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タカ派FOMC議事録の余波継続で軟調
  • MRA商品市場レポート

2022年1月7日 第2107号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「タカ派FOMC議事録の余波継続で軟調」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は総じて軟調な推移となった。FOMC議事録がタカ派であり、バランスシートの縮小まで踏み込んだ内容だったことから昨日も米長期金利の上昇が続き、株価も調整したことが材料となった。

一方、エネルギーセクターは軒並み上昇。カザフスタンで暴動が発生し、OPECプラスメンバーである同国からの供給懸念が強まっていること、リビアの供給問題、インドネシアからの石炭供給停止が引き続き材料になっている。

エネルギーに関しては供給面が材料になっているが、エネルギー供給制限が続くと、次は工業金属セクターの生産にも影響が及ぶため、エネルギーセクターの供給問題が再度、景気減速の中での商品価格上昇に繋がる点はリスクといえる。

また、食品価格(特に油脂価格)の上昇が財政的に不安定な国々の治安を悪化させ、カザフスタンやアフリカ諸国のような暴動発生に繋がるリスクも無視できない。

今のところロシア・ウクライナ、カザフスタン問題が意識されているが、「北京オリンピックが終り、習近平国家主席が第三期を確実にする」まで台湾侵攻はない、というのが市場のコンセンサスである。

しかし、孫子の兵法にもあるように、「備え無きを攻めその不意に出ず」。欧州が混乱してイラン問題も頓挫し、米国が手一杯のこのタイミングで不意に中国が台湾に侵攻する可能性も意識すべき段階にさしかかっていると考える。

【本日の見通し】

本日はFRBがよりタカ派に転じており、長期金利の明確に上昇圧力が掛っていることから基本、軟調な推移になると考える。ただし週末を控えたポジション調整で買い戻される商品も多いと見られ、基本は軟調地合の中でレンジワークとなるだろう。

本日注目は米雇用統計。市場予想は+44.7万人の雇用者数増加(前月+21.0万人)を見込んでいるが、それ以上に平均時給の伸び(市場予想+4.2%、前月+4.8%)に注目している。

今のところ米国の金融政策がタカ派に転じていることは織り込み済みであるが、仮に賃金上昇率が市場予想を上回った場合や前月を上回った場合、テーパリングやそれから先の金融引き締めのペースが加速する、との観測を強めるため特に景気循環系商品やインフレ系資産価格の下落要因となる点には注意。

【昨日のトピックス】

カザフスタンで燃料価格の上昇に不満を持った住民の抗議活動が広がって暴動に発展、全土に国家非常事態宣言が発令され、複数の国民が死亡した。

暴動の激化を受けてカザフスタンのトカエフ大統領は旧ソ連諸国で形成される「集団安全保障条約機構(CSTO)」に支援を要請。

CSTOは1992年に旧ソ連諸国によって結成された、安全保障・領土保全を目的とした条約機構であり、ロシア、アルメニア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタンの7ヵ国で構成されている。

同機構は、NATOに対抗するためにロシアが中心となって設立された組織。

カザフスタンはロシア南部の大国で、ナバルザエフ前大統領が独立後、大統領を務めていた。しかし2019年に突如辞任し、自身の腹心であるトカエフ大統領に禅譲した。ところが引退後も「院政」を行い、権力をほしいままにしたため、国民からの反発が強かったようだ。

カザフスタンはロシア・中国との関係を重視し、次いで欧米、日本とも等距離外交を敷いている。

主要産業は石油・天然ガスなどの天然資源で、直近12ヵ月の中国の同国からの天然ガス輸入シェアは9.7%に達する。仮にガス供給に影響が出た場合、アジアも影響を受けることになるが、今のところそこまでの事態にはならないだろう。

なお、ウランの埋蔵量は世界1位であり、EUが原発をクリーンエネルギーと位置づける中で、同国の重要性は高まることが予想される。

このように、エネルギーや食品などの生活に必要な物資の価格上昇は特に新興国での暴動につながりやすい。2022年は各地でこのような暴動が発生するリスクが小さくない。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇した。カザフスタン情勢が混乱する中、同国の原油のロジスティクスに影響が発生、供給懸念が強まったことや、異常な気温低下で米国のKyestone Pipelineの稼働が停止したこと、リビアでのパイプライン損傷や一部の油田の操業停止による供給懸念が材料となった。

最大消費国である米国の需要が堅調であるほか、気温低下による暖房油需要も旺盛であることが、世界的な金融引き締めバイアスの強まりがあるにもかかわらず原油価格を押し上げている。

本日は米雇用統計などの発表があるが、足下の市場は供給面にフォーカスをしているため高値維持の公算。ただし週末ということ、ドル高進行もあり利益確定の動きで結局下落する展開を予想。目処はBrentで80ドル程度。

◆石炭・LNG・天然ガス

豪州石炭スワップ先物価格は上昇して200ドルに迫る展開。世界最大の石炭輸出国であるインドネシアの禁輸、北東アジアの気温低下が材料となっている。

中国の石炭輸入の指標の1つであるバルチック海運指数は小幅に上昇し、同じ時期の過去5年の最高水準を上回った状態が続いている。

欧州天然ガス価格は上昇。ロシアからの供給が回復していないこと、カザフスタンで暴動が発生し、ガス供給にも懸念が生じていることがグローバルにLNGの需要を高めるとみられたことが材料に。

なお、ヤマルパイプライン経由でのガス供給は昨年12月31日からゼロの状態が続いており、昨日も回復していない。

欧州のガス在庫の水準は回復しておらず例年を大きく下回っている。ロシアからの供給が無ければ冬だけでなく、今年の夏までに十分なガス在庫を確保できない展開は、よほど冬が暖かく無い限り最早メインシナリオではないか。

実際、こうした需給のタイト化を織り込んでか、2022年のガス価格は高いままである。この状況を打破するため、EUは「原発をクリーンエネルギー」に分類することに舵を切った(ドイツは反対。ただしガスは容認)。

この流れが続けば、「化石燃料絶対反対」から天然ガスなどの低炭素エネルギーの利用を認める流れになると考えられ、ガス価格にとっては上昇要因となる。

なお、フランス・ドイツの原発稼働率は非常に低い状態。仏EDFは1,500MWのChooz-2原子炉の稼働再開を4月20日まで延期することを決定しており、域内の電力供給の懸念材料に。

JKMは欧州天然ガスの上昇もあって再び上昇。25ドルまで低下していた2022年価格は再び30ドルを目指す展開。なお、国内のガス在庫の水準は例年比で非常に高い水準であり、目先、国内のガス供給不足発生のリスクは高くないと考える。ただし、気温次第であるため、まだなんとも言えない。

一方、スエズ以東・以西ともタンカーレートが大幅に低下し、過去5年の最低水準を下回っている。しかしこれは足下の価格水準とは整合が取れておらず、引き続きタンカーレート動向は注視が必要だ。

2021年12月6日~12月12日のLNG取引は前週比▲9%の770万トン(前週+17%の840万トン)となった。スポット調達のシェアは29%(29%)と横這い。

日本、韓国、中国、台湾のターム契約による調達が減少した、スポットの比率は高く冬場に向けた輸入需要は旺盛。

米天然ガス価格は欧州向けのLNG輸出増加観測はあるものの、域内の気温が温暖である見通しであるため200日移動平均線のレジスタンスが重い展開。

本日の石炭価格はインドネシアからの供給停止による、アジア太平洋地区の需給逼迫懸念から海上輸送炭価格は上昇すると考える。

天然ガス価格は欧州の在庫水準が低い状態に変わりは無く、上昇余地を探る展開を継続。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は下落した。前日のFOMC議事録がタカ派な内容であり、ドル高が進行したことや株価の調整、中国の不動産セクターの混乱が沈静化していないことなどを材料に、LME指定倉庫材の減少はあるものの水準を切下げる展開となった。

昨日の市場にそれほど大きな影響を与えたわけではないが、カザフスタンで暴動が発生し、ロジスティクスに障害が出ていることで亜鉛などの輸出に影響が出るとみられたことは価格の上昇要因となり得る。

また、インドネシアからの石炭供給減少に伴う石炭価格の上昇が、中国やインドの国内製錬コストを押し上げ、生産抑制ないしはコストアップで価格上昇要因になり得ることも意識すべきリスク要因。

本日は夜間の米雇用統計を控えてアジア時間は様子見気分が強いとみるが、恐らく雇用統計の内容は強めであり、FOMCの引き締めバイアスに変更はないとの判断から週末を控えて利益確定の売りで下落すると予想。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は上昇、大連原料炭先物は上昇、上海鉄鋼製品先物は上昇した。

オリンピック・パラリンピック開催期間中の鉄鋼ミル稼働低下観測が鉄鋼原料需要を減少させ価格の下落要因となり得るのだが、それ以上に鉄鋼製品供給の減少に伴う鉄鋼製品価格の上昇が、鉄鋼原料価格を押し上げている。

また、規模は小さいがインドネシアからの石炭供給減少が意識されている。

本日も鉄鋼製品生産減少を背景とする鉄鋼製品価格の高止まりを受けて、鉄鋼原料価格は高値を維持すると考える。

ただし、オリンピック・パラリンピックを意識した製鉄所の稼働率低下から、鉄鋼原料需要が旺盛な訳ではないため上値も重く、徐々に水準を切下げる展開になると予想。

◆貴金属

昨日の貴金属セクターは総じて軟調な推移に。長期金利の上昇が続き、実質金利が切り上がったことが背景。実質金利から算出される金の基準価格は1,586ドルに低下したが、ロシア・ウクライナ、カザフスタン問題などを背景にリスク・プレミアムが高止まりしていることが価格を下支えしている。

銀価格は金価格の下落を受けて調整、プラチナも下落。パラジウムは割安感からの買い戻しが入ったとみられる。

本日は米長期金利上昇地合を受けた実質金利の上昇圧力を受けて軟調地合を持続すると考える。

銀・PGMに付いてはそろそろ割安感から株に買い戻しが入ることが期待されるため週末を控えて買い戻しでやや上昇する展開か。

◆穀物

シカゴ穀物市場はまちまち。トウモロコシ・大豆は目立った手がかり材料に乏しい中、200日移動平均線のサポートラインを巡る攻防となった。

小麦はそもそも投機の買越しポジションの水準が高い中、米長期金利が上昇してドルがジリ高となる中で水準を切下げ、100日移動平均線のサポートラインを割り込んだところから下げが加速した。

ただし、ローソク足の下ひげは長く、需給ファンダメンタルズがタイトであることを伺わせる相場展開。

本日は、FOMCメンバーがタカ派に偏る中でドル高が進行しやすく、ファイナンシャルな面で価格が下押しされやすく、やや軟調な推移を予想。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・実施が期待されていた1.75兆ドルの米税制・支出法案がマンチン上院議員の造反で成立しない、ないしは規模が縮小される場合(景気減速でリスク資産価格の下落要因に)。

・ロシアと西側諸国の軍事衝突のリスク(世界経済の減速要因)

・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

・資源価格上昇によるインフレや、米テーパリング・利上げ観測を背景とした新興国通貨安で新興国が想定以上のペースで利上げを行わねばならず、世界的に金融引き締めモードに転じた場合(リスク資産価格の下落要因)。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。

・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。

・ロシア・ウクライナ・ベラルーシ・欧州を巡る対立が激化し、軍事的な衝突が発生する場合(景気の減速を通じて景気循環系商品価格の下落要因)。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。


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