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株上昇によるドル安で堅調地合続く
  • MRA商品市場レポート

2022年2月2日 第2125号 商品市況概況

◆昨日の商品市場(全体)の総括


「株上昇によるドル安で堅調地合続く」

【昨日の市場動向総括】

昨日の商品価格は再び総じて堅調な推移となった。米ISM製造業指数が減速はしたものの、徐々に米経済はFRBの金融引き締めに耐えられるのではないか?との見方が強まり、株価が上昇する中でドル安が進行、リスクテイク機運の高まりが、ただでさえ供給面が制限されている商品の買いを誘った形。

昨日最も大きく下落したのは天然ガスや石炭。最大消費国である中国が春節のために工場向けの調達圧力が低下していること、ロシアからのガス供給が回復したこと(戦闘状態にあるわけではないため、欧州からの要請があればロシアも輸出する)が材料に(詳しくはエネルギーのコラムを参照)。

金融引き締めを背景とする株式・債券市場のパニックは一巡すると考えるが、利上げやQT開始による長期金利の上昇や実質金利の上昇は、商品価格の下押し要因となるため、足下の供給不安解消時の価格下落リスクは小さくないと見ている。

「皆が100ドル」と言い始めた今こそ、「下落リスク」に備えるべきであり、備えていれば価格が下落した場合には消費者にとっては逆にヘッジの好機となる。

この場合の備えは、現状の現物調達や販売のポジション把握、それに伴う業績への影響を把握しておくことなどであり、「相場を詳細に予測すること」ではない。

なお、年末年始に商品市場が大きく動くことが多いのは、欧米企業が翌年・今年の調達・販売商品価格のヘッジを行うことが影響している。

日本では市場価格の上昇が業績に影響を与えた場合は市場要因なので仕方が無い、となることが多いが、欧米の場合は市場変動リスクになぜ対応しておかなかったのか、となることが多い。

【本日の見通し】

本日は、株式市場が落ち着きを取り戻す兆しが見え始めているが、引き続き企業決算を睨みながら神経質な推移が続くことになるだろう。

予定されているイベントで注目はOPECプラス会合。恐らく新しい追加の決議はないと見ているが、サウジアラビアが独自の判断をする可能性があるため注目している。

あとは雇用統計の前哨戦であるADP雇用統計に注目している。市場予想は前月比+18.4万人、前月+80.7万人と減速見込みであるが、米金融政策がハト派に傾くほどの内容にはならないと予想されるため、影響は中立だろう(雇用者数の増加幅が減っても、20万人弱の雇用者数増加は十分、雇用市場が活況であることを示唆している)。

【昨日のトピックス】

昨日発表された米ISM製造業指数は先月から減速、減速感が強まる内容だった。米国の景気はピークアウトしている可能性が高い。

しかし、指数の絶対水準は高く、市場予想も上回っている。想定よりもゆっくりとしたペースで減速しているとも言えるだろうか。

ISM製造業指数をざっと外観してみると、減速、低調、不況を示す50を下回った指標は顧客在庫(31.7→33.0)のみであり、その他の指標は全て50を上回っている。

需要の指標である新規受注は57.9(前月61.0)と減速、受注残も56.4(62.8)と減少している。入荷遅延(64.9→64.6)の水準が高く、仕入価格指数も76.1(68.2)と大幅に上昇しており、価格上昇に伴う需要減少や、入荷遅延が消費マインドを悪化させていることがうかがわれる。

在庫は上述の通り水準は低く、回復にはまだ時間が掛る見込みであり、恐らく構造的なインフレ(エネルギー価格上昇のみの影響ではない)は、継続することになるだろう。

【昨日のセクター別動向と本日の見通し】

◆原油

原油価格はバックワーデーションの中で限月交代したため(Brent)水準が切り下がったが高値を維持した。OPECプラスを本日に控え、ウクライナ情勢の解決にはまだ時間が掛るとの見方が強まっていることが、供給面で価格を高値に維持している状況。

本日はOPECプラスを控えて様子見気分強く、当面レンジワークになると考えるが、恐らくOPECプラスで新しい材料は出てこず、高値圏を維持すると見る。

本日の会合では予定通り40万バレルの増産が決議されると予想される。ウクライナ情勢を受けてロシアに制裁をするから、増産してくれという欧米の理屈は恐らく通らない。

ただ、現実問題原油価格が高いこともあるため増産のメリットはあるため、可能性は低いがサウジアラビアがOPECプラスの枠組みとは関係無く、自主的に増産をするシナリオはないことはない。

ただ、ロシア情勢を受けた供給不安が価格を押し上げているが、これが解消すれば価格は下落すると予想されるため、あえてこのタイミングで自主増産の話は持ち出さないのではないか。

なお、米石油統計も発表予定だが、市場予想は+1.1MBの原油在庫増加が見込まれている。しかし朝方発表のAPI統計では▲1.6MBの在庫減少が確認されており、上昇要因となる見込み。

ただ、それ以上に原油生産・製品出荷動向に注目したい。

◆石炭・LNG・天然ガス

豪州石炭スワップ先物価格は小幅に続落。欧州ガス価格の下落や、中国勢の買い圧力が春節のために弱まっていることが背景。

中国の石炭輸入の指標の1つであるバルチック海運指数は小幅に続伸も、過去5年レンジの範囲内。一方、製品輸送に用いられるコンテナ船指数は昨年末から高い水準を維持している。

欧州天然ガス価格は下落。ロシア→ウクライナ→スロバキアのウクライナ・スロバキア間のターミナルであるVelke Kapusanyの流量が増加したこと、英国の風力発電が、暴風雨「Malik」の影響で記録的な水準になったこと、など、足下の欧州ガス需給が緩和するとの期待が高まったことが背景。

なお、ガスプロムは109.6百万立方メートル/日のガスをウクライナを通じて供給できるが、追加のパイプラインの利用は確保していない。なお、ヤマルパイプラインを通じた供給は回復しておらず、欧州側から購入の意思がロシアに伝達されていない可能性がある。

なお、ガス供給の回復もあってか仏独の原発の稼働率は低下している。

米国天然ガスは下落。気温低下の影響が長期化しないとの見方や、欧州ガス価格の下落が価格を下押しした。

JKMは欧州ガスが続落、ロシアからのガス供給も一部回復したことで安心感が広がり、水準を切下げる動きとなった。また中国勢の買いが春節の影響で低迷していることも影響しているとみられる。

JKMの期間構造は2022年~2023年冬の水準が30ドルを超えていたが、欧州ガス価格の下落もあって25ドル台まで低下している。しかし、ロシア・ウクライナ情勢の不安定化を受けて先物の価格は期近を除けば非常に不安定ない推移となりやすい。

2022年についてはほぼコンタンゴとなっており、足下の供給不安はかなり緩和したといえる。ただ、2023年の水準が「何もないときの」水準と考えられ、まだ需給タイト化に伴う上乗せ分は10ドル程度ある状態。

2022年1月17日~1月23日のLNG輸入は前週比▲12.4%の780万トン(前週▲3%の890万トン)となった。

うち、スポット取引のシェアは25%(前週27%)と小幅に低下した。韓国のスポット調達が減少したことが影響。

ターム契約での調達は▲13%の減少で、中国向けの輸出が減少したことが影響している。一方、日本やフランスはターム契約での調達を増加させている。

スエズ以東・以西ともタンカーレートは低水準で横這いとなっている。

本日の石炭価格は中国勢不在の中で軟調推移を予想。ただし冬場の需給環境に大きな改善(緩和)はなく、高値維持の公算。

天然ガス価格はロシアからのガス供給回復報道を受けて軟調推移を予想。ただしウクライナ問題が完全に解消したわけではなく、ロシアからの供給も完全に回復したわけではないため、高値維持の公算。

昨日も記載したが、足下は石炭・天然ガスとも冬場の需要期であるため高い水準であるが、時間経過と共に暖房需要は減少するため、イベントリスクの顕在化がなければ、季節的に価格が下落することはメインシナリオ。

◆非鉄金属

LME非鉄金属価格はまちまちとなった。スズは昨日の反動で下落、鉛は目立った材料がなかったがもみ合った結果、前日比小幅に下落。その他の商品はドル安進行や株の戻りを受け割安感からの買い戻しが入った。

米国のISM製造業指数はほどほどの悪化となり、米金融引き締めの影響を乗り越えられるとの見方が徐々に広がっている状況。

本日も中国勢不在の中、現状水準でのもみ合いになると考える。ただしこれまで発表されている中国の統計が良い内容とは言えないことから、徐々に水準を切下げる展開になるとの見通しは維持。

◆鉄鋼・鉄鋼原料

中国向け海上輸送鉄鉱石スワップは上昇、豪州原料炭スワップ先物は休場、大連原料炭先物は休場、上海鉄鋼製品先物は休場。

本日も中国勢不在の中で動意薄い展開を予想。ただし、鉄鉱石は鉄鋼製品価格の水準を元に回帰を行うと、推定値は141ドル程度であり高値維持に公算。

なお、原料炭価格の推計値は195.6ドルで現在の価格の半分であるが、供給不安が解消されるまでこの水準への回帰は難しいと考えられる。

◆貴金属

昨日の貴金属セクターは上昇。長期金利上昇と、米QT開始観測を背景とする実質金利上昇が続いているが、昨日はリスク・プレミアムの上昇がこれを相殺した。

金の実質価格は1,543ドル、リスク・プレミアムは258ドルと昨日から+23ドル上昇している。リスク・プレミアムの過去5年平均は187ドルであり、まだリスクを織り込んだ形。

銀は金価格の上昇を受けて上昇したが、金銀レシオは80倍と上昇しており、金の上昇について行けていない状況プラチナは銀の上昇を受けて水準を切り上げた。パラジウムは買い戻しが入ったが小幅に止まった。

本日もロシア情勢不安が価格を支えるが、株価に反転の兆しが見えること、実質金利の上昇圧力の高まりを受けて、金銀プラチナは軟調、株の戻りでパラジウムは上昇。

◆穀物

シカゴ穀物市場は上昇。ドル安が地合を強気に傾ける中、トウモロコシと大豆はブラジル・アルゼンチンの乾燥気候の影響で想定以上に生産が減少する可能性があることが強く意識されている。

小麦も穀物セクターの買いに連れる形で上昇している。ウクライナ・ロシア情勢不安が意識されている。

穀物はラニーニャ現象や油脂類の供給不足、ドル安進行で高値圏を維持の公算。これまでの動きをみると、やはりラニーニャ現象発生中はそれほど大きく価格が調整しないと言えることは注意。

※中長期見通しは個別セクターのコラムをご参照ください。

市場データ・グラフ類の添付ファイルのサンプルはこちら。

【マクロ見通しのリスクシナリオ】

・ロシアと西側諸国の軍事衝突のリスク、それに乗じて中国が台湾に侵攻するリスク(世界経済の減速要因)

・コロナウイルスの感染再拡大(オミクロン株の影響)によるロックダウンが景気循環系商品の需要を減じる場合(価格下落要因)。

・資源価格上昇によるインフレや、米テーパリング・利上げ・BS縮小観測を背景とした新興国通貨安で新興国が想定以上のペースで利上げを行わねばならず、世界的に金融引き締めモードに転じた場合(リスク資産価格の下落要因)。

・米中対立激化による、新冷戦構造が発現しブロック経済圏が発生して貿易活動が鈍化する場合(場合によると武力衝突も)。

・米中対立が、自国内の混乱などを理由に急に「手打ち」となった場合(景気のポジティブリスク・中国がさらに力を付け、将来米中が武力衝突するリスク)。

・発電燃料供給不足による工場稼働停止や消費低迷で景気が減速する場合(リスク資産価格の下落要因)。

・中国不動産問題の沈静化に時間が掛り、信用収縮に繋がる場合(工業金属などの景気循環系商品を筆頭に、リスク資産価格の下落要因)。

・中国地方政府・中堅中小企業の財政状況悪化に伴う景気減速(これは人口動態を考えると、現実のリスクとなるのは2030年以降か)。

・環境重視型社会への急激な転換による、経済活動の鈍化リスク。成長ドライバーの1つとして期待される、中東・北アフリカ産油国が人口ボーナス期を活かせない(逆に鉱物産出国は高成長となる可能性も)。

逆に脱炭素に向けたインフラ投資の加速で資源価格が急上昇、金融緩和マネーが大量に市場に滞留する中でハイパーインフレとなるリスク。

・来年の中間選挙を控えて、バイデン大統領が国内の支持を得られない場合。議席確保のためのなりふり構わない政策がインフレをもたらすリスク(景気加熱後に急減速する要因)。

・独政権交代後の国内求心力が低下、域内最大経済国のドイツ経済が減速する場合、また、EUの指導力が低下し域内経済が停滞する場合(景気減速要因)。

・ロシア・ウクライナ・ベラルーシ・欧州を巡る対立が激化し、軍事的な衝突が発生する場合(景気の減速を通じて景気循環系商品価格の下落要因)。

・次の成長ドライバーとして期待されるインド経済が、期待通りの成長をできない場合(人種差別問題による国民の離反、市場開放・規制改革の遅れ、中国との対立など)。

2018年にすでに人口ボーナス期入りしているため、鉱物・エネルギーをはじめとする景気循環系商品需要の増加は2023~2024年頃。

・アフガン情勢の混乱が域内経済に混乱(大量の難民発生、コロナの感染拡大が欧州圏にもたらされるなど)をもたらし、米中対立を先鋭化させる場合(景気の減速要因)。


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