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中国勢市場復帰で鉱物資源価格高い
  • MRA商品市場レポート

2022年2月8日 第2129号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「中国勢市場復帰で鉱物資源価格高い」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は中国勢の市場復帰に伴い、同国の在庫積増しに伴って鉱物資源価格が上昇したが、その他の商品価格の動きはまちまちとなった。

米国の金利は短期ゾーンが低下してドル安となる一方、長期金利は上昇して株価にマイナスの影響を与え、ドル安に伴うドル建て資産の名目価格上昇と、株価調整によるリスクオフが相殺される形になったと考えられる。

確実なことは、冬場であり燃料需要は旺盛なこと、この状況においても米利上げは敢行される見通しであり年4回を織り込み、場合によると5回の利上げが有り得ること、欧州も利上げに舵を切りつつあること、であり、このペースでの利上げが行われた場合、年後半の景気回復はかなり抑制されることになる点だ。

この循環的な景気減速を回避するために各国の経済対策実施が見込まれてきたが、米国でビルドバックベター法案が頓挫するなど当初の期待ほどではなくなっている。

となると、供給不安が商品価格を高値に維持するものの、「基準」となる需要が当初期待していたほどにはならなくなるリスクは意識すべき時期に来ているのではないか。

【本日の見通し】

本日もウクライナ情勢、金融政策動向を睨みつつ神経質に高値圏でもみ合う商品が多いと考える。

結局の所、金融政策は価格を下押しする方向に、政治的・季節的な要因は供給面を通じて価格を押し上げる方向に作用し、高値でもみ合うということである。

本日予定されている材料で注目は米3年債入札。1月の入札は、520億ドルの発行総額に対して、応札倍率は2.47倍(12月2.43倍)と堅調だった。

【昨日のトピックス】

先ほど終了したロシアとフランスの首脳会談は想定通り平行線で終った。会談は5時間を超え、マクロン大統領は「過去の過ちを繰返してはならない」と外交的解決を提案したが、プーチン大統領は「NATOの不拡大など、安全保障の要求が西側諸国に無視されている」とし、両者の間に歩み寄りは見られなかった。

ただし、協議を続ける方針が確認されたことで将来への若干の安心感をもたらす会談となった。

フランスが比較的ロシアに対して強気で当たることができる背景には、発電燃料に占めるガス火力の比率が低いことも挙げられる。IEAのデータでは2020年時点でフランスのガス火力は6.6%だが、EU28ヵ国の平均は28.7%と比較すると段違いに少ない。原子力が66.5%(EUの2020年データは公表されていないため、2015年基準だと26.4%)と高いことによる。

ちなみに、石炭火力の比率は1.0%と、EUの16.6%よりも遙かに少ない。石炭もロシアの有力な戦略資源である。

これに対してドイツはガス火力が17.1%、石炭が25.5%、原子力が11.1%。依然、石炭依存が高い。なお自然エネルギーは風力が22.5%と大きく、気象の影響をより受けやすい構造に転換していることがうかがわれる。

ただし、フランスも家庭用にガスは使っており、BPデータではガス消費量はドイツ、英国、イタリア、トルコ、に次ぐ5番目の消費国である。ただ、フランスはノルウェー、オランダ、アルジェリア、ナイジェリア、からパイプラインやLNGで輸入をしており、ロシアの依存度は低い。

結局、「再生可能エネルギーが枯渇した際に、地政学的な影響を受けない熱源」を確保する必要が出てくる。ガスや石油の場合はロシアの影響を回避できないため、消去法的に原子力、ということになる。

しかしこうした状況を見越し、ロシアのガスプロムの役員にドイツの元首相であるシュレーダー氏が推されており、6月30日の総会で選任される見通しである上、ノルドストリームの運営会社である「ノルドストリーム」の株主委員会会長を務めるなど、実はロシアとドイツの関係は浅くない。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格はもみ合った結果、前日比マイナスで引けた。イランへの制裁解除の期待などが材料とされたようだが、それよりはロシア・ウクライナ情勢にさほど変化がないこと、2月10日の軍事演習が近いこともあって一旦、利益確定の売りを入れたという方が正確だろう。

なお、投機筋は2月1日時点のCFTCのポジション報告ではロングを手仕舞い、ショートを積み増している。これはWTIが150ドルをつけた時に見られた動きと同じであり、一方で実需のショートの買い戻しの影響が大きい。

その観点ではロシア情勢が落着けばピークアウトして下落するだろうが、仮に軍事行動があればかつてのWTIと同様に急騰する可能性は高まっているといえる。

本日もウクライナ情勢、イラン情勢に大きな変化は恐らくないと思われる中、為替動向に左右され高値圏でのもみ合いになると考える。為替を動かす材料としては米3年債入札動向に注目したい。

なお、DOE月報が発表されるが、足下のロシア情勢を受けてどの程度供給見通しに変更があるか、この状況で米国の原油生産見通しがどの程度上方修正されるかに注目したい。

◆石炭・LNG・天然ガス

豪州石炭スワップ先物価格は上昇して240ドルを目指す展開。中国勢の市場復帰による買いが入ったとみられる。

また、欧州のガス不足で欧州向けにも石炭が物色されていることが材料となった。中国の石炭輸入の指標の1つであるバルチック海運指数は小幅に下落。

欧州天然ガス価格は小幅に下落。気温が温暖になるとの見通しと、Velke Kapusany(ロシア→ウクライナ→スロバキアのウクライナ・スロバキア間のターミナル)のガス流量の増加が再び増加していることで需給緩和期待が強まった。

なお、外貨を獲得したいロシアが欧州向けのガス提供を停止することは考え難く、恐らく欧州側がウクライナ問題もあってロシアにガスを要求していないと考えられるが、ロシアへのガス依存が高いことからパイプラインのフロー状況は重要な価格変動要因となる。

仏独の原発の稼働率は低下しており、引き続き冬場の電力供給状況は不安定。

米国天然ガスは続落。暴風の影響が緩和して生産量が回復したことが材料となった。

JKMは欧州ガスが下落したことで小幅に下落も高値は維持。JKMの期間構造は期近がコンタンゴとなっており、足下のアジアの需給は緩和しているが、期先の水準は下落しておらず、まだ、ロシア問題がくすぶっている状況。

スエズ以東・以西ともタンカーレートは低下している。

本日の石炭価格も新規手がかり材料に乏しいが、休み明けの中国勢の買いで上昇余地を探る展開に。

天然ガス価格はロシア情勢に大きな進捗がなく、高値でのもみ合い継続。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格はまちまちとなった。マクロ経済統計の影響を受けやすい銅と、供給不足で高値が続くスズには一旦利益確定の売りが出たとみられるが、その他の金属は、継続する電力供給不足、休み明けの中国勢の買いによって上昇余地を探る動きとなった。

本日も目立った新規材料に乏しいが、中国勢の買いが続くと見られること、発電燃料価格の高値維持、ロシアに対する制裁への懸念は引き続き根強く、積極的にショートを積みにくいこともあって高値圏での推移を継続の公算。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは大幅に上昇、豪州原料炭スワップ先物は下落、大連原料炭価格も下落、上海鉄鋼製品先物は上昇した。

休み明けの中国勢の買い圧力の強まりを受けて、鉄鋼製品価格が上昇、それに連れる形で鉄鋼原料価格も高値を維持した。

なお、鉄鋼製品価格の上昇で過去データを元にした鉄鉱石の推計値は145.3ドルに上昇、原料炭価格の推計値は195.6ドルで変わらず。

本日も休み明けの中国勢の買いで高値維持の公算。

◆貴金属

昨日の貴金属セクターは金銀が上昇、PGMが下落した。金は実質金利の上昇はあったため基準価格は1,491ドルまで低下したが、リスク・プレミアムが329ドルと前日から+15ドル上昇したため、高値維持となった。

銀価格は金銀レシオが80オーバーとなって割安だったこともあって、再びトレーディングタッチで物色された。

PGMはロシア情勢はあるが、昨日は引けに掛けて株が下落したことに反応して上げ幅を削り、結局前日比マイナスで引けている。

本日もウクライナ情勢不安を背景に金銀は高値を維持し、PGMには下押し圧力が掛る展開が予想される。しかし、金が高値を維持する見通しであり、結局貴金属セクター全体は高値を維持しよう。

為替の影響が小さくなくなっているため、本日の米国3年債入札動向は注目したい。

◆穀物

シカゴ穀物市場は上昇した。ファンダメンタルズは買い材料が多く、先週の下落と足下のドル安進行で買いが入った。

引き続き、アルゼンチンやブラジルの大豆・トウモロコシの生産減少観測が供給不安を高め、ロシア・ウクライナ情勢不安が小麦・トウモロコシの供給不安を高めている状況。

明日発表の需給報告の市場予想は以下の通り。

・1月米需給報告在庫見通し市場予想(前月)トウモロコシ 14億9,819万Bu(前月15億4,000万Bu)大豆 3億1,567万Bu(3億5,000万Bu)小麦 6億3,381万Bu(6億2,800万Bu)

需給ファンダメンタルズがタイトな中、為替動向に左右される展開を予想。米3年債入札結果を受けた為替動向に注目。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・米国経済が正常化する中で金融引き締めが加速、経済をオーバーキルしてしまった場合(価格下落要因)。

・ロシアと西側諸国の軍事衝突のリスク、それに乗じて中国が台湾に侵攻するリスク(世界経済の減速要因)

・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。

・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。

・ロシア・ウクライナ・ベラルーシ・欧州を巡る対立が激化し、軍事的な衝突が発生する場合(景気の減速を通じて景気循環系商品価格の下落要因)。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。

◆本日のMRA's Eye


「足下はシリア危機並みの緊張感」

金価格の高値で推移が続いている。金は物価上昇時、インフレのリスクヘッジのために、物価連動国債との比較感で物色されるため、米10年国債利回りと、米インフレ率の差で求められる実質金利が上昇する中では売られ、実質金利が低下する中では買われるという傾向があることはこのコラムで何回か紹介させてもらっている通り。

金の基準となる米国10年期待インフレ率は昨年から急速に上昇しており実質金利を押し上げて、金価格の下押し要因となっている。

FRBは量的緩和の投資対象に物価連動債も含んでいたがこれも停止していくことになるため需給が緩和しているためと考えられる。10年国債利回りは金融政策の影響を強く受けるため、物価連動債と同様、FRBのバランスシート縮小が進むならばさらに上昇する可能性は高い。

なお、簡単な感応度分析を行うと、この1年のデータを元にすれば、名目金利の1bpの上昇は金価格を2.7ドル押し下げる。実質金利の上昇の場合3.3ドルとなる。

米国債の利回りは2%が目前であり、仮にあと10bp上昇すれば、金価格は概ね▲30ドル程度下落することになる。この場合の基準価格は1,460ドルだ。

これに金の場合はリスク・プレミアムが上乗せされて価格が決まる。仮に過去1年の水準を基準とすれば170ドル、5年を基準にすれば187ドルであるため概ね180ドル程度のリスク・プレミアムが平均的だ。結果、金の価格は1,740ドル程度が足下、妥当な水準といえるだろう。

しかし、実際、金価格はこれよりも高い1,800ドル台で推移している。これは「安全資産としての需要(実質金利以外の要因)」が見込まれているためとみられる。

リスク・プレミアムを算定する場合、どこかの期間を基準にする必要があるが、弊社は比較的地政学的リスクが大きく無かった2016年を基準にリスク・プレミアムを算定している。

これを基準とすると、現在の水準はシリアで化学兵器が使われた疑惑が指摘された時期の水準まで上昇している。米オバマ政権が「レッドライン」と位置づけた行為だ。

つまり、この時と同じであればかなり軍事行動のリスクが意識されているといえるだろう。ただ、足下のプレミアムには米国やEUの金融引き締めの影響で新興国の地政学的な不安が高まり、かつ、財政的も問題が生じるとみられる。実際、新興諸国の5年CDSのスプレッドは上昇している。

ウクライナ攻撃に関しては、実際にはプーチン大統領がどのように判断するかに依拠し、既にやろうと思えば攻撃できる状態にはあると考えられるものの、戦争に発展するかどうかを市場がどのように考えているかを見る上で、このリスク・プレミアムについては注目する必要があろう。


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