄鋼製品価格の高止まりを受けて、鉄鋼原料価格は高値を維持すると考える。ただし、オミクロン株の影響による生産活動鈍化観測が強まっており、海上輸送鉄鋼原料価格には下押し圧力が掛りやすい。

◆貴金属

昨日の貴金属セクターは金銀が上昇、PGMが下落した。金銀は米長期金利が引けに掛けて低下し、実質金利の水準が低下したことが材料となった。ただし、欧州・ロシア情勢不安を背景にリスク・プレミアムが上昇している影響の方が大きい。

現在の金基準価格は1,577ドルまで低下、一方、リスク・プレミアムは224ドルまで上昇している。

銀価格は金価格の上昇を受けて水準を切り上げた。なお、金銀レシオは80倍まで上昇しており、金価格の上昇に銀価格がついて行けない(工業向け需要の回復期待の後退)状態。PGMは株価の調整もあって比較的大きな下落となった。

本日は米金融政策がタカ派に転じているが、株価に反転の兆しが見られることから、金銀は下落、PGMは上昇する展開を予想。

◆穀物

シカゴ穀物市場はまちまち。トウモロコシ・大豆は200日移動平均線を挟む攻防が続いており、ドル高進行もあって昨日は水準を切下げた。

小麦もテクニカルな売買が主体だが、ロシア・ウクライナ問題を背景とする輸出への懸念や、そもそも在庫の水準が低いことに伴う供給面のタイトさが意識されて高値圏での推移となっている。

本日は、複数のFOMCメンバーの講演が予定されているが、恐らくタカ派なスタンスの発言が維持される可能性が高く、ドル建て資産である穀物価格の下落要因に。ただし供給面の制限も続いているため、高値維持の公算。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・実施が期待されていた1.75兆ドルの米税制・支出法案がマンチン上院議員の造反で成立しない、ないしは規模が縮小される場合(景気減速でリスク資産価格の下落要因に)。

・ロシアと西側諸国の軍事衝突のリスク(世界経済の減速要因)

・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

・資源価格上昇によるインフレや、米テーパリング・利上げ観測を背景とした新興国通貨安で新興国が想定以上のペースで利上げを行わねばならず、世界的に金融引き締めモードに転じた場合(リスク資産価格の下落要因)。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。

・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。

・ロシア・ウクライナ・ベラルーシ・欧州を巡る対立が激化し、軍事的な衝突が発生する場合(景気の減速を通じて景気循環系商品価格の下落要因)。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。

◆本日のMRA's Eye


「材木価格とインフレリスク」

材木価格がインフレを助長するリスク

10月の段階で下落に先行き下落を予想していた材木価格は再び上昇し、上昇余地を探る展開となっている。価格上昇の背景は供給面・需要面の両要因によるものである。

供給については、昨年の秋口からラニーニャ現象が再び発生し、特に北半球に大きな影響が出ているが、材木の一大産地であるブリティッシュ・コロンビア州の洪水でカナダからの供給に制限が出た影響は大きく、11月中旬から価格は上昇を始めた。ブリティッシュ・コロンビア州は北米の材木供給の約14%を占める重要な生産地だ。

材木市場の需給バランスに関するタイムリーな統計は存在しないため、足下の需給バランスを判断する上では、直近限月と第二限月の価格差(タイムスプレッド)の変化が重要な判断材料となる。

材木のタイムスプレッドは2020年にコロナショックが発生し、ロックダウンの影響で物流に障害が発生し、景気刺激のための金融緩和や財政出動、より「密ではない環境」を目指して郊外への住宅シフトが起き始めた2020年の夏以降、直近限月価格が第二限月価格よりも高い「バックワーデーション」の状態となった。

しかし、米FRBによるテーパリングへの意識が高まった2021年5月頃から急速にコンタンゴに転じた。これは米国の金融緩和が終了する可能性が意識される中で長期金利が上昇し、住宅セクター向けの需要が減少するとみられたことが背景である。

しかし上述の洪水の影響で期間構造は再びバックワーデーションになった。供給面が意識されたことは明らかである。とはいえ、需要が弱ければ供給が減少してもバックワーデーションにはなり難い。

つまり、米国がテーパリングに舵を切っているものの、需要を満たすだけの材木供給が行われていないことを示唆している。

米住宅セクターの先行指標である中古住宅市場の在庫水準を見ると2007年10月をピークに減少を続けており、現在の水準は統計発表以来の最低水準で推移している。

恐らく建設作業員がコロナの影響もあって不足しているほか、やはりコロナの影響で建築資材が十分に確保されていないためと考えられる。十分な住宅が供給されるには数ヵ月の時間を要するためこの状態は続き、材木価格をしばらくの間、高止まりさせるだろう。

しかし、それでも材木価格は下落に転じると考えている。というのも現在、米政府、米FRBを悩ませているインフレ要因の1つに、住宅の賃料価格の上昇が上げられ、このまま材木価格が上昇すれば消費者物価がさらに上昇し早急な金融引き締めを余儀なくされる可能性があるからだ。

ニワトリ・タマゴの議論になるが、材木価格の上昇がインフレを助長し、金融引き締めを通じて住宅セクターが鈍化、ブーメランのように材木需要に跳ね返り価格が下落するという構図だ。

消費者物価に影響を及ぼす家賃は、中古住宅価格の変動から数ヵ月の時間差を以て変動する傾向がある。既に住宅価格の上昇ペースは鈍化し始めているため、数ヵ月後にインフレに下押し圧力を掛けると期待されていたが、足下の材木価格の上昇によって再び住宅価格が上昇して家賃が上昇、インフレ率が上昇して今年の3月に終了する予定のテーパリングの後、速やかに利上げの必要が出てくるかもしれない。

住宅販売は長期金利の影響を強く受けるため、利上げが市場が期待している年3回ではなく、4回になる可能性も十分に有り得、その場合、住宅セクターの減速を通じて材木価格は下押されることになろう。

また、中国の不動産セクターバブル抑制の動きも継続しており、ここまでの報道を見るに目処が立ったと期待されていた恒大集団問題もまだ片付いていないようだ。このことは、中国の住宅セクターバブル沈静化が簡単ではないことを意味し、中国の住宅建設の伸びを鈍化させ、材木需要を押し下げることになると予想される。

以上を整理すると、足下は供給面や住宅供給の不足で材木価格は高値を維持するものの、米国の利上げが意識され始める今年3月以降、一旦価格は調整する可能性が高いと考えられる。


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