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米統計悪化とドル安でまちまち
  • MRA商品市場レポート

2022年2月3日 第2126号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「米統計悪化とドル安でまちまち」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格はまちまちとなった。多少の減速があっても好調だった米国の統計だが、昨日発表されたADP雇用統計が市場予想を大きく下回る内容だったこと、欧州CPIが市場予想を上回ったことでドル安となったことがファイナンシャルな要因で全体の地合を強気にしたが、同時にエネルギーなどの消費が減速するのでは、との見方が強まり米国が最大消費国であるエネルギーは引けに掛けて水準を切下げている。

しかし昨日は北極圏からの寒波の影響で米天然ガスが急騰しており、エネルギーの種類によって動きはまちまちとなっている。

冬場、ロシア制裁懸念、金融引き締め...といった強弱材料が混在する中で足下の商品市場動向は非常に見通し難くなっているがある意味「冬場の特殊な状況」が現在の価格をもたらしているとも言え、時間経過と共にこれらの要因は整理され、最後に金融引き締めのみ残った、という感じになるのではないか。

しかし、それはまだ先のことのようだ。

【本日の見通し】

本日は昨日のADP雇用統計が市場予想を下回ったこともあり、予定されている統計の中では雇用関連統計に注目したい。

基本的に米統計が悪化していることで過剰な金融引き締めへの懸念が「若干」後退するため緩やかにリスク資産価格にはファイナンシャルな面で価格上昇圧力が掛る展開が予想される。

米週間新規失業保険申請件数は24.5万件(前週26万件)と減少見込みで、ISM非製造業指数の雇用指数は12月が54.9(11月56.5)と減速していたが、結果はどうか。

ただいずれも昨日のADP雇用統計のように悪化(雇用者が減少)という訳ではないためそれほど強い売り材料にはならないとみている。

また、本日はECB会合も予定されている。昨日の消費者物価指数は市場予想を上回ったが、緩和解除ペースは極めて緩やかなものに止まる方針のECBがややトーンを変化させるか否かに注目したい。

【昨日のトピックス】

昨日発表された米ADP雇用統計は想定外の悪化となった。

雇用作数の増加が見込まれていたが、実際には▲30.1万人となっており減少は2020年12月以来。新型コロナウイルスの感染再拡大の影響で企業活動が鈍化したとみられる。

今回のオミクロン株は感染力が強いため、対人接触型のビジネスがデルタ株のときよりも結果的に減速していると考えられる。実際、昨日発表された米石油統計でも、ガソリン出荷の減速は確認されており、人流が抑制されている可能性がある。

もちろん、ガソリン消費の減少は天候や気温低下、価格の上昇といったオミクロンとは別の要因もあるため一概にはいえない。しかし季節的要因に加えて、コロナという特殊要因が雇用活動を阻害しているようだ。

しかし、同時にディスティレート出荷は好調であり、主要用途である輸送燃料のディーゼルオイルの出荷が好調であることに加え、量は減ったが一部、灯油向けの需要が旺盛とみられる。

経済活動自体はそこまで顕著に減速していないため、恐らくこの統計を持ってFRBが利上げペースを鈍化させたり、QTをためらうということは現時点ではその可能性は低いと考えられる。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格は上昇後、下落した。注目のOPECプラスは予想通り40万バレルの増産に止まり、直後に価格は急騰したが、ほぼ波乱はないと楽観されていた米ADP雇用統計が大幅に悪化したことで実需の減少懸念が意識され、引けに掛けて水準を切下げる流れとなった。

昨日発表された米石油統計は、原油・ディスティレートが予想比で強気、ガソリンが弱気な内容だった。

原油はこの状況においても生産が減少、輸入が大幅に増加したが原油在庫は▲1MBの減少に。処理量の減少からガソリン・ディスティレートとも生産量が減少、国内出荷はガソリンが低迷、ディスティレートが増加したため、ガソリン在庫は増加したが、ディスティレート在庫は減少した。

オミクロン株の影響拡大による人流の低迷と、ガソリン価格の上昇がガソリン需要を減少させた一方、景気回復の継続に伴う物流の需要は堅調とみられ、在庫減少となった。

需要を全体の製品出荷で確認すると、気温低下の影響か、ディスティレートとプロパンの出荷が旺盛で、全体では前年比+11.8%、2019前年比+1.8%の21.64MBDとなり、過去5年レンジを大きく上抜けしている。米国内の出荷は堅調。

輸出を含めると前年比+5.1%、2019前年比▲1.5%の25.83MBDとまだ過去5年の最高水準は回復していない。

ただ、総じて需要は価格上昇はあるものの堅調で、その一方で米国内製品生産が回復していないことから需給はタイトといえる。恐らく米国の増産が始るのはリードタイム的に3月頃であり、しばらく原油・石油製品価格は高止まりするだろう。

本日は昨日のADP雇用統計が悪かったことから、ファンダメンタルズ関連統計への注目が集まり神経質な推移に。米週間新規失業保険申請件数は改善。ISM非製造業指数は減速、ECBはややタカ派なトーンを強めるとみられ、強弱材料混在でもみ合いに。

ただし、欧州への米軍派兵増強報道もあり、ロシア・ウクライナの緊張が続くことから高値維持の公算。

◆石炭・LNG・天然ガス

豪州石炭スワップ先物価格は小幅に上昇したが高値維持。一昨日、欧州のガス価格は大きく下落したが、昨日は割安感から反発したことが材料に。

中国の石炭輸入の指標の1つであるバルチック海運指数は小幅に続伸し、過去5年レンジを再び小幅に上抜けした。一方、製品輸送に用いられるコンテナ船指数は昨年末から高い水準を維持している。

欧州天然ガス価格は小幅に上昇。昨日、回復したと伝えられていたVelke Kapusany(ロシア→ウクライナ→スロバキアのウクライナ・スロバキア間のターミナル)のガス流量が再び減少したことが材料となった。

また、欧州排出権価格が急騰したことも天然ガス価格の押し上げに寄与した。日々、非常にボラタイルな展開が続いている。

なお、ガス供給の回復もあってか仏独の原発の稼働率は低下している。

米国天然ガスは暴騰。オクラホマ州でパイプラインが凍結、燃料の流量が減少していることで、ガス供給にも影響がみられるとされたことが要因。

Bloombergの調べでは、水曜日はテキサス州のパンハンドルと、アーカンソー州の供給が▲22%減少した模様。

NatGasWeather.comの推計では、北極圏からの寒波はテキサスに向かう見通しで、▲29度まで気温が低下すると予想されている。

JKMは欧州ガスが上昇したことで小幅に水準を切り上げた。今のところ中国勢が春節で不在のため価格は上昇し難いが、欧州・米国の情勢、ウクライナ問題を背景とする欧州支援の目的でLNGカーゴが積極的に物色される可能性が高いことを考えると、再び価格が上昇する可能性は低くない。

JKMの期間構造は2022年~2023年冬の水準が25ドルを超えているが、昨日は今年の夏場の価格の方がやや大きく上昇している。

2022年1月17日~1月23日のLNG輸入は前週比▲12.4%の780万トン(前週▲3%の890万トン)となった。

うち、スポット取引のシェアは25%(前週27%)と小幅に低下した。韓国のスポット調達が減少したことが影響。

ターム契約での調達は▲13%の減少で、中国向けの輸出が減少したことが影響している。一方、日本やフランスはターム契約での調達を増加させている。

スエズ以東・以西ともタンカーレートは低下している。

本日の石炭価格は欧州・米国の天然ガス価格上昇を受けて小幅に上昇すると予想。

天然ガス価格はロシア情勢の改善がなく、米国で気温低下によるガス供給減少・需要増加が見込まれることから再び上昇余地を探る動きに。

なお、足下は石炭・天然ガスとも冬場の需要期であるため高い水準であるが、時間経過と共に暖房需要は減少するため、イベントリスクの顕在化がなければ、季節的に価格が下落することはメインシナリオ。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格は石炭価格の下落を受けてアルミ価格が下落して久しぶりに3ヵ月先渡しが3,000ドルを割り込んだが、その他の金属は上昇した。

厳冬に伴うエネルギー供給不足、それに伴う精錬品生産減少、ロシアに対する制裁観測、ユーロ圏CPI上昇を受けたユーロ高・ドル安が材料となった。

最大消費国である中国勢が不在の中で買い手が減少しているが、ファイナンシャルな要因(ドル安など)が価格を押し上げたと考えられる。

なお、昨日はGlencoreやGrupo Mexicoの決算が発表されているが、両者とも銅の生産は大幅に減少しており、鉄鋼製品の必須元素である亜鉛の生産も減少している。

Glencoreはバッテリーの必須元素であるニッケルやコバルトを増産、脱炭素で忌避されていた石炭は需要増加で大幅な増産となっている(詳しくはメタルニュースを参照)。

本日も中国勢が不在の中で実需の買い圧力は弱まるが、エネルギー供給不安が高まり、さらにロシアに対する制裁への懸念も強く、ファイナンシャルな面でもECBがややタカ派なトーンに転じるのでは、との見方がユーロ高・ドル安を誘発する可能性があることから高値維持の公算。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は休場、大連原料炭先物は休場、上海鉄鋼製品先物は休場。

本日も中国勢不在の中で動意薄い展開を予想。ただし、鉄鉱石は鉄鋼製品価格の水準を元に回帰を行うと、推定値は142ドル程度であり高値維持の公算。

なお、原料炭価格の推計値は195.6ドルで現在の価格の半分であるが、供給不安が解消されるまでこの水準への回帰は難しいと考えられる。

◆貴金属

昨日の貴金属セクターは上昇。米ADP雇用統計が予想外の減速となったことで長短金利が低下、欧州CPIが市場予想よりも強い内容だったことからドル安となったことが材料となった。

金の実質価格は1,544ドル、リスク・プレミアムは263ドルと昨日から+5ドル上昇している。リスク・プレミアムの過去5年平均は187ドルであり、まだリスクを織り込んだ形。

銀は金価格の上昇を受けて上昇、プラチナ、パラジウムは株価の上昇もあって水準を切り上げている。パラジウムは半導体のリードフレームのメッキにも用いられるため、半導体セクター株が戻る際に物色されることも多い。

本日は米雇用関連統計の悪化から神経質な推移になると考える。特に米週間新規失業保険申請件数は改善が見込まれているが、悪化した場合、金銀価格は上昇しよう。

プラチナ・パラジウムに関しては株価の戻りやロシアの制裁観測が材料となり高値維持の公算。

◆穀物

シカゴ穀物市場はまちまち。トウモロコシと小麦は特段新規の材料が無かったが、前日の反動で下落したと見られる。大豆については油脂類の価格上昇に伴う圧搾需要増加観測と、ブラジル・アルゼンチンの乾燥気候の影響による生産減少観測が強く意識されている。

穀物はラニーニャ現象や油脂類の供給不足、ドル安進行で高値圏を維持の公算。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・ロシアと西側諸国の軍事衝突のリスク、それに乗じて中国が台湾に侵攻するリスク(世界経済の減速要因)

・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

・資源価格上昇によるインフレや、米テーパリング・利上げ・BS縮小観測を背景とした新興国通貨安で新興国が想定以上のペースで利上げを行わねばならず、世界的に金融引き締めモードに転じた場合(リスク資産価格の下落要因)。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。

・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。

・ロシア・ウクライナ・ベラルーシ・欧州を巡る対立が激化し、軍事的な衝突が発生する場合(景気の減速を通じて景気循環系商品価格の下落要因)。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。

◆本日のMRA's Eye


「原油動向から考えるJKM価格」

ヤマルパイプラインを通じたドイツへの天然ガス輸出は回復しておらず、欧州のガス貯蔵施設へのガス流入量はこの低在庫水準の状況にもかかわらず例年通りの注入量水準まで低下(需要が多いため、調達したガスを貯蔵に回すゆとりがそもそもない)、この冬のガス調達は引き続き厳しい状況にある。

通常、ロシアは購入する企業側から要請があればガスを販売するため、ガス輸出が増加していないのは意図的に契約を履行していないのではなく、欧州側から要請が無いことによるもの、と考えるのが妥当だろう。

この1ヵ月の報道ベースでは、米国からの安価なLNGの流入や、中国から40隻の2~10月渡しのLNGカーゴのオファーがあったとの報道を受けて、「LNGで当面賄うため、ガスが不要」との観測が強まりガス価格は下がったが、現在のLNG在庫量は欧州のLNG在庫貯蔵スペースの上限近辺まで到達しており、さらなる在庫積増しが難しい状況。

仮にLNG船10隻(1隻あたり7万トンと仮定)、欧州に陸揚げされたとしても欧州のLNG在庫の1%程度に過ぎないため、ロシアからの供給が回復することがガスの安定調達には必要。

かつ、欧州の天然ガス在庫水準の低さを考えると、それが十分ではなかったとしても季節外れではあるがLNGの輸入を継続する必要がある。

バイデン政権は「危機に備える」ために米国からの輸出を増やし、LNGの最大輸出国であるカタールに支援を要請しているが、原油ですら十分に供給できていないことを考えると、早晩暗礁に乗り上げる可能性が高い。

欧州のスポット天然ガス価格の指標であるTTFの期間構造は一時の高騰からは一服、水準を切下げているが依然として2022年は30ドルで推移しており、ガス供給不足が解消するのに今年いっぱい掛るとみている可能性(ノルドストリーム2も早くても稼働が認可されるのは今年の夏以降)。

この状況でJKM価格も高止まりしている。

とは言え、一時の狂乱的なLNGスポット価格の上昇は一服し、期近のJKM価格は低下して期間構造はコンタンゴに転じている。

しかし、第2限月以降の価格水準は依然高く、2022年~2023年の冬場の価格は30ドルを超えている。ロシアとウクライナの軍事的な緊張が高まる中で欧州のガス在庫積増しが困難な状況にあり、構造的な需要増加が長期化すると市場が判断しているためと考えられる。

足下の期近の価格下落は今や世界最大のLNG輸入国である中国の輸入が、国内ガス生産の増加やオリ・パラに向けた工場の稼働低下などの影響で減速したことが背景だ。

JKM価格は供給面にその価格が非常に大きく左右されるため、その価格推定が困難であるが、一部の契約はBrentベースで契約されているものもあり、原油価格との間には「緩やかな」関係性が維持されているため、長期的にはBrent価格で説明可能な水準に収れんすると考えるのが妥当。

足下、Brentの水準をJKMの価格で割った「Brent・JKMレシオ」は過去最低水準での推移となっており、ややJKMが割高な状態。現在、LNG市場は著しい需給バランスの崩れ(タイト化)が見られているが、概ね季節的な価格の変動性は維持されている。

そのため、1.年初のBrent・JKMレシオを100とし、2.この季節性が過去5年平均に収れんする(年初を100としたときの季節世知の平均が過去5年平均に収れんする)と考えた場合、Brentの価格予想を市場コンセンサス(執筆時点の市場予想)を元にJKM価格を算出すると、夏に向けて20ドルを割り込み、その後、年末には35ドルを目指す展開になると予想される。

JKM価格は卸電力市場価格の参照指標となりつつあり、特に電力供給がタイト化し、緊急にLNGのスポット調達が必要になった場合に上昇する。恐らくこの価格水準(30~40ドル)では採算が確保できる発電業者が少なく、「損を出してまで電力を製造しない」発言業者が出てくることは十分に考えられる。

引き続き、欧州情勢を受けた我が国のエネルギー供給問題は、特に電化へのシフトを進める中では対処方法を考える必要がある、重要な課題である。


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